九百九十話 魔杖バーソロンの罠と斜陽の魔界セブドラ


 魔杖バーソロンの威圧的な声を聞いて、


「シャァァ」


 大山猫に近い姿の神獣ロロが怒った。

 <鎖>で拘束している魔杖バーソロンに、飛び掛かりそうな雰囲気を醸し出す。

 念の為、魔杖バーソロンを頭上に運んだ――。

 この魔杖バーソロンの破壊はまだ行わない。

 破壊したら本当に爆発が起きてしまうかもしれない。


 爆発規模も不明だ。先ほどの神意力を有した思念といい、ただの脅しではないだろう。


 その魔杖バーソロンに、


「魔の扉も、傷場と同じく、神格を持つ存在の魔界からセラへ渡るリスクは、地下空間の狭間ヴェイルが薄くても変わらないようだな」


 そう聞くと、魔杖バーソロンは微かに唇の形を変化させ、


「その通り、狭間ヴェイルが薄くとも狭間ヴェイルの事柄は変わらない……神格を有した存在の召喚は、魔界とセラで難しい条件を揃えた状態で儀式を行わなければ、召喚者が如何に優れた能力者だったとしても不可能だ。必ず失敗に終わる。その失敗の影響も計り知れないものになるだろう。条件を揃えて成功したら、〝神の一部を凝縮した状態〟で無事に召喚されることになる。しかし、魔界セブドラの神格を有した神としての強さとは比べ物にならないほど弱くなる。そんなリスクを冒す神格を有した神々や諸侯はいないだろう」


 頷いた。ゼメタスとアドモスも、前にバーソロンと同じようなことを語っていた。

 

 そして、敢えて聞こうか。


「お前が知っている狭間ヴェイルの事柄を教えてくれ」


 そう聞きつつ闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの指輪を見た。


 この魔具や魔道具と呼ばれている闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの最初の見た目は、ノーマルな指輪だったが、今では指を覆うような形状に変化を遂げている。

 この指輪と俺の魔力が楔として魔界セブドラにいるゼメタスとアドモスと繋がっているお陰でゼメタスとアドモスは骨騎士から沸騎士へと進化を果たし、二人と不思議な繋がりを得られた。


 同時に、そのゼメタスとアドモスから魔界セブドラとセラの関係性を教わったんだよなぁ。

 あの頃を思い出すと、自然と感謝の想いが込み上げてくる。


 しかし、当初は驚いた。

 骨騎士のゼメタスとアドモスの二人は頭蓋骨、鎖骨、肋骨などが一気に分厚く進化したからなぁ。

 最終的に鋼の甲冑のような肉体となった。しかも、その体の節々から霧か、水蒸気か、煙か……なんとも言えない〝ぼあぼあ〟とした黒と赤の魔力が凄まじい勢いで噴出していた。


 すると、少し沈黙していた魔杖バーソロンが、


「……お前は、高度な槍武術と高度な<魔闘術>系統の<闘気霊装>のスキルを持ち、魔線が見えない<導魔術>も使える。更に上位魔法の無詠唱も可能。<召喚憑依>か、<召喚闘法>なども行える、稀な存在。戦闘職業も大魔術師アークメイジクラスは確実に習得、獲得しているだろう? そんなお前は、我が知る程度の魔界とセラの次元障壁である狭間ヴェイルの事柄について既に理解しているのではないのか?」

「買いかぶるな。魔法や狭間ヴェイルのことは感覚で、多少の理解を得ている程度だ」


 魔杖バーソロンは唇の形をした部分をブルッと震わせ、


「――ハッ、〝神の魔法力〟に〝式識の息吹〟を……〝感覚〟で多少の理解だと? 笑わせる。どんな超感覚・・・なのだ?」

「ンン、にゃごぉ」


 魔杖バーソロンの言い方に相棒が怒った。

 が、その神獣ロロの前に手を伸ばし、『怒るな』とメッセージを伝え、


「笑ってもらってけっこう。が、感覚は感覚だ」

「……チッ、あれほどの魔法力を有しているからこその、その感覚・・と言えるのか……」

「ガルルゥ」


 相棒が唸り声を響かせる。

 と、魔杖バーソロンは恐怖したのか唇の部分を震わせる。


 その魔杖バーソロンに、


「俺のことよりも、半神の召喚のことも聞きたい」

「……半神デミゴッド級……稀な級を知るのだな。環境次第だ。細かく言えば、魔の扉と似たような転移、召喚などに必要なアイテムは必須として、半神デミゴッド級と召喚者の能力と、その各自が持つアイテム類。ま、もう一度言うが環境次第。召喚に成功したとしても、半神デミゴッド級の神格や魔力などはそれなりに削がれるだろう」


 ミトリ・ミトンは魔王級半神だったから傷場や魔の扉などの利用が可能か。


「よく分かった。魔の扉についての疑問だが、魔界のテーバロンテの居城やバーソロンの城にある魔の扉の鏡を巡り、魔界の傷場で繰り広げられているような争いは起きていないのか?」

「魔の扉の鏡は、魔界王子テーバロンテ様の能力で造った物だ。しかし、希に争いはある。そして、その争いは傷場と傷場の領域を巡る争いとは多少異なるものだ」


 へぇ。魔界王子テーバロンテが魔の扉を……。

 <アイテム創造>のスキル?

 それか、セラと通じることが可能な魔の扉というアイテムだけを造れる能力を持つのか。


 そして、


「魔の扉の鏡を巡る争いが稀にあるってことは、魔の扉の鏡を、だれかに盗まれたとか?」

「そうだ」


 すると、魔界の城にある魔の扉の鏡は、持ち運びが可能なのか。


 地下祭壇の天辺にある魔の扉の持ち運びは、見た目の大きさ的に、無理そうな重さに思えるが……。

 あ、アイテムボックスに格納が可能なら仕舞ってしまうのもアリか。


 肩の竜頭装甲ハルホンクの中に吸い込ませることもできるかもしれない。後で試すとしよう。


「では他の者も魔杖バーソロンのようなアイテムがあれば、魔の扉、鏡の使用が可能なのか?」

「通常は、我のような存在が必要となるから、そのままでは使えないはず。しかし、魔の扉の鏡に魔改造を施せる者はいる」

「へぇ、傷場と魔の扉の違いは?」

「魔の扉は、一種のゲート魔法で魔力を得られる物と思えばいい。付加価値が異常に高い〝傷場〟ではない」

「もう少し詳しく」

「……生贄の人々の信仰と様々な負の感情に、その魂の魔素を〝魔の扉〟から享受できるのは、魔界王子テーバロンテ様の眷族だけだ。〝陰大妖魂吸霊具〟や我の魔杖も必要。魔の扉の鏡は、傷場のような膨大な魔力は得られない。傷場のように、広大な領域と称号に影響を与えるような特別な効果もない。だから〝魔の扉〟は贄場としての魅力は大きく下がるのだ。〝陰大妖魂吸霊具〟で吸収できる魔力は膨大になるが、傷場のほうが魔力が得られることに変わりはない。更に魔の扉を利用してセラから魔界へ戻る際には、傷場と違って極大魔石などが必要となる。だから、魔の扉の鏡を巡る争いはあまり起きないのだ」


 移動の度にセラの地上と地下で得た大量の魔素を消費してしまうと本末転倒か。


 魔王の楽譜とハイセルコーンの角笛が必要な傷場は、やはり特別なようだ。


「……納得だ」

「聞くが、お前は魔の扉を利用して、我を討伐して魔界王子テーバロンテ様に挑むつもりなのか?」


 嘘をついても仕方ない。

 頷き、


「当然だ。お前も分かってて俺たちをこの地下祭壇へ誘導したんだろう?」

「……あぁ、そうだとも」


 魔杖バーソロンは低い声で語る。


「螺旋階段の下の通路を守っていた魔族や、この地下祭壇にいた百足魔族の連中で、俺たちを仕留められれば御の字。と考えていたんじゃないか? 更に仕留めきれないのならば、魔の扉が見えている地下祭壇だからこそ可能な奥の手を発動し、その奥の手で、俺たちを仕留めるつもりだったんだろう?」


 その奥の手は、バーソロン本人と大軍が乗り込んでくる?

 神格を有している大眷属なら無理かもしれないが……。

 魔杖バーソロンは唇を震わせ、


「……鋭い読みだ」


 そう発言。しかし、まだ奥の手を出してこない。

 何かの起因を待っているんだろうか。それとも……。

 魔の扉をチラッと見てから、


「状況からの推測だ」

「……お前は優秀だ。我の籌略を見破っているからこその、この会話だろう」

「怪しいお前と会話すれば、だれだってそう考える。奥の手も出していない」

「ふっ、神意力を有した我が挑発しても、お前は気持ちを抑えつつ、逆に我を脅すところはしっかりと脅してきた。その交渉力は凡庸ではない。お前には独特な思考の原理を感じる。孤高の精神やアウトサイダーだが、戦闘奴隷を助けたような優しさも併せ持つ……」


 虫系だが、大眷属だけに頭が良さそうだ。そして、魔界セブドラにも同一原理、充足理由の原理、矛盾原理、排中原理などの思考の原理が存在するんだろうか。


「師匠たちと、今まで出会った者たちのお陰だろう」

「……打てば響く。お前なら魔界王子テーバロンテ様も気に入るかもしれぬ。テーバロンテ様の配下にならないか? 我が、テーバロンテ様の主力王婆衝軍驍将の一人に推挙してもよい」

「断る」

「チッ、悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの各方面軍師団長よりも格は上なのだが……」

「入らない。魔界王子テーバロンテの下に付く気はない」

「チッ」


 魔界王子テーバロンテの領域は、悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの領域と近いようだな。

 このバーソロンが〝列強魔軍地図〟へ魔力と思念を送れば……。

 魔界王子テーバロンテの領域が〝列強魔軍地図〟に刻まれ描かれるはず。

 

 しかし、この魔杖バーソロンの語りはどうも怪しい。

 俺が魔杖バーソロンを破壊するのを待っているんだろうか。

 爆発しても、魔杖バーソロンの魔素の内包量は小さい。

 爆発規模は小さいとは思うが、魔の扉が爆発するためのキーの可能性もあるんだよな。

 地下祭壇の天辺にある魔の扉と、この魔杖バーソロンの距離が離れているから、爆発の罠を作動させられない?

 地下祭壇の段差に近付くか足が触れたら、魔杖バーソロンは、何かことを起こすつもりなんだろうか。


 自爆? もありえるか。


 【テーバロンテの償い】は塔烈中立都市セナアプアでの権益を失ったと語っていた。だからこそ魔杖バーソロンの意識の一つを犠牲にして、この【魔の扉】の魔塔の施設ごと俺たちを倒そうと目論んでいるかもしれない。だとすると、魔の扉の説明はすべて嘘かもしれない。


 エヴァがこの場にいて、<紫心魔功パープルマインド・フェイズ>が通じたなら、楽だったんだが。今はいないから仕方ない。

 

 そして、魔の扉の爆発に水素爆弾級の威力があるとしたら……。

 セナアプアの危機だ。

 

 水爆はさすがに飛躍しすぎかもしれないが……。


 第一世代の聖櫃アークには、一夜にして都市を壊滅させることができるような古代兵器が存在するかもしれない。

 

 もしそうなら――急ぎ、


『クレイン、ユイ、レベッカ、地下祭壇の柱が並ぶ広場的な場所には、百足魔族の連中がいた。その百足連中はすべて倒した。しかし、魔杖バーソロンの語りが怪しい。地下祭壇の天辺にある魔の扉という魔道具が、魔界セブドラの魔界王子テーバロンテとバーソロンの居城にある鏡に通じていると語っていた。しかし、その語りは嘘の可能性がある。大きな罠、爆発があるかもだ。だから、この地下祭壇には、俺と相棒だけを残して、【魔の扉】の施設から避難したほうがいいかもしれない』


 そう血文字で皆に伝えた直後、常闇の水精霊ヘルメとクレインたちの魔素反応を得る。


「閣下! あれが地下祭壇――」


 ヘルメは左側の岩崖の上から降りて着地。


「おう、一応傍にきてくれ。祭壇にいた百足魔族は倒した」

「はい――」

「ンン――」


 相棒がヘルメの水飛沫を浴びるように近付く。

 ヘルメも嬉しそうに神獣ロロの回りを旋回し始めた。

 

 すると血文字が、


『盟主、避難と言っても、わたしとレザライサと血長耳の一部の兵士は、もう地下祭壇に着いたさ。ユイたちの気配も近いよ』

『了解、分かった。俺たちは祭壇の柱が並ぶ広場にいる』

『あ、レザライサたちが先に行ったよ。盟主の近くに到着するはずだから、わたしも行くさ』


 クレインとレザライサたちは仕方ないか。

 ユイとアクセルマギナとゼメタスとアドモスも来るようだ。

 そして、


『地下祭壇の罠が発動しかかっている? もしかして、【魔の扉】の施設ごと爆発が起きそうな感じ?』


 レベッカの血文字が出現。

 続いてクレインたちが崖の奥から走り寄ってきた。


「盟主! 神獣様に精霊様も、その鎖で固めた魔杖バーソロンも、問題はなさそうだが、あれが魔の扉か……」


 魔杖バーソロンに目があるか分からないが、一応、回転させながら真上を移動させていく。

 

「おう、今レベッカにも血文字を送る」

「にゃお~」


 クレインの足に頭部を寄せる神獣ロロ

 その頭部を撫でたクレインは、魔杖バーソロンを見て、


「……その魔杖バーソロンが、何かをしたわけではないんだろう?」

「あぁ、まだだ」


 レザライサたちは周囲を見ながら、


「槍使い、貯蔵庫などを放置して急いできたが、地下祭壇か……この地下施設も、他の【魔獣追跡ギルド】、【幻獣ハンター協会】、【ミシカルファクトリー】や評議員の屋敷に通じているんだろうな」

「たぶんな。今状況を説明しよう。あ、レベッカたちにも情報を伝えるから待ってくれ」

「了解した」


 血文字でレベッカに、


『爆発は、あくまでも予想の一つ。現状の魔杖バーソロンは、事を起こしていないから、爆発の罠の予想は飛躍しすぎで、的外れかもしれない。とりあえず保留だ』

『分かった。爆発する予想は最悪の予想の一つってことね』

『そうだ。魔界からバーソロン本体が、軍隊を連れて現れる可能性のほうが高い』

『うん。絶対それだと思う』

『あぁ、が、万が一に備える。エヴァを此処に呼んで、魔杖バーソロンの心を読んでもらうのもありだと思うが、一先ず、レベッカは、助けた方々と皆の避難の指示を頼む。あ、俺の二十四面体トラペゾヘドロンで、魔塔ゲルハットに一時帰還するか?』

『エヴァの<紫心魔功パープルマインド・フェイズ>も完璧ではないのよ。魔杖バーソロンの心を読んでも、バーソロンの心が読めるのかも不明。あと、ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡は魔塔ゲルハットだし、二十四面体トラペゾヘドロンの転移のパレデスの鏡を利用するとシュウヤも一緒に魔塔ゲルハットに移動しちゃうでしょう? その場合、魔杖バーソロンも一緒に魔塔ゲルハットに来ることになる。魔界王子テーバロンテも、その情報を得てしまう可能性が大。そして、魔の扉も、シュウヤが離れたらどうなるか……』

『そうだな。言われてみたら色々と不安要素が多いか。二十四面体トラペゾヘドロンは止めとくとしよう』


 血文字を見ているクレインも頷いた。


『うん。わたしは血文字を使ってヴィーネ、キサラ、エヴァ、ミスティ、キッカさん、ビーサ、ペレランドラにも連絡する。六眼キスマリとディアにドロシーにミナルザンには、エヴァたちに伝えてもらうとして、わたしは飛行術を使えるから直ぐに上界の魔塔ゲルハットに戻ることが可能。その魔塔ゲルハットには小型飛空艇ゼルヴァと小型飛空艇デラッカーがあるから、それを、エヴァとヴィーネとキサラとミスティに協力してもらって、下界に運んでもらう』

『了解した。小型飛空戦船ラングバドルは俺がいないと無理か』

『うん、ビーサなら操作できるとは思うけど。小型飛空艇ゼルヴァと小型飛空艇デラッカーが運べなかったら、元【髪結い床・幽銀門】のメンバーとレンショウとカリィたちを、血長耳の船に乗せてもらう』

『あ、そのほうが確実か。レザライサにも話をしてみる』

『うん。ま、爆発が起きないことを願うのみ』


 念の為、魔の扉をチラッと見た。

 二つの円い魔道具は天体のような形のまま。魔道具の表面にもエネルギーフィールドが重なっている。

 月の七日月にも見える。その魔の扉に、まだ魔素の蠢きなど不自然な印象はない。


 少し祭壇に近付いていた相棒に向け、


「ロロ、近くに戻ってこい」


 そう言うと、神獣ロロは耳をピクピクと動かして振り向く。


「ンン、にゃ、にゃお~」


 そう鳴きながら、尻尾を傘の尾のように立てると走り寄ってきた。

 そのまま一緒に後退。クレインもレザライサたちも後退して、地下水が流れている崖下に寄った。


 レザライサと【白鯨の血長耳】の皆に、


「レザライサ、この魔杖には、魔界王子テーバロンテの大眷属の意識が宿っているようだ。大眷属の名はバーソロン。その魔杖バーソロンが言うには、あの地下祭壇の天辺に鎮座する魔の扉は、魔界セブドラの魔界王子テーバロンテとバーソロンの居城の鏡へ通じているらしい。しかし、そのすべての語りが嘘の可能性がある。俺が祭壇に近付いたら、魔杖バーソロンは爆発し、魔の扉も連鎖爆発する仕組みがあるかもだ。それにより、この施設ごと大爆発が起きるかもしれない」

「おいっ、我はそんなことは一言も言っていない――」


 魔杖バーソロンを拘束している<鎖>を強めて、斜め上へと魔杖バーソロンを運ぶ。


 レザライサは魔杖バーソロンを凝視。

 

「……了解した。魔界セブドラに進出可能な転移装置とはな。そして、ここの施設ごと我らの壊滅を狙う爆発か……状況的に様々な予想ができる。魔界から虫の軍が現れていないのもきな臭い」


 レザライサは、喋るごとに顔色を悪くした。

 様々なことを想定したんだろう。そのレザライサに、


「……下界の【血銀昆虫の街】から一時撤収するなら、レベッカたち【天凜の月】のメンバーも一緒に頼む」

「了解、そうしよう。その際に血文字の情報を共有したい。そして、【血月布武】として少し遅くなったが、戦友のお前に、これを預けておく――」


 レザライサは懐からアイテムを二つ放ってきた。

 イヤホンのような大きさで貝殻、魔通貝か。


「もう一つは予備。そのもう一つはクレインやユイに渡すのもいいと思うが、任せる。そして、知っていると思うが、それは我らが愛用している魔通貝。エセル界の魔機械だ。使い方は魔力を通して耳に装着すれば自然と嵌まる。魔力を込めた指で魔通貝の表を叩いた回数で、通信を行う相手を指定できる。一回叩けば、わたし。二回叩けば各小隊長の【白鯨の血長耳】の皆だ。三回叩いて通信を行う相手も登録できるが、今は無理だな」

「了解、三回叩く相手を登録する時は?」

「互いに魔通貝を装着した状態でいる必要がある」

「なるほど、ま、レザライサと遠距離で通話ができるなら便利だ」

「そうだな。しかし、魔通貝も完璧ではない。他の都市では中継の要が必要となる」

「あぁ、迷宮戦車だな」

「……そうだ。他にもあるが、それはいつか説明しよう」


 頷きながら魔通貝に魔力を通しつつ、それを片耳に装着。


 耳の孔からソワッとしたフィット感を得る。

 耳を擽られる感覚、眷族たちの激しいエッチもなぜか思い出してしまった。


 いかん、エロいことはおいておいて、一回叩いてから少し距離を取って――レザライサに、


『……〝レザライサ、聞こえているか?〟』


 と小声で伝えた。


『〝聞こえている〟』


 と魔通貝からレザライサの声が響くのを確認してから予備をアイテムボックスに入れ、皆に近付いた。

 すると、ユイたちの気配を左後方に察知。早速、ユイとアクセルマギナに魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスが背後の洞窟から走ってくるのが見えた。


 そのユイが、


「――シュウヤたちを発見! あ、急に冷たい空気になった」

「よう、階段には強い魔人か魔族はいたか?」

「いた。炎を口から吐く女魔人で、魔剣師だった。左側の眼が三つで、右側の眼が一つで、魔人ってより魔族かな」

「そいつは炎剣ペアーチェだ……」


 魔杖バーソロンがそう呟く。ユイはチラッと、魔杖バーソロンを見てから地下祭壇を見て、


「……百足魔族の死体の数が少ないのは回収したあとのようね。シュウヤが珍しい」

「あぁ、斧槍とかハサミ状の触肢とか複眼とか、甲皮、内臓も貴重かもしれないと思って回収しておいた」

「ふふ、最近は、完全に闇ギルドの総長で盟主だからね。冒険者の気持ちを思いだした?」

「……あぁ、思い出したさ。って違うから、俺は元々が冒険者。盟主は成り行きだ」


「ふふ、うん。そして、祭壇の天辺、あの大きい円い物が二重に重なっている物が魔の扉ね。下の壇の両端には、如何にも怪しい百足魔族の彫像が並んでいるけど、別段、罠って感じはしない……あれが動き出す罠とかもあるのかな」


 そう語ると、神気・霊風の太刀を仕舞う。


「ありそうだ」

「そ、そんな罠は……あるかもだ」


 と魔杖バーソロンが素直に発言。

 皆は笑ったが、


「あるんかい」

「マスター! 先に彫像を破壊しますか?」

「あぁ、まだいいが、ユイに、アクセルマギナとゼメタスとアドモスも、広場中央奥の戦いをよく制してくれたな」

「当然~」

「はい! そして、マスター、地下祭壇とこの地下空間はかなり広いです。斜め左後方の施設側の先には一階に通じた坂道と地下道に鉄橋と乾船渠、湿船渠を擁した地下施設があります。調節可能な地下水道は港と通じているようですね。右後方の洞窟はハイム川の水が流れている洞窟があり、巨大な滝として地下大動脈に流れているようです」


 アクセルマギナは独自に周囲をスキャンしたか。


「「閣下ァァ!」」


 魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスが寄ってきたが、吹き飛ばされそうだったからスルー。


 そのままユイとアクセルマギナとハイタッチ――。

 ユイからイイ匂いが漂う。


 そのユイは〝黒呪咒剣仙譜〟を俺に渡してきた。


「結局、忙しくてカットマギーたちに〝黒呪咒剣仙譜〟を見せる余裕はなかったから」

「分かった。カットマギーたちはレベッカの近くか」

「うん、そのはず」


 〝黒呪咒剣仙譜〟を受け取った。

 その〝黒呪咒剣仙譜〟を肩の竜頭装甲ハルホンクに当てる。


「ハルホンク、回収しといてくれ」


 そう頼むと、


「ングゥゥィィ」


 と声を発した肩の竜頭装甲ハルホンク

 口を動かさずとも〝黒呪咒剣仙譜〟は、下の竜の装甲部へと沈むように消えた。


 そして、片膝を地面につけているゼメタスとアドモスを見て、


「ゼメタスとアドモス。この地下に向かう通路か階段には敵がいたかな」

「――施設の内部と長い螺旋階段で起きた戦闘では強者もいましたが、そのすべてを倒しましたぞ!」

「――狭い場所で、左右と背後をレイピアと長剣を持つ魔剣師たちに囲まれた時は、多少苦戦しましたが、ユイ殿とアクセルマギナ殿の協力を得て、敵を倒しました!」

「おう、よくやった。地下祭壇の天辺などのことを、今説明する。俺がここに到着した時に、百足魔族の隊長とその百足魔族の部隊を倒した。で、あの祭壇の天辺にあるのが、魔の扉という魔道具。魔杖バーソロンが語るには魔界とセラを繋ぐ転移装置、魔界セブドラの魔界王子テーバロンテとバーソロンの居城の鏡に通じているようだ。しかし、セラから魔界に行くには、極大魔石が必要なようだ」


 そう説明。

 

 アクセルマギナは敬礼を寄越し、


「強者の数といい狭間ヴェイルを越えることが可能なアイテムを持つとは、【テーバロンテの償い】の邪教が、この大陸で長く続いている理由の一つですね」

「あぁ、南マハハイム大陸の各都市にいるようだからな、相当な数だ」


 そう発言しながら頷いた。ユイが、


「シュウヤ。魔杖バーソロンが爆発したとしても、わたしはここに残るわよ。そして、あの魔の扉から魔界セブドラに転移が可能だった場合、利用しない手はない。シュウヤも魔界に乗り込むことを視野にいれての行動でしょう?」

「勿論だ」

「盟主らしい考えさね。当然、わたしもユイと同じさ」


 ユイとクレインは頷きつつ笑顔を浮かべる。

 常闇の水精霊ヘルメは、


「爆発に備え閣下のお目目に戻ります」

「了解、戻ってこい」

「はい」


 左目にヘルメを格納。

 ユイは、


「使い回しが可能と予測できる魔王の楽譜やハイセルコーンの角笛ではなく、極大魔石という貴重なエネルギー源が失われるのは、結構な消費ね」

「あぁ」

「にゃお~」


 相棒も同意するように鳴いていた。

 

「おい、我は爆発など一言も言って――」


 魔杖バーソロンは否定したが、まぁ、幾つかの予想は当たりだろう。

 クレインは、そう語る魔杖バーソロンを見て、


「そいつの擁護をするつもりはさらさらないが、爆発する罠ならバルミュグのほうが自然だ。だから素直にバーソロンの本体が、あの魔の扉から現れると予想するよ。が、そんな余裕な予想は、わたしが光魔ルシヴァルだからこそだ。なぁ、レザライサ?」


 クレインは急にレザライサに話を振った。

 威厳を醸し出すクレインの頬には帝火鳥、朱華帝鳥とも呼ばれたマークを出現させている。


 レザライサはベファリッツ大帝国の正式な敬礼を行う素振りを少ししたところで、厳しい顔色のクレインに止められた。


 そのレザライサは頷き、


「……当然だ。撤退しよう」


 レザライサとクレインの阿吽の呼吸か。

 クレインから、【白鯨の血長耳】が【スィドラ精霊の抜け殻】と共にベファリッツ大帝国の女帝にクレインを担ごうとしたという過去話を幾つか聞いたことがある。


 だからクレインとレザライサは相当深い仲のはず。

 そのクレインはレザライサの頬にある串刺しにされた白鯨の入れ墨を見ては、


「しかし、爆発規模が大きかった場合……塔烈中立都市セナアプアの下界が吹き飛ぶかもしれないねぇ。上界も一部の下側に出ている魔塔を失うかもしれない。そうなると……」


 そう語る。

 クレインは不安そうな顔色を浮かべていた。

 

 レザライサは頷いて、


「……今さらだ。戦神の断罪が待つ神界天国か、紅い蓮の花弁が出迎える魔界地獄か。どこに行こうとわたしは白鯨の血長耳の総長、盟主であり続ける。魔界だろうと神界だろうと敵対者を潰し、驀進するのみだ――」


 力強く発言して魔の扉を見上げてから、俺に視線を移す。

 そのレザライサの蒼い瞳が揺らぎ始める。

 少し女らしさを感じた。

 と、溜め息を吐くレザライサは、

 

「魔界セブドラか……槍使い、どちらにせよ無事にな」

「あぁ」


 俺が笑顔を見せると、レザライサも笑顔を見せてくれた。


「風のレドンドとの約束を忘れるな……わたしも地下回廊の依頼と魔境の大森林の制圧には期待しているのだ」

「魔境の大森林のすべては無理だ。が、レドンドとの約束は冒険者としての依頼だ。約束は守る。だから、また今度な、レザライサ」


 頷いたレザライサは、クレインとユイをチラッと見て寂し気な雰囲気を出す。が、直ぐに厳しい表情を浮かべると、血長耳の兵士たちに視線を移し、


「――皆聞いたな。これより撤収を開始する!」

「「はい!」」


 レザライサと【白鯨の血長耳】の兵士たちは頷き合う。

 レザライサは耳の魔通貝に指を当て、


「軍曹、【テーバロンテの償い】の狩りの時間は終了だ。更に最優先事項として、皆に伝えろ。【魔の扉】の施設の爆発はないかもしれないが、その爆発に備え一時撤収を開始する。念の為下界の兵士は高速船に乗り込んでセナアプアから離脱。上界の兵士たちも速やかにエセル界の扉の間に移動しろ――」


 レザライサは、そうメリチェグに連絡すると来た道を戻るように駆けた。

 【白鯨の血長耳】の兵士たちも続く。


 さて、魔杖バーソロンを目の前に運び、


「まだあの魔の扉には近付かないからな」

「好きにしろ……」


 そう発言した魔杖バーソロンに、

 

 魔杖バーソロンに魔の扉から援軍が来ない理由の推測として、

 

「魔杖に宿るバーソロンの意識。お前は、魔界セブドラにいる本体と常時意識を共有しているわけではない?」

「……その通り」

「では、お前を預かっていたバルミュグ・メメアードをリーダー格として、オミア・ハキメル、ギュルガ・トウカクなどの多数のセナアプアの幹部に【魔の扉】の支部を任せていたように、魔界王子テーバロンテもセナアプアを常時見張ることはできていないんだな?」

「そのはず。我もだが魔界王子テーバロンテ様も魔界セブドラで忙しいからな。が、見よう、調べようと思えば直ぐ分かるはずだ」

 

 現状、魔の扉から援軍が来てない以上……。

 魔界王子テーバロンテと魔の扉が有能でも、【塔烈中立都市セナアプア】の現状をリアルタイムに把握はできていないだろう。

 

 暫し、レザライサたちの離脱を待つとしようか。

 数十分、皆と会話を続けていると、魔杖バーソロンが痺れを切らしたように、


「なぁ……信用しろと言っても無駄だと思うが、爆発はないぞ?」

「レザライサが退く動きを行った時点で爆発が起きていないから、そうなんだろうとは思う。が、あの地下祭壇に、お前が近付かないと作動しない罠だと予測しているからな」

「……チッ」



 ◇◇◇◇



 数時間後、レザライサたちは無事にセナアプアの外に出た。

 市民たちにも知らせたが、大部分は信用しなかったようだから、殆どが残った状態だ。ま、それは仕方ない。下界が吹き飛んでしまうとか、信じられないだろう。実際に起きるか不透明なこともあるから、他者のことは後回しとなった。


 周囲には<筆頭従者長選ばれし眷属>のユイ、ヴィーネ、ミスティ、エヴァ、キサラとクレインとキッカがいる。


 魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスは魔界に帰還してもらった。

 同時に右腕に嵌めている戦闘型デバイスの中へアクセルマギナも戻ってもらった。

 

 レベッカ、ビーサ、キスマリ、ペレランドラ、ミナルザン、ディア、ドロシー、シウ、ペグワースを含めた【天凛の月】の皆に【魔塔アッセルバインド】のリズは、レザライサの傍で【白鯨の血長耳】の船に乗っている。

 ミナルザンとキスマリに関することで、色々と船内で悲鳴が谺する事件が立て続けに起きたようだが、魔通貝で、レザライサにちゃんと説明はした。そして、避難するだけなら上界の魔塔ゲルハットでも大丈夫だとは思うが、念には念を入れてもらった。


 すると、エヴァが、


「ん、皆の【血月布武】の下界からの避難は完了」

「――はぁ、やっとかよ……」

「魔杖バーソロン、お前は少し黙れ」

「チッ」

「エヴァ、頼む」


 魔杖バーソロンに手を当ててもらい<紫心魔功パープルマインド・フェイズ>を実行してもらう。

 その魔杖バーソロンに、


「魔杖バーソロン、俺が祭壇に近付いたら、爆発があるのか?」

「ないと何回も言ってるだろうが! 紫の女、我に触れているが……それが拷問のつもりか?」


 エヴァは表情を青ざめさせながら頭部を振るう。


「ん……〝我は数多、我を見るとは笑えるぞ小娘〟って思念が響いてきた。バーソロンは嘘をついている。だけど、一部の意識に、強い思念を感じて、いつもと違って深く読めない。ごめんなさい……」

「気にするな。十分さ。ありがとうエヴァ」


 笑顔を贈ると、エヴァも笑みを浮かべてくれた。


「ん」

「……サトリ系統、リーディング能力者か……とことん、お前らは特別だな……」


 そう語る魔杖バーソロンを拘束している<鎖>を動かしてエヴァから離した。


「ここでずっと待機しているわけにもいかない。だから、そろそろ試すとしよう。皆、先ほども血文字で言ったが、ここから離脱してもらう」

「「「……」」」

「……ご主人様、わたしはここに残りたいです」


 ヴィーネの表情には切なさが出ている。


「心配するな。また会える、皆を頼むぞ」


 涙を浮かべたヴィーネは、俺の肩に乗った相棒を見てから、魔の扉と魔杖バーソロンを憎々しげに睨む。

 が、直ぐに微笑んで俺を見てくれた。銀色の虹彩は揺れている。


「……分かりました。でも――」


 と抱きついてきて、紫色の唇を突き出してきた。

 唇を奪われた。柔らかい唇の襞は少し湿っている。

 唇と唾液を吸われたが、直ぐにヴィーネの唾液を吸い返した。

 

 ディープキスをしてから、ヴィーネの肩を持って離し、


「――ヴィーネ。皆が嫉妬するからな?」


 ヴィーネは微かに体が震えてから、


「……はい」


 と小声で返事をしてから離れた。

 その直後、クレインとエヴァに、トンファーの切っ先を向けられているヴィーネ。


「ヴィーネ、爆発も起きず、たいした罠もないかもしれないんだよ? 大袈裟すぎる」

「ん! 少し長いキスは、皆の前では禁止って前に約束したのに、破った!」

「そ、それは……」

「盟主の独り占め独占キスの罪は重い。ロンバージュの魔酒瓶五本はほしいねぇ」


 クレインは酒好きだからな、つうか高い酒を飲み過ぎだ。

 と、ヴィーネは俺に助けを求めるように見ようとしたが、直ぐにミスティとキサラに捕まり、文句を言われていた。


 その皆に、


「皆、仲良くな。避難をよろしく。キッカも緊急的に来てもらったが、ろくに話もできずに悪い」

「閣下、とんでもないです。ユイとヴィーネにクレインとは裏仕事でよく連んでいますし、【天凛の月】の皆とは仲良くさせてもらっていますから、更に冒険者ギルド長の仕事を優先させてもらっているわたしのほうこそです。本来は、<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人として閣下の傍に控えることが筋なのですから」

「……前にも血の束縛はしないと説明しただろう。キッカのやりたいことを優先することが、俺の望み。キッカの冒険者ギルド長の仕事を邪魔したくないんだからな」

「そうでした、ね。しかし、皆の話を聞いていると……羨ましい想いが日に日に増して……あ、すみません。あと、イノセントアームズのSランク昇級の準備はできています」

「あぁ、それもあったな。キッカの血を活かす剣術も学びたいが、ま、今度だ」

「はい……」


 皆を見て、


「さぁ、皆、気合いを入れろ。まだ何が起きるか不明なんだ。余裕がある今の内にレベッカたちの下に撤収してくれ」

「ん、分かった。ロロちゃん、シュウヤをよろしく」

「にゃお~」

「うん……父さんたちとキッシュにも連絡したからね」

「ディアや、皆のことはわたしに任せて。がんばってね」

「はい、ご主人様……ご無事で」

「シュウヤ様……はい……ロロ様も後ほど」


 皆、地下祭壇から去った。

 暫し、地下祭壇の空気を楽しむように沈黙を楽しむ。


 <筆頭従者長選ばれし眷属>たちの<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>を感知、血文字で伝えられずとも、血の気配で距離は分かる。


 数分後、魔の扉の施設を出たと分かった。

 更にもう少し待ってから……。

 

「――さて、魔杖バーソロン、待たせたな?」

「ハッ、最後に残ったのは、噂通りの槍使いと、黒猫か……」

「おう、地下祭壇に近付いてやろう――」


 地下祭壇に向かってゆっくりと歩く。

 同時に魔杖バーソロンと魔の扉が反応するように異質な音を響かせてきた。

 やはり、罠は確実として、魔の扉の丸い部分の魔力が蠢き始める。


 俺が魔杖バーソロンを持ったまま、このセナアプアを離れたとしても、魔の扉は独自に作動したかもな……。


 その地下祭壇の壇に足を掛けた瞬間――。


「――用心深い奴らめが!! フハハハ――」


 魔杖バーソロンから爆発的な魔力が迸る。

 <鎖>の拘束は解けていないが、<破邪霊樹ノ尾>の樹が割れていく。が、爆発はさせない。

 強引に魔杖バーソロンを右手で掴んで魔力を注ぎ、


「魔杖バーソロン、悪いが、このタイミングを待っていたのは俺も同じ――」


 <脳脊魔速>を発動――。


 肩にいる小さい黒猫ロロの体重を感じながら、光を帯びている地下祭壇の壇を蹴り、魔の扉の根元を触り、戦闘型デバイスへの回収を狙うが、できず。

 肩の竜頭装甲ハルホンクにも――。


「――ングゥゥィィ」


 無理だった。

 ピカピカ光る肩の竜頭装甲ハルホンクの片目の煌めきを感じつつ、魔の扉の根元にある極大魔石を嵌める孔を見て、数個の極大魔石を取り出す。

 

 極大魔石を魔の扉の孔に挿して嵌める。

 極大魔石のエネルギーを得た魔の扉は光を強めた。


 その魔の扉の中へ突入――。

 

 刹那、柔らかい感触を得た。

 と、目の前には額に小さい角を有した女性魔族がいた、その女性魔族の胸と衝突。


「――!?」


 女性魔族は、背後にいた百足魔族と他の魔族ごと吹き飛んだ。

 

 そして、ここは魔界セブドラだと分かる。

 バーソロンの居城バーヴァイ城の居室か。


 居室を兼ねた広間かな。

 魔界王子テーバロンテの居城を支える四大支城の一つか。


 正面から右にかけての壁面の引っ込んだ部分に、斬妻の四葉飾りと似た百足と甲虫の造形の飾りが付いた窓があり、その窓と地続きのウィンドー・シートは綺麗だ。


 窓から斜陽が俺たちに射している。


 天井には水平の幅が太いつなぎ梁があった。

 模様は百足魔族とドラゴンが戦っている絵柄。

 近くには銀色の甲虫が飛んでいた。

 茶色と小麦色の魔力を発している香具もぶら下がっている。


 床は銀色と黒色のドラゴンの鱗のようなタイルが敷き詰められている。


 斜陽が反射していて美しい。


 左側には下に行ける丸太階段の踏み板がある。

 下の手前の壁にはスケルトンと魔力のドアがあった。

 透けているから踊り場が見えている。


 そして、魔界セブドラは夕方か。暗がり以外にも太陽のような存在がある?


 ――<脳脊魔速>を終わらせた。


 女性魔族は背もたれが立派な椅子と衝突して、体に骨が突き刺さりまくりながら背後の壁と衝突していた。

 破壊された背もたれと肘掛けは、魔族と推測できる四眼の眼窩を持つ頭蓋骨と百足魔族と蜥蜴魔族の骨で形成されていたようだ。


 下の階から足音が響く。

 その下から、


「――見知らぬ魔素を感じるぞ!」

「刺客か!!」

「――バーソロン様ァァ」

「バーソロン様を守るのだ」

 

 <闘気玄装>を強めつつ――。

 コレクターを思い出しながら、立ち上がろうとしている女性魔族に向け、


「――よぅ、俺の言葉が理解できるか? バーソロン」

「「……え、えぇぇ!?」」

「ンン、にゃ~」


 バーソロン本人と魔杖バーソロンが震えながら同時に声を響かせた。

 相棒は驚いていないようだが、見た目が女性の魔族だとは思いもしなかった……。

 長い髪を髪留めで止めている。吹き飛んでも髪形は崩れていない。

 眉毛は細い。瞳は朱色と黒色。鼻筋も高く、唇が小さい。

 顎も小さくEラインも細い。

 

 が、額から右頬にかけて血の炎のような刺青か傷跡のようなものが拡がっていた。

 その女性魔族が、


「「……我の召喚と爆発を防ぎながら、我の意識が宿る魔杖を持った状態で、魔界に乗り込んでくるとは……」」


 俺が持つ魔杖バーソロンとハモる。

 魔杖バーソロンは少し煙っているが、気にしない。

 すると、重装騎士のような漆黒の鎧を身に着けている魔族が階段から現れた。

 斧槍を持っている。額には角を生やしていた。漆黒の鎧はバルミュグと同じか。


 そいつが、


「バーソロン様! 侵入者ですか!!」

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