八百三十六話 クリスタルキューブの建物と梵語のsvastika※アイテムインベントリ表記あり※

 

 カボルと皆を乗せた神獣ロロディーヌは屋上に戻ってから庭園を駆ける。

 

 と、庭園にデボンチッチ的な管理人たちがパパッと出現。

 アギトナリラとナリラフリラの管理人たちは一斉に小さい腕を振るう。

 魔力粒子を宙空に飛ばす。まるで相棒と俺たちを祝う魔力花火だ。


「ンン、にゃご~」

 

 神獣ロロディーヌは庭と正門を瞬時に越えてエセル大広場も超えた。


「うは――」


 当然、カボルの声だ。神獣機動の体感はそうないだろう。

 神獣ロロディーヌの背中と頭部から出ている触手がカボルの体を支えていた。


 背後を確認。

 魔塔ゲルハットが、もう豆粒ぐらいの大きさに見えた。


 そして、パレデスの鏡十八面の側に黄黒猫アーレイ白黒虎ヒュレミを置き、カットマギーに説明した。

 

 そして、ラタ・ナリ、ラピス・セヤルカ・テラメイ、クトアン・アブラセルにも見ていてもらうように頼んだ。

 

 ミナルザンについては……。

 簡単に皆へと説明した際に小柄獣人ノイルランナーのラタ・ナリが失神してしまったが……。


 ま、大丈夫だろう。


 魔力豪商オプティマスという存在に会えればそれでいい。

 すぐに帰る予定だ。


 すると、震えているカボルは左の方角へと腕を差した。


「この方角にオプティマス様の魔塔がある」

「了解。ロロ、感覚でカボルの腕の動きは理解していると思うが、左だ」

「ンンン――」


 喉声を発した神獣ロロディーヌは体を傾ける。

 カボルが腕を差した左側に頭部を向けて旋回を開始してくれた。

 その神獣ロロディーヌはギュルッと音を立てる。

 と両翼を少しコンパクト化させた。

 続けて頭部をコンドルかグリフォンっぽい形に先鋭化させる。


「――すげぇ、頭部も自由自在なのか。そして、この加速――」


 またも驚くカボル。

 神獣機動に早くも慣れたかな。

 そのカボルが着る魔法の外套は陽を浴びても明るさが変わらない。


 半透明でところどころが透明状態。


 光学迷彩の機能だ。

 姿を隠せる外套は便利そうだ。暗殺任務で効果を発揮するだろう。

 隣にいるユイは俺と同じことを考えているように頷いた。

 

 そのカボルに向け、


「カボルはこの神獣ロロディーヌのような速度の体感は初めてか?」

「似たような加速は体感したことがある」

「ミホザの騎士団の聖櫃アーク系の飛行船、飛行艇、飛空艇などか」

「そうだ。色々な飛行船と飛行艇には乗ったことがある。しかし、外の景色を見ながらの加速体験は初めてのことだ。そして、この風をあまり感じないのは……」


 カボルは不思議そうに語る。


 と、俺の首に付いている触手手綱の先端を凝視。

 触手手綱を少し引いてから、


「ロロディーヌは飛翔する時、魔力粒子を体の外へと放出して俺たちを守ってくれるんだ」

「ほぉ、時折輝く小鳥に変化して散る魔力が、防御層を構築しているのか」

「そうだ。ロロが無意識に魔力を放出している副産物だと思うが、ま、詳細は不明だ」


 すると、相棒の触手がブルッと震えた。

 

『そら』『そら』『あそぶ』『でらっかー』『あそぶ』『はやい』『かぼる』『ばいばい』『あそぶ』『あめだま』『きんきん』『にゅーる』『う゛ぃーね』『えう゛ぁ』『めと』『しるば』『はう』『いっしょ』『あそぶ』『なかま』『さざ』『どこ』


 相棒が気持ちを伝えてくる。


『サザーはサイデイルだ』

『サザー』『いない』


「ンン」


 と少し寂しそうな喉声を発した。


「ところで、神獣ロロディーヌの加速性能が高いことは重に理解したが……これは塔烈中立都市セナアプアから離脱したのか?」


 カボルは唖然としながら外を見る。


「はい、ハイム川に出てしまいました」

「ふふ、さっき小型飛空挺デラッカーに乗って空を飛んだからね、自分も空旅を楽しみたくなったんでしょう」


 ユイがそう発言。

 ヴィーネも頷いて、


「ロロ様らしい。空を駆ける気持ちはわたしも理解できる」


 ヴィーネはヒューイの<荒鷹ノ空具>を使いこなしている。

 視界の端にいる小型ヘルメも同意するように頷いた。


『ふふ』


 先ほど一緒に空を飛んでいた小型ヘルメが微笑む念話を寄越してきた。

 水を飛ばしてヴィーネと皆の尻を輝かせようとする。

 常闇の水精霊ヘルメの神聖な水には意外な効能があるかな。


 そして、美味いんだよなぁ。

 精霊ヘルメの神聖な水はサイデイルのフルーツミックスジュース、迷宮産の黒飴水蛇シュガースネークから採れた黒の甘露水に負けていない。


 ユイとヴィーネは笑顔を見せる。

 その二人は神獣ロロディーヌの大きい耳に寄りかかっていた。


 光魔ルシヴァル剣術姉妹か。

 

 左側の耳元にヴィーネ。

 右側の耳元にユイ。


 そして、その大きい耳の毛が時々ピクピクと動いているさまが可愛い。


 すると、背後から、


「ん、あれ? セナアプアの外?」


 と言いながら身長が高く見えたエヴァが寄ってくる。

 エヴァの足下は相棒の体毛で隠されているが、足に纏った<念動力>の紫色の魔力で浮遊中だ。


 その浮いているエヴァの足下付近から湧いている紫色の魔力が、相棒の頭部の黒毛と混じっているようにも見えた。


 エヴァは、そのまま俺とハイタッチ。


 神獣ロロディーヌの頭部、足下から出た触手の肉球ともハイタッチを行う。


 ヴィーネの傍の耳元に片手を置いた。


「ん、ロロちゃん、耳を貸してね」

「にゃ~」


 その耳の縁を電車のつり革でも持つように握り、


「ん、ここから見える景色も綺麗」


 とハイム川を眺めつつ語る。

 ユイとヴィーネも頷いて、


「大河よねぇ。サーマリアの軍船が幾つも連なって右のほうに向かってる」

「はい。東ハイム川と繋がる港街を利用する軍船でしょう」

「ンン、にゃおおお~」


 空旅が好きなロロディーヌの加速は止まらない。

 

「相棒、行き過ぎだ。塔烈中立都市セナアプア以外の土地はまた今度」

「ンン、にゃごぉ~」


 相棒の空旅を楽しみたいって心は気持ちを寄越さなくても分かる。

 投げやり感満載の鳴き声を発して止まってくれた。


 しかし、凄まじい加速性能だった。一瞬で、サーマリア王国側の陸地の上空だった。


 すると銀灰猫メトも、


「ンン、にゃァ」


 と鳴いて、俺の足下に来た。

 子犬のシルバーフィタンアスと子鹿のハウレッツは背後。

 鏡の守りを任せたつもりだったが、ディアの足下だ。

 ディアは片膝を相棒の背中につけつつ子犬と子鹿の頭を撫でていた。

 まぁ、鏡は魔造虎二匹とカットマギーにも任せたからいっか。

 隣にはミスティがいる。

 餌でも上げるような素振りを見せていた。


 レベッカ、ビーサ、キサラはディアたちの前。

 神獣ロロディーヌの背中の上部辺りといえるのか。


 そして、カボルに分析されると思うが、構わず――。


 戦闘型デバイスが嵌まる右腕を上げた。

 丸い風防がお洒落な戦闘型デバイスを意識。


「ご主人様、回収した仮面の確認ですか?」

「新しいアイテムを試すの?」

「ん、黎明の聖珠仮面台に飾られてあった残りの仮面は少し気になる」

「うん。二十面相の逸話が聞ける?」

「今は見るだけだ。相棒、セナアプアに帰還だ。カボルの言うことを聞いて上界を進め」

「にゃ~」


 そして、戦闘型デバイスの真上に浮かぶアクセルマギナとアイコンタクト。

 人工知能のアクセルマギナは敬礼。

 極まった光学技術映像のアクセルマギナは、ナ・パーム統合軍惑星同盟の制服を着ている。

 足下ではガードナーマリオルスが回っていた。


 そのアクセルマギナとガードナーマリオルスの周囲に小さいアイコンとして浮かぶ無数のアイテム類をチェック。

 前の表記にも移行は簡単。

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 アイテムインベントリ 138/2390


 中級回復ポーション×73→123

 中級魔力回復ポーション×74→89

 高級回復ポーション×29→43

 高級魔力回復ポーション×20→41

 白金貨×986→956

 金貨×1133

 銀貨×542

 大銅貨×20

 魔力増幅ポーション×2→9

 帰りの石玉×11

 紅鮫革のハイブーツ×1

 雷魔の肘掛け×1

 宵闇の指輪×1

 古王プレモスの手記×1

 ペーターゼンの断章×1

 ヴァルーダのソックス×3

 魔界セブドラの神絵巻×1

 暁の古文石×3

 ロント写本×1

 十天邪像シテアトップ×1

 十天邪像ニクルス×1

 影読の指輪×1

 火獣石の指輪×1

 ルビー×1

 翡翠×1

 風の魔宝石×1

 火の魔宝石×1

 ハイセルコーンの角笛×1

 鍵束×1

 鍋料理×4

 セリュの粉袋×1

 食材が入った袋×1

 水差しが入った皮袋×1

 ライノダイル皮布×2

 石鹸×3→4

 皮布×6→5

 魔法瓶×2

 第一級奴隷商人免許状×1

 ヒュプリノパスの専用鎧セット一式×1

 魔造家×1

 小型オービタル×1

 古竜バルドークの短剣×27

 古竜バルドークの長剣×1

 古竜バルドークの鱗×138

 古竜バルドークの小鱗×243

 古竜バルドークの髭×10

 レンディルの剣×1

 紺鈍鋼の鉄槌×1

 魔剣ビートゥ×1

 処女刃×3

 ヒュプリノパスの尾×1

 フォド・ワン・カリーム・ビームライフル×1

 フォド・ワン・カリーム・ビームガン×1

 雷式ラ・ドオラ×1

 魔槍グドルル×1

 聖槍アロステ×1 ☆

 トフィンガの鳴き斧×1

 神槍ガンジス×1 ☆

 魔槍杖バルドーク×1 ☆

 セル・ヴァイパー×1

 ゴルゴンチュラの鍵×1

 フィフィンドの心臓×1

 魔皇シーフォの三日月魔石×1

 正義のリュート×1

 ハザーン認識票×1

 ハザーン軍将剣×1

 アッテンボロウの死体×1

 剣帯速式プルオーバー×1

 環双絶命弓×1

 神魔石×1

 血骨仙女の片眼球×1

 魔王の楽譜第三章×1

 夢追い袋×1

 双子石×1

 閻魔の奇岩×1

 聖ギルド連盟の割符x1

 波群瓢箪×1

 極星大魔石×1

 ガードナーマリオルス×1

 フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタル×1

 フォド・ワン・ユニオンAFV×1

 モリモンの古代秘具×1

 ダ・バリ・バムカの片腕×1

 王牌十字槍ヴェクサード×1

 ミホザの髑髏鍵×1

 ミホザの魔宝石×1

 グラナード級水晶体×1

 グラナード級軽魔宝石×1

 六幻秘夢ノ石幢×1

 虹のイヴェセアの角笛×1

 羅刹キアルホヴォスの魔宝箱×1

 溶けた魔槍ハーグリーヴズ×1

 new欠けた魔弾の射手ギル・ワグナーの石像×1

 独鈷魔槍×1

 血魔剣×1

 new獄星の枷ゴドローン・シャックルズ×1

 new魔狂源言ノ勾玉×1

 new戦極破師レジェスの腕輪×1

 デュラートの秘剣×1

 new大魔術師ミユ・アケンザの手記×1

 newアテナイの水連魔晶玉×1

 センティアの手×1

 new:トブチャのブラシ×1

 二十四面体トラペゾヘドロン×1

 newアードのナイフ×1

 鋼の柄巻×1

 new:神々の残骸×5

 new:極大魔石×1

 new:魔塔ゲルハットの支配権の証書×1

 new:タリスマン・オブ・アリア×1

 銀河騎士専用簡易ブリーザー×1

 ドラゴ・リリック×1

 new:荒魔獣モボフッドの一本角×1

 new:荒魔獣モボフッドの腕の残骸×1

 new:魔杖ラベゼン

 new:戦極破師レジェスのアンクル×1

 new:秘鋼ルアルメトタン反重力ケース×1

 new:魔王ガルソーンの兵杖×1

 new:源流・勇ノ太刀×1

 new:乱れ颪×1

 new:魔力袋×1

 new:魔杖キュレイサー

 new:夜王の傘セイヴァルト×1

 new:聖槍ラマドシュラー×1

 new:魔槍レーフェル×1

 new:霊槍ハヴィス×1

 new:魔雅大剣×1

 new:水神ノ血封書×1

 new:古代ベイオズマの魔法書×1

 new:小型飛空挺デラッカー×1

 new:黎明の聖珠仮面台×1

 new:隠天魔の聖秘録×1

 new:地底神ゲカ・オ・ババルアンの彫像×1

 new:聖魔術師ネヴィルの仮面×1

 new:古の盗魔術師イカガルの仮面×1

 new:古の風戦師フィーリーの仮面×1

 new:蒼聖の魔剣タナトス×1

 new:古の義遊暗行師ミルヴァの短剣×1

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 極めて薄いホログラム映像に羅列表示された。

 戦闘型デバイスの人工知能アクセルマギナは優秀だ。

 俺の思念を感じ取り自動的にホログラフィープログラムを一瞬で組み上げたような動きだった。

 

 そして、エセルジャッジメント魔貝噴射、アルガルベの容器、緊急次元避難試作型カプセル、龍魂雷魔犀の骨、魔金属ターグントのインゴット、ウォルフラム魔鋼の箱などはない。

 

 ミスティとエヴァが持っているはずだ。

 透魔大竜ゲンジーダの胃袋はヴィーネが持つ。

 

 傍にいるユイとヴィーネが、戦闘型デバイスの真上に浮かぶアイテムインベントリの表記を見て、


「回収していた仮面、二十面相の聖魔術師が愛用していた仮面を試すの?」

「狗尾草の飾りが付いた海松色の仮面が、古の盗魔術師イカガルの仮面。小豆色と金色の飾りがある仮面が、古の風戦師フィーリーの仮面ですね」

「今は名前だけだ」


 その僅かな間に、相棒は塔烈中立都市セナアプアに帰還。

 カボルが差していた方角に直進する。

 浮遊岩を避けて魔塔と魔塔の間を突き進み、エセル大広場が見えたところで、


「【バージオンの空門魔塔】の反対側である【ドン・アブソールの空門魔塔】の先だ。エセル大広場を越えてくれ」

「にゃお~」


 相棒は魔塔が並ぶ摩天楼の一部を越えてパージオンの空門魔塔とエセル大広場を抜けた。

 ドン・アブソールの空門魔塔を越えた。

 前方は大通りで、大通りを挟んで魔塔の商店街がズラッと並ぶ。


 下の大通りを歩く人々は多い。

 馬車と【白鯨の血長耳】の兵士たちが見えた。


 【白鯨の血長耳】の魔塔エセルハードとは距離が離れているはず。


 それか、この大通りはエセル大広場を囲っている。

 だから、ぐるりと回れば魔塔エセルハードが並ぶ魔塔の大通り前に辿りつける?


 しかし、エセル大広場を囲う魔塔は多い。

 形も様々だから探すのは大変だ。


 嗅覚に優れた相棒なら、すぐに魔塔エセルハードに着くとは思うが。


 カボルは左斜め上の方角を差す。


「セアンカル大通りとペイジンドア大通りの十字路を備えたペイジンドア広場を北に進む。そして、そのペイジンドア大通りを真っ直ぐ進んで、左側の商店街にある鋼色の魔塔の上層と最上階にオプティマス様の事務所がある」

「魔力豪商オプティマスは、その鋼色の魔塔の所有者なんだよな?」

「船の離発着場所がある上層と最上階だけを所有している。下の階層は関知していない」


 へぇ。

 皆も少し驚いていた。


「分かった。相棒、ゆっくりと進んでくれ」

「ンン、にゃぉ~」


 神獣ロロディーヌは十字路を備えたペイジンドア広場を右側へと曲がる。

 

 ペイジンドア広場には噴水と神々の石像が建ち並ぶ。

 観光名所のような場所なのか、どこかで見たことのある絵描きのドワーフに、複数の屋台がある。

 

 観光客風の冒険者たちも多い。

 観光を楽しんでいるように見えた。


 そんな広場を過ぎて、ペイジンドア大通りの真上を直進する相棒――。


 ペイジンドア大通りの左右には、魔塔が列島の如く建ち並ぶ。

 ペルネーテにも色々な建物があったが、土地ごとに建物の雰囲気が異なる。

 

 この惑星セラにも、アンドレーア・パッラーディオが出版したような『建築四書』的な本が流通しているんだろうか。


 魔塔には廊下と窓があり、窓から部屋の様子が窺えた。


 魔道具に魔力を注ぐ魔術師系の人々が働いている。

 時計、ヘッドホンのような品物をいじくる修理人たちもいた。


 机の上で羊皮紙にペンで何かを書いている人族たち。

 短剣を磨く鍛冶屋、草と草を編んでいる職人。

 階段際の店では、シュラスコのような肉を売る店があり――。


 廊下にはおでんのような食材を売っていそうな店――。


 オルガンのパイプのようなモノを重ねて魔道具を作っている職人たちがいる店――。


 貯蔵庫を守る衛兵的な傭兵――。

 首輪が付いたゴブリンのような使い魔を従えている商人が廊下を歩く――。

 宙空に水晶を浮かべて廊下を歩く魔術師たちもいた――。

 

 その廊下の端の部屋では――。

 通風口に手紙を押し込んで蓋を閉じては、どこかに手紙を送っている郵便局的な方々もいる――。


 柱と梁が鋳鉄製の魔塔の建物では、客の髪を鋏で整えている理髪店が見えた。

 リツさんのような髪結い床かな――。


 その柱と梁が鋳鉄製の魔塔の他の部屋には、巨大な鍋の中で何かを作っている薬師の方々がいる。

 複数の薬師の方が巨大な籠を持ち、『えっさほいさ』と巨大な鍋の縁に続く階段を上っては、巨大な籠を傾ける。


 籠に入っていた乾燥した草花を巨大な鍋の中に入れていた。

 リズムに乗っているように、巨大なしゃもじで鍋の具材をかき混ぜている、他の薬師の方々の動きが面白い。


 床屋の隣は、薬の工場のようだ。

 そして、さすがに商店街の魔塔、ラブホテルのような部屋はない。


 ハッスル中の方々はいない。


 次の魔塔は体育館的な道場だった。

 魔術師が魔法で浮かせた標的を、お揃いの制服を着た射手たちが放った矢で一斉に射貫いていた。


 拍手する空戦魔導師系の衣装が目立つリーダー。

 【ドジャック傭兵空魔団】のような私設の傭兵団かな。

 

 拍手していたリーダー格は機関銃のようなモノを背負っている。

 道場っていうよりは、闇ギルド兵士の訓練場?

 

 そんな左側の魔塔の一階には、お洒落なレストランが多い。

 トトリーナ花鳥のような大きい屋台を兼ねた店はないようだ。


 あ、外装が煉瓦風のパン屋もあった。

 回りが鋼色ばかりだから、少し目立つパン屋。


 すると、銀色と漆黒の渋い魔塔が見えてくる。

 カボルが、


「左の銀色と漆黒の魔塔が大商会デスマリアが持つ魔塔デスマリアだ」


 魔塔デスマリアか。

 上層の離発着場所には漆黒色の小型飛空艇デラッカーらしき乗り物が並ぶ。

 下の出入り口には、がたいのいい黒服たちが屯していた。


 大商会デスマリア。

 名前からして闇ギルド関連の大商会だと思うが……。

 【白鯨の血長耳】の会議の場には、その名と関係した強者と評議員と大商人はいなかったと思う。


 それら怪しい魔塔を五つ過ぎると、


「次の魔塔は大商会シス・グランドが所有する、朱色と鋼色の魔塔レングアルシラー。その先にあるのがオプティマス様の事務所がある魔塔ゲセラセラスとなる」

「その魔塔ゲセラセラスは他の魔塔と違う造形とか?」

「見れば分かると思うが、地下から屋上まで様々な商店が入った商業魔塔がゲセラセラス。【大商会トマホーク】も関知しない施設が商業魔塔ゲセラセラス。高層の一部と屋上だけが、オプティマス様の所有物件となる」

「【大商会トマホーク】が商業魔塔ゲセラセラスを所有しているわけではないんだな」

「そうだ。あくまでも高層と屋上の一部しか権利はない」


 神獣ロロディーヌは大通りを進む。


「もうじき商業魔塔ゲセラセラスだ。屋上には別の円筒形の黄金魔塔と一対の魔塔がある。その屋上の右側には離発着場があるから、そこに着地してくれると助かる」

「相棒、聞いたな?」


 触手手綱を少し引く――。


 微かに巨大な頭部の神獣ロロディーヌは頷いた。

 振動して足下が揺れる。


 カボルは「うぉっ――」と驚いていた。


 触手が支えているから大丈夫だが、G的なモノや衝撃は多少あるからな。

 ヴィーネとユイは慣れている。

 と思ったが、ヴィーネの顔色は青ざめていた。


 長耳は少し凹んでいる。


 やはり高所恐怖症からは抜けきれないか。

 ミナルザンも連れてきたら同じだったかもな。


 銀灰猫メトは俺の肩の上に乗っている。

 足下にはシルバーフィタンアス、略して銀白狼シルバ

 氈鹿のハウレッツも傍だ。

 

 すると、視界が開けた。

 魔力豪商オプティマスの魔塔だと理解できた。


 屋上にY字の形をした黄金魔塔か。


「着いた! あそこが商業魔塔ゲセラセラス」


 黄金の魔塔の真下には、鋼色の商業魔塔ゲセラセラス。

 

 屋上には傭兵の駐屯所もあり、尖塔が四方に建つ。

 尖塔には、弾頭格納庫と地対空ミサイルが詰まっていそうな金属の箱と細長い魔機械の棒があった。


 金属の箱は、弾頭の他にパワーセルも内蔵している?


 電気系統のケーブル類がビッシリと詰まる尖塔でもある。

 ミサイルの箱の横に連なる細長い棒はレーダーだろうか。

 魔力を放っている。


 そんな屋上の中央には円筒形の黄金の魔塔が鎮座。


 円筒形の黄金の魔塔とは地続きで植物の女神サデュラ様と大地の神ガイア様の神像が聳え建つ。


 植物の女神と大地の神が持つ杖から魔力が迸っている。


 円筒形の左右には斜めの黄金の魔塔もあった。


 神像を省けば全体的な形はY字のシンメトリー。


 幾何学と関係がある?

 魔機械と神界セウロスの神々と通じた神殿的な建物だ。

 Y字の魔塔と神像の間の三角を結ぶ魔塔の宙空には放電した魔線が迸り、その放電の作用か不明だが、クリスタルの立方体の建物が浮いていた。


 クリスタルキューブの建物の正面は硝子張り。

 天辺はルービックキューブと似ていた。


 そして、硝子張りの部屋の中に、人がいた。

 種族はソサリーか。


 あの方が、魔力豪商オプティマスかな?


 こちらを凝視するソサリーで厳つい顔。

 ホルカーバムの大樹を守り続けているマリン・ペラダスとは、また異なる顔付き。

 

 そんな魔力豪商オプティマスが棲まうクリスタルキューブの出入り口は不明だ。

 あのクリスタルキューブは、Y字を構成する黄金の魔塔と神像の魔力で浮いているのか? 


 不思議だ。

 そして、そんな中央から視線を飛空艇などが停まっている離発着場所に向けた。


 屋上の右側にある広い離発着場所には――。

 

 大きな飛行船。

 小さい飛行船。

 小型飛行機。

 海上でも運用できそうな小型飛行艇。

 

 小型飛空艇デラッカーと似た近未来バイクが多数並んでいる。

 漆黒衣装を着た傭兵たちもいた。


 乗り物と屋上の施設を守る傭兵たちか。

 傭兵たちは武器を掲げていた。


 が、各自、上司に指示を受けたのか、武器を下げていた。


「ンンン――」


 そんな離発着場所に神獣ロロディーヌは直進――。

 翼を畳みつつ華麗に着地を行うロロディーヌ。


 頭部に乗っている俺たちは微かな振動を足下から得た。

 

 相棒ロロディーヌの四肢には巨大な柔らかい肉球が備わる。


 肉球は柔らか天国。

 クッション性能を競う謎の肉球ホームラン祭りが開催されたら、MVP候補は確実なはずだ。

 鼻息を発した相棒は、皆が降りやすいように頭部を下げてくれた。


 触手で乱暴に下ろしてこない。


 さて、カボルに向けて、


「カボル、迎撃してこないところを見ると、何か信号を送っていたのか?」

「俺が帰らない時点でオプティマス様は気付いている。そして、見ていると思うが、オプティマス様が居る場所は、そこのクリスタルキューブのハウスだ」

「あぁ、普通に降りていいんだな。下の兵士たちは」

「オプティマス様が代理人レンティルを通して雇った連中だろう。優秀だと思うが、表向きの【大商会トマホーク】の名も知らないはずだ」

「分かった。皆、降りよう」

「うん、カボル、わたしと一緒に降りてもらうから」

「はいはい、ご自由に、シュウヤ殿、約束の物はあるんだろうな」


 と、カボルは俺を見る。


「白銀のカードは持っている」

「了解、では先に降りる。下の連中も武器を下げているから、へんなことをしなければ攻撃はしてこないだろう」


 頷いた。


「さぁ、降りて」

「了解――」


 ユイに促されたカボルは両手を真上に上げて降りる。

 ユイとカボルは、相棒の頭部の端に移動して、そのまま共に降りた。


 俺は首に付着している一対の触手手綱を掌でトントンと叩いてから、

 

「皆、降りるとしようか――」


 一足先に相棒の頭部から離れた。


「にゃ~」

「「きゃ」」

「ワンッ」

「グモゥ」


 神獣ロロディーヌは触手で皆を掴むと先に下ろすと同時に体を縮小させる。

 前を歩くカボルは、傭兵たちに下がるように声を発していた。そのカボルが、

「シュウヤ殿、こちらに」


 カボルはクリスタルキューブの真下に移動。

 そのクリスタルキューブは神像と黄金の魔塔から迸る魔線を吸収。

 キューブの下部から光の梯子、否、クリスタルキューブが真下に伸びて、長方形に変化すると、俺たちの目の前に硝子の扉と硝子の間が生成。

 硝子の間の床には魔法陣が生成されていた。そして、硝子の扉が開く。

 カボルは、


「ここの間から直接、オプティマス様の下に向かいます。罠はありません」

 と、その硝子の間に入る。


「皆、俺と相棒と銀灰猫メトとユイが先に入るから、あとから来てくれ」

「分かりました」

「カボル、すぐにその魔法陣は使えるようになるの?」

「一瞬で俺たちを上に運ぶだけ。すぐに使える。浮遊岩と似た魔道具だ」

「ん、待つ」

「分かった」

 

 皆、納得。俺は頷いて、

「先に行く、ユイ」

 ユイは頷いて神鬼・霊風の柄を見せた。

「了解、行きましょう」


 肩に乗った黒猫ロロ銀灰猫メトも、


「にゃお」

「ンン、にゃァ」

 と鳴いた。俺とユイは硝子の間に足を踏み入れた。

 その直後、足下の魔法陣が持ち上がる。

 そのままカボルと一緒にクリスタルキューブのある上方に向かう。


 到着したところは硝子張りの異空間。

 宇宙戦艦の司令室と神界セウロスの神々が奉られている神殿が融合しているような空間だ。


 樹木が絡む台座の横に立つのはローブを着た人物。

 ソサリーの強面。

 その人物の真上に小さいクリスタルキューブが浮いている。


 ローブを着た人物の横には、魔銃に剣が備わる武器を持つ傭兵がいた。


 傭兵は俺たちを凝視している。

 

 顎髭といい端正な顔立ち。

 さきほどは気付かなかったが、端正な傭兵は優秀な気配殺しのスキルを持つのか。

 <無影歩>系の使い手?

 今は体に纏う<魔闘術>などは達人クラスと分かる。


 チフホープ家と相対したような感覚を受けた。

 

 そして、ローブを着た人物の真上に浮かぶクリスタルキューブは、フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタル的なモノか?


 アクセルマギナは反応してないから違うか。

 そのアクセルマギナが、


「マスター、珍しい種族の方、傭兵は不可視能力インヴィジビリティを持つ隠蔽型……アンノウン・ソルジャーです」

「まぁ、そうだろう」


 そのローブを着た人物は頭部を隠していた頭巾に両手を当てて顔を晒す。

 そして、


「カボル、生きていたのですね。来客も予定にはないですが」


 オプティマスらしきソサリーが語る。

 眼光は鋭い。

 右目に片眼鏡の魔道具を装備。

 ローブは煌びやかな魔力を発している。


 カボルと同じく近未来的な装備類だろう。

 そのカボルは手元を震わせてから、


「オプティマス様、はい、理由はお察しの通り。この方々は【天凜の月】の長とその一団、光魔ルシヴァルの宗主と眷属の方々でもあります。そして、【天凜の月】の盟主の肩には、神獣と異界の軍事貴族が乗っています」


 カボルはそう発言。


「それはそれは……【天凜の月】の盟主様。初めまして、わたしの名はオプティマス・ゲセラセラス」

「初めまして、俺の名はシュウヤ。【天凜の月】の盟主です。横に立つのは【天凜の月】のユイ。俺の肩にいるのは相棒のロロディーヌ、愛称はロロ。銀灰色の猫はメト」

「にゃお」

「にゃァ」

「初めまして、オプティマスさん」


 オプティマスさんは頷いた。


「〝死の女神〟と呼ばれている最高幹部の一人ですね」


 と発言。ユイは笑顔を浮かべ、


「そう呼ばれているみたいね。それでオプティマスさん、セナアプアの豪商五指と呼ばれているのよね? 大商会トマホークの裏支配人であり、暗殺一家のチフホープ家と知り合いとか」


 と聞いた直後、剣呑な雰囲気となる。

 オプティマスさんの横に立つ傭兵が銃剣の角度を変えた。


 ユイは即座に<ベイカラの瞳>を発動。

 その瞬間、背後からぞろぞろと皆が到着。


「あ、交渉中?」

「魔力豪商オプティマスの家がクリスタルキューブとは……」

「横の傭兵はわたしたちと戦うつもりなの?」


 とレベッカが聞くと、オプティマスさんの横に立つ傭兵が、


「オプティマス様……いいのですか?」

「いいのです。レザアルはそのまま待機。カボルも理由があってここに連れてきたのでしょうから」


 その様子を見て聞きながら、周囲を見る。

 植物の女神サデュラ様と大地の神ガイア様の石像が右に並ぶ。

 卍の形のマークが至る所に浮き上がっている。

 梵語のsvastika。吉祥(キチジョウ)の印。

 

 地球の古代文明でも至る所に卍のマークはある。

 右巻き、DNAとか? 一種の宇宙的なメッセージシンボルかな。


 そして、小さいが、魔塔に備わる巨大な像よりも特別な石像か?


 魔機械のクリスタルが嵌まる魔矢と魔銃が連結された魔機械がある。

 

 フォースフィールド投影装置と樹木が構成する巨大ディスプレイには外の様子が数カ所映っている。

 そして、オプティマスさんと焦るカボルの表情を見てから――。


 アイテムボックスから魔力袋を出して、その袋から白銀のカードを取り出した。

 オプティマスさんは白銀のカードを見て顔色を変える。

 

「それは……」

「白銀のカード。ミホザの騎士団と関係した聖櫃アークの飛行船の鍵。または、同じような聖櫃アークがある遺跡の扉を開けることが可能な鍵のカードでしょう?」

「そ、その通りですが……その引き換えに何を……」

「オプティマスさん、カボルと約束したんですよ。貴方と会えるなら、これを渡すと――」


 白銀のカードを差し出した。

 目を見開くオプティマスさんは、


「価値を知りながら、約束を守るために……理解しました。では友好の印として受け取りましょう」


 オプティマスさんは白銀のカードを受け取った。

 

「察しが早くて助かる」

「ふふ、勿論ですよ! では早速、なにがお望みでしょうか。第一世代のミホザ星人が残したレアパーツ類でしょうか? それとも魔力豪商オプティマスとしての伝でしょうか」


 と聞いてくる。

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