九百二十六話 武仙砦の総督ウォーライと副総督ドンボイ


 まずは武仙砦の方々にお辞儀。

 そして、独鈷どっこコユリとカップアンとアイコンタクト。

 二人は笑みを浮かべると互いに目を合わせうなずき合った。

 両者とも仕事はしたって表情だ。


 魔族たちをチラッと見てから独鈷コユリに向け、


「結構な数の鬼魔人と仙妖魔が玄智の森に潜伏していたようだ」


 と発言。独鈷コユリは頷き、


「そうさねぇ。幾星霜いくせいそう……の間を考えれば当然の数。更に、シュウヤの予想話ではないが……鬼魔ノ伝送札と伝送陣などの転移以外にも、秘かに武仙砦を越えて玄智の森に入り込む手段があったかもしれない」


 独鈷コユリはそう語る。

 武仙砦と武仙砦を守る方々と魔族たちを見回していた。


 俺が倒した魔界王子ライランの眷属アドオミが、玄智げんちの森の魔族勢力の頂点だったとは思うが……。


「過去を考えれば、アドオミ以外に台頭した魔族グループがいた可能性は否定できないからな」

「そうさね。その関係での新しい情報を得たさ。アドオミの洗脳を秘密裏に解いていた仙妖魔せんようまがいたようだぞ」

「え?」


 驚きのまま独鈷コユリの視線を追うように――。

 俺も鬼魔人と仙妖魔の一団に視線を向けた。

 続いて、アラ、トモン、ジェンナに視線を向ける。


「知りません、仙妖魔にそのような実力者が……」

「……アドオミと一緒に活動していた俺たちと対決を避けていた存在ですか……玄智の森は広いのであり得るとは思います」


 ジェンナとトモンがそう語る。

 アラは無言。魔界セブドラ側からこの玄智の森に来たばかりの傭兵、分からないのは当たり前か。


 独鈷コユリは、


「わたしも初めて聞いた時は驚いたさ。シュウヤたちも知らなかったようだねぇ……そして、アラ以外の、その二人の魔族は?」

「トモンとジェンナだ。ヒタゾウことウサタカを倒した際に仲間にした。二人も魔界セブドラに戻る」

「ほぉ……」


 武仙砦の方々から殺気が……。

 アラはそそくさと俺の背中に移動してきた。

 ジェンナとトモンも周囲をうかがう。


 皆に、安心しろというように腕を出した。

 そして、独鈷コユリに、


「その仙妖魔はどこにいるんだ?」

「話を聞いただけなのさ。表に出ようとしないから、目立ちたくない魔族ってことさね。鬼魔人とは違う」

「そっか」

「先ほど鬼魔砦おにまとりでに向かったイゾルデ様の背に乗った魔族の中にいたのかもだ」


 頷いた。


「無名で隠者の仙妖魔。もし仙妖魔なら神界セウロスに帰還できれば、あ、帰りたくないか。そして、隠れている理由を察すると、神界セウロスと関わる存在と接触したくない?」


 マルアの過去話が事実だとして……。


 その仙妖魔なら分かるような気がする。


 更に、白炎鏡はくえんきょう欠片かけらを持つ俺のような存在を察知できるなら、水神アクレシス様の意向で動いていると判断するだろう。


 そんな俺とは真正面で対面したくないか。

 独鈷コユリは、


「シュウヤは仙妖魔の黒髪を扱う魔族の詳細を知っているのかい?」

「ある程度なら知っている」

「気になるねぇ……」


 今の状況では、その話はしないほうが無難だ。


「今、話せる内容ではないな」

「それは大っぴらにはできないってことか」


 否定はせず話を変える。

 カップアンたちに視線を向けてから、


「……カップアンはがんばったようだな。偉い! そして、キライジャさん、どうもこんにちは」


 カップアンとキライジャさんに会釈。

 見知ったカップアンは、


「あ、はい!」

「はい!」


 キライジャさんと零八小隊の方々は頭も下げてきた。俺も一礼。

 

 そして、素早く独鈷コユリに、


「で、背後のお偉いさんの紹介を頼む。りが合わないと聞いているが、先ほどから、その方の俺に向ける視線は厳しいからな……」

「総督のおやじか……」


 独鈷コユリは少しめ息を吐く。

 半身の姿勢となって、


「渋々、あのおやじに頭を下げてな……ま、それは個人的な話だ……」


 と横目で発言。俺は頷いた。

 そのまま視線を厳つい方に向ける。睨みを強めた独鈷コユリは、


「――総督! あんたが話をしたがっていた英雄が傍にいるんだぞ。さっさと来い!」


 快活過ぎる言い回しだ。

 軍服に近い鎧が似合う厳つい方の総督は『またか』と往年の男らしい笑顔を見せた。

 

 部下たちを引き連れて寄ってくる。

 その総督は歩法からしてただ者ではないと理解した。


 当たり前だが、武人の強者が総督ウォーライさんか。


 頭部はハンカイと少し似ている。

 眉毛は太くゲジゲジで硬そう。

 実は刃物だと言われても納得する。


 眼窩は深く、双眸は黒で大きな目だ。


 鼻毛が見えそうなぐらいの鷲鼻。

 口と耳も大きい。

 デルハウトやド・ラグネスのように大柄だ。


 武器はハルバード。

 背中にもう一本ハルバードを差している。


 二槍流ハルバードの槍使いとか……。

 滅茶苦茶好感度の高いおやじさんだ。


 軍服は防護服と鎧が一体化した武仙砦用の戦闘装束のようで異常な格好良さ。

 

 胸当てが日本風。

 キライジャさんとカップアンの軍服と似ている部分もあるが、総督にしかない勲章のようなマークもある。


 総督の横にいる副総督らしき人物も同じような軍服だ。


 その総督と副総督と武仙砦の方々に向けて、拱手きょうしゅとラ・ケラーダの挨拶を行う。


「――武仙砦の皆様と総督様、こんにちは、シュウヤと言います」

「様はいらん。わしが総督ウォーライである。そして、玄智の森の英雄シュウヤ殿と会えて、まことに嬉しく思うぞ!」


 武人としての敬礼を返してくれた。


「こちらこそ名高い武仙砦を治める総督に会えて光栄です。そして、魔族たちへの攻撃を良く踏みとどまって頂けた! ありがとうございます」


 下手したらとんでもないことになっていた。


「さすがに二度も大きな龍の姿を見れば、皆納得する。更に、黒独鈷を経由してノラキ、ホウシン、ソウカンからシュウヤ殿の活動を聞いていたことが大きい」


 と黒独鈷を見せる総督。

 そして、


「更に、コユリとカップアンから、正気を取り戻した魔族たちと連合したシュウヤ殿たちが、傷場から現れた魔界王子ライランの援軍を撃ち破った話も聞いている」


 独鈷コユリとカップアンは頷いて、


「はい」

「うむ、それでも争いを好む者がいるようだがねぇ」


 独鈷コユリの発言を聞いた総督ウォーライさんは笑顔を止める。


 そのまま顔色を少し悪くしつつ隣の方を見て、


「ドンボイ、まだ気に食わぬのか」


 と隣の方に聞いていた。

 その方が副総督ドンボイさんか。

 そのドンボイさんが、


「……総督、魔族と戦うことが、玄智の森の誉れである私たちの使命。絶壁の武仙砦を守ることが、玄智の森を守ることに通じる」


 その発言に、一部の仙武人たちはうなずいた。

 

 あの中に、武王院出身の武仙のガンバさんもいるんだろうか。


 皆、総じて<魔闘術>系統を常時発動している。


 高度な<闘気玄装>だ。

 質の高い<闘気玄装>を発動している総督ウォーライさんは、


「しかし、今の魔族たちは昔の魔族とは違う。それは分かるだろう?」


 ドンボイさんは総督の言葉を聞いて頷く。


「はい。それは分かっているつもりです……」


 ドンボイさんは洗脳が解けている魔族たちを見ている。残念そうな表情だ。


 そして、俺を見て、


「シュウヤ殿、初めまして、副総督ドンボイです」

「はい」

「シュウヤ殿が魔界王子ライランの眷属アドオミを倒したことは喜ばしい。しかし、あの魔族共の救出に動くとは、残念だ……」


 副総督ドンボイさんは機嫌が悪い。

 ドンボイさんに近い仙武人たちの視線はカップアンたちとは違う。


 明らかに敵視している印象だ。


 俺は、


「残念と言われても、俺の行動は変わらないです」


 そう発言。


「なぜ、そこまでして魔族を助ける? さっさと三つの秘宝を使い、魔界セブドラと繋がる傷場を閉じてしまえば良いものを……」


 ドンボイさんの恨みは強いか。

 その思想などを鑑みて、


「……副総督ドンボイさんは魔族に対して恨みが強いのですね」


 そう聞くと、ドンボイさんは、睨みを強めて、


「……当然だ。家族と戦友は魔族に殺された」

「その恨みを晴らすため、今、降伏に近い意思を持つ魔族たちの大量虐殺を行うつもりですか?」

「どちらにせよ神界セウロスのためになる」


 玄智の森が神界セウロスに戻っても魔界セブドラの諸勢力と戦う可能性はあるか。


「……俺の考えが気に食わない? ですが、戦うつもりもないと。もう答えは出ていると思いますが」

「それは……」

「それとも、俺とサシで戦い決めますか?」


 副総督ドンボイさんは顔色を変えた。

 まさに、思い内にあれば色外にあらわる。


「……私の思想を力尽くで示したところで、意味はないだろう……」


 たしかにそうだ。

 すると、総督ウォーライさんが、


「ドンボイ、お前は、わしの采配にも文句があるのか?」


 そう発言。

 ドンボイさんは、


「……ありません。しかし、魔族と融和なぞ……」

「水神アクレシス様の願いは、玄智の森に住まうすべての民の願いだと思っていましたが、違うのですか?」


 俺がそう聞くと副総督ドンボイさんは少し驚いた反応を寄越す。


「それはそうだが……」

「当然、わしたちも同じ思いである」


 総督ウォーライさんの言葉に皆が頷いたが、あまり頷いていない副総督ドンボイさん。


 そのドンボイさんに向け、


「ダンパンたちといい、仙武人にも色々な方がいるようだ」

「わたしを愚弄するか……」


 副総督ドンボイさんはそう発言。


 愚弄するつもりなんてないんだが……。


 ドンボイさんは武器を手に掛けていないが、腰に差す刀を抜きそうな気配はある。


 ドンボイさんも強者だ。

 いつでも俺に向けて攻撃は可能だろう。


 そのドンボイさんに向け、


「誤解かと。千差万別ですから。むしろそう考える貴方自身が自分自身の行動を恥じているのか、疑念を感じているからでは?」


 ドンボイさんは手を震わせる。


「百聞は一見にしかず。俺の評を聞いて勘違いしているようですが、俺自身も嗜虐を好む面は強い。魔界王子ライランの眷属アドオミを倒したように、魔族とは戦い続けている。更に言えば、眷属たちを守るため神界側の勢力とも戦った。とある戦神の主神を信奉している集団と争い神官の一人をこの手にかけたこともある。ですから、魔界と神界の者は、わかり合える者は少なく、殺し合う螺旋の相手であるのが常だと認識している。ですが……そんな魔界セブドラの世界すべてが悪ではない。善い面を持つ魔族たちがいる……仲間のため身を挺して命を削りながら戦う者たちは仙武人と同じ。勿論、そんなことを知りながら一々戦えないことも分かりますが……まぁ、とにかく納得できずとも、今は一時的に休戦と捉えて、戦う時がきたら戦えば良いじゃないですか。逃げて怯え助けを求める善い魔族たちを殺しても、貴方の心は浮かばれないと思いますよ」


 震えていたドンボイさんは俺の言葉を聞いて体が弛緩。 

 片目から涙を流していた。

 周囲は沈黙。


 涙を流すドンボイさん……には深い怨嗟があるんだろう。


 すると、総督ウォーライさんがドンボイさんの背中に手を回して何か告げる。


 ドンボイさんは片手で顔を拭ってから、


「……はい」


 魔族たちをチラッと見て他の武仙砦の人員たちを見ると頷いた。


 すると、総督ウォーライさんが俺に向けて、


「シュウヤ殿、申し訳ない。わしと同じくドンボイも魔族と戦い続けた負の螺旋でしか己を表現できない不器用な男なのだ……」


 総督ウォーライさんがそう語ると、ドンボイさんは肩を揺らした。


「いえ、とんでもない。ドンボイさんやウォーライさんのような武人がいるから、玄智の森の安全は保たれていた。その武人の防人の気持ちには、尊敬しか浮かばない」


 俺の言葉を聞いたドンボイさんは驚いたような表情を浮かべていた。


 笑顔を自然と作る。

 ドンボイさんも少しだけ笑顔を見せてくれた。


 良かった。


 そのドンボイさんは仲間たちに何かを言うと、すごすごと引き下がった。

 副総督ドンボイさんに従う仙武人たちも一緒に移動していく。


 同時に魔族たちへの攻撃を止めたカップアンの話を思い出した。


 魔族を殺したいがために、偽旗作戦を行ったのはドンボイさんか?


 カップアンは良く戦いを止めてくれたな。

 カップアンをチラッと見てから総督ウォーライさんに、


「カップアンが武仙砦側にいた魔族への攻撃を止めたと、ホウシン師匠から聞きました」


 そう聞くと、総督ウォーライさんは、


「その通り、零一、零二、零三の小隊の一部が命令を無視して、集結していた魔族に襲撃を仕掛けた。が、カップアンと零八小隊の一部に独鈷コユリが素早く前に出て武仙砦の小隊たちの攻撃を止めたのだ。なぁ、カップアン?」


 話を振られたカップアンは手を上げ、


「――はい! 隊長キライジャたちと独鈷コユリ様も見事に暴挙を止めてくれた」


 そう発言。

 思わず拍手。零八小隊の方々と仙武人たちも拍手していた。


 照れるカップアンは可愛い。

 同時に素敵な武仙砦の英雄さんだ。

 

 すると、武仙砦の向こう側にイゾルデの魔力を察知した。


 閃光が武仙砦を突き抜けたように見えた直後「『ガァアヅッロアガァァァァァァ』」


 光魔武龍イゾルデだ。

 龍言語魔法を宙に放ったか。


 雷鳴と轟音ごうおんがとどろく。

 聳え立つそびえたつ武仙砦の上空を泳ぐ光魔武龍イゾルデは圧巻だ。


 そのイゾルデは一対の金の角を俺たちに向けるように頭部を下に傾けた。


 龍の双眸そうぼうは怖い。

 イゾルデは武仙砦の表面を焦がす勢いで急降下――。

 

「「「おぉぉぉ」」」


 魔族たちは一気に大歓声。


「『――退けい!! 馬鹿魔族共ォォォ!!』」


 思念と音波に<超能力精神サイキックマインド>のような衝撃波が地面にいる魔族たちを一気に蹴散らす。


 豪快に着地を行う光魔武龍イゾルデ。


 続けざまに、全身の鱗と鱗の間の溝から白銀の毛を四方八方へ伸ばす。


 吹き飛んだ魔族たちをそれらの白銀の毛で掴むと素早く背中側に引き込む。


 次々と魔族たちを背中に乗せていた。 

 魔族たちも強者が多い。

 

 混乱している者は少ないし、喜んでいる魔族もいる。


「凄まじい……」

「はい……」

「シュウヤ様、またあのイゾルデ様の背中にわたしたちも乗るんですよね……」


 アラ、トモン、ジェンナが怯えながら語る。



「獄猿双剣のトモン、香華魔槍のジェンナ、渋い渾名あだながあるんだから、そうビビるな。アラはまぁ、分かる」


 ジェンナはアラをにらみ、直ぐに俺を見ては、


「……その差はなに……」

 

 と発言。

 

 アラは小柄な女性魔族で見た目がか弱い。


 が、内実は人族とは違う。


 魔界騎士級の戦力だとは思うがどうしても……。


 すると、


「『――魔族共ォォ、これで最後! 全員乗ったかァァ? もういないようだな!』」

「まだ一人乗ってません~~~」

「『ぬ! はよう乗れ!! ばか魔族ぅぅ!』」


 イゾルデの面白い声だ。

 一人残っていた魔族は黒髪の方。

 仙妖魔かな。


「『あ、アラ、トモン、ジェンナもいたな――』」


 イゾルデはアラたちにも白銀の毛を伸ばし始めた。


 すると、黒髪の仙妖魔は、光魔武龍イゾルデから離れて俺たちのほうに近付いてくる。



 一礼した仙妖魔の方が、


「――シュウヤ様と皆様方、ありがとうございました。そして、カップアン様……わたしと妹トユの命を救って頂きありがとうございます。この恩は忘れません!」


 そう発言。

 カップアンに助けられた魔族か。


 そのカップアンは、


「はい。魔界セブドラでもお元気で!」


 と返す。仙妖魔の女性は頷いて、


「はい!!」


 踵を返す仙妖魔の女性。

 光魔武龍イゾルデの背中の端に移動していた仙妖魔の女性が見えた。手を振っている仙妖魔の女性が妹のトユさんかな。


 イゾルデに向けて走っていた仙妖魔の女性に白銀の毛が絡むと背中に運ばれていく。


 背中にいたトユさんは他の白銀の毛に覆われて既に見えない。


 さて、俺も鬼魔砦に向かうか。


 振り返りつつ、独鈷コユリとカップアンたちを見る。


「それでは、俺も鬼魔砦に向かいます」


 と別れの挨拶。

 すると、


「あぁ~」

「ひぃぁ~」

「ぁ――」


 アラ、トモン、ジェンナはイゾルデの背中に運ばれていく。

 独鈷コユリは、


「魔界セブドラに向かうのか」

「一時的にそうなる。が、直ぐに玄智の森に戻る予定さ」

「承知、戻った際、人払いした場所で仙妖魔について聞かせてくれるとありがたい」

「分かった。なら、鬼魔人傷場にまで一緒に行く?」

「それもそうだねぇ。そうしよう」


 独鈷コユリの言葉に返事をしようとした時、俺の腰にも白銀の毛が絡んできた。


「イゾルデ、独鈷コユリも鬼魔砦に向かうから背中に運んであげてくれ」

「『承知した!』」


 独鈷コユリの腹にも白銀の毛が絡む。

 その独鈷コユリは驚きながら皆を見て、


「総督とカップアン、ちょいと傷場を見てくるさ」

「ふむ」

「はい!」

「きゃっ――」


 宙空を凄まじい速度で引っ張られた独鈷コユリから意外な声が響く。


 その可愛らしい一面もある独鈷コユリ。

 パンティーを晒すように運ばれていく様は、光魔武龍イゾルデの背中に吸い込まれるようにも見えた。


 やや遅れて俺の体もグイッと引っ張られる感覚を得た――。


「『――行こう、シュウヤ様!』」

「おう――」


 光魔武龍イゾルデの白銀の毛に引っ張られ移り変わる視界に時折入る武仙砦と武仙砦の面々。


 皆、達者で。


 あっという間に光魔武龍イゾルデの背中に到達し片膝をつけた。


 その片膝をつけた鱗の表面は、白銀の毛が多いから最初の時ほどツルツルしていない。


 が、相棒のフサフサ感には到底及ばない。

 そう考えているともう武仙砦を越えていた。

 光魔武龍イゾルデは凄まじい加速力だ。

 そして、機動が気持ち良すぎる。


 直ぐに鬼魔砦が見えてくる。

 え?

 鬼魔砦から火の手が上がっていた。

 

「『安心しろ、魔将オオクワたちが鬼魔砦を破壊すると宣言していた。魔族はもう全員が鬼魔人傷場の前に集結している! そして――』」


 その光魔武龍イゾルデの思念と声に返事をしようとした直後――。


「『ガァアヅッロアガァァァァァァ』」


 一対の金角の間から七支刀の形をした稲妻の魔力が迸った。


 鬼魔砦の一角を、その七支刀と似た稲妻がぶち抜き、巨大な孔を造り上げた。


 凄すぎる。


 メガ粒子砲かよ。

 少し違うが、闇鯨ロターゼの光線を思い出す。


「「「ひゃぁぁぁぁぁぁっ」」」

 

 光魔武龍イゾルデの背中に乗る魔族たちの悲鳴が響く。

 イゾルデはお構いなしに鬼魔人傷場に向かう。

 鬼魔人傷場に空から近付く。

 鬼魔人傷場は魔力の霧かカーテンのように見える。

 赤色と紫色と黒色の霧。

 その中を無数の稲妻のような魔線が迸っていた。

 恐怖を感じるが、今日はあの中に魔族たちと共に突入する。

 

 魔族の皆を魔界セブドラに導こう。

 

 その魔界セブドラに向かう鬼魔人傷場の前には、大量の鬼魔人&仙妖魔がいる。


 そして、攻城兵器を守るように攻城兵器の周囲を円陣で守るバンドアル魔獣戦車隊は圧巻だ。それらを見るように――。

 光魔武龍イゾルデは地面に降下。

 地面スレスレを飛翔しながら、その地面を滑り焦がすような着地を行った。


 白銀の鱗がある龍だからこそ可能な豪快な着地方法か。


 俺はアラの手を掴み一緒に降りた。


「あ、ありがとうございます」

「おう、いつものことだ」


 独鈷コユリとトモンとジェンナも跳躍して近くに着地。


 着くなり、光魔武龍イゾルデは荒い息を発して、


「『――着いたぞ、魔族共、さっさと降りろ!』」


 豪快な念話と声が響き渡る。


「「「はいぃ!」」」

「「イゾルデ様ァァァァ」」


 一部の魔族はイゾルデの鱗に貼り付いて叫んでいる。


 一部の魔族はイゾルデのことが気に入ったようだ。

 

「『ぬおらぁぁぁ』」


 イゾルデは背中をぐいっと曲げて回転。

 背中に貼り付いていた魔族たちを放った。


 そのまま光魔武龍イゾルデは、「『ガァアヅッロアガァァァァァァ』」と龍言語魔法を発して龍人と化した。


 綺麗な女性龍人イゾルデは駆けてくる。走り方はヘルメっぽい。

 その精霊を思わせたイゾルデは片腕を上げて何かのポーズ。

 旗を持たせたら似合うか。イゾルデ立ちか?


「……イゾルデ、魔族たちを良く運んでくれた。ありがとう」

「ふふ、どうってことはない!」


 イゾルデは上げていた片腕をビシッと振るう。

 巨乳がぽよよんと揺れる。ぽよよんは大事だ。そのイゾルデは鬼魔人傷場を凝視。


「あれが鬼魔人傷場で、奥が魔界セブドラなのだな……」


 イゾルデの顔色は寂しそうな印象だ。

 瞳には赤色、紫色、黒色と稲妻の光が反射していた。


「……直ぐに玄智の森に戻る予定だが、付いてくるか? イゾルデ」

「……わ、我は魔界セブドラには行かない!」


 イゾルデは動揺したのか。小型の龍のカチューシャが消えたり現れたりしている。

 体を引くように後退したイゾルデ、巨乳が揺れるからどうしても目がいってしまう。

 腰に金具とチェーンで繋がる大きい十字手裏剣が格好良い。しかし、武王龍槍と鉤爪もあるし、イゾルデには必要ないような気がする。が、まぁ良いか。


「だから、ここで待つ」

「わたしもここで待つさね」


 イゾルデと独鈷コユリは頷き合う。


「分かった」


 すると、鬼魔人傷場の近くに移動していた攻城兵器付近にいた魔将オオクワ、副官ディエ、ド・ラグネス、ザンクワ、ヘイバト、ガマジハルが寄ってくる。


「「シュウヤ様!」」

「閣下!」」

「ブルルルゥ――」

「「シュウヤ総帥!」」

「「「お帰りなさいませ!」」」


 鬼魔・幻腕隊ガマジハルの連中が渋い。

 魔界騎士ド・ラグネスが率いている部隊にも見えた。

 その皆を見ながら、


「皆、覚悟は良いな? もう玄智の森に戻ることはない」

「「はい!」」

「「戻りません!」」

「こんな場所とはオサラバです!!」

「「「おう!!」」」

「良い気概だ。そして、魔界セブドラ側に着いたら、おまえたちは自由だ。故郷を目指すのも自由。魔将オオクワか魔界騎士ド・ラグネスを中心に一つの勢力で動いたほうが良いかもだが……」

「「「はい」」」

「我らを導きし者のシュウヤ様が率いてくだされば……」

「ヘイバト、シュウヤ様を困らせるな」

「シュウヤ様……」


 魔将オオクワがヘイバトを叱る。

 ザンクワは俺の名を呟いていた。

 気持ちは分かる。


 が、とりあえずは魔界セブドラに入ってからだな。


「いざ行こうか、魔界セブドラへ」

「「「おう」」」

「「「はい!」」」

「イゾルデと独鈷コユリ、また後で――」


 鬼魔人傷場に向けて駆ける。


「「承知!」」


 気合いあるイゾルデと独鈷コユリの声を背後から感じると、


「――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ」


 腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチが水飛沫を発しながら俺の前方に出現。


「お前も一緒にくるつもりか」

 

 腰に注連縄を巻く子精霊デボンチッチは何も応えず飛翔を続ける。


 そのまま――赤色、紫色、黒色の魔力の霧のようなモノの中に突入――。

 圧迫される圧力を感じたと思ったら視界がぐらつく。その視界がいきなり反転し、また反転しては稲妻のような音が数度響くと一瞬で視界は一面の荒野。

 空は蒼いが太陽は見えない。雲も見えない――。

 前方百八十度が荒野、否、巨大な前腕のような岩が数個ある。

 背後は赤色、紫色、黒色の魔力の霧で、鬼魔人傷場だ。


 そこからザンクワとディエが現れる。

 魔将オオクワとヘイバトとド・ラグネスも現れた。


「閣下、魔界王子ライランは、【ライランの血沼】の防衛で手詰まりのようですね」


 魔将オオクワがそう発言。頷いた。一安心かな。


「あぁ……」


 しかし、ここが魔界セブドラか……。

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