八百七十九話 新たなる戦闘職業<霊槍・水仙白炎獄師>
腰に注連縄を巻いている
小さい手に持つ玄樹の珠智鐘も音を発しながら水の法異結界の液体を吸い込み始めると水流が発生。
水流の勢いは激しい。
その水の流れから皆を守るため、<火焔光背>を実行――。
テルミット反応の如く目映い雲海のような魔力が前方へと瞬く間に拡がる。
輝く雲のようにも見える<火焔光背>の燃えている魔力は、水の法異結界の水流と衝突しては、そこから魔力を吸い取り続けた。
よっしゃ――。
体が一気に活性化。
続いて<水月血闘法・鴉読>を実行。
血色の十字架――。
朧げな月――。
水鴉――。
それらの<水月血闘法・鴉読>の幻影が周囲の水流の方向を変化させていく。
しかし、腰に注連縄を巻く
流れの勢いが増した。
ホウシン師匠とイゾルデも水流の影響は受けていたが、ホウシン師匠は<闘気玄装>を体に纏いつつ、水の流れがあまりない場所に移動していた。
イゾルデも魔力を体に纏う。
数匹の半透明の龍がスタイル抜群のイゾルデの体の表面を巡る。
龍が這う胸と腰のラインが非常に悩ましい。その肌を行き交う龍のお陰でビューティーさが余計に際立つ。
あの半透明な龍の群れは<龍神・魔力纏>の効果かな?
龍の<導想魔手>に近いかもしれない。
小型の龍のカチューシャは消えた状態だ。
だから、カチューシャの能力?
それか龍人イゾルデの<闘気玄装>や<魔闘術>なのかもしれない。
その魔力の龍を扱うイゾルデは、両手で小さい円を目の前に描く太極拳のような動作を行いながら腰を沈めた。微かに呼吸する口元から泡沫を漏らしながら魔力の龍を操作する。
その動きは武人然とした動きだ。
その武人イゾルデは魔力の龍をコントロールしながら周囲の水の流れを抑制すると、両手を拡げて跳躍するように泳ぐ。
人魚的な機動力で泳ぐイゾルデは立ち泳ぎのまま、
『水流なぞ、なんのことはない』
といったような笑顔を見せる。
半透明な龍が絡む右腕を上げた。
魔力の龍の頭部が俺たちを見る。
その半透明な魔力の龍を寄越すつもりかな?
正直、魔力の龍よりも、イゾルデの魅力的な腋のほうが良い。
そう魅了されながら、
『その龍は必要ない。大丈夫』
という意味を込めて左手を上げた。
同時に体に展開していた<水月血闘法>を強める。
俺とエンビヤを水流から守るように<火焔光背>と<水月血闘法>で水の流れの方向を変えていく。
イゾルデは俺とエンビヤと周囲の水の流れを見て頷くと、腕を下げていた。そのイゾルデを見ながら<火焔光背>を強めて、水の法異結界の液体から膨大な魔力を吸い取りまくる――活力が漲りまくりだ。
もしかして、水神アクレシス様からのご褒美?
ならば――
ポケットから神遺物の
――《
が、やはり魔法は発動しない。
その間にも――。
腰に注連縄を巻く
すると、エンビヤが、俺が右手に持つ神遺物の
『――シュウヤ、下の仙槍者の石像には、玄樹の珠智鐘と
と身振り手振りで聞いてくる。
『そうだと思う。少し違うかもしれないが――』
と口元から空気の泡を作りながら声を発した。
エンビヤは頷いた。
その直後――。
その音波はガラス系の音で、どこか心地よさがあった。
と、玄樹の珠智鐘は輝きを放つ。
玄樹の珠智鐘と連動したのか、腰に注連縄を巻く
水神アクレシス様が再度召喚される?
いや、連続的に
その
注連縄も揺れて奇妙な踊りは面白い動きだ。踊る
魔線は攻撃ではないから、魔線を避けずに受けた。
俺と繋がった魔線はドクドクと脈を打つ。お?
注連縄を腰に巻く
燃焼している見た目の<火焔光背>を用いて水の法異結界の液体から魔力を吸い取り続けているからプラマイゼロだが、どういう?
魔力の循環、血液を循環させるようなデトックス?
水神アクレシス様と関係が深い水の法異結界を俺の体に取り入れようとしている?
それなら実際に飲めば早いと思うが……否、精神性を伴うことも関係しているのならこの儀式のようなことが必要なんだろう。
玄智の珠智鐘と玄智聖水の法異結界。
腰に注連縄を巻く
下の仙槍者たちの思念的なモノ。
それらと
そう思考した直後――。
マイクロ波の弾丸を脳や体に受けたような衝撃を受けた。
超音波の攻撃を喰らった感じだ。
玄智の珠智鐘の音が脳内に響き渡る。
痛いが、この痛みは俺の成長を促す痛みだと分かる。
あるいは〝鬼魔人傷場〟を塞ぐための前準備に必要な痛み?
ホウシン師匠とイゾルデとエンビヤは
すると、その右手が握る
水の流れは衰える。
『シュウヤ、大丈夫ですか?』
背中に手を当てながらさすってくれたエンビヤ。
大丈夫という意味を込めて頷いた。
その間も、腰に注連縄を巻く
頭上の水が減って外壁が見えてきたところで全身に痛みが走った。
神々の手により胃が捻られていく感覚。
『『シュウヤ――』』
『シュウヤ様――』
くぐもった皆の声が響く。
皆の口元から溢れた泡のせいで表情は分かり難い。
が、その皆の顔色がハッキリと見えた。
そう、周囲の水の法異結界の液体が消えたからだ。
当然俺たちは急降下。
「きゃ――水が!」
「――ぬぉッ」
「玄樹の珠智鐘が水の法異結界を――」
<導想魔手>を足下に発動する。
蹴って跳ぶ。
ホウシン師匠とイゾルデには悪いが――落下中のエンビヤを優先。
そのエンビヤに近付いた瞬間、視界に――。
ピコーン※<玄樹の守人>の条件が満たされました※
ピコーン※<玄智武奏>の条件が満たされました※
ピコーン※<玄樹仙槍者>の条件が満たされました※
ピコーン※<玄樹仙剣者>の条件が満たされました※
ピコーン※<水仙>の条件が満たされました※
ピコーン※<玄智の神威>の条件が満たされました※
ピコーン※<水仙の戦槍把>の条件が満たされました※
ピコーン※<水仙の法異師>の条件が満たされました※
ピコーン※<水仙の華鏡師>の条件が満たされました※
ピコーン※<水仙法異華御師>の条件が満たされました※
ピコーン※<霊槍・水仙白炎獄師>の条件が満たされました※
※戦闘職業クラスアップ※
※<玄樹の守人>と<玄智武奏>と<玄樹仙槍者>と<玄樹仙剣者>と<水仙>が融合し、<水仙の戦槍把>へとクラスアップ※
※<水仙の戦槍把>と<玄智の神威>と<水仙の法異師>と<水仙の華鏡師>が融合して<水仙法異華御師>へとクラスアップし、<霊槍獄剣師>と<水仙法異華御師>と<白炎の仙手使い>が融合して<霊槍・水仙白炎獄師>へとクラスアップ※
ピコーン※<経脈自在>※恒久スキル獲得※
ピコーン※<仙魔・霧纏>※スキル獲得※
ピコーン※<水月血闘法・水仙>※スキル獲得※
おぉぉ――凄まじい。
戦闘職業を色々と獲得、融合して<霊槍・水仙白炎獄師>へと進化を遂げた!
スキルも獲得!
そして、覚えたばかりの<水月血闘法・水仙>を実行――加速感を得ながらエンビヤの腰に左手を回した。
エンビヤを抱き寄せる。
「ぁぅ――」
同時に<導想魔手>を足下に生成した。
エンビヤと一緒に<導想魔手>に着地。
頬を斑模様に朱に染めたエンビヤは俺の胸に顔を寄せて、
「ありがとう――」
「おう」
笑顔のエンビヤは上目遣いで、
「シュウヤは先ほど分身スキルを? 体が一瞬ブレました」
「覚えたばかりの<水月血闘法・水仙>を使った」
「え、水仙!? 加速技のようなスキルを使ったから体がブレたのですね」
「そうらしい」
エンビヤは頷く。
と、視線を斜め上に上げた。
近くを浮遊する腰に注連縄を巻く
「姿は可愛いですが、あの
「あぁ、水神アクレシス様の力を扱えるのだとしたら、とんでもない
俺の言葉を耳にしたであろう
注連縄といい、妖精のような闇蒼霊手ヴェニュー的でもあるから、なんとも言えない。
「ふふ、面白い
ハルホンクは気を利かせているのか、出てこない。
少し素肌が露出したバージョンのハルホンク衣装を触るエンビヤは、俺の割れた腹筋に指を当てていた。
少しエッチな指先だ。
しかし、心配させたか。
すまんの思いで、
「ないと思う。それよりエンビヤは大丈夫か? 魔力は吸われていないよな?」
「わたしは大丈夫です――」
エンビヤも俺の背中に右手を回す。
自ら抱きしめを強くしてきた。
エンビヤから乳房が押し付けられた形。
乳房の弾力がタマラナイ――。
が、エロ紳士を貫く。
下のほうを見ながら、
「正直言うと痛いって言葉では言い表せないほどの強烈な痛みを味わった。が、それも水神アクレシス様の恵みなんだろう。下の仙槍者の像に宿っていた魂たちからの贈り物とも呼べるかな……」
「痛みを贈り物と捉えることができる寛容な心は凄く素敵だと思います」
熱い視線と言葉に少し照れを覚えた。
「ま、俺よりも、この神遺物の
エンビヤは微笑む。
と、自らの鼻でハルホンク衣装を擦るように頷いた。
そして、俺が右手で持つ
上目遣いのまま俺を凝視。
その瞳は熱いし、照れるがな……。
「……」
そのエンビヤは俺の唇をチラッと見る。
と、恥ずかしそうに視線を逸らす。
――また抱きついてきた。
エンビヤの乳房の柔らかさと乳首の硬さを直に感じてしまう。
股間がヤヴァい。
おっぱい研究会・第五条が脳裏に過った。
鼻の下も伸びているはずだ。
レベッカが傍にいたら『なにしとん!』といったような方言を発しながら、蒼炎スリッパの盛大なツッコミが後頭部に決まっていたことだろう。
が、ここにはレベッカはいない。
ふと、レベッカの明るい声が聞きたくなった。
そんなことを考えながら――。
とっくに着地を終えているホウシン師匠とイゾルデを見る。
その二人は俺たちと
ホウシン師匠が体に纏う<闘気玄装>の質は極めて高い。
<魔闘術>と<闘気玄装>が合わさった印象。
そのホウシン師匠は背中に両手を回した歩法で、時折、凄まじい速度を出して加速、砂煙を上げる。
が、ゆらりと歩く時もある。
<魔闘術>と<闘気玄装>を体の要所で使い分けている?
<魔力纏>などのスキルもあるんだった。
それらのスキルを使うホウシン師匠は、長細い顎髭を指先で摘まみつつ周囲の探索を行う。
ホウシン師匠の体を巡る魔力は幾重にも重なっている。
枝分かれしていた。
内臓、血管、筋肉……魔力の行き来を把握するのは難しい。
……これは予想だが、<闘気玄装>の細かな魔線はミクロの原子核にまで及んでいそうだ。
一方イゾルデは、体に纏っていた龍の魔力は消えている。
代わりに小型の龍のカチューシャが出現していた。
肩に顎を乗せて、背中に細長い胴体がある。
そのカチューシャの背鰭から綺麗な魔力粒子が放出中だ。
あの綺麗な魔力粒子は推進剤?
ジェットパック的な推進力をイゾルデは得られる?
そのイゾルデとホウシン師匠は骨を拾い続けている。
あぁ、あの骨はホウシン師匠を襲っていた魚の残骸か。
ホウシン師匠は珍しい素材の骨を見ながら感嘆の声を発して少し興奮しているが、イゾルデのほうは悲壮感が強い。
あの魚はイゾルデの元親戚。
同じ水神アクレシス様の眷属だった?
もしや、銀龍ドアラスの……。
そんな二人を見ているとエンビヤが、
「シュウヤ、この足場にもなる魔力の掌と手首は……<導魔術>のスキルですよね。あ、今と形が異なりますが、わたしをダンパンの手合いの者たちから救ってくれた際に用いたスキルでしょうか」
<導想魔手>についての質問をしてきた。
頷いて、
「そうだ。瞬間的なモノだったが、エンビヤは動体視力がいいな。その通りで、足下の魔力の歪な手のスキルには<導想魔手>という名がある」
「<導想魔手>……」
エンビヤは呟きながらしゃがむ。
細い指先で<導想魔手>の掌を触っている。
<導想魔手>の内部は無数の魔線。
表面に手相の線はないが、手相があったら占ってくれるような印象だ。
美人占い師に掌をツンツクされたい。
エンビヤは宙空の足場として利用できる<導想魔手>に興味津々。
そのエンビヤの項を少し見ながら、
「<導想魔手>は自由度が高い。俺にとっては超重要スキルの一つ」
「はい。攻撃、防御、移動、あらゆる場所で応用が可能な独自の<導魔術>系統のスキル?」
「そうなる」
「素晴らしい! ここまでの質の<導魔術>系統のスキルはあまり見たことがありません。<魔闘術>、<導魔術>、<仙魔術>、三種の魔技をよく学んでいる証拠! 同時にシュウヤが努力家だと分かります。尊敬します!」
<導想魔手>は個人的に研究を続けた結果でもあるから、照れる。
「……ありがとう」
そう言いながら、手を差し出す。
俺の顔を見たエンビヤは「ふふ」と笑って俺の手を掴み立ち上がる。
アキレス師匠から薫陶を受けなければ、一つの魔力の手をここまで練り上げることは到底できなかっただろう。
傍にきたエンビヤの腰に自然と手を回して、
「それもこれもアキレス師匠から教えを受け続けたお陰なんだ」
そう言うと、エンビヤは微かに頷いて、俺の腕に寄りかかりながら、
「<槍組手>と風槍流と魔技にも精通したお師匠様が、アキレス師匠様なのですね……」
「おう。アキレス師匠は生きる切っ掛けをくれた恩人でもある」
そう言うと、エンビヤは微笑み、
「……会ってみたい」
そうだな、また会いたい。
頷いた。
エンビヤの無垢な瞳が眩しく見えてしまったから、視線を逸らす。
下にいるホウシン師匠とアキレス師匠の姿が重なりながら、
「……機会があれば」
「はい!」
率直に言えば、エンビヤがアキレス師匠と会うのは難しいかもしれない。
エンビヤは暫しぼーっと俺の顔を見て、
「アキレス師匠様はシュウヤにとって、わたしのお師匠様のような存在なのですね」
エンビヤの幼い頃が気になった。が、それは言わず、
「あぁ、比べることはできないが」
と笑みを送る。
「そうですね……あぅ」
なぜか、エンビヤは声を漏らす。
頬を朱に染めつつ、どぎまぎ。
別に
そこで「悪い」と謝りつつ――。
「い、いえ」
エンビヤの腰に回していた左腕を引っ込めた。
「降りよう」
「ふふ、はい」
<導想魔手>を階段代わりに利用して降下――。
仙槍者たちの石像に手を合わせていたホウシン師匠は傍に来る。
そして、
「よもや、水神アクレシス様から仕事を頼まれる弟子を持つとは思わなんだ」
ホウシン師匠は笑顔で語る。
が、その真剣さは声質から感じることができた。
真摯に、
「俺もです。しかし、玄智の森は元々神界セウロスの
そう語ると、骨を回収していたイゾルデも寄ってくる。
エンビヤは心配そうにイゾルデを見て、俺とホウシン師匠を見てから、
「……水神アクレシス様の、神界セウロスの神様の声は生まれて初めて聞きました」
ホウシン師匠も頷いた。
エンビヤとホウシン師匠は初めてか。
当然だが、イゾルデはそうでもないって面だな。前にイゾルデは、
『神界セウロスと近いようで遠い。個人差があるといえる。〝大いなる大結界〟に傷が生まれて、
『その神々と対話が可能な仙人の種族は?』
『様々。仙人、仙王鼬族、仙武人、仙甲人、泡仙人、鴉天狗、白蛇仙人、無数だ』
と教えてくれた。
少なくとも初期の玄智の森には、仙人、仙王鼬族、仙甲人、泡仙人、鴉天狗、白蛇仙人などの種族がいて、神々と対話をできるほどの能力者が存在していたことになる。
今はそれらの種族と子孫たちを総じて仙武人と呼ぶ?
そう思考していると、ホウシン師匠とエンビヤが、
「お師匠様、玄智の森の命運を左右する事件ですから、皆に伝えましょう」
「そうじゃな、忙しくなりそうじゃ」
ホウシン師匠は体からオーラのような魔力を放出。気合い溢れるオーラの模様が般若のように見えた。
「いい気概だホウシン。我もシュウヤ様とお前たちを手伝おう。そして、これからは師父として、ホウシン様と呼ぶことにする」
拱手を行うイゾルデ。
慌てたホウシン師匠は一気に気合いが散る。
「イゾルデ……それは」
「先ほどと同じ、そのほうが良いのだ。我の師父ホウシン様、今後ともよろしく頼む」
有無を言わせず。の雰囲気だ。
正解だろう。
ホウシン師匠は皆を見てから、溜め息。
頷いて、
「分かり申した。しかし、先の水神アクレシス様との会話は心に響きましたのじゃ」
「はい、わたしも」
ホウシン師匠とエンビヤは頷き合う。
イゾルデは自身の頬を右の指で掻いた。
エンビヤは、
「祖先たちに力を分け与え続けていたイゾルデ……やはり、イゾルデ様と呼ぶべきです……わたしたちには大恩がある」
たしかに。
「うむ。イゾルデ様は気高さと無償の愛を併せ持つ武王龍神様……そして、そのイゾルデ様がいるから、今のわしとエンビヤと皆と玄智の森があるのじゃからな。更に、武王院が存続しているのも、イゾルデ様の深い後世を願う心があってこそ。だからこそ、子孫のわしたちには強い感謝しかない!」
「はい――」
ホウシン師匠とエンビヤは片膝で砂の地面を突く。イゾルデに対して深く頭を下げていた。
俺も同じ想いだ。
武王龍神イゾルデは、【神水ノ神韻儀】で自分の復活のため音楽を奏でてくれていた仙人たちのために、自らの命を分け与えていた。
それも玄智の森のため。
尊い行動だ。
そして、その行為は……亜神夫婦と同じ。だからこそ眷属となったイゾルデが誇らしい、ラ・ケラーダを送る!
イゾルデは微笑む。
「ホウシンとエンビヤよ、わたしも感謝しよう。善くぞ生きてくれた。が、何回も言うが我に頭を下げる必要はない。こそばゆいから、さっさと面を見せろ!」
少しだけ怖い表情だが優しさもある。
エンビヤはイゾルデの可愛い態度を見て少し笑っていた。
「はい――」
「――これで本当に最後としますのじゃ」
二人は立ち上がる。
イゾルデが「是非もなし」と発言すると、三人は頷き合った。
イゾルデとホウシン師匠とエンビヤの表情は清々しい。
その立ち居振る舞いを見て心が洗われる思いを得た。
目頭が熱くなっているホウシン師匠は視線を上げた。
ホウシン師匠が見つめるのは……。
俺の斜め右上の空を平泳ぎで泳ぐ腰に注連縄を巻く
その
「玄樹の珠智鐘、白炎鏡の欠片、冥々ノ享禄の三つを集めて、その三つを〝鬼魔人傷場〟で使えば、玄智の森が神界セウロスの
「しかし、使用者は……」
「うむ……」
ホウシン師匠とエンビヤは俺を見てなんとも言えない表情を浮かべた。
「いいんだ。それこそ俺の役目だろう」
「……え……」
エンビヤは動揺する。
悪いが、
「水神アクレシス様の頼みでもある」
「……それは分かりますが……どうなるか分からないのですよ? わたしは納得できません」
エンビヤが何を言いたいのかは理解できる。
「光魔武龍イゾルデと氷皇アモダルガの使役も運命的。<水の神使>の恒久スキルと<王氷墓葎の使い手>もそうだろう。更に<霊槍・水仙白炎獄師>という戦闘職業も獲得した。そして、<水月血闘法・水仙>のスキルも獲得できた」
「「おぉ……」」
「水仙系統を獲得したのか!」
「はい。水神アクレシス様との再会に、玄智聖水の法異結界の液体を得た効果もあるでしょう」
「でも……三つのアイテムを〝鬼魔人傷場〟で使った者は……」
エンビヤは怒ったようなニュアンスで俺を睨む。ホウシン師匠は頷くと、
「エンビヤよ。シュウヤが玄智の森に現れたことは偶然ではない……これは玄智の森の命運がかかった神々の事象じゃ」
エンビヤは瞳を潤ませる。
そして、俺とイゾルデを交互に見ては、瞳を潤ませ続けて、
「……はい。でもシュウヤは大切な弟弟子」
そう語る。心にくる。
エンビヤは師姐だ。
「そうじゃ。わしの直弟子でもある」
ホウシン師匠もなんとも言えない顔となった。エンビヤはすぐにハッとして、
「あ……お師匠様、すみません! 武王院の八部衆としてシュウヤに協力します。玄智の森のために!」
と力強く発言。
「良く言った!」
「うむ!」
イゾルデとホウシン師匠は頷き合う。
が、エンビヤは頷いていない。
俺をジッと見つめ続けてきた。
切なそうな表情だ。
微笑みを返す。
が、エンビヤは微笑まない。
エンビヤ……。
少し間が空いたところでホウシン師匠に、
「……白炎鏡の欠片は白王院。その入手方法には選択肢があるとは思いますが、問題は行方知れずの冥々ノ享禄。その冥々ノ享禄について、なにか目星はありますか?」
ホウシン師匠とエンビヤは直ぐに頷いた。
「三つある。最初は〝幻瞑森の強練〟。その幻瞑森は森の迷宮じゃ」
「はい。幻瞑森は背丈の高い樹ばかり。裂けた巨大神樹の一部が奥にあるとされています。瘴気が濃い場所です」
「へぇ、イゾルデは知っている?」
「それは知らぬが、推測はできる。
そう語る。
エンビヤとホウシン師匠は頷いて、
「はい。瘴気が濃い場所から奥を踏破した者はいない。そんな〝幻瞑森の強練〟には貴重な植物も多い。動物とモンスターも大量。実際に洞窟もあります。鬼魔人の住居や棲まう洞窟があるという噂もあります」
そこが一番怪しい。
武仙砦がある北側に近いのかな。
「次は〝轟雷迷宮〟。鬼魔人やモンスターが多い洞窟の中で武芸を競う大会が開かれる迷宮でもある。轟雷迷宮の最下層に到達した仙剣者と仙槍者は多い。が、最下層の轟雷の谷を踏破した存在は少ない。最後が〝カソビの仙魔杯〟。大会の時期になると鬼魔人たちの活動が活発になる」
「その三つの場所を探すとしましょう」
「そうじゃな」
「はい……」
すると、イゾルデが、
「シュウヤ様、水神アクレシス様が行方を追えない代物が冥々ノ享禄。禍々しいアイテムなら、我の体が反応するかもしれん」
イゾルデの防具の一部が動く。
龍の紋様が綺麗だが、梵字が目立つ札の形となった。
あ、ホルカーの欠片的な能力を獲得していたのか。
「魔界セブドラと関わる物なら探知できる?」
「そのようだ。強い物ほど、この札が反応する。そして、その方向に――」
イゾルデがそう語ると龍の紋様が描かれた札が離れた。
札は方向を示すように動く。
すると、小型の龍のカチューシャが前進して、その札を喰らった。
と、小型の龍のカチューシャの頭部付近に半透明な札が浮かぶ。
取り込んだのか。
そして、カチューシャは頭部を反応があっただろう方角に向けた。
<
ホウシン師匠とエンビヤは驚いて、
「鬼魔人と鬼魔人の血脈の者を追える探知スキル……素晴らしい」
「鬼魔人は潜伏スキルに優れていますが、この場所から反応しているように、強力な探知スキルと見受けました!」
「これでカソビの街の探索も容易に行えまする!」
「……その龍の頭部が向いた方向に冥々ノ享禄を持つ存在がいるのでしょうか?」
エンビヤの言葉に頷いた。
「持っていなくても、鬼魔人の強い存在がいるだろうな」
「……武仙砦の方角かもしれん」
「その可能性もあるな」
「ま、玄智の森を侵略しようとしている存在の反応だ。どのみち倒すべき存在の場所へと誘導してくれる」
「はい。イゾルデと小型の龍のカチューシャの能力があれば、冥々ノ享禄の探索も楽に行えそうですね」
エンビヤの言葉に皆が頷いた。
イゾルデは細長い腕を伸ばして、
「――我に任せろ! 玄智の森の敵は我の敵! 敵は<土龍ノ探知札>の先にあり!」
敵は本能寺にありを想起する。
金色の角と半首が似合うから、戦国武将の兜を被る女武将に見えた。
そのイゾルデに魅了されながら、
「探すのは任せる。が、冥々ノ享禄を持つだろう鬼魔人と戦うのは俺がやるぞ?」
「……承知」
イゾルデは不満そうだ。
武王龍槍イゾルデを振るう龍人イゾルデや光魔武龍イゾルデの龍として暴れる姿を見るのもいいが……。
俺も武闘派。
<闘気玄装>も学んでいる最中。
訓練を兼ねた実戦は積み重ねておきたい。
その思いは言わず、
「冥々ノ享禄を持つ存在がいたとしたら、水神アクレシス様が感知できないほどの潜伏能力を持つってことになる。だから、魔界王子ライランの眷属の可能性が高い」
皆が頷いた。
すると、
玄樹の珠智鐘を鳴らしながら出入り口を指す。
「外に出ようか」
「承知。敵の反応を潰すのだな?」
先手必勝か。
ホウシン師匠は、
「三つの場所を言うたが、そう急ぐでない。大切な玄樹の珠智鐘はシュウヤが既に持っているのだ。焦らずとも、白炎鏡の欠片も白王院にある。今は、八部衆の全員と武王院会議を行うことが先決。玄智仙境会にも話を通しておいたほうがいいだろう」
さすがはホウシン師匠。
エンビヤとイゾルデも頷いた。
「はい。魔界王子ライラン側が玄樹の珠智鐘を見張っていて、魔界王子ライラン側にとっても玄樹の珠智鐘が重要なら、奪いにくる可能性が高い」
「ふむ! その読みは正解じゃろう。しかし、シュウヤは素晴らしい洞察力を持つ……」
「はい!」
エンビヤは少し興奮している。
イゾルデは頷いてから、
「待つのもあり。だが、我とシュウヤ様とホウシンとエンビヤがいれば大概は倒せるぞ?」
イゾルデは武力に相当な自信があると分かる。が、まだ分からないことが多い。
「イゾルデの意見も分かるが、今はホウシン師匠の意見に従う」
「承知した」
すると、注連縄を巻く
玄樹の珠智鐘から凄まじい魔力を感じた。確実にヤヴァい系だ。
秘宝の極みって印象。
「神社にあるような注連縄を巻くデボンチッチ……貴重な秘宝は俺が持つべきってことなんだな?」
注連縄を巻く
ややドヤ顔のような印象だ。
その位置は相棒の定位置なんだぞ?
相棒……。
そんな淋しさを感じながら
「ングゥゥィィ」
「この玄樹の珠智鐘――」
「――クエナイ、マズソウ、アルヨ」
俺の喋りにかぶせた早口が面白い。
「喰わせないから安心しろ。玄樹の珠智鐘を仕舞ってもらう」
「ングゥゥィィ!」
ポケットの中に小さい玄樹の珠智鐘を仕舞う。すると、玄樹の珠智鐘から音が響いた。
清々しい鈴の音。
同時に薄らと霧が漂った。
その霧が俺の背中付近と足下に纏わり付く――。
ピコーン※<玄樹・霧纏>※スキル獲得※
おお、スキルを獲得した。
「霧の衣を、シュウヤ、またスキルを?」
「おう。<玄樹・霧纏>のスキルを獲得した」
「凄い!」
「……玄樹の珠智鐘がシュウヤを認めたということか?」
「そうでしょう。では武王院に戻りましょうか」
「うむ」
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