九百二十四話 隠し部屋とお宝と<霊仙八式槍舞>と<凍迅>
黄金遊郭の屋上の探索を開始した。
ホウシン師匠たちが居る近くには、
すると、黒独鈷に魔力を込めてノラキ師兄と念話中だっただろうホウシン師匠が、俺の動きに反応。
「ぬ、シュウヤ、〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟がこの黄金遊郭に眠ると読んだか」
そう聞いてきた。
俺は頷いて、
「さすがに修業蝟集道場の秘宝、神遺物のような貴重な遺物が黄金遊郭にあるとは思いませんが、はい」
「鬼魔人のアドオミやアオモギがカソビの街の拠点に利用していたのなら、秘宝、遺物はあるかもしれん」
「そうですね。棟の木口を隠す龍の懸魚や獅子の雨樋は魔力を有していた。あの飾りは怪しいと睨んでいます」
「ほぉ、それは気付かなんだ」
ホウシン師匠は、屋上の端のほうを見やる。
「それと、カソビの街に入った際にも<四神相応>が反応しました。ですから、カソビの街の何処か、もしくはこの黄金遊郭に、玄武、青龍、白虎、朱雀に関わる遺物があるかもしれないという推測もあります。ホウシン師匠は、今ノラキ師兄に連絡を?」
ホウシン師匠は頷いて、
「武仙砦の総督にノラキ経由でシュウヤの偉業を伝えた。白王院の学院長の件も事実だけは伝えてある」
「はい」
「では、わしたちはウサタカを弔うとする。それと、シュウヤ――」
ホウシン師匠は俺の名を呼びながらウサタカの死体に近付く。
その近くに落ちていた槍を掴んだホウシン師匠は<闘気玄装>を強めた。
左足を引かせ、半身の姿勢からぐるっと横に回ると<龍豪閃>のような薙ぎ払い系スキルを実行――。
『棒術の薙ぎ払いとは、こう打ち払うのだッ』と、言葉が聞こえてくるような一閃から横に回ったと思いきや、片足の裏で黄金遊郭の床を突いて跳躍――宙空から前転を行う。
槍も振り降ろして、黄金遊郭の床を、その柄で叩いた。
叩いた反動を活かし再び前転――。
またまた槍を振り下ろして柄で床を叩く。
叩いた反動でホウシン師匠は体を浮かせると、またも前転を繰り返す。
その一回転の前転中に両手握りの槍を胸元に引きながら片足で着地。
その片足の爪先を軸に体を横に回す。
回りながら、両手で握っていた槍を片手握りに移行させて――。
その片手握りの槍を背に回す。
背中に移した槍を背中側で反対の手が掴む。
と、腕が曲がると同時に、その槍を持つ腕と一緒に槍をも畳ませるような機動で回転させながら右脇と右腕の内へと槍を移す。
槍を右腕一本で抱えた。
風槍流『支え串』と似たポーズ。
無手の左腕を突き出し、槍を持つ右腕で宙に弧を描くように槍を振るう。
その槍の穂先で床を叩き、もう一度右腕を上げ下げし、槍を振り下ろす。
傾けた槍で床を叩く下段突き――続けて、槍を横へ向けて下段払い。
連続突きと連続払いを融合させた見事な演武を披露していく。
更に、槍の螻蛄首で床を強く叩いた。
その反動を利用するように槍から手を離しながら柄に足先を乗せ柄を蹴る。
蹴りと槍自体の反動を利用するように高く跳躍したホウシン師匠。
下から跳ね上がってきた槍を宙空で掴むと足下から霧を帯びた小さい突兀が出現――。
その突兀を蹴って<仙魔・桂馬歩法>を用い軽やかに魔力跳躍を実行。
<仙魔・桂馬歩法>と未知の歩法スキルだ。
槍をぶん回しては、宙空から直下への突き技を披露して、着地。
その槍をくるくると掌で回してから、穂先を俺に見せたホウシン師匠は、
「ふむ……良い神槍、仙王槍スーウィンじゃ」
そう槍の名を告げた。
ホウシン師匠は、その仙王槍スーウィンの柄越しに、
「この仙王槍スーウィンは神槍と同じ。お主が使うのじゃ」
ホウシン師匠は俺にその仙王槍スーウィンを放る。
その仙王槍スーウィンを受け取った。
柄は予想以上に軽い。
……濃厚な魔力が伝わってきた。
しかし、大事な神槍のはず……。
「え、俺が、この大事な神槍を……」
「遠慮は要らんのじゃ」
「しかし、この神槍は、仙境を纏めることに利用が可能では?」
「ふっ、人ある中に人なし。今の白王院に本当に優れた人材はいないであろう。この神槍を使いこなす人材は、今、玄智の森でシュウヤ以外にいないと、わしは考える」
「はい、わたしもそう思います」
「そうですね。白炎王山の<白炎仙手>などを獲得しているシュウヤが持つに相応しい神槍だと思います」
「賛成です」
「うん、シュウヤなら皆も納得すると思う」
モコ師姐に皆がそう発言。
「槍使いならば、仙王槍スーウィンを試してみたいであろう?」
「それは……そうですが……武器は色々とありますからね」
神槍ガンジスもある。
更に霊槍ハヴィスに聖槍ラマドシュラーもある。
魔塔ゲルハットに戻ったら選択肢は豊富。
「無名無礼の魔槍以外にも愛用していた魔槍杖バルドークの名は聞いている。が……龍の雲を得る如し、飛耳長目を知るシュウヤは、武が心に在る槍使いのはずじゃ。同時に型にはまらず、自由で多面的。変化に富むことを好むシュウヤであろう?」
たしかに。
……槍が増えれば増えるほど<血想槍>の威力も向上するから、得て損はないか。
ホウシン師匠は俺を見ながら、
「克己を持つシュウヤなら神槍の仙王槍スーウィンを楽に扱えるであろう。そして、仙王、白炎王山に纏わるそれ相応のスキルを獲得できるであろう……」
俺に仙王槍スーウィンを託す理由は他にもありそうだな。
そして、その期待とホウシン師匠の厚意に感謝しよう。
仙王槍スーウィンの柄を上げて拱手。
そして、
「はい、何事も修業。この仙王槍スーウィンを頂くことにします」
「うむ。それでこそ、わしの知る最強の弟子、最強の槍使いの言葉じゃ!」
「はい!」
髭を嬉しそうに触り伸ばすホウシン師匠は良い笑顔を見せてくれた。
嬉しくなる。
仙王槍スーウィンをくるっと回して下半身を下げた。
そして、仙王槍スーウィンを持つ右手を引いて素早く前方に伸ばす。
――<刺突>。
「うむ! 良い<刺突>じゃ。ふぉふぉ」
……ホウシン師匠とアキレス師匠をどうしても重ねてしまう。
毎回だが、心に響く。
気合いを入れて押忍の挨拶――。
エンビヤとソウカン師兄も笑顔だ。
〝黒呪咒剣仙譜〟を見ていたダンとモコ師姐も笑顔を見せる。クレハはお辞儀。
皆にラ・ケラーダの挨拶を行ってから踵を返す。
ホウシン師匠たちは、黄金遊郭とカソビの街の将来のことを、各仙境たちに伝えようと話し合っていた。武王院らしく各仙境たちと仲良くか。
玄智仙境会のことを考えている。
さすがだ。今後、無駄な争いは減り続けるだろう。
しかし、仙王槍スーウィンの格納が……。
少し不安を覚えつつ、精霊棚と似た台座に向かった。
台座には野菜や果物が盛られた大きな皿があった。
その果物をイゾルデと一緒に摘まみながら仙剣者と仙槍者の彫像に向かう。
美味しい野菜と果物だな――と思いながら仙剣者と仙槍者の彫像に近付いた。
手をその彫像に当て、魔力を込めた。
が、何もなし。隣の横長い龍の彫像にも魔力を込めたが反応はない。
俺の行動を見守るイゾルデが、
「……彫像に変化はないか。しかし、その龍の彫像は武王龍神レキハと似て、見事な造形だ」
「武王龍神レキハ様も、イゾルデと同じ中級神なのか?」
「そうだ。共に戦った」
イゾルデの言葉に頷いた。
そして、鬼魔人たちに視線を向け、
「この黄金遊郭には開かずの間のような隠された部屋は存在するか?」
「そのような部屋は知りませんが、隠し部屋はありそうです」
「魔道具などが貯蔵されている部屋はあるのかな?」
ジェンナは微かに頭を振る。
「存じませんが、ダンパンと黄金遊郭の主人に、ウサタカことヒタゾウとわたしたちがよく出入りしていた大部屋があります」
「そこに魔道具がある?」
「隠された物はないかと。使える物は実際に自分で装備していますから。屋上の彫像や擬宝珠には、結界用の魔道具がありますが、大半は飾り。主人の趣味の範疇かと」
「……魔力は有しているので、何かしらの効果があるとは思いますが」
トモンとジェンナはそう語る。
頷きつつ、近くの熊の像に手を当て魔力を込めたが、反応はナッシング。
その奥の蝙蝠が飛翔している像にも魔力を送るが反応はない。
針鼠神の親子の像にも魔力を送るが、これまた反応がない。
縦長の龍の像にも魔力を送ったが、これも反応はナッシング。
仙剣者と仙槍者と戦う竜の像にも触って魔力を送ったが、これもまた無反応――。
溶けた石灯籠と、欠けた石灯籠は省くとして……。
この黄金遊郭の屋上には
「屋上には四神柱のような物はないようだ」
イゾルデは頷き、
「カソビの街にも遺物は存在するとは思うが、氷皇や白蛇竜小神のような魂の欠片は早々見つからないであろう」
神界セウロスを知るイゾルデがそう語る。
たしかに、何度か話題に出たが、貴重な遺跡、遺物は玄智山だからこそ残っていた可能性が高いか。
そして、鬼魔人のトモンとジェンナの二人は俺が持つ
二人に、
時間があったらするが……。
すると、腰に注連縄を巻く
「え?」
「……これは」
「玄智の森の精霊デボンチッチちゃんは不思議ですね。子鬼とはまた違う……」
鬼魔人たちは腰に注連縄を巻くデボンチッチの行動に驚いていた。
腰に注連縄を巻くデボンチッチにとっては、ヘルメのような遊びの範疇だろう。
腰に注連縄を巻くデボンチッチは『ウルトラマン』の必殺技『スペシウム光線』を放つようにぴゅぴゅぴゅと水を飛ばす。アラは瞬きしながら驚いている。その反応が可愛い。
アラの背中に装着されているコンパウンドボウが揺れていた。
「気にするな。探索を続けるぞ」
「「「はい」」」
「うむ!」
散乱した机と椅子の残骸を退かしつつ屋上を歩く。
床には、仙武人の武芸者の死体と、その武芸者の装備類が幾つか転がって……お、ダンパンの魔弓の刃もあった。
一応、
「ホウシン師匠とソウカン師兄~。死体の装備品はもらっても良いですか?」
「仙王槍スーウィンと同じく、すべてシュウヤの物じゃ――」
「その通り、俺たちのことは気にせず、好きなだけ持っていけばいい」
「そうですよ! 一番の功労者が無欲では困ります!」
ホウシン師匠とソウカン師兄とエンビヤがそう語る。
既に色々得ているんだがな。
モコ師姐、クレハ、ダンも『その通り、好きにしたらいい』と顔に書いてある。
「――分かりました、好きにさせてもらいます!」
と皆に大声で宣言。
そうして、近くのイゾルデ、アラ、トモン、ジェンナに向け、
「欲しいのはあるか?」
「ない。シュウヤ様の好きにしたらいい」
「わたしも要らないです」
イゾルデとアラがそう発言。
続いて、ジェンナが、
「得物は既にありますし、遠慮しておきます。魔界の街で高く売れる鎧などはありそうですが、さすがに持てませんから」
「ジェンナ、向こうに行ったら向こうで稼げるだろ。そして、俺も獄猿双剣テンガルがある。要りません」
トモンはジェンナの言葉にツッコミを入れつつ、そう返事を寄越す。
俺は頷いて、
「なら、もらっとこう」
皆、頷いた。右肩の
「ハルホンク、槍、剣、刀、鎧、防護服など、重要な物は喰わずに回収だ!」
「ングゥゥィィ! タベタイ、ゾォイ!」
「眷属と仲間たちへのお土産となるかもだから、重要な物は喰わない方向で頼む。重要ではない魔力を有した防護服や装備類は、自由に喰っていい」
「ワカッタ! ピカピカ、ヒカル! ハルホンク! イッパイ喰ウ、ゾォイ!!!」
元気な
魔竜王の蒼眼の片目が煌めいて、ギュルギュル回転を始める。
回収しやすいように右肩の竜頭の装甲を装備類に近付けた。ハルホンクは死体ごと喰らう勢いで素早くアイテム類の回収を始めた。
数秒後、本当に右肩から左肩に移ったハルホンクがピカピカ光る。
「ングゥゥィィ! ウマカッチャン!」
装備品の中に意外なご馳走があったようだ。
魔族の三人は、俺の左右の肩に現れては消えてまた現れる竜頭の装甲に一々驚いている。
その間に周囲の血を吸い取ると、
「――ンゲェ、クソマズイ、ノ、混ジッテタ! ペッ――」
口を拡げた
その青白い炎を有した玉は床を転がる。
「ひっ」
「肩の竜の防具が吐いた!?」
「ひゃぁ」
驚いたトモン、ジェンナ、アラ。
微笑むイゾルデが、
「シュウヤ様の肩防具は……嘗て魔界セブドラで覇王ハルホンク、または暴喰いハルホンクと呼ばれていたようだぞ?」
「暴喰いハルホンク……」
「……覇王ハルホンク。魔大戦雷轟剛鳳石に、その名が刻まれていると聞いたことがあります」
お? それは初耳だ。
トモンに、
「魔大戦雷轟剛鳳石?」
「はい。魔界セブドラの魔界大戦が起こった地域に出現することがある巨大な長方形の石板です。最初からそこに在ったとされる黒き轟石大岩など、幾つか過去の事象が刻まれている貴重な石板が魔界セブドラにはあるのです。しかし、そういった貴重な石板類も、次元転移などの影響で地層ごと飛ばされるか、消えてしまうこともあります」
へぇ。
素直にトモンの言葉に感心しながら頷いた。
「知らなかった情報だ。ありがとう。その貴重で巨大な石板は、今も業魔雷平原に残っているかもしれないんだな」
「はい。墳墓の地が、今も魔界セブドラに残っていればの話です」
トモンもジェンナも暗い顔となる。
ザンクワと同じか。
魔界セブドラでは、魔界大戦などの大地が消えるほどの争いが起きているようだからな。
二人の故郷、業魔雷平原は魔界セブドラから消えてしまっているかもしれない。
そして、俺の知る時の概念と玄智の森や魔界セブドラは異なるだろうし、ある程度は予想できるが、敢えて、トモンとジェンナに、
「玄智の森に来て何年ぐらいなんだ?」
「……たしかではないですが、少なくとも数百年、数千年は経っているはず……」
「はい」
トモンとジェンナはそう発言。
納得しながら『人間到る処青山あり』という思いで、
「記憶云々は苦々しいが、玄智の森は、もう一つの故郷でもあるということかな」
「……それは、そうですね。ですが、魔界セブドラが俺たちがいる場所ですよ。な? ジェンナ」
「……トモン、はい……」
ジェンナは仲間想いか。
玄智の森で殺された仲間たちを想っているからこそ、ホウシン師匠やエンビヤにソウカン師兄を恨んでいる。
ジェンナからしたら、それは正義だろう。が、俺にも小さなジャスティスはあるんだ。
そんな思いをジェンナにぶつけることはせず、イゾルデに視線を向けた。
目を細めたイゾルデは二人の鬼魔人をチラッと見てから微かに頷き、俺に視線を戻し、
「……当然の話だ。我も時期は違えど、那由他である」
「イゾルデは玄智の森の原初の時から地底湖にいた。それは察するにあまりある」
俺の言葉を聞いたイゾルデは双眸を揺らしつつも微笑んでくれた。
「……世界の崇高さは世界を観る精神の崇高さに常に等しい……白蛇聖水インパワル、聖水レシスホロン、アクレシスの清水などの玄智聖水に、真珠王ラマムグフハがいたお陰で我は生き続けていた……」
崇高さか……言葉の節々では少し震えたような声の質だった。
イゾルデの語りは正直で誠実さに溢れていた。
黄金遊郭の床に転がる青白い炎を有した玉を見ながら……イゾルデとの出会いを思い出す。
ホウシン師匠との訓練の際に、俺が地底湖に落ちたことがきっかけだった。
その地底湖の底を探検しようと深く潜った底で、龍韻のイゾルデがいた。
が、それは苟且(こうしょ)の姿。
巨大貝殻に置かれてあった龍の骨が本体だった。
そんな過去の出来事を消すように、床に転がる青白い炎を有した玉を拾った。
「ハルホンク、吐いたところ悪いが、これは喰ってもらう」
「……ングゥゥィィ」
青白い炎を有した玉を喰う
「あ、脇腹と背中にかけて青白い炎が見えました」
「青白い炎は消えましたが、脇腹の防護服の形が少し変化を!」
「
「凄い……」
「あぁ、生きた防具で素材を取り込めて進化するとは、凄すぎる防具だ」
「……はい」
魔族の三人は声を震わせながら感心してくれた。
イゾルデは満足気。
「
「ングゥゥィィ、マズイノ、クッタカラ、シマウダケナラ! デキル!」
「おぉ、頼む」
「ングゥゥィィ――」
ポケットが魔竜王のような顔に変形しつつ袋穂のような形となった。
そのポケット状の口が拡がり一気に仙王槍スーウィンを飲み込んだ。
「おぉぉ、飲み込んだ」
「今、胸元のポケットが肩の竜の防具と似た形に変化を……」
「……魔界セブドラの魔防具でもある。魔装天狗系なら知っているが……」
トモンは塔烈中立都市セナアプアで数回聞いたことがある魔道具系防具の魔装天狗を知っていた。
そのまま皆を連れて、鉄塔の前に移動した。
鉄塔の正面はアーチ状の出入り口で、奥に階段がある。
正面の飾りに分銅座があった。
二階と一階の窓の形も分銅座と似た作りだったな。
「中はまだ入らず、横と背後を調べながら一周する」
「「「はい」」」
「承知!」
鉄塔を触りつつ右回りに一周。
再び鉄塔の正面に戻ってきた。
横と背後には何もなし。
「黄金遊郭の中も少し見学する」
「はい。先ほども言いましたが、ダンパンやウサタカことヒタゾウが出入りしていた部屋があります」
トモンがそう告げてくれた。
頷きつつ、
「階段は下りず中に入って見るだけ見るとしよう」
鉄塔の出入り口を潜り、黄金遊郭に足を踏み入れた。
提灯が横の壁に均等に並ぶ。
ほんのりとした黄昏のような灯りが階段を照らしている。
擬宝珠の手摺りは黒光りしている。その階段の横幅は広い。
大きな踊り場は少し細めで廊下と繋がっている。
前後の廊下の先には明かり障子が並ぶ。
「ンンン――」
懐かしい猫声。
障子を切りながら上るフィンクルの姿があった。
悪戯猫ちゃんだ。
そのフィンクルがどでかい穴を障子に開けて、部屋の中に逃げ込んだ。
その部屋の中には花魁がいた。
その花魁と目が合うと直ぐに隠れてしまう。
怯えてしまったかな。
花魁と俺は勝手に考えているが、花魁のような化粧と衣装なだけで、ただの遊女かもしれないが。
「黄金遊郭の元締めはダンパンだよな」
「はい、大本はそうですが、キヘイが黄金遊郭の主人です」
「遊女たちの管理はキヘイが行っている?」
「そのはずですが……遊女と?」
ジェンナは、『お前、遊女と遊ぶつもりなのか?』と言わんばかりに、怪訝な表情を浮かべて俺を見ていた。
俺は『知らんがな』の精神を顔に出すイメージで変顔をしながら、
「遊ばない」
ジェンナは頭部に疑問符を浮かべるような表情を作る。
「当然である。シュウヤ様はスケベではない」
「イゾルデは俺を知らないだけだ。本来の俺はスケベ神と呼ばれている」
「――なぬ!」
驚き方が面白いイゾルデ。
「冗談だ」
そう言えば、キハチはここで遊んでいるのかな。
俺も、一見さんお断りな舞子さんと遊んでみたかった。
が、魅力的な遊女と遊ぶ暇はない。
「さて、
「「「はい」」」
「良し! 戻る戻る!」
イゾルデは遊女と遊ぶことを警戒していたのか、少しはしゃいでいた。
建物内部にも反応する物があるかもしれないが……。
もう黄金遊郭の内部の見学はしない。
踵を返す、アーチ状の鉄塔から黄金遊郭の屋上に戻り、少し歩いて石灯籠が並ぶ場所に来た。
欠けて溶けた石灯籠が多い。
戦闘の名残で床を含めて傷だらけ。
レーザー砲が床を通り抜けたような跡が凄まじい。
床が捲れて盛り上がっている。
俺が<悪愚槍・鬼神肺把衝>を使用し直進した跡だ。
<悪愚槍・鬼神肺把衝>は<紅蓮嵐穿>と同じ直進機動の大技。
その床の素材には魔力が残っていた。
アラとトモンとジェンナの鬼魔人たちは一直線の傷跡を見て息を呑む。
あ、この床の素材を
無名無礼の魔槍を右手に召喚。
「ハルホンク、<悪愚槍・鬼神肺把衝>が触れて変化を起こした床の回収は可能か?」
「ングゥゥィィ、カノウ! マリョクイッパイ、ゾォイ!」
「ってことで、皆、少し離れてくれ。床の素材をハルホンクが回収を行う」
イゾルデは頷いて、
「承知!」
鬼魔人たちは『え?』といった驚きの表情を浮かべつつ、
「床の素材も食べられるのですね」
「肩の竜の防具は様々に変化が可能で、<武器召喚>などのスキルが備わる?」
「スキルはないが、似たようなことは可能だ。では回収を急ぐ――」
「「「はい」」」
<血魔力>を体から放出した。
続けて<龍神・魔力纏>を実行しながら前進し跳躍――。
宙空で半身を捻り<血龍仙閃>を実行――。
無名無礼の魔槍を振るい上げる。
撓る機動の蜻蛉切と似た穂先が盛り上がった部分の床だけをバッサリと切断。
その黄金遊郭の床だった素材の塊を
「
「ングゥゥィィ!」
「……吸い取った……が、シュウヤ様の一閃は血龍魔仙族ホツラマが扱う薙ぎ払い系スキルと似ている……」
「地獄龍山の魔人一族が用いるスキルよね」
「あぁ」
トモンとジェンナがそう語る。
傍にいるアラが、
「地獄火山デス・ロウではなく?」
と聞いていた。
アラはアドゥムブラリを知っているかもしれない。
トモンは頷いて、
「あぁ、魔大竜で有名な地獄火山デス・ロウや無限地獄の山々ではない。地獄龍山はライランの血沼と近い場所にあると聞いた」
「ほぉ、だから魔界王子ライランの手勢にその一族がいたのだな」
イゾルデがそう喋ると、皆がイゾルデを凝視。
魔界と神界の争いを知るイゾルデは頼もしい。
そのイゾルデは「あの石灯籠は回収しないのか?」と指摘してきた。
「壊れて溶けた石灯籠か。さすがに容量的に無理かな、ハルホンク、溶けた石灯籠は格納できるか?」
「ングゥゥィィ……マリョク、アル、ガ、マズソウ、ゾォイ」
マズソウか。あの石灯籠には神界セウロスと関係している素材が多い?
神界セウロスと関係する素材は僅かに喰えるようになって仙王槍スーウィンを仕舞えたが、大きい石灯籠はさすがに遠慮したいか。
「了解、無理に喰わずとも良い。回収はしない」
「ングゥゥィィ」
百足魔人とダンパンたちと戦った中央付近から南のほうの壁際に向かう。
その壁際から跳躍して屋根へ着地した。
イゾルデたちも俺を追うように跳躍を行い、それぞれ屋根に着地する。
屋根の傾斜はきつくない。
屋根と屋根の間には改築されたような壁が多い。
黄金遊郭には隠し部屋がありそうだ。
「この辺りだ。獅子と獏の形の雨樋を探すとしよう」
「はい」
「
「あぁ」
ジェンナに返事をしつつ壁伝いに屋根を歩く。
同時に見回した。
高い場所だから、自然とカソビの街が見渡せた。
瓦屋根の長屋が比較的多い印象。
――江戸時代の街並みに近いかな。
――日本と似た雰囲気には親しみを感じる。
屋根を歩きつつ外を見ていると水飛沫を浴びた――。
俺の周囲を飛翔する腰に注連縄を巻く
先ほどから消えたり現れたりを繰り返していた。
七福神の衣装を時々着ては宝船に乗っていることもある闇蒼霊手ヴェニューのような機動でもある。
その腰に注連縄を巻く
なにをするんだ?
「――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ」
いつもの〝子精霊の音色〟を聞かせてくれた。
更に、その小さい体から魔線を幾つも宙へと放つ。
それらの魔線は陽と交わると朧気な霧となって大きな虹へと急成長を遂げた。
カソビの街に大きな虹が架かった。
綺麗だ。水神アクレシス様の祝福かな?
三つの秘宝を得たから、もうじき玄智の森は神界セウロスに戻れる。
水神アクレシス様、俺はやりました――。
とその虹に触れようと手を伸ばす。
が、俺の指は儚く空を切った。と、前方の雨樋が黄金と銀の獅子と獏の頭部だ。
「見つけた――」
そう皆に告げながら走った。
「なるほど、普通の雨樋ではない、黄金と銀か!」
「「「はい」」」
皆も付いてきた。
「――壁の中にも埋没している銀と青銅の部位がありますね」
アラの言葉に頷く。
獅子と獏を模した頭部の雨樋だが、上側には、黄金と銀が多い。
下側には青銅や銅の素材が多い印象だ。
その獅子と獏の雨樋に近付き、手に魔力を込めながら触れた。
続けて
一応<導想魔手>に――その
「ハルホンク。玄樹の珠智鐘を出すぞ」
「ングゥゥィィ」
ハルホンクが防護服から素早く玄樹の珠智鐘を出してくれたから掴む。
その玄樹の珠智鐘を獅子と獏の頭部に近づけたが、反応はしない。
腰に注連縄を巻く
続けて<四神相応>を意識。
これも反応がない。
この芸術性の高い獅子と獏の雨樋は<四神相応>が反応する四神装備と神遺物の
そう考えた直後――。
雨樋の獅子の頭部に触れていた右手から魔力を吸われた。
更に、その右手が、獅子の頭部に引っ張られて頭部に嵌まり込む。
――粘土を押すような気持ち良さだった。
素早く右手を引いた。獅子の頭部に右手の手形が出来ている。
刹那、獅子の頭部から閃光が迸った。
相貌の陰影を宙に描くような閃光――。
閃光が消えると、頭部の手形の上に細い線が刻まれる。
細い線は深まって溝となり、その溝は、手形の周囲を一周した。
円の溝が生まれても、基本の獅子の頭部の形には変化がないが、円の溝は結構深いから、獅子の頭部の中身を円筒形に削ったようにも見える。
すると、その円状の溝の底から魔力の火花が中空へと迸った。
「手形に小さい円の火花とは、これが遺物ならば新たなアイテム! 獅子の頭部は武器の柄か?」
興奮状態のイゾルデがそう聞いてくる。
玄樹の珠智鐘を仕舞いつつ、落ち着けと喋るように、
「右手を嵌め込んで回す鍵かもな?」
「雨樋が鍵か!
「ない」
「ふむ……」
イゾルデは静かに頷くと、俺たちの周囲で踊る腰に注連縄を巻く
腰に注連縄を巻く
チッコイ足先がぐるぐる回る。
同時に太ましい太股と金玉の陰嚢が可愛らしく揺れていた。
そのダンスが見事なだけに、なんとも言えない。
可愛いが、シュールさもあるし、神々しさもあるという……。
ブレイクダンスを終えると、ロボットダンスに移行する。
水飛沫の魔力を光源のストロボのように利用しているから、本当のロボットのように見えた。
「この睾丸、陰嚢が可愛い
イゾルデは真面目な表情で陰嚢のことを語る。
思わず笑いながら、
「腰に注連縄を巻くデボンチッチの踊りは、俺たちを祝福している続きかな? そして、俺の魔力を吸った獅子と獏の雨樋の発見を祝福している? そのデボンチッチのことは置いといて、この獅子と獏の頭部の雨樋は、黄金遊郭独自の遺物と推測した」
「ほぉ~」
イゾルデは真顔のまま、上半身を斜め下へと傾ける。
獅子と漠の頭部を模した雨樋に頭部を寄せていた。
獅子の頭部に誕生した手形と手形を囲う溝から迸る綺麗な魔力の火花に手を当てている。
イゾルデは長身でスタイル抜群だから絵になった。
細長い腕が左から右へと動く度に和風装束が腕の幅の大きさに窪み、すぐに膨らむ。機動が魅惑的だ。
そんなイゾルデから鬼魔人たちに視線を移し、
「この雨樋は知っていたか?」
トモンとジェンナは頭部を振る。
「知りません。ダンパンは、この黄金遊郭は古い仙武人と魔人が建てたと語っていました」
「俺も同じく、それしか知りません」
黄金遊郭は相当古い建物で、仙武人と魔人が協力して建てたのか。
昔から仙武人と魔族は殺し合うだけではなかったんだな。アラは数回頷いていた。
イゾルデは仙武人と魔族が協力して建てた黄金遊郭の建物自体を見ている。少し怒っている? しかし、神界セウロスに戻れたとして……神界に、魔族との融和を狙う勢力なんているんだろうか。そう考えると……新たな派閥を神界セウロスに……ま、今後は玄智の森の皆さん一人一人の問題だな。それにしても魔人が建築に加わっていたとか、驚きの気持ちを抱いたまま、
「……その建築者の二人の名は?」
「仙武人のほうの名はキヘイ。魔人のほうは、ケケルという名のようです」
「ケケルとキヘイか。そのキヘイは黄金遊郭の主人と同じ名。今の黄金遊郭の主人はキヘイの子孫か?」
「はい。そう聞いています」
「アドオミとウサタカや、トモンとジェンナは、この黄金遊郭の建築者のことは調べなかったのか?」
「アドオミは玄智の森自体を調べていたので、キヘイもケケルも知っていたはず」
「しかし、ダンパンは仙武人ですからね、完全に魔族側ではない」
「ウサタカことヒタゾウも、アドオミの指示に従いつつ、この黄金遊郭を調べようと狙っていたようです。しかし、ダンパンは黄金遊郭を調べることを拒否していた」
「そのこともあって、ウサタカことヒタゾウは、ホウシンを狙いつつ、ダンパンの始末も狙っていたと思います」
「なるほど、ヒタゾウならありえる」
トモンとジェンナがそう語る。頷いてから、そのジェンナとトモンに、
「アドオミなどの魔族と通じていたウサタカは、白王院の院生としての活動が忙しかったこともあるかな」
「はい。ゲンショウ擬きになる前から、ヒタゾウのことをゲンショウは気に入っていました。白王院では特別扱いを受けたヒタゾウは白武仙院と白炎王院の授業を受けて修業に励みながら、白王丘隴の警邏やモンスター退治をしたり、裂けた巨大神樹を調べたりと……活動は多岐に渡る」
「他にも魔族と魔族に関わる者との対話、わたしたちと敵対する勢力を潰したり、中立の幻鳳魔流の仙武人を口説き落としたりと、忙しかった」
「敵対する勢力とは、アドオミたちに反目していた鬼魔人と仙妖魔もいたのか?」
「はい、鬼魔人ババアスの一隊などは顕著。そのババアスもヒタゾウに利用される形で倒された」
鬼魔人ババアスか。
アドオミの洗脳を自らの能力で解いたか、洗脳が効かなかった鬼魔人ということかな。
ということは俺たちの仲間となれる人材だったか……俺がもう少し早く……が、今さらか。
それにしても、ウサタカの行動力は凄かったんだな。
そのウサタカことヒタゾウの傍にいた二人なら、
「ヒタゾウことウサタカは、アドオミに洗脳を受けていた?」
「洗脳されていたのか、自ら望んでアドオミに近付いたのか、不明ですね」
「魔界王子ライランとの特別な契約はあったかもしれない……」
と発言。
本人たちも洗脳されていたから分かるわけがないか。
「アドオミとヒタゾウは二人だけで行動していた時期がありました」
「……ヒタゾウことウサタカは、魔族を憎んでいたはず……」
「白王院の連中と一緒に魔族狩りを楽しんでいた面がありながらも、陰でわたしたちと連んでいた。毎回不思議でした」
「俺たちには優しかった。友に思えるほど……が、よくよく考えたら、俺たちも潰す計画だったのかもしれない」
「うん。ウサタカが自決する直前の会話を聞くと、そう思えてきた。すべてが憎くて利用して、そのすべてを潰すつもりだったのかもしれない……」
ジェンナがそう語ると、トモンは悲しみが顔に出ていた。
イゾルデは、
「その憎しみの復讐に燃えていたウサタカは、魔族の血が濃厚だったと聞いたが、武王院で暴挙に出る前、我に気付かせず玄智聖水で満たされていた地底湖の底から水の法異結界へ侵入できるほどの高度なスキルを得ていたことになる」
「……銀製の封印扉を造り上げることが可能なスキルも持っていたってことだ」
「それらのスキルを持ちながらも、この雨樋には気付かなんだ?」
イゾルデの言葉に頷いた。
そのイゾルデと視線を合わせて、
「他にも豪華な飾りが多いし、優秀でも気付かないと思うぞ」
「はい」
「そして、俺のような【特殊探検団・陸奥五朗丸】や【夢五郎スキル探検隊】の気質などの条件を満たしていないと反応しないとか?」
とボケを振る。
「……ムツゴロウマル?」
「ゆめごろう?」
「特殊探検団、スキル探検隊の気質……」
「特別な遺跡発見スキルか……」
皆、真面目に受けとり過ぎだ。
「皆、悪いが、その二つの気質は冗談だ……」
「……そ、そうでしたか」
「ふん!」
イゾルデは少し機嫌を損ねるが、直ぐに視線を戻して、微笑んでくれた。
さて、
「この手形に合わせて獅子の頭部を回してみる。皆、罠の可能性もあるから少し離れていろ」
「分かった」
「「「はい」」」
雨樋の獅子の頭部の手形に右手を嵌めた。
心地よい吸着感を得ながら、右手を時計回りに回した。
獅子と獏の頭部から金属音が響くと、その雨樋だった黄金と銀と青銅の獅子と獏の頭部が蠢き雨樋の形が崩れた――直ぐに右手を引く。
「モンスターか! シュウヤ様、右手にダメージは?」
「雨樋が敵?」
「……敵なのですか?」
「安心しろ、右手にダメージはない」
笑いながら、皆に向けて右手を晒す。
「ならば雨樋だった金属の蠢きは……」
「これから更なる変化が起きるってことだろうな」
イゾルデは表情が強張りつつ頷く。皆も同じく緊張していた。
俺も、少し緊張を覚えつつ変化が続く雨樋だったモノを凝視。
その変化が続く雨樋と地続きの壁と屋根の一部に亀裂が入り、それらの壁と屋根が一瞬で溶けるや否や、隠し部屋が露出した。
「と、溶けた!」
「雨樋どころか、隠し部屋とか……」
「驚きだ!!」
溶けた建材は雨樋の素材と融合しつつ隠し部屋の煌びやかな黄金の枠となる。黄金の枠の左右の端は黄金遊郭の屋根と地続きで、端から分銅の化粧くさりが下に垂れていた。
「わぁ……素敵」
アラの気持ちは分かる。見事な造形。
最初からこの隠し部屋が、ここに存在していたような印象だ。
そして、肝心の隠し部屋の中の様子は、魔力の霧のようなモノが覆っているから見えない。
「中は見えずか。魔力で作動する仕掛けが黄金遊郭にあるとはな……」
「うむ!!!」
イゾルデは興奮。
出入り口の魔力の霧を触ろうとしたが、その腕を「きゃ」と止めた。
可愛い声を出すイゾルデが意外だ。
振り返ってきたイゾルデの頬は朱に染まっていて、魅力度が高まっている。そのイゾルデの手を離しつつ、
「この魔力の膜か霧にはまだ触るな。隠し部屋の中にも罠があるかもだ」
そう言うと、イゾルデは気を取り直しつつ、
「罠か……止めずとも、シュウヤ様と我なら平気だろう?」
「あぁ、たぶんな。だが、イゾルデが傷を受ける場面は見たくないし、そこは野郎の俺の出番だろう」
「……ふむ。ありがとう、シュウヤ様……」
たおやかな面を見せるイゾルデの表情が可愛い。
すると、ジェンナが、
「黄金遊郭ごと爆発を促す罠かもです……」
「ジェンナ、罠だとしても爆発はないだろ」
トモンがそう言うと、ジェンナは「それもそうね」と同意していた。
爆発はさすがにないと俺も予測。
わざわざ仕掛けを作り、出現させた隠し部屋の床が実は人の体重に反応し、上からタライが落ちてきたり、横から爆発物が飛来したりと、入った人物を狙う罠部屋だったとか、悪趣味にもほどがある。
黄金遊郭を造った一人のキヘイが『仙魔造・絡繰り門』のようなスキルを用いて作ったと予想。
他にも、自動改築魔術などもある。
クナも〝魔融の連魚結〟と〝エセル魔熱土溶解〟を使い、我傍を保管するような魔法の実験場を作りあげていた。
そこで我傍の前にあった霊宝武器の独鈷魔槍を入手したんだ。
更に、魔界四九三書の一つ、フィナプルスの夜会を試した魔法実験場でもあった。
あ、この黄金の枠の隠し部屋の中は【幻瞑暗黒回廊】の可能性も?
だとしたら惑星セラの魔法学院や魔塔ゲルハットと黄金遊郭が幻瞑暗黒回廊を通して行き来が可能となる?
勿論、ディアとセンティアの手が必要だが……。
もし、幻瞑暗黒回廊だった場合、幸運が続いてこのまま幻瞑暗黒回廊を突破したとして、魔法学院か魔塔ゲルハットに戻れたら、俺は本体に戻るのか?
ドッペルゲンガーとして、眠った本人とご対面?
そんなことを一瞬で思考しつつ、
「黄金遊郭を作った魔人が、何かを封じるために作ったとかも考えられる」
俺がそう発言すると、皆が目を合わせて思案顔。
皆に笑顔を向け、
「……素直に罠がなく、仙武人の先祖たちが造り上げていた秘密の宝物庫だったら、最高の展開だな?」
とワクワクしながら語る。
イゾルデにもワクワクが伝わったのか鼻息が荒くなった。
「うむ!!」
「そうですね」
「黄金遊郭の秘宝!」
「はい、女郎が閉じ込められているとかありそう……」
ジェンナはホラー系が好きなのか?
「ってことで、また少し離れていてくれ」
「我が……」
イゾルデはそう発言。
が、俺は頭部を振って、
「これは俺の役目だ、退け」
「分かった!」
イゾルデの返事と同時に止めていた<龍神・魔力纏>を再度実行。
右手の白蛇竜小神ゲン様の指貫グローブを一瞬で短槍に変化させた。
――血魔力<血道第三・開門>。
――<
――<闘気玄装>。
――<魔闘術の仙極>。
――<滔天内丹術>。
――<水月血闘法>。
一気にスキルを発動。
「「「おぉ」」」
三人の鬼魔人たちは間近で発動された無数のスキルに<龍神・魔力纏>を見て歓声を上げていた。
「体の表面を細かな血を纏う龍の魔力が行き交っている……」
「……美しい<魔力纏>系スキルが融合している?」
「あぁ……<魔闘術>系統の重ね方が見事。魔力操作の熟練度が途方もないと改めて認識した。そして、その蛇矛の白銀の短槍も渋いです」
「うん、柄に刻まれた白蛇の絵柄が素敵……」
ジェンナの語りは乙女っぽい。
白蛇竜小神ゲン様の短槍は女性にも合うかもな。
イゾルデが、
「シュウヤ様は、〝九頭武龍神流<魔力纏>系統:奥義仙技<闘気霊装>に分類〟と仰っていたぞ!」
「おう」
「……しかし、少しの間、武王龍神族家ホルバドスの秘奥義を獲得していたことを内緒にしていたことが我を苛つかせる!」
「す、すまん」
「ふふ」
イゾルデは微笑む。
イゾルデなりの冗談か。
さて、
「この隠し部屋の中には俺が入る」
「「「はい」」」
「我も直ぐ入るぞ」
「狭い場合もあるが、まぁ入りたいなら好きにしろ」
「承知!」
イゾルデと皆を見てから――。
膜に左手を当てると、にゅるりとした感触を得た。
そのまま、すんなりと左腕から隠し部屋へと侵入すると、
「グォォァァァァ」
咆哮、いきなり左の掌が槍に貫かれた。
――不意打ちか!
――左手、左腕、左足の一部が瞬く間に凍り付く。
が、瞬時に再生、しかし再び左半身の一部が凍り付き、また再生するが、瞬く間に複数の霜ブレスを浴びたが如く、またまた凍る。
「グハハッ――」
不意打ちしてきた魔人は嗤いながら足踏み。
霜のような魔力が足下から吹き荒れる。
槍と霜の魔力攻撃かよ。
魔人は体から水蒸気を凍らせたような息吹を更に放つ。
キラキラと輝くが、室内の空気が瞬時に凍り付く。まさにダイヤモンドダストだが、狭い室内なら効果抜群だ。
赤みを帯びた左手と左足、右足まで一気に凍り付く。
痛いを通り越えて凍り付く感覚を得ながら――。
<性命双修>と<滔天神働術>を意識――。
左手と両足が再生と凍り付くのを一瞬の間に何度も繰り返す。
痛すぎるが――<火焔光背>を実行。
キラキラと輝く凍てつく魔力を吸い取っていく。
同時に
「ングゥゥィィ」
一瞬でハルホンクの防護服素材は再生し、龍の造形の籠手が左手に展開された。
俺の掌を貫いた魔槍の穂先は蜻蛉切と似た穂先で、凍ったような茨が絡み付いている。
その魔槍を引く魔人。
魔槍に絡み付く凍っているようで凍っていない茨は動いていた。
魔人は、俺の籠手ごと左腕を貫くことを諦めたか?
冷たそうな茨が絡む魔槍を持つ魔人の髪は長い。
兜で顔のすべては見えないが、庇の窪みから、赤みを帯びた黄緑色の双眸を覗かせていた。
中身は骸骨系か? 鎧は銀色で軽装戦士風。
胸元には
左足の踏み込みから――。
右手で握る白蛇竜小神ゲン様の短槍を突き出す<白蛇竜異穿>を繰り出した。短槍から無数の白蛇竜が前方に迸る。
その白蛇竜小神ゲン様の短槍が魔人の胸元を貫いた。
「グェェ――」
衝撃で吹き飛び仰け反った魔人には痛覚がある。
同時に左手に無名無礼の魔槍を召喚。
魔人の胸の風穴から氷の粒のような血飛沫が迸った。
それらの血飛沫ごと魔力を<火焔光背>で吸い寄せる。
白蛇竜小神ゲン様の短槍は指貫グローブに戻す。
魔力を得ながら前進した一弾指――。
槍圏内に入りつつ魔人の首を凝視――。
その魔人の首目掛けて無名無礼の魔槍で<龍異仙穿>を繰り出した。
龍異仙流技術系統:上位突きで魔人の首を穿つ。
魔人は頭部を傾け<龍異仙穿>を避けようとしていたが、その首の半分が散った。
魔人の紫色の血肉が首から散る中<仙羅・幻網>を発動――。
ゼロコンマ数秒遅れて、<滔天魔瞳術>を発動。
白蛇竜小神ゲン様の指貫グローブを短槍に戻し――。
――<霊仙酒槍術>。
――<戦神グンダルンの昂揚>。
を実行し、動けない魔人の胸を狙う。
左手が握る無名無礼の魔槍で魔人の胸を再度突く――。
右手の白蛇竜小神ゲン様の短槍で、その胸を更に突く――。
瞬間的な二連<刺突>系から横回転を行う――。
流れるような足捌きと連動するように、無名無礼の魔槍を左に傾けながら引きつつ、蜻蛉切と似た穂先で魔人の胸を斬り――。
右手の白蛇竜小神ゲン様の短槍を右側へ動かしながら引き、杭刃で、魔人の腰から太股をぶった斬る。
同時に無名無礼の魔槍の柄が魔人の腰と衝突し、ドッという衝撃音が響く。震動を無名無礼の魔槍の柄越しに得た。
そして、横回転後――。
白蛇竜小神ゲン様の短槍の打撃と、穂先の撫で斬りが――魔人の胴体に決まる。突かれ斬られの八連続攻撃を喰らった魔人は、全身から霜を発しながら消えた。
ピコーン※<霊仙八式槍舞>※スキル獲得※
ピコーン※<凍迅>※スキル獲得※
おお、ダブルでスキルを獲得できた!
「シュウヤ様――」
「ぬ、寒いが、敵がいたのか! そして、もう死んでいるとは……」
「――え」
「寒い~」
「え、戦いが?」
イゾルデたちが遅れて狭い隠し部屋に現れる。
「敵は槍使いか。冷たい茨が絡む魔槍が転がっている」
「おう。いきなりの不意打ち。魔人だったが、この部屋の門番だったのかもな」
奥に獅子と獏の彫像がある。
彫像は俺たちが触れる間もなく崩れた。
そこには一対の棒と長剣と刀が浮いていた。
魔力を内包した三つのアイテムがお宝か。
「奥に三つもアイテムが浮いています! やはりお宝部屋だったのですね」
「あぁ、ビンゴ。敵も居たが」
「はい……しかも強かった?」
「強かった。凍り付いて凄く痛かった。が、新スキルも得たから良しとする」
「シュウヤ様が傷を……」
「いいさ、何事も
「おぉ、凍り系のスキルを獲得か。素晴らしいぞ!」
「おうよ、何気に希少かもな。<火焔光背>を用いたお陰もあるかもだ。そして、あの三つのアイテムだが、皆、要るか?」
「シュウヤ様が得るべきであろう」
「「「はい」」」
「了解、遠慮なく。ハルホンク、あの三つのアイテムを格納できるか?」
「ングゥゥィィ! デキル!」
「よっしゃ。回収しようか。<
エヴァ、ヴィーネ、ユイ辺りに……。
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