八百八十七話 クレハとの戦い
滝壺に落ちたダンはすぐに霊魔仙院の院生たちに救出された。
蓮の上で治療が始まる。
その間に武双仙院の院生たちがクレハさんの勝利を祝うように四神闘技場の上に向かった。
しかし、クレハさんの友らしき院生が、クレハさんの前に立つ。
両手を拡げて、
「今はダメです!!」
クレハさんを称賛しようとしていた武双仙院の仲間たちの動きを止めていた。
刹那、クレハさんの別の友が四方に樹枝の壁を構成。
クレハさんの周囲を樹が囲う。
クレハさんは見えなくなった。
クレハさんの着替えかな。
制服はズタボロだったから当然か。
滝壺のほうに視線を向ける。
ダンを治療する霊魔仙院の方々もシガラさんを治療した武双仙院の方々と同じく治療スキルを行う速度が速い。
小柄な女性が霊魔仙院のマークが表に記された丸薬をダンの口に含ませて飲ませている。
同時に<仙魔術>系の回復魔法の紋様が宙を行き交う。
サデュラの葉がダンの体に巻き付いた。
ダンが包帯に巻かれたミイラに見えてくる。
と、そのサデュラの葉がダン自身が発した墨色の魔力と反応したのか解かれる。そのサデュラの葉は、治療者が持つ巻物の中に吸い込まれた。治療者の院生の方が見守るなか、ダンは目を開けた。腹の傷は癒えている。
宙に浮かぶ回復の<仙魔術>は武双仙院と霊魔仙院で異なるところもある。
あの辺りは<仙魔術>にも個性があるということか。
<仙魔術>ってより個人差かな。
そして、ダンの治療の度に大きな蓮が揺れて周囲の水面に波紋を起こす。
一部の波紋は滝が起こす波を越えていた。
数分後、ダンの治療は終わる。
笑顔のダンは立ち上がって霊魔仙院の仲間たちと抱き合う。
客席にいた霊魔仙院長のハマアムさんも傍にいた。
『がんばったな』
『ありがとう』
そんな励まし合う言葉が想像できた。
すると、浮いているノラキ師兄は俺のほうを見て、
「小休止の後、シュウヤとクレハが決勝を行う!!」
と大声で宣言。
背後の院生たちの歓声が凄い。
クレハさんへの応援が多い。
四神闘技場の上で着替えを終えたクレハさんが片手を上げて観客席にいる院生たちに声を掛けていた。
俺への応援の声もある。
全財産の玄智宝珠札を俺に賭けた男性の方が中心だったが、玄智宝珠札の金を賭けた方以外にも応援してくれる方が多い。
ま、俺が玄樹の珠智鐘を持つことは多数の院生が知っているからな。
冥々ノ享禄と白炎鏡の欠片を手に入れて、あの院生たちの期待に応えよう。
エンビヤもイゾルデも武王院の皆も、神界セウロスの
俺の世界の時間で、どのくらいの期間、魔界セブドラ側と鬼魔人傷場でこの玄智の森が繋がっていたんだろう。
そう考えながらエンビヤとイゾルデの表情と観客席の皆の表情を重ねた。
そのまま応援してくれる院生たちに向けて片手を上げた。
すると、横にいたエンビヤが、
「いよいよですね」
「おう」
「四神柱と大豊御酒の魔力が強まっている」
「ふふ、四神柱と大豊御酒はシュウヤの優勝を待っている?」
イゾルデとエンビヤがそう発言。
優勝か。冗談的な発言をしたエンビヤに笑顔を送り、四神柱と大豊御酒を少し見ながら頷く……。
二人が語るように四神柱と大豊御酒の魔力は強まっていた。
すると、四つの柱の間に浮かぶ大豊御酒が、その四つの柱から強い魔線を浴びて揺れ始めた。
大きな樽は注連縄が巻かれている。
と、その大豊御酒が傾いた。
傾いた大豊御酒から神々しい液体が少量だけ溢れ落ちた。
大豊御酒は直ぐに傾きを元に戻す。
同時に仙王ノ神滝が輝きを強めると、四つの柱の表面も輝いた。
四つの柱の表面を刻むレリーフは様々な造形だ。
が、一番目立つのは四神と星々。
俺の知る地球でも有名な東西南北の守護神様なんだろうか。
高松塚古墳の石室の漆喰には四神の絵が金銀細工で多彩に塗り込められていた。
古来中国なら霊獣。
右の柱には、東の青龍の姿。
もろに日本大陸を現しているような龍だ。
左の柱には、西の白虎の姿。
大虎で
下の南の朱雀の姿は火の鳥で不死鳥。
上の北の玄武の姿は一際大きい亀と蛇。
玄武の周囲には北方を意味するだろう斗宿、牛宿、女宿、虚宿、危宿、室宿、壁宿の星々のマークのレリーフがある。
水神アクレシス様と関係した大眷属の姿も刻まれているようだ。
そんな四神柱の表面には得物を持って戦う仙剣者や仙槍者たちのレリーフもあった。
それらのレリーフから、レリーフとそっくりな幻影が出現。
仙剣者や仙槍者の戦い合う幻影だ。
〝神仙鼬籬壁羅仙瞑道譜〟的。
近付けば
更に、四神柱の周囲に
「でぇ――ぼぉん――ちぃ――」
「「でぇ……ぼぉん……ちぃ……」」
「「「おぉ」」」
院生たちが一斉に動いて声を発したからか、武王院の岩棚や崖と繋がる添水と水車と『仙魔造・絡繰り門』で作られた竹製の建物が微かに揺れる。
「大豊御酒が恵みを!」
「
「まだ優勝者は決まってないのに!」
その大豊御酒の恵みの少量の液体がダンとクレハさんに向かった。
「シュウヤ、見事な戦いを行った者たちに大豊御酒が自動的に振る舞われる時があるんです」
「へぇ、粋な神様か精霊様だな」
「はい!」
「ふむ。水神アクレシス様や戦神イシュルル様の気配を感じた。特に玄武が強い魔力を発していたぞ」
「玄武。亀と蛇。見た目はガメラ。名前的に玄智の森と玄智山に水神アクレシス様と関係が深そうだ」
「ふむ、がめらが分からぬが、ここは仙王ノ神滝の滝壺。水神アクレシス様や水の大眷属様の力が濃厚な聖地であるからな」
イゾルデの言葉に頷きつつ、四神闘技場を見やる。
黒い石畳の上で、着替え終えたクレハさんと治療が済んでいるダンはピンポイントで大豊御酒の液体を浴びると、黄金色に体が輝いた。
一瞬、聖花の透水珠を使用した瞬間を思い出す。黄金色の輝きは瞬時に終了。そのダンとクレハさんは活気を得ている印象だ。
クレハさんは両手と体を見る。
ダンとの戦いで消耗していた体力が回復したようだ。
エンビヤが語ったように戦った両者に対しての大豊御酒の恵みかな。
または新たなスキルの獲得か。
そして、俺と馴染みの深い……。
水神アクレシス様。
植物の神サデュラ様。
大地の神ガイア様。
の恵みかな。
仙王の隠韻洞には無数の石像があったし、四神柱の表面にも仙武人の先祖たちのレリーフはたくさん彫られてあるから、先祖たちの加護もありそう。
が、朱雀、青龍、玄武、白虎の恵みか。
とすると、戦神ヴァイス様と関係のある戦神イシュルル様の恵みだろうか。
ステータスにも……。
※酒豪の槍武神の戦神イシュルルも〝玄智山の四神闘技場〟を通じて未知の奥義を察して、新たな独自奥義を開拓した武術家を注視する※
とあった。
酒豪の戦神イシュルル様はイゾルデの過去話にも登場した。
魔界セブドラと争う戦場では、四神に乗っていた戦神イシュルル様。その四神の力がレリーフに一部でも残っているんだろう。
そして、戦神イシュルル様は四神闘技場を通して俺を見ているということだ。
すると、ノラキ師兄が、
「小休止は仕舞いだ。シュウヤとクレハは前に!」
そう宣言を行うと、いつの間にか止まっていた三味線ロックが再開された。
「「おぉぉぉぉ」」
観客席の院生たちの様々な声が谺する。
既に四神闘技場の上に立つクレハさんは、
「はい! ここにいます!」
と宣言。
銅色の槍を掲げている。
鋼色の槍は腰ベルトに差したままだ。
俺も、
「――はい!」
と蓮の上で挙手。
選手宣誓を行うノリだ。
その腕を降ろした。
すると、隣のエンビヤとイゾルデが、
「シュウヤ、がんばってください!」
「シュウヤ様、さっさと倒してカソビの街と白王院に殴り込みに行こう」
イゾルデの言葉に思わず笑う。
「そう急ぐなイゾルデ」
「ふむ。皆の戦いを見て、元龍神の血が騒いだ」
「あぁ、気持ちは分かる」
「わたしも何度も武者震いが起きました」
エンビヤとイゾルデは頷き合う。
美人の二人だから、絵になるな。
イゾルデの金色の角は少し目立つ。
細い顎と揉み上げの一部を隠す
今<霊血装・ルシヴァル>は無理だから、少し憧れる。
シガラさんは、その代わりに顔の下半分を覆った墨の魔力を見てなんか叫んでいたが……。
そのことは言わず、
「戦いは学びの場。この後カソビの街に直行するから、その後、光魔武龍イゾルデの力を発揮してもらおう」
イゾルデは龍眼をギラつかせつつ頷くと、
「我も戦いから学ばせてもらおう!」
全身から凄まじい魔力を放出しながら片腕と背中と腰だけで武王龍槍をぐわりと器用に回す。傍にいるエンビヤと俺に青龍偃月刀と似た武王龍槍を当てることなく右腕と脇腹にジャストフィットさせた。
武人イゾルデここにあり。
と言いたくなる格好だ。
だがしかし、武王龍槍の薙刀の穂先が当たると、その部分の蓮が溶けていた。
が、不思議と貫通した穴から水は溢れてこない。
「え、イゾルデさ、イゾルデのっ、あ、魔法の膜が張られた? 大丈夫なようですね――」
エンビヤは慌てて大きな蓮の上で足踏みを行う。
水は溢れない。
不思議な蓮だ。
笑顔で、
「二人とも滝壺に落ちるなよ? じゃ、クレハさんの二槍流を学びに向かう」
「「はい」」
蓮から離れた。
――玄智の森闘技杯に向けての武王院の代表者を決める戦いだ――。
四神闘技場に着地。
正直、<武仙玄智の頂>という名声には興味はない。
玄智の森を救うことが先決……。
が、一番は……。
自然と胸元に手を当てた。
相棒のゴロゴロという音が聞きたい。
相棒の姿を思い出していると、
「両者、前に揃え――」
ノラキ師兄の野太い声だ。
ノラキ師兄は降りてきた。
碁盤格子の三六一個の目の中央、天元に着地するや両手を拡げて――。
全身から<闘気玄装>の魔力と共に黒霧の魔力を放出。
が、一瞬でその魔力を霧散させてから、
「――祖先たちが作ったとされる四神闘技場の極黒仙鋼岩が熱い!!」
と、大声で言い始めた。
「この闘技場を造り上げた祖先たちも、武王院の将来を担う存在たちがこの黒い石畳で武を競っていることを、神界セウロスに至る道で感じて喜んでいるってことだろう!!」
「「おぉぉ!」」
ノラキ師兄の声に応えている院生たちの声がいい感じに響く。
熱意と声の圧を直に感じた。
ノラキ師兄も、
「皆も良い気概だ!! さぁ、玄智の森闘技杯の武王院の代表者を決めようか!! クレハか、シュウヤか!」
「「「クレハか、シュウヤか!」」」
観客席の院生たちからノラキ師兄に合わせた声が響きまくる。
ノラキ師兄は皆の反応を聞いて満足そうに頷くと、俺たちを見てから、
「クレハには悪いが、弟弟子のシュウヤを応援するぞ?」と小声で発言。
俺の目の前にいるクレハさんは、
「同じホウシン師匠から指南を受けているシュウヤ殿ですから、ノラキ師兄の応援は当然です。気になさらず。そして、玄智の森の命運がかかった存在がシュウヤ殿だと理解しています――」
と、銅色の槍の穂先を俺に向ける。
「しかし、どんなに強い相手だろうと、わたしにとって〝玄智の森闘技杯〟の個人戦出場は大きな目標、突破しなければならない大事な戦いなんです! ですから全力でシュウヤ殿を倒しに掛かります――」
鋼色の槍の柄を握り腰から引き抜いた。
先ほどと違い、かなり短い棒のような印象だが……。
あ、ギミックか。
と思った直後、笑みを浮かべたクレハさんは鋼色の槍の柄に魔力を通し、独鈷魔槍のように柄を伸ばし、黒い石畳を柄頭で叩く。
金属音がキィィンと響いた。
二槍を持つクレハさんの武威には清々しさがある。
そして、どういうことか分からないが、二槍流の凄腕だと分かるから、なんか嬉しくなった。
俺も二槍で、否、今は無名無礼の魔槍の一槍だけだ。
腰にはシガラさんがくれた仙剣の仙迅剣サオトミがあるが……今は一槍で通そうか。
ノラキ師兄は、
「クレハは良い気概だ」
と発言しつつ俺に視線を移して、
「ホウシン師匠がここにいたらなんて言ったろうなぁ?」
とノラキ師兄は俺に話を振る。
モノマネをやれ?
「……『カカカッ、ノラキ、ほどよい緊張感を楽しんでないで、さっさと試合を始めんか!』でしょうか?」
俺がホウシン師匠のモノマネを披露すると、ノラキ師兄はビクッと体を揺らしてから背筋を伸ばした。
「……そっくりだ」
と呟いたノラキ師兄は、ひょうきんな表情を浮かべて額に手を当てつつ、周囲を見てホウシン師匠の姿を探す素振り。
ホウシン師匠がいないことを確認すると深呼吸。
そして、
「……はは、さて、試合を行おうか。シュウヤとクレハ、準備はいいな?」
「「はい!」」
「では〝玄智の森闘技杯〟の予選の決勝を開始する。両者に玄智の森から幸多からんことを願う! 始め!」
ノラキ師兄の宣言が終わると同時に前進してきたクレハさん。
いきなり間合いを詰めてきた。
<闘気玄装>。
<血道第三・開門>――。
<
<仙魔奇道の心得>を意識。
クレハさんは槍圏内から、
「<仙武・戦境風突>――」
を繰り出した。
クレハさんは蒼い炎を右腕に宿す。
その右腕が握る銅色の槍にも煌びやかな蒼い炎が宿っていた。
迅速な踏み込みからの一閃と呼ぶべき見事な突技。
が、<仙武・戦鏡風突>は、ホウシン師匠の一足一槍と比べたら――。
二つの穂先の軌道とクレハさんの機動は読める。
そう思考した刹那――。
無名無礼の魔槍の穂先を少し下げつつ<水穿>を放つ。
蜻蛉切と似た穂先は、クレハさんの<仙武・戦鏡風突>を繰り出した銅色の槍の穂先と衝突。
狙いは<仙武・戦鏡風突>の相殺ではない。
銅色の槍は衝撃波を放つ。
普通なら槍ごと俺は吹き飛ぶだろう。が、<闘気玄装>は使い勝手がいい。無名無礼の魔槍を覆う<水穿>の水の膜が揺らぐのみ。
銅色の槍の穂先は蜻蛉切と似た穂先の上部を滑る――。
俺の滑りゆく<水穿>の狙いは鋼色の槍を持つクレハさんの左腕――。
出ばな小手的な技術を思考した次の瞬間――。
リコの技術で無名無礼の魔槍を震動させた。
<水穿>に変化を加えたことでクレハさんの<仙武・戦鏡風突>の軌道が更に上へとズレた。
その銅色の槍の穂先は衝撃波を発生させつつ俺の右斜め上に直進。
同時にクレハさんの右腕が斜め上に伸びた。
右の脇腹が空く。
バランスを崩したクレハさん。
つばぜり合いの間に視線でフェイクを行う。更に震動する<水穿>の蜻蛉切と似た穂先がクレハさんの左手が握る鋼色の槍の柄と衝突した。
「――くっ」
<水穿>の衝撃と無名無礼の魔槍の突技の重さに耐えられないクレハさんは左腕を下げる。
<仙魔・暈繝飛動>と<白炎仙手>を実行――。
無名無礼の魔槍の柄を引く。
剣道なら引き小手を狙う間で、俺の周囲で靡く蒸気のカーテンから白炎の貫手が突出。
――大量の白炎の貫手がクレハさんに向かう。
白炎の貫手乱舞を見て驚くクレハさんは「――えっ」と声を漏らしつつも、それらの白炎の貫手を二槍の柄頭で防いだ。
が、次の瞬間、側面の位置に移動していた俺の風槍流『左背攻』には対応できず――。
クレハさんは銅色の槍の柄ごと『左背攻』の打撃を上半身に喰らう。
「ぐあ――」
衝撃で背後に吹き飛ぶクレハさん。
吹き飛びながらも全身の<闘気玄装>を強めて素早く床を蹴り横に飛ぶ。
さすがだ。
前傾姿勢で前進。
そのクレハさんとの間合いを潰しつつ無数の<白炎仙手>を繰り出した。
続けて、二槍で防御を意識したクレハさんの側面から――。
右手が持つ無名無礼の魔槍で<刺突>を繰り出すフェイクから左拳の<白炎仙拳>を繰り出した。
クレハさんは<白炎仙手>の貫手を体に喰らい体から血飛沫を発していたが、鋼色の槍の柄で<白炎仙拳>を見事に防ぎつつ銅色の槍を振るい<白炎仙手>の白炎の貫手を消していた。
払い動作から流れるような動作で右へと移動したクレハさん。
ゼロコンマ数秒も経たずにクレハさんの体は回復していた。
構わず、右側に移動していたクレハさんに<導想魔手>を繰り出す。
「――<導魔術>も!?」
見事な反応で鋼色の柄を斜めに伸ばし<導想魔手>の魔力の拳の威力を減殺。
が、完全に衝撃は殺せず、俺の近くで蹌踉めいたところに<蓬莱無陀蹴>を繰り出す。
続けざまに<虎邪拳・黒鴨狩>も繰り出した。
クレハさんの上半身と銅色の槍に<蓬莱無陀蹴>の蹴り技と、右前腕の打撃が数回決まる。
「げぇ――」
とクレハさんが吹き飛んだ。
銅色の槍の柄が胸と腹に食い込む。その姿は少し痛々しい。
そんなクレハさんに追撃に繰り出した<白炎仙手>の貫手が向かう。
が、頭部を振るう余裕のあるクレハさんは踵で床を叩くと体がブレた。
「<玄智・アブサミ歩法>――」
とスキルを発動。
ダン戦で見せていた歩法を実行しながら二槍を素早く振るってきた。
「――武王院最強の武双仙院の矜持にかけて、負けられない!」
そう気概を言い放つと同時に、俺の<白炎仙手>の追撃がすべて消し飛ぶ。
同時に<闘気玄装>を活かした歩法の低空飛行で俺との間合いを詰めてくると、
「<戦境・鸞突刃>」
二槍の凄まじい<刺突>系の連撃だ。
無名無礼の魔槍の柄で、その連続の突きを防御しつつ、爪先回転の技術で避けていく。
クレハさんは横回転を続ける俺を追撃。
<戦境・鸞突刃>を繰り出し続けた。
左右の手が持つ槍は一回一回引いているはずだが――。
引き際の隙がない――。
<闘気玄装>を強めるが、その強めに合わせるクレハさんは強い。
縁際に追い詰められた。
無名無礼の魔槍の柄を握る手を緩めて、わざと穂先を下げた。
墨色の魔力が床を這う。
チャンスとみたクレハさん。片腕に蒼い炎を再度宿らせる。
「――喰らいなさい! <武王・炎鉄穿>!」
素晴らしい大技。
が、一度見ている。
独自<闘気霊装>と加速の避け技で対抗だ。
――<水月血闘法・水仙>を実行。続けて<龍神・魔力纏>も実行。
墨色の魔力と<血魔力>を得た水鴉が周囲に浮かぶ。
<水月血闘法・水仙>の効果で分身を行いながら、クレハさんが繰り出した<武王・炎鉄穿>を避けた。
クレハさんの側面から<龍異仙穿>を繰り出す――。
唸る勢いで突出する蜻蛉切と似た穂先から白銀の龍が棲まう墨色の魔力が迸った。
クレハさんの腹をぶち抜く無名無礼の魔槍。
クレハさんは悲鳴を上げることもできず、四神闘技場の場外に吹き飛んでいた。
腹の風穴が塞がり始めたところで滝壺に落ちる。
「――勝負あり、シュウヤの勝利だ!」
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