八百五十八話 玄智山の下りと武双仙院の二人
振り返り、武仙ノ奥座院にいるホウシンさんにお辞儀をしてから、霧が漂う階段をエンビヤと一緒に下りた。
階段の横には孟宗竹のような植物と樹木が鬱蒼と茂り、雛芥子のような花も咲く。
その竹の根元に多い花に霧は吸い込まれるように消えた。
不思議な雛芥子のような花だ。
――玄智山の麓と武王院の見晴らしはいい。
そんな孟宗竹の間を仙剣者や仙槍者たちが戦いながら器用に玄智山を上っていた。
剣戟音が激しい。武仙ノ奥座院に向かっているように見える。
仙剣者や仙槍者の幾人かが跳躍。
孟宗竹を蹴っては孟宗竹から生えている薄い葉の上を伝い歩き、薄い葉を蹴っては高々と空を舞う。軽功的な<魔闘術>は<闘気玄装>かな。
<
光魔ルシヴァル独自の<闘気霊装>でもある<水月血闘法>と似ているか。
孟宗竹と葉を軽々と跳び越える上空組の仙剣者や仙槍者は<闘気玄装>の達人級かも知れない。
中でも二人を注視した。
一人は端正な顔立ちの男、二つの魔剣、神剣か。
二剣流。
もう一人は長い黒髪の端麗な美女。
二槍流。
少しヴィーネと似ている。
エンビヤも美人さんだが、あの女性も相当な別嬪さんだ。
渋い中年の二剣使いと美女の二槍使いの二人は孟宗竹と薄い葉を踏み台にして蒼鳥の如く飛翔すると、掛け声を発して接近――。
互いの槍と剣の刃をぶつけ合う。
一瞬で四合打ち合うと、スキルを撃ち合ったのか互いに隙だらけ。
が、それはフェイクか。
二人は剣と槍の刃を煌めかせつつ半身避けの仕種のまま間合いを取った。
すぐに孟宗竹を蹴った二人は前進――。
体重の差か、間合いの差か、二槍使いの美女が先に仕掛けた。
二槍使いの美女は左右の腕を交互に突き出す。
二剣流の男は最初の<刺突>を右手の剣の剣身で弾く。
次の<刺突>は屈みながら左手が握る剣の剣身で弾いた。
二剣流の男は屈んだ姿勢から反撃。
蛇のように伸びた長剣の刃を二槍使いの美女の首下へと向けた。
二槍使いの美女は難なく、その鋭い剣の突きを避けた。
そして、左手の短槍を振るった。
穂先が二剣流の男の腹に向かう。
二剣流の男は胴抜きの穂先を、二つの長剣の柄で防いだ。
後退しつつも反動を活かすように横の孟宗竹を蹴っては、斜め下に跳躍するや、曲がっていた孟宗竹を蹴って上昇。
二剣流の男は背中から翼でも生えているような軽やかな機動で剣を振るい上げて二槍使いの美女を斬ろうと狙う。
面食らった二槍使いの美女は咄嗟に二つの短槍をクロス。
その剣戟をなんとか防御した。が、勢いは殺せず背後の孟宗竹に運ばれる。
二槍使いの美女は背中に孟宗竹が衝突し、悲鳴を上げていたが、即座に、下段蹴りからムーンサルトキックを繰り出して反撃。
二剣流の男も蹴りの連続技に驚いて退いた。
すぐに追う二槍使いの美女。
二剣流の男と二槍使いの女性は得物を幾度となく衝突させていた。
雷鳴のような音が混じる剣戟音が響く。
ぶつかり合う二人のいる空域だけ霧が晴れていた。
あれが仙槍者と仙剣者。
凄い。心でラ・ケラーダ!
交差して戦うその男の仙剣者と女の仙槍者は呼吸を整えるためか、太い孟宗竹を器用に両足で挟み合って動きを止めていた。
二人の体重で太い孟宗竹が揺れに揺れる。
映画の一シーンを見ているようだ。
すげぇ。
その二人はその僅かな休みを利用。
孟宗竹を蹴って再び離れる。
と、二つの剣の切っ先と二つの短槍の穂先を宙空でぶつけ合った。
五合、六合、七合、八合と連続的に打ち合うと顔と手足に切り傷を負う。
互角の勝負か。
すると、仙剣者と仙槍者の二人は笑い合う。
後転して孟宗竹を蹴っては遠くに飛翔する。
気迫が籠もった戦いだった。
訓練に見えない。
薄い葉と孟宗竹を蹴って飛べない仙剣者や仙槍者もいる。その仙剣者や仙槍者は孟宗竹と孟宗竹の間に格子状に結ばれた細いロープを綱渡り。孟宗竹と樹木とロープで構成されるアスレチックもある。
跳躍しては上の細いローブを掴み懸垂から一回転。斜めの太い孟宗竹に着地しては滑り降りていた。
先の二人の仙剣者や仙槍者のように身軽な皆だ。
背中に小さい丸太を背負っている若い仙剣者や仙槍者も多数いる。
走る姿を見ると修練道で激しい訓練を繰り返していたころを思い出す。
ゴルディーバの里……。
アキレス師匠たちに会いたい。
「ふふ、皆の訓練が気になるようですね」
「あぁ、あの竹を利用して戦う仙剣者や仙槍者の集団は?」
「武王院の防衛部隊の要と言える武双仙院の【武双仙・鉄羅】の部隊です。強者の二人は院長、あ、師範と筆頭院生だと思います。【武双仙・鉄羅】は主に接近戦を主体とします」
頷きつつ、
「なら、先ほど聞いた武王院の防衛部隊の霊迅仙院、霊魔仙院の長タイラとハマアムが担当する【霊能印・破防】は後衛を得意とする者たちってことかな」
「そうです。シュウヤは接近戦主体の武双仙院に入りますか?」
「そうしてくれると助かる。霊迅仙院、霊魔仙院などにも入れるのだろう?」
「はい。可能は可能ですが……」
「普通は一つに絞る?」
「はい。では、玄智山を利用した〝武仙老鶯訓練〟の見学はお仕舞いにして下に行きましょう」
「了解」
しかし、〝武仙老鶯訓練〟?
ネーミングが面白い。
飛翔の仕方がウグイスみたいだからか?
笑みを見せるエンビヤは振り向いて先に下りていく。俺も彼女の制服を見ながら玄智山を下りた。
石灯籠が左右に並ぶ階段は雰囲気がある。
そんな階段のZ字を描く踊り場で女子と男子の院生たちとすれ違う。
院生たちの制服はエンビヤとお揃い。
院生の腰巻きは太く胸の紐は細い。
それらの腰と胸元の紐と剣や槍を納めた剣帯と槍帯を結んでいた。
胸元のマークはお揃いの院生もいれば違うマークの院生もいる。
マークが違うが、同じ武王院の院生であり仙剣者や仙槍者か。
「エンビヤ、胸元のマークの意味は、武双仙院、霊迅仙院、鳳書仙院、霊魔仙院を示す?」
「あ、そうです。すみません、説明してなかったですね」
「いや、意味は分かるから、大丈夫だ」
「はい」
笑顔のエンビヤが素敵だ。
歩きながら、
「武術系統、<仙魔術>系統、玄智系統などの専門分野を学べる院は異なるということ?」
「そうです」
だろうな。と頷く。
すると、女子院生の一人が、
「あ、エンビヤ! 【仙影衆】の仕事から戻ったのね」
「うん、そう」
「さすがは武王院の八部衆の一人ね。【仙影衆】に抜擢されるなんて」
「そうでもないの。ラチはお師匠様に用でも?」
「あ、うん。<仙魔・荒風>の新修について聞こうと思って。あと、武魂棍に集まった新入生たちと師範の方が揉めてしまったの。それで急いで連絡に」
「新入生が揉め事なんて……」
「うん、だから、またね」
「あ、うん」
ラチさんは階段を上る。
俺たちは階段を下りた。
階段が終わると藪の景色は一変。
玄智山から流れているだろう小川と武王院の建物が見えた。小川の間にある小さい石橋を渡る。
自然が豊か。
日本のような四季を感じる。
武王院と玄智山は良い場所だ。
建物と建物の間を通る。
宿舎が左に広場が中央にある場所に到達。
稽古していた武王院の院生たちが集まってきた。
皆、俺をじろじろと見てきた。
「シュウヤ、周囲は気にせず、武魂棍まで案内します」
「おう」
エンビヤと広場の中央に移動した。
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