九百八十一話 【血銀昆虫の街】を駆ける俺たち

 エキュサルさんとその隊はレザライサの前に整列し、敬礼を行う。

 レザライサは、


「エキュサル、ご苦労だった。お前の隊は合流してもらう」

「「「はい」」」


 エキュサルさんの隊は強そうだ。

 レザライサはレレイさんを見て、


「レレイ、お前の隊はルアルの血魔塔の周囲を確保した後、他の下界兵長の隊と各小隊と連携しつつ地下道を巡り、地上も含めて【血印の使徒】、【闇の教団ハデス】、【テーバロンテの償い】などの連中を追い、見つけ次第始末しろ」

「「「はい」」」

「聞いたな? 皆、行くぞ――」


 気合い溢れるレレイさんの声は可愛いが格好良い。


「「ハッ」」

「にゃご!」


 レレイさんとレレイさんの隊は移動を開始した。

 レレイ隊の一部はルアルの血魔塔の周囲に散っていく。


「相棒は付いていかんでいい」

「ンン」


 黒猫ロロは俺の足下に戻ってきた。

 ユイとレベッカは、レレイさんに笑顔を向け、


「レレイさん、またね~」

「はい!」


 レレイ隊の一部は、上界と下界の魔塔の先端同士が重なって途中で融合している魔塔の中に入る。

 魔塔は不思議な形が多い。

 重層的で多層的。

 三十三の魔方陣が有名なサグラダ・ファミリアと似た魔塔もある。


 プレートに刻まれた異世界文字は読めないが、魔方陣には『数独』パズルのような意味がある?


 レレイさんは一部の隊を連れてマンホールのような縦穴から地下に降りた。


 ルアルの血魔塔は焼け落ちていた。


「では、先に――」


 クリドススが血長耳の兵士たちを連れ右側へ進む。

 俺たち【天凜の月】のメンバーも続いた。


 クリドススの背後にファスとレザライサとエキュサルさんがいる。

 進みながらレザライサが、


「――槍使い、ライカンの武闘派の一部が此方側に向かっていると情報にあったが、多方面からの一斉攻撃を受けた影響で、ライカンたちはバルミュグがいるだろう魔塔に引き返した可能性がある」

「ンン、にゃ」


 皆、頷いた。


「――了解した。そして、レザライサたちの誘導に付いていくのは楽は楽だが、一応聞いておく。バルミュグの根城はどこにあるんだ?」

「ンン」


 相棒の喉声と同時にレザライサは止まる。

 先を行っていたクリドススたちも止まった。

 レザライサは、魔剣ルギヌンフを振るい右に切っ先を向ける。

 通りの右側には路地に向かう道が幾つかあった。


「――バルミュグの根城の魔塔は東。港街と倉庫街の重なる場所で、船渠と一体化した地下に通じる魔塔だ」


 頷きつつ、


「【血銀昆虫の街】は倉庫街、港街、武術街、宗教街とも重なる地域だったな」


 レザライサは頷きつつ魔剣ルギヌンフを肩に置くと、


「その東側には、諸外国の息の掛かった組織の縄張りも多い。それらの組織が我らに近付いてくるかもしれないが、無視して進むぞ」

「了解、レフテン王国、オセべリア王国、サーマリア王国か。それらのスパイ組織は中立を利用して上院下院のクソな評議員と繋がっているんだろう?」

「……あぁ、三カ国の貴族と通じている。が、それ以外の国や大商会の調査研究機関や宗教街と通じた邪教を含めた様々な宗教組織も多い」

「へぇ」

「ここは三角州のセナアプア、国ではないからな。愛国者という響きの下、どれほどの工作員がここで散っていったことか。軍産複合体も魔薬利権も結局は、巨大な聖魔中央銀行の歯車でしかない。【グレート・ファイブ】や三百人委員会などの支配構造は広大で複雑すぎる……では、行こうか」


 そう語るレザライサは片方の眉を下げていた。

 真剣な眼は、歴史を感じさせた。


 上院下院の評議員と各国の工作員の綱引きか。 

 当然だが、ベファリッツ大帝国の古貴族同士の内戦から現在まで生き続けてきたレザライサたちだ、相当な経験があると分かる。


 それは指摘せず、


「おう」

「ンン」


 そう返事をすると、レザライサは速度を速めた。

 相棒はそのレザライサの先を走ったが、直ぐに速度を落とした。

 クリドススとファスとソリアードとエキュサルさんと【白鯨の血長耳】の隊も歩みを速める。皆もそれに付いていく。

 ユイとレベッカは俺の手を巡って可愛い争いを起こしたが、気にせず走った。

 すると、先を行くクリドススが、


「――直に銀火蝶通りに入ります。ライカンの武闘派が現れてもおかしくないので気を付けてください」

「了解」

「【血銀獣鬼】のバッパも絡んでくるかもしれません」


 魔弓ソリアードがそう発言。


「ライカンたち。凶暴になる四十五日は過ぎているけど、気性は激しいからね」

「うん、他にもカットマギー目当てに狂言教の連中も襲ってくるかも?」

「襲ってきたら、俺が対処しよう」

「任せた」

「シュウヤがいるから楽できる~」

「ロロちゃんもね!」

「にゃ」


 ユイとレベッカはそう気楽に語るが、【白鯨の血長耳】の兵士たちは顔色を変えない。

 レザライサたちも当然、厳しい表情のままだった。

 そのレザライサとアイコンタクトしてから頷き合うと、【血銀昆虫の街】の通りを進む。


 同時に血文字で皆に連絡を行った。


 マンホールのような縦穴はここにもある。

 あ、黒猫ロロが穴を覗いている。


「ロロ、落ちるなよ」

「にゃ」


 熱湯風呂の縁に乗って押すなよコントのノリを行いたくなったが、しない。


 そして、倉庫は荷物の保管場所ではなく、地下への出入り口となっているものが多かった。


 レザライサとクリドススはユイとレベッカと話をしつつ若い兵士たちを地下へ突入させていく。また一緒に穴に入ろうとしていた黒猫ロロだったが、「にゃぁ」レベッカに尻尾を握られて、止まってくれた。


 クレインたちがいる地下道とはまだ距離があるようだ。


 冷たい空気を感じながら暗い通りを幾つか過ぎる。

 すると、倉庫に偽装された地下への出入り口やマンホールのような穴から漆黒色のローブを着た者たちが現れ始めた。


「血長耳と天凛の月の連中だ!」

「――掛かれェ」


 さて、


「皆、悪いが前方の新手は俺がもらう――」

「ンンン」


 駆けながら右手の武器を魔槍杖バルドークに変えた。

 相棒は皆の近くの位置のまま、俺には付いてこない。


 掌握察で皆と敵の魔素を把握しながら――。


 <黒呪強瞑>と<魔闘術の仙極>を発動――。

 そのまま体に纏う魔力を魔槍杖バルドークに送りながら、無数の火球と投げ斧を避けていく。


 同時に敵集団との間合いを測る。

 魔槍杖バルドークを寝かせた。

 重心を下げ、腰溜めモーションを取った直後――。

 大腰筋と体幹に溜めた魔力を全身に巡らせながらの左足の迅速な踏み込みで右手が握る魔槍杖バルドークを振り抜く――。


 <魔狂吼閃>を繰り出した――。


 ゴォォォ――と、風が魔槍杖バルドークから発生。

 更に魔竜王の咆哮が魔槍杖バルドークから響いた。


 ※魔狂吼閃※

 ※魔竜王槍流技術系統:上位薙ぎ払い系亜種※

 ※<魔槍技>に分類、魔槍杖バルドーク専用<吼閃>系に連なるスキル※


 魔槍杖バルドークから小型の紋章魔法陣が出現。

 飛来が続く火球を吸い込む魔槍杖バルドークは――。

 それらの小型の紋章魔法陣を従えるように柄の周囲に陣を形成した。

 刹那――嵐雲や漏斗雲にも似た紅色の穂先から魔竜王バルドークの頭部を模った魔力が咆哮を発しながら出現し、前進――。


 続けて、

 邪獣セギログンを模った魔力の幻影が出現し、前進――。

 更に、

 邪神シテアトップの魔力の幻影も出現し、前進――。


 その魔竜王バルドークの頭部と、邪獣セギログンと、邪神シテアトップの戯画的な魔力の幻影は、互いを喰らいながら前進――。


 他にも魑魅魍魎の魔力の幻影が魔槍杖バルドークのすべての箇所から出現――。

 その魑魅魍魎は互いを喰らい、混じり、螺旋状に絡み合う。

 と、更なる未知のクリーチャーへと変貌を遂げながら敵集団に向かった。


 その<魔狂吼閃>の一閃を最初に浴びた魔剣師は何事も無く走り寄ってきた。


 が、寄り目になりながら、


「うひゃひゃひゃ、たまごぉぉぉ~」


 と謎の奇声、断末魔のセリフを発して爆発炎上し散った。

 未知との遭遇と呼べるか分からないが、強烈な<魔狂吼閃>はゼロコンマ数秒も掛からず漆黒色のローブを着た敵集団を一閃に処した。


 漆黒色のローブを身に着けている全員の体が真横に両断される。

 <魔狂吼閃>の魑魅魍魎の未知な幻想怪物たちは一部が虚空に消えるが、大半が、魔槍杖バルドークの中に吸い込まれるように消えた。


 ホラ貝のような勝ち鬨の重低音が魔槍杖バルドークから響いた。

 空飛ぶスパゲッティ的な大怪物が、膨大な魔力のゲップを吐いたように感じた。


「「「おぉぉ」」」


 振り返った。

 黒猫ロロはドヤ顔だ。


「にゃごぉ」

「槍使い……今のは、敵から『たまご』という言葉を生み出す……謎の<魔槍技>か……」

「決勝の舞台では見なかった……」


 レザライサがマジ顔で『たまご』と語るのが面白い。

 クリドススも真剣な表情だから、笑ってしまった。

 ソリアードも真面目に、


「凄まじい……五十人ほどの敵集団が一瞬で……背後の建物の上部も消えている……」

「……あぁ」

「ファスの<閃光>のような大技でもある?」


 ファスは俺をジッと見て、


「……どうだろう。スキルの性質は同系統だと思うけど、ドラゴンの頭部が敵集団を喰らったようにも見えたわよ? ま、強烈な一閃ね……天凛堂の時よりも強くなっていると分かるし、ラドフォード帝国の連中との戦いに槍使いがいればと、総長が話をしていた理由がよく分かるわ」


 レザライサは頷きつつ、耳に指を当て、


「……シャカの部隊も下界に展開しろ。そうだ。あぁ、〝コンスタンティン〟と共に【百森眼衆】がいるなら好都合。そいつらもコンスタンティン小隊と共に下界へ誘導しろ」


 と、【白鯨の血長耳】の各小隊に指示を飛ばす。

 最高幹部の一人の集魔シャカさんか。

 

 エセルハードの戦いを思い出す。


「ふふ、シュウヤの魔槍杖バルドーク専用技!」

「強力だけど、味方への影響を考えてあまり使わないわよね」 

「あぁ、威力が威力なだけにな。さぁ、行こうか」

「「おう」」

「「うん!」」

「はい」

「行きましょう」

「ふ、頼もしい男だ。行こうか槍使い!」


 笑顔で頷く。


「「「お~」」」


 【白鯨の血長耳】の総長レザライサの言葉を聞いた全員が納得しているような掛け声が響く。


 クリドススが先頭に立つと、


「シュウヤさんたち、右側の道をこのまま進みます――」

「了解」


 クリドススの背中を見ながら――。

 【血銀昆虫の街】を進んでいく。

 途中現れてくる漆黒色のローブを着た者たちは、クリドススが大半を仕留めてくれた。


 が、十字路や路地から【テーバロンテの償い】と【闇の教団ハデス】の闇色のマントを羽織る連中が次々と乱入してきた。


 さすがのクリドススも手に負えなくなる。


 そのクリドススは左側に素早く移動しながら魔双剣レッパゴルを振るい魔剣師の体を両断。


 俺はファスとユイと同時に右前に出た。


 槍使いと対峙、その槍使いの魔槍を――。

 右手が持つ魔槍杖バルドークで受けながら――。

 左手に出現させた神槍ガンジスで<光穿>を繰り出した。

 槍使いの胴体をぶち抜いて倒した。


 ユイは右側で槍使いを斬り伏せる。

 そのユイの行動を見ながら前進――。


 周囲に味方がいないことを確認してから――。


 両手の武器を消す。そして、闇色のマントを羽織る魔剣師連中に向け――。

 《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を放った。

 《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》を喰らった魔剣師たちは一瞬で体がバラバラになる。


 構わず前傾姿勢で前進。


 再び右手に魔槍杖バルドークを召喚し――。

 【テーバロンテの償い】の魔剣師に向け――。

 前転からの踵落としを喰らわせてから縦に振り抜いた魔槍杖バルドークの<豪閃>で体を両断。


 更に、新手の上半身の刺青が目立つ魔剣を持つ者たちに近付く。

 その刺青魔剣師たちの先頭にいた刺青魔剣師の斬撃を避けながら――。


 素早く左手に召喚した神槍ガンジスで――。

 <星槍・無天双極>を繰り出した。


 <刺突>中の神槍ガンジスの真上に銀色に輝く十文字槍が出現。


 十文字槍は凄まじい勢いで螺旋回転しながら直進。

 神槍ガンジスの穂先を越えた輝く十文字槍は、刺青魔剣師の魔剣を弾きながら、その刺青魔剣師の体を貫いた。


 十文字槍から魔力の花弁が拡がる。

 と、巨大な花曼荼羅のような魔刃が周囲に展開され、その魔刃が刺青魔剣師たちを斬り刻む。


 そうして、皆で敵に対処しながら【血銀昆虫の街】を進むと――。

 赤茶色の雨が降ってきた。


 様々な虫の造形が施された看板を持つ店が多くなる。

 同時に虫を扱う魔術師の敵が増えてきた。


 そいつらが、


「これ以上、【白鯨の血長耳】と【天凛の月】の連中の好きなようにさせるな!」

「「おう」」


 巨大ムカデと巨大甲虫に乗った魔術師と相対。


「あのムカデの敵ってエセルハードの時にもいたわね」

「あぁ、蟲使いの連中か」

「右に出るから」

「わたしも――」


 ユイとレベッカが右側を走る。

 レベッカが蒼炎弾を巨大ムカデと魔術師に飛ばす。

 が、ムカデの前に魔法陣が出現すると、その蒼炎弾を弾く。

 その魔法防御の魔法陣を見ながら前進――。


 素早く魔法陣を越えたところで――。

 魔槍杖バルドークと神槍ガンジスで<水雅・魔連穿>を繰り出した。


 魔槍杖バルドークと神槍ガンジスの連続突きでムカデごと魔剣師を屠る。


 ほぼ同時のタイミングで、レザライサ、クリドスス、ソリアード、ファスが巨大甲虫を倒す。


 相棒とも連携しながら大量の虫ごと敵の魔術師を屠り続けた。


 そうして前進。

 巨大浮遊岩を巡る他の組織の戦いに遭遇。

 それらは無視――。

 漆黒のローブを着た者と血色のローブを羽織る者たちを倒しながら前進を続けた。


 無数の敵を屠りながら【血銀昆虫の街】を進む。


 小規模な闘技場も通り過ぎた。

 と、黒い屋根と駱駝色の建物からクレインたちが現れた。


「シュウヤ!」

「「「総長!」」」


 カットマギーにカリィとレンショウも一緒だ。

 元【髪結い床・幽銀門】のメンバーもいる。

 リズが見当たらないが、クレインに向け、


「よう、クレインと皆。地下と地上の施設を巡って【テーバロンテの償い】などの掃討をがんばったようだな」

「あぁ、地下で【テーバロンテの償い】の連中をだいぶ仕留めたさ。が、まだまだ蟲使いなどは多いようだねぇ。それと、リズと【ペニースールの従者】の連中とは、途中で別れたよ」

「報酬もたんまりだよ」


 クレインとカットマギーはそれぞれの回収したであろうアイテムボックスを見せる。


「了解。このままバルミュグ討伐に向かうぞ」


 クレインたちは頷く。

 そのクレインは、レザライサたちを見て、


「当然さ。【白鯨の血長耳】の盟主と皆様方も、よろしく頼む」

「あぁ、こちらこそよろしく頼む」

「「「はい」」」


 クレインたちと合流した俺たちは【血銀昆虫の街】を進む。

 と、前方の路地に複数の魔素を察知。


 先頭部隊を率いていたクリドススが、足を止めた。


「敵が右の路地から現れるよ!」


 クリドススがそう発言、

 その路地から、


「「ウゴァァァ」」


 大柄獣人センシバルか?

 いや、ライカンスロープだな。

 ユイと共に前に出てそのライカンスロープたちを屠り続けた。

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