八百三十五話 エヴァの<血襲回転蹴刀>とカットマギーたちの帰還
数時間後。
カボルが休んでいた一階に集結。
左目の中にヘルメ。
ヴィーネ、ユイ、キサラ、レベッカは帰ってきたカットマギーと会話中。
「異常に足が速い子供が闘技場に?」
「そうそう。その件も含めて、烈火魔塔街のエンゴラス・ブラザーフットたち、天下覇塔闘技場を利用する闘技者たちとの交渉に少し時間が掛かったのさ」
と、カットマギーが報告中。
そして、他の皆も帰還している。
【天凜の月】に加入したてのドワーフ――。
ザフバン・アグアリッツ――。
フクラン・アグアリッツ――。
ラタ・ナリ。
エルフの――。
ラピス・セヤルカ・テラメイ。
クトアン・アブラセル。
皆、カットマギーたちの会話に参加はしていない。
アグアリッツの宿屋の家財道具の荷物整理を手伝い中だ。
そう、魔塔ゲルハットに帰還が遅れた理由。
【天凜の月】の拠点【宿り月】と魔塔ゲルハットのルートを結ぶ縄張りルートと、上界と下界を結ぶ浮遊岩の周辺の商店街のルートの見回り途中に、カットマギーが話をしているように、切っ掛けがあって一度【アグアリッツの宿屋】に戻っていたようだ。
戻ったついでに、家財道具の一切をここに運ぶための準備と、アグアリッツの宿屋があった周辺勢力との交渉で少し揉めて時間がかかっていたようだった。
そんな皆は、今も、アグアリッツ夫婦の荷下ろし作業を手伝っている。
ホールの中央に木箱を積んだ運搬機械が四つ並ぶ。
キャリーカーも多い。
馬車何台分なんだろうか。
あ、馬車と言えば……。
地下の試作型魔白滅皇高炉のある部屋には地下駐車場も兼ねられる駐車スペースがある。
フォド・ワン・ユニオンAFVなども数台置くことが可能な広い場所。
その試作型魔白滅皇高炉と中庭を結ぶ地下通路を使えば、資材搬入用の馬車を地下に運べたとは思うが、宿屋&料理屋を開く場所は、地下ではなく一階だ。
そして、ドワーフのザフバンの姿を見ると、ザガとハンカイを想起する。
そのザフバンはキャリーカーから荷物を取り出していた。
魔力を帯びた包丁か。
他にも細かな品物を抱えて……。
店の内部に運んでいる。
厨房を設置する場所は決めたようだ。
しかし、抱えている包丁と大小様々な針の数は少し呆れる量だ。
そして、包丁は分かる。長短、長さが別々の針は謎だ。
あぁ、料理用か。
魚の神経締め?
魚の鮮度を保つためにおこなう作業としては、俺の知る地球の調理文化にも古代から存在した。脳にスパイクを打ち込み破壊する。
脊髄を破壊、神経を破壊して血抜き作業など。
氷魔法などの応用も思いつくが……。
調理用魔道具も色々とありそうだ。
だとしたら、この惑星セラの魚の味もATP(アデノシン三リン酸)の残量で決まるんだろうか。
筋肉が収縮するエネルギー源、標準的な人型の知的生命体の味覚は甘味、酸味、塩味、苦味で決まると言うからな。
なにをもって標準とするのかは疑問だが……。
細かく言えば魔力があるからグルタミン酸やイノシン酸などの、俺の知る地球の旨味成分とは異なる独自のモノはあるだろう。
イノシン酸の鰹節は好きだ。
奥さんのフクランのほうは、大きい鍋をキャリーカーから取り出している。
大切な鍋か。魔力を帯びた半透明な袋に入っている。
ビニールとは違う袋。
ヴィーネが持つアイテムボックスの透魔大竜ゲンジーダの胃袋っぽい印象だ。
二人ともアイテムボックスは持っていないのか。
「包丁と鍋には強い拘りがあるって聞いたわよ」
「ん」
「ザフバンの戦闘職業は<庖宰鍋釜師>だったな」
「ん、フクランさんは<泡魔・隠包丁>。鍋も包丁も得意ってユイから聞いている」
「ザフバンは包丁を大事に扱って、奥さんのフクランは鍋を大事そうに扱っているが……二人とも両方得意なのか」
「ん、あの夫婦は包丁と鍋を使ったスキルを豊富に持つ」
「うん。二人とも包丁も鍋の扱いも凄腕らしい。それに関して、さきほどユイとキサラから色々と聞いた」
「金属のほうは楽しかったようだな。エヴァの金属の足に銀色の刃が生えたのは驚きだが」
「ん――<血襲回転蹴刀>」
と、トンファーを支えに軽く跳躍、前転したエヴァ。
後ろ回し蹴り? 胴回し回転蹴りか。
片足の踵からシミターのような金属の刃が生えていた。
メルの踵から迸る魔力の刃を思い出す。
そのエヴァは「ふふ」と笑みを見せてから姿勢を戻してトンファーを仕舞う。
ミスティは満足そうに頷いて、
「そう、新しい金属を試しつつエヴァの改良もしちゃった♪」
「改良ってか、エヴァ、新しいスキルを得たのか」
「ん、ゼクスと戦ったら、強くなった」
エヴァは可愛く語るが、改めて<
「凄い。で、その最中に血文字で?」
「うん。魔力を内包した包丁の善し悪しは分からないけど面白い」
「ん、包丁と針と鍋と秘密の塩を用いた調理法があるって血文字を見た」
「そうそう。わたしは思わずメモった」
「へぇ、針はやはり料理用か」
料理だけでなくモンスターとの戦闘にも応用は利くだろうな。
きっと、強い針使いがいるに違いない。
そう、この世のどこかに、激強い針使いの冒険者がいるはずだ。
「うん」
「遅かった理由は他にあったようだけどね」
「あぁ、カットマギーが先ほど語っていたが」
「ん、ターラベント商店街自治会の方々と烈火魔塔街のエンゴラス・ブラザーフットさんたち」
「あと、戦浮遊魔塔闘技場の闘技者ミフミ・トウゴウと闘技連盟の何名か。に、謎の子供ね」
「足が異常に速い子供なら前にチラッと見た覚えがあるな」
「うん」
と話をしていると、カボルが部屋から出てきた。
「シュウヤ殿、なにやら一階が騒がしいが……」
「おう。新入りが店を開くから、その関係だ。で、早速だが、案内を頼む、外に行こうか」
「了解した。では行こう」
カボルはホールを歩いて出入り口に向かう。
さて、相棒は――。
口笛を吹いた。
「にゃごおおおおお~」
上のほうから炎を吹いたような気合いのロロディーヌ声が響く。
魔塔ゲルハット、大丈夫か?
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