九百二十五話 <凍迅>の効果と武仙砦の魔族たち

 白蛇竜小神ゲン様の短槍を指貫グローブに変化させた。

 無名無礼の魔槍を消して一対の棒と長剣と刀に近付く。


 まずは一対の棒を両手それぞれに掴む。

 魔力は濃厚。

 

「ハルホンク――」


 ピカピカと光る竜頭金属甲ハルホンクを見ると、

 蒼眼にピカピカが集中。

 すると、右腕の袖口が竜の頭部に変化。それらが三つのアイテムへと蛇の如く伸びては三つのアイテムを喰らうように飲み込むと、一瞬で袖口は元通り。


「ハルホンク、早速だが、取り込んだ刀を出してくれ」

「ングゥゥィィ!」


 少し膨らんだ袖口は体から浮く。

 その浮いた袖口からニュルッと刀の握り手の革巻柄の柄巻が頭から出る。


 漆黒の魔獣の革だろうか、諸捻巻きが美しい。

 その革巻柄の柄巻を左手で握りながら刀を取り出した。

 鞘が付いたままか。その鞘を右手で握り、左手で一気に引き抜く。

 キィンッと小気味よい金属音。

 魔力を帯びた刃文と薄らと刻まれた小さい梵字が渋い。


 更に、梵字の真上に赤い魔力の梵字が浮き上がる。


「赤い魔力を有した魔刀……渋いです」

「あぁ」

 

 カッコいい。

 しかし、神鬼・霊風と魔刀アゼロス&ヴァサージを気に入っているユイが、お土産としてこの魔刀を気に入るかは不明だ。


 源流・勇ノ太刀は、大太刀だった故だが、ヴィーネとユイは使おうとしなかった。

 ま、ユイが受けとらずとも、俺には<血想剣>があるからそれならそれで良い――と考えつつ、入手した刀の刀身を鞘に戻した。


 はばきから金属音が響く。

 その鞘を袖口に近づけ、


「ハルホンク、ありがとう。刀を仕舞ってくれ」

「ングゥゥィィ」


 一瞬で袖口から刀を吸い込むハルホンク。

 転がっている魔槍も拾うかな? 

 と姿勢を傾けた直後――。


 竜頭金属甲ハルホンクの節々から四神めいた鼓動と息吹を感じ取った。防護服の胸と脇の部分が呼吸をするように撓んで伸縮。

 その防護服の素材が俺の地肌と筋肉に沿うように展開されると、傾斜状の段々とした部分の間に細長い孔を幾つも造り上げた。


 それらの細長い孔からキラキラした冷たい魔力が噴出。

 少し体が浮いた。少し前に脇腹の形が変わったのは、この変化への布石だったのか。


「「「おぉ~」」」


 更に細長い孔から繊維状の青白い炎が伸びて靡く。

 一部の青白い炎の繊維には、玄智宝珠札と棒手裏剣がさし通されて連なっていた。


 銭の孔に細い縄を通して一束にする銭差ぜにさしと似た印象を抱く。


 ドワーフの髪や髭を束ねるアクセサリーにも似ているか。


 背後や横から見ればサーコートか?

 または、草摺のような防具パーツにも見えるかな?


「形が更に変化、そして浮力を得るとは驚きだ。三つのアイテムを取り込んでしまったわけではないのだな?」

「ングゥゥィィ、喰ッテナイ!」

「ふむ」


 ハルホンクの言葉を聞いたイゾルデは少し驚いていた。

 その驚く眉と瞳の動きが面白いが、指摘はせず。


「ハルホンクは強まった」


 と発言しつつ浮力を無くすイメージをして着地――。

 青白い炎の繊維が結ぶ棒手裏剣と玄智宝珠札が擦れてチャリンと金属音が響く。


「お尻と太股の段々とした防護服のパーツの上下の段差にある溝から、様々な魔力の影響を受けていそうな色取り取りの魔力が放出されています」


 アラが背中側の変化を指摘。

 様々な魔力か、<火焔光背>で色々吸い取ったことは、ハルホンクにも影響を与えているんだろうな。

 

「尻の防御は大事だ」


 ヘルメがいたら元気な声が響いただろう。会いたい。代わりに、


「ングゥゥィィ」


 とハルホンクが返事を寄越してくれた。

 はは、可愛いやつだ。


「段々とした溝は魔道具を内包しているようにも見えるぞ」


 とイゾルデが指摘。

 

 頷きつつ、自身の胸と脇腹を見る。

 細い溝は魚の鰓と似ているかな。


 モビルスーツで喩えるなら……。

 積層型スラスター機構。


 魔界沸騎士長ゼメタスとアドモスの骨鎧の脇腹と背中にも似たような魔力の吸気口と排気口が存在している。


 竜頭金属甲ハルホンクの防護服を見ながら――。

 転がっている魔槍に視線を移し、


「あの魔槍も俺がもらっていいかな。ジェンナは槍使いだが」

「お構いなく、シュウヤ様が使うベきかと」

「俺も愛剣があります、要りません」

「我も要らん。が、触っても大丈夫なのか? 凍ったような茨が絡む魔槍は強力そうだが……茨の王ラゼリスの名は聞いたことがある。呪神などを含めれば色々とめんどくさいことになりかねんぞ」


 ブブバも思い出した。

 そして、地底神セレデルの不死眷属のデ・ムースが愛用していた茨の冠には不死眷属専用の強烈な呪いがあった。


 魔人も骸骨系だった……。

 が、これは大丈夫な予感がする。


「呪いがあろうとハルホンクと<四神相応>がある。大丈夫だ」

「分かった」


 イゾルデは片方の目に魔力が溜まっている。

 分かったと言いはしたが、警戒はしているようだ。


 が、左手を貫かれた時点でな……。

 もし呪神の影響が濃い魔槍なら……。

 もう俺は呪神の影響を受けていることになる。


 大丈夫と確信染みた思いを持ちつつ、魔槍を拾い、柄を掌で回した。


 そして、柄の握りを調節しつつ――。

 正眼に構えながら穂先を凝視。


 穂先の形は無名無礼の魔槍と似た蜻蛉切型で大笹穂槍だ。

 その穂先と螻蛄首と柄に蜷局を巻く茨が俺の手にも絡んできた。


 茨の棘が指と手に突き刺さり、血と魔力を吸われる。

 俺の<血魔力>を吸うとは、勇気がある魔槍と茨だ。


「ふむ、茨が血を吸うとは、儀式の一環か? 毒などは大丈夫なのだな?」

「おう、平気だ」


 <血魔力>を吸い取った茨は光りつつ魔槍に退きながら儚く散る。

 悲し気な笛の音が聞こえたが、なんだろう。

 儚げな文字も一瞬だが見えた。


「お?」

「茨の一部は消えていない」

「不思議です。笛の音?」

「あぁ、音を発する魔力文字に茨とは、初めて見る……」


 トモンがそう呟く。

 

 更に魔槍に絡んだ状態で生き残った茨は極めて小さい魔力の梵字を浮かばせながら、消えた茨が発した笛の音とは異なる音色を響かせてきた。


 魔槍と茨は俺の<血魔力>と融合したようだ。

 その茨は自ら凍てついたように凍ったが、息吹のような笛の音が響くと、薔薇の花が咲くように赤く染まりつつ普通の茨として動く。


 その茨は魔槍の柄に蜷局を巻いて増殖。

 <血魔力>を有した茨は俺の右手に優しく絡んできた。

 

「魔槍と一体化した魔力の茨は、シュウヤ様に呼応しているのか……」

「そのようだ。ちょいとこの茨の魔槍を試すとする」

「「「はい」」」


 斜め前方に体を向けて少し歩いた。

 壁際との距離を測りつつ、頃合いを見て足を止めた。

 

 腰溜めから魔槍を握る右腕を引き腰を捻る。

 茨が右の前腕に多数絡み付いてきた。

 竜頭金属甲ハルホンクとも呼応しているのか、両腕に近い防護服が、自然と茨に似合う装飾に変化を遂げていた。


 センスが良い竜頭金属甲ハルホンクだ。


 同時に握り手のグリップ力が増加した感覚を得る。

 これは<戦神グンダルンの昂揚>の力強さが増す効果と相性が良い。


 この茨は外に飛ばせる?

 ふと、神槍ガンジスの蒼纓の毛を思い出した。 

 まずは試しに左足の踏み込みから前方へと――。


 <刺突>を繰り出した――。


 ――同時に穂先に絡まる凍り付いた茨が少しだけ外に飛び出ていた。

 右腕ごと茨の魔槍となったが如くのポーズを解く。


 へぇ、範囲攻撃とまではいかないが、二段攻撃的な、この穂先を敵が喰らえば傷口がより拡がる攻撃にもなるようだな。

 <刺突>系のスキルを喰らった相手は茨にも触れるから、出血作用とかもありそう。


「<凍迅>を試すが、これは先の魔人の能力と同じ系統なら皆に被害がでる可能性があるから、外に出よう」

「承知」

「「はい」」

「では――」


 アラから先に外に出た。

 俺たちも隠し部屋から黄金遊郭の外に出た。


「イゾルデ、変身のタイミングは任せる。俺はそこの通りで、この茨の魔槍で<凍迅>を試す――」

「分かった――」


 と宙に跳び上がったイゾルデ。

 一瞬で巨大な光魔武龍の姿に変身を遂げた。

 

 金色の角の間から稲妻が迸っているのを見ながら着地。


 皆の悲鳴が一瞬聞こえたが――。

 俺の視界は黄金遊郭の前の通りだ。

 左側の民家の屏と黄金遊郭が挟む道の幅は狭い。


 皆はイゾルデから出た白銀の毛に絡まれて龍体の背中に乗せられているはずだ。


 雷鳴が轟いているが……。

 

 気にせず――茨の魔槍を構えて――。

 目の前に前傾姿勢で槍使いの敵が近付いてきたと想定。

 

 素早く体勢を屈む。

 俺の首を狙ってきた槍の穂先を避けた――と想定。


 そのまま左手に持ち替えた茨の魔槍で<凍迅>を繰り出した。


 <刺突>のイメージのままだったが、両足が滑る軌道で前進。

 同時に茨の魔槍から凍った茨が周囲へ散るように展開されていた。


 俺自身は距離にしてはあまり前に移動していないが、茨の機動と共に俺自身の動きを意識すれば、瞬間的な滑る軌道は長くも短くもなり得ると予想、色々と応用が可能だな――。


 竜頭金属甲ハルホンクを意識。

 防護服の一部が竜の頭部のように変形すると、茨の魔槍を喰らうように格納。

 一瞬で防護服は元通り。

 飲み込むような動きはないから、アイテムを仕舞う場合は竜頭金属甲ハルホンクにアイテムを直に当てたほうが格納速度は速いかもしれない。


 ま、意識するだけでハルホンクが自動的に格納できるだけ便利だ。

 と思いながら、光魔武龍イゾルデを見上げた。


 宙を泳ぐ光魔武龍イゾルデの存在感は圧倒的。

 カソビの街は至る所で大騒ぎだ。

 龍のイゾルデは調子に乗って宙空で稲妻を放出している。


 速度が自然と加速しているのか、もうカソビの街から離れていた。


 ――追うとしよう。


 血魔力<血道第三・開門>。

 ――<血液加速ブラッディアクセル>。


 イゾルデに向けて駆けた。

 跳躍――<導想魔手>を足下に生成。

 その<導想魔手>を蹴って高く跳躍――。

 

 <闘気玄装>を強めて、<導想魔手>を使い宙空で走り幅跳びを行う――。

 龍のイゾルデに着地――。


「あ、シュウヤ様……」

「「シュウヤ様~」」


 トモン、ジェンナ、アラは白銀の毛が体に絡まって鱗に磔にされたようになっていた。

 

「そのまま待機。かなりの加速だから直ぐに武仙砦に着く」


 と言ってる傍から光魔武龍イゾルデは止まった。


「『着いたぞ。下の武仙砦の前に魔族たちが集結中だ』」

「了解、龍体のまま上手く降下してくれ。魔族と仙武人たちを怖がらせるだけならいいが、誰も殺すなよ」

「『承知!』」


 吼えたような龍声も遅れて響くと、急降下。


「きゃぁぁ」

「ひぃ――」

「あぅぅ~」


 ジェンナ、トモン、アラは悲鳴を発していた。

 まぁ当然か。龍に乗るって普通ないからな。


 急激に速度を落として優し気に地面に触れるような感じで着地した光魔武龍イゾルデは動きを止めた。


 皆は体に巻き付いていた毛から解放される。


「皆、起きろ。アラ、ジェンナ、トモンは魔族側の知り合いがいたら、呼びかけに協力して魔界セブドラ側に戻る話に合わせてくれ」


 と言いながら周囲を見る。

 一度越えている武仙砦を凝視。


 武仙砦は峡谷に存在する。

 ここが玄智の森を守る要だ。


 空を越える以外には伝送陣を使わないと鬼魔人傷場側から玄智の森への移動はほぼほぼ不可能な要塞。


 すると、ジェンナがよろよろと立ち上がり、


「わたしたち魔族は武仙砦を越えて鬼魔砦に集結後、鬼魔人傷場から魔界セブドラに移動することに?」


 と質問してきた。

 俺は頷きつつ、


「そうなる。手を貸すか?」

「大丈夫です、魔族たちの説明に協力します、閣下!」


 気合い漲るジェンナの気持ちに笑顔で応えた。


「わたしもです!」

「あぁ、俺もだ! しかし、俺たちが今見ているシュウヤ様は……とんでもないお方なのか……」

「ふふ、今さらですよ、トモン。鬼魔砦統帥権の証明の鬼闘印は見ているでしょう」


 アラが俺の胸元を見ながら、そう指摘する。

 トモンは唾を飲み込む音を立てながら、俺を凝視。


「……」

「それに、魔界王子ライランの眷属と軍を打ち破ったシュウヤ様とイゾルデ様。その激闘中、シュウヤ様は魔界騎士ド・ラグネスとライランの眷属とわたしを倒した。その倒した敵を仲間として迎え入れられる大きな器量を持つ方です。魔族たちを率いるのも頷けます」

「故郷を失った魔族たちを率いる……まさに諸侯の一人よね……」


 ジェンナが色っぽく語る。

 トモンは少し焦ったような表情を浮かべていた。


 が、一々気にしていられない。

 すると、龍のイゾルデが、のそっと頭部を回してから、


「『我はこのままでいたほうが交渉はスムーズに進むのであろう?』」


「その通り、イゾルデ効果で武仙砦の隊長格も素直に受け入れるだろう」


 が、問題は恐慌状態となっている魔族たちか。


「皆、降りるぞ」

「「「はい!」」」


 武仙砦側にはカップアン、キライジャ、独鈷コユリ、他にも厳つい方々がいた。武仙砦のエースたち、小隊長たちと提督に副提督だろう。

 

 そんな武仙砦側の独鈷コユリとカップアンにも話しかけたいが、まずは怯えた魔族たちに向け、


「皆、俺の名はシュウヤ。魔界王子ライランの眷属を打ち破った者だ。武仙砦の方々に魔族たちを攻撃しないよう黒独鈷で指示を出したのも俺だ。ということで、そこの巨大な龍、名はイゾルデという、彼女の背中に乗ってくれ。乗り切れない場合は、イゾルデ、先に鬼魔砦へと魔族たちを送れるだけ送ってくれ。そして、また戻ってきて残りを送ってもらう」

「『承知! 魔族共、シュウヤ様の指示だから背中に乗ることを許すが、本来は許さぬと知れ! だからさっさと我の背中に乗れい!!』」


 静まり返る。

 が、直ぐに、二人の魔族が前に出ると、


「あ、アドオミを倒した方は貴方なのですね!」

「ありがとうございます。こちらのお龍様の背中に乗れということですが……どうやって乗れば良いのでしょう」

「『足があるだろう足が! <黒呪強瞑>で身体能力を強めて跳躍してさっさと乗れ、魔族共!!』」


 イゾルデの龍声が峡谷に谺する。


「は、はぃぃ――」


 と一人の魔族がびびりながらもイゾルデの背中に跳び乗った。

 二人、三人と跳び乗るが、動きが遅い。


 すると、アラとトモンとジェンナが前に出て、


「皆、シュウヤ様の胸元を見ろ! 魔将オオクワ様もシュウヤ様の部下だ!」

「はい、鬼魔砦統帥権の証明の鬼闘印!」

「ライランの眷属アドオミや裏で動いていたウサタカことヒタゾウを倒したシュウヤ様は、魔族の同胞たちの救出に動いてくださっているのだ!」

「そうだ、俺たちは魔界セブドラに帰れるんだ! 故郷に帰れるんだぞ!」

「更に、既に魔界王子ライランの援軍はシュウヤ様とわたしたちが協力して打ち倒しています。安心して鬼魔砦に向かいましょう」

「「……皆、魔界に帰ろう!」」


 トモンとジェンナの言葉は短いが、熱意が籠もっている。

 涙が頬を伝っていた。


 少し間が空く。


 と、


「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」

 

 魔族たちの雄叫びが峡谷に谺した。


「俺も魔界セブドラに戻る!」

「私も戻りたい!」

「「故郷に!」」

「うん! 魔界に戻ろう!」

 

 皆、それぞれ答えながら走る。

 イゾルデの背中へと次々に跳び乗っていった。

 

 背中に乗りきれない魔族たちは勢い余って落下。

 そんな魔族たちに、


「慌てずとも大丈夫。直ぐにイゾルデは戻ってくる」

「『では、出発するぞ! ガァアヅッロアガァァァァァァ――』」


 凄まじい音波?

 龍言語魔法が周囲に轟く。

 

 光魔武龍イゾルデは急上昇。

 あっと言う間に武仙砦を越える。速い……。

 やや遅れてドッという空気音が響く。


 マッハ幾つ? ぐらいの印象だ。

 すると、独鈷コユリと厳つい方々が近付いてくる。

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