九百九十一話 バーソロンと契約
重装騎士が突っ込んできた。
「お前かァ、バーソロン様に傷を――」
「――フアタンタ待て!」
バーソロンは止めたが、部下の重装騎士は動きを止めない。
その重装騎士の歩幅と斧槍の間合いを把握――。
肩にいる
「相棒、降りろ――」
「にゃ」
降りゆく
相棒が着地すると同時に<血道第三・開門>――。
<
『イモリザ、出ろ』
と思念で指示――。
肘に付いていたイモリザの肉肢は
重装騎士は
闇色の魔力が覆っている斧槍の矛で俺の胸を突こうとしてくる。
左足を退かせた半身の姿勢で――穂先の突きを避けた。
シュッといった風切り音が耳から脳を駆け抜ける。
武威が滾る思いを得ながら後方に退いた。
重装騎士は、
「疾いッ、が!」
と<魔闘術>系統を強めた。
体から紫色と黒色が混じる魔力を噴出させながら前進――。
俺との槍圏内を維持する重装騎士も速い。
重装騎士は左足の踏み込みから、
「――<愚突・連刃突>」
腕と斧槍がブレて見えるスキルを繰り出す。
俺の胸を狙う矛を見ながら足下に<生活魔法>の水を撒く。
同時に爪先半回転を行った。
相棒は右に移動、俺も、その相棒と連動し、滑るように体勢を傾けて<愚突・連刃突>の突きを避けた。結構な風圧を感じた。
「これも避けるか――」
重装騎士は右腕と斧槍を引く。
斧槍のハルバードを引く動きに隙はない。
『強い槍使いです。重そうな重装備ですが、動きは身軽!』
『そうだな、デルハウトと似た動きか』
『はい』
ヘルメとの思念会話のゼロコンマ数秒の間に――。
正面の重装騎士に、本体のバーソロンと、漆黒の鎧を着た者たちと、百足魔族と蜘蛛が融合した奇怪な魔族兵士たちの動きを把握――。
本体のバーソロンは両手に炎の魔剣を召喚。
顔の炎の刺青が少し煌めいた。
一方、俺の右腕が握るバーソロンの魔杖はジュッ、ジュッと音を響かせながら振動を続けている。
その魔杖バーソロンの内部に感じていた魔力はかなり消えていた。
対峙中の重装騎士が、重心を下げる。
重装騎士は体の正中線を見せる動きで正面を向く。
そのまま左足の踏み込みから前進し、斧槍を突き出してきた。
その下腹部に迫る突きを――右足の爪先に体重を乗せる爪先半回転で避けた。
重装騎士は頭部を傾けて、双眸に魔力を込める。
「チッ、<魔眼・狂楽>が効かないのか? ただの定命の者ではないな――<愚突・速刃衝>――」
と言いながら、先ほどよりも速い突き技を繰り出してきた。
左足の踵へと重心を移しながら――。
斜め後方へと体を傾けて、横回転を行い<愚突・速刃衝>の突き攻撃を紙一重で避けた。
が、白が基調のハルホンクの防護服に擦れ火花が散る。
重装騎士は、
「チッ、捉えられないか――」
右半身ごと前に突き出す勢いで斧槍を振るい、石突で俺の首を狙ってきた。
――その<豪閃>のような薙ぎ払いをダッキングで避ける。
重装騎士は斧槍を握る右手を引き、左手で斧槍の穂先を押し出す――。
その斧槍の斧刃で――俺の左半身、否、左腕を斬ろうとしてきた。
素早く左腕を下げると同時に右へと体を傾けて、その俺の腕狙いの斬撃を避けたまま後方へ数歩ステップを行う。
――重装騎士は前に出て俺を追いながら斧槍を横に傾けた。
<豪閃>のようなモーション。
否、それはフェイク、柄が消えたようにも見えた斧槍の穂先を煌めかせる突きに切り替えて、その穂先を突き出してきた。
矛が迫る。
右足の<魔闘術>の配分を強め――アーゼンのブーツの足裏で床を強く蹴り、左へと跳んで斧槍の矛の突きを避けた。
重装騎士は体の向きを俺に向けると迅速に斧槍を振るってきた。
――大柄だが、小回りの利く軽戦士を思わせる動きだ。
大ぶり気味にも思えるが、俄に加速した石突が迫る――。
右の足下に円を描くイメージで、低空を跳ぶ――。
その斧槍の石突の攻撃を避けた。
そのまま両足裏のすべてを活かすような歩法を実行――。
右足と左足の足裏で、水を敷いた地面の上を滑る機動のまま仰け反って、跳躍しながら重装騎士が繰り出してきた斧槍の一閃を避けた。直ぐに足下の水飛沫を活かし、その水飛沫を重装騎士の双眸に飛ばす――。
「くっ――目潰しのつもりか――」
片目を瞑ったまま重装騎士は斧槍を下から斜めに振るう。
その斧槍の薙ぎ払いを、斜め後方に後退して避けた。
重装騎士は肩をぶつけるように寄ってきたが、素早く斜め横に跳んで、避けた。重装騎士は斧槍を持つ腕を伸ばすように突いてきたが、踊るように横回転を行い、その突きを避ける。
重装騎士は斧槍の柄を下から左手で叩いて、石突を向かわせてくる。その顎砕き軌道の石突を余裕の間で避けた。すると重装騎士は、右手一本で斧槍の後部を掴み直すや否や<豪閃>のような一閃を繰り出してきた。
その<豪閃>のような薙ぎ払いを半歩後退して避けた。
重装騎士も横回転しながら、左手に斧槍を移す素振りで、両手持ちに移行させる。右、左か、いや、フェイクが上手い、持ち方を巧みに変化させて斧槍を振り回す斬撃乱舞を行いながら俺を追ってきた――。
その猛者ぶりに思わず三国志の猛将魏延の話を思い出す。
それらの連続した穂先と石突の斬撃攻撃を避けまくる。
同時に槍圏内を維持し続けた。
重装騎士は、
「――こなくそが! なんて機動だ! しかし、なぜ反撃をしてこない! <刺突>――」
「――本体のバーソロンも攻撃してこないからな」
頭部だけを引くスウェーの動きで斧槍の<刺突>を避けた。
刹那、重装騎士は右腕を膨らませると魔力を斧槍に込めた。
「<愚閃・幻魔斧戟>――」
先ほどとは異なる薙ぎ払い攻撃を繰り出してきた。
紫色の魔力が半円を宙に描く。
紫色の軌跡を宙に生む斧槍の斧刃から、魔力の斧刃が出現していた。
これは避けず――。
引いた左手に霊槍ハヴィスを召喚――。
その霊槍ハヴィスに<血魔力>を込めながら迅速に<光穿>を繰り出した。
霊槍ハヴィスの穂先、光の刃から天道虫の幻影が出現――その霊槍ハヴィスの穂先が斧槍の穂先ごと魔力の斧刃をあっさり砕く。
次の瞬間、
「――キツツキトントントン♪ イモリザ大見参~♪」
「ぐえぇ――」
俺に集中していた重装騎士の横っ腹にイモリザの黒い爪が突き刺さっていた。
続けざまに重装騎士の全身に九本の黒い爪が突き刺さった。
串刺しとなった重装騎士の全身から血飛沫が迸る。
重装騎士は、くぐもった声を発して体をぐったりと弛緩させると、イモリザの黒い爪にぶら下がった。
「ナイスだ、イモリザ」
「はい♪」
ミルクココア肌の頬を朱色に染めたイモリザは、両腕を動かすと、一瞬で重装騎士の体がバラバラとなった。
両手から伸びていた輝く黒い紐にも見えた黒い爪を収斂させると、退いて俺の横にきた。
半身の姿勢のイモリザはその半身を寄せて、
「使者様と敵潰しのデートは久しぶりです♪」
と発言しながらウィンクをしてくれた。
はだけたワンピースから乳房と小さい乳首が見えていた。
見た目は少女だが、少しドキッとする。
俺の背後にいた相棒もイモリザの近くに移動。
「ンン、にゃ~」
「でも使者様、ここが魔界セブドラなんですね、なんか感動です!」
「おう――」
と、本体のバーソロンが少し前に動いたから、牽制するように霊槍ハヴィスの穂先を向ける――。
バーソロンと配下の者は動きを止めた。
だが、百足魔族と蜘蛛と魔族が融合している者たちの様子が少しおかしい。
漆黒の鎧を装備している額に小さい角があり刺青を顔に刻む魔族たちはバーソロンの動きに合わせている。
魔族ごとに統制が取れていない?
そう疑問に思いながら、霊槍ハヴィスをバーソロンに向けたまま、イモリザに向け、
「臨機応変に、状況次第でツアンとピュリンを活かせ、が、基本は待ちだ」
「はい♪ バーソロンは使者様が?」
「その予定だが……」
「何か考えがあるのですね、なにかゾクゾクします♪」
「ンン、にゃ」
「あゅっ、ロロちゃん様~♪ お尻撫で撫ではまた今度♪」
「にゃ」
尻を相棒の触手で撫でられていたイモリザは、銀色の髪の毛でビックリマークを作ると、普通の髪形に戻していた。
バーソロンは俺とイモリザを凝視していたが、俺が持つ魔杖バーソロンをチラッと見た。
魔杖バーソロンからの振動と強い魔力は消えている。
<破邪霊樹ノ尾>の樹を吹き飛ばしていた魔力があっさりと消えたか……白蛇竜小神ゲン様のグローブの効果だろう。
光属性の神界の作用が魔杖バーソロンに効き過ぎた?
そして、百足魔族の動きの変化と関係している?
すると、左正面にいるバーソロンが、
「その異質な爪使いの少女はなんだ!」
「イモリザか。使役している存在だ」
「<光邪ノ使徒>のイモちゃんですよ♪ ぴゅきーん♪」
と、イモリザは可愛らしく前転してから体を傾ける。
片足を上げながらのヘンテコな挨拶。
丈が短いワンピースが持ち上がり、尻と透け透けなパンティの上部を俺に見せている。
「くっ、こんな少女に、王婆衝軍驍将だった我の護衛長フアタンタが……しかし、早まりすぎだぞ、馬鹿フアタンタが……」
「バーソロン、俺たちと戦うか?」
そう聞きながら……。
再度、右腕の戦闘型デバイスをチェック。
光学硝子っぽい風防の表面に照射されている宇宙的背景を備えたアクセルマギナとガードナーマリオルスの高精細の立体映像も確認。
「……我が降伏するとでも思っているのか?」
「物は試しというだろう。ま、バルミュグや今の部下のようになりたいのなら喜んで戦うが」
「……降伏しよう」
え?
「「「え?」」」
「「フシャァァ――」」
「裏切りだ!」
驚く漆黒の鎧を着た魔族たちの横に並んでいた百足魔族と蜘蛛と魔族が融合している兵士たちが、バーソロンに向けて一斉に鎌腕を突き出し、蜘蛛糸を吐き出す。
その鎌腕と蜘蛛糸を両手に握る炎の魔剣で斬り捨てたバーソロン――は、
「デラバイン族の者は我に従え――」
そう叫び、二つの炎の魔剣を<投擲>――。
二つの炎の魔剣は、百足魔族と蜘蛛魔族の兵士の腹に突き刺さった。
バーソロンは俺に目配せしてから――。
右手首から炎の紐を、百足魔族たちへと射出し、炎の紐で宙に波模様を描くように振るう。
同時に顔の炎の刺青が光った。
鎖骨にもあるだろう炎の刺青の見えている一部も光る。
バーソロンの右手首から出た炎の紐は、百足魔族と蜘蛛魔族の連中の体を両断――。
この居室にいた百足魔族と蜘蛛魔族の連中は全滅した。
残ったのは、漆黒の鎧を着た兵士のみ。
「わわ、びっくり……まさか仲間内で戦うなんて」
イモリザがそう発言。
『驚きました』
『妾もじゃ』
『主、我もビックリだ』
左の掌の中にいるシュレゴス・ロードも珍しく反応。
バーソロンは炎の魔剣を炎の紐に絡めて両手に戻すと、肩口に二つの鞘を出現させて、その背中の鞘に収めて仕舞った。
そして、俺をチラッと見て、片膝で床を突く。
漆黒の鎧を着た者たちも片膝で床を突いて、頭を下げてきた。
そのバーソロンに、
「……バーソロン、降伏は受け入れるが、お前は、魔界王子テーバロンテの大眷属だろう? 裏切れば即死。はないようだな。盲目的な忠誠心のまま命を惜しまず特攻は……」
「……我は洗脳されているわけではない」
「そうなのか? 口ではなんとでも言える。部下の百足魔族と蜘蛛魔族を倒したが……信用できない」
「……今すぐ信用しろとは言わない……それに、お前と戦えば我とデラバイン族は死んでしまう。部下に死地に赴けと、死にに行けとは……」
と言葉を濁した。
バルミュグとは違うタイプか?
「……先ほども言ったが、大眷属とは、そんな軽いモノなのか? 血の誓約やら、魂の契約やらがあると思うが……忠誠心はないのか?」
「忠誠心はあった。が……根本的にはテーバロンテに従っていない」
洗脳ではないようだが……ザンクワたちを苦しめていた魔界王子ライランと同じか?
バーソロンは、俺が持つ魔杖バーソロンをチラッと見て、
「我の意識の一部を宿していた魔杖バーソロンの中には、魔界王子テーバロンテの力が内包されていたが、先ほど、霧散したことを確認した」
なんだと?
「……魔杖からは、たしかに魔力はなにも感じない。この魔杖バーソロンには、お前の意識の他にも、魔界王子テーバロンテの魔力、意識のようなモノが入っていたと?」
「そうだ……」
「驚き桃の木なんとかです♪ でも、本当に魔杖バーソロンからは何も感じない。そして、使者様が装着している白銀の指貫グローブが渋い♪」
イモリザはそう語りながら、片手で倒立を行って、パンティを晒している。ココアミルク色の太股が綺麗だ。
が、今は――。
半身のままチラッと背後の魔の扉と言われている鏡を見た。
「では、魔の扉の鏡は使えない?」
「我がここにいる以上は使える」
ホッと一安心。
ま、相棒を連れて、傷場を探して魔界セブドラを彷徨うのも楽しいと思うが……。
そう思考すると、鏡の中に<
魔族セブドラでミトリ・ミトンたちと合流して長い旅となったら家族たちが悲しむからな。
魔の扉と呼ばれている鏡の下には極大魔石を挿すような孔がある。
セナアプアの地下祭壇と似た形だが、この鏡からセラの魔の扉に戻る際には、極大魔石は必要ないと語っていたから、他に使うのか?
他にも鏡を操作できるようなボタンが付いた膜のパネルが付いていた。
魔の扉と呼ばれている鏡の大きさは小さい。
鏡の縁の飾りはパレデスの鏡と似た中世のゴシック模様が多い。
その鏡から魔杖バーソロンに視線を移し、
「魔界王子テーバロンテには、お前を監視する意図もあったってことか」
「そうだ」
が、いまいち説得力にかける。
「裏切る理由は、命が惜しいや魔界王子テーバロンテの監視がなくなった以外にもあるんだろう?」
「ある。お前は、セラで見ず知らずの戦闘奴隷を救い、味方の全員を救おうと考えつつ、我と長く交渉し、我らを潰すことに専念していた。最後も、連続した転移スキルか不明だが、我の召喚を防ぎ、施設の爆発をも防いだ。更にそこから迅速に魔の扉を起動させて魔界セブドラに乗り込んでくるとは……予想外にもほどがある。見事な策だった……同時に、魔界王子テーバロンテに命令されていたことが潰れたことになる。そして、魔杖バーソロンの効力も失われたからこそ、一か八かの賭けに出たのだ」
「なるほど、賭けか……」
そう呟きつつ相棒とアイコンタクト。
「にゃ~」
バーソロンに向かって鳴いている。
そういえば、ここに来た当初から唸り声を発していなかった。
優し気に挨拶していた
セラで最初に魔杖バーソロンに向けていた態度とは雲泥の差。
バーソロンは、瞬きを繰り返し相棒をジッと見ていた。
可愛さに動揺?
「しかし、根本的な理由が薄い。先ほども言ったが、魔界王子テーバロンテの大眷属ならば本契約のようなモノがあるだろう」
それに、魔杖バーソロンにあった魔界王子テーバロンテの力が消えたことは、魔界王子テーバロンテにも知られているはずだ。
なのにバーソロンは生きている。
「ある……当然……我は、魔界王子テーバロンテが気付いていたのなら、死んでいるはずだが、まだ生きている――」
バーソロンは体勢を変えて、漆黒の鎧を脱ぐ。
胸を晒した。乳房は人族と似てピンクな乳首さん、否、そこではなく、バーソロンは手首から炎の紐を胸に伸ばした。炎の紐の先端が胸に触れると、胸に傷ができ、そのまま炎の紐を下に動かし縦に切っていく。自らの胸を裂いた。
「アァ、バーソロン様……」
「バーソロン様ァ」
額に小さい角があり顔に刺青が多い魔族たちが叫ぶ。
彼らはデラバイン族。
だったか、バーソロンと同じ魔族か。
バーソロンは、その裂いた傷の端に両手の数本の指をさし込み、鉗子のように指をめり込ませて、傷を「うぐぇぇ――」と言いながら無理に拡げていく。
見ているほうが悲鳴をあげたくなる光景だ。
武器を持って相手を殺している俺が考えることでは、いや、殺す気概がないままだと、こんなもんだよな……。
目を背けたくなった。
が、バーソロンは、
「心臓部を晒すから、止血の要領で、血を吸い寄せてくれ――」
「分かった」
光魔ルシヴァルとして、バーソロンの血を頂いた。
バーソロンの心臓部が露出――。
人族とは異なる硬そうな心臓部。
それがドクドクと律動していた。
その心臓部には蜘蛛と百足が融合したような小さい虫が付いていた。
バーソロンは、
「この心臓部に嵌まっている蟲は、バビロアの蠱物……針が心臓部に突き刺さっているのだ。そして、もう時間がない。魔界王子テーバロンテが、我の裏切り行為に気付く前に、このバビロアの蠱物を取ってくれ……」
「分かった。失敗しても悪く思うなよ。<血魔力>を使う」
「元より承知、死なばもろとも」
<血鎖の饗宴>か、<白炎仙手>か。
右手の白蛇竜小神ゲン様のグローブを活かすか。
――深呼吸。
『閣下、わたしも外に出て水魔法を用意しておきますか?』
『左目で見ててくれ』
『分かりました』
「にゃお~」
「使者様、ふぁいと~♪」
イモリザの声で気合いが散りかけるが、精神集中――<瞑想>を実行。更に、両手の掌を合わせた。
水神アクレシス様に祈る。呪神ココッブルゥンドズゥ様にも……。
更に俺の知る八百万の神様にも祈ろうか。
一呼吸置いてから――。
キサラから習い途中の<魔手太陰肺経>の動きを行った。
ハッと息を吐き<闘気玄装>を強めた。
続いて、
――<経脈自在>。
――<水神の呼び声>。
――<水の神使>。
――<滔天仙正理大綱>。
――<滔天神働術>。
――<性命双修>。
――<火焔光背>。
――<白炎仙手>。
――<血道第二・開門>。
――<血鎖の饗宴>。
恒久スキルとスキルを連続で意識、発動。
全身から<白炎仙手>などが融合した白銀色の魔力が迸る。
その白銀色の魔力の内と外は水と炎が小さい渦を描くように揺らめいていた。
その白銀色の魔力を<白炎仙手>の白銀の霧にはしない。
――右腕に集約させた。
<白炎仙手>などの複数のスキルが融合している膨大な白銀色の魔力を纏う右腕から、水飛沫にも見えた魔力が仄かな白銀の炎と小さい龍の形でプロミネンスを発しているように伸びている。
更に、プロミネンス的な炎と龍は前腕、肘に巻き付きながら二の腕のほうにまで昇り、蜷局を作りながら
そして、白銀色の龍の見た目は長細い。
青龍に近いか。
<四神相応>は使っていないが、<青龍蒼雷腕>的だ。
炎の見た目は、メタンハイドレートの『燃える氷』的で、仄かに蒼色が白銀色に混じって、小さい勾玉か、小さい陰陽太極図のようなマークも生み出している。
蒼色と白銀色と炎の中で小さい勾玉が泡ぶきながら、天の河を作るが如く煌めいた。その右腕に集約させている白銀色の膨大な魔力を<白炎仙手>として扱うように、コントロールした白銀の炎と龍と粒子を右腕の内部へと吸い寄せて抑え込む――。
「行くぞ、動くなよ――」
「はい――」
白銀の魔力が覆っている指先から微かに細い<血鎖の饗宴>の血鎖を出しつつ、バビロアの蠱物目掛け、<死の心臓>の貫手を繰り出した。
貫手を直ぐに止める。
蜘蛛と百足が融合したような小さい虫を指先から出した血の針と似た<血鎖の饗宴>が貫いた。
その小さい虫は一瞬で青白い炎を発して消えた。
バビロアの蟲物に<血鎖の饗宴>を浸透させようとか考えていたが、すべてのスキルと恒久スキルを解除。
輝くバーソロンの心臓部は動いている。
その心臓部の表面にルシヴァルの紋章樹が刻まれた。
逆に俺と契約した形か?
バーソロンは光魔ルシヴァルの眷族となったようだ。
心臓部には微かな孔があったが、その孔は自然と塞がった。
「バビロアの蠱物は消えたぞ」
「あぁ、はい……バビロアの蠱物が……消えました。ありがとうございます」
そのバーソロンに、
「魔界王子テーバロンテはこれで確実に気付くだろう。立てるか?」
「はい」
バーソロンは立ち上がる。
双眸から涙が流れていた。
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