九百三十六話 皆の前での訓練と〝黒呪咒剣仙譜〟
空を行き交うアギトナリラの管理人が目に付く。
エヴァの周囲を回った管理人はエヴァの新しいトンファーに影響を受けたようで、両手に光る棒のような物を出現させていた。
沙・羅・貂も一緒に舞う光景は神界セウロスか?
と思ってしまうほど幻想的だった。
すると、前を歩くヴィーネが、
「ご主人様、ペグワースたちの作業現場に到着です」
「おう」
中央は巨大な岩が前後左右、至る所に設置されていた。
それらの鎮座している巨大な岩だけで、近代アートに見える。
魔導車椅子のリムを動かして前進しているエヴァが、
「ん、いっぱいある岩は戦神様たちの原形だと思う」
頷いて、大小様々な岩を見ていく。
一部の巨大な岩と岩が、俺と相棒の像に見えてくる。
「なぁ、あの巨大な岩と岩だが、俺とロロ?」
「ん」
「さ、さぁ」
「は、はい。ど、どうなのでしょ~」
「えっと……ご主人様のような、ロロ様のような……」
「見て、ゼクスと似た大きな岩が魔宝石に見える!」
「〝伝説の巨人たちと北壁〟の巨人たちの姿にも見えるぞ。シュウヤとエヴァが少し語ったが、魔街異獣などにもな……」
皆、喋りがぎこちない。
最後に語ったキスマリを見ると、キスマリは静かに頷いた。
トゥヴァン族の六眼キスマリは大厖魔街異獣ボベルファと同じような魔街異獣を知っていたか。
「にゃお~」
相棒は前足で俺の耳朶を数回叩いた。
レベッカはエヴァが乗る魔導車椅子の手押しハンドルを押しながら、俺の右斜め前方に進む。ヴィーネとビーサとミスティとキスマリも先に出た。
そんな皆の歩く姿を見て、ふと、
「ここはペレランドラを中心に上手くやれそうだ。サイデイルのキッシュのように」
『閣下の狙い通りですね?』
『あぁ、まあな』
「うん。現状の戦力も十分。光魔ルシヴァルの<従者長>である前に〝賢い〟ペレランドラだからね」
ユイも肯定してくれた。
ヴィーネも、
「八支流とハイム川黄金ルートを活かす貿易についても、ペルネーテは大事な拠点ですし、副長メルたちも無理にセナアプアへと本拠を移す必要はないかもですね」
「そうだな。血文字でそんな話があったのか?」
「はい、ペレランドラの意見を聞くうちに考えが変わったようです」
自然と頷いた。
何事も柔軟に政策転換を図ることが重要だ。
沙・羅・貂も低空飛行で養生が敷かれた一角に降りてきた。
長方形の作業机にペグワースがいる。
が、ドワーフを主体とする【魔金細工組合ペグワース】の面々はけっこうしている作業はバラバラだ。
角材と板と鋼をロープで括って運ぶアルキメデスが開発したような巨大な滑車を操作するドワーフたちが多い。
樽が並ぶところもあった。
鑿とノコギリにハンマーなどの道具が壁に設置されてある。
増設された壁には戦神様の簡単な絵と隣り合わせで製図が貼られてあった。
製図と書類が置かれた丸い机もある。
人形のような物が並ぶ小さい机には、シウがいた。
ミナルザンはいない。
近付いて、
「よぅ、ペグワースとシウに皆」
「お、シュウヤ! 起きたか!」
「あ、盟主だ!」
「おぉ、親方の盟主様が起きたのか」
「親方って」
「気にすんな、親父が忠誠を誓った盟主様は、俺たちの親方みたいなもんだろ~」
快活なドワーフたち【魔金細工組合ペグワース】の面々だ。
そして、シウとペグワースも元気そうで良かった。
「シュウヤ兄ちゃん! おはよ~? あれぇ、額の肉球マークが消えてる!」
「にゃオ~」
「にゃァ」
「にゃ~」
「おうって、シウ、どうして俺の顔を凝視しているんだ?」
「……ううん、はは、き、気にしな~い」
シウは目が泳ぐ。
「ん……」
「「「ふふ」」」
「あはは」
楽しそうに<
『ふふ、閣下はモテモテですからね』
ヘルメも笑顔を見せる。
俺が寝ている間にシウが悪戯したようだな。
「それよりシュウヤ兄ちゃん、ドロシーのお母さんがね、いっぱい素材を揃えてくれたの!」
「あぁ、聞いたよ。で、ペグワース。これらの岩が『すべての戦神たち』の大本なんだろう?」
「そうだ。もう作業を始めている。そして、素材を揃えてくれた皆に感謝だ」
「わたしも手伝ってる~」
鑿と鉛筆を見せるシウ。
「その鑿で人形を作ったんだな」
シウが作業していた机を見た。
机には小さい木像が無数に並ぶ。
あ、俺と
すると、シウは「あ!」と言って机の模型を隠すように袋の中に仕舞う。
そのシウは、
「シュウヤ兄ちゃん、戦神たちを楽しみにしててね~」
そう言いながら袋を持って奥に向かう。
「おう」
ペグワースに視線を向けた。
「すまんが、シウが内緒にしといて、とな?」
「そういうことか」
「あぁ、あの子なりにシュウヤを驚かせたい幼心だ。だいたい形で分かると思うんだがな?」
頷いた。
そして、先ほどの大きな石像を見た時の皆の反応はこういうことかと納得。
「……気付かないフリをしとくさ」
「はは、すまんな」
すると、機械加工用工具から大きな音が響いた。
「お頭~、工具鋼八番が折れてしまいました~」
「おうよ! 今向かう。シュウヤ、悪いが」
忙しそうだ。
「分かってる。背後の職人さんをフォローしてくれ。また今度」
「おう、またな!」
ペグワースは笑顔を見せると踵を返し、工具で作業を行う仲間の下に向かう。
俺も職人として働きたくなる現場だった。
さて、足下に戻った相棒たちと皆を見て、
「外に行こう」
身を翻し前進。
「「「はい」」」
「うむ!」
「ん」
「うん」
「少し煙いわね~」
「にゃ~」
「にゃぁ」
「にゃぉ~」
魔塔ゲルハットの出入り口へ向かう。
然り気無く、右手に夜王の傘セイヴァルトを召喚。
夜王の傘セイヴァルトの中棒のボタンを押して漆黒の槍に変化させた。
怪夜王セイヴァルトと怪魔王ヴァルアンの力を感じる。
良~し、素早く柄の握りを変化させつつ夜王の傘セイヴァルト状態に戻した。
同時に、受付の【天凛の月】の兵士たちが敬礼を寄越す。
無難に兵士たち一人一人に会釈。
俺の行動に驚いていた。
「総長で盟主のお偉い様に……挨拶されてしまった」
「あぁ、感動だ」
「気さくな盟主だ。嬉しいぜ」
兵士たちの言葉が聞こえた。
まぁ、初見ぐらいは素の対応でやらせてもらう。
毎回だが、総長って柄ではないからなぁ。
そんなことを考えながら夜王の傘セイヴァルトを右手から消して、一階の玄関口から外に出た――。
庭で眼鏡っ子ディアとミナルザンが訓練中。
ミナルザンの斬撃を避けるディア。
少し空中浮遊を行うディア。
飛行術をディアは読んだのか。
そつなく使いこなしているようだ。
さすがは【幻瞑暗黒回廊】を生きて突破しただけはある。
近くで【天凛の月】の兵士と共にドロシーが訓練の見学中。
そのドロシーも浮いている。
ドロシーもペレランドラ魔法学院の生徒だったな。
大きなシルバーフィタンアスとハウレッツとメトもいた。
互いの体をなめ合って毛繕い中。
白狼と氈鹿と白虎の大きさなだけに迫力がある。
荒鷹ヒューイも低空飛行でシルバーフィタンアスたちに近付いていく。
俺たちが近付くと二人は訓練を止めて走り寄ってきた。
「お兄様~~」
「――シュウヤ! 起キタノカ!!」
「シュウヤ様~」
「よ~皆、待たせた。ディア、早速だが、【
「え! あ、はい! <覚式ノ従者>を使うのですね!」
眼鏡っ子のディアは嬉しそうだ。
「そうなる。その、いやなら、このままでも良いが……」
「いやじゃないです! お兄様と……一緒に……活動したい」
ディアは恥ずかしそうに頬を真っ赤に染めていた。
ディアはミスティ以外の<
天然なディアは自らの衣服を確認。
ディアの手に嵌まるセンティアの手は昔のままだ。
そして、となりの
種族は
頭部は
地球の分類でいえば軟体動物門系の下位、頭足網の蛸形亜網だろう。
が、それはあくまでも地球の統計。
渋いミナルザンの頭部は、人に近い部分も多い。
「で、ミナルザン、地下都市ゴレアの件だが、サイデイルからバーレンティンたちと一緒に地下に向かう予定だったが、新しくセナアプアの地下トンネルから地下に向かうルートが発見されたんだ。今、元【夢取りタンモール】の一団が地下トンネル網の探索をしている。だから、その一団と共に地下を調べながら地下都市ゴレアに向かうって手もあるようだが、どうする?」
「ココノ都市ニモ、ナレタ。楽シイカラ、何時デモカマワナイ。ソシテ、ペレランドラノ部下ノ、ノエルカラ、キュイズナーノ傭兵ヲ斡旋スル商会ノ噂ヲ聞イタゾ!」
ノエル?
皆に、
「皆、ノエルって人物はミナルザンと会話をしたのか?」
そう聞くと、皆頷いた。
すると、ユイが、
「うん、ノエルさん。【天凛の月】の新しい部下。ペレランドラの下で働いている」
「ん、ノエルさんは下界出身。ネドー派の下院評議員の部下だった」
「はい。上司のトパラッドよりノエルは優秀だったようです。そのノエルの上司、下院評議員トパラッド・ハッキネンは死にました」
「うん。わたしたちや【白鯨の血長耳】に潰される前に死んでいた」
「ネドー派なら逃げる際か。その下院評議院トパラッド・ハッキネンの死因は?」
ヴィーネやキサラでも良いが、ユイに視線を向ける。
「下院評議員トパラッド・ハッキネンは、子飼いの闇ギルド【魔紋キミチカ】が支配していたミミル街の一角で、闇ギルドと海賊のチンピラの喧嘩が派手な争いに発展して、その余波に巻きこまれて死んだそうよ。ノエルは路頭に迷っていたけど、扇情的に復活を果たしたペレランドラの噂を耳にしたノエルが、急いでペレランドラに直談判したって流れ」
「へぇ」
「はい。お母様の勢力は急激に拡大しています」
ドロシーがそう補足してくれた。
そのドロシーも【天凛の月】の幹部の衣装を着ている。
闇ギルドの【天凛の月】だが、いいんだろうか。
ま、良いからここにいて、幹部の衣装を着ているってことだろう。魔法学院で一緒に過ごした友達を失っているドロシーだ。
ここにいる皆がドロシーにとって仲間で家族なはず。
「……ドロシー、これからも仲間たちを頼む」
「はい! ビロユアン先生とミナルザン先生がいますので、空魔法士から空戦魔導師へ成長してみせます!」
先生か。ディアとも模擬戦を行っていたようだし、ミナルザンも人気がある。
俺もミナルザンと戦い、成長できた。
<雷式・血雷穿>を獲得できたのはミナルザンの強さの証し。
そのミナルザンを見たら、
「フォフォ」
もぎゅもぎゅっと笑った。
「もぎゅって笑ってる!」
「あはは」
「ん、ミナちゃん! 意外に可愛い」
「エヴァはミナルザンをミナちゃんって呼んでるのか」
「ん」
「ミナルザンは結構人気がある?」
「ん、ある。【天凛の月】の兵士たちにも剣術の稽古を付けてくれるし、わたしたちの化粧品も時々顔につけさせてくれる」
「うん。けど、もぎゅもぎゅが激しくなっているから、本人はいやがっているのかもしれない?」
「ん、大丈夫。ミナルザンは、『……これがマグルの友と友が親交を深める儀式なのだな……中々良いものだ。大魔術師ケンダーヴァルと同じようなマグルとは思えない。皆が優しく強い……。地下都市ゴレアを思い出す』と考えては、『皆の笑顔を見ると、新しい絆を得たと分かる……心が温かい。【外部傭兵ザナドゥ】の輩と同じ。同時にマグルの強さが分かったような気がする』って考えていた。後、獄炎光骨剣を使う己の剣術に強い誇りを持つ。だから、己を打ち破ったシュウヤのことを凄く尊敬している」
「そっか。ミナルザンと仲良くなりつつも調べてくれていたんだな。ありがとう」
「ん、いつものことだ?」
「おう。いつものことだ、だ」
と笑みを交換しあった。さて、
「んじゃ、地下に行こうか――ついでに、ハルホンク!」
ポケットから、〝黒呪咒剣仙譜〟を取り出す。発動した<導想魔手>にその〝黒呪咒剣仙譜〟を持たせた。
「そのハンカチのような布の束は?」
「ん、刺繍?」
「え? 玄智の森で刺繍心に目覚めたの?」
レベッカの言葉を聞いて思わず笑った。
皆が着る【天凛の月】の新衣裳を凝視。
【天凛の月】をイメージした刺繍と黒猫のマークはお洒落だ。その衣装を見ながら、
「刺繍、憧れはある。が、革細工に魔裁縫のスキル系統は獲得できていない」
「スキルはなくともシュウヤは器用よ」
「はい。シュウヤ様から、アキレス師匠直伝の皮を鞣して革を作る技法を覚えて実際に造ったことがあると聞きました」
「うん。スキルが在ればそれだけ便利なことはある。と思うけど、スキルが無くても造れるってだけで凄いと思う!」
それはたしかにな。
「ま、俺は戦闘系が得意ってことだろう」
「うん。戦闘に関しては、まさに<天賦の魔才>」
「はい、相手との駆け引きも交渉も上手いですから」
「そうですね。戦闘の指示も実に的確ですし、戦いの中での閃きも冴えている。軍師の才能も高いです」
皆が褒めてくれて嬉しい。
が、キサラの熱の籠もった俺の解説を聞いて照れる。
急ぎ
衣装は夏服っぽさをイメージ。
ゼロコンマ数秒も経たず右腕の袖だけ長くした戦闘装束に変化した。
素早く袖の内部にポケットを造る。
「わ、薄着の戦闘装束に変化した!」
「節々から青白い魔力と黄色の魔力が微かに出ています」
ハルホンクは能力を示すつもりのようだ。
構わず、右手の袖の内部のポケットから白蛇竜小神ゲン様の短槍を突出させた――痛ッ、穂先の一部が掌の付け根を突き抜ける。
右手から血飛沫が迸った。
――痛かったが、その<血魔力>を操作。
「シュウヤ、血がッ、あ、その<血魔力>を活かす槍武術の訓練?」
「白銀の短槍、ではそれが、白蛇竜小神ゲン様の短槍!」
「四神柱に刻まれていた白蛇竜小神ゲン様の魂を元にした短槍で、指貫グローブにも変化が可能な短槍ですね」
皆の言葉に頷く。
「ちょい短槍を試す――」
前傾姿勢で駆けた――。
走りながら右手の掌の中で白蛇竜小神ゲン様の短槍を回す。
右腕を捻り、掌の中で回転中の白蛇竜小神ゲン様の短槍を右手の甲へと移行した。
その手の甲の上で回転中の白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄を、右手首の真上から前腕、肘辺りまで移動させたところで、右腕を強く捻り、反対方向にも捻る。
白蛇竜小神ゲン様の短槍を前腕に絡む蛇の如く回転させた。
――運動と神経は密接に絡み合う。
――筋肉の活動には脳の信号が重要。
そう思考したところで――突如気配を殺した短剣使いが出現したと想定。
間合いを詰められて、短剣が懐に迫る。
急ぎ、横に体幹の軸をズラす。そして脱力を意識――。
前進機動から、柔らを意識した爪先半回転を実行。
右足の踵を起点とする横回転で短剣使いの迅速な突きを避けた。
続けて左足の爪先を活かす横回転――俺の動きを追う短剣使いは前進。
連続的に俺の胸を短剣で狙うように<刺突>系の突き技を繰り出してきた。
それらの攻撃を紙一重で避け続けた。反撃の機会を待つ。
次の瞬間――。
短剣を持つ右手の腕が微かに伸びて引く機動をとった。
後退せず前進――。
白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄で短剣の刃を受け流す。
同時に短剣使いの懐に入った刹那、右肘の打撃を短剣使いの腹に喰らわせる。
短剣使いは体勢を崩すが、短剣を下げてきた。
狙いは、白蛇竜小神ゲン様の短槍を持つ手だろう。
素早く右腕の肘を畳むような動きから、白蛇竜小神ゲン様の短槍を真上へ上げた。
俺の指を斬ろうとした短剣を弾く――。
しかし、短剣使いは俺がトリックに掛かったような
――落ち着いて<白虎ノ瞑想>を発動。
――<滔天神働術>と<闘気玄装>も発動。
――<滔天内丹術>と<霊仙酒槍術>も発動する。
スキルを連続発動しつつ目を瞑る。
白蛇竜小神ゲン様の短槍を肩に当て、その短槍を支えに体を急激に下げた。
「え? 急に倒れた?」
「いえ、何かの武術でしょう」
皆の声を聞きながら、俺の部下になった強烈な短剣使いを思い浮かべる。
白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄が右手の掌の中を滑るように落ちていくのを感じつつ――。
その穂先が地面と衝突――柄は肩の上だ。
――と、風を感じる。
その風を、俺の首を狙った短剣の刃に感じながら、左手に凍った茨が絡む魔槍を出現させた。
<闘気玄装>を強めながら目を開け――。
白蛇竜小神ゲン様の短槍の穂先一つで、尻が地面に触れそうな体を支え続けながら<凍迅>を発動――ドッと冷気が俺の体から放出された。
体から噴出するような冷気で推進力を得る――。
右腕を引き白蛇竜小神ゲン様の短槍の穂先でも地面を強く突いて、一気に加速し前進。
そのまま左手が持つ魔槍で<刺突>――。
左腕が一本の魔槍となったような穂先が短剣使いの腹を捕らえ穿った。
その左手が握る魔槍から凍った茨が周囲に迸る。
動きを止めて訓練を一端止めた。左手が握る凍った茨が絡む魔槍を消す。
すると、皆から拍手が響く。
「今、幻影の敵が見えたような……」
「うん、寝るような姿勢で敵の攻撃を避けたのよね」
「昔以上に素敵な動き……」
「はい、一瞬ですが、白蛇竜小神ゲン様の短槍が生きた白蛇に見えました……」
「……シュウヤは、神経を正しく鍛えるべきだ。と斧槍を振るっている時に教えてくれたけど……シュウヤの<脳魔脊髄革命>も玄智の森で鍛えられたのね……」
皆の言葉に頷いてから――。
白蛇竜小神ゲン様の短槍を傾けた。
柄頭で床を突く――否、置くと言ったほうが正しいか。
その白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄の下部に両足を乗せた。
このままだと倒れるが、短槍の柄の上部を左手で引っ張るように握りながら姿勢を保つ。
誘い水の静ではないが、筋肉の力を活かして動きを止めつつ、
「――そうだな。<脳魔脊髄革命>は素晴らしい。意識or思念の大脳、小脳、脳幹、基底核などからの命令がα運動ニューロンを超えた光魔ルシヴァルの神経網を通して全身の筋肉に瞬時に行き渡る――玄智の森の稽古でも、中枢神経の運動プログラムの進化は常に感じていた。だからこそ魔技三種も成長しているし、<闘気玄装>などの仙技を多く獲得できたんだろう――」
と言いつつ、白蛇竜小神ゲン様の短槍を振るった。
風槍流の型を見せながら腕や背中の筋肉のことを解説。
「……」
「動きが凄いのに、良く語れる。しかも<導想魔手>を発動させたままだし……」
「筋肉がムキムキしてた!」
「はい、しかも、難しい、だいのう、しょうのう……のうかん……」
「ん、難しい」
「エクストラスキルは凄いってことね」
「にゃ~」
「にゃお~」
「にゃァ」
相棒たちは俺の気持ちが分かるのか、寄ってこない。
「おう――」
白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄を右手の甲から前腕へ移動させる。
橈骨と前腕屈筋群で、その短槍を真上に弾いた。
その浮いた白蛇竜小神ゲン様の短槍をサッと左手で掴みつつ、一歩、二歩、三歩と前進しつつ軸をぶらさない爪先回転を実行。
「またまた素敵な動き……」
「速い動きの部分は分からないですが、動きを止めるところが……素敵です」
『ふふ、当然です! 閣下の動きは洗練されています! その神槍ちゃんは雷式ラ・ドオラと似て扱いが楽そうに見えますし、グローブにもなるなんて、素晴らしいアイテムですね!』
『あぁ、ゲン様の魂の欠片を元にした短槍だからな。白蛇竜と関係したモノを穿った際に<白蛇穿>と<白蛇竜異穿>も覚えられたし、今後も武術の発展を狙えるスペシャルな神槍で指貫グローブだ』
『はい!』
回転を終えた直後――。
<導想魔手>に〝黒呪咒剣仙譜〟を持たせたまま――。
強敵の剣師を思い描く――。
その幻影の剣師へ向けて前傾姿勢で前進。
右足を突き出す踏み込みを実行――。
左腕で正拳突きを行うが如く――。
左手が握る白蛇竜小神ゲン様の短槍を真っ直ぐ突き出した。
左腕が一の槍と化す<刺突>が剣師の突剣スキルの下を掻い潜るように胸元に突き刺さった。
良し――感覚に狂いはない。
左腕を引きつつ爪先半回転――。
身を翻して、白蛇竜小神ゲン様の短槍を指貫グローブに変化させて、皆のところに戻った。
「にゃお~」
「ん、格好良い!」
「<刺突>の鋭さが増した?」
「はい! 新しいスキルを使用していたようですが、動きが洗練されているように見えました!」
頷いた。
「筋力は増えたわけではないと思うが、良い感じ。で、話が逸れたが、布系の最高峰である魔裁縫師などはセナアプアにもいるんだろう?」
ペルネーテなどでも有名なオードバリー家の魔金細工師や魔裁縫師もいるはず。
そう言いながら、<導想魔手>を手元に運ぶ。
〝黒呪咒剣仙譜〟はそのままだ。
「いる。わたしたちが新調した制服は、魔巧ツクヨミに制作を頼んだの」
卵怪人のトレビンが語っていた魔巧ツクヨミか。
「見つけたのか。凄腕の魔道具の修理人の魔巧ツクヨミを。魔裁縫師でもあるのか」
レベッカは、
「うん。ペレランドラ経由でね。ツクヨミは人族ではない。けど種族についての質問はしなかった。アイテム鑑定も無理。でも、布の素材知識は高そうに見えた。シュウヤの<瞑道・霊闘法被>をイメージした言葉を伝えたら、このようなモノトーンの新衣裳になったの」
「へぇ、異界軍事貴族などの石像を修理できるようだが、その件は聞いた?」
「聞いた。値段は高いけど、できるって」
「ツクヨミは上界に住む?」
「そう、セナアプアの上界は様々な大物たちが住んでいる。見知らぬ拠点も多い」
「摩天楼のような魔塔群なだけはあるな……」
皆、頷いた。
「ねぇ、その<導想魔手>が握る物は、書物?」
「あぁ、名は〝黒呪咒剣仙譜〟。剣譜だから剣系のスキルが獲得できると思うが、<黒呪強瞑>の秘術書らしい。これを読んだダンとクレハは、<黒呪強瞑>という名の<魔闘術>系統のスキルを新しく獲得していた」
「へぇ」
「読んでみるとして、この〝黒呪咒剣仙譜〟は皆にも試してもらう予定だ」
「わたしたちもその書物は読めるのかな」
「分からない。ってことで、少し読んでみる」
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