九百七十七話 大魔術師ケンダーヴァル
レザライサに笑顔を向けた。
レザライサは頷いてから料理が載った机に近付く。
立ったままフクロラウドに向け、
「フクロラウド、セナアプアの豪商五指の一人と呼ばれているお前と話がしたかった。わたしの名はレザライサ、【白鯨の血長耳】の総長だ」
「はい、わたしにですか? 誠に勝手ながら、レザライサさんの名は知っていました」
「過去、サセルエル夏終闘技祭には、わたしたちの組織の者が出場したからな」
「そうですね」
「今年のサセルエル夏終闘技祭が途中から形式が異なっていたのは、【天凜の月】の盟主の槍使いがいたからか?」
「はい。強者と言っても背を複数人に取られたら案外簡単に死にますから。だからこそのバトルロワイヤル。本当の強者だからこそ勝ち抜ける方法を用いました」
「ふ。己の矜持を保ちつつ激戦の最中に交渉する、戦場以上の立ち回りには、武芸者としてのすべての要素が求められるからな」
「……はい。誰が敵で、誰が味方となるか。刹那刹那の激しい攻撃の応酬。スキル、魔法、間合いの取り方、ユーモアとエスプリは、本当に見事という他に言葉が見当たりません。最後も痺れました。シュウヤさんが魔界から召喚した魔槍が天井の一部を貫いて少し焦りましたが……しばし、放心していました」
「ほぉ~魔界セブドラから魔槍を召喚か……」
レザライサはジッと俺を見る。
その時、レザライサは地下にいたのかな。
「決勝のバトルロワイヤルで事前に槍使いと組んだ件だが……」
「あぁ、気になさらず。魔通貝も構いません。魔通貝などは可愛い方。もっと姑息で陰湿な方法を用いていた集団はいましたから。関係者席からの支援もね。わたしは放置していましたが……。そして、決勝に残った方々はチームを組んだ方々もそれなりにいました。口裏を合わせただけの即興チームもありました。二人の
「……ふふ。惚れたような言い方だな。もう一つ話がある」
レザライサは俺をチラッと見て、
「はい」
「既に【白鯨の血長耳】は動き、槍使いからも話があったと思うが、我らは【血銀昆虫の街】の連中と本格的に争うことになった」
「聞きました。わたし共は【血月布武】の活動の邪魔立てはしません。【テーバロンテの償い】などと手を切ることに決めました」
「話が早い。ならば【白鯨の血長耳】の総長として、ドラアフル商会とフクロラウド大商会と争わないと約束しようか」
「……はい。わたしたちも【白鯨の血長耳】と【天凛の月】と争わないと約束しましょう」
「その言葉を忘れるな。裏から中小のダミー商会を経由させて破壊工作を行う組織へ金を流すのもナシだ」
「ふふ、ご安心を。あ、できればですが、【白鯨の血長耳】の権益を少し融通していただけたら幸いです」
「エセル界か。それは無理だ」
「……」
フクロラウドは視線を厳しくする。
レザライサも応じて、
「フクロラウド、お前の巨人たちにも秘密はあるんだろう?」
「……はい、分かりました。正式な同盟ということではないですが、【天凜の月】と【白鯨の血長耳】が行うドブ沼の大掃除に協力します」
「ははは、理解ある男で助かる。では、わたしからの話は以上だ」
「「「……」」」
しばし、沈黙が流れる。
少し咳払いしたレザライサは、
「槍使い、フクロラウドとまだ話があるのか?」
レザライサの言葉に頷いてから、フクロラウドを見て、
「あぁ、聞きたいことがある。そして、フクロラウドさんが、本題と言いかけていたが」
「はい。シュウヤさんをフクロラウド大商会にお誘いすることです」
「それはお断りします」
「そうだろうと思っていました。個人ではないですからね。毎回サセルエル夏終闘技祭の優勝者には声を掛けているのですよ」
「はい」
「それで、シュウヤさんからの話とは?」
「単刀直入に聞きます。フクロラウドさんは、大魔術師ケンダーヴァルなのですか?」
「……過去はその名でした」
フクロラウドは大魔術師ラジヴァンをチラッと見た。
ラジヴァンは両手を拡げるジェスチャーを行う。
フクロラウド・サセルエルは、
「……【天凜の月】が入手した魔塔ゲルハット。【魔術総武会】の大魔法研究魔塔の一つだった【第六天魔塔ゲルハット】のことが気になるのですね」
「はい」
「たしかに、わたしは魔塔ゲルハットを造った一人。〝古の大魔造書・アルファ増築魔法〟を用いてね。色々な実験を行った名残は魔増築空間として、今も残っていると思います。【幻瞑暗黒回廊】と試作型魔白滅皇高炉もありましたから、お陰で成長できた。しかし、それが何か? もう手放して久しい」
「……キュイズナーたち、【外部傭兵ザナドゥ】を閉じ込めた覚えは?」
フクロラウドは少し動揺したように周囲を見渡し、ヴィーネを見て、
「……たしかにキュイズナーたちを閉じ込めました。あ、まさか、地下を巡り獄界ゴドローンの地底神ヒュベアコモの秘宝の入手を?」
「いえ」
「そうですか……」
ミナルザンのことは言わないでおくか。
「他にも聞きたいことがあります。魔霊魂トールンからフクロラウドさんのことを聞きました」
「そうでしたか。えぇ、トールンが話をしたことは本当です。わたしが<魔霊魂>として改良を施した。昔捕まえた個体識別番号『二十三』のトールンを魔塔ゲルハットに活かした形です」
捕まえた?
過去、魔女っ子トールンと話をしたことを思い出す。
『大魔術師ケンダーヴァルは、滅びた支配層エンティラマの子孫であると名乗っていたことがあります。ヤーグ・ヴァイ人に似た能力も使えました。そして、フクロラウドの名を通し……様々なコネクションを利用しながら、魔軍夜行により滅びた都市を旅したと。そして、始祖の十二支族のパイロン家に手を貸した際には、<魔法陣・覇黙デアガメスス>を使用、戦いに勝利を齎した。報酬として、正式にもらい受けたモノが、〝血妙魔・
〝血妙魔・
そのことは聞かず、
「……外典・宝玉システマの魔術書と闇渦のライマゼイの技術も使ったとか」
俺がそう聞くと、フクロラウドは片目と顔の一部が不自然に崩れた。
崩れた変わりに現れた片目は真っ黒い。
肌は複数の電子基板回路のようなモノに変化している。
が、直ぐに元通り。幻か?
「……驚きです。高位魔力層としてのトールンと、本格接触を完了したのですね。納得です」
「そのトールンですが、フクロラウドさんは〝捕まえた〟と仰った。どこで捕まえたのですか?」
「大動脈層の下の下。ペル・ヘカ・ライン大回廊の地下です。鋼鉄だらけの世界で捕まえました。〝古代の眠り姫〟の依頼が結構有名ですね」
「「おぉ」」
「捕まえることが……」
「伝説が……」
「ん、伝説の眠り姫がコアだった」
皆、驚く。
「……古代の眠り姫の一人が地下のコアの魔霊魂トールン」
「はい。眠り姫は複数存在します」
「まだ聞きたいことがあります。過去、
「そうですね。とある縁でパイロン家に味方しましたよ。そこのサダンモガラと共に西のラドフォード帝国で色々と活動しましたねぇ」
「そうでしたか」
サダンモガラは向かいに座る一人。
高祖
俺たちに向けて会釈すると体から<血魔力>を発していた。
黒髪だが紺碧の双眸。
背中に薄らと幻影の魔刀が装着されている。
防護服はかなり高級なマジックアイテムっぽい。
「シュウヤさんはパイロン家と縁が?」
「はい。パイロン家のエリザベスが部下に接触してきました」
「だからラドフォード帝国にも……」
と、フクロラウドはレザライサを見る。
その西の帝国の任務で留守にしていたことは承知済みか。
更に、イセスを
サイデイルにいる元墓掘り人のサルジンとスゥンも元ハルゼルマ家だが、そのことは言わない。
「思い出せる限りの聞きたいことは以上です」
「はい、何かあったら、ここにわたしたちはいますので、いらしてくだされば質問に答えますよ」
「ありがとうございます」
「槍使い、行こうか。フクロラウド、失礼する」
「はい、レザライサさん。今後ともよしなに」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます