九百四十五話 巨人と鋼鉄の門


 武芸者にしか見えない観客らしき方々と一緒にフクロラウドの魔塔に向かう。

 近づけば近付くほど巨大な魔塔と分かる。


 ヴィーネとキサラが俺の斜め前に出ていた。

 クナとエヴァが俺の横で、右肩に相棒が乗っている。

 その黒猫ロロはエヴァを時々見ているが、跳び移ったりはしない。

 

 巨人の口が開いたような出入り口が少し先に見えてきた。と、今の今まで見えなかった巨大石灯籠が通りの左右に出現。

 

 その左右の巨大石灯籠から放電するような魔力が前後左右に迸る。

 放電するような魔力は宙に広く展開されていた。

 その巨大石灯籠のある石の床には極めて小さい魔法陣が幾つも存在している。


 あれ?

 

 正面の魔塔の色彩が空間ごと変化した。

 転移ではないし、心象世界を造りだすようなスキルでもない。


 巨大な魔塔の出入り口も大きく変化を遂げる。

 フクロラウドの魔塔が円錐の巨大な魔塔であることに変わりはないが、正面には……。


「「おぉ」」

「え?」

「あっ、え、巨人!」

「こ、これは驚きです」

「「凄い!」」


 皆も驚いた。

 鋼鉄の巨大な門も驚きだが、その左右には柱のような生きた巨人がいた。


 巨人の頭部には破れた布袋とパッチワークで繋がった巨大な首輪の枷が嵌まる。


 両足にも巨大な枷が嵌まっていた。

 

 その巨人を押さえている頭部と首と両足の枷からは巨大な鎖が周囲の床と繋がっている。巨大な鎖はピンと張っていないから、多少は動ける範囲はあると分かるが……。

 

 あの巨大な鎖を上っていけば、巨人の上半身に移動ができそう。


『地獄の門』を想起した。

 

 そして、地底神ロルガなど、凶悪なキュイズナーたちが無数にいた独立都市フェーンの巨大な門のほうが大きいが……。


 あの地下都市も思い出す。

 

 見た目は、凄惨さもあるが、圧巻だ。

 

「は、はい。今の今まで見えなかったのは……しかし、頭部には布袋と一体化した特殊な首輪に、足枷……」

「ん、巨大な鎖で囚われた門番の巨人?」

「はい。驚きですが、フクロラウドの魔塔の巨大な鋼鉄の門の開け閉めを行う巨人なのでしょう」


 通りを進んでいたサセルエル夏終闘技祭の客だと思われる方々も驚いている。


『巨人とは驚きです』

『あぁ』


 武芸者が多い印象だが、新規の客の方々も多いのか。


 その先頭の客たちは、衛兵のような方に印を見せていた。


 〝輝けるサセルエル〟ではない木片か?


 しかし、偵察用ドローンに見えている視界と異なるとは……。

 あ、俺たちが間を通ってきた、すぐ背後の左右の巨大石灯籠が映す幻影?


 否、目の前の鋼鉄の巨大な門と巨人は本物と分かる。


 巨大石灯籠の魔力が、この鋼鉄の門と巨人を隠す役割を果たしていたんだろう。

 

「ご主人様、偵察用ドローンでは見えなかったのですか?」

「あぁ、俺の視界と複数の偵察用ドローンの視界の出入り口は異なる」


 皆と話をしながら、その巨人が支えているようにも見える巨大な門を抜けようとした。


 すると、鎖に繋がれている巨人の足下にいた衛兵か傭兵の集団が、俺たちに近付いてくる。


 先頭の衛兵の一人が、


「サセルエル夏終闘技祭のチケットの印を拝見します」


 皆、俺を見た。

 胸ベルトに嵌まる〝輝けるサセルエル〟を指で数回叩くと、ヴィーネたちは頷く。


 衛兵に、


「〝輝けるサセルエル〟があるんだが」

「あ! これは失礼を、サセルエル夏終闘技祭の出場者の方々ですか。ではこちらからご案内致します。付いてきてください」

「了解」


 皆、アイコンタクト。

 衛兵は踵を返して、巨大な門の右側を進む。

 ロープで囲われた出場者用と目される専用通路があった。

 そこを皆と進む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る