九百三十七話 黒呪咒剣仙と神咒法・黒黎

 肩の竜頭装甲ハルホンクを意識。

 薄着を更に薄くするわけではないが、上半身を裸にした。


 すると、黄黒虎アーレイ白黒虎ヒュレミが寄ってくる。


「にゃァ」

「にゃォ」

「アーレイとヒュレミ、今から〝黒呪咒剣仙譜〟を読むから見ててくれ」


 すると、黒猫ロロが瞬時に大きい黒虎へ変身を遂げた。

 虎のアーレイとヒュレミよりも大きい。


 ザ・黒虎。

 その黒虎ロロディーヌは、二匹に向けて「にゃごぉ」と鳴いた。


 ネコ科の声だが、迫力満点の声だ。

 黄黒虎アーレイ白黒虎ヒュレミはビクッと体を揺らして、耳を凹ませる。


 可愛い。が、叱られて、『ごめんなさい』という意味の耳の凹み。


 黄黒虎アーレイ白黒虎ヒュレミ黒虎ロロを母親だと思っているんだろう。

 その黒虎ロロディーヌの傍に歩き寄った。


「にゃあァァ~」

 

 白銀虎メトと異界軍事貴族たちも黒虎ロロディーヌの傍に集結した。


「ワォォン――」


 白狼のシルバーフィタンアスと白銀虎のメトは渋く格好良い。

 氈鹿ハウレッツは毛並みがモコモコで気持ち良さそう。

 巨大な山羊にも見えるか。


 可愛いが、神獣軍団には迫力がある。


 ドロシーとディアは巨大な神獣と異界軍事貴族を見てもびびっていない。嬉しそうだ。


「ロロちゃんたちも不思議な書物なのが分かるのね!」


 レベッカの声に皆が頷く。


「んじゃ、読むとしよう」

「上半身に〝黒呪咒剣仙譜〟の証拠が表れるのでしょうか」

「さすがヴィーネ。そうなると予想。まぁ見とけ」

「はい」


 <導想魔手どうそうましゅ>が持つ〝黒呪咒剣仙譜こくじゅじゅけんせんふ〟に皆が注目。


 書架台しょかだいと化したいびつな魔力の手の<導想魔手>から――。


 〝黒呪咒剣仙譜〟を手に取った。

 速やかに<導想魔手>を消す。


 〝黒呪咒剣仙譜〟は和綴わとじ製本。


 主な素材は和紙と布だと思う。

 不思議な手触りだ。

 

 幅の狭い本の天の部分から、前には無かった剣刃のような薄い魔線が宙に出ていた。


 その剣刃のような魔線がいきなり宙に弧を描いて俺の体に突入してきた。

 

 不思議な魔力を得た。


 同時に〝黒呪咒剣仙譜〟の真上に薄らと剣の幻影が浮かぶ。

 

 そのまま〝黒呪咒剣仙譜〟を開く。

 

 真っ黒か。

 すると、布の頁の中から真っ白な糸が飛び出る。その糸は一瞬で沈み込むと刺繍の文字が浮かぶ。


 ――内なる魔力を己の呪咒の剣刃として感じ得よ。

 ――さすれば己の内の魔力が自然と武と力と剣となろう。

 

 他にも様々な刺繍の文字があったが消えた――。

 が、代わりに裸の仙武人? 謎の人物と、鬼羅仙洞窟にも似た薄暗い洞窟の刺繍となった。


 頁全体の芸術作品か。

 裸の仙武人らしき存在は、結跏趺坐けっかふざ降魔坐ごうまざで平たい岩の上に座っている。


 鬼羅仙洞窟と似た環境でライランの眷属アドオミたちが座っていた場所と似ている。


 裸の仙武人と推測する存在は、仏像スタイルだから拝みたくなる。


 仙武人の体の周囲には風の流れと魔力、魔素の流れが色分けされて動いていた。


 仙武人の体内の魔素の流れも動いている。

 刺繍アニメーションとは不思議だ。


 座っていた刺繍の仙武人らしき存在は、俺を把握したように立ち上がりながら、両腕で円を描く。


 深呼吸を行っている?

 周囲の魔線の流れが変化し、仙武人の体に取り込まれていく。

 

 仙武人は洞窟内の魔力を体内に吸収しているようだ。


 その仙武人の刺繍と連動しているように〝黒呪咒剣仙譜〟を持つ両手から俺も魔力を吸われた。

 

 それなりに吸われる。

 <仙魔術>を使用した時のような感覚ではないが……。


 クレハがこれを読んでいた時には、魔力が吸われるなんてことはなかったはずだが……。


 まさか〝黒呪咒剣仙譜〟は人を選ぶのか?


「え? 今、魔力を吸われた?」

「吸われた。しかも、両手が熱い、熱を持った」

「……〝黒呪咒剣仙譜〟が熱を?」

「そうだ。両手も熱い」

「へぇ……」

「マスター、面白いからそのままでね、あ、無理か」

「……秘術書であり奥義書と聞きましたが……」

「シュウヤさん、勉強? 修業ですか?」


 ドロシーはあまり武術に詳しくないか。


「ドロシー、シュウヤは修業中よ。地味な布と古紙の本のようだけど、あのようなアイテムにこそ、結構な秘密があるものなの」

「はい」


 お宝センサーが発動中のレベッカがドロシーに説明していた。


 そんな皆に向け大丈夫と笑顔を送る。


 顔には出していなかったが、クレハとダンも、俺と同じく〝黒呪咒剣仙譜〟に魔力を吸われていたんだろうか。


 〝黒呪咒剣仙譜〟の刺繍の仙武人は俺を見る。


 笑った?

 刺繍の仙武人には意識があるのか?


 笑顔の仙武人は両手で円を描くように、それぞれで太陰太極図を描いた。


 両手の正面に半透明な太陰太極図が出現。


 格好良い。

 <玄智・陰陽流槌>と似た感じだが、魔界セブドラのアイテムらしい血と黒色の魔力が太陰太極図の節々に現れている。


 仙武人は両腕を動かしながら重心を下げて半身の姿勢で横移動。


 半身の姿勢から両手を広げた。


 体から黒っぽいオーラのような魔力が噴出する。


 仙武人は体の向きを正面に向ける。動きを止めて深呼吸を行った。


 仙武人は荒い魔息を吐いて吸う。


 更に吐いて吸う。

 

 その呼吸にも秘密があると分かる。

 呼吸する度に、左右の腕の前に出現している太陰太極図が点滅していた。


 すると、仙武人の体内を巡っている魔力の流れが速くなる。


 皮膚の表面にいきなりシュパッと剣で切られたような切り傷が発生し、膿のようなミミズ腫れもあちこちに発生した。


 俺の体の表面にも、同じ傷とミミズ腫れが発生。


 傷だけが消えた。

 

 クレハやダンも〝黒呪咒剣仙譜〟を読んで体に傷を受けていたのか?


「ご主人様、血管のような腫れが消えていません!」

「大丈夫だ」

「シュウヤ、上半身に力が現れるような<四神相応>と似た能力を獲得したの?」

「布の書物は消えていませんから、まだでしょう」

「新しいスキルを得られても、この〝黒呪咒剣仙譜〟は消えないはず」

「「え!?」」


 とは言ったものの、惑星セラだと〝黒呪咒剣仙譜〟は消えてしまうかもしれない。

 

「だからわたしたちにも読んでもらうかもって言ってたのね」

「そうだ。しかし、惑星セラ側で〝黒呪咒剣仙譜〟を読むのは初。まだ読んでいる最中だから、最後には消えてしまうかもしれない。そして、消えずに残っても、皆は玄智の森の言語は読めないと思うから、〝黒呪咒剣仙譜〟を見ても、自分に似合うスキルを得られるかは不明だ」


 皆、頷いた。


 両手に持つ〝黒呪咒剣仙譜〟は、濃厚な魔力を発し始める。


 震動も始まった。

 

 刺繍の仙武人の息遣いは、更に激しくなる。


 俺も自然と呼吸が荒くなった。

 光魔ルシヴァルで呼吸は必要ないが、少し息苦しい。

 不思議だが、懐かしい。

 

 魔力の息が自然と出た。

 

 傷が消えている刺繍の仙武人の体の表面に黒い剣の模様が出現。


 俺の胸筋にも薄い黒色の剣の模様が次々に浮き出てきた。


「ええ!」

「胸に剣の模様が!」

「〝黒呪咒剣仙譜〟の剣仙譜を意味するのでしょうか……」


 キサラの言葉に頷こうとしたら、〝黒呪咒剣仙譜〟の仙武人の体に生まれた剣の模様が隣接し重なった。


 剣と剣が戦ったように、体に激しい切り傷が無数に生まれてミミズ腫れも無数に発生。


 刺繍だが、痛々しい。

 が、同情してはいられない――。


 俺自身も連続した痛みを味わう。


「ひぃ」

「……お兄様……」


 ティーンエイジャーにはキツイか?

 

 が、そんな甘ちゃんではないか。


 皆が驚いているように、俺の体にも剣に斬られたような傷が幾つも発生――。


 すると、その刺繍の仙武人を含む〝黒呪咒剣仙譜〟から魔力が迸り、俺に直撃。


 〝黒呪咒剣仙譜〟と魔力で繋がると、感覚も繋がったような気がした。


〝黒呪咒剣仙譜〟は自然に浮く。


 その〝黒呪咒剣仙譜〟の中の刺繍の仙武人の手に魔剣が出現。


 切っ先を向けてきた。

 刹那、肩の竜頭装甲ハルホンクが出現。


「ングゥゥィィ、我ノ主ニ、フサワシイ……強イ、マリョク……」

「ん、シュウヤ……」

「ほ、本当に、だ、大丈夫なの?」

「再生も、していますが、傷と腫れが……」

「痛いが、大丈夫だ」


 と声を震わせながら強がる。

 

 内臓の蠕動運動も激しくなった。

 体に剣と傷の模様が刻まれている仙武人が動き始める。

 

 太極拳の動きなら野馬分髪イエマーフェンゾン抱球パオチュウの動きだろうか。


 体内を巡る魔力の流れが凄まじい。


 俺も魔力が活性化。

 そして、魔剣と言えば……。


 肩の竜頭装甲ハルホンクが喰った魔剣は複数あるが……戦闘型デバイスを見る。


 魔剣ビートゥを出そう。


 魔界八賢師セデルグオ・セイルが作り闇神リヴォグラフへ捧げられた逸品の魔剣ビートゥを右手に出現させた。


 浮いている〝黒呪咒剣仙譜〟の中の刺繍の仙武人は魔剣を振るう。

 

 仙武人の動きに合わせて魔剣ビートゥを振るった。


 仙武人は笑顔を見せる?


 自然と〝黒呪咒剣仙譜〟の頁が捲られた。


 次の頁でも仙武人は魔剣を振るい踊る。


 その仙武人の体の表面に、更に傷と剣の魔印が刻まれた。


 仙武人の魔剣を振るう速度が速まり体の動きが激しくなると、その体の傷と剣の魔印が光る。


 その魔剣を振るう刺繍の仙武人の幻影が真上に浮かぶ。


 と、その幻影が俺の頭部に飛来――。


 避けない。

 幻影が俺の頭部の中に入った刹那――。


 ピコーン※<黒呪咒剣仙>※恒久スキル獲得※

 ピコーン※<神咒法・黒黎>※恒久スキル獲得※

 ピコーン※<黒呪強瞑>※スキル獲得※


 おぉ、やった!

 

 しかし、<黒呪咒剣仙>と<黒呪強瞑>は分かるが、<神咒法・黒黎>とは?


 〝黒呪咒剣仙譜〟の中では刺繍の仙武人が動き続けている。


 体に刻まれ続けている傷と剣の魔印には、それぞれ意味があると、<黒呪咒剣仙>などのお陰で理解できた。


 更に、次々に――。


〝黒呪咒剣仙譜〟の中で仙武人が剣舞を披露。


 頁が自動的に捲られていく度、仙武人の魔剣を振るう速度が上がる。


 その仙武人の幻影は休む暇なく、俺の頭部と体に入り込んでくる。


 仙武人の幻影が俺を指導しているように、魔剣ビートゥを振るい続けた。

 

 ピコーン※<黒呪仙剣突>※スキル獲得※

 ピコーン※<黒呪仙炎剣>※スキル獲得※

 ピコーン※<黒呪鸞鳥剣>※スキル獲得※

 

 おおぉぉ――。

 連続的に剣のスキルを。


 これが〝黒呪咒剣仙譜〟という名である理由か。


 〝黒呪咒剣仙譜〟の頁が閉じた。

 と、地面に落ちる。


「シュウヤ、スキルを覚えたのね?」

「あぁ、覚えた」

「〝黒呪咒剣仙譜〟は消えていません!」

「おう、ヴィーネもキサラも挑戦したいようだな」

「「はい!」」


 ヴィーネとキサラが〝黒呪咒剣仙譜〟を見ようと近付く。

 と、その落ちた黒呪咒剣仙譜から闇属性の魔力が噴き上がった。


 急ぎヴィーネとキサラが離れた。

 二人とも身構えた。


 その〝黒呪咒剣仙譜〟の真上に先ほど刺繍で表現されていた仙武人の幻影が浮かぶ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る