九百七十九話 下界掃除のチキチキバンバンってねぇ!
◇◆◇◆
薄暗い回廊に赤色と黒色の光が走る。
「な、グアァ」
「グェ――」
二人の黒装束の魔族が胸元を斬られ倒れた。
魔族の死体を踏み潰して前進するカットマギーは、黒装束に身を包む存在を凝視、暗闇に乗じて分身のような魔素を周囲に生み出し、相手を混乱させながら斬る剣術に対して、
「ケケケ、暗がりを利用する剣術頼みなだけ? 先ほどの幻獣使いのほうが歯ごたえがあったなぁ。君たちには、この拾った片手剣だけで十分か――」
と発言。
「舐めやがって、掛かれ!」
「【テーバロンテの償い】の敵!」
黒装束のローブを脱いだ魔剣師と槍使い。
得物の切っ先と穂先を見せるように、カットマギーに向けて前進。
カットマギーは刃の煌めきを見て微笑む。
「遅いよ、ケケケッ――」
前進しながら片手剣を<投擲>。
槍使いの動きを<投擲>した片手剣で止める。
と、地面が爆発したような加速から前傾姿勢で前進したカットマギー。
同時に右手の甲から出た魔剣アガヌリスの柄巻を左手で迅速に引き抜き一閃――。
魔剣アガヌリスは魔剣師と槍使いの魔剣と魔槍ごと、その二つの首を刎ねていた。
凄まじい膂力を生んだ元鬼婦ゲンタールの足から紫電のような魔力が迸る。
首を失っていた魔剣師が周囲に残していた分身のような魔素は、その紫電のような魔力を受けて消し飛んでいた。
二人を倒したカットマギーは、隅の魔素の反応を見逃さない。
「そこで黙って見ているつもりかい?」
「ハッ――」
その魔剣師が前に出る。
カットマギーは口笛を吹きながら後退。
魔剣師の蒼い魔剣の突き技を――。
魔剣アガヌリスの剣身と柄で防いでから、手首を返すように魔剣アガヌリスを払う。
切っ先で魔剣師の胸を狙う。
魔剣師は蒼い魔剣を傾け、アガヌリスの切っ先を横に往なすように蒼い魔剣を回転させながら片腕を引いた。
カットマギーは、魔剣アガヌリスを前に押しながら、乙の字を魔剣師の体に描くように魔剣アガヌリスを動かした。
魔剣師は下から上に蒼い魔剣を動かして、魔剣アガヌリスの妙技を防ぐ。
二人の間に幾度となく火花が散った。
魔剣師はローブが燃え肩口を晒す。
その肩には別の頭部があった。
「カッ、<大火瞑波動>――」
その肩の頭部の口から火炎が迸る。
火炎にカットマギーは飲まれたように見えたが、カットマギーは後転しながら後退。
頭部から吐かれた炎をあっさりと避けていた。
カットマギーは反転。
「――無駄さ、<血闘狂言術>――」
光魔ルシヴァルの能力を示す加速スキルを用いたカットマギー。リズミカルに右へ左へと迅速に移動を行う。
魔剣師は、
「<大火瞑波動>――」
肩に出現させた魔人の頭部から次々に火炎を吐く。
と、魔剣師は「<瞑炎斬り>――」と肩の頭部が発した火炎を帯びた魔剣の剣撃を繰り出し始める。
素早いカットマギーは前転――。
「<三味世斬り>――」
スキルを発動――。
魔剣アガヌリスで縦に空間を斬り、その空間を縮めるような飛び込み斬りで魔剣師の頭部と肩の魔人の頭部を切断――。
そのまま魔剣アガヌリスで魔剣師の胸を突き――真横に魔剣アガヌリスを移動させて胸を斬り、魔剣師の体を両断――。
肩に魔人の頭部を出現させていた魔剣師を倒した。
他の黒装束を着た者たちは、動きを止め、
「チッ、<闘狂言術>だと……」
「惜しい、<血闘狂言術>さ――」
カットマギーは側転から前転――。
魔剣アガヌリスの剣身で数回胸をそよぐような剣筋のフェイクから迅速に斜め下を斬る剣術で、血色の仮面を被る黒装束の胸と腹を斜めに斬り伏せる。
そのカットマギーに、
「構うな、押せ――」
「掛かれ――」
二人の魔剣師が切っ先を煌めかせて迫るが、前進したカットマギーは魔剣アガヌリスを<投擲>――。
得物を放るとは思わなかった正面の魔剣師は対処に遅れ、腹に魔剣アガヌリスが突き刺さった。
腹に魔剣アガヌリスが刺さった魔剣師の背後にいた魔剣師も足がぶつかって転倒。
更に、カットマギーは、
「<血鬼婦蹴刀ゲンタール>――」を発動。
元鬼婦ゲンタールの足先はマチェーテの刃と化していた。その足の刃を活かす側転機動の蹴り――。
地面が縦に斬られる。続けてカポエラを踊るような前転からの連続蹴りで、二人の魔剣師を斬り刻む。
そして、<血鬼婦蹴刀ゲンタール>を終えて着地後。
魔剣師の下腹部に突き刺さったままの魔剣アガヌリスをカットマギーは引き抜く。
後続の【テーバロンテの償い】の人員たちは息を呑む。
「……何者だ……」
「【天凜の月】の新参にしては……足が変な存在なんて」
「……ケケケッ、チキチキバンバン、チキチキバンバン♪ ってねぇ? と言えば、君たちの界隈でも聞いたことはあるだろう?」
「え……」
「まさか……狂言……」
そのまま他の数十の【テーバロンテの償い】の人員を屠ったカットマギーは、次の角を曲がる。
地上の【ミシカルファクトリー】の施設に通じている坂口に向かった。
「――このまま上の連中を仕留めたら、シュウヤとユイたちと合流だ――」
「――総長も来るんだ♪」
「そうさね。地下掃除に【白鯨の血長耳】も動いているようだよ」
クレインはカリィを含めて皆にそう言うと、トンファーを拭いていた布を腰袋に仕舞う。
カリィは愛用している短剣と拾った短斧をクレインに見せてふざけていたが、クレインは無視。
カリィは気にせず、
「へぇ♪ 地下は結構広いけど、ネ」
「――ただいま、地下の人員は全員殺したよ」
「……」
「了解」
カットマギーは坂口の戦いを押さえたカリィとレンショウとクレインと合流。
横の通路に展開していた【天凛の月】の元【髪結い床・幽銀門】メンバーたちも、走って戻ってきた。
【魔塔アッセルバインド】として動いているクレインに向け、左右の通路内にいた【テーバロンテの償い】の人員を屠ったことを報告していく。
◇◆◇◆
「シュウヤ様、がんばってください!」
「「シュウヤ様、健闘を祈ります!」」
背後から【剣団ガルオム】の方々の声が響く。
片腕を上げてそのルシエンヌたちに応えた。
「ンン、にゃお~」
相棒も応えている。
肩にいる
「ンン――」
先頭のクリドススを追うようにレザライサたちと駆けた。
耳朶が肉球のパンチングマシーンになってしまったが、老舗の魔傭兵商会エライドが所有する魔塔の前を通る。
十字路を左に曲がり先を急ぐ。
途中歩きになったから、ユイと血文字連絡を行った。
『下界に到着。レレイさんと合流した。【血印の使徒】の連中を潰しながらシュウヤたちと合流予定』
『クリドススの案内で浮遊岩の前に移動中。結構な速度で駆けているから、そろそろだと思う』
『分かった』
『シュウヤ、ユイから聞いたと思うけど、わたしも下界だからね』
『あぁ、蒼炎神拳継承者、油断はしないように』
『うん』
エセル大広場のドン・アブソールの空門魔塔の前を通り過ぎる。
少しして、クリドススが足を止めた。
右に宿屋と櫓。左に灯台のような魔塔。
手前に、下界と上界を繋ぐ浮遊岩が並ぶ。
周囲には【白鯨の血長耳】の兵隊が多い。
すると、建物の影からゆらりと現れたのは、ソリアード。
【白鯨の血長耳】の最高幹部の一人、魔弓ソリアードだ。
「クリドススと総長、シュウヤさん!」
「ソリアード、お待たせ」
クリドススが先に挨拶。
「こんにちは、ひさしぶりです」
「シュウヤさん、サセルエル夏終闘技祭の優勝は聞きました。さすがですね」
「おう、レザライサと相棒のお陰だ」
「ふっ」
「にゃお~」
「総長もお疲れ様でした」
「あぁ、報告を聞こう」
ソリアードは「あ、はい――」と背を伸ばすように敬礼。
背後のソリアード隊の若い血長耳の兵士たちも敬礼を行う。
ソリアードは、
「――現在も第三十~三十八の大浮遊岩を占拠中です。フクロラウドの魔塔にいた【テーバロンテの償い】の人員の一部はわたしたちを避けるように【血銀昆虫の街】に戻りました」
「やはり」
「はい。下界兵長ヴェガ隊は、【血銀昆虫の街】の銀火蝶通りで待機中。【魔の扉】の連中とライカンの武闘派との合流を確認済みです。下界兵長ベベサッサ隊が追う【テーバロンテの償い】の連中は、【闇の教団ハデス】と【セブドラ信仰】の人員と合流し、【血銀昆虫の街】の港に近い倉庫と船商会事務所に出入りを始めました。更に【ペニースールの従者】&【魔塔アッセルバインド】の協力を得て【テーバロンテの償い】が利用する船商会と船舶を発見しました。いつでも突入できると連絡を受けています。下界兵長エキュサル隊は、我らとの合流待ちかと」
「その合流待ちの下界兵長エキュサル隊からの報告は?」
「【魔塔アッセルバインド】のクレインと【天凛の月】のカリィとレンショウとリツとカットマギーに元【髪結い床・幽銀門】の連合チームが、地下トンネル網の地下拠点を占拠しながら【魔獣追跡ギルド】と【幻獣ハンター協会】と【ミシカルファクトリー】の地上と連結した地下施設を順繰りに破壊し続けているとのことです。更に、今、わたしたちのいる浮遊岩と場所が近い【血銀昆虫の街】の倉庫街の南西にある【ライランの縁】と【テーバロンテの償い】と【血印の使徒】の家や施設の前で戦いが起きているとの報告がつい先ほどありました。【天凜の月】の最高幹部〝死の女神〟と〝蒼炎〟を連れたレレイが、この真下付近で戦っているようです。そして、その戦いに向けライカンの武闘派が集まっているようです」
「分かった――」
レザライサは耳に指を当て、
「法霊魔ヴェガ、短魔斧ベベサッサ、鉄鎖エキュサル、追跡は仕舞いでいい。これからわたしとクリドススとソリアードと【天凜の月】の盟主がエキュサル隊と合流しながら、本格的に下界に殴り込む――あぁ、そうだ。各自健闘を祈る」
「――軍曹、ディナータイムの時間だ。狩りに移れ」
「――世話人、バルミュグ討伐に向け、本格的に下界狩りに移る。あぁ、分かっている……いる。あぁ、うん。え――分かったから」
と、下界の各地にいるだろう下界兵長の部隊に指示を飛ばした。
ガルファさんから何かを言われたようだが、指摘はしない。
「では、浮遊岩に乗りましょう、こちらです――」
「了解――」
「ンン」
レザライサ、クリドスス、ソリアードと浮遊岩に乗り込んだ。
血長耳の兵士たちは他の左右の浮遊岩に乗る。
――浮遊岩は一気に降下を始める。
ソリアードは魔弓を構え、魔矢を番えていた。
右側を見ながら、
「じきに右手側の建物が見えます。そこは【血印の使徒】の縄張り、名はルアルの血魔塔。そこでレレイと合流予定です」
「分かった。ユイとレベッカもそこで戦っているのかな」
「はい、そのはず、見えました――」
と、ソリアードの魔弓から魔矢が放たれた。
魔矢はルアルの血魔塔にいたローブを着た存在を射貫く。
射貫かれたローブを着た男は落下していた。
同時に浮遊岩が着地――。
右側の暗がりのあちこちから剣戟音。剣線が見えたと思ったら悲鳴が聞こえた。
すると、蒼炎の弾丸が暗闇を劈くように炸裂。
暗闇は、壁の魔法と目される大規模障壁だった。
その大規模障壁をレベッカの蒼炎弾が破壊か。
「皆、あそこに向かう――」
「ンン――」
皆で、レベッカたちがいるだろう場所に向かった。
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