九百四十四話 偵察用ドローンとフクロラウドの魔塔

 サデュラの葉を飲んだように食べた神獣ロロディーヌが斜め上へ急上昇。


 外から俺たちを乗せた相棒を見たら、エセル大広場の上空を斜めにぶった斬る機動と呼べるかもしれない。


 下のエセル大広場を見ると、いつもニューヨークのセントラルパークの写真や映像を思い出す。

 エセル大広場を囲うように並び立つ魔塔も、マンハッタン区のビル群にそっくりだ。

 

 名作の『摩天楼はバラ色に』の映画を思い出した。


 神獣ロロディーヌの両翼から橙色と深緑色の魔力が放出されていく。


『ロロ様の喉と体の魔力が増加したようです』

『あぁ、サデュラの葉の効果か』

『はい』


 ヘルメとの思念会話の間に相棒は俺の腰とイモリザの第三の腕に絡めていた触手を引っ張り、俺の体を持ち上げてくれた。


 右足を相棒の大きい鼻の上に乗せて着地。


「ん、シュウヤが落ちそうになるなんて珍しい~」

「はい」

「ウフ♪ シュウヤ様の素敵な第三の腕と右腕に脇腹と太股が見えましたから、グッジョブです」

「シュウヤ様、わたしもロロ様用に作った天魔女流カソジック料理の用意がありますが、要りますか?」


 キサラの手料理だと!

 それは俺も欲しいかもと思った直後、


「ンン――」


 相棒の一つの触手がキサラの前に移動した。

 触手の先端は底が深い皿のような形に変化していた。


 底の部分が肉球だから面白い。

 キサラは笑って、


「ふふ、食欲旺盛なロロ様ですね。はい――」


 キサラはタッパーの蓋を開けてカソジック料理をその皿と似た触手の先端に入れていた。

 そのカソジック料理を入手した相棒は直ぐに触手を引いて自らの口に運び、キサラの手料理を飲むように食べた。


「にゃお~」

「相棒、満足したか? まだ食うか?」


 そう聞くと、


『まんぞく』、『うまい』、『えう゛ぁ』、『きさら』、『おいしい』、『さでゅら』、『はっぱ』、『うまい』、『がいあ』、『さでゅら』、『ふんふん』、『たのしい』、『あいぼう』、『そら』、『たのしい』、『たぬー』


 相棒らしい気持ちを寄越す。

 時々『たぬー』と気持ちを寄越すが、意味は分からない。


「はは、満足したんだな」

「ンン」


 喉声を寄越した相棒は俺の体に絡む触手を引っ張った。

 皆がいる両耳辺りへ俺を戻そうとしてくれたが――。


 俺は相棒の額に両足をつけて動きを止めた。

 相棒は意外だと思ったようで、


「ンン、にゃ?」


 と疑問風に鳴いてきた。

 今の相棒を正面から見たら、寄り目になっているかもしれない。


 そんな神獣ロロに、


「ふ、この大きい額の位置なら、神獣の操縦士に見えるだろう?」

「ン、にゃおおお~」


 ははは、嬉しそうに大きな声で鳴いてくれた。


「良し、ロロ、クナや皆の指示を聞いてフクロラウドの魔塔に急いでくれ。それとも神獣のスーパーな嗅覚でフクロラウドがいる場所を特定できるのか?」

「ンン、にゃお~」


 相棒の触手手綱が少し震動。

 同時に神獣ロロは頭部を傾け、眼球と長い睫毛を微かに動かした。

 と、速度が加速。飛翔速度が速い――。

 が、前髪が風でもっていかれることはない。


 神獣タイプの神獣ロロは体から発した魔力が増える。

 そのお陰か、風は押さえられることが多い。

 俺たちの気分次第で風を通すことも可能だから結構万能だ。


 相棒の後ろに行けばスリップストリームを体感できるはず。

 が、空気圧は地球と異なるだろうし、異なる空力慣性かもな。


 そんな相棒が周囲に発している魔力を電子顕微鏡で覗いたら……。

 シャッターを持つ空気孔や魔力孔が複雑怪奇に交ざった細胞のような仕組みが施されているのかもしれない。


 そんなことを考えていると、相棒の斜め前方に――。


 戦神ラマドシュラー様と植物の女神サデュラ様の幻影が出現。

 幻影は粒子状となり輝きを発して散ったが、一部が虹の橋となった。


 その虹の一部が湾曲し、飛行中の相棒と俺たちに降り注ぐ。


 虹の雨が降り注いでいるような煌びやかな視界となった。

 その虹の雨のような粒子は相棒の体に取り込まれるように消える。


「え?」

「あ」

「毛が」


 皆も少し驚いているが、空ではなく足下を見ていた。

 黒毛が逆立っている?


「ンン――」


 両耳も、ネコがよく行うイカ耳の形になった。

 祝福のような印象だったが、相棒は不安を覚えたのかな?


「ん、一瞬だけ虹が見えて、その虹をロロちゃんが吸収した?」

「ロロ様は虹の魔力を得た? 神々の祝福でしょうか」

「植物の女神サデュラ様と戦神ラマドシュラー様の幻影が出現していたが、皆は見えたか?」

「え? わたしは見えていません」

「わたしもです」

「ん、分からなかった」

『わたしも、精霊ちゃんが活発に動いていたぐらいです』


 ヘルメもか。クナもかな?

 そのクナも双眸に魔力を溜めながら周囲を見て、


「神々しい現象だとは分かりましたが、わたしの能力では把握できませんでした。セナアプアの上界ではかなり珍しい事象だと思います」


 そう発言。

 たしかに、魔法力などが削がれるセナアプアの上界だ。

 黄金の冒険者カードの効果もあるんだろうか。

 黄金の冒険者カードは皆も持つ。


 そして、サデュラの葉で神獣ロロはパワーアップ?


 俺は<神獣止水・翔>のスキルのお陰で神獣ロロと気持ちは共有可能だが、神獣ロロが獲得しているだろうスキルに関しては分からないことが多い。


 その神獣ロロは己の頭部の形を変化させた。

 ネコ科とグリフォンを合わせたような魔獣スタイルの頭部。


 同時に速度を落とした。

 エセル大広場とドン・アブソールの空門魔塔を越えている。


 位置的に地図なら【塔烈中立都市セナアプア】上界の左上辺りか。


 エセル大広場自体がかなり広いからなぁ。

 ――眼下の通りを行き交う人々はそれなりに多い。


 ――人族とエルフが多い印象。

 ――次点でドワーフと小柄獣人ノイルランナー

 ――大柄獣人のセンシバルは、数は少ないが、目立つ。


 商業魔塔ゲセラセラスの近くかな。

 すると、皆が近くに来た。


 相棒は、その皆の足の動きに合わせ、小さい触手と黒毛を、その皆の両足に絡ませている。

 エヴァだけ魔導車椅子用のバリアフリーと化していた。


 神獣ロロディーヌはそれなりの速度で飛行中だが、皆は毛と触手に支えられているから、転けることも揺れることもなく安定している。


 外に発した魔力のバリアといい、相棒の体毛と触手は便利だ。

 体毛と触手が皆を支える仕組みは天然のジャイロスタビライザーと言えるか?


 ま、神獣ロロディーヌは良い子だ。


 隣にきたクナは俺に会釈し、微笑むと屈む。

 ローブの切れ目から紐のような下着が見えた。


 その悩ましいクナは俺にウィンク。

 エロいが、昔を思い出して思わず苦笑い。


 クナは気にせず、相棒の長い睫毛に向け、


「ロロ様、次の十字路を右に曲がって下さい」

「ん、敷地が広い通りが多い。目印は?」

「あ、昔と異なるかもですが、斜めの魔線入りの戦旗が目立つ魔傭兵商会エライドの敷地が角です」

「老舗の魔傭兵商会ですね。今も残って、あ、見えました」

「にゃ~」


 人々が行き交う十字路の右側へとぐわりと旋回――。

 その通り手前の壁向こうに聳え立つ魔塔はかなり高い。

 硝子付きの自由に行き来が可能な浮遊岩のリフトと、魔機械の昇降機、まぁエレベーターが備わる作り。

 その魔塔の出入り口前には魔剣と魔銃を構えた傭兵が立つ。

 老舗の魔傭兵商会エライドについてヴィーネに質問しようとしたが、もう、その商会が所有する魔塔は通り過ぎた。


「ん、ロロちゃん、速い~」

「今日は一段と速いです」

「はい。シュウヤ様と一緒に空を飛べることが力になっているのでしょう」

「ん、ロロちゃんはシュウヤが寝ている時ずっとシュウヤの顔を舐めていた。あと、その顔と胸を両前足でマッサージを続けていたから、凄く寂しかったんだと思う」

「ンン」


 相棒……。

 エヴァの声に、微かな喉声を鳴らして応えている相棒が可愛い。

 同時に神獣ロロの温かい気持ちが、触手手綱を握る掌と、首に付着している裏に肉球が付いた触手の先端越しに伝わってきた。


 その相棒は体から出現させている複数の触手で俺の髪の毛を弄って悪戯しまくっていたが、我慢しよう。


 すると、クナが右手を前方斜めに伸ばす。

 その掌に月霊樹の大杖が出現。


「真向かいの蒼い魔塔の隣が目的地! 赤い煉瓦の魔塔がフクロラウドの魔塔です!」


 クナが月霊樹の大杖で差す方角は様々な魔塔を有した広い敷地。


 蒼い魔塔が中央に聳え、敷地も広い。


 ――その蒼い魔塔が聳え立つ敷地を過ぎた。


 隣の広い敷地を囲う壁は煉瓦風。

 壁の先の敷地内には、様々な小型の魔塔と大小様々な施設が存在した。

 小型魔塔は警備兵の屯所か?

 その小型魔塔と工場のような施設が建つ敷地内部の中央には、円筒の魔塔が重なった巨大な赤い魔塔が見え隠れ。


 煉瓦のような素材で造られていそうな大きい魔塔が本体か。

 その大きい魔塔の側には、その大きい魔塔と魔線で繋がった状態で宙に浮く四つの魔塔が存在している。


 浮いた四つの魔塔は浮遊岩を活かす作りか?

 中心の大きい魔塔を合わせた合計五つの魔塔がフクロラウドの魔塔か。


 浮いた四つの魔塔は居住スペースなんだろうか。

 商業魔塔ゲセラセラスの屋上のオプティマスの家を思い出す。


 中心の煉瓦のような素材で構成されているだろう魔塔は魔塔ゲルハットよりも大きい印象。


 そして、商業魔塔ゲセラセラスのほうが大きいか。


 全部の煉瓦風の魔塔は魔力を濃厚に内包している。

 硝子窓も幾つか見えた。

 中央の巨大な魔塔は中層まで幅が広く、円筒で頂上が尖っているから円錐か。巨大な吹き抜け構造がありそうな魔塔。 


 その一階がサセルエル夏終闘技祭の会場だろう。

 浮いている四つの魔塔など、敷地内部の建造物も気になるから、あとで偵察用ドローンを飛ばしてみるか。


 すると、クナが、


「着きました! フクロラウドの魔塔とその敷地。玄関の正門と前の壁が漆黒――」


 フクロラウドの敷地から中央の煉瓦の魔塔へ入る人々が見えた。


「にゃ~」


 相棒は正門から少し離れた通りに到着。

 着地する前に神獣ロロは俺以外の皆を先に降ろした。


「ンン――」


 神獣ロロは俺を巨大な頭部に乗せたまま姿を縮小させる。


 急降下。

 急ぎ<導想魔手>を生成し着地。

 歪な<導想魔手>の上からフクロラウドの敷地を眺めた。


『皆、ちょい、ここから偵察用ドローンを用いる』

『はい』

『あ、分かりました』

『ん、バレるかも?』

『あぁ、バレても、俺だとは思わないだろう。俺だとバレても素直に語るだけさ』

『ん、分かった』


 血文字連絡を行うと同時に掌握察を用いた。


 敷地外の、通り向かいの建物に魔素を探知――。

 花屋と食事処に倉庫と民家かな。


 二階と三階にも魔素はあるが……。


 フクロラウドの敷地の通り沿いに立つ建物に怪しい存在は……。


 ん~さすがに魔素だけでは判別は無理か。


 <分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>は、他の界隈からの余計な争いを招くかもだから、使用せず。


 アクセルマギナを使うか。


「アクセルマギナ、周囲の建物をスキャンしてくれ」

「はい」


 戦闘型デバイスの風防の真上に幻想的なアクセルマギナが出現。


 そのアクセルマギナの双眸が煌めいた。


「魔塔ではないから、大丈夫だと思うが、凄腕スナイパーが潜んでいないか調べろ。想定は前回で使用した銀河騎士マスタークラスと実際に戦った暗殺一家次男ジャリネスの動きを想定。更に、今から飛ばすドローンの操作を共有してもらう」

「了解しました――前回と同じく遺産神経レガシーナーブありのダーク<超能力精神サイキックマインド>の使い手として、銀河騎士マスター暗殺者サイバネティックスアルゴリズムパターン認識中――可能性が高い箇所はこの辺りにはありません」

「了解」


 再び、フクロラウドの魔塔とその敷地を凝視。


 あの敷地に偵察用ドローンを飛ばしたら、結界か何かで弾かれるかもしれないが――。


 まぁいい。


「偵察用ドローンを飛ばせ」

「はい」


 戦闘型デバイスの縁の横面に窪みが発生。


 窪みから偵察用ドローンたちが飛翔していく。


『いっぱいの闇蒼霊手ヴェニューちゃんたちが飛んでいるように見えます』

『あぁ』


 形状が蜂の偵察用ドローンの視界を瞬時に共有――。

 数が数だけに、少しだけ混乱を覚えた。

 が、成長した由縁か前ほどの混乱はない。


『閣下、わたしも偵察に潜んでおきますか?』

『良い案だが、ヘルメは待機。<神剣・三叉法具サラテン>とシュレも待機だ』

『はい』

『器よ、妾たちも闘技祭とやらに出場したいぞ』


 <神剣・三叉法具サラテン>の沙が思念で伝えてきた。


『輝けるサセルエルの短剣は一つだけだから無理だろ。武器を複製できるスペシャルなスキルがあれば、出場可能かもしれないが』

『ふむ。器が出場するとして、試合の途中で妾たちを使ったら反則にならないのか?』

『どうだろう。使役する立場だからな……ルールなどを聞いてからだな』

『ふむ』


 思念会話の間にも、蜂の形状の偵察用ドローンが個別に動いてフクロラウドの敷地内へ侵入している。


 既に数個の偵察用ドローンの視界がブラックアウトしていた。


 侵入者に反応する結界か防御システムに掛かったようだ。


 一部の衛兵と傭兵が、その偵察用ドローンが散った場所の方向へ向かうのを、俺が操作する他の偵察用ドローンの視界から確認できた。


 敷地内を歩く商人、冒険者、傭兵の格好をした者たちは、自然体で中央の魔塔へ向かっている。


 サセルエル夏終闘技祭に参加する方か、ただの観客か。


 中央の魔塔は防御が硬そうだから――。

 敷地内の小型魔塔と工場のような建物の窓を重点的に調べていく。


 ま、夏終祭の闘技大会だ。

 さすがにスナイパーなどの暗殺者はいないと思うが――。

 否、優勝者、観客席、出場者を狙うどこぞの暗殺者がいるかもだ。


 俺たちと関係のない組織同士の争いが行われている可能性もある。


 それに、フクロラウド・サセルエルは暗殺一家チフホープ家と繋がっているという情報もある。


 クナたちが便宜を図り手打ちの交渉を済ませたが、俺はチフホープ家の三人を殺している。


 そして、長男マスクオブフェルトは、家族会議の結果次第で、俺に接触してくると語っていたと血文字で報告を受けている。


 だが、音沙汰はない。


 寝ている間に仕掛けてくることもなかったから襲撃してくる可能性は低いと思うが……。


 工場のような建物の中は、小型飛空艇ゼルヴァが詰まった倉庫兼修理工場だった。


 岩魔導傭兵のような傭兵が数人で建物を守る以外は人族とドワーフの工兵のような方々が働いている。


 工場兼修理工場の建物は大丈夫――。

 他の偵察用ドローンをチェック。


 偵察用ドローンの視点を次々と切り替えながらアーゼンのブーツを装着し、


「相棒、降りよう」

「にゃ」


 同時に<導想魔手>を消した。

 <闘気玄装>を発動、強める。


 浮力を得ながら通りの端に着地を行った。

 すると、左の通りを馬に乗った人族たちと箱馬車が通る。


 騎乗している方々の殆どが人族。

 揃いの戦闘装束を着ている。大規模な冒険者クランか、或いは傭兵商会か。

 一流所の戦闘集団に見えた。箱馬車には窓があり、窓の中には、揃いの戦闘装束を着ている方々。

 

 女性と男性の初老の方は貴族かもしれない。

 その馬に乗った戦闘集団と箱馬車はヴィーネたちがいる漆黒の玄関口を通りフクロラウドの敷地に入った。

 サセルエル夏終闘技祭に出場する方々?

 それとも見学のVIP?


 偵察用ドローンの一つを、その方々につけた。


 偵察用ドローンと共有している視界を確認しながら目の前を見て、相棒に、


「ロロ、ここまでの飛行ありがとう」

「にゃ~」


 黒猫ロロは俺の顎と頬に頭部を寄せてくれた。


「さて、相棒とヘルメ、皆が待つところまで行こうか」

「にゃ~」

『行きましょう~』


 漆黒の正門の前に移動していた皆と合流。


 正門には門番はいないが、左右の位置に魔力を発している灯籠があった。


 ただの光源かな。

 門は開いたまま。


 結界的な薄い膜のようなモノがあり、奥に向かう石畳と広い敷地が覗いている。


「シュウヤ、周囲は大丈夫そう?」

「あぁ、中央の闘技場を兼ねた巨大魔塔はまだ調べていないが、今のところは大丈夫っぽい」

「そうですか。ここは広い敷地ですからね」


 ヴィーネとエヴァに頷く。

 キサラと目が合うと、頷いて、


「ふふ、シュウヤ様、<補陀落ポータラカ>で魔法結界を正門ごと破壊しますか?」

「ご主人様、魔法結界を斬りましょう」


 ヴィーネとキサラが冗談だと思うが、笑顔を浮かべながら前に出る。


 キサラはダモアヌンの魔槍を構えていた。

 ヴィーネは両手にガドリセスと新武器を持ちつつ語る。


 先ほどの箱馬車を中心とした戦闘集団はすんなり通っていたから、何もないと思うが。

 その箱馬車と戦闘集団は巨大な魔塔の裏側で止まった。

 馬に乗った方々は、先に馬から降りて整列を行う。


 左腕に腕章を巻く複数人の隊長クラスの方々が、それらの戦闘集団に指示を飛ばしていた。


 戦闘装束が軍服に見えてきた。

 【天凛の月】とは異なるが、かなり渋く格好良い戦闘装束。


 傭兵商会かと思ったが、闇ギルドかもしれない。


 箱馬車から降りた方々を凝視。

 戦闘装束は隊長クラスの方々とは異なった。

 左胸のワッペンが豪華。幹部か団長か盟主か。

 二人いるから団長と副団長かもしれない。

 

 そのお偉いさんたちは、整列している戦闘集団の前に移動し戦闘集団に何かを語る。『立てよ国民!』ではないだろう。そのお偉いさんたちは身を翻して、先に裏口のような場所から巨大な魔塔の中へ入った。


 戦闘集団と隊長クラスの方々も掛け声を発して、その箱馬車から降りた方々の後を追う。

 

 戦闘集団が進む通路の天井スレスレを偵察用ドローンが移動――。

 この偵察用ドローンを操作する感覚はゲーム感覚で面白い――。


 まさにFirst Person Shooter。

 日本ならファーストパーソン・シューティングゲーム。

 を体感中――。


 戦闘集団は観客席とは違う出場者か関係者用の通路を進んでいく。


 坂道の通路から観客席も見えた。

 かなり大きい闘技場と分かる。


 そこで一旦、目の前の視界に集中。


 もしかして、〝輝けるサセルエル〟で魔法結界を斬ることが必要とか?


 そんな思いでクナに視線を向けた。

 クナは、


「これは単なる魔法障壁です。普通に通れます」


 スタスタと先に正門を潜っていた。


「了解、行こう」

「ん」

「「はい」」

「にゃ~」


 胸ベルトから直ぐに〝輝けるサセルエル〟は取れる。


 クナを追い掛け正門を潜った。


 同時に無数の偵察用ドローンを操作――。

 サセルエル夏終闘技祭が行われようとしている巨大な魔塔と側に浮く四つの魔塔へ偵察用ドローンを侵入させようとしたが、四つの魔塔の内、三つの魔塔には侵入できず、いきなり爆発したように散った。


 幸い、偵察用ドローンは蜂の大きさ。

 スズメバチやミツバチが倒れてもだれも気にしないように、偵察用ドローンに気付いてはいないはず。

 ま、フクロラウド・サセルエル本人は、何者かが侵入しようとしたことには気付いたか。

 

 浮いている魔塔の中で一つの魔塔にだけ浸入できた。

 中の部屋は右側が壁、壁際に寝台が並ぶ。

 丸い机と四角い机と椅子。

 机にはランプと野菜とゴブレットが置いてある。


 それらの机の周囲の椅子に座っている方々は厳つい方が多い。


 サセルエル夏終闘技祭の出場者の方々か。


 そこで、クナたちと無難に会話しながら前に進む。

 巨大な魔塔に入った偵察用ドローンの視界は闘技場となる。

 サセルエル夏終闘技祭の会場の観客席は四階はありそうな巨大なコロセウム会場。

 

 四角い舞台だから古代ローマのようなコロセウムとは異なるが、そんな印象だ。

 高い位置の観客席にはVIP席もあると分かる。

 巨大な魔塔に相応しい闘技場。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る