八百五十七話 エンビヤと玄智の森

 無名無礼の魔槍を消した。

 振り返ると、太股から血を流しているエンビヤの姿があった。

 そのエンビヤが、


「助けてくれて、ありがとうございます」

「短剣の傷か? 大丈夫か?」

「はい」

「まぁ、無事でよかった」


 そう発言してエンビヤに近付く。

 すると、エンビヤは表情を一変させた。

 美人さんの睨み。ユイを彷彿とさせる。


 そのエンビヤが、


「それ以上は近付かないでください」


 エンビヤは俺を警戒。

 槍圏内か。彼女は男に犯されそうになったから、その気持ちは理解できる。

 ましてやエンビヤにとって俺は見知らぬ相手だからな。


「警戒するのは当然だが……」

「武王院に入学するかもという言葉も怪しい」


 エンビヤは左右の手に持つ短槍の穂先を俺に向けてきた。


 両方とも短槍。

 その短槍には魔力が内包されていると分かる。

 形状は剣の部分が少し長い。

 八槍神王第七位のリコが持つ短槍と似ている。

 中国の武器なら判官筆だろうか。

 その一対の短槍を持つエンビヤに、


「まずは名乗る。武器を下ろしてくれて構わない」

「……」


 エンビヤは俺を見ながら頭部を左右に振る。

 短槍の切っ先を俺に向けたままだ。


「名はシュウヤ。夢追いの異邦人strangerと呼べるか」

「夢追いの異邦人のシュウヤ。【夢五郎スキル探検隊】の隊長でしょうか……」


 冗談で【夢五郎スキル探検隊】の名を発したが、再び聞いて、笑いそうになる。が、我慢した。


「その夢五郎スキル探検隊は冗談だ」

「そ、そうなのですね」


 俺の笑顔を見たエンビヤは釣られて笑顔を作る。

 が、すぐに視線を鋭くしてきた。

 しかし、殺気は感じない。


 彼女に、攻撃の意思はないと分かる。


『話はとりあえず聞こう。しかし、怪しいぞ?』


 という意味だと受け取った。

 俺もエンビヤの立場だったのなら、そう思考する。


 そのエンビヤは敵対勢力の調査を行っていたんだろう。


「ダンパンの勢力の背後には智恵が回る存在がいるようだな」


 頷いたエンビヤ。


「それをシュウヤが言いますか……」

「あぁ」

「シュウヤは何者なのです?」

「何者と言われても」

「……わたしは武王院八部衆の仙槍者。そのわたしを半人前と罵ってきた武芸者たちは鬼魔人の血脈が濃いであろう武芸者たち、強者たちでした。その強者たちをあっさりと倒した槍使いシュウヤの名が、玄智の森やカソビの街で広まっていないことは、どう考えても不自然。そして、【仙影衆】と連絡を取る私がシュウヤのような強者を知らないなんてことはまずない。ですから、鬼魔人衆などの意向で裏で動く存在がシュウヤである可能性が高い」


 情報網に自信があったのか。

 ホウシンさんも、弟子のことを選ばれし者で八部衆と語っていた。


 優秀なんだな、エンビヤは。

 今の状況的にエンビヤを説得する自信はあまりないが、一応説明するか。


「たしかに不自然。その点では俺もそう思う。と口ではなんとでも言えるが……真実は一つ。俺は君に取り入って武王院に潜り込むような密偵ではない。裏で絵を描く者と俺は関係ない」

「……信じられないです」

「師匠の名はホウシンさんだろう?」

「え? お師匠様を知る?」


 動揺したエンビヤ。


「おう。君の師匠のホウシンさんとは、先ほど会った。顎髭が長く、白と蒼紫と紺の胴衣が似合う渋い爺さん。ベルトのバックルは銀の月と森。森に暮らす人々と動植物の意匠が精巧だったな。小袋もあった」

「その姿は……お師匠様です」


 エンビヤは安心したような顔付きとなって武器を下げた。

 美人さんだから少し嬉しい。


「おう。信じてくれたかな?」

「あ、少しだけ信じましたが、まだ近付かないで!」

「了解。話をするとして、俺は玄智の森に土地鑑がない」

「……」


 エンビヤは沈黙する。

 まだまだ警戒はしている。

 さっきも思ったが、男から犯されそうになったし、当然か。


 だが、お師匠様のホウシンさんのことを言えば……。


「ホウシンさんは【武仙ノ奥座院】の秘宝〝武暁ノ玄智〟を俺に見せてくれた」

「えええ!?」


 エンビヤは驚いた。

 片方の短槍を落とす。


 床から小気味良い金属音が響いた。


「その時は俺も驚いた。右手に集めた魔力が球体を模ると、その球体が〝武暁ノ玄智〟の槍に変化を遂げた。螻蛄首は銀色で黒色の鋼の柄。穂先は俺の無名無礼の魔槍と似ていて、かなりカッコいい槍が〝武暁ノ玄智〟だと思う」

「……はい。まさに、秘宝の〝武暁ノ玄智〟です……【武仙ノ奥座院】を知っている方がシュウヤ……」


 エンビヤは気まずそうに語る。


「おう」

「シュウヤはお師匠様のお知り合い……」


 頷いた。


「だから……」


 エンビヤはボソッと呟く。

 そして、


「あ、お師匠様が玄智の森やカソビの街に潜ませている武王院の【仙影衆・暗部】の一人なのですか?」


 と、目を輝かせて聞いてきた。


「仙影衆も、その【仙影衆・暗部】も知らない。俺は武王院の関係者ではない。ホウシンさんと会うまでは、仙剣者、仙槍者を知らなかった」

「私たちのような存在を知らない? それはいったいどういう……」


 ホウシンさんも、


『ふむ。仙境と周辺も知らぬか。仙剣者、仙槍者になりたい者はこの世にごまんとおるのじゃぞ……』


 不思議そうに俺を見ながら語っていた。動揺するエンビヤ。

 その姿を見て地下の事象を思い出した。


 俺とヘルメが地下で会ったノームの一団。

 【ハフマリダ教団】のことを……。

 アムたちは元気かな。また会いたい。


 ハフマリダ教団が信奉する神々や礼儀を俺たちは知らなかった。

 あの時ハフマリダ教団のメンバーはかなり驚いていた。


 ハフマリダ教団のノームたちは、


『マグルはけったいな者たちだ』

『マグルは……』


 などと驚きまくっていた。


 幼子も理解しているだろう教養を理解していない存在が大人の俺ってことだろうし……異質極まりないだろう。


 ま、説明しようか。


「ホウシンさんが、俺が出現した時のことを語っていたんだが、その時の状況を聞く?」

「はい」


 エンビヤは頷く。

 いずれはホウシンさんから聞くとは思うが。


 最初は髭が長い仙人だと思ったホウシンさん。


『はて……エンビヤが<魔変則・荒芸ケケマル>を学んでいたとは……』


「と語ったんだ」

「それは仙鼬籬の伝承スキル……変身スキルです。お師匠様は、わたしがシュウヤさんの姿で戻ったと思ったのですね」

「たぶんそうだろう。『【玄智の森】の手合いの者にシュウヤのような存在がいるとは聞いておらぬのじゃが』……とも語っていた」


 エンビヤは微かに頭部を縦に揺らす。

 前髪が揺れておでこが見え隠れ。


「お師匠様もシュウヤのことを知らない……」


 ボソッと語るエンビヤは俺を見て「驚きです」と語り、不思議そうな表情を見せる。


 そのエンビヤを見ながら「そうだ。そして……」ホウシンさんの物真似をしつつ、


『……宙に水面が出現し、その水面が崩れて鏡が見えたのじゃ。鏡が見えたと思うたら、鏡は一瞬で魔力の濃い霧に包まれてしもうた。その魔力の濃い霧が晴れたら鏡は消えて、代わりに武の理合を持つ若人わこうどのシュウヤが現れていた。いきなりのことで驚いたのじゃ……ふぉっふぉっふぉ……』


 と、エンビヤに語る。

 エンビヤは笑いそうな顔付きだったが、すぐに顔色を元に戻した。


「ホウシンさんはそう語っていた。楽しそうだったな」


 俺がそう語ると、エンビヤは深呼吸をするように胸元を両手で押さえてから、数回落ち着くように頷くと、俺を見て、


「では突然現れたと? 転移陣、伝送陣を用いた?」


 転移陣はあるのか。

 伝送陣は聞いたことがないが、似たような能力か。


「似たようなものかも知れない」

「……水面と鏡に魔力の濃い霧からシュウヤが誕生したのなら、シュウヤは神々のような存在なのですか? 水神アクレシス様のような……」


 水神アクレシス様の名をここで聞くとは驚きだ。


 ということは、ここは夢魔世界だと思っていたが、神界セウロスと通じた次元世界ってことなのか? それとも同じ惑星セラなのかも知れないな。


 不思議すぎる。


「水神アクレシス様ではない。加護はあるが。俺がいた地方は南マハハイム。今も魔塔ゲルハットで眠った状態のはず」

「加護……凄い! でも、まとうげるはっとで眠っているシュウヤ? 意味が分からない」


 そりゃそうだ。


「おう。異世界に塔が聳え立つ巨大な浮遊都市が【塔烈中立都市セナアプア】だ。ま、分からないと思うからスルーでいい。一応聞くが、【夢取りタンモール】の名は知っているか?」

「知りません」

「古代タンモールに関する事柄を追う集団でありながら、夢を扱う集団なんだ」

「夢を扱う……」

「そうだ。その【夢取りタンモール】の集団は俺が率いる組織の部下となった。そのメンバーだったナミからの施術を受けて眠って、今ここにいる。と思う」

「……今のわたしが夢、幻だと? シュウヤ、大丈夫ですか?」

「まぁ、そうなるか。ナミは〝夢魔の曙鏡〟や他のアイテムと<夢送り>のスキルなどの無数のスキルを使った……だから、俺にとっては夢だと思うが、実は違うかも知れない。違う言い方なら、山荘とホウシンさんの目の前に転移したと言えば分かりやすいかな。または、意識だけ転移。精神体だけの異世界転移かも知れない」

「……」


 エンビヤの頭部には疑問符が浮かんでいる印象だ。

 構わず、


「ホウシンさんが鏡が見えたと言ったように、〝夢魔の曙鏡〟から俺が出現したことは確実。だが、本来は眠った状態が俺のはずなんだ……ここは夢魔世界だと思う。しかし、スキルが獲得可能だから、ここも現実なんだと思うが……」


 神界セウロスに近い次元が重なった異世界の一つがここ?


 アキレス師匠から玄智の森や武王院のことは教わっていない。

 ヴィーネたちからも仙境や武王院のことは聞いたことがない。


 サイデイルは一種の仙境と呼べるかも知れない。

 そして、仙境ではないが、ネーブ村は秘境だった。


 だから、何かの力で封印された玄智の森が、南マハハイム地方にあるかも知れない?


 仮に、玄智の森が惑星セラだったとして、南マハハイム地方からかなり離れた地域だろう。


 そう考えると【夢取りタンモール】は凄い……。

 夢だが次元に作用できるという可能性もある。

 あの地下オークションに出品されるようなアイテムは滅茶苦茶凄いアイテムばかりと再認識。


 エンビヤは、


「シュウヤの体は魔塔ゲルハットの建物の中で眠りながら、今、ここにいるシュウヤは体を得た精神体で、会話を行っている? 意味が分からないです」


 ま、混乱するよな。

 俺もそうだし。

 が、エンビヤは頭が良さそうだから、説明しとくか。


「……〝夢魔の曙鏡〟を使ったナミの異世界転移を促す魔法とスキルのタンモールの秘技によって……俺は、この武王院が存在する玄智の森に転移してきたとも言える。が、この玄智の森が俺がいた南マハハイム地方と同じ惑星セラの場合は、今の俺は幽体離脱中なのかも知れない。その仮定の場合、今体を得ていることが不思議だが……体を得た作用はナミや【夢取りタンモール】の技術の賜物か。水神アクレシス様の加護のお陰の可能性もあるが……」


 魔塔ゲルハットにいる俺の体から精神体だけが夢魔の曙鏡を通して転移? 

 そして、俺の精神が、だれかの体に憑依?


 鏡で俺自身の体を見ていないから、まだなんとも言えないが……腕や顔は俺のままだと思う。


 憑依はありえないか。

 水神アクレシス様の加護説が高いか?

 ……俺がこの世界でスキルを獲得したら夢は覚めるんだろうと思いたい。


「ますます分かりません。夢魔世界に異世界転移……」


 エンビヤはジッと俺を見る。


「城塞都市ヘカトレイル、迷宮都市ペルネーテ、塔烈中立都市セナアプア、魔鋼都市ホルカーバムなどの都市の名は聞いたことがある?」

「聞いたことがないです」

「南マハハイム地方も知らないよな」

「はい」

「ホウシンさんも南マハハイム地方のことを知らなかった。推測だが、ここは神界セウロスと関係したパラレルワールドかも知れない? 次元の狭間ヴェイルの世界とか」


 エンビヤはハッとした。

 そして、


「ぱられるワールドは知りませんが、神界セウロスは知っています! 〝白炎鏡の魂宝〟と白炎王山の仙鼬籬せんゆりの森が狭間ヴェイルに触れた結果、広大な玄智の森が誕生していく伝承は聞いたことがある! 水神アクレシス様といい、シュウヤは……」


 驚きだ。

 仙鼬籬せんゆりの森から玄智の森が誕生とは。


 では神界セウロスと関係した仙人の子孫が……。

 仙剣者や仙槍者たち?


 ならば武王院の関係者の中には……。

 仙王家と仙王鼬族の血脈がいてもおかしくはない。


「その玄智の森が誕生した伝承を知りたい」


 そう語りながら美人なエンビヤに近付いた。

 エンビヤは俺の行動に一瞬驚くが、口を開き、


「はい。大いなる結界に傷ができると狭間ヴェイルにも傷場が生まれる。神界セウロスと魔界セブドラの勢力がぶつかり合い、争いは激化した。その影響で傷場が更に拡がり、仙鼬籬せんゆりの一部が狭間ヴェイルと魔界セブドラの大陸と神々の血と溶け合い混ざると、他の次元へと、その森の一部が転移してしまう。そうして新たに誕生した理が〝玄智の森〟と〝仙境〟であり、〝鬼魔人傷場〟だと言われています」

「……気になる、もう少し伝承の解説を頼む」

「はい、喜んで」


 エンビヤは胸を張る。

 武王院の制服が似合う。


 ミディアムの髪形が可愛い。


「仙鼬籬を救うため白蛇竜大神イン様が白蛇聖水インパワルを放出し、水神アクレシス様が聖水レシスホロンとアクレシスの清水を振り撒き、雷神ラ・ドオラ様が雷撃ドアラソウルを繰り出して、光神ルロディス様が無数のシャイニングランサーを放ち、愛の女神アリア様が神託コーデリアを歌い、職の神レフォト様が人魂煌魔流星群を発動、正義の神シャファ様は異界の軍事貴族シルバーフィタンアス様を使用、戦神ヴァイス様、戦神アフラ様、戦神イシュルル様、戦巫女様たちが、聖槍、神槍、神剣を振るい回して大暴れ。しかし、魔界セブドラ側も、恐王ノクター、闇神アスタロト、闇神リヴォグラフ、悪神デサロビア、魔界王子ライラン、悪神ギュラゼルバン、憤怒のゼア、暴虐の王ボシアド、鳴神ハヴォス、魔元帥ラ・ディウスマントルを使う十層地獄の王トトグディウス、魔界奇人レドアインなどが加わり、その他に、荒神アズラ、荒神パグル、地底神トロド、鬼神キサラメ、戦神グンダルンなどの他の次元界の諸勢力も加わった大乱戦となった。そうして、運命神アシュラー様も傷を負うと、様々なことが起きたようですね。仙鼬籬の一部が溶けて玄智の森が誕生する下りは、少し信じられないお話ですが……」


 凄い伝承に、思わず拱手。


 しかも、正義の神シャファ様の異界の軍事貴族シルバーフィタンアス様って……マルアと<神剣・三叉法具サラテン>なども絡んでいる予感がする。


 俺が直感で選んだ夢世界のはずだが……。

 これもまた運命なのか。


「色々と奇遇なことが多い。伝承を聞かせてくれてありがとう」


 礼を言うと微笑むエンビヤは、


「はい。狭間ヴェイルと神界セウロスを知っていたシュウヤ。わたしたちの知る神々の世界を信奉しているということですね」

「そうだ。それで、〝鬼魔人傷場〟といい、先ほども鬼魔人の血脈が濃い武芸者と喋っていたが、見た目は人族風に見える。そして、エンビヤも一見は人族だが、鬼魔人の種族なのか?」

「……鬼魔人の血は入っていると思いますが、わたしたちは仙武人。院に入って武芸を学ぶ者は、仙剣者、仙槍者と昔から呼ばれています」

「へぇ、倒れている方々も仙武人?」


 頷いたエンビヤは、


「はい。鬼魔人の血脈が濃いはずですが、その範疇のはず」


 倒れている武芸者を視認。

 六眼キスマリや四眼ルリゼゼのように魔人としての四腕はない。

 皆二つの手足。

 髪は黒で日本人に似ている。


 一人の倒れている武芸者の額に小さい角が覗いていた。


「小さい角が鬼魔人の血脈の証拠か」

「はい。双角強症と呼ばれています」

「皮膚にも黒っぽい染みが多い」

「それは鬼魔人の<黒呪強瞑>。<闘気玄装>系と双璧を成す。体が強化された証拠です」


 エンビヤは<闘気玄装>系統を使えるのか。

 ホウシンさんは仙剣・仙槍の秘奥譜『闘気玄装』と言っていたが、エンビヤもまた強者の一人か。

 そのことは言わず、


「鬼魔人の血が入った証明でもある?」

「はい」


 だから<血液加速ブラッディアクセル>に対応する加速技を普通に使えていたのか。


 あ、あの笠と武器は特別かも知れない。

 回収してもアイテムボックスがないが――。

 素早く笠と武器を拾いつつ、


「ハルホンク、食べたいよな?」

「ングゥゥィィ、マリョク、アル! 喰ゥゥゥ」

「え……その肩の竜の鋼防具は生きている……」

「おう、みんな生きているから友達なんだ。って違うか」


 ハルホンクも魔竜王の蒼眼を光らせて、エンビヤを見ると、


「……ングゥゥィィ……喰ウ、喰ワレ、ノ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星ニ、吸イ込マレテ、イキテタ、ハルホンク! ングゥゥィィ、主に喰ワレテモ、イキテタ、ハルホンク! デェェアァル! ングゥゥィィ」

「ヒィィ」

「あはは、エンビヤが怖がっているだろう。名のらんでいいから、さっさと喰え――」

「ングゥゥィィ! 喰ウ、ゾォイ!」


 ゾォイの発音が面白いハルホンクと、言っちゃ悪いがエンビヤの反応が面白い。


 笑いつつ笠と各武器をハルホンクに喰わせた。


「ングゥゥィィ、ウマカッチャン!! ゾォイ!」

「よかった。表に出せるんだよな?」

「ングゥゥィィ」


 と、一瞬で、「きゃぁぁ」俺は変身。


 頭部に浪人がかぶっていた笠が出現。

 防具衣装の腰と背中に魔剣が装着された。


「ハルホンク、エンビヤが驚いているからあとでな」

「ングゥゥィィ」


 竜頭金属甲ハルホンクが肩から消える。

 そして、エンビヤは動体視力が高いか。


「すまん、尻を晒したか。尻毛の処理はちゃんとしているつもりだったが……ヘルメがいないから輝きは足らんかったかもだ」

「……わ、私……」


 と、エンビヤはなぜか胸元と股間を手で押さえている。

 制服を着ているのに、体を隠しているつもりなのか? おかしなエンビヤだ。


 気を取り直して、


「エンビヤ、安心しろ、襲わないから」


 瞬きを繰り返すエンビヤ。


「……は、はい。少し動揺してしまいました。初めて見る防具類なので……」

「驚かせてすまない。尻も見たのならごめん。で、話を変えるが、仙妖魔の種族は知っているか?」


 エンビヤは驚きつつも頷いた。


「はい、仙鼬籬から離れた一族と聞いたことがあります。それらの魔仙人たちも鬼魔人たちと同じく魔界王子ライランの勢力に加わっている……シュウヤはそれらの敵の勢力も知るのですね」

「知っている」


 俺の言葉と顔を凝視しているエンビヤは、目が輝く。


「……玄智の森を知らないシュウヤが、わたしたちの神々と敵を知っている。偶然の一致に思えないです!」


 エンビヤの表情には明るさがあった。

 小鼻が少し膨らんでいる。

 エヴァを思い出すが、感奮の感もある?


 そして、俺も同じ思いだ。

 小さい水晶に入った夢を選んだのは偶然だが、繋がっていることが多すぎる。


 そう考えると……。


 鳥肌が立った。


 その想いで、


「あぁ、ほんとだよ。が、エンビヤからしたら敵対する勢力を知る俺だから疑う要因が増えたかな。尻も見ただろうし、怪しさは増えたはずだが……」

「少しだけ疑っています。しかし、わたしを助けてくれたことは事実。お師匠様とお話をされたことも事実でしょう。ですから信じられる」

「良かった。美人さんの笑顔はいい」

「美人さんだなんて……」


 頬を朱に染めるエンビヤ。

 視線を逸らしては、また俺を見てくる。


「額面通りだぞ」

「ありがとう。素直なのですね……」


 ジッと俺を見るエンビヤ。

 頬が斑に朱色に染まっていた。


 エンビヤは美人さんだから可愛い。

 そのエンビヤに、


「<白炎仙手>の名は聞いたことがある?」

「聞いたことはないです。しかし、お師匠様や鳳書仙院、霊迅仙院、霊魔仙院などの武王院師範の方々の中には知っている方がいるかも知れない」


 <神剣・三叉法具サラテン>がいれば、詳しく聞けたんだがな。ま、それもこれもすべては俺の修業と考えよう。


 なにごともラ・ケラーダの精神だ。


「鳳書仙院は座学?」

「はい、座学が多いほうですが、実地もあります」


 なるほど。


「院生の仙槍者や仙剣者たちが修業、修行する学び舎が武王院。それが仙境の一つなんだな。他にも仙境があり、武王院のような学び舎がある?」

「あります。風王院、仙魔院、霊迅院、白王院があります。他の院も武王院と同じく仙剣者や仙槍者が切磋琢磨。玄智の森のために活動を続けています」


 武王院、風王院、仙魔院、霊迅院、白王院か。


「へぇ。それらの他の学び舎にも仙剣者や仙槍者たちが何らかの闘気系武術や<仙魔術>などの修練を重ねているんだな」

「はい」


 面白い。


「仙剣者や仙槍者の武芸を競う大会もある?」

「勿論、〝玄智の森闘技杯〟〝幻瞑森の強練〟〝轟雷迷宮〟〝カソビの仙魔杯〟など色々とあります」

「へぇ」

「皆、必死な想いがあります。しかし、その分諍い、争い、憎しみが生まれて……これはお師匠様に怒られますからあまり言いたくはないですが……仙魔院と白王院の院生には憎い奴らが多い……」


 陰湿な奴らは多いか。

 俺の知る地球にいた国際金融資本家たちを想起。


 中央銀行制度信用創造で無限に紙幣を刷り、IMFなどで世界各国の政治を支配していた。WHOも国の上層部は癒着していた者が多いだろう。

 国と国の争いは偽旗作戦が多かった。

 右も左も、いいことばかり言うSDGsぐるの仲間ばかり、すべてがぐる。

 SDGsは一見は聞こえのいい横文字ばかりだが、間違いばかりだった。

 大切な97条、最高法規中の人権規定の削除を狙う連中は本当に日本人なのか?

 

 国民主権を否定するのと同じ。

 

 緊急事態条項を推し進める連中と日韓海底トンネルを推し進める連中は売国の極みだった。

 日本人の合意で作られた経緯を知る「焼け跡から生まれた憲法草案」はいい番組だったなぁ。

 鈴木安蔵氏の憲法研究会が起草した現行憲法は真実だったが、これを隠そうとする連中は、害悪そのものだった。


 そして、人口増加や本当は寒冷化に向かう地球の環境のためならば、金儲けに走らず、真摯に一般層に説明することから始めるべきになのにグレートリセットの名の下、間違いだらけのSDGsを推し進めていた。更に、ただの風邪ウィルスのためにワクチンを打たせようと必死にワクチンパスポートを実行し、国民を羊に見立て、国民を監視しようとする支配者層。


 パンデミック条約に改憲を謳う連中はクソの極み。

 

 上から目線で、人を見下す思考しかない。

 何様なんだろうか。

 愛はないんだろうか。


 国民を馬鹿にするのもいい加減しろや。

 

 それとも『ゲノム編集』の技術が極まりクローンなどの技術で死を免れる方法を手に入れていたんだろうか。


 ウィルスは自然そのもの、免疫学が大事だった。

 

 そして、そんなただの風邪の一種に過ぎない存在を恐怖で煽り、恐怖を助長するクソマスコミ、いったいだれの指示なんだ?


 世界中をロックダウンなんて狂気の沙汰だ。


 まったくもって意味がない。

 PCR検査もウイルスの存在自体を検出するものではない。

 

 35サイクルを超えた場合には、科学的には意味が無い。

 陰性と陽性の判断は曖昧模糊あいまいもこの極み。ペテンの極みだったな。

 開発者もPCR検査は感染症の検査には使ってはいけないと言われていた。

 そんな詐欺と同じの意味のないPCR検査は、経済を止めるため仕組まれた諸悪の根源だった。そんな陽性を作り出すための機械でしかないPCR検査を暢気にわざわざ行いクラスター発生で大騒ぎとか、ただのばかじゃねぇか。ただの風邪だってのに。


 クソなマスコミの連中には真の野郎共はいねぇのかよ。

 

 国際資本がSDGs&コロナを利用するプランデミックを仕掛けているだけ。

 このような世界統一政府は人類にとって悪でしかない。


 あの当時の日本の政党は、ほぼすべて、これらの勢力だった。


 だが、権威に弱い国民は羊のまま、金塗れのクソ医者や世界連邦のいいなりで信じてしまう者が多かった。そんな日本を世界をワンワールドの名の下で管理しようとする側が腐った連中だと知らずに。

 基本的人権の尊重の重大な法律を持つ日本を敵国条項でずっと敵視している国連、世界連邦なんて信じられない。

 そして、世界的ワクチン・アクション・プランのビ●・ゲイツの2010~2020の10年計画をガーナの大統領ナナ・アクフォ-アドが暴露したが、あまり報道されることはなかった。


 諸悪の『ゲイツ財団』は日本、人類の敵だった。


 2010年にロックフェラー財団に作成されたテクノロジーと国際開発の未来についての計画書、通称ロックステップのコロナ茶番のシナリオも、まったくもって報道されず。

 そのワクチンを造っていた製薬会社のCEOは、ワクチンが身体障害を引き起こし、児童の傷害、殺害に至りかねないことを知っていて、真相を世間に知られないように、FDAに隠蔽するよう依頼した。という情報もあった。

 ワクチンとか、プラセボの当たりを引くロシアンルーレットかよ。

 ロットナンバーごと効果が異なる製薬会社ごとの実験だったんだろう。


 体からBluetoothの信号を発するやら、情報もあったなぁ。


 東京都の市議会に出ていたmRNAが僅か6時間の早さでDNA細胞内に取り込まれる逆転写がスウェーデンのモンド大学の研究論文の情報などの……。

 

 永遠にスパイクタンパクを作り続けることで、過剰な免疫誘導が繰り返されて、自己免疫疾患や癌の発生を促すとされる。


 これらの情報は、ワイドショーやニュース番組が報道すべき内容だった。 


 真実を追う者は少ない、弱者を救う者は少ない、利権で右往左往する集団ばかりだ。

 ヴェノナ文書のコミンテルンに関することの報道も極端に少ないことも異常だった。


 『静かなる戦争の為の沈黙の兵器』の書物。

 それと集団ストーカーとフラクタルな監視網を使った人類監視などの情報も出回ることは少なかった。が、徐々に日の目を見ることなっていたなぁ。


 日本の原発、空港、東京五輪の警備は、外国のイスラエルのマグナBSPが担当としていたのは、どういうことだよ。なんで、国民にちゃんと知らせなかったのか。


 地球深部探査船は海でなにをしているのか?

 人工地震は真実。各国の諜報機関はあそこで何をしているのか。

 金のため、支配するため、SNSから異なる思想を一方的に排除し、『その思想は問題在りと世間に思わせるためだけに』なりすましでワザとヤラセの問題行動を起こし、ニュースソースとなる事件を作る。更には、根拠のないデタラメを事実の如く、ねつ造記事まで書かせる。街宣右翼の中身が実はちゃんとしたニホン人ではなかったと同じノリだってことだ。

 

 俺が生きていたあの時代に……。

 本当の国士はいたんだろうか。

 スパイ防止法を訴えては、投票システムの不正を訴えた政治家はいたんだろうか。

 

 憂国の士はいたんだろうか。


 公文書改ざんや国の基幹統計改ざんする連中は、ほんとうに、にほん人だったノカ?

 電○は持続化給付金の業務委託で税金をピンハネするわ、HI○はGoToキャンペーンで不正受給とか。


 徹底的に透明性を持った投票システムを、国民が見る、国民が知れる、不正のない、不正の起きない選挙制度を作ると宣言する真の民主主義を目指すニホンの心がある政治家や政党はいたんだろうか。


 選挙に立候補することに必要な、高額な供託金は撤廃すべき事項だった。

 日本人へ不法になりすます背乗り、外国人対策や政教分離も徹底すべき事項もあるだけに難しいんだろうとは考えていた。 

 

 そして、ムサシという選挙システムは怪しさ満点だったな。

 バックドアがある。といった動画を見た覚えがある。


 ドミニオンインパワー。いかさまパワーってか。


 まさに不正投票システム。

 その選挙管理会社の株主はどこのだれか?


 外国の資本に左右されない日本人のための政治を行う、日本人のためになる政治家と政党がいたんだろうか。


 ……背乗りが横行して司法は乗っ取られていた部分があり、ひどかったなぁ。

 スパイだと分かると名誉毀損で訴えるクソな奴らとかな。


 さて、暗い昔のことは放っておいて、


「その〝玄智の森闘技杯〟で優勝すると報酬を得られる?」


 頷いたエンビヤ、


「個人戦で優勝すれば玄智宝珠札五百と<武仙玄智の頂>を得られ、更に玄智の森の誉れである【武仙砦】に赴任ができるのです! 正式に赴任が決まれば【玄智仙境会】から多額の玄智宝珠札が提供されることになります」


 へぇ、武仙砦か。

 誇らし気に語るエンビヤを見て嬉しくなった。


「その武仙砦とは?」

「北の傷場と玄智の森の境目に聳え建つ絶壁の武仙砦。玄智の森の絶対防衛の要となります」


 桃色髪の御姫様を想起。

 そう、【アーカムネリス聖王国】のアウローラ姫とシュアネ姫。北マハハイム地方の【魔境の大森林】には魔界に通じる〝傷場〟がある。


 傷場から湧く魔界の軍団は凄まじい数だった。


 ソール砦の駐在武官でもあったシュアネ姫とその一行たちは、現在もソール砦で、それらの魔界の軍団と戦い続けている?


 魔族たちとの聖戦は宗教国家ヘスリファートとアーカムネリス聖王国の一大事業みたいなものだから当然か。


 そのことを思いだしつつ、


「……傷場か。そこから現れる魔界セブドラ側の勢力は大軍の場合がある?」

「滅多にないですが……はい」

「玄智の森を狙う勢力は?」

「大いなる敵は魔界王子ライラン。配下には鬼魔人や仙妖魔など、多いです」


 魔界王子ライランか。

 何処かで聞いた覚えがある。


 とりあえず、


「質問が続くがいいか?」

「構いません」


 頷いてから、


「【玄智仙境会】とは?」

「各仙境の集まり。武王院、風王院、仙魔院、霊迅院、白王院の五つの院の集まりです」


 院ごとに特色とかありそうだ。

 そして、幻瞑森の強練が気になる。


「〝幻瞑森の強練〟で優勝すると、どんな報酬が?」

「その院とメンバー五名に対して玄智宝珠札三千が各自に支給されます」

「へぇ、玄智宝珠札が金代わり?」

「はい」

「武王院、風王院、仙魔院、霊迅院、白王院の各院は纏まって玄智の森を守っている? カソビの街とは玄智の森にあるんだよな」

「はい。カソビの街は玄智の森の中。そして、仙境ですが、その各院が各々協力するのは当然。しかしながら、他の学院長、各院生、各八部衆、各師範同士には仲が良いところと悪いところがあります。血縁と権力も関係して……」


 とエンビヤは溜め息をはく。


「仲間内で争いか。君たちには魔界セブドラ側の絶対的な敵がいるんだろう? それでも争っているのか」

「……はい」


 外に敵がいながら院同士で争いがあるのか。

 この辺りはどの世界も一緒だな。


「……武王院に話を戻すが、武仙ノ奥座院にいたホウシンさんは武王院の校長先生?」

「はい、お師匠様は学院長でもあります」

「へぇ。そんな武仙ノ奥座院にいきなり出現した俺か」

「……はい。そのことも不思議なのです」

「仙境には防御陣がある? だから転移などは普通は防ぐってことかな」


 頷いたエンビヤ。


「その通り。玄智山の麓にある武王院には〝魔防大御霊陣〟がある。〝武魂棍〟と各建物が連動する〝御霊多陣〟もある。外からの干渉は、それらの防御陣で大抵は弾きます」

「だからホウシンさんも驚いたんだな。俺に興味を抱いた理由でもある」


 〝魔防大御霊陣〟と〝御霊多陣〟か。

 学院長のホウシンさんが離れられない理由か?


 頷いているエンビヤは俺の姿を見て不思議そうな顔を浮かべた。


 すると、エンビヤは、


「シュウヤが先ほど使用していた槍が見えませんが」

「無名無礼の魔槍か」


 再び<召喚魔槍・無名無礼>を意識。

 右手に無名無礼の魔槍を出現させる。

 エンビヤはハッとして少し退いた。


「この通り、<召喚魔槍・無名無礼>で召喚が可能」


 そう発言してから無名無礼の魔槍を消した。


「……秘宝のような槍をお持ちなのですね」


 頷いた。

 そのエンビヤに、


「おう。それで、もう俺を信じていると思うから、必要はないと思うが、君の師匠のホウシンさんと会話した内容を聞くか?」

「あ、お願いします!」


 黒髪のエンビヤは丁寧に御辞儀してきた。

 もう、俺のことは疑ってないな。

 エヴァと似た艶のある黒髪で赤い紐で結ばれた髪の房が左耳のほうに流れていた。


 タイトボブの髪形。

 耳は人族系に近い。


 眼窩と睫毛のバランスが黄金比率。

 細い眉毛もいいね。

 黒色と焦げ茶色が混じる瞳。


 そして、ユイやキサラのような白い肌。

 鼻筋はスッと通っている。


 小さい唇は魅力的。

 口紅はしていないが、自然な唇の襞が非常に悩ましい。


 すっぴんだと思うが……。

 非常に肌が美しい。


 衣装も和風の制服が似合う。

 そのエンビヤを見ながら、


「話の途中で顔色を変えたホウシンさんは、『弟子がしてやられたようじゃ』と発言したんだ」

「お師匠様が、わたしの……」


 頷いて、


「そうだ。その時目の前は山荘的な環境で、背後には学校的な武王院が見えていたから少し驚いたんだ。で、俺が『そのような相手がいるのですか?』と聞き返すと……『ふむ。戦況と周辺も知らぬのか。仙剣者、仙槍者になりたい者はこの世にごまんとおるのじゃぞ……』とホウシンさんは話をされた。で、そのホウシンさんから急に『弟子を頼む』と言われたんだ」


 俺の言葉を聞いたエンビヤは頷く。


「確実にお師匠様です」

「ホウシンさんは<隠形・アブサミ>を使用した」

「納得です。だから武王院の建物が消えている」


 すると、エンビヤは『しまった』といった文字を頬に書くような表情を浮かべる。


 気まずそうなエンビヤは短槍の一つを背中に仕舞うと、


「シュウヤが『武王院に入学するかも』と語られていた言葉は本当のこと……大変失礼致しました――」


 エンビヤは片手を胸に当てて深々と礼をしてくれた。

 そのエンビヤは肩を震わせて、


「しかも命の恩人、貞操を守ってくれた武芸者に対してわたしは強い疑いを……なんて無礼な……」

「状況も状況だ。エンビヤの立場ならそう考えるのも仕方ない。そんな顔を浮かべていると俺のほうが気を病む。楽にしてくれると助かるんだが……」

「はい……」


 アイムフレンドリーを意識して、


「エンビヤは美人さんだ。さっきのような可愛い笑顔が見たい」

「え……」


 と少し驚いていた。

 あまり男慣れしてないか。


「武王院とは学び舎なんだろ? エンビヤは人気がありそうだ。俺も同じ弟子の立場なら、自然と君の立ち居振る舞いを見てしまうはず」


 エンビヤは両頬に朱の斑模様を幾つも作る。


「……シュウヤが、わたしの姿を見てしまう……」


 少し恍惚気味だ。


「おう。美人さんを見れば自然と心が弾む。優れた芸術品、絵画、良い景色を見たら感動するだろう? 可愛い動物を見たら萌えて撫でてあげたくなるし、見守りたくもなる。それと一緒だ」

「ふふ、はは、はい!」


 良い笑顔だ。

 良かった。笑顔を見ると安心する。

 同時にエンビヤに魅了された。


「先ほども言ったが、可愛い笑顔だ」

「あ、ありがとう」


 また照れたエンビヤ。

 さて、スキルを得られるだろうホウシンさんのところに戻りたいが……。


 その前に――<魔闘術>を活かして前進。


 地面に転がる短槍の武器をちょいと拝借。

 穂先の間際を持ちつつエンビヤに短槍を返した。


「あっ、すみません」

「いいさ」


 ――魔力を内包した短槍。


「いい短槍だ」

「ありがとう。宝魔槍・異風です。こちらが宝魔槍・異戦」


 俺が渡した短槍の名は宝魔槍・異風か。

 続いて、宝魔槍・異戦を見せてくれた。


「宝魔槍・異風と宝魔槍・異戦。素晴らしい武器と分かる」

「ありがとう……凄く嬉しい」


 と両方の短槍を胸元に抱く。

 二振りの硬い柄が武王院の制服を押す。


 衣服越しに潜む乳房の大きさが分かってしまうがな。


 いかん、いかん。

 ここはスキルを獲得できる夢魔世界。


 エロスキルを獲得して夢から覚めたら皆になんて言えばいいんだよ。


『ん、エッチング大魔王?』


 と、エヴァの声が聞こえたような気がした。


 まさか、エヴァは俺を触って<紫心魔功パープルマインド・フェイズ>を実行中?


 そんなエヴァの面影を感じたエンビヤを見ながら、


「ホウシンさんに会いたいんだが」

「あ、<隠形・アブサミ>ですね。お師匠様のことですから、もうじき<隠形・アブサミ>の幻術を解くかと思います」

「やはり幻術だったのか。それにしてはリアルに環境が変わりすぎて、地面も本物にしか思えないんだが……」


 俺の背後は崖だしな。


「エクストラスキルと関連すると聞いています。<仙魔術>の奥義の一つでしょう――」


 そうエンビヤが喋った瞬間――。


 先ほどのホウシンさんごと分裂した山荘の空間が出現。

 環境も先ほどの山荘の場所へと様変わり。

 苔と凹凸が多い崖だった地形。

 ここが山嶺に近い森の中だと分かる。


 <隠形・アブサミ>が解けた光景は時間が逆戻りするようで不思議な光景。


 あ、ホウシンさんだ。

 【武仙ノ奥座院】の出入り口から現れる。


「お師匠様!」


 エンビヤはホウシンさんの傍に移動した。


「うむ、良かった良かった。しかし、エンビヤよ。わしの指示を無視したな?」

「はい。すみません」


 エンビヤは項垂れる。

 ホウシンさんは俺を見て笑うと、頭を下げているエンビヤを見ながら


「……今回は許そう。そして、シュウヤ、エンビヤを救ってくれてありがとうなのじゃ」

「はい。それより、今の環境の変化を促す幻術は凄まじいですね」


 ホウシンさんは頷いて、


「玄智山の武仙ノ奥座院自体が仙境と呼べるかの」

「ホウシンさんが、大切な弟子を俺に任せた理由ですね」


 髭を楽しそうに触っていたホウシンさんは動きを止めた。俺をジッと見て、鋼のような鋭い視線となる。


「……ふぉふぉ」


 と笑っているが少し怖い。


「玄智山と武王院は守らなければならんからの」


 そう発言すると、好々爺の雰囲気を醸し出す。

 少し安堵した。


 どうにも体育館で吠えていた爺ちゃんを思い出す。

 訓練時のアキレス師匠も想起してしまった。


「しかし、わしの出番はあまりない。武王院と武仙ノ奥座院の建物自体が既に幻術陣地であるからのぅ。八部衆、各師範たちは皆強い。外で活動中の【仙影衆】の長の無纓の槍使いヒリュウは三大流派の幻火流の猛者を何人も倒すほどの腕前じゃ」

「へぇ、強者には興味があります」

「ふむ。シュウヤの仙値魔力が気になるのぅ、どれほどのモノか……」


 仙値魔力?

 すると、エンビヤが、


「守りなら他にも、武王院の防衛部隊、<仙魔術>や<魔造家>などの特異空間の術式が得意な霊迅仙院、霊魔仙院の長タイラとハマアムが担当する【霊能印・破防】の部隊もありますから」

「うむ! 武王院の奥には武仙ノ奥座院がある。ここにはわしらがいるから、安泰なのじゃ」


 頷いた。

 武王院と武仙ノ奥座院か。


 玄智の森と繋がる玄智山の一部が武王院の敷地なんだな。


「シュウヤ、礼のことじゃが、武王院に入学するかの?」

「はい」

「お師匠様。武王院会議は通さず、特例を?」

「当然じゃ。エンビヤを守る槍使いシュウヤは強い。武王院を代表する仙槍者になるかも知れん。ま、最初の仙剣者や仙槍者の位を決める〝武魂棍〟に触れてもらうがのう」

「……はぁ」

「ふぉふぉ、エンビヤ。そんな顔をしとるが誤魔化されんぞ」

「え……」

「いいから、〝武魂棍〟の儀をやってこい。仙値魔力の結果はどうであれ武王院への入学を許可することは絶対事項じゃ!」

「分かりました。ではシュウヤ、武魂棍まで案内しますので、ついてきてください」

「了解」


 と、エンビヤは笑みを見せてから振り返る。

 エンビヤは前進。

 どことなく足取りが軽い。


 姿はユイと似ているが、レベッカの後ろ姿も想起した。

 俺も前に出た。


 いい風が俺たちの体を抜けていく。

 武王院の学び舎か……。

 まさか入学するとは思わなかったが、これも面白い。


 階段を下がるエンビヤは俺を見上げていた。


 ――涼しい風を感じた。

 気持ちいい風だ。しかし、肩が軽い。


 いつもなら肩に可愛い体重を感じているはずなんだよな……が、相棒はここにはいない。


 黒猫ロロがいないのは正直淋しい。暫しの我慢か。


「シュウヤ、どうしたのですか?」

「あぁ、ごめん、行こう」

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