八百八十八話 <戦神震戈・零>の獲得
「おおおぉぉ」」
『勝負あり』のノラキ師兄の声に応えるように、観客の歓声が谺した。
ポケットの中の玄樹の珠智鐘が揺れる。観客の声と連動した? それとも水神アクレシス様の力が強まったんだろうか。
一方、<龍異仙穿>を喰らい滝壺に落ちたクレハさんは、武双仙院の院生たちが助けていた。
蓮の上でクレハさんの治療が始まる。
皆テキパキ動く。先程のダンやシガラさんの治療とそう変わらない。
クレハさんが滝壺に落ちる際、腹の傷が塞がりつつあったことは確認済み、大丈夫だろう。
そう考えているとノラキ師兄が、
「シュウヤ、ホウシン師匠の代わりに褒めておこう。良く戦い良く勝利した」
笑顔を浮かべてそう発言。
体から黒霧の魔力を放出して俺との間合いを迅速に詰めてきた。
速い。ノラキ師兄も強者だと分かる。
そのノラキ師兄が、
「院生たちに示す。シュウヤ、腕を貸せ」
と発言。
俺は頷いて「はい」と短く返事する。
笑顔のノラキ師兄はボクシングの審判になったように俺の腕を高々と持ち上げた。
ノラキ師兄は誇り顔を浮かべつつ、周囲の観客席に向けて、
「――武王院〝玄智の森闘技杯〟予選の優勝者は! この槍使い、八部衆シュウヤだ!!! 俺の弟弟子だぞ! ワハハハ!!」
そう叫ぶノラキ師兄。
観客席から拍手が巻き起こる。
「「「おぉぉぉ――」」」
「「八部衆ぅ~、八部衆ぅ~」」
「「八部衆ぅ~、八部衆ぅ~!!」」
「「おぉぉ」」
大声援にはドッという空気圧もある。
ノラキ師兄は足下から黒霧を放出して俺から離れた。
黒霧は水と相性が良いようだ。
足元から水的に飛沫が散る。四神闘技場の極黒仙鋼岩の床とノラキ師兄の足下からキュキュッと独特の滑る音的な音が響く。
面白い能力だ。
そして、院生たちの大声援に合わせた三味線の音色が響く。
太鼓と笛の音も少し遅れて加わった。低音のリズムが小気味いい。
膜鳴楽器の重低音もいいな。撥弦楽器の琴と簓のような楽器の演奏も加わると、和風の曲の重厚さが増した。
琴と三味線が爪弾かれる度に体鳴楽器が合わさる。
その和風の曲を聴いていると、道中を闊歩する武者たちを連想し、高揚感が高まった。
心の奥底に眠っていただろう侍の熱い魂のようなモノを感じたような気がした。
やはり、俺の精神は日本人だ。
静かで格調が高い曲が奏でられると客席も静かになる。
そのボルテージに合わせて三味線ロックもシャープになっていく。
自然と足先でリズムを取りながら、観客席の院生たちへと手を振った。無名無礼の魔槍も見せて振るっていると――。
「うははははは、よくやったぁぁぁ!!」
観客席で一際喜ぶ院生の声だ。
玄智宝珠札の全財産を俺の勝利に賭けていた院生。
名はキハチと言ったか? 漢字なら喜八か。
そのキハチは、カソビの街の【黄金遊郭】で使い切ると豪遊宣言をしていた。俺も花魁さんと遊んでみたいが、一見さんお断りシステムとかありそう。
手を振っていると、蓮の上で見守っていたエンビヤとイゾルデが四神闘技場に跳び乗ってきた。
「――シュウヤ! 勝利おめでとう! 名実ともに武王院の代表者です!」
「実力からして当然の優勝だな!」
エンビヤは自分のことのように嬉しがる。
イゾルデも笑顔だ。
俺も嬉しくなった。
「二人ともありがとう」
エンビヤは頷いて見上げる。
そこには大豊御酒が浮いていた。
「もうじきあの大豊御酒の封印が解かれるはずです。そうすれば、シュウヤが触れたがっていた四神柱に触れることができます!」
頷く。
「後で
「我も大豊御酒を飲んでみたい……お?」
そう発言したイゾルデは武王龍槍の穂先を天に差し向けるように上げ、
「――大豊御酒と四神柱は優勝したシュウヤ様に応えようとしているのか! 仙王ノ神滝ごと神意溢れる濃密な魔力と水飛沫を放ち始めているぞ――」
「おぉ」
「いつもと少し異なります!」
「玄智聖水の水飛沫が凄まじいな」
「はい。銀の粒の花火にも見えます!」
花火か、確かに。
すると、仙王ノ神滝の水と四神柱が輝く。
その輝いた四神柱と連動したように、その四神柱の中央に浮かぶ大豊御酒が横回転を始めた。
大豊御酒の封印が解除されたか。
大きな樽だから水飛沫、酒飛沫には迫力がある。
すると、四神柱と大豊御酒が繋がる魔線が分厚くなって捻れ出す。
更に、その捻れた魔線に東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武の四神の幻影が融合。
四神と注連縄が融合した幻影となった。
エンビヤは俺の周囲にいる腰に注連縄を巻く
「注連縄を腰に巻くデボンチッチも興奮している?」
「あぁ、四神と注連縄が融合した幻影が出現したからだろう」
エンビヤは「え?」と疑問符を浮かべる。
そして、俺の視線に釣られて見上げて、四神柱と大豊御酒を凝視してから、俺に視線を戻し、
「四神と注連縄が融合? そのような幻影は見えません」
「我にも見えないぞ」
「優勝者が決まると自動的に大豊御酒の封印が解かれますが、そのような幻影が出現するのは……あ、伝承にある事が今……起きている?」
「たぶんそうだろう」
すると、四神と注連縄の幻影の真上に濃霧が発生。
その濃霧の影響で【武王院の岩棚】から繋がる岩肌と水車や添水に観客席の一部が見えなくなった。
【二十八宿・妖霧鬼魔突兀瞑道】的な濃霧だ。
何か神気のようなモノを察知。
――<水神の呼び声>を発動。
すると――。
その濃霧の一部が――。
水神アクレシス様の幻影に変化した。
更に霧の中から二槍を持った女神様の幻影が出現。
続けて
水神アクレシス様の幻影、二槍を持つ女神様の幻影、四神の注連縄が融合している幻影が舞い始めた。
水神アクレシス様の幻影は、不死鳥のような朱雀の幻影を両手で迎えるようなポーズを取る。
その姿は神々しい――。
まるで『レンブラント』の『キリストの昇架』の絵画のようだ。
すると、俺の近くの宙空を泳いでいた注連縄を腰に巻く
螺旋機動で大豊御酒と神々と四神の幻影に向かう。
大豊御酒は揺らぐ。
と、下から飛来してくる注連縄を腰に巻く
水神アクレシス様と二槍を持つ女神様の幻影と、四神と注連縄の合体したような幻影は降下してこない。
「「おぉぉぉ!」」
「「大豊御酒が下りてきたぁ」」
「「縄を巻いた
歓声を上げる院生たちにも、エンビヤとイゾルデと同じく、水神アクレシス様と二槍を持つ女神様と四神と注連縄の幻影は見えないようだ。
「イゾルデとエンビヤ、水神アクレシス様と二槍の女神様の幻影は見えているか?」
「なに!? 四神以外にも水神アクレシス様と二槍の女神様だと? 戦神イシュルル様か!」
「わたしも見えません!」
「俺だけ見えているようだな」
「はい……<水神の呼び声>と<水の神使>の効果と、あ、玄樹の珠智鐘の効果も?」
エンビヤはそう発言。
「そうだろう」
と頷いた。
一方、イゾルデは恐縮して畏まったまま、唇が震えると、
「神威のような強い神気は感じたが……我の<龍右眼>と<夢幻泡影>でも神々の幻影は見えない! シュウヤ様の覇槍神魔ノ奇想の効果は凄まじい――」
極黒仙鋼岩の床に膝を突けた。
俺に向けて頭を垂れる。
「イゾルデ、頭を上げてくれ」
「はい、我の主――」
武人イゾルデの手を握って引き起こす。
イゾルデの手は柔らかい。
だが、掌の一部はすべすべしている?
手を離すと、イゾルデの掌の一部には白銀の鱗が見えた。小型の龍カチューシャの手甲鉤の装備との接着面かもしれない。
単に武王龍槍の柄のグリップ力を上げるためかな。
あ、武王龍槍と意識を繋げるためとか?
イゾルデの掌から、そのイゾルデの細い腕と細い腰に体を確認。
エンビヤより大きい乳房がくっきりと分かるコスチューム衣装は素敵すぎる。
脇腹と腹は透けて美しい肌が露出。
大きい乳房の乳首さんは見えないが、櫨豆のような乳首さんの形は容易に想像できた。
鎖骨も美しい。
そして、防護服の所々には白銀の鱗が混じっている。
それは近未来の戦闘服に見えた。
アクセルマギナの装備にも見えるから不思議だ。
威風堂々たるイゾルデの姿を見てから、再び視線を上げた。
注連縄を腰に巻く
と、その縁に乗った。
その腰に注連縄を巻く
俺の近くに寄ってきた。
観客の院生たちが興奮。
大豊御酒の大きな樽は俺の目の前で止まる。
「きゃ」
可愛い声は俺の股間を凝視していたエンビヤだ。
そう、
衣服が半袖の夏服バージョンに変化していた。
<血鎖の饗宴>を使った半袖タイプではない。
元々の暗緑色の生地とサラが俺にくれたフェニムルの紐腕輪が絡まった新種のシャツとなった。
それにしても、やけに薄い生地の防護服だ。
「ふむ。主の一物を見たか、エンビヤ。我はお尻を見てしまった」
頬を朱に染めるイゾルデがそう発言。
俺の斜め後ろだから仕方ない。
更に玄樹の珠智鐘が防護服のポケットの中から自動的に飛び出た。
その宙に浮かぶ玄樹の珠智鐘から鐘の音が微かに響くと、魔線も出ては大豊御酒と繋がる。
その玄樹の珠智鐘は震えている?
周囲数㎜の範囲の空間が異常な空気層を生み出していた。
極めて小さい範囲の空間がブレている……。
玄智の森の異世界、俺は夢魔世界を利用して来訪したが、玄樹の珠智鐘は、この玄智の森世界に干渉しているのだろうか。
玄樹の珠智鐘が
「玄樹の珠智鐘は大豊御酒に反応したのですね」
「玄樹の珠智鐘と大豊御酒が繋がる魔線も他とは少し異なる」
エンビヤとイゾルデの言葉に頷いた。
大豊御酒の大きな樽の縁に乗り続けている腰に注連縄を巻く
ふっくらとした天使ちゃんのような小さい足だけに悩ましくはないが、どこか小憎たらしさがある。
が、今は
その大豊御酒は透明。
透き通った液体の奥には石油のような虹の環が連なっていた。
その連なり具合は美しい
宇宙的な神秘さと聖なる印象が強い。
大地の神ガイア様と植物の女神サデュラ様が愛し合い作った……。
ほおずきの形の器に入った神酒……。
するとノラキ師兄が、
「シュウヤ、さぁ、見ていないで、優勝者の褒美、大豊御酒を盛大に飲み干せや!」
拱手を行ってから、頷いた。
「――はい、では遠慮無く」
俺がそれ以上何か言う間もなく――。
大豊御酒の大きな樽は傾きつつ近付いてくるやいなや、俺の口に縁を寄せてきた。
液体の色合いは日本酒に近い。
唇に樽の縁の硬い感触を得た刹那――。
「「――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ」」
「「――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ」」
頭上のデボンチッチたちから歌が響く。
大豊御酒の大きな樽の縁に乗っていた腰に注連縄を巻く
構わず――。
大豊御酒を飲む――。
見るからに清らかそう――。
神秘的な液体が口の中に流れ込んできた――。
冷たい、いや熱い? とにかく――美味い!!
大豊御酒の大きな樽を抱えて、豪快に、その液体を飲んで――おおぉぉ、うあぁ――!
――美味すぎる!
――仄かな甘さが良い!
――口当たりが良すぎる!
――馥郁たる味わいだ。
――こりゃ、当たり前だが、養命酒どころではない。
……日本で何十万もする酒なんて飲んだことがないから分からないが、精米歩合1%のお酒もこんなに美味しいのだろうか。
大豊御酒が喉と食道を通る。
胃に向かう蠕動運動に熱を感じた。
喉も後から熱を帯びて、体の内側が熱くなった。
その直後、ドッと衝撃が内側から走る。
――蠕動運動が加速!?
急ぎ<経脈自在>を発動。
胃袋、心臓、肺、十二指腸、丹田、一物、金玉、などに熱と衝撃を感じた。
ピコーン※<魔闘術の仙極>※スキル獲得※
ピコーン※<滔天仙正理大綱>※恒久スキル獲得※
丹田を中心に魔力が巡りまくる。
<経脈自在>があるから、体内の経脈はある程度把握できているが……体が燃焼機関と化したように、燃えるように熱い。
呼吸も荒くなった。
喩えようがないが――。
天然の原子炉が体内で核反応でも起こしているような――。
そして、原子炉と言えばオクロの天然原子炉を想起。
二十億年前の高度な古代文明の証し。
シルリアン仮説は有名だった。
そんな俺の知る地球の歴史を思い出す程度では誤魔化しきれない――。
少し落ち着いた?
が、まだ体の熱はある。
大豊御酒が栄養満点な特殊な酒、普通ではない酒だと改めて認識したところで、その至高の大豊御酒はなくなった。
あぁ、もっと飲みたかった。
飲み干した大豊御酒の大きな樽は俺の両手から離れ、逆さまのまま上昇。
四神闘技場の真上に移動する。
四神柱の間に戻るのかな。
その大きな樽が逆さまになる行動は、
『もう酒は樽の中には一滴も残っていない』
とアピールしているようにも感じられた。
その真上に移動した大豊御酒に取り込まれたように消えていたはずの腰に注連縄を巻く
そして、まだ俺の心臓は熱いし、脈拍も早い。
俺の光魔ルシヴァルの内臓、細胞、血液のすべてが衝撃を受けたような感じだった。
「――シュウヤ、体からの湯気に汗が凄い。大丈夫ですか?」
湯気か……。
「
「……俺は大丈夫だが……」
エンビヤとイゾルデにそう答えると、四神柱から出ている分厚い魔線が俺に飛来。
その分厚い魔線は避けようがない速度で俺の体と衝突、魔線を浴びた。
魔線は消えない。
自然とこの分厚い魔線の大本を見上げた。魔線は朱雀の尾にも見える。
その朱雀の尾のような分厚い魔線と四神柱を凝視していると、俺の体が浮かぶ――ぬお?
――瞬時に転移?
高い四神柱へ引き寄せられて、玄武のレリーフの前に移動していた。
分厚い魔線はトラクタービームのようなパワーがあったのか。
玄樹の珠智鐘も傍で浮いている。
玄樹の珠智鐘の周囲の空間は異質なままだ。
やはり、この玄智の森世界に干渉しているようにも見える。
「――シュウヤが瞬間移動!?」
「シュウヤ様! 我も感知できない速度だったぞ! 体が溶けたようにも見えた! 大丈夫なのか?」
下の極黒仙鋼岩の床から見上げているエンビヤとイゾルデの言葉だ。
俺は頷きつつ体勢を直そうとしたが、動けない。
が、心配させるつもりはない。
「大丈夫だ。屁が出そう」
「――ぷ、ハルちゃんの衣装も薄着ですから、お尻さんが……」
「我らはヘルメとかいう大精霊ではないのだぞ!」
下の二人の美人の笑顔は見えないが、笑顔を見ることができた気分となった。
次の瞬間――。
濃霧の中に出現していた水神アクレシス様の幻影――。
戦神イシュルル様の幻影――。
四神と注連縄の幻影が急降下――。
神々と四神と注連縄の幻影が、俺の体に触れてから、四神柱の一つに刻まれた玄武のレリーフと重なった瞬間――。
他の四神柱から放出されていた魔線が太くなり、玄武のレリーフが刻まれた四神柱と繋がるやいなや、すべての魔線を、その四神柱が取り込んだ。
魔線を取り込んだ四神柱から、玄武、青龍、白虎、朱雀の四神の魔力の幻影が出現。
その四神柱の表面に、巻き付いたような注連縄の幻影も現れる。
更に、水神アクレシス様の幻影が、その四神柱から飛び出て、大豊御酒の大きな樽に向けて魔力を放出する。
すると、仙王ノ神滝の一部が急角度で持ち上がりつつ、大豊御酒の大きな樽の中へ向かう。
大豊御酒の大きな樽の中に滝の水が注がれた。
同時に水神アクレシス様はその大きな樽に魔力を注ぐ。
樽の中に溜まった滝の水が蒸発。
ボコボコと音が響いた。
水神の酵母とかあるのか?
面白い。
大豊御酒の原形かな。
その水神アクレシス様は、注連縄を腰に巻く
水神アクレシス様は微笑む。
と、大豊御酒の大きな樽を四神柱の中央に移動させてから俺を見て、
『善き戦いであったぞ。今年の四神闘技場に溜まった大豊御酒はシュウヤの物だ。そして、戦神イシュルルが槍使いシュウヤに用があるようだ。我の眷属と玄樹の珠智鐘の効果で、戦神も多少は、ここで通じることができるだろう。が、この玄智の森にも強い
と思念を響かせて消えた。
が、代わりに戦神イシュルル様の朧気な幻影が四神柱から出た。
戦神イシュルル様の幻影は水神アクレシス様の幻影とは違い、かなり朧気で、風を受ければ消えてしまいそうな印象だ。
その二槍を持つ戦神イシュルル様が、
『――槍使い、妹のラマドシュラーと戦巫女イシュランが世話になった』
と感謝の思念を寄越してくれた。
傍に浮かぶ玄樹の珠智鐘が強く震える。
同時に、近くを浮遊していた注連縄を腰に巻く
魔力を強めた玄樹の珠智鐘が、神界セウロスと玄智の森世界との境界である
たぶんそうだろうと思考しつつ、
『戦神イシュルル様、初めまして……』
『会いたかったぞ』
『光栄です』
『ふふ、その心が嬉しい。さっそくだが、槍使いたちが魔封層の奥で辛うじて神気を保ち続けていた妹と戦巫女イシュランを救ってくれた礼がしたい』
朧気な幻影魔力で構成されている戦神イシュルル様は嬉しそうな表情を浮かべていると分かる。
拱手したくても手が動かないが、拱手やラ・ケラーダの想いを送るように、
『礼ですか。聖槍ラマドシュラーを受け取り<攻燕赫穿>も獲得。黒猫のロロも加護を得ましたので……』
『遠慮は要らん、いいのだ、槍使い。槍や魔力は妹がソナタと神獣を好んだ故の礼。しかし、その黒き神獣ロロとやらは、この玄智の森には……いないのだな』
胸の穴を指摘されたようで、少し心が痛い。
『……はい。相棒のロロディーヌは、俺の本体が眠っている惑星セラにいるはずです』
『ふむ……寂し気な心が伝わってきた。いずれは……。では手短に、我の褒美を受け取るがいい』
恐縮しつつ、
『褒美の大豊御酒は既に頂き、<魔闘術の仙極>と<滔天仙正理大綱>を獲得しましたので、大丈夫です』
『魔技の一つが更に強まったか』
『はい。大豊御酒は凄いです』
戦神イシュルル様は頷いた。
『水神アクレシスが作る大豊御酒はサデュラたちが作る酒とは異なり、我が好む闘神酒に近いからな。ソナタの魔技系統に関わる能力が伸びたことには納得だ。だがしかし、その大豊御酒は、水神アクレシスの褒美の一つであろう? 我の褒美は、また他にあるのだ!』
『ありがとうございます。褒美とはなんでしょう?』
『うむ、その前に槍使いは、魔人武王を倒し、神界武王を目指すのだろう?』
『神界武王は目指していませんが、魔人武王が生きているのなら倒すかもしれないです』
戦神イシュルル様は動揺したように姿が霞むと、
『……ほぉ? 白炎王山の技を秘密裏に獲得しているくせに……目指していないとは……ま、どちらにせよ、戦神の武術には興味があるだろう?』
『あります!!』
急ぎ思念を返した。
『ははは、武に正直な男は好きだぞ』
『ありがとうございます。武術と女性は大好きです。女神様も好きです』
『えぇぇ!?』
朧気な戦神イシュルル様の幻影が揺れてしまった。
『……おぉ、ふふふ、ん? わ、我、戦神の我を、好いておるとはぁ、ゆ、勇気があるなぁ? えぇ、おぉ??』
戦神イシュルル様の混乱が少し面白い。
誠心誠意の魔力を込めて、
『――闘魂の気概ですよ』
『――今、不思議な音楽が聴こえたぞ!? そして、戦意横溢の心意気! 我の心の魔力を穿つとは、このような存在がおるとは思わなんだ……水神アクレシス、正義の神シャファ、神界戦士たちが槍使いを気に入る理由か……ん?』
戦神イシュルル様の背後で四神の幻影が揺らめいた。
『――ふふ、天神地祇の方位を司る霊獣四神たちも、魔力だけとはいえ、槍使いに用があるのだったな。では、我もさっさと可愛い槍使いに褒美を与えねばなるまいて!』
『はい、どのような……』
『我を見ているのだ。神降ろしは無理だとしても――』
朧気な戦神イシュルル様との念話は途絶えた――。
その戦神イシュルル様は二槍流の<魔槍技>のような大技のモーションから一閃、一穿の妙技を見せる。
そして、
『我の<神槍技>の一部、戈魔力を受け取るがいい。幻影に過ぎんが、槍使いならばなにかしらの妙が得られよう――』
と念話を寄越す。
神槍の幻影魔力を俺に<投擲>してきた。
神槍の戈魔力は胸に刺さったが、痛くない。
その神槍の戈魔力は柄頭の造形を残して胸から消えた。
俺の背中を突き抜けた?
神槍は下の四神闘技場に向かう?
と思ったが、神槍の戈魔力は後退したようだ。
胸元から幻影の煌びやかな戈が生えたようにニョキッと出る。
その神槍の戈魔力は俺の体内に吸い込まれるように消えた。
『良かった、神意は伝わった……』
と念話を寄越す戦神イシュルル様。
力をかなり消費したであろう戦神イシュルル様の表情は苦しそうだった。
その戦神イシュルル様の幻影は無理に微笑んでから切なく消えた。
ピコーン※称号:戦神イシュルルの加護を獲得※
ピコーン※<性命双修>※恒久スキル獲得※
ピコーン※<滔天神働術>※恒久スキル獲得※
ピコーン※<滔天内丹術>※恒久スキル獲得※
ピコーン※<滔天魔瞳術>※恒久スキル獲得※
ピコーン※<霊仙酒槍術>※スキル獲得※
ピコーン※<戦神震戈・零>※スキル獲得※
おぉ、スキルを!
<戦神震戈・零>は<光穿・雷不>的?
神界セウロスに纏わる<神槍技>か。
大技は確実。
同時に体が解放された。
急ぎ<導想魔手>を足下に生成――。
歪な魔力の手に片膝を突けて着地を行った。
が、目の前の四神柱には、まだ四神の魔力が渦巻いている。
その四神柱を凝視――。
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