八百三十四話 小型飛空艇デラッカー
相棒ロロディーヌと銀灰猫のメトは一足先に餌を食べ終えて顔を洗っている。
少し遅れて黄黒猫のアーレイと白黒猫のヒュレミも餌を食べ終えた。
四匹は揃った動きで前足で頭を掻くように顔を洗う。
同時に前足の裏側を噛み噛みし始めた。
指球と指球の間の毛を食べているように見えるが、足の裏の掃除だろう。
ついでに掌球もペロペロと舐めている。
その、肉球をもぐもぐと噛む口と、前足の指と爪の動きが妙に可愛い。
アーレイは、ベンガルか、トイガーという猫種に似ている。
ヒュレミはゼブラ模様でオーストラリアンミストの猫種かな。
ま、四匹とも巨大化したら虎魔獣なんだが。
すると、ヘルメが指先を伸ばして、
「お水を上げます~」
「にゃお~」
「ニャァ」
「ニャォ」
「にゃァ~」
皆、ヘルメの指先から水を飲ませてもらっていた。
「ワンッ」
「グモゥ」
「はいはい~」
寄ってきたシルバーフィタンアスとハウレッツにも水をプレゼントしている。
子犬と子鹿も尻が輝く。
黒猫ロロ――。
銀灰猫のメト――。
黄黒猫のアーレイ――。
白黒猫のヒュレミ――。
皆、尻が輝いた。
そして、可愛いシルバーフィタンアスの子犬とハウレッツの子鹿に向けて――。
保存箱の入っているカソジックとササミの餌の匂いを嗅がせてみた。
両者とも一口食べただけで、カソジック&ササミの料理は好みではないようだ。
そのまま皆と一緒に旭日を眺める。
「ニャア~」
「ニャオ~」
二匹は大きな黄黒の大虎と白黒の大虎となる。
「ワンッ、ワンッ、ワンッ――」
「グモゥ、グモゥ、ブボウゥ――」
シルバーフィタンアスとハウレッツも大きくなる。
大きな四匹は意志が通じたように庭園を走り回った。
はは、楽しそう。そして、今日の旭日は気持ちが良い。
が、一応は、
「アーレイ、ヒュレミ、シルバーフィタンアス、ハルレッツ、植物園の硝子は破るなよ?」
「ンン――」
相棒が足下に来た。
「皆の運動会に交ざらなくていいのか?」
「にゃ」
頭部と胴体を、俺の両足の脛に当ててくる。
脹ら脛にも頭部を擦るように当てると、俺の両足の間を何回も行き交う。
「にゃ」
「遠慮せず、甘えていいんだぞ?」
「にゃァ~」
俺の左足に頭部をコツンと優しくぶつけてきた。
すると、アーゼンのブーツの爪先に頭部と背中を衝突させるように一回転。
転けているような印象だが、
「メト、腰は大丈夫か?」
「にゃァ~」
隣の巨大な植物園を見てから、上を見る。
小型飛空艇デラッカーを試そう。
「皆、上の小型飛空艇を試す」
「うん」
「わたしも気になってた」
「ンン――」
「にゃァ――」
右肩に
自動的に出現した白銀の衣装は消えたので、
肩の定位置に着地はせず、俺の頭部に着地。
「にゃご~」
とドヤ顔?
少し足の爪が痛いってことは告げない。
「
「ふふ、でも、小型飛行艇はちゃんと動かせるの?」
レベッカがそう聞いてくる。
人差し指と中指で挟んだ鋼のカードを宙に泳がせつつ、
「既に浮いているんだ。小型オービタルの応用でいけるさ――」
と鋼の質感のカードを持ったまま跳躍――。
「ンン――」
相棒がカードに反応しているが戯れはしない。
――宙空に<導想魔手>を生成。
その<導想魔手>を足場にして、再度、高く跳躍した。
また<導想魔手>を足下に作っては、その<導想魔手>を蹴って方向転換――。
飛翔するような機動で小型飛空艇デラッカーに近付いた。
小型飛空艇デラッカーは微かに魔力粒子を放出中だった。
エンジンは起動した状態で小型飛空艇デラッカーは浮いている。
見た目は小型オービタルや近未来型バイク。
フロントフォークと一体化したような操縦桿はチタンのような金属でグリップが意識されている。小型オービタルのほうが先鋭的だが、まぁ『AKIRA』系なのは確実か。
ハーレーっぽい部分もある。
バイクフレームもチタンかカーボン系。
シートは黒革で、近未来風。
ダブルシート、グラブバーを備えているから、三人は乗れるかな。
大本は遊星ミホザの知的生命体の第一世代が
エセル界のエセル人が造った?
地下オークションに出品されていた翼人は魔機械を扱うようには見えなかったが、貝殻的な魔機械は多い。
迷宮都市の宝箱って線もあるか。
V型4気筒っぽいエンジンが納まるバイクフレームの装甲は正面と横だけ頑丈そうな鋼か。
他は熱対策用か速度を出すためかメッシュ穴が多い。
小さい穴から魔力の源のエンジンと燃料装置の内部が見えた。
貝殻の歯車が見える。
クラッチスプリングもあるようだ。
上の操縦桿にレバーはあるが……タイヤはないから違う魔力機関のブレーキ機構かな。
小さいギアボックスもある? クランクシャフト?
重りとバランサー? なんらかの回転運動を備えた貝殻か?
空中浮遊のための横側の魔力噴出機構か?
空気とガソリンを混ぜる気化器のキャブ、インジェクションらしき部分は喉的に絞った筒でベンチュリ効果の流体力学がありそうな噴出機構だが、見た目が貝殻に近い。
表面には極めて小さいカーボン系の札も貼ってあるし不思議。
サスペンションを兼ねた魔法のスクロールか?
不思議な効果でベルヌーイの定理など、エネルギー保存の法則を超える仕組みがありそうだ。
オーバーホールしたら、空中機動を活かすための部品としての機能が分かるんだと思うが……俺には無理そうだ。
ザガとミスティなら可能なのかも知れない。
エンジンと燃料装置から繋がるマフラー的な魔力推進装置には一対の噴射穴がある。
その魔力推進装置には貝殻と機械が融合したような噴射孔が複数あった。
タイヤはないが、魔貝噴射を活かす機構か。
ま、乗り物に変わりはない。
その小型飛空艇デラッカーを跨ぐ。
操縦桿の中央にタブレットと窪みとメーターが備わる。
窪みに鋼のカードをさし込むと一瞬で窪みの回りから液体金属が出た。
一瞬で鋼のカードが操縦桿と融合すると魔力が周囲に噴出する。
左手はクラッチ的、右手にアクセルとブレーキがある。
右足のペダルはブレーキのような役回りだろうか。
もうエンジンは掛かっているからアクセルを少し回す――。
ドッとした勢いで前進――。
「にゃぁぁ――」
「にゃァァ――」
おぉぉ――加速が凄い――。
メーター的な数値の魔法文字がぐんぐん上がる。
楽しい――。
ステアリングを横に傾け――ぐわっと右側に――。
ヒャッハー――。
空中サーフィン機動――。
が、あまり速度は出さず――。
ブレーキだと思う部分、クラッチを切るとか必要?
ブレーキは右手と足のペダルが必要なのかな。
そこまでバイク機動ではないだろうと思うが――。
とりあえず、同時に押し込む。
急激に小型飛空艇デラッカーは止まった。
再び右手を少し回してアクセル――。
一気に加速、ターン――。
魔塔ゲルハットが斜め下に見えた。
改めて巨大な魔塔だと確認。
少し先に、大通りを挟んでエセル大広場が見えた。
さて、直進――。
魔塔ゲルハットの屋上の庭園と右側にある巨大な植物園を見ながら――。
小型飛空艇デラッカーに乗りながら皆の近くに向かう。
速度を落として、庭園の中で急ストップ――。
「ただいま」
「ん、おかえり!」
「小型飛空艇デラッカーは速かった~」
「操作は一瞬で? マスターは器用!」
「小型オービタルとそう変わらない」
「にゃお~」
「にゃァ」
「ご主人様、楽しそうでした。ロロ様もメトも楽しかったようですね」
「おう、面白い。小型オービタルは地上用だから、<邪王の樹>を用いずに空を自由に飛べるのはいい。今度一緒に空を満喫するか? 静止もできるなら、かなり楽しめる」
そう語ると、ヴィーネは満面の笑み。
「はい、ご一緒に」
「ん、空デートならわたしも行きたい」
「そうだな。セナアプアには無数の浮遊岩があるから楽しいか。なんなら、今、小型飛空艇デラッカーに乗ってみる?」
「ん」
頷くエヴァ。
「なら、跨がってみ」
「分かった――」
エヴァは魔導車椅子を消して金属の足になる。
と、俺の背後、小型飛空艇デラッカーに跨がった。
「あ、わたしも」
「おう、ユイもカモーン」
「やった!」
ユイは前に乗る。
すると、
「「ンン――」」
相棒と
「ヴィーネ、ミスティ、キサラ、レベッカ、ヘルメ、少しの間、留守番だ」
「うん?」
「閣下、わたしも行きます」
「ご主人様、空は飛べますが」
「はい、どうせなら一緒に空を舞いますか――」
キサラはそう語るとダモアヌンの魔槍に跨がり先を飛翔――。
「ふふ、じゃ、わたしもお先~」
レベッカも駆けると宙を飛翔。
あ、魔靴ジャックポポスを履いていたな。
と、ヴィーネ、ミスティ、ヘルメも飛翔。
ヴィーネは<荒鷹ノ空具>。
ミスティはゼクスの右肩――。
ヘルメは水飛沫を体から発していた。
「ん、シュウヤ、レベッカを追い抜いて!」
腕を差すエヴァの仕種が可愛い。
「おう」
「にゃおお~」
ユイの傍にいる黒猫ロロディーヌは触手の一部で空とレベッカたちを差す。
「よし、行こうか――」
「うん!」
ユイの腰に片手を回す。
「あ……」
「にゃ!」
ユイは少し嬉しそうな声を発して寄りかかってきた。
エヴァも「ん――」俺を抱くように胸を押し付けてくる。
「ンン、にゃァ」
首筋が擽ったい
エヴァの<念動力>が包む
そのままユイとエヴァのサンドイッチを楽しみつつハンドルを傾け――。
アクセルを回した――。
右斜め上に浮上しつつ加速する――。
――あっという間に空の上だ。
やはり、空旅は楽しい――。
魔塔ゲルハットから離れた。
真下はエセル大広場――。
「ん、速い!」
「わわ――シュウヤ、少し怖い!」
「はは、安心しろ――」
ユイは俺の片腕をギュッと掴む。
そのユイの体の温もりから可愛さを感じた。
勿論、背後のエヴァもめちゃ可愛いが――。
今は操縦を意識――。
ヴィーネとレベッカとミスティたちの横に付いた。
大型のゼクスの足下と両手から魔力噴射が起きている。
肩の部分にはミスティ自身が座るシートができていた。
ヴィーネと目が合うと華麗に横回転。
ヒューイの翼から「ピュゥ」と音が聞こえた。にしても翼が似合いすぎる。
カッコいい。
が、ヘルメから水鉄砲を受けたヴィーネはお尻が見事に輝いた。
「あはは、見事な水鉄砲~」
「はは、精霊様は面白すぎ!」
「ふふ」
ユイとエヴァが笑う。
飛翔しているレベッカが宙空で上下にターン。
パンティが見えたが、魔靴ジャックポポスの操作に慣れたようだな。
蒼炎を纏いながら飛翔する姿は可憐だ。
レベッカなら飛行術の魔法書を覚えてもスムーズに飛翔できそうだ。
猫好きのビロユアンは、無事にルシュパッド魔法学院で飛行術の魔法書をゲットできているんだろうか。
「にゃァ~」
「にゃ、にゃ、にゃおおおお」
ユイが抱く
暫し、皆と空を楽しんだ。
◇◇◇◇
尻を輝かせている皆を連れて――。
魔塔ゲルハットの庭園に戻ると、ミナルザンと魔造虎と異界の軍事貴族が出迎える。
「ニャアァ」
「ニャオォ」
巨大虎の二匹は迫力がある。
「ワン!」
「グモゥ」
と、子犬と子鹿に姿を戻しているシルバーフィタンアスとハウレッツ。
隻眼のミナルザンは……。
「……シュウヤハ、天蓋ヲモ支配スルノカ……」
「ミナルザン、空は支配していない。惑星セラに、地上に天蓋はない。昼と夜。地下もだが空には魔力と大気があるし、宇宙的な空間もある」
「……暁闇ノ天蓋ハ……不思議ナノダナ……」
ミナルザンへの説明は難しい。
ま、もう少ししたら慣れるか。
エヴァとユイは先に小型飛空艇デラッカーから降りた。
俺も降りる。
「シュウヤ、小型飛空艇デラッカーの操作は楽しそう、触っていい?」
「おう」
レベッカは小型飛空艇デラッカーの操縦桿を触る。
そのレベッカのプラチナブロンドの髪が揺れた。
「跨がってみればいい」
「うん――」
レベッカは玩具を得たような表情だ。
そのレベッカをアシストするように、
「右手側のハンドルを回すと速度が出る。左手側と右手側にはブレーキがある。足もたぶん後部から魔力噴射を起こすブレーキ機構だ。まぁ、操作は止めたほうがいい。加速しすぎて植物園に衝突とかなったら大変だ」
「うん、難しそう。今度一緒にわたしも操作して?」
「おう、ってレベッカを操作か」
「ふふ」
「ん、エッチなレベッカ!」
「いいじゃない。空でさっきイチャイチャしていたのは見ているんだから」
「はい、できれば、わたしも操作をお願いします」
「そうですね。シュウヤ様の絶妙なハンドリングマッサージは最高です」
キサラは真面目に語る。
「まぁ、マッサージには自信がある。さ、ペントハウスに戻ろう」
「うん、御業は百六十とかなんとか」
「ん、ときどきびっくりする手技がある」
「はい、肩もみから腰に、胸までも、優しく労ってくれます」
「マスターは……」
「シュウヤ様は……いっぱい……」
皆、女子会的なエロ会話に発展しているから、ミナルザンとアイコンタクト。
「皆、熱心ニ、語ラウ……」
「気にするな……さて」
小型飛空艇デラッカーはアイテムボックスに入るかな。
と、小型飛空艇デラッカーを触りつつ意識した瞬間――。
右腕の戦闘型デバイスのアイコンの中に小型飛空艇デラッカーらしきアイコンが新たに誕生。
小型オービタルと似た印象。
戦闘型デバイスの中に格納できた。
そのまま動物たちとミナルザンを誘導して、ペントハウスに戻った。
「ンン――」
ソファの上でくるくると回りつつ座る。
横座りしながら皆を見る
「ロロ、いつもと違う空散歩は楽しかったか?」
「ンン、にゃお~」
楽しかったらしい。
四匹の猫が集まって、互いの腹と太股を枕にしていた。
少し大きい
相棒は三匹から一番愛を受けている状態だ。
重そうに見えるが、ま、
子犬から成犬の姿になったシルバーフィタンアスは窓際。
子鹿のハウレッツは――。
ミスティの後にくっ付いて腰にぶら下げる羊皮紙の束を食べていた。
「あぁあ、メモった羊皮紙を――」
「山羊ではないが、子鹿も紙を食べるのか?」
「鳥肉と魚はあまり好みではないようだからね」
すると、レベッカが、シルバーフィタンアスの前で、
「シルバーちゃん。佃煮、卵菓子ティラード、パイ、サウススター、トトリーナ花鳥の調合魔塔肉詰め合わせ野菜サンドを食べる? トトリーナハーブアイスティーもある」
「ワン!」
シベリアンハスキーの前に置いた食品を選ぶように鼻をクンクンさせたシルバーフィタンアス。
魔薬探知犬を想起。
犬だけに、嗅覚は
シルバーフィタンアスはトトリーナ花鳥の肉を選択。
頬張るように食べていった。
魚や鳥肉より、モンスターの肉が好みか。
「ふふ、よかった。シルバーフィタンアスちゃん、いっぱい食べてね」
「ワン!」
食べかけの肉を少し飛ばしつつ返事を行うシルバーフィタンアス。
可愛い。
レベッカは、
「シルバーフィタンアスちゃんも可愛すぎる!」
と萌えていた。
シルバーフィタンアスは気にせず、肉をもぐもぐ食べていた。
レベッカは満足そうに頷いて、俺たちに、
「さ、皆とシュウヤも朝食~」
「お、ありがと」
レベッカからトトリーナ花鳥のサンドイッチをもらい、各自が持つ食料を分け合う。
ふりかけ的にセリュの粉をかけたら美味しいかもと出した。
が、十分に下味と香辛料がかかっているから余計だった。
本格的な『ネーブ村の魚介鍋』でもないし、当然か。
サイデイルのフルーティミックスジュースとトトリーナハーブアイスティーは美味い。
「トトリーナ花鳥の店が近くにあるのはいい」
「そうね、フルーティミックスジュースとも合う」
「ん、美味しい」
ユイとエヴァはコップをコツンと当てて微笑み合う。
その姿は動物たち以上に微笑ましい。
「うん、店主はわたしたちが大量に買うから引いていたけど」
「はは」
「ふふ」
飲み食いしつつまったりと過ごす。
そして、ヴィーネの隣に席を移して、両手を枕代わりにしていると、
「ご主人様、ディアとビーサが起きたら、センティアの部屋で魔法学院ロンベルジュに移動でしょうか」
「ディアには悪いがカボルの件を先にしよう。そして、パレデスの鏡を置いとくとして、確実に安全な場所が……」
「スプリージオの件もあるしね、パレデスの鏡を置くなら、窓際にいるシルバーフィタンアスに門番の代わりをしてもらう?」
シルバーフィタンアスは話を理解できるのか、大人びた表情でこちらを見やる。
シベリアンハスキーは頭がいいからな。
愛も知る犬として、俺のいた地球でも、素晴らしい犬だった。
「シルバーフィタンアス――」
「ワンッ」
ムクッと起きたシルバーフィタンアスは俺の傍に来ると、足を揃えて待機。
エジプト座りっぽい。
手に入れたばかりのパレデスの鏡を出して――。
「シルバーフィタンアス、このアイテムを守ってもらうとして、どこに置くかな……とりあえず――」
円卓とソファがある場所の横に置いた。
「ワンッ、ワォォン!」
興奮したようなシルバーフィタンアスはパレデスの鏡に寄る。
パレデスの鏡の匂いを嗅いでいる。
尻尾が激しく揺れていた。
「そこ? 庭園から丸見えよ?」
「ま、クナたちがここに来るまで、仮だ。管理人たちにも期待しよう。ミナルザンもいる」
「あ、ミナルザンなら適任ね。でも、シルバーちゃんは、このパレデスの鏡を守るって理解できるの?」
「ワンッ」
キリッとした表情のシルバーフィタンアス。
思わず吹いた。
そのシルバーフィタンアスを見ながら、
「シルバーフィタンアス! パレデスの鏡の十八面は任せた」
「ワォォォン――」
シルバーフィタンアスは走り出す。
「――わっ」
「元気な犬ちゃん~」
「ふふ」
「お悧巧なシルバーちゃん。シュウヤの言葉を理解しているのね~」
「ん、ロロちゃんと同じ」
「にゃ~」
「尻尾の動きが可愛い~」
シルバーフィタンアスは吠えつつ皆の足の近くを通り――。
円卓の周囲を走り回った。
シルバーフィタンアスはパレデスの鏡と皆を守るつもりのようだ。
尻尾も可愛いが、その性格も愛らしい。
そのシルバーフィタンアスはハウレッツの傍に移動。
「ワンッ」
「グモゥ?」
シルバーフィタンアスはハウレッツに何かを語るように吠えている。
シルバーフィタンアスはハウレッツの体を鼻先で押し始めると、パレデスの鏡まで誘導。
そして、鼻先をパレデスの鏡の十八面に向けて、
「ワォォン!」
と吠えた。
ハウレッツはパレデスの鏡を見て、
「グモゥ……」
と、なるほど風に鳴いている。
シルバーフィタンアスはハウレッツにパレデスの鏡を守れと教えている?
「偉いな、シルバーフィタンアス!」
「ワン、ワンッ!」
「グモゥ、プボゥ」
ハウレッツもパレデスの鏡のことを理解したようだ。
すると、
「ニャァ」
「ニャオォ」
鳴きながらパレデスの鏡の傍に移動。
エジプト座り、そのまま猫の陶器人形へと早変わり。
猫だが、狛犬ってか。同時に、銀座の三越前ライオン像を思い出す。
「ふふ。アーレイもヒュレミも良い子」
「ん」
皆、笑顔となった。
数十分、たわいもない平和な時間が続く。
アクセルマギナが気を利かせて、ゆったりとしたジャズ系ミュージックを聴かせてくれた。
キサラが合わせて鼻歌の魔謳を奏でる。
ダモアヌンのギターは使わない。
正義のリュートを出して、旭日に合う明るい曲を奏でていった。
「――『太陽神ルメルカンド様の暖かい陽には愛がある』」
「――『光神ルロディス様の愛がロロちゃんを照らす』」
「――『雲さえも吹き飛ばす太陽神』」
「――『モフモフ~モフモフ~』」
「――『にゃ、にゃ、にゃぉぉぉん』」
「――『ンン、ンン、にゃァ』」
「――『グモゥゥゥ――』」
「――『ワォォォン、ワォォォン、オォォォン、ワォォン――』」
「――『雲一つない蒼穹世界は透き通る水の大地、わたしたちは魔塔という船で、その蒼穹世界を旅する』」
皆、それぞれ曲調に合うような歌詞を即興で作って歌う。
まったりと休憩を楽しんでいると、ビーサが起きてきた。
「皆さん、おはようございます」
「おう、おはよう」
「「おはよう」」
「あ、歌声で起きちゃったかな」
ユイの言葉を聞いてビーサは周囲を見て、
「ふふ、大丈夫です。起きたのは先ほど、顔も洗って準備は整えています」
「ワンッ」
「にゃァ」
「ンン、にゃ」
「え? 動物たちが……これは」
「あぁ、昨日の夜に……」
「うん、ビーサ、隠し扉を開けて宝物庫を見つけたの。魔法書、聖魔術師の仮面を数個と聖魔術師の短剣と剣を手に入れた」
「はい、そこの開いている隠し部屋です」
「部屋……あ、机に仮面が」
「そう。そして、大魔術師スプリージオとピラタド大商会連合組織の【ドジャック傭兵空魔団】が来襲、エセルジャッジメント魔貝噴射的な装備を持つ凄腕傭兵集団だった。でも、シュウヤとスプリージオは交渉して穏便に解決。スプリージオから隠天魔の聖秘録をゲットして、その隠天魔の聖秘録を使ったら、異界の軍事貴族の動物たちが大きくなって魔法の鎧をゲット。続けてミレイヴァルさんもパワーアップ……隠天魔の聖秘録はね、シュウヤ……<光の授印>、古の英雄ミレイヴァルも聖ミレイヴァル……斯く斯く然々」
とレベッカと皆がビーサに説明。
「……濃密な一夜。この間ヴィーネが語っていた気持ちが少し理解できました」
少し肩を落とすビーサ。
「分かりましたか……ご主人様と少し離れると貴重な経験を逃すことになる……」
「はい。しかし、睡眠を必要としない光魔ルシヴァルは羨ましい」
「ん、ビーサ、わたしたちと家族に、新しい眷属になる?」
「……いずれは、お願いしたいです」
「遠慮は要らないですよ。ご主人様はビーサを好んでいます。わたしたちもビーサの過去は少し見ましたし、
「はい、シュウヤ様はビーサを尊敬の目で見ています」
「うん。背中の三腕とラービアンソードの剣術は、この間見させてもらった。魔迷宮と浮遊岩を解放する戦いの内容は血文字で聞いているからね。正直【天凜の月】の重要な人材として、眷属の人材はほしい」
ユイの言葉にメルのような印象を抱く。
【天凜の月】セナアプア支部の長って印象だ。
「あ、はい。【天凜の月】の活動に貢献できるかと思います。宇宙海賊では操縦長の立場でしたが、白兵戦もこなしました。種族ファネルファガルの性質にも合う」
ビーサはラービアンソードの柄巻を握る。
ビーサの剣術とサイキック能力は頼りになる。
「強いし、最近はいつも傍にいたから、ビーサは眷属って印象だった」
「ん、ビーサはシュウヤの弟子。
「そうね。あと、ビーサが緊急次元避難試作型カプセルに入っていた時、シュウヤの魔力を取り込んでいるから、眷属の一種だと思うけど」
「そうだったな」
「ん、ルシヴァルの紋章樹のようなモノも見えた」
「わたしとしては、サイキック能力が使えることが羨ましい……」
「シュウヤ様の<
「それは……」
とビーサは俺を見る。
「悪いが眷属化はルマルディが先の予定だ。クレインも戻ってきたら眷属化の話を進める。ペレランドラも、処女刃をやってもらわないと困る」
「はい」
ビーサは納得。
そのビーサに、
「で、眷属化をやるとして、<
「末端の弟子で構いません。<従者長>の一人として考えておいてください」
「了解。しかし、惑星セラの種族以外は初となる。種族ファネルファガルが光魔ルシヴァルに変化することでどんなことになるのか分からない。その覚悟はあるんだな」
「勿論、あります。シュウヤはわたしの師匠で、わたしは
ビーサの言葉は力強い。
そのビーサの両肩に掛かる髪の房的な後頭部の器官から桃色粒子が長めに放出された。
戦闘型デバイスの真上に浮かぶ小さいフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルが少し点滅。
「分かった。<従者長>として考えておこう」
「はい、師匠! ありがとうございます」
敬礼を受けると、身が引き締まる思いだ。
心でラ・ケラーダをビーサに送る。
「銀河を知る超戦士。サイキック能力とラービアンソードの使い手が家族になるのは嬉しい」
「塔烈中立都市セナアプアの戦力の拡充」
「ん、サイデイルのこともある」
「そうね。わたしたちには敵が多い」
「カットマギーを追う狂言教も厄介だと思う」
「十三、十二長老だったっけ」
「カットマギーがあっさりと敗れた相手。それが多数でしょ」
「まぁ、わたしたち【天凜の月】の名もそれなりに有名になったから、狂言教も躊躇する、多少は時間が稼げるでしょう」
「はい、単純な闇ギルドならば、の話ですが」
「そうね、【テーバロンテの償い】のような相手だから、組織の力学での予想はできないか。それにカリィ&レンショウにも敵はいる。影翼旅団だったカリィの相方がどうなっているのかも気になる」
「アルフォードだったか。カリィから話があると聞いていたが」
「うん、アルフォードと連絡は取れたようだけど、捕まっている状況のようだからね」
「はい。サーマリア王国ロルジュ公爵の【ロゼンの戒】などの勢力のようですが、アルフォードもまた優秀なようですから大丈夫でしょう。戦力として迎えられている可能性が大」
「そうだな。アルフォードが【天凛の月】に入るつもりなら協力しようと思う」
「ん、シュウヤらしい」
「ふふ、うん」
「カリィも【天凛の月】の面子として動いているからな」
「優しい総長様ね」
「野郎には優しくないつもりだが」
「隠してもダメよ。女好きだけど義理堅いのはだれしもが知る」
ユイは真顔で語る。照れるから話題を変えるとして、
「ビーサ、小型飛空艇デラッカーを手に入れたんだ」
「小型飛空艇?」
「あ、そうそう。深夜すぎに色々とあった際に、手に入れたの」
「興味深いです」
「了解、そこの床に置く」
「あ、はい」
ビーサの傍に向かう。
その近くの床にアイテムボックスから小型飛空艇デラッカーを取り出して置く。
「これが小型飛空艇!」
「ビーサも気に入ったか」
「はい。亜空間に干渉するような高度なレベルの物ではありませんが、十分高度な魔機械です。見たことのない魔機械もあります。人工重力発生装置と似た魔機械は面白い……」
「……たしかに興味深いわ……」
ミスティも小型飛空艇デラッカーを観察、メモを始める。
が、すぐに、
「でも、手に入れた金属も調べないと。シュウヤ、カボルに魔力豪商の施設に案内してもらう前に試してきていい?」
「いいぞ」
「やった。エヴァ、試作型魔白滅皇高炉に行こう? ロロちゃんもお願い」
「ん、分かった。魔導車椅子に組み込めるか試す」
「うん」
エヴァとミスティはハイタッチ。
相棒の
俺は変顔で応えた。
面白い。少し毛が逆立っている。
喧嘩を売るような仕種だ。
ま、猫の習性が出ているだけで、判断を仰いでいるんだろう。
しかし、その『にゃんだ、おぉ?』という猫顔が面白い。
猫じゃらしで遊びたくなってくる。
「ロロ、気にせず行ってこい」
「にゃおお」
一瞬で、ロロディーヌは大きな黒豹に変身。
エヴァとミスティの体に触手を絡ませると、自身の背中に二人を乗せつつ走る。
「わぁぁ――」
「――速ッ」
二人を乗せたロロディーヌは素早く階段のほうに移動。見えなくなった。
浮遊岩を使わないのか。途中で飛翔するつもりかな。
すると、ディアが起きてきた。
「あ、おはようございます。あれ、動物に新しい部屋が?」
「よう、動物は異界の軍事貴族。で、そこの隠し部屋は宝物庫だったんだ」
「魔塔ゲルハットの宝物庫! あ、机の上に仮面が? ってお兄様も白銀の仮面を……」
「おう。これは聖魔術師の仮面。正式には聖魔術師ネヴィルの仮面だ」
「聖魔術師の仮面……」
「おう。それでディア。センティアの部屋は少しあととなる。俺たちはミスティとエヴァが戻り次第、カボルに魔力豪商オプティマスのところに連れていってもらう」
「はい、交渉ですね」
「おう」
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