八百七十八話 鬼魔人アドオミ
◇◆◇◆
ここは玄智の森の【鬼羅仙洞窟】の奥。
平らな鬼魔仙岩の上で座禅を組む者たちが顔色を変えた。
<黒呪強瞑>を強めた者は肌に黒色の血管を浮き彫りにさせる。
角を伸ばした者は瞳の赤黒さを強めた。
その中で一番大きく反応した者の名はアドオミ。鬼魔人、魔界王子ライランの眷属だ。
「俺の<魔咒魚>が潰された」
「なんだと……アドオミ様の……」
アドオミは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべて頷く。
「貴重な銀龍の骸を……」
「……ならば、玄樹の珠智鐘が奪取されたと判断するべきか」
「あぁ、玄智聖水の作用はもう使えん」
「思えば、ヒタゾウの言葉も曖昧であった」
「……ふむ。【仙王ノ神滝】と四神に玄智聖水が溜まる地底湖の底の龍神聖域がある故に、洞窟の奥の水の法異結界に気付く存在は、武王院には俺以外いないだろうとヒタゾウは語っていたが……」
「龍神が眠る地底湖の領域は普通の存在では侵入できないからな」
「あぁ、長年学院長を務めているホウシンでさえ気付かなんだ」
「……では、地底湖の仙絶銀龍鋼仙の扉を、そのホウシンが開けたということか?」
「そうだろう。優秀な八部衆、ソウカンやモコかもしれん」
「武仙砦は隔絶している部分が多いから違うとして、カソビの街の騒乱と連動しているのか?」
「各仙境の印章を巡る戦いは頻繁に起きている。どの動きと符号するのだ? アオモギよ」
「少し前のダンパンからの報告では、幻火流のサイバイなどが多数、武王院の院生に殺されたと報告があった」
そう喋ったのはカソビの街でダンパンの傍にいることが多い鬼魔人。
獄猿双剣のトモン。
「……獄猿双剣のトモン、その情報は少し遅い。が、やはりアオモギが語るように、【仙影衆・暗部】と連携した動きと合わせて玄智山の玄樹の珠智鐘が奪取されたとみるべきだろう」
そう告げたのは鬼魔人。
香華魔槍のジェンナ。
鬼魔人にしては麗しい顔を持つジェンナを凝視するアオモギとアドオミは頷き合う。
アオモギは、
「……無纓のヒリュウは現在もカソビの街だろう?」
「そうだ。その武王院の【仙影衆】は、風王院の【風仙衆】、仙魔院の【鋼仙衆】、白王院の【白蓮衆】などの組織と、<黒呪強瞑>の秘術書〝黒呪咒剣仙譜〟を巡って揉め、死傷者が出ていた」
「最新のダンパンからの報告では、【仙影衆】と共に動いていた武王院の八部衆の数人を追った剣鬼ギラリアなどが行方不明と報告もある。やはり、それらの争いと玄智山の件は関連している可能性が高い。そして、その武王院の連中にダンパンの手下は悉く倒されたとみるべきだ」
トモン、ジェンナの他に、額に角を生やす者と黒髪を操る者と尻尾を無数に生やす者が頷き合って語る。
皆、アドオミに視線を向けた。
「……アドオミ様、どうされるのです」
アドオミは魔眼を強めて立ち上がる。
懐に片手を入れたまま、
「…… 玄樹の珠智鐘を手に入れた者が、<神降ろし>、<憑依霊装>、<召喚霊装>、<召喚闘法>などのスキルを使えた場合は――」
とアドオミは片手を上げる。その手には黒い禍々しい書物が握られていた。
更に反対の右腕を上げる。
黒々とした右腕には、鋼縄が絡む。
腕先に鋼縄でぶら下がるのは
棒手裏剣状の刃物と魔式神が備わる索撃類暗器だ。
アドオミは、索撃類暗器ではなく、禍々しい書物を見ながら、
「この冥々ノ享禄を狙ってくるかもしれん」
「では、八部衆かホウシンが、神界セウロスの神々から啓示をうけた可能性があるとおっしゃるのか」
「そうだろう。どちらにせよ我らの敵、魔界王子ライラン様の敵となる」
「「はい」」
「トモンとジェンナ。これで――【白王院】のヒタゾウに連絡を取れ」
アドオミは
口が裂けている子鬼の腕がない片足だけの姿の怪物が出現し、「「ギュベァ」」と叫ぶ。
トモンとジェンナの二人は胸元に手を当て、
「「承知した」」
と頭を下げながら、その魔神式子鬼を連れてその場を消えるように去った。
◆◇◆◇
水神アクレシス様の幻影は頭部を寄せてきた。
『「さすがは我の加護を持つ男だ」』
『はい、当然です』
水属性の頂点の神様にはお世話になっている。
ラ・ケラーダ!
『「良きかな。では水神槍アクアシェードを……」』
『あ、それは神々の約束があると思いますので遠慮します』
『「ふっ、律儀な男よな。では〝鬼魔人傷場〟は我の加護を持つ男に任せようか」』
『あ、残り二つのアイテムはどこに?』
『「白炎鏡の欠片は白王院にある。残りの冥々ノ享禄は不明だ」』
『分かりました。探してみます』
『「では、その者たちと協力して玄智の森を救うのだ。元に――」』
水神アクレシス様の気配が消えた。
腰に注連縄を巻く
すると――。
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