九百八十話 【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いと、ルアルの血魔塔の戦い

◇◆◇◆


 ルアルの血魔塔の階段を上がる大柄のエルフ。

 金髪に隻眼。眉が太く大きい眼。

 額と段鼻には大きな刀傷が目立つ。

 頬には、串刺しにされた白鯨の入れ墨があった。


 身長は百八十を超えた偉丈夫。古い【白鯨の血長耳】の軍服を着ている。


 肩と二の腕には部隊印があり、両腕には鉄鎖が絡み付く。

 鉄鎖の先端には、小さい鉄球と刃が密集した鉄鎖が垂れていた。

 これは彼だけが使える特別な鉄鎖・・

 形状だけならば、ハンマーフレイルに近い武器と言える。

 その小さい鉄球と刃には、新鮮な血肉がこびり付いていた。その血が滴っている鉄鎖を扱う【白鯨の血長耳】の偉丈夫は四階にいる複数の反応を得ながら……階段をゆっくりと上がり、踊り場に片足を踏み入れた。すると、四階にいた漆黒色のローブを着た魔剣師が、

「来たぞ、【白鯨の血長耳】だ――」

「いけぇ――」

 踊り場に現れた偉丈夫に突っ込む。

 その【白鯨の血長耳】の偉丈夫は、「<鉄蛇>――」と発言しつつ片腕を迅速に振るった。

 片腕に絡んでいた鉄鎖は蛇が起き上がるようにしなりつつ先端部が直進する。

 先端の小さい鉄球と刃が魔剣師の首と頭部を穿った。

 

 脳漿ごと頭蓋骨は粉々に散る。

 頭部を失った魔剣師は、首から大量の血を噴出させながら背後に倒れた。

 【白鯨の血長耳】の偉丈夫は鉄鎖を操作し、鉄鎖を倒れた死体に絡み付かせると、その鉄鎖を引いて死体を素早く手元に引き寄せ、肉の盾にした。

 周囲の漆黒色のローブを着た者たちは、肉の盾を前に突き出した鉄鎖使いに向けて、遠距離攻撃を繰り出した。が、肉の盾に複数の矢と短剣と投げ斧が突き刺さるのみ。

 

 周囲の漆黒色のローブを着た者たちは、

 

「――仲間を盾にしやがって!」

「左右から攻めろ! 上がってきたのは此奴だけだ――」

「はい!」

「やれぇ――」

「……」

「血長耳めが――」


 【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いは、投げ斧などのすべての遠距離攻撃を肉の盾で往なす。

 その武器だらけとなった肉の盾越しに、

「――ガエイ兄弟、ペイル姉妹、槍使いドッグ、剣殺ピアス、二剣バザタルは、下にいなかったが、ここにもいないのか……最上階か? それとも外に出ていたのか? そして、その女性を解放してもらおうか」

 と、四階の漆黒色のローブを着た者に発言。

 漆黒色のローブを着た者たちは憤怒の形相を浮かべて、

「しらねぇよ――」

「贄の女を解放だぁ? 馬鹿かお前は!」

「巫山戯るな、隻眼野郎――」

「死ね――」

 二人の魔剣師は罵りながら短剣を<投擲>する。

 死体の盾に、その短剣が突き刺さる。

 死体の盾に隠れている【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いは、

「……【血印の使徒】の雑魚共、まずは女を離せ」

「うるせぇ! 離すわけがねぇ」

「血長耳の殺し屋が!」

 【血印の使徒】の魔剣師は裸の女性の顔を見ながら片手で女性の首を絞めた。

 その女性は「あぁぁぁ……」と言いながら体の表面が一気に灰色と化した。精気、生命力を失った女性は死に絶える。女性の生命力、魂を吸い取った魔剣師は狂気の顔色を見せて、

「――ひゃっひゃっひゃァァ」

 異質に嗤うと魔剣師の持つ魔剣の剣身が黄緑色に輝いた。

 もう片方の腕の表面の血印臓樹ガドセルの魔印が強く輝く。

 その魔印の周囲には真新しい血濡れた紋様が刻まれていた。

 その紋様は、無数の無辜の者たちを殺した証拠。

 十層地獄の王トトグディウスに魂を捧げた証拠の刺青だ。


 糧を得た魔剣師は、鉄鎖使いのエルフに、


「ひゃはは、鎖を扱う正義面の血長耳さんよォ、残念だったなァ?」

「下界の英雄、面目丸つぶれってかぁ?」

「ぷぷぷ」


 と嘲笑。その文言を黙って聞いていた【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いは眉一つ動かさず、

「理解不能、お? その魔剣と刺青、【血印の使徒】のサークか――」

 そう言いながら片腕を迅速に下から振るう。その片腕に絡んでいた鉄鎖が直進し、【血印の使徒】のサークの魔剣を弾くと、鉄鎖の先端はサークの首を穿った。サークの頭部は千切れたように飛ぶ。鉄鎖の先端の小さい鉄球と刃に絡み付いている血肉が周囲に散った。

 血塗れの鉄鎖は更に蠢いてサークの体に絡み付く。

 と、そのサークの死体を鉄鎖ごと引き寄せた【白鯨の血長耳】の鉄鎖使い。

 そのサークの死体を肉の盾にし、肉の盾を前面に押し出しながら前進し、踊り場から離れた。

 

 そして、サークの肉の盾越しに、もう片方の鎖が絡む片腕を下から上へと振るう。


 【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いの腕に蜷局を巻いていた鉄鎖が斜め上に飛び出た。

 鉄鎖は銀色の魔力を発しつつ、蛇のような動きで宙を劈きながら、<血魔力>を扱う上半身が裸の魔剣師の頭部を貫いた。その魔剣師の頭部と右肩は爆発するように散った。

 


 その魔剣師の上半身に刻まれていた血印臓樹ガドセルの魔印は血を浴びて消えていく。

 更に、その魔剣師の死体に鉄鎖が絡み付くと、鉄鎖使いは、再びその死体を肉の盾にした。

 その【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いは、


「【血月布武】の名の下、お前たちを滅殺する――」

 

 再び肉の盾を利用する【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いは前進。

 肉の盾に無数の短剣と鞭と魔刃が飛来。

 一瞬で肉の盾は散った。

 が、鉄鎖使いは横に跳ねるように素早く移動し机を蹴って、机を盾にした。

 そして、片腕に絡んでいた鉄鎖を直進させた。

 鉄鎖の先端の鉄球の群れが、前方の漆黒のローブを着た者の額ごと頭部をぶち抜き、背後の壁に突き刺さった。【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いは、その背後の壁の表面ごと血肉が絡む鉄鎖を己の腕に引き戻しつつ右斜め前に跳ぶ――。

 机を蹴り上げると、その机を盾代わりに利用。

 飛び道具を防ぎつつ同時に両腕を振るっていた。


 その両腕から伸びた鉄鎖の先端が二人の頭部を捉えると、その頭部は爆発したように散る。

 血濡れた鉄鎖を両腕に引き戻しつつ後転から壁へ跳躍を行う鉄鎖使い。


 その壁を両足で蹴って部屋の横の柱へと飛ぶように移動を行った。

 柱の下に片膝を突け着地しながら左肩から前転しつつ素早く立ち上がり、横に跳ぶ。


 遠距離攻撃を繰り出していた漆黒のローブを着た者たちは、偉丈夫ながら迅速に動く【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いを見据え、

 

「くっ、ホーケドとサークがあっさり死ぬわけか。鉄鎖を扱う【白鯨の血長耳】の幹部と言えば……」

「もしや、下界兵長か……」


 一人の魔剣師がそう言いながら短剣を<投擲>。

 【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いは両手の先に垂らした鉄鎖を振り回す。

 振り回した鉄球と刃の群れと、短剣が幾度となく衝突を繰り返した。

 【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いは、すべての短剣の<投擲>を防ぐと、


「……その通り。俺の名はエキュサル。今日、下衆の【血印の使徒】などを滅する者だ」

「……下衆だと……まだベファリッツの軍人のつもりかよ」

「ハッ、古いエルフが……」

「高貴なるエルフ様ってか? アホらしい……」

「あぁ、下界の住人のくせに!」

 【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いは、片頬を上げて、

「……【テーバロンテの償い】の下衆どもと等しく死んでもらおうか」

 そう発言。周囲の漆黒色のローブを着た者たちは、

「……下界の殺し屋&掃除屋が……お高くたまりやがって」

「……何が滅する者だよ。わらえる」

「あぁ、魔界セブドラの神々が祝福する下界にゲスもヘチマもねぇだろう!」


 【白鯨の血長耳】の鉄鎖使いエキュサルは、

 

「下衆はゲスだ……」

「……お前の魂も先ほどの女と同様に、俺たちの糧にしてやろうか……」

「だいたい、お前たちも俺たちと同じ闇ギルドだろうが」

「闇ギルドに関して否定はしない。が、今のように女や子供を己の欲望のために殺したりはしない。【白鯨の血長耳】は邪教ではない」

「……ハッ、正義面か。しかし、魔素の気配からして、ここにはお前を含めた手勢は五十にも満たないはず……だとしたら、さすがに下界と地下街アンダーシティを舐めすぎだ」

「ここではその多少の強さは命取りだぜぇ」

「……その通り、ここには、この下界兵長一人だけだ!」

「おうよ、やっちまえ、しねや!!」


 エキュサルは肉の盾を前に出しつつ駆けた。

 と、肉の盾を不自然に越えた血濡れた短剣が、エキュサルの両耳に向かう。エキュサルは、

「<速法・エイシュ>――」とスキルを発動させて、血濡れた短剣を辛うじて避けた。が、「くっ」と、エキュサルの首筋と肩から血飛沫が迸る。エキュサルは怒気を発したような面を浮かべつつ全身から金色と銀色の魔力を発生させた。首筋の傷から出ていた血は不自然に止まる。

 

 同時に金髪が持ち上がり、歪な耳と傷だらけの首を露見させた。


「エルフではないのか!?」

「耳がない?」

 

 そう、エキュサルの長耳はエルフらしい長耳ではない。

 過去の戦争の影響と殺し屋サーベイ・カー、サーマリア王家、ローデリア王家、十二大海賊団との因縁の結果故だ。


 エキュサルは、


「今の短剣術は<血地獄剣>系統の流派の一つだな?」

「だからなんだ、耳なしエルフが! お前らは十層地獄の王トトグディウス様に刃向かったのと同じ。今日で終わりだ!」

「ふっ、何が十層地獄だ。ここはセラ。邪教が信奉する神々の力など限定されている――」

 エキュサルはそう喋ると、肉の盾を捨て、側転機動から斜め横に前進。


「<鉄鎖精霊サーキュラス>――」


 とスキルを発動した。刹那、両腕から放たれた鉄鎖は、空間を断絶する勢いで縦横無尽に動く。

 鉄鎖から墨の魔力が瞬く間に展開された。

 それは水墨画の女性と異世界の幻影となると、数十の銀と黄緑色の軌跡が室内に誕生。

 すると、【血印の使徒】たちの体が網目状に細断された。

 エキュサルは、左右の腕と鉄鎖に水墨画の幻影を吸収させながら両腕に鉄鎖を戻しつつ、壁を蹴って跳び、前転から室内の床に着地。

 

 同時に、机と壁際の飾りがバラバラに切断されて散乱した。


 そのエキュサルの歪な両耳と片腕から血が流れる。

 が、歪な両耳を隠すイヤーカフが血を吸い取り、古い軍服の釦と、衣装の一部も血を吸収。

 血を吸収した古い軍服は衣装の綻びが消える。

 更に、鉄鎖が絡むアクセサリーが装着され直した。

 

 その軍服を着ているエキュサルは、体に銀色と金色の魔力を薄く纏うと、部屋の右端から階段へ向かい、ルアルの血魔塔の最上階へ上がり始めた。



 ◇◆◇◆



「あ、シュウヤたち!」


 大きな障壁を蒼炎弾で破壊したレベッカが俺たちに気付く。


「よう」


 とレベッカに遠くから挨拶。

 大きな障壁があった奥、ルアルの血魔塔の近くから火球と雷球が飛来。

 更に、火矢も多数飛来してきた。


 わらわらと暗がりから漆黒色のローブを着た連中と<血魔力>を扱う連中が出現してきた。


 数は百を超えるか?


「シュウヤ、敵の魔術師はわたしが倒すから」

「了解――」


 そう返事をしながら――。

 飛来してくる数本の火矢を白蛇竜小神ゲン様の短槍で連続的に叩き落とす。


 火矢を寄越した射手に向けて左手首の<鎖の因子>を差し向けた。

 その<鎖の因子>マークから<鎖>が迸るように伸びた。


 宙を劈く勢いで直進した<鎖>は火矢と雷球を貫きまくる。

 レベッカのフォローを行ってから、狙いを射手に変えた<鎖>が、射手の頭部をぶち抜いた。

 

 続けて<鎖>を操作――。

 <鎖>の先端が、他の射手たちの頭部を貫く。 

 その伸びきった<鎖>を素早く消した。


 レベッカは、


「――ありがとう! ユイはわたしの右後方でレレイさんの部隊と共に戦っているから」

「分かった――」


 そう返事をしつつ、再び、左手首を左側の敵集団に向けた。

 

 <鎖>――。

 更に《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》――。

 《氷弾フリーズブレット》――。


 を連続的に放つ。


 その<鎖>と《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》と《氷弾フリーズブレット》が射手と短剣使いと魔剣師の漆黒のローブを着た者たちの体を貫きまくる。


 が、避けながら近付いてくる強者の魔剣師もいる。


「槍使い、あの魔剣師はわたしがもらうぞ」

「おう」


 俺の魔法を避けた敵の魔剣師に向けてレザライサが突進――。

 魔剣ルギヌンフの袈裟懸けで魔剣師を屠る。


 レザライサは振り向きながら魔剣ルギヌンフの切っ先を左側へ差し向けた。


「――槍使い。このまま鉄鎖エキュサルとレレイの部隊と共に【血印の使徒】と【テーバロンテの償い】の連中を倒し、ルアルの血魔塔を占拠するぞ」

「了解」

「総長、先に行きますヨ~」


 クリドススも左前に出た。


「分かった」


 レザライサは魔剣ルギヌンフで地面を突く。

 そして、耳に指を当て、


「ファス、お前たちも降りてこい。そうだ、構わない」


 そう指示を飛ばす。


 ソリアードも、


「お前たち、右の【血印の使徒】を先に殲滅するのだ――」

 

 そう指示を飛ばしながら漆黒のローブを着た者の体を射貫く。

 と、跳躍、壁柱に両足を付けると、その壁柱を駆け上がり、跳ぶ。


 宙空から番えた魔矢を連続的に射出――。

 敵の射手たちの頭部を次々に射貫く。

 ――魔弓ソリアードは凄まじい射手だ。

 

 と、飛翔しているレベッカが見えた。

 蒼炎の翼を宙に作るように、蒼炎弾を連続的に周囲に放ちながら宙空を飛翔。

 己に近付く火球と雷球を、その蒼炎弾で潰していく。

 

 その可憐なレベッカは細い腕を正面に伸ばし身を捻る。

 刹那、巨大な蒼炎の矢を、背後に生成。


 そのまま横回転を行った。 

 レベッカの顔が向く方角に巨大な蒼炎の鏃も向く。


「「おぉ~、蒼炎の翼と矢だ!」」

「すげぇ、あれが【天凛の月】の蒼炎……」

「「ひぇぇ」」


 【白鯨の血長耳】の兵士たちから歓声が響く。

 【血印の使徒】の兵士たちからは悲鳴が響いた。


 レベッカは、


「――見つけた、怪しい<血魔力>、そこ!」


 そう言いながら、レベッカは背後の巨大な蒼炎の矢を――。

 火球と雷球を放ってきた存在に放った。


 火球と雷球を放った漆黒のローブを着た者は反応。

 <血魔力>を体から発して、紋章魔法陣を眼前に生み出した。

 そこから<血魔力>を纏う岩の障壁を出現させる。


 巨大な蒼炎の矢と<血魔力>を纏う岩の障壁が衝突。

 巨大な蒼炎の矢は、いとも簡単に岩の障壁を貫き、背後の紋章魔法陣と漆黒のローブを着た者の体を貫いて、地面と衝突。地面を炸裂させた後、消えた。


 貫かれた漆黒のローブを着た者の体は青白い炎を発して消える。


「「おぉ~」」


 【白鯨の血長耳】の兵士たちがまた歓声をあげる。

 レレイさんが、


「【天凛の月】の蒼炎のお陰で守衛の要が消えましたよ! このままルアルの血魔塔の出入り口と裏口を押さえなさい――」


 【白鯨の血長耳】の兵士たちに指示を飛ばす。


「「「はい!」」


 指示を受けた【白鯨の血長耳】の兵士たちは、次々と漆黒色のローブを着た者を斬り伏せて、魔塔の出入り口と裏口に向かう。


 レザライサとクリドススも前に出た。


 クリドススは魔双剣レッパゴルを振るい魔剣師の首を刎ねる。


 レザライサは突き出した魔剣ルギヌンフで、大柄の斧使いの片足を貫くと、太股に刺した魔剣ルギヌンフを豪快に振り上げる。そのまま大柄の斧使いの半身をぶった切った。

 

 俺も標的を絞りながら前に出た。

 <血魔力>を体から発した漆黒色のローブを着た槍使いを発見。


 あの槍使いは中々の強者のはず。

 <闘気玄装>を強めた。己の速度と様々な強度を上昇させる。

 槍使いは、予想通り、体から凄まじい魔力を放出させた。

 

 <血魔力>で生成したであろう血槍を複数作ると、


「新手だ――」


 そう発言して前進しながら血槍を寄越してきた。

 その血槍を白蛇竜小神ゲン様の短槍で斬りながら――前進。

 その漆黒色のローブを着た槍使いとの間合いを詰める。

 槍圏内に入った一弾指――。

 <仙魔・桂馬歩法>を実行――。

 横、右斜め前、左斜め前、真下に転移するように移動を繰り返した。

 相手の槍使いは、


「な! <血斬槍武衝>――」


 突きと薙ぎ払いの連続スキルを放ってきた。

 その<血斬槍武衝>の突きと払いの攻撃を避けながら――。

 <黒呪強瞑>と<戦神グンダルンの昂揚>を発動。

 

 一段、二段と加速――。

 余裕の間で、<血斬槍武衝>を避けまくる。

 

 すると、槍使いの双眸の瞳が散大。

 恐怖によって脳内のアドレナリンが放出された故だろう。


 その槍使い目掛けて、白蛇竜小神ゲン様の短槍を突き出す。

 <白蛇竜異穿>を繰り出した。

 白蛇竜小神ゲン様の短槍から無数の白蛇竜の魂魄を宿した魔刃が飛び出た。

 白蛇竜の魂魄を宿した魔刃が、周囲の血槍を穿つ。

 更に、白蛇竜小神ゲン様の短槍の穂先から白蛇竜の幻影が迸った。

 その白蛇竜小神ゲン様の短槍が、槍使いの魔槍を弾きながら胸元を貫いた。


「ぐあぁ」


 続けて、無数の白蛇竜の魂魄を宿した魔刃が、


「うぁぁ」

「げぇ――」


 と、その槍使いの背後にいた漆黒色のローブを着た者たちの体を貫く。

 数人の漆黒色のローブを着た者を倒した。

 が、まだ魔素は多い。右側に向け半身の姿勢を維持。

 そして、右足を引いて――。

 白蛇竜小神ゲン様の短槍を引きながら爪先半回転を行う。

 

「――怯むな、掛かれ!!」


 左右から迫った魔剣師は袈裟斬りを繰り出した。

 その魔剣の機動を読みながら――<龍豪閃>を返す――。


 白蛇竜小神ゲン様の短槍の杭刃が宙に龍を描く<龍豪閃>が――。

 左と右から迫った魔剣師の頭部を捉え、それを両断した。


 その勢いのまま、白蛇竜小神ゲン様の短槍を持つ右腕を下に動かした。

 白蛇竜小神ゲン様の短槍の穂先で床を刺す――。

 その白蛇竜小神ゲン様に体重を預けるように、短槍の柄を持つ右腕で体を支える。

 と、側転を行う。右から飛来した三本の火矢を避けた。


 その火矢を寄越した射手に向け――。

 側転の回転力を乗せて白蛇竜小神ゲン様の短槍をぶん投げる。


 <投擲>――。

 宙を劈く勢いで飛翔した白蛇竜小神ゲン様の短槍が――。


 二人の射手の腹と建物の壁をぶち抜いた。


 壁を貫いて突き進む白蛇竜小神ゲン様の短槍を感覚で捉える。

 と同時に<超能力精神サイキックマインド>を行う。


 一瞬で、手元に白蛇竜小神ゲン様の短槍を引き戻した。


 すると、クリドススが口笛を吹く。


「――【血印の使徒】の強者をあっさりと倒した槍使いはやはり強いですネ! あ、総長、ワタシもルアルの血魔塔に乗り込みますか?」

「――否、血魔塔はエキュサルとレレイたちに任せろ。周囲の地下道も塞いでいる以上、ルアルの血魔塔の内部にいる【血印の使徒】も外に出るしかないだろう」

「――はい」


 クリドススとレザライサは一人二人と漆黒のローブを着た者を倒す。

 そのまま魔双剣レッパゴルと魔剣ルギヌンフを振り抜いた二人は――。

 

 息の合った動きで三人の漆黒のローブを着た者を屠る。

 レザライサは俺と視線を合わせつつ、


「――この漆黒のローブを着た兵には【血印の使徒】以外にも【ライランの縁】と【テーバロンテの償い】の魔術師たちに強者がいる――」


 そう発言。

 クリドススは答えず魔双剣を振るい――。

 跳びながら近付いてきた魔剣師の体を縦に真っ二つ。

 

 代わりに、ソリアードが、


「――魔矢の質からして弓兵には【闇の教団ハデス】や【セブドラ信仰】などが多い印象です――」


 そう答えながら魔弓から魔矢を放つ。

 左の暗闇から急に現れた【血印の使徒】の漆黒のローブを着た者の頭部と体を射貫いて、二人を倒す。

 

 そのソリアードの背後から、浮遊岩から降りてきたファスが、


「――報告にあったライカンの武闘派は、まだこの場にはいないようね――」


 ファスは、レザライサとソリアードとクリドススの前に出ながら――。

 左手から朱色のレーザー光線を縦横の方向に迸らせた。


 ソリアードは、その<閃光>を見ず、レザライサに近寄ろうとしていた【血印の使徒】の魔剣師の体を射貫くと、


「そのようで、合流はまだのようです――」


 と発言。

 ファスは再び、


「ルアルの血魔塔から出てくる数は中々多いけど――<閃光>」


 <閃光>の朱色のレーザー光線を放つ。

 <閃光>を胴体に浴びた漆黒のローブを着た者たちの体は一瞬で両断される。

 

 体が両断されたことに気付かずに死んでいる。

 凄い攻撃だ。

 が、ファスの強烈な<閃光>の後も、漆黒のローブを着た者は、ルアルの血魔塔から次々と出現してくる。


 レベッカたちに近付いた。

 レベッカは蒼炎を纏うジャハールで漆黒のローブを着た者の胸を貫き倒す。蒼炎を細い体に纏うレベッカは可憐だ。


「――ここには【テーバロンテの償い】以外の邪教も多いようね」

「あぁ――」


 そのレベッカの背後を駆け抜けながら――。

 漆黒色のローブを着た者に近付いた。

 素早く白蛇竜小神ゲン様の短槍で<刺突>を繰り出す。


 白蛇竜小神ゲン様の短槍で漆黒のローブを着た者の胸を穿つ。その白蛇竜小神ゲン様の短槍を振るい、死体を飛ばしてから、振り返る。


 レベッカの後ろ姿を追う。

 ――夜で暗い。

 が、レベッカが体に纏う蒼炎のお陰で直ぐに分かる。


 【天凛の月】の衣装とムントミーの衣服がお洒落だ。

 そのレベッカは足を止めながら魔杖グーフォンを使用。


 左側に炎の柱を造った。

 炎の柱で【白鯨の血長耳】の兵士たちを無数の射手の攻撃から守る。


 そのレベッカに近付く漆黒のローブを着た魔剣師集団が見えた。

 俺が対処するかと思ったが、その漆黒のローブを着た者たちは次々と闇に溶けるように倒れていく。

 

 その者たちを斬りながら前進してくる者はユイ。

 口に魔刀を咥えているユイだ――。

 口に咥えた魔刀は、魔刀アゼロスか。


 左手にヴァサージ、右手に神鬼・霊風の三刀流。


 黒髪は<血魔力>の影響で僅かに血色に輝いている。

 双眸から漏れた白銀色の魔力が、その黒髪に掛かって見えて美しかった。


 左手のヴァサージで漆黒色のローブを着た魔剣士を突いて倒す。


 と、敵の集団に突っ込むように肩を畳ませ神鬼・霊風で袈裟斬りを繰り出した。


 魔剣士を斬り伏せてから二剣流の魔剣師と相対した。


 二剣流の魔剣師は強者。


「シュウヤ、こいつはわたしが倒す!」

「了解」


 ユイは迅速に魔刀を突き出す。

 二剣流の魔剣師は引きつつ魔剣を振るい、ユイの魔刀の突きを防ぐ。


 ユイは前進。

 三刀流で押し込んでいくが、それを防ぐ二剣流の魔剣師は強者だ。


 ソリアードが、


「死の女神と打ち合う強者! あいつは【血印の使徒】の幹部バザタルです」


 そう教えてくれた。

 二剣流の魔剣師バザタルはシックルのような魔刃を周囲に生み出す。

 

 ユイは神鬼・霊風に魔力を通し、一閃。


 神鬼・霊風の刀身から出た風の刃でシックルの魔刃がすべて破壊された。

 更に神鬼・霊風の風の刃は二剣流の魔剣師の体中に傷を作る。


「ぐあぁ」


 二剣流の魔剣師は怯む。

 と、ユイは右側に出るフェイクから左へ側転を行う。

 同時に魔刀アゼロスを振るう。

 その斬り払いは防がれたがユイは地面を蹴って加速――。


 ユイは体の節々から黒い魔力と<血魔力>を発した。

 

 そして、三連続の迅速な突きスキルを繰り出す。

 

 二剣流の魔剣師は、反応。

 二剣で初撃の防御に成功――。

 が、二つの魔剣は上下に弾かれた。


 腹が空く。


 刹那、ユイの紫電を思わせる神鬼・霊風の切っ先と魔刀アゼロスの切っ先が二剣流の魔剣師の胸と腹に突き刺さった。

 二剣流の魔剣師は絶句、そのまま前のめりに倒れた。


 <ベイカラの瞳>を発動しているユイは前傾姿勢で前進を続ける。


 先ほどの突き技は<黒呪強瞑>の<黒呪仙剣突>が発展した剣技か?

 <血道第二・開門>かは分からない。


「死の女神の剣技、噂以上ですネ」

「あぁ、実に見事な剣術だ。軍曹並みか」

「はい。【天凛の月】の最高幹部は皆強い……」


 クリドススとレザライサがそうユイを評した。

 ユイは神鬼・霊風で二人の魔剣師を斬り伏せると、走り寄ってくる。


 レベッカと【白鯨の血長耳】のレレイさんもそれぞれ相対していた敵を倒し、近付いてきた。


「シュウヤ!」

「総長!」

「シュウヤ、相手は【血印の使徒】!」

「そうらしいな」

「うん。魔塔を囲う大きな障壁を壊したら、守衛と漆黒色のローブを着た者たちがいっぱい現れたの。その相手を皆で倒していたところ」

「魔塔の名は、ルアルの血魔塔って名前らしい」


 レベッカとユイがそう発言。

 俺は頷いて、


「おう、聞いている」

「ンン――」


 俺と相棒は走るようにユイとレベッカに近付いた。

 レベッカは、


「ロロちゃん~」


 と抱き上げて、黒猫ロロの頭部にキスを浴びせまくる。

 黒猫ロロは、「にゃ~」と嬉しそうな声を発しながら体を預けていた。

 黒猫ロロも会いたかったようだな。

 その黒猫ロロを優しく地面に降ろしたレベッカは俺を見て――。

 細い右腕をあげてくる。


「シュウヤ、フクロラウドのことは気になるけど、まずはおかえり――」


 あぁ、と頷いてから、レベッカとハイタッチ。


「――ただいま」


 と言うと、レベッカは俺の手を握る。恋人握りだ。

 レベッカは細い腕に似合わない力強い動きで俺の腕を胸に当ててきた。


『もう離さない』


 と言わんばかりの行動だ。

 分かった分かったと笑顔を送りながらハグを行う。

「シュウヤ……」


 レベッカは微かな声を発した。そのレベッカの手を離してユイと、


「おかえり~」


 とハイタッチ。


「ただいまだ」


 すると、レベッカが抱きついてきた。

 脇腹の匂いを嗅ぐように頭部を寄せてくる。

 暫し、好きなようにさせた。


 ユイはそんなレベッカの行動を微笑ましく見ながら、


「サセルエル夏終闘技祭の優勝おめでとう」

「おう」

「〝輝けるサセルエル〟の短剣を巡る戦いが事前にあるとは思わなかったわ。決勝もバトルロイヤルとか驚き。相手は強者ばかりだったと思うし、未知の技で体に傷が残っていたりしない?」


 ユイはそう言いながら体を寄せて、俺の体を優しく調べてくれた。

 大丈夫だと言うように、ユイの手を握る。

 そのまま、ユイの頬にキス。そして、


「強者ばかりの戦いだったが、皆の応援もあって勝てたさ。ユイも心配してくれてありがとう」


 頬を朱色に染めたユイは微かに頷く。

 レベッカは少しムッとしながらも、


「激戦だったと血文字で聞いて心配していたんだから! 傍で応援したかった! で、怪しいフクロラウド・サセルエルと会話をしたの?」


 と聞いてきた。そのレベッカの嫉妬顔が妙に可愛い。


「した。そのフクロラウド・サセルエルから仲間にならないか誘われたが断った。そして、フクロラウド・サセルエルが持つ組織と敵対しないという約束を取り付けてきた」

「【天凜の月】は、フクロラウド大商会と不可侵協定?」

「そうなる」


 レザライサも、


「それは【白鯨の血長耳】も同じだ」

「はい。だからこそわたしたちは下界の港街と【血銀昆虫の街】に、地下街アンダーシティの掃除に取りかかれるのです」


 そう発言したのはクリドスス。

 そのクリドススは、レレイさんに耳打ち。

 そのレレイさんからクリドススは報告を聞いていく。

 ユイとレベッカは、


「レザライサさん、おひさ。クリドススとソリアードさんも、こんばんは」

「こんばんは、レザライサさんと皆さん」

「あぁ、色々と聞いているぞ。〝死の女神〟と〝蒼炎〟、【白鯨の血長耳】が世話になった、礼を言おう――」


 レザライサは礼儀正しく頭を下げていた。


 すると、その場にいる【白鯨の血長耳】の皆もザッと音を立ててユイとレベッカに頭を下げていた。


 クリドススとソリアードも当然軍隊式の礼をしている。

 ユイとレベッカは驚いて、


「「ちょっ」」

「あ、皆さんに、レレイさんまで、頭を上げてよ~」


 レレイさんはレベッカに腕を引っ張られて頭部を上げさせられていた。


 レレイさんとユイとレベッカは普段の仲の良さが分かる。


 が、そのレレイさんは、緊張を覚えた顔を見せる。

 総長のレザライサをチラッと見た。


 レザライサは『構わない』という意味を込めた微笑を浮かべている。


 レレイさんは直ぐに安心したような表情を浮かべてからレベッカとユイを見て、


「――ふふ、エセルハードの件といい感謝しているんですから、たまには正式に頭をさげないとですね」


 と発言。

 ユイとレベッカは微笑み、


「レザライサさんがいるから分かるけど、水くさい!」

「ま、威厳のある総長がいる手前だから仕方ないか」

「はは……」


 レレイさんは微かに頷くと、背筋を伸ばしつつ後退。

 レザライサに敬礼を送る。


 レザライサは、


「ふ、レレイ、そう気構えるな。ここは戦場、もっと自由にしてくれていい」

「はい」

「そうですよ~。あ、ルアルの血魔塔から火の手が……」

「にゃ~」


 足下にいた相棒もユイとレベッカに頭部を寄せてから、俺の肩の上に戻ってくる。

 相棒と一緒にルアルの血魔塔を見上げた。

 すると、最上階から飛び下りてきた大柄なエルフが前方に着地。

 

 地面は陥没していないが、そんな印象を抱くほど豪快な着地だった。

 両腕には鉄鎖が絡んでいる。


 そして、衣装は【白鯨の血長耳】の軍服だと思うが、ちょいと異なるようだ。

 鎖帷子と鎧の部分もある。


『閣下の<鎖>と似た能力を持つ能力者でしょうか』

『あぁ、銀色と金色の魔力に、墨色のような魔力も内包している鉄鎖か、<鎖の因子>のようなマークはないように見えるが……』

『はい、鉄鎖には何かが宿っているようです』


 俺には分からないが、常闇の水精霊ヘルメはそう分析。

 レザライサは、


「エキュサルか」

「【血印の使徒】の幹部たちを屠ったようですね」

「あぁ。では前進しようか」


 クリドススとレザライサは頷き合い、俺を見ながらそう語る。

 頷きつつ、ユイに向け、


「クレインたちから連絡は?」

「あ、うん。ルアルの血魔塔の右上にある【ミシカルファクトリー】の建物から上がってくるって」

「了解、レザライサたち、エキュサルさんと合流して、右に行こうか」

「分かった」


 

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