八百三十三話 吼える皆と隠天魔の聖秘録の夜と聖なる旭日

 聖魔術師ネヴィルの仮面が振動。

 再び出現した白銀の衣装もブルッと震えて連動。

 防護服の内と外で風が突然孕んだように白銀の衣装が少し浮いた。

 ミレイヴァルの朱色と銀色の小さい金属の杭がブレる。


 すると、シルバーフィタンアスが頭部を上げて、


「ウオォォォォン、ウォォォ、ウォォ――」


 と吠えた。

 大型のシベリアンハスキーに似たシルバーフィタンアスはカッコいい。

 吠えた心に応えるように、銀チェーンにぶら下がる十字架もブルブルと小刻みに振動を起こす。


 と、閃光を放った。

 直後、腰にぶら下がる魔軍夜行ノ槍業が反応。

 装丁された金具が開き閉じるのを繰り返す。その動き方は『眩しい』という意味だとすぐに理解できた。


 と銀灰色の虎魔獣メトも「にゃぉぉぉぉ」と鳴いた。

 シルバーフィタンアスもメトに呼応するように尻尾をふるふると回し「ヴァンッ、ワンッ、ワォォン! ワン!」と吠える。巨大カモシカのハウレッツも「プボゥゥォォォ」と魔法の鎧の周囲に繊維の細かな魔線を放出する。「にゃ!?」と神獣ロロディーヌは驚いて、ハウレッツの体を一生懸命舐めだしていた。


 シルバーフィタンアスは「ワン!」と鳴いて逃げる。


 動物園か! と魔軍夜行ノ槍業から、


『使い手ェ、光属性が強すぎるぅ!』

『妾は……光を受け入れよう』

『レプイレスはデレすぎ!』

『妾は使い手の血を得ている。当然である。そして、女帝槍は磨かれておるのだ。しかし、外の巨大動物のようなモノが、異界の軍事貴族か……』

『ふん、わたしだって雷炎槍を学んでほしいのに……って光属性がきつすぎ! ミレイヴァルってなにもんよ! 神魔石でグリグリされてる感じ!』

『カカカッ、我慢じゃ、外の巨大動物は異獣のようなモノ、異界の軍事貴族じゃ』

『我慢って、グラド爺は……強いわねぇ』

『……我慢である……』

『……』

『しかし、神魔石の一撃と同等の光属性か、シュリが弱気になるのも分かる。それほどまでにミレイヴァルとやらは強い光属性ではある』

『八怪卿の頭にそこまで言わせるとはなぁ! が、『天運』を持つ俺の弟子だ。その光が強いミレイヴァルも、弟子の弟子ということになる! ってことで、光だろうが、闇だろうが、俺は受け止めるぜぇ』

『……グルドまでデレた、強い光を受けすぎて逝った?』

『おう、逝った逝った、って何をボケてんじゃ、ボケシュリ! 師匠として当然の務めだ。だから弟子! さっさと済ませて、八大墳墓を破壊しに西へ向かえ! ついでに〝閻略・遮槍軍槍譜〟の秘伝書か、その欠片を探せぇ!』

『……グルドが調子に乗ってる』

『グルドは元気だな。いや、この光がきつすぎるのか。まぁ、使い手は光属性も有しているのだ、我慢しよう……そして、わたしの断罪流槍武術も学んでほしい……』

『お堅いイルヴィーヌが待ち焦がれる使い手。しかし、光が眩しすぎる……黒髪の使い手の兄ちゃんよ、光闇の奔流にも……俺たちは慣れるしかないのか……』

『……独鈷魔槍の『一の槍』の絶招を極めるべし、『二槍極致』、『三槍極覇』、『四槍無凱』……『八極魔魂秘訣』を……』

『あのセイオクスが元気に喋るとは、グルドと同様に使い手と強い絆を得たか』

『……ふ』

『羨ましいぜ。ってことで使い手の兄ちゃんよ! さっさとオレ様の妙神槍と魔人武術を学ぶべきだろう! 夜王の傘セイヴァルトと無名無礼の魔槍は、オレの二槍流と合う! 妙神槍は天下無双! 戦場で活きることになる』

『ふむ、くせのあるソーの武術と新たな魔槍か。〝魔略・無覇夢槍譜〟など、妙神槍流から<握把法>を弟子が学べば……我らの槍の理合を弟子はより理解できるようになるであろうな』


 妙神槍流の<握把法>か。

 いつかは学びたい。


『お、グラド爺もそう思うか』

『ふむ。飛怪槍は二槍、三槍、四槍、いくらでも応用可能』

『……我の弟子は器用である。ソーの妙神槍譜も合うであろう』

『トースンの<悪愚槍・鬼神肺把衝>を学ぶことができたんだからな』

『そうだ。弟子の眷属の中には鬼神キサラメを信奉するオークもいる。無名無礼の魔槍とも合うであろう』

『たしかに、通じているからこその事象であった』

『その無名無礼の魔槍を使うナナシと義紫苜蓿はどこかで聞いたな』

『一兵卒か。聞いたことがなかったけど? ソルフェナトスのほうが優秀じゃない?』


 魔軍夜行ノ槍業から洩れる魔力が激しい。

 同時に魔軍夜行ノ槍業の装丁の金具が八人の師匠たちの会話に合わせて外れて開くのを繰り返していた。


『ソルフェナトスか。我らの弟子を吹き飛ばしたように戦旗を持ち続けてきた気概は確かにあった。が、武の優劣は水物である。一概には言えん。そして、弟子が使うまでナナシという名の通り、わしも忘れていたぐらいだ』

『あの無名無礼の魔槍は<火焔光背>といい、使い手と相性が良い。だからオレ様の妙神槍と合う。そして、グラド爺も言ったが、〝魔略・無覇夢槍譜〟が見つかれば……おまえたちの<魔槍技>と魔人武術の発展にも繋がるんだぞ?』

『ソーの妙神槍を学びきればでしょう? 雷炎槍のほうが速度を活かせるし、使い手の風槍流に合う。だからわたしを優先するの!』

『……我らの弟子は土台がグレートイスパルのように大きい。武術を見て『一を以て万を知る』男である』

『古い鬼神を活かせるあの武術、かの魔人武王を超える才能であるか』

『そうだ。そして、我らの魔城ルグファントの正式な後継者である』

『トースンにグラドの頭は落ち着きすぎなの。それに使い手は、わたしのキッスを待ち望んでいるはず……』


 キッスはともかく、シュリ師匠の念話の印象は好みだ。


 ほんわかさと厳しさがある猫のような声で女性らしさがある。


『否、妾の断罪流キッスが先。否、今の使い手ならば、断罪流槍武術のほうが役に立つ』


 イルヴィーヌ師匠の槍武術とはどんなのだろう。

 しかし、魔軍夜行ノ槍業の中の八人の師匠たちの念話の会話は面白いが、好き放題に気持ちを伝える念話が止まらない。


 八人の師匠たちは、ミレイヴァルの閃光を浴びて混乱しているようにも感じるが、ふざけているだけかな。

 

 しかし、俺の脳幹と松果体を揺らす勢いの念話だから……。

 少し眩暈がした。

 

 ふと、アルルカンの把神書を思い出した。


 ひょっとして、秘伝書、奥義書などの紙片を取り込み続けて力を取り戻したら、八大墳墓を破壊する頃には、魔軍夜行ノ槍業が喋り始めるかも知れない。


 その魔軍夜行ノ槍業の表紙を凝視。

 この表紙は盛り上がった魔界騎士が紅玉を巡って争う姿で渋い。

 中心の紅玉も煌めいていた。

 そんな魔軍夜行ノ槍業だが、フィナプルスの夜会と共に閃光のミレイヴァルから逃げるように尻側に回った。


 その僅かな時間で――。

 閃光のミレイヴァルの、光を放つ金属の杭と銀のチェーンと十字架は、半透明に変化しては銀色の魔力粒子を発しつつ消えた。


 銀色の魔力粒子は消えず、青みがかった霜のようなモノを周囲に発生させつつ俺の周囲を巡る。


 耳と首に冷たさと暖かさを感じた。

 銀色の魔力粒子はミレイヴァルの源の魔力粒子。


 前より青みがかっている?


 その少しの青色と銀色の魔力粒子のミレイヴァルは、俺が装着中の聖魔術師の仮面と白銀の衣装を確認している? そのミレイヴァルでもある周囲を巡る青が混じる銀色の魔力粒子は俺の足下に集結する。

 

 その一瞬でパパッと閃光を発して美しい黒髪の女性騎士ミレイヴァルを模った。

 いつものように片膝を地面に突けた状態。


「陛下、ミレイヴァルがここに」

「おう」


 黒髪が風を受けたように靡く。

 

 前髪が揺れる姿は美しい。

 そんなミレイヴァルから強い光を感じた。


 それは太陽的な光属性の塊。

 心に強い勇気を得たような感覚だ。

 そんな勇気をくれたミレイヴァルの背中には、魔力の大きな十字架が浮いている。

 

 後光? 光背的な印象を受ける十字架で初見だ。


 背中の大きな十字架は光の騎士としてのニューウェポンか?

 その大きな十字架の色合いは、銀色、朱色、紫色、黄土色。

 物理的なモノではない印象だが……。

 形だけならば王牌十字槍ヴェクサード風?

 地面に刺したら墓標になりそう。


 差したら半径何メートルかに恩恵を齎す効果とか、衝撃波とかを繰り出せる?


 そんなミレイヴァルの右手の甲に十字架が浮かぶ。

 <霊珠魔印>と似た紋様だ。


 その片手の甲の上に浮かぶ十字架から魔線が俺に伸びている。

 

 胸元の<光の授印>と二の腕の<霊珠魔印>と繋がっていた。

 そのミレイヴァルはサッと立ち上がる。


 青みがかった銀色の魔力粒子を纏った姿は渋い。

 右手に聖槍シャルマッハを召喚。

 

 聖槍シャルマッハも少し柄の色合いが変化?

 基調の銀色と朱色は変わらないが、少しコントラストが変化したように感じられる。

 穂先は先端が鋭い三角錐。


 三角錐の穂先と地続きの柄と螻蛄首は、細かな金属の網が幾重にも重なって孔が無数に存在する。

 孔の中には電子殻のような魔力の渦が蠢いていた。

 

 すると、ミレイヴァルの片手の甲と魔線で繋がる胸元と二の腕がズキズキしてきた。

 俺の胸と二の腕が光った瞬間――。

 

 <召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>が自動的に発動。

 目の前のミレイヴァルも連動。

 彼女の右手が強く光って点滅を繰り返す。

 手の甲の<霊珠魔印十字架>が強く光を発した。


「ングゥゥィィ! ピカピカ、ヒカル! 喰エ、喰エ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星、ゾォイ!」

「にゃお~」


 竜頭金属甲ハルホンクと神獣の相棒が反応。

 そのミレイヴァルの周囲に――美しい赤い小さな十字架も浮かぶ。


 更にミレイヴァルは魔法の鎧を装着。


 白色のブレストプレート。

 そのブレストプレートは胸元が少し膨らんでいる。

 朱色と黄色の魔宝石的なモノが嵌まっていた。

 アジャスターの金具と革ベルトも備わる。


 前は三角系の幾何学的な印象だったが、シンプルな家紋模様に変化していた。

 

 真新しいカーボン系グローブの前腕防具も装着されている。

 あの前腕防具の見た目と模様は変わらない。


 西洋鎧で例えるなら……。

 上腕当リヤーブレス

 腕当バンブレス

 手甲ゴーントリット


 そんな召喚霊珠装を装着した聖ミレイヴァルだ。


 そして、自動で発動した<召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>のスキルだが、俺の消費した魔力は少ない。


 前は<仙魔術>系統並に消費した覚えがある。

 

 胃も軽い。

 何重もの重しが胃の中に入って捻れるような異質で痛い感覚はない。

 燃費もよくなったってことか。


 そのミレイヴァルを見ながら、


「ミレイヴァルを召喚すれば、俺が意識せずとも自動的に<召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>となる?」

「はい。そのようです」


 ミレイヴァルは両手を拡げて体を見ていた。


 その聖ミレイヴァルの背後に――。

 赤色の十字架の群れが移動した。

 聖ミレイヴァルが十字架の群れを従えているように見える。


 背中に浮かぶ大きな十字架に、それらの小さい十字架たちが突き刺さって重なった。


 あ、カーボン系グローブの模様と同じか?


 グローブの模様は一つの十字架に赤い小さな十字架たちが突き刺さる模様だ。

 <召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>が本来の姿ってことか。

 ミレイヴァルの姿を暗示していた?


「ん、全部繋がった」

「衣装が素敵に進化! <召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>が強まったお陰?」

「隠天魔の聖秘録は古の英雄ミレイヴァルの預言書でもあった?」

「うん、竹簡と紙を合わせたような素材だし、不思議」


 エヴァ、レベッカ、ユイ、ミスティが語る。


 ミレイヴァルの左手の甲には紫色と黄土色の炎が浮かぶ。

 暴神ローグンの力をミレイヴァルが取り込んでいる証拠。

 あの左手の甲を燃やす紫色と黄土色の炎は前からだ。


 少量の青色と銀色の魔力粒子の一部は俺たちの周りと魔塔ゲルハットの庭園をくまなく行き交っている。


 青みがかった銀色の魔力粒子が気になるが――。


 とりあえずミレイヴァルに、


「背中の大きな十字架は魔力の槍? ミレイヴァルは強くなった? 本来の力を取り戻した?」

「はい。暴神ローグンを倒した記憶と十字聖槍流と閃皇槍流の槍技スキルと槍武術スキルを思い出しました――」

 

 聖槍シャルマッハが輝いた。

 同時に体勢を少し変えたミレイヴァル。

 穂先から稲妻のような魔力をバチバチと放出。


 破迅槍流とは少し異なる構えか。

 十字聖槍流か、閃皇槍流の構えかな。

 

「<一式・閃霊穿>――」


 透き通った声が庭園に響く。

 ミレイヴァルは一瞬で前進。

 背中の魔力の十字架と聖槍シャルマッハがかぶる。

 刹那、雷撃染みた速度のミレイヴァルと聖槍シャルマッハが分裂? 三角錐の穂先が連続的に突き出て見えたが……。

 

 相棒も皆も、異界の軍事貴族たちも沈黙。


「「おぉ」」

「二つの流派か。今のスキルでミレイヴァルが進化と分かる」

「ん、凄い! しゅっしゅっ――しゅっ」


 エヴァはヌベファ金剛トンファーを使って<刺突>的な技を繰り返す。

 うむ。胸元の隠れ巨乳が見事に揺れている。


 俺には、エヴァのおっぱいのほうが凄い。

 そんなエヴァは俺を見て笑みを浮かべてくれた。


「シュウヤが興奮!」

「そりゃそうだ」

「ペルネーテの中庭で訓練していた頃を思い出す」

「シュウヤは訓練の鬼だからね」

「ん、シュウヤの素敵なところ!」


 小鼻を少し膨らませて興奮しているエヴァが可愛い。

 そして、天使の微笑に癒やされた。

 

 そのエヴァからミレイヴァルに視線を向けて、


「強まった閃光のミレイヴァル。現在も、金属の杭と十字架のアイテムに戻れるのか?」

「はい、いつでも戻れます」

「素晴らしい。

 今後とも頼りになりそうだ。で、まだ浮いている隠天魔の聖秘録には、ミレイヴァルのことが記されてあるんだが、だれがどういった理由で、ミレイヴァルのことを隠天魔の聖秘録に残していたのか理由は分かるか?」

「【神玉の灯り】が息衝いていると感覚で分かるだけで、詳しい経緯は分かりません。推測ならできます」


 ミレイヴァルは隠天魔の聖秘録を知らないのか。

 隠天魔の聖秘録はミレイヴァルが死んだ後に造られた?


「推測でいい」


 ミレイヴァルは頷いた。


「はい、隠天魔の聖秘録を記した【光ノ使徒】か【光神教徒】の光属性を持つ聖なる偉人が過去、アイテムだったわたしを鑑定したのでしょう」

「過去の偉人さんか。では、ミレイヴァルは聖魔術師ネヴィルと隠天魔の聖秘録に異界の軍事貴族も知らない?」

「はい、知りません。何事も<光の授印>を持つ陛下故でしょう」

「ん」

「早い話、それに尽きる」

「そうね。シュウヤは光の精霊たちから霊槍ハヴィスを託されたし、神遺物レリクス王氷墓葎キングフリーズ・グレイブヤードを読めた。聖魔術師装備に対応するのも頷けるわ」

「では、隠天魔の聖秘録にある〝黄金の夜の縁となりて閃光と霊珠魔印となる〟は、光神ルロディス様の預言?」


 ヴィーネがそう発言。


「ん、たぶん。それか、光神教徒、光ノ使徒たちが残した予言書の一部が隠天魔の聖秘録?」


 予言書としての紙片集か。

 竹簡もあるが、ありえる。


「その説が濃厚か。【光ノ使徒】&【光神教徒】としての一面もあった聖魔術師ネヴィルは、古の英雄ミレイヴァルのことを聖ミレイヴァルと呼んでいたとかありそうだ。【光ノ使徒】の一人として憧れを抱いていたとかな。実は、閃光のミレイヴァルを探していたとか?」


 幻影で魔塔や豪華な屋敷に盗みに入っていた時になにかを探しているようにも見えた。


 二十個ある聖魔術師の仮面かと思っていたが……。


「うん。現在、世界のどこかにあるだろう聖魔術師の仮面に向けて魔線が泳いでいるように、隠天魔の聖秘録は、聖魔術師ネヴィルの私物として長い間、ネヴィルから魔力を注がれていたとか? だからネヴィルの魂の一部が仮面に宿っていた? あ、ネヴィルの過去の幻影を見た時に、隠天魔の聖秘録を持っている姿はなかったの?」


 レベッカがそう聞いてきた。

 隠天魔の聖秘録と浮かぶ文字を見つつ、ネヴィルの記憶を思い返す。


 最期の時。

 アイテムボックスが散る中に、隠天魔の聖秘録らしき竹簡が存在していたかも知れない。


「はっきりとはない。が、ネヴィルと銀灰猫メトが魔塔や屋敷に入り込んで宝物を探している時間はあった。そして、最期、倒された時アイテムが宙に散って転移したような印象だった。その中に、隠天魔の聖秘録があったかも知れない」

「へぇ、その話も興味深い。スプリージオはシュウヤを見てすべて察知したのかも知れないわね」

「あ、そっか、だからか……」

「すべて?」

「うん、隠天魔の聖秘録の言葉よ。聖ミレイヴァルとはっきり記されていないけど、光と魔、揃う、逢魔時。これってわたしたちを暗示している」


 皆、頷いた。


「そして、暁の灯火って闇と光の運び手ダモアヌンブリンガーのことかな? 閃光はミレイヴァルでしょ。暴神ローグンの慧思者と霊珠魔印もマスターとミレイヴァル。神玉の灯りと光と闇の奔流ヲ、赤肉団と光韻ヲ持つ。【見守る者ウォッチャー】が印は確実にマスターを意味する。そして、仮面に宿り魂が、神呪天ガ……って部分は、聖魔術師ネヴィルの仮面を意味する」


 ミスティがそう発言。


「うん、納得。スプリージオがシュウヤを見た時、驚愕していた」

「そうね。聖魔術師の仮面を見る目が……」

「マスターは<魔装天狗・聖盗>を獲得しているし、獣貴族の能力を秘めた仮面の話を併せても、その辺りの理由が本命だと思う……ほんと、次から次へと面白いんだから」


 博士顔のミスティがそう発言。

 羊皮紙には、それらしい考察が色々と書かれてある。


 今も暗器械から取り出していたペンで、スラスラと書いているミスティ。


 羊皮紙の下には小さい金属の板があるから書きやすそうだ。


 レベッカも頷いて、


「浮かぶ魔法文字の……〝黄金の夜の縁となりて閃光と霊珠魔印となる〟は神印の<光の授印>と<光神の導き>と重なるし……色々とロマンチック過ぎない? ドキドキしちゃう」


 皆、頷いた。

 キサラも、


「ふふ。シュウヤ様から<光神の導き>を獲得した際のお話は聞いています。ですから、今回の事象も光神ルロディス様の恩恵でしょう」


 そう発言すると皆が頷いた。


「ん、閃光のミレイヴァルの十字架に宿っていた光の精霊ルナ・ディーバ様。過去に裏切りにあって死んだミレイヴァルの魂を救うために<精霊・空間想オラムガル>を使ったお話は覚えている!」


 そう力強く発言。

 俺も頷いた。

 

 キサラはミレイヴァルと隠天魔の聖秘録を見比べてから、


「……はい。シュウヤ様は、その精神世界の<精霊・空間想オラムガル>に挑まれた。そして、その<精霊・空間想オラムガル>の中で暴れていた暴神ローグンを討伐し、ミレイヴァルを救出しました」


 ミレイヴァルは数回頷いて、俺を熱い瞳で凝視。

 桃色が混じる瞳のミレイヴァルに魅了されてしまう。


「はい、その通り。お兄ちゃん……否、陛下に救われて<霊珠魔印>を獲得しました」

「ふふ、光の伝承です。まさに今日は吉兆の夜と言えましょう――」


 常闇の水精霊ヘルメは微かに跳躍。

 低空で水飛沫を発生させた両足で宙空を滑るように前進。

 

 青みがかった銀色の魔力粒子を追う。

 その軌道はアイススケートを行うような仕種だ。


 美しい。

 皆、見蕩れている。

 が、エヴァは「ん!」と意気込みつつ俺の傍に来ると――。

 爪先立ちで、


「シュウヤはわたしの大事な人で誇り! あと、素直に凄い――」


 と頬にキスをしてくれた。

 そんなエヴァを抱きしめようとした。

 

 が、エヴァは素早く踵を返して、背中を見せる。

 

 金属の足を一瞬で溶かした。

 骨の足となっていた金属は魔導車椅子に変化する。


 その変形の具合を見たミナルザンはギョッとしていた。

 エヴァは気にせず。


 ニコッと俺に笑みを寄越す。

 

「ん、シュウヤ?」

「あぁ、抱きしめようとしたら、離れてしまっただけだ」

「ん、ふふ、抱っこする?」


 魔導車椅子に座っているエヴァは両手を拡げていた。

 可愛い。


「いや、大丈夫」

「ん、シュウヤならいっぱい抱き抱きするのに」


 エヴァはそう語ると少し淋しさを覚えたような表情を浮かべていた。

 そのエヴァは魔導車椅子のリムを両手で回す。

 

 両輪を動かして魔導車椅子を横回転させる。


 と、速やかに前進しつつ――袖が捲れた腕を伸ばす。


 腕の素肌は綺麗だ――。

 

 蛍が舞うような青が混じる銀色の魔力粒子を指先で触っている。

 

 低空で華麗に踊っていたヘルメはエヴァの傍に向かうと、


「――ふふ、エヴァ、一緒に」

「ん、はい、精霊様!」


 エヴァとヘルメはメリーゴーランドの如く回る。


「ふふ、素敵ですよエヴァ!」

「きゃ、回転が――」


 ヘルメに両手を引っ張られて宙空を回るエヴァは少し混乱したような表情となっていた。が、ヘルメを見ながら笑顔となる。


 ヘルメも「ふふ」と笑う。

 二人は楽しそう。

 

 そして、二人のお尻さんが輝いていたが、指摘はしない。


 ヘルメとエヴァは宙空で姿勢を元に戻すようなダンスに移行。


 手と手を握り、右へ左へと社交ダンス風な動きに変化した。


 ダイナミックに動くと互いの胸が揺れる。


 くびれた腰が魅力的だ。クラシック音楽が合いそうな落ち着いたダンスに変わると、水彩画を見ているような気分となった。

 

 絵になる。

 

 メトとシルバーフィタンアスとハウレッツは、エヴァとヘルメの踊りを不思議そうに頭部を左右にクイクイッと動かして眺めていた。


 この辺りはスポーツ中継を見る動物たちって印象だ。


「コレハ、白銀ノ舞イ? 神界ノ儀式カ!? 我ハ……」

「もぎゅってないで、沈黙は金よ。黙って渋い面で見ていなさい」


 ユイがツッコむ。

 ユイはそんなミナルザンの言葉に興味を抱いている? 


 先ほどは神獣ってキュイズナーの言語を発音で当てていたが、キュイズナーの言語を理解するにはかなり長時間一緒にいないと無理だろう。


 ただでさえ呼気と発声器官のリズムは人族と異なる。


 キュイズナーの発声器官の閉鎖と摩擦に狭めの微妙な単音の違いも分かり難いはずだ。


 振動する声帯が異なれば有声子音と無声子音の聞き分けも難しい。


 翻訳スキルがあれば楽になると思うが。

 そして、俺のエクストラスキル<翻訳即是>が如何に優秀か。


 ミナルザンはヘルメたちにびびりつつも、ユイを見て、


「――ヌヌ、黒イ瞳ト、白イ瞳ノ魔刀使イノ小娘ハ、何ヲ……」


 ミナルザンは真面目だ。

 そして、動揺は隠せていない。

 ま、当たり前か。

 惑星セラの月夜。月と月の残骸だ。星々の絶景も初めてだろう。


 ヘルメのような存在も初めてなら尚更だ。

 ユイは、近くにいるミナルザンの発音を聞いて、疑問顔で半笑いだ。

 

 あ、ユイはミナルザンの剣術と獄炎光骨剣に興味を持っている?


 すると、キサラが、


「精霊様と皆の考察に、完全に同意します。今宵はまさに吉兆の夜。闇と光の運び手ダモアヌンブリンガーのシュウヤ様が起こした奇跡の夜――」


 俺の傍に来ると体を寄せてくれた。


 キサラの胸の感触を得てほっこり。


「シュウヤ様……好き」

 

 耳元でキサラから色っぽい声が……。


 股間が反応してしまうがな。

 ミレイヴァルも皆も頷いた。

 が、レベッカはじろじろとエロい目で俺を見て、


「ちょっと、シュウヤ、えっち!」

「ん、奇跡の夜だから、えっちな夜?」


 と、エヴァが背後から抱きついてくる。

 キサラが退いてヴィーネが寄ると俺の二の腕を胸でサンドイッチ。


「――はい、素敵で不思議な夜を期待です……」


 たまらん。

 そのヴィーネが熱い息を吐いてから退いた。

 ミスティも寄る。


「ふふ。シュウヤが回収した宝物と、ウォルフラム魔鋼の宝箱、魔金属ターグントのインゴットと生きた魔壁を得られたし、お得な夜でもある。あ、でも、トレビンの卵は溶かしたかった……」


 そう語るミスティは俺の片腕を撫でつつミナルザンを凝視していた。


 解剖をまだ諦めていないのか。


 ミナルザンはミスティの怪しい雰囲気に感づいたように身震い。

 そして、蛸と烏賊の良さがあるような不思議な舞を踊るような印象で、ユイの背後に回る。


 ユイは怪しいミナルザンを見て、「今、もぎゅった?」と発言。


 またまた怪訝顔。その顔と態度が面白い。


 ヴィーネはユイとミナルザンを見て、少し笑っていた。

 

 俺も笑う。

 そして、傍にいるミスティに向けて、


「ヴィーネが開けた紫色と銀色の宝箱がウォルフラム魔鋼の箱か?」

「そうよ。試作型魔白滅皇高炉で今まで集めた金属と合わせる実験をしたい。あ~、でも一度、ペルネーテの工房部屋に戻ってアイテム類と作業道具を回収したいかな」

「パレデスの鏡でペルネーテの自宅への帰還はすぐだ」

「うん、二十四面体トラペゾヘドロンで一気に開拓された気分」

「はは、クナの転移陣もある。魔塔ゲルハットに繋がればサイデイルとヘカトイレルにもすぐ行ける」

「そうね。ディアの件を優先するから徐々にやっていくつもり」


 ミスティは離れた。

 すぐにレベッカとユイが俺の両腕を奪う。


 ミレイヴァルは青みがかった銀色の魔力粒子を背中の十字架に集結させていた。踊っていたヘルメとなんか会話している。


 レベッカは、


「うん。パレデスの鏡と転移陣と言えば……ミレイヴァルを解放した時、わたしたちは……たしか、クナのセーフハウスにいたのよね」


 ヴィーネが、


「名もなき町の高台。闇のリストたちの会合もありましたね」

「あった。サスベリ川とジング川の八支流にある重要なセーフハウス」

「その名もなき町のセーフハウスから樹海のサイデイル、城塞都市ヘカトレイル、樹海南東の古びた屋敷に転移が可能! クナの体が癒えたことは結構大きい」


 皆、レベッカの言葉に頷いた。

 ユイが、


「アルゼの街の南東にある樹海の〝古びた屋敷〟からハウザンド高原のポトトル村の転移陣に転移が可能なのよね。そのポトトル村の転移陣から湾岸都市テリアのセーフハウスの転移陣へと転移が可能。今度、サザーたちを連れてハウザンド高原を見てみる?」

「それもいいが、ディアの件もある」

「はい。話を戻しますが、その八支流を活かす件は黒猫海賊団の件に繋がります」

「新黄金ルートの確立の話ね」

「湾岸都市テリアと迷宮都市ペルネーテのルートで、どれだけ儲かるのか……」

「……ん、メルは大白金貨をプレゼントすると言ってた」

「うん。銀船とマジマーンの船だけっぽいから大量に物は運べないけど、メルたちはルシェルの報告を聞いて嬉しがっていた」

「八支流の名もなき町とアルゼの街も利用できるし、湾岸都市テリアがハイム海とローデリア海にも通じるのは大きい。ヴェロニカは目が大白金貨になるってふざけていたけど、その話は本当かも」


 ユイの言葉に頷きつつ、


「湾岸都市テリアの大手闇ギルドの【シャファの雷】との交渉も上手くいったようだからな」

「取り分は向こう側を立てたようだけど」

「さ、お金の話より、とりあえずシュウヤと皆、その<導想魔手>が持つワインを――」


 レベッカは俺に向けて跳躍。

 ワインを片手で掴むと相棒の傍に着地。


「きゃ、ロロちゃん、もう! でも、いっか――」


 神獣ロロが反応していた。

 触手でプラチナブロンドの髪を弄られていたレベッカだったが、皆にコップを渡して、ワインを注いでいった。

 

 ワインボトルを空にしてから――。


「改めて、奇跡の夜、聖・光魔ルシヴァルの宗主に乾杯?」

「ふふ、疑問ではなく、普通に乾杯でいいでしょ。乾杯~!」


 ユイの高い声が響く。

「はは、たしかに――せーのっ」


 レベッカとユイの言葉に併せて、俺も「「乾杯」」と星々と皆の笑顔を見ながらコップを掲げた――。


 すると、相棒と異界の軍事貴族たちが、


「にゃおお」

「にゃぁァァァ」

「ングゥゥィィ!」

「ワォォォォォン!」

「グモゥゥゥ!」


 と興奮。竜頭金属甲ハルホンクも混ざっていた。

 ミナルザンは驚いているが、慣れるのは暫くかかるか。


 銀灰色の虎魔獣メト。

 大型の魔獣シルバーフィタンアス。

 大型の氈鹿魔獣ハウレッツ。


 皆、迫力満点。

 びびるのも仕方ない。

 メトとシルバーフィタンアスの毛は凄いモフモフしていそうだ……。


 ダイブしたい。が、今は我慢だ。


 そして、神獣ロロディーヌも乾杯の声に反応して鳴いていたが、異界の軍事貴族たちの気持ちを抑えるように長い尻尾を横に拡げていた。

 

 相棒は異界の軍事貴族たちの母気分か。


 その母性ある神獣ロロディーヌは銀灰色の虎魔獣メトの体を舐めていた。


 神獣が行うグルーミング。

 癒やされる。


 互いに舐めながら体を猫の姿に戻していた。


 大きなシルバーフィタンアスも子犬に戻って「ワンッ」と尻尾を振るう。


 ハウレッツも子鹿に戻って、黒猫ロロ銀灰猫メトの傍で体を横にした。


 子犬のシルバーフィタンアスも腹を見せて横になる。


 すると、太陽が昇った。


 隠天魔の聖秘録の文字と魔線が旭日を受けて輝いた。

 

 暁の灯火の文字の部分が、強く旭日に反射する。


 こういう意味もあったか――。


 いい旭日だ。


 まさに、日本晴れ!


 魔塔ゲルハットごと俺たちを照らす旭日を受けて、愛を感じた。


 ――刹那。

 隠天魔の聖秘録の球体とルシヴァルの紋章樹の模様がブレた。

 

 世界の何処かにある聖魔術師の仮面の方角を差す魔線が点滅しつつ消える。


 魔法の文字は旭日へと向かうように躍りつつ、血を帯びた隠天魔の聖秘録に戻った。

 

 隠天魔の聖秘録の紙片集は飛来――。


 その隠天魔の聖秘録を掴んでアイテムボックスに仕舞った。


「ミレイヴァルも戻ってくれ」

「はい、陛下――」


 青みがかった銀色の魔力粒子を一瞬で体に引き寄せたミレイヴァル。


 瞬時に閃光のミレイヴァルのアイテムに戻った。


 金属の杭に連なる銀チェーンの十字架は俺の腰に巻き付く。


 と旭日を受けた十字架が目映く輝いた。


 目映い反射光が目を奪う。


 一瞬、光の精霊ルナ・ディーバの満面の笑みとアメリの顔が見えたような気がした。


「さて、ディアとビーサが眠るペントハウスに戻るか」

「にゃ~」

「にゃァ」


 黒猫ロロ銀灰猫メトが寄ってくる。

 シルバーフィタンアスとハウレッツは互いを追いかけっこ。


「あ、ロロは特製のカソジック目当てか、まってろ」

「ンン、にゃ、にゃ、にゃぁ、にゃ~」

「ン、にゃァ?」


 黒猫ロロは興奮。

 銀灰猫メトは分からないって印象だ。


「ふふ、メトちゃん、シュウヤお手製の美味しいお魚よ?」

「異界の軍事貴族は普通に魚を食べるのでしょうか」


 実際に出せば分かる――。

 保存箱を開ける。トング付きの蓋を外した。


「ンンン――」


 黒猫ロロは興奮して、頭部を脛に当ててきた。

 銀灰猫メト黒猫ロロのあとを付いてくる。


 さて、二匹の前にタッパーを――。


「ロロとメト、ごはんだ。たんと食え」

「にゃおおお~」

「にゃぁァァ」


 と、二匹はカソジックとササミをブレンドした餌を一気に食べていく。

 むしゃむしゃと美味しそう。


 ついでだ。黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミも出すか。

 素早く魔造虎の猫の陶器人形を取り出した。


 その黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミに魔力を通した――。


「ニャア」

「ニャオ」

「あ、アーレイちゃんとヒュレミちゃん!」

「ん、ひさしぶりに見た気がする!」

「ふふ、アーレイ!」

「わ、ヴィーネの足下に」

「ん、ヒュレミちゃん、抱っこ~」


 保存箱を出している間に皆に囲まれている黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミ


「アーレイとヒュレミも、ここに置くぞ? 出しといていきなりだが、餌だ」

「ニャアァァ~」

「ンンン、ニャオォォォ」


 ヴィーネとエヴァから素早く離れた黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミは保存箱に頭部をツッコむ。二匹は勢い余って、その保存箱を前に運びながらカソジック料理を食べていく。

「あはは、落ち着け、アーレイとヒュレミ!」

「「「「ンンン――」」」」

 黒猫ロロ銀灰猫メト黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミの喉声がハモる。面白い。そして、猫のそろい踏みは、なかなかの壮観だ。

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