九百四十八話 血濡れたルシエンヌ
血濡れたルシエンヌさんが拷問されていた部屋から現れる。
俺たちを見て驚きつつも得物の長剣を構えた。
「――【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】か!」
大声の威嚇染みた言い方だ。
俺は戦う意思はないと魔槍杖バルドークを持ちながら両手を上げた。
武器はアイテムボックスから?
あ、倒した男たちから拝借したのかな。
そのルシエンヌさんは俺をジロッと見てから<珠瑠の花>の紐で捕らわれているイフアンと黒き獣トギアを見て、
「あ、え? そいつは【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の仲間……」
頷いて、
「君を助けたのは、そこの蒼いヘルメだ。指示を出したのは俺だ。名はシュウヤ。【天凛の月】の盟主だ」
「ん、初めまして、わたしの名前はエヴァ。シュウヤの仲間です。【天凛の月】は【剣団ガルオム】の味方。今、味方の方々がここに来るはず」
「はい、拷問していた男たちを倒したヘルメです。閣下の水です」
「ンン、にゃお、にゃ、にゃ~」
ルシエンヌさんは俺たちと<珠瑠の花>に縛られているイフアンと黒き獣トギアを見て、
「【天凛の月】の盟主と皆様方……命を助けて頂きありがとうございます。でも、そいつは……」
そう喋りつつ剣先を向ける。
切っ先を向けられたイフアンは怯えた表情を見せて、
「……【天凛の月】、約束は……」
「ガルゥ」
「約束は守る。ルシエンヌさん、悪いが、このイフアンとトギアの命は取らず解放すると事前に約束をしていたんだ」
「なんだと!」
ルシエンヌさんは俺たちに長剣を向けた。
すると、
「にゃごぉ」
と怒って威嚇しつつ触手を伸ばし――。
触手の先端から骨剣を出す。
「――なっ!」
相棒の触手骨剣がルシエンヌさんの長剣を横に弾いた。
「ルシエンヌさん、相棒も落ち着け。イフアンは【天凛の月】に【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の重要情報を喋った。もう味方の認識だ。イフアンの命を取ると言うなら、【剣団ガルオム】とも争うことになる。で、ヘルメ、イフアンを少し離れた場所に移動させろ。そして、解放はまだだ。少しの間守ってやってくれ」
「はい――」
ヘルメはすっと前進。
悩ましい腰と背中付近から水飛沫を発生させながら飛翔する。
キラキラとした水飛沫が水の天使の翼に見えた。
「あ、ありがとう、【天凛の月】の盟主のシュウヤ様!」
「ガルォォォォ」
黒き獣トギアの声が変化、お礼のつもりか? 面白い。
「ん、シュウヤ、イフアンは【闇の枢軸会議】に狙われると?」
「あぁ、闇側の者たちは一枚岩ではないが、アルフォードのような能力者はいると思うからな」
他にも……【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】との交渉役や、【闇の枢軸会議】側の情報源になるだろう。
「ん、今のこの会話もどこかで聞いている、見ている存在がいる?」
「その想定はしておくってだけだ」
「ん、シュウヤは頭が良い!」
「……お、おう」
「ん! シュウヤの照れた顔大好き!」
エヴァのその顔のほうが大好きだ。
とは真顔で言えず。
「ふふ、閣下は<天賦の魔才>を持ちますから!」
ヘルメはそう叫びつつ宙空で反転――。
天井にスラリとした両足を付けた。
水の羽衣のような衣装は重力の影響は受けず、風に靡いているようにそよいでいる。
美しい。
そんな体勢のまま軽やかに天井を歩く常闇の水精霊ヘルメは、両手の指から発生している<珠瑠の花>を操作。
イフアンと黒き獣トギアを、振り子の如く引っ張って、放るように動かす。
そのまま廊下の先へ移動――。
<珠瑠の花>にぶら下がっているようにも見えるイフアンは常闇の水精霊ヘルメを見上げながら怯えている。
「み、水飛沫が、そして、う、浮いて天井を歩いて踊っている……」
「ガルゥ……」
イフアンと黒き獣トギアは自身が浮いていることよりも、ヘルメの機動力が怖いようだ。
「――天井の精巧な石工の技術は見事ですね~、閣下が夢中になるのも分かります!」
とか言いながら、角を曲がって見えなくなった。
「イフアンちゃんとトギアちゃんもそう思いませんか!」
「「……」」
一人と一匹のお尻が輝く日も近い。
一方ルシエンヌさんは荒ぶる
一歩二歩と後退して出入り口の角に背中をぶつけていた。
「ルシエンヌさん、俺たちは君と戦うつもりはない。【天凛の月】は君の味方についたと考えてくれ」
「にゃ~」
「……は、はい、それは心強い。あ、〝輝けるサセルエル〟をお持ち……サセルエル夏終闘技祭の出場者なのですね」
「そうだ。君も出場者と聞いたが」
「あ……」
ルシエンヌさんは浮かない表情になる。
すると、
『ご主人様、今よろしいでしょうか』
ヴィーネの血文字が浮かぶ。
『大丈夫だ。もう片がついたようだな』
ヴィーネたちの偵察用ドローンの映像は把握済み。
アクセルマギナとヴィーネに【剣団ガルオム】の方々が見える。
観客席から離れて壁際に移動していた。
『はい』
キサラは逃げた【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】のメンバーを追跡中。
逃げた先は闘技場のVIP席か、内部のVIPルームかな?
外の四つの魔塔?
フクロラウド本人がいる部屋には逃走しないか。
【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】以外にも他の【闇の八巨星】の勢力もいるかもなぁ。
キサラは姫魔鬼武装の兜が変化している。
砂漠鴉ノ型。高速戦闘タイプだ。
そして、黒魔女流追跡術でもあるのか、腰の魔界四九三書の一つ〝百鬼道〟が煌めいていた。
あの辺りは、魁ノ光魔魔女の称号を持つに相応しい。
更に双曲のタイリングパターンの魔力の波紋と<血魔力>を纏わせた鴉を周囲と逃げている人物の背中に当てていた。
その魔術かスキルか魔法を使う瞬間、柱の陰で己の姿を消していた。
その柱の陰から出たキサラは普通に廊下を走っていると分かるが、お? 己の足下にも<血魔力>の鴉を発生させている。
『炯々なりや……ひゅうれいや――』
と、キサラの魔謳が聞こえたような気がした。
まだ見ていたい気分となったが、
ヴィーネのほうの偵察用ドローンの視界を注視。
『……そこに並んでいるのが【剣団ガルオム】の方々か』
『あ、そうです。【剣団ガルオム】という組織の副長テアルビと幹部たち。一番隊隊長カイトや二番隊隊長キキアンなどが、クナのいる地下空間に向かっているようです。そして剣団ガルオムを狙ったのは、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】の組織員と幹部。唯一捕らえた幹部の名は〝獣鉄剣オレキ・マドルア〟。他は皆で処断。
『了解、その副長テアルビに伝えてくれ、ルシエンヌを助けたと。偵察用ドローンを操作するから、ルシエンヌの下に案内してやってもいい』
『はい、聞いてみます』
その血文字を見ているエヴァが、
「ん、ルシエンヌさん。副長テアルビさんたちは、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】に見張られていた。けど大丈夫。もうすぐ仲間がここに来る」
「あ、テアルビが……」
すると、
エヴァは膝かっくん。
相棒、エヴァは金属の足なんだから少しは考えろ――。
と厳しい視線を相棒に送るが、
……くっ。
とりあえず。
「俺たちも少し移動しましょう」
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