九百三十八話 〝黒呪咒剣仙譜〟の恩恵
仙武人の幻影はヴィーネとキサラを無視。
俺に対して剣先を向けてきた。
思わず、魔剣ビートゥの刃先を向ける。
「まだ<黒呪咒剣仙>の剣術を教えたいのか? それとも俺に剣を浴びせたいのか?」
「……」
〝黒呪咒剣仙譜〟の真上に浮かぶ幻影の仙武人は俺の言葉に反応しない。
ただ不気味に嗤うのみ。試しに、その〝黒呪咒剣仙譜〟の真上に浮かぶ仙武人の幻影に近付く。と、腰にぶら下がる魔軍夜行ノ槍業が揺れた。
フィナプルスの夜会と閃光のミレイヴァルの金属の杭に連なる銀チェーンの十字架は揺れない。
魔軍夜行ノ槍業に棲まう八人の師匠たちは何も語らず。
すると、仙武人から不気味な笑みが消える。
剣先にブレが生じるが、仙武人らしき存在は〝黒呪咒剣仙譜〟の上に浮いたままだ。
そのまま仙武人が浮いている〝黒呪咒剣仙譜〟の回りを歩いた。
〝黒呪咒剣仙譜〟の真上にホログラフィー的に浮かぶ仙武人の幻影は、その動く俺に合わせて剣先と体の向きを変えてくる。
俺が足を止めると、幻影の仙武人も体の向きを合わせて動きを止めた。
鏡のような反応。
幻影の仙武人は、俺に対して反応を示すだけか?
幻影の仙武人の頭部には角のようなモノがある。彫りが深い。
傷だらけの体中に黒色と紫色の紋様が刻まれている。
傷や紋様は<黒呪強瞑>の証明だと分かる。この〝黒呪咒剣仙譜〟に刺繍で刻まれていた存在は仙武人だと思っていたが、実は魔族なのか?
すると、神獣ロロディーヌが動いた。
「にゃごぉ~」
相棒は可愛く吼えながら少しだけ前進。
〝黒呪咒剣仙譜〟の真上に浮かぶ幻影の仙武人は動かない。
「〝黒呪咒剣仙譜〟が落ちた衝撃で幻影が出ただけ?」
「わたしたちに〝黒呪咒剣仙譜〟の内容を教授したくないのでしょうか」
「分からない」
すると、
「にゃおおお~」
黒虎の相棒が〝黒呪咒剣仙譜〟の幻影を踏み潰すように突進。
仙武人の幻影は〝黒呪咒剣仙譜〟の中に消えた。
「消えた!」
「ンン――」
相棒は消えた幻影を追うように〝黒呪咒剣仙譜〟に鼻を付ける。
ふがふがと〝黒呪咒剣仙譜〟の匂いを嗅いで、頭部を少し上げた。
俺を見て「にゃ~?」と鳴いて頭部を傾げる。
が、直ぐに〝黒呪咒剣仙譜〟に視線を落として、口を広げた。
「ロロ、待った。噛み付いちゃだめだ」
「ンン」
頭部を上げて後退。
〝黒呪咒剣仙譜〟から離れて黒豹へと姿を縮ませた。
異界軍事貴族たちと
その離れた
「ンン――」
と喉音を響かせながら後脚で地面を蹴って駆け近寄ってきた。
避けることもできたが――魔剣ビートゥを消して――。
相棒を待った。
「はは、勢いありすぎ、右足がもってかれたぞ?」
「ンン」
相棒は喉音を鳴らして返事をしながら――。
頭部を前後に動かし白髭と頬を俺の脛で連続的に擦る。
いつもの相棒の動きだが、白髭がいつも取れちゃいそうで心配してしまう。実際に、取れて落ちたことがあったからなぁ。落ちた髭は今思えば、神獣ロロディーヌの白髭だ。
良い素材になったかもしれない。
そう考えている間にも、相棒は、俺の足に甘噛みを繰り出す。
少し痛いがな――。
更に一回転する勢いで脹ら脛にも体をぶつけてきた。
笑う。
「ふふ、甘え方が面白い~」
「はい、シュウヤ様の足に全身の匂いを付けている?」
「ん、大きい黒豹だけど、そのままアーゼンのブーツに乗っちゃいそう」
エヴァが語るように、体勢を持ち直した
つぶらな瞳で俺をジッと見る相棒ちゃん。
微かに瞼を閉じて開いた。
はは、可愛い。
瞼を閉じて開く行為。
『だいすき、安心している、わたしはここにいる、いっしょ』
といった気持ちの表れかな。
ネコ科などの動物は、体のすべてで感情を表し、コミュニケーションを取る。
ま、動物の大半はそうだよな。
そんな
俺に『大丈夫にゃ?』と聞いているような気がした。
そんな可愛い
「ンンン」
と喉音を鳴らしつつ上半身を上げた。両前足の先端から爪を出入りさせながら――。
俺の脛の上に、その両前足を乗せてきた。
爪を僅かに立てた両前足で、俺の脛を連続的にモミモミするのを繰り返す。
パン職人の
「はは、抱っこか――」
黒豹のロロディーヌの胴体を持ち上げて、体を抱きしめてあげた。
黒豹だから結構重い。
そして、しなやかな黒毛と筋肉の感触が良い。
相棒のロロディーヌは、ゴロゴロの喉音を盛大に響かせる。
ゴロゴロエンジン全開だ――。
と、
暫し、柔らかいお腹を堪能した。
周囲の皆が微笑む。
「ン、にゃ~」
相棒は安心したのか黒猫の姿に戻って、肩には戻らず、普通に俺の足下に着地。そこからさっと身を翻し、エヴァたちの下へトコトコと歩く。
その足取りが猫らしい〝ふんわり〟とした歩き方だ。
フサフサな太股の黒毛が魅力的。
長い尻尾を、傘の尾のように立てている相棒ちゃんの後ろ姿は可愛い。
大事な菊門さんに、うんちはこびりついていない。
エヴァに「ん、ロロちゃん~」と抱えられていた。
「ええ、次はわたしの番でしょ~」
「いえ、わたしのはずです~」
眷属たちの
異界軍事貴族たちと魔造虎たちはそれぞれの体をなめ合うグルーミング合戦を行っていた。
すると、沙・羅・貂が前に出て、
「器よ! 闇の魔力の剣技を体に受け続けていたが、心に傷など、精神にダメージは負っていないだろうな?」
「たぶん大丈夫。痛さが力となるような剣術だろう。そして、自慢ではないが、俺もタフだ」
沙は満面の笑顔となる。
神剣を振るって、宙空でバク転。
紐パンが見えて嬉しかった。
その沙は、
「――良し良し~! 光魔ルシヴァルだから可能なナイスな修業方法! そして、剣技の奥義クラスの獲得は見事だ!」
「はい、若い子には、少々過激な修業方法のようでしたが……」
仙女風の衣装が映える羅が、そう発言。
羅の衣装はヘルメに近いかもしれない。
和風装束っぽい衣装が似合う貂も、
「そうですね。子供が見たら悲鳴を上げていたはずです。シウがいなくて良かった」
沙は着地。
歩きながら、神剣を振るい、
「――器よ。先ほどの突きに、袈裟斬りから――逆袈裟に宙空からの連続斬りを繰り広げていたが……その〝黒呪咒剣仙譜〟には、まだ続きの剣譜があるのではないか?」
<黒呪仙剣突>と<黒呪仙炎剣>に<黒呪鸞鳥剣>の動きを真似ながら聞いてくる。
羅と貂も、その沙の動きにやや遅れて、同じ動作を繰り返した。
<神剣・三叉法具サラテン>たちは皆、剣法の達人だとよく分かる。
そして、沙たちには、〝黒呪咒剣仙譜〟にまだ続きが存在するように見えたようだ。
〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟も似たような印象だった。
修業蝟集道場の廊下に刻まれていた壁画のような神遺物。
〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟は
視線を〝黒呪咒剣仙譜〟に戻してから、皆に、
「……正直、〝黒呪咒剣仙譜〟に続きがあるのかは分からない。もし続きがあったとしても、今の俺では<黒呪鸞鳥剣>が限界だということだろう」
「……鸞鳥剣。良い奥義の名だ」
沙は納得したようだが、皆は不安げだ。
急ぎ前進――屈むような体勢から片手を下に伸ばす。
――黒呪咒剣仙譜〟を右手で掴んだ。
そのまま爪先半回転を実行。
横回転中に片手が握る〝黒呪咒剣仙譜〟を皆に見せるように――。
腕を振るった。
〝黒呪咒剣仙譜〟から魔力を感知したが別段動きはない。
しかし、魔軍夜行ノ槍業が再び揺れて、
『魔界帰りの弟子よ。その剣仙譜は秘伝書の類じゃな。消えることが多い奥義書や独鈷魔槍が必要な六幻秘夢ノ石幢などとは異なるようじゃ』
『はい、そのようです』
『……刺繍の男は魔族に見えたわよ? 後、覚えた悪愚剣技っぽい技には剣歩法もあるようだし、それを初見で覚えられる武術の才能に、少し嫉妬を覚えるわ……』
『シュリ、初見というが、我らの弟子の下地は、常に磨かれ研ぎ澄まされておるのじゃ。必然じゃよ』
『あ、うん。『一を以て万を知る』男で、魔城ルグファントの正式な後継者だったわね』
『カカカッ、その通り』
魔軍夜行ノ槍業に棲まう飛怪槍のグラド師匠と雷炎槍のシュリ師匠がそう念話を寄越してきた。
俺は恐縮する思いで、魔軍夜行ノ槍業に右手を当てて、
『中身の刺繍が描く人物は仙武人だと思いましたが……』
『仙武人? それは魔界セブドラから持ち帰った剣仙譜なんだろう?』
そう念話を寄越したのは、獄魔槍のグルド師匠。
俺に<獄魔破豪>を授けてくれた方だ。
『俺が入手した経緯は、玄智の森という名の神界セウロスと魔界セブドラの狭間に存在する異世界。その玄智の森のカソビの街にあったであろう物が〝黒呪咒剣仙譜〟です』
『へぇ』
『次元と次元の
『魔穴かどうかは不明ですが、神界セウロスから分離した場所が玄智の森でした』
『ふむ』
『〝黒呪咒剣仙譜〟の話に戻すぞ、使い手』
妙神槍のソー師匠の思念だ。
二槍を使う流派の妙神槍は俺に合うはず。
そのソー師匠に、
『……はい』
『剣刃の傷と痛みが増えるほど剣の技術が上昇するような印象を抱く。またはダメージを受けるたび、剣技の奥義系スキルを編み出せる確率が上昇する流派が〝黒呪咒剣仙譜〟の剣術なんだろうか……』
皆に聞くような思念だ。
『そうであろう。使い手は
当然、〝黒呪咒剣仙譜〟の中身に興味を持ったか。
魔界八槍卿など複数の称号を持つ師匠たちの頭目が、グラド師匠。
きっと、二つ名のような呼び名も複数あるはず。槍使いだが、剣術にも精通しているはずだ。大師匠、大侠客に恐縮する思いで、
『覚えたのは複数。<黒呪強瞑>、<黒呪咒剣仙>、<黒呪仙剣突>、<黒呪仙炎剣>、<黒呪鸞鳥剣>、<神咒法・黒黎>を覚えました!』
『<魔闘術>系の<黒呪強瞑>は基本として、五つの剣術系スキルを学ぶとは……弟子は魔界セブドラに渡り戻るだけはある。そして、最後の剣舞は<魔剣技>の奥義とみた。弟子が得意とする<血想剣・魔想明翔剣>にも応用が可能であろう』
『はい、ありがとうございます』
『カカカッ、今後が楽しみじゃ』
すると、
『……<黒呪強瞑>以外は知らぬ』
塔魂魔槍のセイオクス師匠の思念が響く。
『俺もだ。多種多様に存在する<黒呪強瞑>系統なら知っているが、剣の刃を己に浴びて、その己を強化する剣法は見たことがない』
『あぁ、俺もだ。回復手段は多々あれど、攻撃を喰らう、それだけでリスクが高まるからな……』
『妾も同意。<黒呪強瞑>の使い手なら多かったが、魔城ルグファントの戦いやルグファント平原の戦場には、使い手が最後の方に使用した剣技を使う存在はいなかった。あれは『肉を切らせて骨を断つ』に通じる剣技であろう』
『断罪槍には硬い体幹を活かし、相手のカウンターを狙う<断罪刺罪>があるが……』
『うん。〝黒呪咒剣仙譜〟はイルヴェーヌの槍武術と合いそう。そして、使い手が学んだ剣技は奥義、秘奥技、<魔剣技>クラスは確実でしょう? だから魔界セブドラの何処かでは有名な剣法だったはずよ』
『カカカッ、たしかに! 魔界セブドラの魔界大戦では、名も無き魔剣師が多く活躍していたからのぅ。どちらにせよ、使い手が強まったことは良い出来事じゃ』
爺のグラド師匠がそう思念を伝えてくれた。
魔軍夜行ノ槍業に棲まう師匠たちとの念話はそこで切り上げ、皆に向け、
「俺が握っている〝黒呪咒剣仙譜〟だが、まぁ大丈夫だと思う。俺だから平気って線もあるが」
「それは、はい」
「いきなり魔刃が飛来とかありそう」
「ん、さっきは少しドキドキした」
「うん。シュウヤの回復力が追いつかないほどの剣撃だったから、諸侯のような魔界の存在が出現するかと思ったわよ」
「見た目が古風で、如何にも魔界っぽいし。あ、シュウヤ、もしかして魔軍夜行ノ槍業と〝黒呪咒剣仙譜〟は関係があるの?」
そう聞いてきたのはユイ。
皆の視線に釣られて、腰にぶら下がる魔軍夜行ノ槍業をチラッと見てから、
「魔軍夜行ノ槍業と〝黒呪咒剣仙譜〟にはそんなに深い関係はないと思う。魔界繋がりならあるかもだが。そして、八槍卿の師匠たちは先の幻影と刺繍の仙武人を魔族かもしれないと予測する思念を伝えてきた」
「へぇ、人族にしか見えなかったけど」
「〝黒呪咒剣仙譜〟に宿っている武芸者の魂か何か不明だけど、シュウヤの体を斬るなんて……あまり好きじゃない」
「うん。わたしも蒼炎弾をぶち込みそうになった」
ユイとレベッカがマジな表情を浮かべて語る。
「わたしも剣に魔力を込めていた」
新しい長剣を構えたままのヴィーネさんは少し怖い。
キサラはダモアヌンの魔槍を<投擲>するようなポージングだ。
「はい……<
キサラの<
ミスティは二人の生徒を引いて離れた位置から静観中。
空中浮遊を続けている沙たちに、
「沙たちも〝黒呪咒剣仙譜〟を読むか?」
「妾たちは読まん! それより玄智の森で、閻魔の奇岩や神々の残骸のようなモノは回収していないのか?」
回収か、
蒼を少し増やした夏服versionの防護服に変化させた。
金具が付いたポケットをチラッと見てから、
「エヴァとミスティにプレゼントした黄金遊郭の金属ぐらいかな。その金属っぽい素材は、閻魔の奇岩や神々の残骸とは違うよな」
沙はチラッとエヴァとミスティの扱う金属を見る。
エヴァとミスティは一部のインゴットと化している黄金遊郭の金属を皆に見せた。
沙は、頭部を振るって、
「勿論違う」
そう発言。
俺は頷いて、水の法異結界の液体は……俺自身が取り込んだから、
「玄智の森から運んだアイテム類は、先に見せた人形類と魔人の彫像三体と武器類、ダンパンという敵の仙武人が持っていたゼゲの魔烈斧琴と魔弓の刃、そのダンパンの手合いの者たちが持っていた中で重要な装備類と防護服、仙王槍スーウィン、ダンがくれた仙大筆などに巻物と冊子が入った袋、八部衆の腕輪、万仙丹丸薬、黒独鈷、擬宝珠、錬金術に使うような素材の箱数個。そして、サデュラの葉、玄智宝珠札、棒手裏剣などか。玄智宝珠札と棒手裏剣は大量にハルホンクが取り込んでいる。玄智の森の魔力などを含めれば取り込んだモノは数知れず。あとは、エンビヤの追っ手だった玄智の森とダンパンの手合いが持っていた魔剣と魔刀を回収している」
玄智の森に沙がいれば、神々の残骸を見つけることはできただろう。
鬼羅仙洞窟があった【幻瞑森】には花妖精のような存在もいた。
「サデュラの葉を……回収とは驚きだ。まぁ、ならば良い。で、【幻瞑暗黒回廊】からペルネーテに向かうのだろう?」
「おう、その予定だ」
沙は頷いた。
「では妾は器の中に戻るとしよう。皆も良いか? 玄智の森や
「運命神アシュラー様に傷をつけた部分が気になります。が、それはいずれかの機会に」
「はい。光神ルロディス様も関係している罪を犯した存在を追い払う部隊なども気になりますが、まだまだ先でしょう」
ヴィーネとキサラがそう発言。
そのキサラは話を止めず、
「そして、玄智の森が戻った
「そうね。神界セウロスへ行くための〝セウロスに至る道〟への進み方も不透明。だから、先のことよりも今」
「うん。状況に合わせて神界セウロスのことを聞くことは多々あると思うけど」
皆、頷いた。
沙は、そんな皆を見て笑みを浮かべて、
「では、羅と貂、器の中に戻ろう」
「「はい――」」
沙・羅・貂の<神剣・三叉法具サラテン>たちはそれぞれ神剣を振るう。
その神剣が消えて足下に現れるや否や、三人は、その神剣に乗ってサーフィン機動で俺に突進。
俺にぶつかる寸前、三人は粒子となって左手の傷の中へ吸収されるように消えた。
その左手を見てから頷く。
そして、ミスティの背後にいる二人に、
「ディアとドロシー、怖がらせたならごめん」
「一瞬、〝黒呪咒剣仙譜〟は呪神と関係が? と考えて心配しましたが、大丈夫なようですね」
ディアがそう発言。
頷いて、笑顔を見せた。
「おう、大丈夫」
ディアは頷いた。
そして、ドロシーも、
「烈戒と網、泡の浮遊岩の乱を解決し、お母様を救って下さった戦神様のようなシュウヤ様ですから、傷を受けても大丈夫だと思っていました」
そう発言。
「不安はありましたが、血が出るのは生きている証拠ですからね」
「そして、傷を受けながら武術を学ぼうとする姿勢が、格好良かった……赤い魔剣を振るうところはあまり見えませんでしたが、動きが止まったところが、また素敵で、目に焼き付いています」
「うん。ネーブ村の出来事を思い出した」
ディアとドロシーはそう語り合って頷き合う。
二人は同世代だろうし、仲良くなったようだ。
兄の行方を知りたいディアは、友のドロシーと離れがたいような雰囲気を醸し出す。
そのディアは眼鏡の端に指を当て、眼鏡の位置を調整すると、ミスティとアイコンタクトを行う。
先生と生徒の間か。
ディアは『はい!』と気合いが入ったような表情に変化した。
ミスティと何か示し合わせているのか?
そのディアは、俺を凝視して、
「お兄様! いずれは、わたしと結婚をお願いします!」
驚いた。
「ええぇ!」
ドロシーもディアの発言に驚いている。
皆も少し驚く。
その皆は、ミスティとディアを交互に見て、
「ちょっと、いきなりね……アス家が認めるとは思えないけど」
「うん。好意を伝えるとは思ってたけど……ミスティ?」
「あ、ふふ、えっと、その、まぁ生徒だからね」
「はい」
「シュウヤ様も優しいですから……しかし、結婚はないでしょう」
「「ない!」」
「うん、ハイグリアのような殴り合いでも嫌だったし」
「ん」
「シュウヤ様と結婚……ディア、いきなりすぎます!」
ドロシーも皆に続いて発言。
ディアはドロシーを見て、
「……うぅ、でもミスティ先生が『勇気を出しなさい。男にははっきりと伝えないと分からないものよ』って勧めてくれたから、がんばってみました……恥ずかしい……」
ドロシーは、
「……そうだったのね。勇気がある……でも……」
とジト目で俺を見てくるドロシー。
母親を<従者長>にしているから、ドロシーも俺の眷属になりたいんだろうとは思うが……。
ミスティはディアとドロシーに向けてウィンクすると、
「わたしも魔法学院ロンベルジュの講師の一人だからね。臨時だけど」
「ふふ、はい」
アス家はオセべリア王国の大貴族だろうし、領地もあるはず。
兄は行方知れずで死んだとされている状況だ。
そんなアス家に武術教師の立場の俺が現れてもな。
【天凛の月】の盟主、総長と、第二王子繋がりの肩書きは通用するかもしれないが……。
「その件はおいおいだ。で、皆、この〝黒呪咒剣仙譜〟で学ぶつもりはあるか?」
<
「……己の強さが向上するなら挑戦します」
「シュウヤだから耐えられたって可能性もあるわよ?」
「ん、痛そうだったけど、読めるなら読んで、成長したい」
「わたしも自身の能力が伸びるなら……」
ビーサもそう発言。
強まる可能性がある以上は読みたいようだ。
「はい。天魔女流に姫魔鬼武装、百鬼道にも合う可能性が。そして、シュウヤ様が助けた鬼魔人たちの中には姫魔鬼メファーラ様を信奉する者もいたかもです。秘かに、髑髏武人ダモアヌンとの繋がりが鬼魔人や仙妖魔にあるかもしれない」
鬼魔人と姫魔鬼メファーラ様との繋がりはあるかもしれない。
キサラも故郷に戻るだけでなく魔界セブドラにも行きたくなったかもなぁ。
すると、レベッカが、
「皆やる気なのね。なら、わたしも覚悟を決めて〝黒呪咒剣仙譜〟を読むことにする!」
蒼炎で書物の形を数冊描くと、その書物に正拳突きを行う。
そして、散った蒼炎を細い右腕に纏い直す。
気迫といい、渋いがな。
魅了される。
「……ま、〝黒呪咒剣仙譜〟から武術を学べたとしても、<黒呪強瞑>だけなら痛みはないと思う」
「うん」
「もしそうなら<黒呪強瞑>だけでも学びたい」
「ん」
「新たな<魔闘術>系のスキルを得られるなら、がんばりたいわ。ゼクスには使えないだろうけど……」
ゼクスは
「今見ていたように、剣技の<黒呪仙剣突>などを学ぶ際は、激しい剣撃を体に浴び続けることになる。だから〝黒呪咒剣仙譜〟を読むなら覚悟はしておけよ」
「はい! 覚悟はあります」
「シュウヤを傷つけた存在に怒りを覚えたけど、剣術の能力が向上するなら挑戦したい」
ユイもやる気だ。
剣舞系の奥義はユイに似合うだろう。
「とりあえず、覚えたばかりの<黒呪強瞑>を使ってみるか。ソレを見てから各自判断してくれ」
<導想魔手>を生成。
その<導想魔手>に〝黒呪咒剣仙譜〟を持たせた。
「「「はい!」」」
「ん!」
「「「うん!」」」
皆はやる気満々。
そんなやる気の漲る皆へ笑顔を送りつつ――。
そのまま<黒呪強瞑>を実行。
上半身と二の腕に、剣の切り傷と剣の形をした魔印が刻まれた。
その傷と魔印は融合し、紋所の『左三つ巴』と似た魔印となる。
「痛みはない。<黒呪強瞑>は<魔闘術>系統だ」
「おぉ~」
「重ね掛けも可能?」
<黒呪強瞑>を続けながら<魔闘術>――。
<魔闘術の心得>――。
<滔天内丹術>――。
<魔闘術の仙極>――。
<闘気玄装>――。
スキルを連続して意識、実行。
丹田、否、細胞から筋肉まで全身の魔力が膨れ上がる。
飛行術を読まずとも自然と体が浮きそうだ。
「スキルの重ね掛けも可能――」
「うん!」
「ん」
「使えるわね」
「強力~」
前進してから、真横へ跳ぶ。
爪先での着地際に爪先半回転を実行し、横回転。
素早く右足の踵で地面を突いて斜め前方へ直進――。
そのまま<血道第三・開門>――。
<
血を操作しながら――皆の周りを駆けた――。
「ンン――」
「にゃァ」
「にゃォ」
「にゃあァ~」
「ワン!」
「グモゥ」
相棒率いる神獣軍団の異界軍事貴族と
暫し、動物園と化したが、相棒たちとは遊ばず庭を走り続けた。
笑顔が美しい<
皆の下に戻った。
「――良し! 成功だ。すべてに活かせる」
「ん! カッコいい~」
「ふふ、新しい<魔闘術>ってことね」
「<血魔力>とも合う。もし覚えられたなら、わたしたちもかなり強まることは確実」
「光魔ルシヴァルだからこそ活かせるスキルが<黒呪強瞑>となりそう」
頷いた。
俺を追い掛けていた相棒たちは……。
ヒューイと管理人たちを追いかけ回す遊びになっていた。
宙に前足を伸ばす
「んじゃ――」
ユイに<導想魔手>が持つ〝黒呪咒剣仙譜〟を渡した。
「あ、わたしからで良いの?」
「おう、皆も構わないだろう?」
「「はい」」
「ん」
「うん、ユイ、読んでみて」
「了解――」
ユイは〝黒呪咒剣仙譜〟に魔力を通して読み始める。
幅の狭い本の天から剣刃の魔力が迸り、その魔力がユイと衝突。
「魔力を得た。刺繍の字は読めないけど……」
翻訳すればいけるか?
「俺が読めた部分だと『内なる魔力を己の呪咒の剣刃として感じ得よ』、『さすれば己の内の魔力が自然と武と力と剣となろう』だった」
「へぇ、あ、理解できた! 〝黒呪咒剣仙譜〟は刺繍の地下洞窟に変化! 面白い~! え、あぁ、さっきの鬼魔人? 仙武人の武芸者が座ってる! 魔素の流れを刺繍で表現するなんて素敵だけど、え、あ、魔力を吸われた! 〝黒呪咒剣仙譜〟が熱くて手も熱い!」
すると、ユイの手から離れた〝黒呪咒剣仙譜〟は自動的に浮く。
「武芸者は動き始めたわ。え、痛ッ――」
ユイは体に傷を受けたか。
【天凛の月】の衣装を着ているから、傷は見えない。
「ユイ、大丈夫なの?」
レベッカが心配そうに声をかける。
ユイは『大丈夫』と言うように頷いた。
魔息を吐き始める。
体に傷を受け続けているらしく、少し蹌踉けてしまうが、踏ん張っていた。
すると、浮いていた〝黒呪咒剣仙譜〟から更に魔力が迸り、ユイと衝突。
〝黒呪咒剣仙譜〟から武芸者の幻影が浮かぶ。
仙武人か鬼魔人か不明な幻影の武芸者は、俺の時と同じように剣を振るい始めた。
ユイの足に血が流れ始める。
再生する以上に傷を浴びている証拠か。
新衣裳が血に染まる。が、直ぐに血は消えていた。
「ユイ、魔刀を握り、その刺繍の武芸者の動きを追え! そうすれば、自然と学べるはずだ」
「うん!」
ユイは、太極拳と似た動きから、急激に体の動きを速めた。
新しい魔刀を迅速に振るう。
突きから横一閃――。
袈裟斬りから逆袈裟の連続斬り。
更に俺には無かった鞘に魔刀を戻す動きも加わる。
神鬼・霊風とアゼロス&ヴァサージも使い始めた。
宙空に魔刀の剣線を幾つも作り、一刀を地面に刺しては直ぐに抜いて、両手の魔刀と口に咥えた魔刀を変化させる。
三刀の剣舞を披露するように舞う。
ユイは時折二刀流に移行。
左右の手に持つ魔刀で前方の敵を刺すように両腕を伸ばす。ダブルの<刺突>のような突き技か。
そこで前転。
口に魔刀の柄を咥えて、三刀流に移行。
そこから左右の腕を引き、二つの剣線を宙に描く。
口に咥えた魔刀でも一閃。
両腕がクロスするように振り下ろしと振り上げの斬撃から横回転を行う。
<舞斬>か? その回転斬りの機動で着地を行い、動きを止めた。
神鬼・霊風と新しい魔刀から微かな金属音が響く。
「――やった! <黒呪強瞑>や<黒呪咒剣仙>などを獲得できた!」
「「「おお~」」」
「ふふ、まだ続きがあるみたい――」
嬉しそうに語るユイは加速。
魔刀に黒い炎が宿った連続の袈裟斬りを披露。
すると、ユイは体が痺れたように震える。
衣装の節々から<血魔力>とは違う黒っぽい魔力が漏れていた。
更に、己の双眸から白銀色の魔力が放出されていく。
<ベイカラの瞳>と連動した能力か。
ユイは体を独楽のように回す横回転斬りを数回行う。
そこから、にわかに両足の動きを止める。
半歩退いた。俺を見るように正眼の構えを取った。三刀流の刃越しに鋭い視線を寄越す。俺はまた赤く縁取られたのかな。
怖さと渋さを併せもつユイは、その正眼を自ら崩すように、肩口を畳ませる袈裟斬り機動から逆袈裟斬りを繰り出すと跳躍――。
宙空で連続的に上下に魔刀を振るう。
魔靴ジャックポポスの効果で浮きつつの斬撃の嵐――。
奥義クラスのスキルを披露。あれは<黒呪鸞鳥剣>だろうか。
外から見ると、どうやって回避するんだってぐらいの勢いだ。
集中モードと観察モードではやはりかなり体感速度が変わるんだな。
ユイは着地――。
【天凛の月】の衣装と似た黒色のオーラを体から放出させる。
と、その魔力を魔刀に纏わせた。ジリジリとした歩法で前進。
魔刀から鬼のような造形の魔力が出現しては消えていた。
ユイは、その魔力を纏う魔刀を振るい、乙の字を宙空に何度も描く。両手の掌の中を柄巻が回転する剣技は凄い。
と、ユイは動きを止めた。
「凄い……<黒呪歩轢刀>、<黒呪仙剣突>、<黒呪仙炎剣>、<黒呪仙舞剣>、<黒呪仙三刀破>、<黒呪仙回天斬り>、<黒呪鸞鳥剣>、<黒呪烈刀陰符>、<黒呪咒刀衝鬼>も覚えた――」
そう発言した直後、〝黒呪咒剣仙譜〟の頁が閉じて床に落ちる。
ユイは満面の笑み。めちゃくちゃ嬉しそうだ。
自然と、
「おめでとう!」
と叫んでいた。
「ん、シュウヤ以上にスキルを覚えた! 凄い!」
「さすがはユイ!」
「ふふ、頼もしいです」
「うん! 皆ありがとう。……これが新しい<魔闘術>系かぁ……<黒呪強瞑>――」
【天凛の月】の衣装だと分かり難いが、<黒呪強瞑>を使用したと分かるユイ――前進する速度が速い。
一瞬で遠くの庭に移動していたユイは、魔刀を持つ片腕を上げて手を振ってきた。
「――シュウヤ、見て! わたし、強くなった!」
と叫ぶ。子供に戻ったように燥ぐユイ。
ジャンプを繰り返しては、両手の武器を魔刀アゼロス&ヴァサージと新しい魔刀一本に変化させて感触を確かめていた。
神鬼・霊風一本を握ると、肩にその峰を当て横に一回転。
そして、少し頭部を斜めにして、俺たちを見てウィンク。
魔刀が似合うし、素直に可愛い。そのユイに、
「良かったな! 俺も嬉しい!」
「うん。ふふふ~、お礼に今度の夜、いっぱいシュウヤにサービスするから!」
はは、嬉しい。が、大声で言われると照れるがな。
若い兵士たちも庭には多いからな……。
まぁ別にいまさらだが。
「次はだれが読む?」
「ん、キサラとヴィーネが先に読んで、わたしは最後でいい」
「わたしも後の方で良いわ。待つ」
「順番待ち~。剣の才能はないと思うから、<黒呪強瞑>ぐらいは覚えたいな」
「師匠……」
「我も良いのか? 艦長!」
ビーサとキスマリも、当然、剣や刀を扱うから、〝黒呪咒剣仙譜〟を読んで体感したいはず。
「〝黒呪咒剣仙譜〟を読んで体感するのは自由だ。順番を待て。が、キスマリ。もし体感できたら剣撃を浴びることになる」
「構わない。回復スキルはある。ポーション類も豊富。それに艦長の水魔法もある」
「それもそっか。良し、好きにしろ。ビーサも学ぶなら覚悟が必要だ」
「わたしも
「優秀な遺伝子に三つの器官のスキルか」
「はい」
回復に関しては大丈夫か。
「この際だ。クレインの眷属化も終わったし、ビーサにも<
「え!」
「はい!」
ユイは〝黒呪咒剣仙譜〟を拾っていたが、驚いて俺とビーサを見ている。
「ん、先生の眷属化が先って言ってたからね。賛成」
「うん」
「はい。眷属になれば、強者と戦っても死を回避する可能性が高まる」
「宇宙の種族だからどうなるか? だけど、大丈夫そうね。その眷属化のメモをがんばりたいけど……」
笑いながら、
「ミスティも〝黒呪咒剣仙譜〟を読めるならそっちを優先しろ。で、皆が体感する間に、休憩を行ってから、ビーサの眷属化を行うとする」
「はい」
「了解~」
「賛成です。異星人初の<
『素晴らしい~』
「距離が離れても血文字があれば意思疎通が楽になるからねぇ」
「ん、ルマルディの眷属化も忘れないでね」
「あぁ」
エヴァの言葉に頷いた。
ユイは〝黒呪咒剣仙譜〟をキサラに手渡している。
キサラは〝黒呪咒剣仙譜〟を見てから、俺に視線を寄越す。
「キサラも武人。短剣術も使いこなしているなら剣も扱えるだろう?」
「はい。挑戦してみます」
〝黒呪咒剣仙譜〟を開くと魔力を〝黒呪咒剣仙譜〟から受け取っていた。
白絹のような髪が少し靡く。
直ぐに<黒呪強瞑>を学べそうだな。
そして、〝黒呪咒剣仙譜〟はとんでもないお宝だ。
回収してきて大正解。
玄智の森とエンビヤたちに感謝しよう。
<黒呪強瞑>だけでも、皆が強まる。
そして、
「ディア、ペルネーテへの帰還は暫し待て」
「はい!」
ディアはドロシーと目を合わせる。
ドロシーも頷いていた。
先ほどまでミナルザンと模擬戦を行っていたディア。
ドロシーとディアは模擬戦の後に約束でもしていたのかな。
「ディア。ドロシーと用事があるなら、【幻瞑暗黒回廊】は後回しで構わないぞ?」
「あ、いいのですか!」
「当然だ。ディアに対して無理強いしているわけではないからな」
「優しいお兄様、ありがとう。そうさせてもらいます」
「ドロシーと買い物デート?」
「ふふ、はい。買い物と、エセル大広場の散歩です。エセル大広場は楽しいんです~」
「いいの? ディア」
ドロシーがディアに聞いていた。
「うん、いいの。魔法学院の遠征授業よりも、ここの生活のほうが楽しいし、幸せだし、勉強にもなるの。お兄様も近くにいるし、寝てたけど。そして、ドロシーもいるからね」
「ふふ、嬉しい! わたしもディアがいて嬉しい~」
「にゃァ~」
「ワン!」
姿を銀灰猫の子猫に戻していたメトと子犬に戻していたシルバーフィタンアスが二人に寄る。
「メトちゃんとシルバちゃんも! 一緒の散歩は楽しいからね?」
「にゃァ」
「ワン!」
異界軍事貴族の二匹はディアとドロシーにも懐いたか。
「うん。あ、ミナルザン先生も!」
すると、そのミナルザンが、口元をもごもご、もぎゅもぎゅさせてから、キサラをチラッと見ては、俺に視線を戻し、
「シュウヤ、剣術ノ修業ヲ?」
「おう。今、キサラがその〝黒呪咒剣仙譜〟を読んで学んでいる」
「赤黒イ魔剣ヲ、振ルッテイタ。ガ……シュウヤハ、傷ヲ、受ケテイルヨウニモ、見エタ……」
ミナルザンが心配そうに頭部の軟体の表情筋を動かしてくれた。
面白可愛い? キモカワイイ? 分からないが、面白い。
そんなことは言わず、
「〝黒呪咒剣仙譜〟の修業方法は独特ってことだろう。その〝黒呪咒剣仙譜〟に宿る仙武人か魔族の武芸者の魂と連動して、<黒呪強瞑>、<黒呪仙炎剣>、<黒呪仙剣突>などの新しい<魔闘術>系と、剣術スキルを俺は獲得できたんだ」
「ナント! 〝黒呪咒剣仙譜〟……我モ学ベル? 獄炎光骨剣ヲ扱ウ技術ヲ上ゲタイ……」
「いいが、〝黒呪咒剣仙譜〟を体感して学べたとして、体に斬撃を浴びるぞ?」
「構ワナイ! ポーションヲ飲ム!」
「そっか。なら、皆が読み終えて体感が済むまで、ユイの傍で待っていろ」
「了解シタ!」
ミナルザンは獄炎光骨剣の柄を胸元に掲げて敬礼。
素早くユイの傍に向かう。
歩法からして違う。やはり剣の達人のミナルザン。
さすがは【外部傭兵ザナドゥ】の傭兵百兵長だったキュイズナーだ。
ユイは<魔闘術>と<黒呪強瞑>を同時使用しながら魔刀を振るい続けている。
「――ミナルザン、なに? もぎゅってる?」
「我モ〝黒呪咒剣仙譜〟ヲ学ブ!」
ミナルザンはユイの剣術を真似していく。
そんな二人からキサラに視線を移した。
キサラの前に浮かぶ〝黒呪咒剣仙譜〟。
キサラはもう<黒呪強瞑>を獲得したか。
そのキサラは、仕込み魔杖を手元に出現させる。
はばき金具の放射口からブゥゥゥンと魔刃が迸った。
ムラサメブレード・改のような魔剣を持っていたんだったな。
「シュウヤ様、<黒呪強瞑>を獲得できました。このまま〝黒呪咒剣仙譜〟の剣術スキルを学べるか挑戦します――」
「おう、キサラなら幾つか学べるだろう。がんばれ!」
「はい! そして、ユイ以上にサービスは負けませんので!」
「あはは、期待しとく――」
レベッカとヴィーネから冷然とした眼差しを向けられたが、そそくさと庭を移動。
相棒とビーサも遅れてついてくる。
「ビーサ、ちょい休憩な」
「はい」
アイテムボックスから魔煙草を取り出して口に咥えた。
紅玉環からアドゥムブラリを出して――。
「アドゥムブラリ、ひさしぶりだ。<ザイムの闇炎>――」
紅指環の表面がぷっくり膨れた単眼球が出現。
クレイアニメ風のアドゥムブラリは可愛い。
背に可愛らしい翼を生やすアドゥムブラリ。
そのアドゥムブラリの額に指の腹でAの文字を素早く刻む――。
<ザイムの闇炎>で指先に出した闇炎で魔煙草を吹かす。
「おう。主、お帰りだ――」
「あぁ、ただいま、だ」
魔煙草を吸い、吐いた。
健康に良い魔煙草は、最高だ。
「アドゥムブラリ、早速だが、〝列強魔軍地図〟に触って思念と魔力を送って地名を書き込んでくれ」
「ん? 〝列強魔軍地図〟とは……随分と大きいってか、魔界セブドラの地図じゃねぇか! しかも高低差付きの詳細な地図かよ。まぁ、諸侯ならこれぐらいは持つ代物か……ん? ちょ、待てよ、主は魔界セブドラに行ったのかよ! おいぃぃ」
アドゥムブラリは興奮しつつ背の翼をバタバタと動かした。
「そうだ。〝夢魔の曙鏡〟などのアイテム、<夢送り>というスーパーなスキルのお陰だ。精神を異世界に転移させた今回の事象は、水神アクレシス様の力も大きいかもしれないが……ナミのタンモールの秘技は凄まじいってことだな」
「ナミか。あのおっぱいが中々の女。が、称号など主の能力が優れているからこその精神の転移だろう……で、地図に触れて思念と魔力を送れば良いんだな?」
「おう」
アドゥムブラリが〝列強魔軍地図〟に触れた。
その直後、〝列強魔軍地図〟のかなり北の方角に――。
地獄火山デス・ロウの周辺の地域と無限地獄の地名、アムシャビスの紅玉環、破壊の王ラシーンズ・レビオダ様と魔命を司るメリアディ様と憤怒のゼア様の領域などがズラッと新しく出現。
異常な真っ黒に染まっている地域も増えている。
見ただけで深遠に吸い込まれそうな地域だ。
『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』
な場所だ……。
そして、今まで〝列強魔軍地図〟に見えていた地獄火山デス・ロウの地域は小さい一部でしかなかったとよく分かる。
「……魔侯爵だったころを思い出すぜぇ、魔大竜ザイムはこの辺りにいたんだ……が、このように破壊の王ラシーンズ・レビオダ様と憤怒のゼア様の大領域……となっている……」
単眼球のアドゥムブラリは表情を暗くさせた。
悪いなと思いながら、
「アドゥ、俺が魔界セブドラへ本格進出しても、付いてきてくれるよな?」
「ふっ、愚問を、わざとか。主は、俺の唯一の主だぞ。どこまでも付いていくぜぇ」
単眼球だが、良い面構えとなる。
良し。ビーサをチラッと見てから、〝列強魔軍地図〟を仕舞った。
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