九百四十話 ビーサの処女刃と〝黒呪咒剣仙譜〟の真実

 そのビーサの横から、


「ンン、にゃお~~」

「おぉ~」


 アドゥムブラリを頭部に乗せた黒猫ロロが急に戻ってきた。

 ビーサと俺の足に、そのアドゥごと頭部をぶつけてくる。


「ひぅぁ~ぬぁ」

「あ、ロロ様~」


 アドゥムブラリの変な声が響いたが、ビーサは気にせず黒猫ロロの頭部ごとアドゥの単眼球を撫でていた。が、黒猫ロロは、


「ンン――」


 と鳴いて俺たちから離れた。

 ディアとドロシーの下へ走ると、《水幕ウォータースクリーン》を展開してくれていたヘルメが低空から飛来してくる。

 体から魔力粒子と足から水飛沫を発生させつつ可憐に着地を行った。

 蒼い髪がそよぎ、グラマラスな巨乳さんが揺れる。


 ――水滴のような髪留めは前と変わらず可愛い。


 常闇の女聖霊ヘルメの髪形は変化していた。

 肌の色も少しだけ艶が増したかな。

 あ、新衣裳だったのか。


 玄智の森帰りの俺の魔力をヘルメが取り込んだ影響か。

 水の羽衣のような衣装と肌と密着した下着は少し変化を遂げている。


 蒼色が基調なのは同じだが虹色が増えたかな。

 その新衣裳と下着の表面には、虹色と銀色の水滴が増えた。

 

 闇蒼霊手ヴェニューと腰に注連縄を巻いている子精霊デボンチッチの印もある。


 注連縄を腰に巻く子精霊デボンチッチ……を見ると、心がジーンとしてきた。

 別れたわけではなかったんだな。


 ……俺の中で玄智の森が息衝いている。


 闇蒼霊手ヴェニューのほうの印は動いていた。

 それらの印はメーカーを示すようなロゴマーク的で、ピンポイントのアクセサリーにも見えた。


 お洒落さが増している。

 衣装類の端から放出中の魔力粒子と水飛沫にも虹色が増えていた。

 そして、グラマラスな乳房とくびれた腰にスラリとした足はいつ見ても素晴らしい。


 ヘルメは俺以外からの視線を胸に受けたことに気付く。

 と、己の巨乳を片手で押さえる悩ましいポーズを取った。


 魅惑的すぎる。

 周囲の若い野郎な【天凛の月】の兵士さんたちは発狂したように魔塔ゲルハットに向けて走り出す。


 股間がもっこりさんか。


 はは。


 魅力的なヘルメは少し微笑んでから、ビーサと俺を見て、


「うちゅうの銀河騎士たちが様々な剣技の幻影を見せていましたが、ビーサと閣下は新しい銀河剣技を学ばれたのですか?」

「俺は学べていないが、ビーサは?」

「学べたようです。<筆頭従者長選ばれし眷属>に進化を果たした瞬間ですが、銀河戦士カリーム用の<超翼剣・血斬架>を獲得できました」

「おぉ」

「幸先が良いです!」

「はい、わたしも処女刃の儀式を済ませて〝黒呪咒剣仙譜〟を読みたい」


 ビーサは、はきはきと語る。

 ヘルメは鷹揚な様子で頷いて、


「では、わたしもペントハウスへとお供したいと思います。閣下、よろしいでしょうか」

「おう」

「ビーサもよろしいですね?」

「はい」


 さて、相棒は?

 相棒に乗ってペントハウスに向かうかと思ったが――。

 その黒猫ロロはディアとドロシーたちと一緒に正門へ移動中。

 

 そんな黒猫ロロの頭部に乗ったアドゥムブラリはマスコットの人形に見える。


「ロロちゃんのアドゥ人形ちゃんが可愛い~」

「瞼と皮の一部の感触も可愛いです!」

「ぬぁぁぁ、娘ども! 俺は人形じゃねぇ~!」

「ンン」

「にゃろめぇ」

「にゃおお~」

「うひゃひゃ~」

「ンンン――」


 ドロシーとディアとアドゥムブラリと黒猫ロロのやりとりが面白い。

 アドゥムブラリも昔を思い出しているのか、美少女にマッサージを受けて喜んでいる?

 

 そんな皆の背後から異界軍事貴族たちもぞろぞろとついていった。


 声は掛けない。

 黄黒虎アーレイ白黒虎ヒュレミは戻ってくる。

 

 黒猫ロロはエセル広場へ散策に出かけるドロシーとディアの護衛のつもりなんだろう。


 ユイとミナルザンとキサラとミスティが模擬戦を開始している。

 ユイは〝黒呪咒剣仙譜〟から得た新剣術スキルを披露――。


 二刀の回転の斬撃と突き技を、ミナルザンは獄炎光骨剣で正確に弾き退く。

 ミナルザンは普通に強い。

 が、ユイは、それを超える右に出る踏み込みからのフェイントで、左半身に隙ができたミナルザンの胴体に柄の打撃と肘打ちのコンボを喰らわせていた。


 ミナルザンは吹き飛ぶが、すぐに回復ポーションを浴びて元気になった。

 

 ユイは近接格闘も向上か。

 少し背筋が凍る動きの質だった。


 もし闘ったら俺、大丈夫か?


 ミスティはゼクスを操作。光剣を袈裟斬り機動で放ち、ユイの<黒呪仙剣突>を防ぐ。


 キサラは仕込み魔杖から黒い炎を発する斬撃をユイに繰り出していた。


 あれは<黒呪仙炎剣>だろう。


 ユイはその斬撃を軽々と避ける。

 仕込み魔杖を振るっていたキサラにミナルザンが突撃。

 キサラはユイの反撃を魔杖から迸る魔刃で受けながら、サッと身を退いて、ミナルザンの獄炎光骨剣の袈裟斬りをギリギリの距離で避けると、体から数羽の鴉を発生させつつ消えたようにユイの横に転移したが如く移動した。


 ユイは、キサラのジョディばりの転移術のような移動に驚いて横に移動。

 逃げに徹した代わりにミナルザンがキサラの魔刃の斬撃を受けつつ退いていく。

 

 ミナルザンもキサラの〝黒呪咒剣仙譜〟で学んだスキルの斬撃を何度も受けている。

 さすがはミナルザン、時折反撃しているし、【外部傭兵ザナドゥ】の傭兵百兵長、頗る強い。

 

 が、さすがに<筆頭従者長選ばれし眷属>のキサラだ。


 ダモアヌンの魔槍ではない仕込み魔杖の剣術だが、連続した斬撃に反撃の機会は減っていく。

 その様子を見たヘルメが、


「キサラとヴィーネは〝黒呪咒剣仙譜〟を学び終えたようですね」

「あぁ」


 足に二頭の頭突きを喰らいつつ、そう返事をした。

 ミスティはまだ〝黒呪咒剣仙譜〟を読んでいないから普通にゼクスを扱っている。


「にゃァ」

「ニャォ」


 ヴィーネは模擬戦ってより、〝黒呪咒剣仙譜〟を学び終えた直後の確認か。

 俺がプレゼントした長剣を大剣に、特大剣へと変化させては長剣に戻していた。


 その新しい剣を掌の中で回転させていく。


 あの回転剣技は……。

 俺が、槍を風車のように回す槍の動き、盾代わりに応用が可能な回転技と似ている。


 その回転する剣から黒色の波紋が発生していた。

 剣の新スキルか、魔剣のなら独自のモノか?


 ヴィーネは同時に反対の手にガドリセスを召喚しつつ前傾姿勢で駆けた。


 左右の腕が伸びたようにも見える二振りの剣身と、走る所作が渋すぎる。

 二剣流の歩法で前方に駆けるヴィーネはガドリセスと新武器の切っ先を突き出す。


 両肩と両腕を揃えた二剣の同時剣突。

 幻想の敵の胸を、その二剣の切っ先が突き抜けた気がした。


 ヴィーネは、その二剣を放るように手放した。 

 続けざま斜め上へ左手を、背中側に右手を回して、体に巻きこむように体を捻る。


 蹴り技か?

 囲まれたことを想定した?


 宙空に放った長剣とガドリセスの柄巻を、その斜め上と背中側に移動させていた位置で掴む。

 その体に絡めたようにも見えた両腕を一気に解放する二剣流の横一閃を繰り出した。


 己の長い銀髪と<血魔力>が真っ二つ。

 ――凄い剣技。


 そのまま左右の腕を鞭の如く振るいながら前進――。

 時折、体を半身ズラす機動を見せるように緩急をつけている。


 と、速度を上げて前方にいるだろう幻想の敵に向けて、横回転の回転斬りを数度、前方と真横へ繰り出していた。一度、二度、フェイク入りか。ヴィーネもユイに負けず劣らず、凄い剣術だ――更に動きが加速。

 両腕が、鞭の如く揺れ動く。

 ――宙に乙の字を連続的に描く剣線を発生させた。

 更にヴィーネ自身が残像を発生させるほどの反転を行うや二剣を『神神も照覧あれ』と言うが如く迅速に振るい、残像を分断させる斬撃を繰り出した。

 その直後、腰を沈め、跳躍――後方宙返り、そのまま飛空術か。


 すると、


「ぴゅ~」

 

 荒鷹ヒューイだ。

 飛行術で飛翔するヴィーネの背中に付こうと急降下。

 

 ヴィーネは、そのヒューイに『大丈夫』と語りかけるように優しい表情を浮かべた。


 そのままヒューイと宙を併走。

 可愛いと格好いいが同居した鷹との飛行か。


 素敵過ぎて、なにも言えない。

 そのままヒューイとヴィーネは左右へ分かれて飛ぶ。

 宙空を何度も跳ねるように飛行するヴィーネと、ヒューイの機動が美しい。

 

 ヴィーネの銀色の髪が靡き翼に見えてくる。

 光沢が目映い銀色の翼は、貝殻の裏を思わせる。


 航空自衛隊のジェット機の編隊曲技飛行チーム、ブルーインパルスの曲芸飛行を想起した。


 クレインかカットマギーがこの場にいたら口笛を吹いただろう。

 

 〝黒呪咒剣仙譜〟から学んだ新しい剣術のことを忘れさせる。

 そんな美しい銀髪のヴィーネは華麗に着地。


 同時に赤燐の鞘へガドリセスを納めていた。

 幅と長さが自在の魔剣も透魔大竜ゲンジーダの胃袋に仕舞う。


 訓練は終了かな。

 と思ったがヴィーネは歩く。

 そのまま体に<血魔力>と<黒呪強瞑>を纏って斜め前方へ駆け始める。

 

 走るヴィーネの前方の庭には、地下行きの広大なスロープが存在するが……。


 速いヴィーネは<血道第二・開門>と<血道第三・開門>はまだのはず……。

 ヴィーネの加速力は<血液加速ブラッディアクセル>のような加速に見えた。


 両足の裏に発生させた<血魔力>を活かす滑る走り。

 その走り中に反転。すると、戻りながら、片腕を斜め下に伸ばす。

 あぁ、〝黒呪咒剣仙譜〟か。

 

 その〝黒呪咒剣仙譜〟を拾ったヴィーネは速度を落とす。

 側転からバク転を行いながらエヴァの近くに戻っていた。


 そのヴィーネはエヴァに「次はエヴァの番です」と〝黒呪咒剣仙譜〟を渡した。


「ん、ありがとうヴィーネ。格好良かった」

「ふふ、はい」


 ヴィーネにお礼を言ったエヴァは魔導車椅子に座りつつ――。

 〝黒呪咒剣仙譜〟を持つ片腕をあげて、俺に、


「ん、シュウヤ、次はわたし!」


 と笑顔を見せてくれた。

 その笑顔に魅了されながら、


「おう」


 と返事を送る。


「ん、あ、ビーサの処女刃を優先してくれていいから」

「それはそうだが、〝黒呪咒剣仙譜〟だからな。気になるんだ」

「はい。わたしもです」


 ビーサも俺に同意する。

 レベッカが、


「ビーサの処女刃も大切だけど、エヴァの〝黒呪咒剣仙譜〟の修業は厳しくなるかもしれないわよ?」

「どうしてだ?」


 あ、エヴァだからこそか。


「ん……」

「エヴァの<紫心魔功パープルマインド・フェイズ>か」

「心が読めるエクストラスキルが、〝黒呪咒剣仙譜〟に棲まう武人の魂にアクセス? エヴァは<サイコメトリー>の素質もあるのですね……」


 ビーサがそう発言。

 ビーサも<超能力精神サイキックマインド>が使える。


「……〝黒呪咒剣仙譜〟の中身の仙武人か鬼魔人の武人の魂にアクセスできちゃう? だとしたら逆に危険?」


 レベッカが、エヴァと俺と〝黒呪咒剣仙譜〟を見ながら語る。


「なら止めとくか? それか〝精神感応繊維魔装甲〟の魔導衣服を装備したほうが良いかもしれない」


 戦闘型デバイスのアイテムボックスから、精神感応繊維魔装甲を取り出した。


「ううん、精神感応繊維魔装甲を着たら、傷を体に受けられないかもしれない。そしたらスキルが得られないかも。あと、皆と同じ風にがんばりたいから……ごめんね」


 エヴァは偉い。


「そうね。武術の素養があるエヴァだし、〝黒呪咒剣仙譜〟の中身から<黒呪強瞑>とは違う新しい何かが得られるかもしれないわよ?」


 レベッカがそう予想。

 それもそうだなと、精神感応繊維魔装甲を仕舞う。


 エヴァを見る。


 エヴァも応えて、俺がプレゼントしたトンファーを掲げた。

 自慢げなエヴァの表情が微笑ましい。


 そのエヴァが、


「ん、八角の面に出た刃と、銀の龍と魔刃が出るトンファーを試す!」


 力強いエヴァの語り。

 同時にエヴァの小鼻が少し拡がり窄む。


 可愛い。

 レベッカもはにかむと、


「八角の面の刃は刀みたいだし、剣ってことでも通用しそう! とにかくエヴァ、がんば!!」

「ん、がんばる! あと、ユイとキサラとヴィーネは痛そうだったから覚悟する!」


 元気溢れるエヴァだ。


「にゃァ~」

「にゃォォ~」


 黄黒虎アーレイ白黒虎ヒュレミもそんなエヴァを応援。


 エヴァはレベッカと周囲の皆と目配せ。

 数度頷いてから、笑顔を【天凛の月】の若い衆にも送る優しさを見せた。


 そして、〝黒呪咒剣仙譜〟を開いた直後、


「ん、皆と同じく魔力を得た――」


 同時に〝黒呪咒剣仙譜〟の幅の狭い本の天から放出されている剣刃の魔力を体に浴びていた。


 エヴァは〝黒呪咒剣仙譜〟をジッと真剣に見つめ続ける。


 ユイたちは模擬戦を一時中断、エヴァを見守る。

 エヴァは、


「あ、刺繍の文字が出た!」


 と発言。目が合うと頷いたエヴァは、


「ん、『内なる魔力を己の呪咒の剣刃として感じ得よ』、『さすれば己の内の魔力が自然と武と力と剣となろう』、『同時に己の内の底を刮目せよ!』」


 と力強く語る。


 『同時に己の内の底を刮目せよ!』は、俺が翻訳できなかったところだ。


 <紫心魔功パープルマインド・フェイズ>で読めたのか?


 同時にエヴァの〝黒呪咒剣仙譜〟を読む声などの様子から……。


 宋の朱熹が唱えた『読書三到』を思い出す。

 

 目をそらさずよく見ることの〝眼到〟。

 声に出して読むことの〝口到〟。

 集中して、心を散らさず読むことの〝心到〟。


 五行の『太極図説解』などの森羅万象や道徳を論説した朱熹は、有名だ。


 日本なら江戸時代の官学、朱子学か。


 今のエヴァなら〝黒呪咒剣仙譜〟に棲まう仙武人、仙剣者、魔族かもしれないが、謎の方の真意を悟れるかもしれない。


 開かれたままの〝黒呪咒剣仙譜〟が、エヴァの両手から離れて浮かぶ。


 更に開いた状態の〝黒呪咒剣仙譜〟から――。

 仙武人の幻影が出現。


 その謎の仙武人は魔剣の切っ先をエヴァに向けた。

 この辺りは皆と同じ。 

 謎の仙武人か、魔族の仙剣者は、その魔剣を迅速に振るう。


 最初は太極拳の動きと似ているところがポイントか。


 真剣なエヴァは、魔導車椅子を溶かす。

 その溶かした液体金属を己の骨の足へ装着させて金属の足を瞬時に生成。


 踝には小さい車輪が備わる金属の足で駆けた。

 紫色の魔力と<血魔力>を己に纏うと前進。

 

 そのまま刃が出た新トンファーを左右に振るう。


 <黒呪咒剣仙>の稽古のようなモノが始まった。


「ん――」

 

 エヴァは体に傷を受けたか、体に衝撃を受けて震えてしまう。

 エヴァの痛がる様子はあまり見たくない。


 が、逆の立場を考えれば……。

 皆も俺が修業する間、俺が傷付く光景を目の当たりにしていた。凄く嫌だったはずだ。


 だから俺も我慢しよう。

 エヴァや皆が強くなるためだ。


 キサラとヴィーネと目が合うと、

 

「エヴァも<黒呪強瞑>は当然として、剣術スキルを獲得できるかもですね」

「はい。エヴァですから、特殊な何かを?」


 頷いた。


「精神力に特化しているエヴァなら、〝黒呪咒剣仙譜〟に秘められた何かを掴む可能性があるか」


 キサラは頷いて、


「シュウヤ様も、わたしたちが覚えていない<神咒法・黒黎>を得ていた」

「たしかに、ありえますね」


 ヴィーネも同意するように語る。

 頷きつつ、奮闘を続けるエヴァを見た。


 エヴァはトンファーの棒を動かし、必死に〝黒呪咒剣仙譜〟から出現している幻影の武人が繰り出す剣舞を真似ていた。


 時折、止まって体の痛みを我慢するエヴァ。

 助けたい。が、我慢。


「……そうだな。で、ヴィーネとキサラは〝黒呪咒剣仙譜〟から何の剣術スキルを得たんだ?」

「大量の剣術スキル獲得には至りませんでしたが、<黒呪強瞑>、<黒呪仙剣突>と他に幾つか覚えました。更に、元ダークエルフで魔導貴族だからか、ユイが覚えていない剣術スキルも獲得しました!」

「おぉ~ダークエルフ独自か」

「はい!」

「わたしもです。ユイやヴィーネほど多くないですが、<黒呪仙炎剣>、<黒呪仙黒魔剣>、<黒呪仙陀羅尼剣>を獲得できました!」

「おぉ~」


 ヴィーネとキサラらしさが出た。


 二人に自然とラ・ケラーダを送る。


「めでたい。新しい剣術スキルの獲得おめでとう」

「「ありがとうございます!」」


 二人は嬉しそう。


「〝黒呪咒剣仙譜〟は個性が活かされるようだな」

「はい。シュウヤ様の玄智の森での行為が、全員の強化に繋がった」

「すべてご主人様のお陰」


 模擬戦を止めているユイたちも、ヴィーネとキサラの言葉に頷く。


 ミスティは空を舞うヒューイの傍へゼクスを向かわせながら、俺たちの会話を聞いて頷いていた。


 ヴィーネが、


「ナミの成長を促す夢魔世界の施術を受けたあとの更なる強化ですからね。わたしたちは確実に強まっています」


 その語りにヘルメが鷹揚な態度で俺と視線を合わせてくる。


 先の念話の中にあった言葉を言いたいんだろう。


『分かってる。セナアプアは安泰だな?』


 と語るようにヘルメとアイコンタクト。

 常闇の水精霊ヘルメは満足そうに微笑んでくれた。


 キサラが、


「クレインも〝黒呪咒剣仙譜〟を読んで学びたいはず」


 そう語りつつヘルメと俺の間に割って入る。

 キサラの嫉妬顔は可愛いが、嬉しそうだ。

 

 ヴィーネとキサラの表情を見ると、玄智の森を神界セウロスに戻せて、本当に良かったと思える。


 そして、皆の成長したいという向上心を見ると、とても嬉しくなった。

 皆に、


「んじゃ、皆、ビーサの処女刃の儀式をペントハウスで行うからあとでな」

「はい、センティアの手を用いた【幻瞑暗黒回廊】での移動はいつ行いますか?」


 直ぐに向かうつもりだったが、ディアとドロシーの姿を見ると考えさせられた。


 と思いつつ、正門を見た。

 ディアとドロシーの女子生徒組と相棒たちの姿は見えない。

 もう外か。


 魔煙草を吹きつつ――。


「……まだだ。ディアはここで夏休みを続けてもらう」

「新しい友のドロシーと仲良くなったディアは幸せそうです」

「ドロシーにとってもディアの存在は大きいように思える」

「はい。同世代の友のディアだから話せることも多々あると思います」


 ヴィーネは幼い頃から厳しい環境で暮らして壮大なサバイバルを生き抜いてきた。

 そんなヴィーネからしたら、ディアやドロシーの生活は生ぬるい環境だと思うが、随分と優しい。


 キサラも、


「はい、昔を思い出します。今の環境だからこそ学べる機会も多いかと。屋上の植物園などの環境は、わたしたちの学びにも活かせそうですし」


 魔塔ゲルハットの環境は一つの町のようになりつつあるからな。

 飛行術も学べて、アギトナリラ、ナリラフリラなどの管理人もいる。

 すると、ヴィーネが、


「あ、まだ大魔術師ケイ・マドールは帰ってこないです。魔塔ナイトレーンの問題は長引いているようですね」


 あぁ、大魔術師アキエ・エニグマか。

 武装魔霊の魔霊イナの歯の飾り玉を使役する大魔術師ダルケル・ロケロンアは忘れられない。


 アモアスス、シオン、インベスル、キュイジーヌたちもがんばっていると思うが……。


 そして、龍魂雷魔犀の骨をくれたキュイジーヌとも、もっと仲良くなりたい。


 が、大魔術師ケイ・マドールのほうが重要か。

 【塔烈中立都市セナアプア】の自然豊かな浮遊岩のことを知る大魔術師ケイ・マドール。


 浮遊岩の植物に関する知識は膨大。

 

 もっと情報を共有して知り得たいところだ。

 

 俺たちが知らない秘薬などもあるかもしれない。


 俺が持ち帰ったサデュラの葉、擬宝珠、錬金術に使うような素材の箱数個、万仙丹丸薬などは興味を引くだろう。


 ……クナがかっぱらうかもしれないが。


 キサラに向け、


「昔とは黒魔女教団十七高手との修業のことかな」

「はい。総本山での仲間たちとの修業は厳しいものでした。が、それがすべてではなかったですから。それに、魔法学院ロンベルジュのクラスでは、ディアを狙う陰湿なイジメがあると聞きました。そのイジメを行う者の親たちが行うアス家を狙う集団ストーカーの話も。ですから、魔塔ゲルハットで幸せなら、それで良いと思います」


 たしかに、一理ある。


「アス家が持つ絹製品と穀物を扱う大商会も被害に遭ったと聞いたな」


 その発言を聞いたミスティも寄ってくる。


「そうそう。陰湿で、かなりかっこ悪い連中。言ってるこっちが恥ずかしい。だからシュウヤも忙しいし、今は、このセナアプアで過ごしてもらうのも良いと思う」

 

 頷いた。

 ディアの兄クシュナーさんが死んだとされる事件は、サケルナートと貴族連中が絡むことは明白。

 アス家のご両親も、その事件の闇を追うディアのことを心配しているだろう。


「そうだな。が、アス家の肩を持つわけじゃないが、そんな連中を含めて野放しにするのもな? だから、少ししたら兄クシュナーさんの件を追うつもりだ」

「うん、【幻瞑暗黒回廊】ね」


 ユイの言葉に頷いて、


「おう。そして、これは予想だが、魔法学院ロンベルジュだけの話に留まらないだろう」


 ヴィーネが俺を凝視しつつ、


「では、王都グロムハイムに向かうことに?」

「たぶんな。【白鯨の血長耳】に、無数の闇ギルド、邪教、三カ国の工作員と海千山千の上院下院の評議員がわんさかといるセナアプアよりは、単純だと思うが……」

「はい……王都グロムハイム……」


 ヴィーネは呟く。

 キャネラスなどから、王都グロムハイムについてのことは聞いたことがあるっぽい。


 すると、ミスティが、


「ふふ、ディアの告白があったように、ペルネーテに戻ったら、ご両親に相談するのもアリね?」


 と笑いながら発言。


「ミスティは先生として面倒見が良いと分かるが、いいのかソレで」

「勿論、結婚には反対。そのことはディアも知っているし、シュウヤとわたしたちの関係も勿論、あの子は知っている。わたしたちの関係を見て、ディアが諦める必要はないって言ったの。挑戦すべきだとね。好きな人なら素直に告白すべきと。隠れてコソコソと付き合うとかは論外だけど、正々堂々と好き嫌いの心の表現はするべきだと。本人のためにはそれが良いと思うから」

「寛大だが、その教えを実践するディアも良い子だな」

「うん。ま、教えってより、眷属としての絆に自信があるからこその余裕の表れでもある。そして、アス家とシュウヤが結婚云々じゃなくても繋がれば、そのコネクションは互いにWin-Winな面が多い」

「……そういうことか」


 皆が頷いた。

 男と女よりも大きな視点での判断。

 

「王権が絡むとなると、きな臭くなるが」

「……そうねぇ。サイデイルに絡む大貴族もいる」

「シャルドネとの会見と前後して俺がヘカトレイルのホテルで潰した伯爵と、その部下の人形遣いか」

「うん、ゼントラーディ。ま、女狐のシャルドネに念を押したシュウヤだから大丈夫だとは思うけど」

「はい。オセべリア王国の貴族たちの外堀は埋まりつつある?」

「……それじゃ、王都グロムハイムのアス家が【天凛の月】の足掛かり?」


 そう聞いたレベッカの言葉に奮闘中のエヴァ以外が頷いた。

 メルたちとの血文字の会議の結果もありそうだな。


「どちらにせよ、いずれの話だ」

「はい」


 さて、ヴィーネに、


「今は陽夏の何日だ?」

「陽夏の八十九日です」


 お?


「なら、ディア関係は、木枯らしの秋に入ってからにしようか。ビーサ次第だが、明日はサセルエル夏終闘技祭だ」

「あ、あぁ~、オプティマスから得た短剣がありましたね!」

「そういえばもらってた。【幻瞑暗黒回廊】を使ってたら出場するチャンスを逃していたかも?」

「あ、〝輝けるサセルエル〟よね」


 皆に向けて頷く。

 キサラは、


「はい、闇の大商人、セナアプアの豪商五指、八巨星の一人のフクロラウド」


 そう発言。


「うん、忘れてたけど、魔塔ゲルハットの建設に関わっていた大魔術師ケンダーヴァルの可能性があるフクロラウド・サセルエル」

「……その謎の人物がいる魔塔へ向かうのですね」

「おう」


 闘技場で闘うことになりそうだが。


 そして、クナとルシェルも、十日前後の時間があったから、転移陣構築のための素材は集めきったかな。


 ジング川とアルゼの街に近いオセベリア領内の【名もなき町】の【闇の妓楼町】からキッシュが治めるサイデイルに戻っているはず。

 レベッカも、


「なら知り合いのクナも呼んでおきたいところ。『ポル・ジャスミン』で買ったお土産に、シュウヤもクナとルシェルにお土産がある」


 と発言したから頷いた。


「キッシュからクナとルシェルについて、連絡は?」

「セーフハウスからサイデイルに戻って、ハンカイさんとサラたちと合流して、樹怪王とオークの軍勢などを蹴散らしているそうよ」


 それはそれで武術の訓練にもなるし、楽しそうだ。

 と思う俺は戦闘狂か。


「了解した。さて、ビーサ、上に行こう」

「はい」


 ビーサの手を握り、「皆、キスマリとミナルザンが〝黒呪咒剣仙譜〟を読む時は気を付けてくれよ?」


 と言いながら跳躍――。


「任せて。それより、あとからわたしたちも乱入しちゃうかも~」

「「ふふ」」

「ははは」

「にゃァ」

「にゃオォ~」

「キスマリは、ディアたちと違い、もろに魔族の体だから、わたしたちが心配する必要はないと思うけど~」

「ミナルザンに化粧を施して耐性を高めてもらうから大丈夫~」


 と下から楽しそうな声が響く。

 皆で血を分け合うエッチな展開も楽しいが、それはそれ。


 足下に<導想魔手>を生成し――。

 跳躍を繰り返す――。


 中層のバルコニーをチラッと見てから真上の漆黒の小型飛空戦船ラングバドルを見て、お洒落なペントハウスの庭に着地。

 

 ヘルメを背後に連れながら、庭を走る途中でビーサを抱えた。

 御姫様抱っこ中のビーサの表情がエロかったが指摘せず。


 ペントハウスの二階に急ぎ向かう。

 ペントハウスの階段を上がった踊り場から廊下でヘルメに待ってもらった。


 そのまま二階の一室で、処女刃の儀式を敢行――。


 勿論、濃密な男女の交わりも行う。

 体が桃色粒子だらけとなった異星人ならではの新エッチ体験は面白すぎた。



 ◇◇◇◇


 

 一日後。

 

 なんやかんやと乳房の膨らみが増した感のあるビーサは、無事に第一関門の<血道第一・開門>を獲得。


「し、師匠、やりました! アァァ……」

「って、また濡れたか。もう俺の血を吸いながら一物を吸うのは禁止な?」

「は、はぅ、はい……」


 くびれた腰とお尻が目立つポーズのビーサを攻めることはせず。


 バックから攻められることを待っていたビーサだったが、姿勢を戻しながら、光魔ルシヴァルの証明と呼べる血文字の連絡を皆に行っていた。


「んじゃ、先に一階か庭にいるだろう皆の所に戻るが、ビーサもフクロラウドの魔塔に向かうか?」


 鏡の使用は皆と会話してからで良いか。


「向かいたいところですが、この魔塔ゲルハットの守りがありますから、皆と相談します」


 【天凛の月】のことをそこまで考えてくれているビーサは良い弟子だ。


「了解。んじゃ先に」

「はい」


 ペントハウスの二階の廊下に出ていたヘルメと合流、一緒に下りた。


「ヘルメ、左目に」

「はい――」


 左目にヘルメを戻してから、ペントハウスのソファでジュースを飲んでいたエヴァとレベッカと合流。


「あ、シュウヤ!」

「ん、ビーサと今血文字を終えた」

「おう。エヴァは〝黒呪咒剣仙譜〟からどんなスキルを学べたんだ? 歩きながら教えてくれ」

「ん、<黒呪強瞑>、<黒呪咒剣仙>、<黒呪仙鬼突>、<神咒・霊剋>。あと、刺繍の仙武人と精神世界で対話した」

「マジか。刺繍の仙武人か魔族の武人の名前は分かったのか?」

「ん、名はショウカク。神界セウロスの仙甲人って種族。<神咒霊刺繍>で己の魂ごと〝黒呪咒剣仙譜〟となったらしい」

「……驚きだ。なんで自ら〝黒呪咒剣仙譜〟に……」

「ん、原因は己にあるって。魔界セブドラの秘術を集めて学ぶことが好き過ぎて、一人、神界と魔界の境にある神魔山シャドクシャリーの洞窟の中で秘術の研究をし続けていた。けど、その神魔山シャドクシャリーは魔界セブドラと神界セウロスの神々の戦いの影響で破壊された。神魔山シャドクシャリーは六眼トゥヴァン、六腕アヴァローキテーシュヴァラなどが多く住んでいたけど、崩壊したって。更に魔界奇人レドアイン、闇神アーディン、狂王ブリトラの争いの余波で、ショウカクさんは瀕死になって、神々の争いから逃げて逃げた。そして、<ドゥルツォン>の砂曼荼羅陣、魔法陣を体に発動させて洞窟に逃げ切った強いショウカクさん。その逃げた洞窟は広く、同じ神魔山シャドクシャリーの麓から逃げていた角を生やす魔族と泡仙人の血を引く女性シラさんと知り合ったの。でも、魔界奇人レドアインの眷属ババアギに襲われて、その女性シラさんは死にそうになった。ショウカクさんの体は既にボロボロだったけど、そのババアキを倒すことに成功。そして、シラさんを助けるためショウカクさんは己の血と魔力に<ドゥルツォン>の力をシラさんに捧げた。シラさんは助かった。けど、ショウカクさんもシラさんも弱りきっていた。二人は黒呪の波紋の傷が体に自然と出るようになってしまう。けど、シラさんは、ショウカクさんにだまって、神咒の糸と針に、自らの命を捧げてショウカクさんの傷を縫ってショウカクさんの命を救おうとした。けど、ダメだった。シラさんは神咒の糸と針とショウカクさんの縫った刺繍に取り込まれたように消えてしまった。ショウカクさんは……悲しんだ。少しだけ回復したけど、死に向かうだけ、己を呪うように神咒の糸と針に魔力を込めながら、己の体に刺繍を縫うと、自然と<神咒霊刺繍>を覚えて〝黒呪咒剣仙譜〟になっていたって……」


 歩いていたが、自然と歩みを止めていた。

 凄まじい話だ。


「うん、分かる。壮絶すぎて、その話を聞いて、暫くぽかーんとなった」

「あぁ……」


 レベッカに完全同意。

 エヴァは苦笑するが、その悲しみを受け入れているところが、また強い……。


 〝黒呪咒剣仙譜〟を読み解いたことになるエヴァ。

 アイテム鑑定士になれるんじゃないかというレベルだ。


「皆には〝黒呪咒剣仙譜〟の話を?」

「庭にいる皆と、血文字で他の都市のカルードさんたちにも伝えた。先生たちは戦闘中かもしれないから送ってない」


 尊敬の眼差しをエヴァに向けながら数度頷く。

 

 ペントハウスを見回した。


 黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミは、ペントハウスに設置してあるパレデスの鏡とゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡の横でゴロニャンコしていた。


 陽が当たって気持ち良さそうに目を細めている二匹。

 微睡んでいた。あの辺りは完全に猫だ。


 俺たちに絡んでこないところが、また可愛い。


「エヴァ、今度またゆっくりと聞かせてもらうかもだ」

「ん、〝黒呪咒剣仙譜〟はヴィーネが持ってると思う。外にいる」

「分かった。クレインとカットマギーはまだかな」

「うん、庭で行う皆の模擬戦には、参加してないと思う」

「下界の地下トンネルは結構大きいからね」


 そのエヴァとレベッカを連れて、ペントハウスの出入り口へ移動――窓越しに頭部を動かす相棒と銀灰猫メトを見ながら、その出入り口を開けた。


「にゃおおお~」

「にゃァ」


 出入り口付近の植木鉢に頭部と頬を擦り付けていた黒猫ロロ銀灰猫メトと合流。

 アドゥムブラリがいない。

 あ、いた。植物園の周囲に疎らに咲いている向日葵のような花に単眼球と翼を擦り付けていた。


 なにしてんだか、放っておくか。

 前は植物園の中に入って、オカシクなっていたが……。


「にゃ」

「にゃァ~」

 

 二匹は俺の肩に乗ってくる。


「ん、かわいい~」

「ふふ~」


 と二人から小鼻をツンツクされている構図はあまり見ないで、ペントハウスの庭を歩いていく。

 歩きながら、背後の二人にむけ、


「普通に浮遊岩で一階に降りられるが、良いのか?」

「うん、飛空術に魔靴ジャックポポスもある」

「ん、元々体を浮かせられる」

「そうだった――」


 と言いつつ走った。

 肩の竜頭装甲ハルホンクを意識して、頭巾を生成。

 相棒と銀灰猫メトは頭巾の中に入った。


「あぁ――なんて可愛い二匹ちゃん」

「――ん、丸まってる!」

「シュウヤ、二匹の体重がとても可愛いでしょ――」


 背後から走りついてくるレベッカとエヴァの声だ。


「至福の体重だが、触れないからなぁ」

「ふふ、わたしたちに頭部を向けているわよ?」

「ん、メトちゃんがロロちゃんの頭部を舐めてる~」

「そ、それは見たいが、我慢――」


 そう言いながら――。

 魔塔ゲルハットの頂上と呼べるペントハウスの庭からダイブ。

 

「ぴゅぅ~」


 荒鷹ヒューイが寄ってきた。

 翼が渋いヒューイに笑顔を向けつつ<導想魔手>を足場に利用して、階段を下りるように降下を続けた。


 肩の竜頭装甲ハルホンクの頭巾の中にいる相棒たちも揺れたのか、


「ンン~」

「にゃァァ」


 と鳴いていた。

 そのまま庭に着地。

 少し遅れてレベッカとエヴァも降下してきた。


 二人に向けて手を差し出す。


「あ、ありがと」

「ん――」


 二人を抱えるように地面に降ろした。

 そのまま二人と二匹を連れて、ミスティたちがいる場所に移動。


 そのミスティたちに近づくと、


「……<血魔力>と<魔闘術>以外の選択肢が増えた……今回は本当、結構重要な強化……シュウヤとナミと水神アクレシス様にホウシン師匠とエンビヤたちに感謝したい……」

「うん。ゼクスに応用できないことが残念だけど、<黒呪強瞑>だけでも学べたから良し」


 ユイとミスティがそう発言。


「この<黒呪強瞑>だけど、わたし自身が強まれば魔導人形ウォーガノフも必要なくなるかもだし、レベッカのように武術を習うのも良いかな?」

魔導人形ウォーガノフ一辺倒だったミスティが珍しい」


 皆で〝黒呪咒剣仙譜〟を読み修業を体感したようだ。


「艦長! <黒呪強瞑>と無数の剣技を獲得したぞ!」

「シュウヤ、<黒咒獄剣刃>ナル剣術スキルヲ獲得デキタ! 勝負ダ!」


 凄まじい模擬戦を繰り広げていたキスマリとミナルザンが叫びながら寄ってきた。


「ミナルザン、勝負はしないが、無事に強化されたようだな」


 二人を応援がてら訓練をしていたディアとドロシーとヴィーネも寄ってくる。


 ヴィーネから「ご主人様、〝黒呪咒剣仙譜〟です」と渡されたから受け取った。



「おう」


 ショウカクさんとシラさんの秘話を聞いている分、〝黒呪咒剣仙譜〟の重さが変わったように思えた。


「〝黒呪咒剣仙譜〟だが、クレインもカットマギーも読みたいだろうし、ユイ、持っておいてくれ」

「あ、うん」


 その〝黒呪咒剣仙譜〟をユイに手渡した。

 そして、キスマリの無数の剣技が気になった。


「キスマリは、〝黒呪咒剣仙譜〟からどんな剣技を得た?」

「<黒呪仙剣突>、<黒呪仙炎剣>は勿論、<黒呪仙四連牙斬>、<黒咒一閃鬼>などだ。ユイと同じ剣技も一つある」

「おぉ~またまた強烈そうな剣技だ」

「うむ!」

「カットマギーとクレインとペレランドラはまだかな」

「お母様は、はい、まだです」


 ドロシーの言葉に頷く。

 カットマギーと言えば、獄星の枷ゴドローン・シャックルズに内包しているタルタナムも〝黒呪咒剣仙譜〟を読んだら強まる可能性がある?


 ま、試すのは今度で良いか。

 

「んじゃ、皆はここで待っててくれ。俺はサイデイルに一旦戻ってクナとルシェルをここに連れてくる。クレインやカットマギーが戻り次第、〝黒呪咒剣仙譜〟を読ませてやってくれ」

「「「はい」」」

「了解~」

「ん」

「では、戻り次第、直ぐにフクロラウドの魔塔へ?」

「そうなる」

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