九百八十九話 角あり百足魔族の中隊撃破に『魔の扉』の条件

 魔界セブドラと通じるか。

 狭間ヴェイルが薄いこともあるとは思うが……。


「あの魔の扉を潜れば、魔界セブドラのバーヴァイ城とバードイン城の鏡に移動ができる? 傷場のようなアイテムが必要? 条件とかあるのか?」

「傷場のような移動か。条件があったとしても、その情報を、お前に教えるとでも?」


 ここで強がるか。それとも時間稼ぎか。

 崖下のエイリアン兵、否、百足魔族はかなり強いのか?

 あ、魔の扉を利用して魔界から援軍を呼ぶつもりか。

 バーソロンから情報を聞こうと、魔杖バーソロンを拘束している<鎖>の根元を手首に収斂させて魔杖バーソロンを目の前に運んだ瞬間――。


 崖下のエイリアン兵たちが動く。 

 見た目はエイリアンだが、名は百足魔族か。

 その百足魔族たちがワシャワシャ、シャシャ、ジャジャと異質な音を発しながら斧槍のような鎌腕を上げて、俺に先端を向ける。更に体の下部からハサミ状の長い触肢を生み出し、そのハサミ状の触肢を斜め上へと差し向けると、


「「フシャァァ――」」

「「ウシャァァァ」」


 と奇妙なエイリアン声を発しながら斧槍のような鎌腕を複数飛ばしてくる。

 やや遅れてハサミ状の触肢も飛ばしてきた。


 すると、相棒が崖下に向け、


「にゃごァ」


 と紅蓮の炎を吐いてくれた。

 複数の鎌腕とハサミ状の触肢が、相棒の炎に飲み込まれた。

 が、数本の鎌腕とハサミ状の触肢が溶けながらも炎を抜けてくる。

 ――炎への耐久度が高いらしい。


「相棒は少し待機――」


 そう言いながら崖先から跳ぶ。


「にゃお」


 相棒の声を背に感じながら溶けて塊になったまま下から飛来してくる物体に向け<龍豪閃>を繰り出した。

 神槍ガンジスが龍の牙となったが如くの一閃の方天画戟と似た穂先が――鎌腕とハサミ状の触肢だったモノを捉え、一気に切断。

 横に回転しながら慣性的に落下し、一瞬で龍が踊るような魔力の軌跡を瞬時に越えたところで――。

 足下に、斜め下に傾けた<導想魔手>を生成。その傾いている<導想魔手>にダイブするような前転を行い、両足で<導想魔手>を捉え蹴って、一気に斜め下へ直進――。


「「フシャァァ――」」


 百足魔族共は奇声を発して、またも斧槍とハサミ状の触肢を射出させてくる――。


 一瞬、魔杖バーソロンをぶつけてやろうかと思ったが、止めた。

 足の横斜め下に<導想魔手>を作り、それを片足で蹴って左へと跳ぶ。


「「フシャァァ――」」


 再び、斧槍のような鎌腕とハサミ状の触肢が飛来。

 またも<導想魔手>を足下に生成し、その<導想魔手>を蹴り、右に飛ぶように宙を移動する。

 <血液加速ブラッディアクセル>を強めて弱める。やや遅れて<魔闘術の仙極>を実行――。

 再び<導想魔手>を足下に生成し、それを蹴って左へと跳びつつ<黒呪強瞑>と<闘気玄装>も発動し、体の内と外に放出する<魔闘術>系統に強弱を付けながら飛行速度を変化させて、緩急を作る。

 

 同時に<導想魔手>を作る位置も変化させた。

 <導想魔手>を蹴って飛翔するように百足魔族が放つ斧槍のような鎌腕とハサミ状の触肢の攻撃を避けまくる。宙空で反復横跳びを行うが如く左右へと跳ねる機動を繰り返し、岩の壁も利用し蹴る――宙空で前転から、足下に<導想魔手>を生成、それを蹴って斜め横に飛翔を行う。

 斧槍のような鎌腕とハサミ状の触肢の遠距離攻撃を避けまくった。

 ハサミ状の触肢の軌跡が、<仙羅・絲刀>の魔力の糸のような刃に見えた――。


「フシャガァッ!!」


 百足魔族から今までと異なる声が響くと、稲妻と火炎を帯びた斧槍のような鎌腕が飛来。


 疾い――。


 その強力な鎌腕を寄越したのは、頭部に複数の角を持つ百足魔族。

 先ほど倒した守護兵長の百足魔族デアンホザーより強い百足魔族か?


 急ぎ、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を発動。


 その大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>と鎌腕の攻撃が衝突、振動を受けながら大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>ごと俺の体も衝撃で持ち上がったが、防御に成功。


 大きな駒の魔力の梵字の輪っかが囲っている『八咫角』の魔法の文字の煌めきが揺らぐ。


 その大きな駒に刻まれている風槍流の文字を見ながら体幹の筋肉を意識――ゼロコンマ数秒も経たせず体を巡る魔力を右腕から魔槍杖バルドークに伝えた。


 大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を背後に移動させながら、下の柱が囲う祭壇にいる複数の百足魔族目掛け――迅速に魔槍杖バルドークを振るう<魔狂吼閃>を繰り出した――。


 魔槍杖バルドークからゴオォォッ――と咆哮が轟く。

 同時に紅斧刃と紅矛から魔竜王バルドークの頭部を模った魔力が飛び出た。

 百足魔族のいる祭壇の広場に向かう。


 その魔竜王バルドークの頭部の周囲に無数の小型の紋章魔法陣が出現。


 続けて、邪獣セギログンと邪神シテアトップと黄金の骨と、冠を被る武者のようなドワーフ? などの魔力も魔槍杖バルドークの柄から出現しながら直進。

 それらの魔力は魔竜王バルドークの頭部の魔力を喰らうように重なり混じり合うと、一瞬で魑魅魍魎の銀の筋染みた乱気流となった。


 その<魔狂吼閃>は無数の斧槍のような鎌腕とハサミ状の触肢を喰らいながら、その百足魔族たちに向かう。


「「「フシャァァ」」」


 百足魔族たちは魑魅魍魎の乱気流の<魔狂吼閃>を受けたように見えたが、百足魔族たちの一部は一瞬で体が両断される。


 一部の百足魔族は分断されずに体が分解されたように<魔狂吼閃>の魑魅魍魎に喰われながら虚空へ消えていくのを見ながら着地――。


 角あり百足魔族はまだ生きているが、百足魔族の中隊は倒したか。


「ンン――」


 相棒も背後に着地したことを声と魔素で把握。

 そして、左側にいる百足魔族は、頭部に複数の角を持つ。

 残り数匹、数体と言うべきか?

 頭部には人族っぽい眼球もあるから匹と考えるのは間違いかもしれないとか思考しつつ――。


 飛来した鎌腕とハサミ状の触肢を横に移動して避ける。


 即座に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を、飛び道具を寄越してきた百足魔族たちに直進させながら前傾姿勢で前進――。


 同時に<仙魔・桂馬歩法>を実行――。

 大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は、百足魔族が寄越してきた飛び道具を潰しながら百足魔族と衝突、百足魔族は「グブアァァ」と悲鳴を上げて吹き飛ぶ。


 その潰れたような百足魔族は追わず、もう一体の頭部に複数の角を持つ百足魔族に向かう。

 その百足魔族は多脚を輝かせつつ、斧槍のような鎌腕とハサミ状の触肢を前方に伸ばし、相棒が繰り出している触手から飛び出る骨剣の連撃を防ぎまくっている。


 その姿は、百足の外科医者か、名作『シザーハンズ』の主人公的、は美化しすぎか。


 刹那、横から、その角あり百足魔族との間合いを詰めた。


 その角あり百足魔族は、ガトリング銃から射出されている弾丸を防ぐように相棒の無数の触手骨剣の連続攻撃を防ぐことに夢中で、俺の動きに対応できない。


 左足の踏み込みから即座に魔槍杖バルドークで<塔魂魔突>を繰り出す。

 紅矛と紅斧刃が角あり百足魔族の幅広な甲皮ごと体を横から穿つ。

 ドッと重低音を響かせながら、その体が吹き飛んだ。

 上下に分断したが、破裂したように内臓と肉が再生しくっ付いていくと、横から鎌腕が飛来、ドドッと重低音が響く。右腕を引きながら魔槍杖バルドークを消しつつ横に移動して鎌腕を避けた。

 ハサミ状の触肢も右斜め前から飛来。

 百足魔族に刺さっていた相棒の触手骨剣が退く機動を見ながら<戦神グンダルンの昂揚>を発動し跳躍――。

 百足魔族の頭部付近目掛け、左手の神槍ガンジスで<光穿・雷不>を繰り出した。

 神槍ガンジスの<光穿>が百足魔族の顎のような出っ張りを貫いた。

 その直後、神槍ガンジスの周囲から轟音が鳴り響くと、何処からともなく現れた八支刀の光が神槍ガンジスの先に集結しながら巨大な光雷の矛へと変化を遂げ、そのまま神槍ガンジスを越えて直進。


 その<光穿・雷不>は百足魔族の頭部を一瞬で蒸発させるように貫き、地下祭壇の柱の一つも突き抜ける。

 右の空洞の先に向かうと、上下の空洞を支えているような大きい岩柱をも貫いて岩壁と衝突し閃光を発して消えた。


「ガルルゥゥ――」


 神獣ロロディーヌは大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>に体の一部が押し潰されながらも生きていた百足魔族の頭部に喰らいつき倒すと、頭部をもぎ取った。


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を引き寄せて消失させると、神獣ロロは、百足の頭部を咥えながら「ンン」と喉音を発して戻ってくる。


 俺の足下に、その百足魔族の頭部を落としてきた。

 

 正直、大きい百足と魔族が融合したような頭部は気持ち悪いから、あまり見たくないが……貴重な素材かもしれないか……。


 回収しておこう。


「相棒、よくやった。そして、ハルホンク、百足魔族の死骸を回収するぞ」

「にゃお~」

「ングゥゥィィ!」


 ハルホンクの防護服の腰に銭差のように青白い炎で結ばれ繋がっている玄智宝珠札と棒手裏剣が百足魔族たちの死体に伸びた。


 ドヤ顔を浮かべていた相棒が「ンンン」と鳴いて、即座に反応――。


 その玄智宝珠札と棒手裏剣を追い掛ける。


「にゃっ、にゃ、にゃお~」


 神獣ロロは、前にも反応していたからな。

 フキナガシフウチョウの飾り羽根や猫じゃらしに見えるから無理もない。


 さて、祭壇の最上段の丸い天体を思わせる魔の扉に変わった様子はない。

 

 魔杖バーソロンを拘束している<鎖>を収斂させ持ち上げた。


「……百足魔族デアンホザーのテーバロンテ様の守護兵をまたも……」


 魔杖バーソロンは唇の形をした部分が震えている。

 その間に肩の竜頭装甲ハルホンクが百足魔族たちの死体を吸収するように回収。

 そして、


「……魔杖バーソロン、魔の扉の利用には、魔王の楽譜とハイセルコーンの角笛のような特定のアイテムが必要なのか?」

「傷場のようなアイテムは要らないが……我の魔杖バーソロンが必須。更に魔の扉に膨大な魔力を送ることが必要だ。極大魔石を挿せるところがある……」


 さすがに素直に喋ったか。

 此方側から魔界セブドラに移動する時にはエネルギーとして膨大な魔力源が必要か。が、魔界セブドラ側から魔の扉を通して、この地下祭壇にくるにはリスクは少ないように思える。援軍がくる気配がある。

 だから、魔の扉を破壊したほうが得策か? 

 しかし、あの魔の扉を利用すれば魔界セブドラに進出し、バーソロンごと魔界王子テーバロンテを倒しに行くことが可能……。


 魔杖バーソロンに、


「テーバロンテは、バードイン城とバーヴァイ城の鏡を潜り、この惑星セラの地下祭壇の魔の扉から現れることが可能なのか?」

「できたとしても、そんなリスクはおかさない」

「魔界王子テーバロンテは神格持ちか」

「当たり前だ!」

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