九百二十七話 魔界セブドラ

 

 続いて傷場からトモンとジェンナが現れる。


「ふふ、戻れた、魔界セブドラ!」

「――戻ったぞぉぉ!」

「ついに戻ることが――」


 トモン、ジェンナが走る。

 嬉しそうだ。


「シュウヤ様、我は偵察に出ますぞ」

「了解」


 ザンクワたちを追い抜くマバペインと騎乗するド・ラグネスの機動力は前と変わらず凄い。


「ブルルルゥ――」


 マバペインも何処となく嬉しいような鳴き声だ。


 そのド・ラグネスは騎乗するマバペインと呼吸を合わせたように加速。


 鹿魔獣マバペインの毛はもっさもさ。 

 魔界騎士ド・ラグネスは荒野を突き進む。


 続いて傷場からガマジハルが現れた。

 鬼魔・幻腕隊ガマジハルの部隊の鬼魔人たちも出現。


 そのガマジハルは俺に一礼し、


「シュウヤ様、我らも周囲の偵察に動きまする!」

「おう。少ししたら地図を書いてもらうから、あまり遠くには行くな」

「はい。では皆、偵察に出るぞ!」

「「「ハッ」」」


 鬼魔・幻腕隊ガマジハルたちは四方八方へと走り出す。


 続いてアラが現れた。

 アラへの敵意はもう魔族たちにはない。

 良かった。


 そのアラやザンクワたちと一緒に荒野を歩く。


 ザンクワが、


「シュウヤ様、右側に丘があります」

「了解。鬼魔人傷場を見渡せるし、見晴らしが良いなら遠くも見えるか。皆に話があるから丘に行こう。そして、ド・ラグネス! ガマジハル! 偵察はいいから戻って来い!」

「「「「「はい」」」」」

「「承知――」」


 先に駆けて高台に到着。


 振り返って直ぐに、アラ、ザンクワ、魔将オオクワ、副官ディエ、ヘイバト、トモン、ジェンナが高台に到着。


 まずは近くにいるアラに、


「ライランの血沼の方角を教えてくれ」

「はい。この鬼魔人傷場も【ライランの血沼】の影響範囲。そして、こちらの方角が激戦区のはずです」


 荒野の一角を差す。


 空には巨大な鷹のような翼を持つ魔人か魔族の群れが飛行している。

 荒野を凝視すると足跡のような様々な亀裂が複数あった。


 前腕のような岩は右側に多い。


「戦列の足跡が続く方角に【ブラックヘブン城】と街が存在します」

「ブラックヘブン城が魔界王子ライランの居城?」

「いえ、【ライランの血沼】の領域の東の地方が、【ブラックヘブン】という地名。ライランの血沼の東を守る要衝がブラックヘブン城と街です」


 へぇ……。

 丘の下から、魔族たちの出現が続く鬼魔人傷場をチラッと見てから――再びアラが差す方角を見る。


 位置はだいたい覚えた。

 後は<導想魔手>を使い空中偵察かな。


「……シュウヤ様、わたしが知る地域は、そのブラックヘブン辺りだけです。他は有名な地名しか知りません」

「了解、トモンとジェンナ、地獄龍山について話をしていたが、お前たちの故郷も同じ方角なのか?」

「ブラックヘブンの西側に【業魔雷平原】があり、この荒野とも繋がっているはず。その近くに【魔神血沼】と【血沼地下祭壇】と【ライランの血沼城】があります。そのライランの血沼城が魔界王子ライランの本拠地のはず……」

「はい」


 すると、片膝を地面に付けていたザンクワが、


「西の先が【陰蛾平原】と【大いなる滅牙谷】で、その奥が【リルドバルグの窪地】です……」

「結構な領域を持つんだな、魔界王子ライランは……」

「「「はい」」」」

「その魔界王子ライランは本拠地にいないことが多いと、ド・ラグネスが言っていたが」

「はい、【ブラックヘブン城】の周囲も敵ばかりですから」


 アラがそう発言。

 魔界王子ライランは暗殺を恐れて常に移動しているとか?


 軍が傍にはいると思うが、機動力の高い親衛隊とかいるんだろうか。


 それとも骨人形リグラッドのような眷属が傍に複数存在する?


 魔将オオクワと副官ディエも何かを言いたいような表情を浮かべている。が、今は皆に譲っていた。


「ブルルルゥ――」


 すると、ド・ラグネスとガマジハルも高台に来た。


 マバペインから降りたド・ラグネスはそのまま片膝で地面を突き、頭を垂れる。

 ガマジハルも部隊を下がらせてから足早に皆に合わせて片膝で地面を突き、頭を垂れる。


「ド・ラグネスとガマジハル、頭を上げてくれ。今、皆に魔界王子ライランの領域について教えてもらっていた。お前たちも意見があったら聞かせてもらいたい。そして、皆もだが、周辺の地図、知っている範囲の地名を羊皮紙か皮布に書いてくれるとありがたい」

「――お任せあれ。地図が欲しいのでしたら、この〝列強魔軍地図〟をシュウヤ様に差し上げます……」


 お?

 ド・ラグネスが懐から巻物を取り出した。

 魔界セブドラの神絵巻風で懐かしい印象。


「〝列強魔軍地図〟の巻物は普通の地図ではない?」

「はい、血と魔力を刻み入れ契約をすれば、契約者の精神力と魔力の程度により、〝列強魔軍地図〟に地図が表示され、その地図の範囲も決まるとされている伝説レジェンド級のアイテム。更に契約せずとも、触りつつ魔力と思念をこの〝列強魔軍地図〟に送れば地名を書き込めます。契約者ならば、地名を消すことも自由です」


 凄いアイテムじゃないか。


「その伝説レジェンド級の〝列強魔軍地図〟は、ド・ラグネスが魔界騎士として活動する上で大切なアイテムに思えるが……」

「構いません。我はもう放浪の魔界騎士ではない。負けた時点で傭兵稼業は終わった。ですので、導きし者シュウヤ様の配下……そのシュウヤ様の軍に従うのは当然のこと」


 感動を覚える言葉だ。

 自然と胸元にラ・ケラーダのマークを作り、ド・ラグネスに送っていた。


「……ありがとう、ド・ラグネス」

「はい――」

「では皆、〝列強魔軍地図〟と契約するから、ここに地名とか分かっている範囲の地名を書くように思念と魔力を送ってくれ――」

「「「はい」」」


 素早く<血道第一・開門>を意識。

 巻物の〝列強魔軍地図〟に魔力と血を送ると、浮かびながら拡がった。

 拡がった〝列強魔軍地図〟は薄汚れた羊皮紙にも見えるが……これが〝列強魔軍地図〟か。

 その〝列強魔軍地図〟の表面が沈み浮き、立体的な凹凸が生まれて、浮き彫り状の知らぬ場所と地形がジオラマ風に出来ていく。

 それは森、山、川、高原、砂漠、氷河、海。

 都市、洞窟、塔、寺などの形だ。


「「おぉ」」

「かなり広い地図……」

「これほどとは……」

「魔王級、魔神級の魔力量よね……地図も正確で広がりも凄い」


 ジェンナがそう発言。

 たしかに地図はかなりの精度だと思う。


 ワクワクする。


 〝列強魔軍地図〟の端に筆記体のような魔界文字でシュウヤ・カガリと名が刻まれた。

 続けざま<ルシヴァルの紋章樹>のマークが刻まれる。


 渋い〝列強魔軍地図〟は浮いたまま動かない。見やすい。


 長い槍か棒にこの〝列強魔軍地図〟を付けたら軍旗のようにも見えるかも知れない。

 周囲の仲間たちの防御力や戦闘能力が上がったりして、


「皆、この浮いた〝列強魔軍地図〟に魔力と思念を送ってくれ」

「「「「はい」」」」

「おまえたちも触れ」


 ガマジハルが幻腕隊ガマジハルの鬼魔人たちに指示を出す。

 幻腕隊ガマジハルの面々は遠慮勝ちだ。


「しかし、閣下のアイテムに……」


 俺は頷いて、


「構わない、自由に〝列強魔軍地図〟に触ってくれ」

「「「はい」」」


 アラ、トモン、ジェンナ、ヘイバト、ザンクワ、オオクワ、ディエの皆が〝列強魔軍地図〟に触りまくる。


 〝列強魔軍地図〟に――。


 【ベヒモス窪地】。

 【甲狂ドラゴン丘】。

 【黒藻蜘蛛の森】。

 【魔霊ヴェサルガの墳墓】。

 【ブラックヘブン城】。


 などの地名が刻まれた。

 その〝列強魔軍地図〟を見ながら、


「ここから北に存在する【ブラックヘブン城】と街は戦場になっている可能性が高い?」

「はい。ブラックヘブン城の北、北西、北東は魔公爵ゼンの支配領域とかなり近い」


 頷いた。

 続いて、ブラックヘブン城の北側の直ぐ近くに魔公爵ゼンの支配領域が記されていく。


 こりゃ分かりやすい!


 更にブラックヘブンから遠いが、【大平原コバトトアル】がドンッと〝列強魔軍地図〟に出現。


 ブラックヘブンの北、北西側には大平原コバトトアルが拡がっているんだな。


 大平原コバトトアルは大陸のような印象だ。


 続けて、


 【魔界八大湖ペッサマグラス】。

 【地獄火山デス・ロウ】。

 【グルガンヌ大亀亀裂地帯】。


 の一部が現れた。


 【地獄火山デス・ロウ】はアドゥムブラリが知る地方だ……。

 そして、グルガンヌは魔界沸騎士長たちがいるとこだ!


 なんか感動を覚える。

 グルガンヌの南東……滝壺……のようなマークがあるような……。


 更に、それらの巨大な領域を挟む形で……。


 悪夢の女神ヴァーミナ様の支配領域、魔界騎士ホルレインの支配領域、狩魔の王ボーフーンの支配領域、【陰蛾平原】、【業魔雷平原】、【魔神血沼】、【血沼地下祭壇】、【ライランの血沼城】、【大いなる滅牙谷】、【リルドバルグの窪地】、闇神リヴォグラフの闇渦の領域、魔公アリゾンの支配領域、吸血神ルグナド様の支配領域、魔毒の女神ミセア様の支配領域なども……。


 〝列強魔軍地図〟に記されていく。

 地名の出現が止まった。


 と、少し遅れて――。


 南側に【魔城ルグファント】の地名が刻まれた。明らかに廃城のような印象……。


 が、感動を覚える。

 魔軍夜行ノ槍業の八人の師匠たちの城。


 すると、ジェンナが〝列強魔軍地図〟を示し、


「ご覧の通り、ブラックヘブンの西側に存在する魔界王子ライランの居城【ライランの血沼城】の西と北西と南西が暴虐の王ボシアド様の支配領域です。この暴虐の王ボシアド様の支配領域と、北の魔公爵ゼンの支配領域が、魔界王子ライランが支配する【ライランの血沼】と近いことになります」


 納得だ。

 ランドパワー、地政学的に争い合うべくして争い合う地形だとよく理解できた。


「俺たちが注意を向けるのは、この【ライランの血沼城】側の西と北の【ブラックヘブン城】から来訪するだろう魔界王子ライランの勢力だな。戦っている相手に滅ぼされていたら幸運だが」

「「「はい」」」

「そうなります」

「そうですね。戦わずして勝つ」


 〝列強魔軍地図〟を見ながら頷いた。ザンクワは智恵者か? 

 孫武が作ったとされる兵法の書 『孫子』の言葉を告げている。

 ま、だれしも考えるか。戦わずして勝つは富国強兵の基本だな。


 そして、


「……俺が惑星セラの傷場を利用して再訪した際、どこに出るか、だな……この〝列強魔軍地図〟には傷場の場所は……俺たちが利用した鬼魔人傷場しか印されていないのはなぜだ?」


 ディエが、


「……推測ですが、傷場を利用した者でないと、この〝列強魔軍地図〟に表記されないとかではないでしょうか」


 頷く。


「そうかもな。そして、皆が団結して安住の地を目指すのならば……南の【魔城ルグファント】を利用するべきだと思うがどうだろう」

「南……」

「他の地名が刻まれていません。洞窟と墳墓のマークが山ほど存在しています」

「あぁ……未知数か。ならば、魔毒の女神ミセア様の支配領域と悪夢の女神ヴァーミナ様の支配領域に【地獄火山デス・ロウ】か【グルガンヌ大亀亀裂地帯】を勧めよう」

「「……」」

「まぁ、ここから勧めると言っても遠いか。相棒もいないし、イゾルデは魔界が嫌いだから無理。……空から一気に行くにしても、空も危険そうだ」

「はい。でも、シュウヤ様が勧めるとは……」

「おう、少し皆にも告げているが、魔毒の女神ミセア様と悪夢の女神ヴァーミナ様と、俺は仲が良い。だから多分、おまえたちのことを受け入れてくれるはず。が、正直魔界の神々だ。変なことになる可能性も高い……だから、地獄火山デス・ロウは一部しか見えないから却下として……グルガンヌも一部だけだが、この南東の位置……端っこを勧める」

「端っこ……」

「……隅で険しい山地のようではありますが、様々な勢力に囲まれている場所でもある」

「おう。地形はまぁ、オマケとして、たぶんだが、そこで、俺の部下の魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスが活動している。あ、一人上等兵士が増えたらしいから、三人で活動しているようだ」

「三人……」

「「「……」」」


 皆、訝しむ。

 まぁ当然か。


 姿も力も知らない存在を勧められても分からんよな。

 すると、アラが、


「……ゴホンッ、シュウヤ様が勧めた南の【魔城ルグファント】はまったくの未知数。シュウヤ様の勧めた魔界の神々の庇護を受けるのか……もう一つの北のグルガンヌの南東は……どちらにせよ、そこに向かうまでが大変です」

「あぁ、【ブラックヘブン城】を迂回するにも、途中に【ベヒモス窪地】とグランドバルアドラゴンが棲まう【甲狂ドラゴン丘】と【黒藻蜘蛛の森】に【魔霊ヴェサルガの墳墓】が存在する」


 トモンが指摘。

 トモンは故郷の業魔雷平原に向かうつもりはないのか。ジェンナも頷いていた。


 二人とも荒野を西に駆ければ直ぐに業魔雷平原だと思うが、鬼魔人として皆に協力するつもりか……もしそうなら良い魔族だ。

 そこから皆で会議が始まった。


 その会議している皆に向け、


「……皆、悪いが、俺は知っているように玄智の森に帰らなければならない」

「「「はい」」」

「「「……」」」


 納得している組と納得していない組。

 導きし者と慕ってくれていた者たちはほとんどが沈黙。ま、こればかりは仕方ない。


 俺の本体は魔塔ゲルハット。

 夢魔世界の<夢送り>を通した精神体だけの異世界転移事象の最中に、次元転移を行ったのと同じこと。


 リスクはあるはずだ。

 だから、魔界セブドラに長居はしない。


「で、去る前に聞きたいが、皆それぞれ失った故郷を目指しバラバラに散るのか? それとも、元玄智の森組の皆で纏まり、魔界セブドラで諸侯の一角でも目指すのか? もし後者なら、俺は魔将オオクワが指揮権を持つべきと推薦する。どうだろう」

「はい! わたしはシュウヤ様の部下。そのシュウヤ様が認めている魔将オオクワに付いていきます」

「ディエ……」

「はなっからそのつもりです」

「俺も」

「はい、俺も! シュウヤ様は俺たちを救ってくれたが、玄智の森の民も救われるべきだと思う」

「あぁ、そうだな……武仙砦の一件は心に沁みた……」


 トモン……。

 副総督ドンボイさんたちとのやりとりを見ていたか。

 ジェンナも泣きそうな表情だ。


「その指揮権だが、魔界騎士ド・ラグネスでも良いかと思っているが、皆はどうなんだ?」

「我は使われるほうが性に合います。魔将オオクワに従おう」


 魔界騎士ド・ラグネスはそう発言。


「ド・ラグネス……」

「なら、鬼魔砦統帥権の鬼闘印を返すかな」


 肩の竜頭装甲ハルホンクには吐いてもらうことになるが、たぶん鬼闘印は大丈夫だろう。


「それはなりませぬ。シュウヤ様はまた魔界セブドラにお越しになると聞きました」

「おう」

「その時、その鬼魔砦統帥権の証明の鬼闘印があれば、色々と好都合なことが多いかもです」

「了解した」

「はい。わたしはあくまで、シュウヤ様の代理として皆を見守りましょう」


 魔将オオクワの発言に頷いた。そこから談笑。

 荒野を見ていく。右側は少し傾斜している。

 丘の天辺から、鬼魔人傷場から現れ続けている魔族たちを皆と一緒に見続けた。


 攻城兵器を引っ張るバンドアル魔獣戦車隊も次から次へと鬼魔人傷場から出現。


 魔族たちが鬼魔人傷場から現れる度、赤色、紫色、黒色に灰色が加わった魔力の霧と、その霧の中を駆け巡る稲妻のようなモノが魔族たちの体に纏わり付いていた。


 この時空の傷を保っている無数の未知の魔力は、一種の時空の紐のようなモノか?

 カラビ=ヤウ多様体っぽいモノが粘着性を帯びている?


 今、鬼魔人傷場の波動関数を観測しているから、そう見えているだけか?


 鬼魔人傷場も狭間ヴェイルの傷に変わりはない。次元と次元の裂け目。


 それが不思議と保たれている事象。

 ブラックホールとホワイトホール?


 次元と次元を繋ぐ……神界と魔界の神々の法則っぽい『量子のもつれ』のような波動法則や隠れた変数理論が秘められているのかもしれない。


 そして、こういう不思議なモノを観測してしまうと……。


『永久インフレーション』

『マルチバース』

『エヴェレットの多世界講釈』


 などの量子の重ね合わせの世界と、今という選択肢を選んで、選んだ選択肢によって無数に分岐していくパラレル世界のことをどうしても考えてしまう。転生する前後も宇宙と次元に関することを色々と考えた。


 …… 玄智の森、鬼魔人傷場の向こう側は行きの時と同じく見えない。


 赤色、紫色、黒色の鬼魔人傷場の中を無数の稲妻が迸る。稲妻の色は黄色もあれば蒼色と黄緑に赤い稲妻や灰色の稲妻もあった。


 その鬼魔人傷場の周囲の空間の縁際は、それらの色のプロミネンスのような魔力を放ち続けている。

 更に、魔族たちが傷場から魔界セブドラの世界に現れる度、ぐわりぐわりと歪んで跳ねていた。


 見ているだけで酔いそう。


 灰色の魔力と稲妻は時空属性を意味するんだろうか。思えば、俺が転生する直前のマトリックス力学を表すような数式や文字の羅列が現れた際、裂けた空間から見えた光の中には、灰色、白銀めいた光もあった。


 そういった経験を得ているからか不明だが、鬼魔人傷場の中を見ていると恐怖を覚える。


 が、一種の次元世界を渡れるアトラクションと思えば……。

 楽しくなってきた。


 同時に黒き環ザララープを想起。

 あの黒き環ザララープの中を潜ってみたらどんな異世界に突入するんだろう。


 そんなことを考えていると、軍用糧食を運ぶ部隊が鬼魔人傷場から出現した。


 巨大な黒髪が浮いているようにも見える。

 大きな樽と重い荷物に絡ませた黒髪を頭上に展開させて移動している仙妖魔の部隊は魔族ならではの輜重隊だろう。


 普通にシリングのような紐と繋がるカップ状の具の中に荷物を詰め込んでいる鬼魔人部隊もいる。


 人族とは異なる胃袋を持つ魔族。

 魔素や魂などの贄を得て活動的になるのが魔族たちだと思うが……それなりに血肉になる食物は必要か。


 そういった数千人規模の魔族たちの出現が止まる。


 玄智の森にいた魔族たちすべてが、魔界セブドラ側への移動を終えたようだ。


 良し……なんか大仕事をやり遂げた感が強い。

 丘で俺の傍にいる幹部たちに、


「さて、そろそろ俺は玄智の森に帰る――」


 刹那――北のほうから――。

 強大な魔素が近付いてくるのを察知。


 まさか……。


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