八百五十六話 笠を被る浪人風の男との戦い
人差し指、中指、薬指へと無名無礼の魔槍の柄を回した。
薬指と小指の間で無名無礼の魔槍の柄を挟みつつ柄を回転させる。その回転する無名無礼の魔槍を掌で掴む。グリップの感触はバッチリ。ま、柄には皮や窪みはない。
ただの黒系の金属の柄なんだが、その無名無礼の魔槍に魔力を僅かに込めた。
柄から水墨画に使われるような淡い墨の炎の魔力が湧く――。
そして、
「その【武王院】の生徒になるかもだ」
と発言。
「生徒になるかもだと?」
「カソビの街の武芸者か」
「ならばお前もダンパン様の手合いの者か?」
ダンパン? 逃げてきた女性は倒れたまま。
一人の男に背中を押さえられている。
助けるとして、
「そうだ。【夢五郎スキル探検隊】の名を聞いていないようだな?」
と冗談気味に発言。
「あぁ?」
「なんだそりゃ」
「その女は俺がもらうということだ。で、ちゃんと顔を確認したんだろうな……」
「顔だぁ? 制服と印章で十分だろうが」
「ダンパン様はそんなことは一言も」
ま、当然、俺の言動は怪しむか。構わず演技を、
「傷を付けたら、おまえたち、ダンパン様にどんな目に遭わされるか、分かっているんだろうな?」
「あぁ? 何言ってやがる……」
と、黒髪の女性の背中にのし掛かっていた男が、俺を見てそう発言。
「は、はなしなさい! ダンパンのような小汚い手合いの者に……」
「うはは、今、脱がしてやる――」
俄に全身に<魔闘術>を纏う。
正面の男と左右にいる男たちが動きを止めたことを把握しつつ――前進。
「待て――」
黒髪の女性のスパッツとスカートが合わさったような衣装を短剣で斬り破ろうとした男の背中の衣服を掴んで「なッ――」背後へと引っ張り――男を強引に「ぐあッ」倒した。
そのまま、
「こいつは俺の獲物だって言っただろうが!」
「「なんだァ?」」
「え?」
野郎共と黒髪の女性の驚く顔を見ながら――。
その黒髪の女性の腕を引っ張り、
「名はエンビヤだな?」
「あ、え? どうして私の名を!」
「ま、マジか!?」
「マジでダンパン様の使いなのか!!」
「【夢五郎スキル探検隊】は本当だったのか」
「……エンビヤ、<玄智魔覚>、<玄智・幻打殺>を使った相手はだれだ?」
そう聞くとエンビヤは目配せ。
その視線がチラッと向かった男は……。
藁の菅笠を被る浪人のような出で立ちの男か。
魔剣師か? 仙剣者&仙槍者を狙う武芸者なんだろうか。
「……エンビヤ、立てるな?」
「あ、はい」
エンビヤは俺の言葉と雰囲気から少し悟ったようだ。
エンビヤの機知は鋭い。俺が引っ張り倒した男が起き上がる。
「いてぇな。ふざけた黒髪がァア」
得物の魔剣の切っ先を向けて襲い掛かってきた。
右手が握る魔剣の蒼い切っ先を無名無礼の魔槍で受けず――。
左手の魔剣の切っ先を避けもせず――。
魔力を込めた無名無礼の魔槍を押すように蹴った――。
下から弧を描く機動で持ち上がる無名無礼の魔槍から噴き上がる墨の炎の魔力が宙に三日月を描くや、無名無礼の魔槍の柄頭が、
「ゲァ――」
と襲い掛かってきた男の顎と衝突。
男は変な悲鳴を発しつつ顎と口が潰れて空中に舞い上がった。
即座に<血道第三・開門>を意識。
<
血の加速感は変わらず――。
左手で無名無礼の魔槍を掴んだ直後――。
左足を前に出しつつ、その左手で掴んだ無名無礼の魔槍を右へと振りあげた。
無名無礼の魔槍の穂先に刻まれた『バイ・ベイ』の梵字が光る。
右で唖然としている魔剣師の男の首を、その蜻蛉切と似た穂先が削いだ。
無名無礼の魔槍の柄と穂先近辺から一瞬、仮面と毘沙門天のような残像が見えた気がした。ま、ナナシの仮面だろう。
「――グ、ギュッ」
魔剣師の男は得物を離し両手で削がれた首を押さえる。
直後、耳元に嫌な感覚――。
頭部を傾げたが耳が切られた。
――飛来してきたのはスキナーナイフか?
――<投擲>の小刀か?
一歩二歩散歩と呼ぶように三歩目で変則的な反復横跳びを実行――。
連続的に飛来してくる<投擲>攻撃を避け続けながら、時折無名無礼の魔槍の柄で弾きつつ、小刀を<投擲>してくる存在を凝視。
笠を被る浪人的な印象の男だ。
スキナーナイフと小刀が籠手に嵌まっていた。
あの腕の籠手防具から射出したのか?
黒髪の女性エンビヤは俺の斜め後方。
短槍を構えている。武器は回収したか。
エンビヤは二槍流の使い手。
と、暢気に見てはいられない。
飛来してきた小刀を無名無礼の魔槍で弾く――。
同時に足下の魔力配分を変えた。
――<魔闘術の心得>を意識。
そして、体幹と背中側へと<血魔力>を送る。
体中の毛細血管に流れる血が活性化。
熱を帯びた血流が背中の筋肉を柔らかく強くしていくのを感じつつ左手を上げた。
無名無礼の魔槍を右腕と背中で持つ風槍流の基本の構えを取りながら左手の掌をチョイチョイと引く。
「お前らは見ているだけか?」
連中を挑発。
「「かかれやぁ」」
「おらぁ!!」
挑発にのった。
魔剣を持つ者たちの眼前が刃の光で怪しく揺れる。
――<
風槍流『爪先回転』――で、突きを避けた。
続けて『爪先半回転』――で、袈裟斬りを避ける。
突きと袈裟斬りを受けず――。
無名無礼の魔槍の柄の上部を肩に当てながら、無名無礼の魔槍を左腕と左肩で上げつつ――。
左と右の武芸者の突きと袈裟斬りの連続攻撃を爪先半回転の技術で避け続けたところで、敵の振るう剣の剣速が上がった。
痛ッ――。
右腕に切り傷、魔剣の鋭い攻撃を浴びた。
痛いが仕方ねぇ。
光魔ルシヴァルとしての回復力を確認。
同時に
衣装の一部を暗緑色を基調とした防護服に変更する。そのまま自分の衣装を確認するように風槍流『案山子通し』を実行――。
肩から後頭部に通していた無名無礼の魔槍を右腕に移し替えながら――右側へと移動。
「疾い!」
「くそ、槍使いが女を奪ったのは……」
頬に傷がある男がそう発言。
「こいつを仕留めれば、済むことだ――」
そんな言葉と斬撃を無視して避けた――。
が、すぐに<豪閃>――右腕を真上に振り抜く。
ザッと音がして上昇気流が起こる。
無名無礼の魔槍の<豪閃>が魔剣を弾くと同時に男の上半身を両断せしめた。
「――ゲァァ」
俺の腕を斬った武芸者の上半身は左右に分かれた。
首を削いだ男の隣に、その武芸者だった下で繋がる二つの肉塊が倒れる。
体幹の<魔闘術>を強めつつ――。
無名無礼の魔槍を握る右腕を引いたところで、速やかに狙いの魔剣師を凝視。
魔剣師は<魔闘術>の質が高い。
その魔剣師目掛けて前傾姿勢で突進。
左足の踏み込みから右腕で魔剣師の胸を貫く手刀を繰り出すイメージで、その右腕が握る無名無礼の魔槍を真っ直ぐ突き出す<血穿>を繰り出した――。
血を纏う無名無礼の魔槍の穂先が魔剣師の胸を穿った。
雷鳴的な血流があちらこちらに飛沫する。
が、そこで頬に傷がある男が、俺に向かってきた。
――袈裟斬りか。俺は反転する仕種から――。
無名無礼の魔槍を下に引きつつ、右足で、無名無礼の魔槍の柄を蹴って跳躍――。
頬に傷がある男が繰り出した袈裟斬りを紙一重で避けつつ<導想魔手>を発動。
無事に魔力の歪な拳が出現――。
その下に向かう<導想魔手>の魔力の拳で袈裟斬りを繰り出してきた男を頭部を潰すように殴り倒した。死体が吹き飛ぶのと敵の動きを視認しつつ着地するや、無名無礼の魔槍を死体から引き抜く。と、同時に爪先半回転――。
更に左手を振るいながら右手一本の<豪閃>――。
俺の胴抜きを狙う他の魔剣師の魔剣を無名無礼の魔槍の螻蛄首が弾く。そのまま左手で「なっ左手で――」魔剣師の視界を一瞬封じると同時に僅かに前進しつつ返す蜻蛉切と似た穂先が、その男の首を薙いだ――。
風槍流『左手暗』が決まる。
短く持っていた無名無礼の魔槍の重さを実感しながら柄の握りと間合いを調整しつつ横回転。
もう<投擲>の攻撃は止まっている。
背後のエンビヤは唖然としていたが、まぁ大丈夫だろう。
問題は、<投擲>を繰り出していた笠を被る浪人風の男。
その浪人風の男は俺を見ながら後退。
退きつつも懐から得物を抜いて二剣流に移行していた。
二振りの魔剣の切っ先は鋭そう。
中段構えの無名無礼の魔槍の穂先越しに、その浪人風の男を凝視。
「……退くだけか?」
そう発言。
すっと重心を落とした。
「ちっ、見たことのない闘気系統を扱う槍使いか」
「そうだよ。で、戦わないのか?」
「カッ――」
浪人風の男は前傾姿勢で突進。
笠のせいで視線が読めない。
素早い踏み込みだ。
その二振りの魔剣目掛けて――。
無名無礼の魔槍を蹴って石突を送る。
下から弧を描く柄の石突は、浪人風の男の魔剣の柄で防がれる。浪人風の男は前進しつつ魔剣を振るい胴抜きを狙ってきた。にわかに無名無礼の魔槍の柄を上げて、その胴抜きの斬撃を防いだ。左手に移した無名無礼の魔槍の柄で返す魔剣の斬撃を防ぎつつ、反撃の<刺突>。浪人風の男は素早い。魔剣の柄で蜻蛉切の<
が、想定済み――<火焔光背>を発動。
体から出た燃えるような墨色の魔力が浪人風の男の視界を塞ぐと同時に、下段蹴りのモーションから、右手に移し替えるように横に振るった無名無礼の魔槍が、浪人風の魔剣を持つ左の前腕の内側を捕らえて、その左腕の内側から肘を派手に抉った。
「げぇ」
反転機動の右足を前に出しつつ無名無礼の魔槍の柄を右手で押し、左へと無名無礼の魔槍を振るう<豪閃>を発動。蜻蛉切と似た穂先が浪人風の男の首の右を捕らえ、その首を斜め上に斬る――浪人風の首と蜻蛉切と似た穂先からシュッと音が響いた。
笠ごと浪人風の男の頭部が斜め上の空を飛ぶ。
――よっしゃ。
すべて倒したか。
「す、凄い……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます