八百九話 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーと激闘
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは上空を旋回――。
左の魔眼から砂の大蛇を出現させる。
あれが、砂大蛇カルラ!
頭部のほとんどが複眼で、中央に密集していた。
砂大蛇カルラは口を拡げた。
牙がない。
代わりに、毛と刺の密集した突起物が無数に生えていた。
怖すぎる――。
突起物から、臭そうな煙と液体がほとばしってるぅぅぅ。
ひぃぃぃ。
「ジャアァァァ」
砂大蛇カルラは、そんな突起物と口内から、大量の灰色の液体を吐き出してきたァァァ。
吐き出された灰色の液体は荒波となって、皆に迫る。
――アァァ、こんな攻撃見たことない。
……わたしたち、終わってしまうの?
自然とシュウヤさんを見つめていた。
他の方々も仲間たちも、わたしと同じ気持ちなのか、皆、シュウヤさんを凝視。
そのシュウヤさんは、優し気に微笑んでから、
「安心しろ。俺が灰色の液体をなんとかする。<血鎖の饗宴>を強めよう」
「ん」
「了解~。一応、蒼炎で膜を作っておく」
「はい、ご主人様!」
皆さんはシュウヤさんを信じている。
わたしも信じよう、シュウヤさんを!
シュウヤさんは言葉通り<血魔力>を強めた。
無数の血の波頭が左側に向かい灰色の荒波と激しく衝突。
灰色の荒波は蒸発するような音を発して散りつつ退いていた。
「「おおお」」
キヴを含めた皆が歓声を上げた。
血を水のように扱えるスキルが<血鎖の饗宴>。
水属性専用?
でも、血の中は細かい血の鎖が密集している印象を受けた。
<導魔術>と<仙魔術>系統を極めたスキルでもある?
吸血神ルグナド様の十二支族なのかも知れないけど、血の色合いが神々しく眩しい時があるから、神界セウロスの神々の恩寵を持つのかな。
神界セウロスの神々に血を扱う存在がいるの?
それとも……。
血の波頭と灰色の荒波が衝突していた宙空が暗くなった。
シュウヤさんの<血魔力>の血の波頭も荒波を受けて勢いが弱まると、荒波の一部は砂の大蛇の中に引き込むように消えた。
シュウヤさんの血の波頭も消える。
同時に異質な臭いが漂ってきた。
――喉が焼けそうなぐらい痛い!
「……ぐ、こりゃ毒か?」
「うん」
急ぎ、紫色の魔力で包まれていた仲間と一緒に回復ポーションを飲み合った。
「灰色の波に呑まれるかと焦ったぜ」
「あぁ」
「それにしても、シュウヤさんの血の能力は凄い。冒険者ギルドマスターの親戚か?」
「そうかも知れないわよ。吸血能力を有した存在はいるところにはいる」
「血の波頭、血を荒ぶる海のように扱える。そして、血の大本は小さい血鎖や血蛇が密集しながら凄まじい回転を起こしているみたい」
「へぇ、ゲツランの見る能力は全開か、もう盲目は切れたんだな」
「うん。暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーはダメージを受けたし、硝子の玉座も消えたからね。魔眼系の呪いも緩和されたか、効果が薄まったんでしょう」
キヴはわたしの言葉を聞いて頷いた。
そして、硝子の玉座を破壊した大きな箱のような部屋を見た。
「――そういうことか。シュウヤさんを運んできたあの大きな箱、部屋の遺跡は、神界セウロスの神々の心魂を宿した神遺物なのかも知れない? そして、シュウヤさんは神々の恩寵を宿した使者様。もしくは、【義遊暗行師】などの正義の神シャファ様の御使いかも知れない」
「正義の神シャファ様……ありえるわ。ゲ・ゲラ・トーは無辜の民の魂を大量に奪った。だから、正義の神シャファ様のお怒りが籠もった伝説の神杖カロン! ううん、振り下ろした神槌シャファドよ!」
「はは、一振りで五百の兵を薙ぎ倒すと言われた神槌シャファドか! 言えている。硝子の玉座も破壊したからな」
「うん、部屋だけどね、強烈な一撃! 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの体が真っ二つだったし、爽快だった」
「それはそうだが、復活の仕方が……そして、砂大蛇カルラと暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーに、わらわらと湧く骨魔騎士グランドル……あいつらは倒せる相手なのか?」
「……そんな顔をしないの! とにかく今はシュウヤさんたちを信じて見守りましょう。ほら、残りの薬を全部飲んで」
「あ、おう」
不安になるキヴの気持ちは分かる。
アレスとガラスが、銀、ううん、死の花となった。
二人はわたしたち冒険者パーティ【ノーザンクロス】の大事な前衛でエースの強者。
いつもわたしたちを守ってくれた頼もしい仲間だった。
命を救われたことも何回も。
ううん、この想いはあと……。
今は生きて、あの暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーを倒す!
といっても、シュウヤさんたちの戦いの邪魔にならないようにするだけだけど。
皆で、シュウヤさんを注視。
その黒髪の槍使いシュウヤさんは、
「相棒、ヘルメと連携だ。頼むぞ――」
「にゃごぉ」
相棒の黒虎ロロちゃん。
一瞬で黒豹となった。
ヘルメってなんだろう。
黒豹ロロちゃんは、体から橙色の魔力を発して前進。
両前足と両後ろ脚が前後する走りは、実に豹らしい。
大きな虎のときと違って、力強さが減ったけど、速度が増した。
その黒豹ロロちゃんは、走りながら砂大蛇カルラと骨魔騎士グランドルに触手攻撃を繰り出した。
砂大蛇カルラは、口から汚らしい突起物を飛ばす。
黒豹ロロちゃんの触手から骨の刃が飛び出て、砂大蛇カルラの突起物と衝突を繰り返した。
骨魔騎士グランドルは骨盾で黒豹ロロちゃんの触手の骨の刃を防ぐ。
防げていない骨魔騎士グランドルは体を貫かれて転倒。
黒豹ロロちゃんは骨魔騎士グランドルを気にせず走る。
橙色の魔力の粒々を体から放出。
小さい燕を形成しつつ儚く消えていた。
可愛いさと威厳さを兼ね備えた燕の炎よね。
そんな燕の炎を散らしている黒豹ロロちゃんはなんて素敵なのかしら!
あ、神々しい黒豹ロロちゃんは、燕の魔力を無数の炎刃に変えた?
――速すぎて分からない。
え? 黒豹ロロちゃん、わたしの気持ちが通じたの?
速度を落とした!
でもだめよ、落としちゃ!
あぁぁ、そんな黒豹ロロちゃんに、骨騎士の骨魔騎士グランドルたちが群がっていく。
エヴァさんたちは周囲の骨魔騎士グランドルと暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーに対する遠距離攻撃に必死だから、フォローは追いつかない!
骨魔騎士グランドルたちは、骨盾と骨剣で黒豹ロロちゃんの突進を止めるつもり?
あ、黒豹ちゃんに触れるか触れないかの距離で、骨剣も骨盾もあらぬ方向に跳ね返った!
背中に翼が生えた目玉のチビちゃんが、攻撃したの?
骨魔騎士グランドルは身を反らして吹き飛ぶ!
あはは、すごく強い黒豹ちゃんと目玉のチビちゃん!
吹き飛んだ骨魔騎士グランドルたちは錐揉み回転しながらバラバラに砕け散って、砂となって消えた。
すごーー。
すると、シュウヤさんは足を止めた。
黒豹ロロちゃんを心配したの?
シュウヤさんは、再び全身から<血魔力>を展開させる。
左目から液体?
ううん、女性の魔法生命体を出した。
どういう……水の幻獣? あ、水の精霊様?
その水の精霊様らしき存在と離れたシュウヤさん。
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーを睨みつつ、
「暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トー!! お前はゴルディーバ族だったのか!?」
そう叫んで聞いていた。
わざとシュウヤさんは敵の注意を引きつけるつもり?
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーと砂大蛇カルラ。
骨魔騎士グランドルの数も多いからね……。
すると、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーはシュウヤさんを睨む。わたしを動けなくした魔眼での攻撃?
ゲ・ゲラ・トーは自身の頭部の巻き角を骨の指で触ると、
「……そうだ、嘗てはな。我らが暁の墓碑の密使になる前、階梯を上る前だ」
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーはゴルディーバ族だったんだ。
ゴルディクス大砂漠に多い一族。
シュウヤさんの周囲の空間が上下左右に揺らいだ。
ゲ・ゲラ・トーは魔眼を使用していると思うけど、シュウヤさんは気にしていない。凄い精神力……。
「その暁の墓碑の密使とはなんだ?」
「……ゴルディーバといい、誤魔化すつもりか。異質な血を扱う暁闇の槍使い。お前たちは暁の黄金都市ムーゴの支配層エンティラマの一団であろう」
なに? 支配層エンティラマ?
シュウヤさんたちが支配層エンティラマ?
シュウヤさんたちは、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの過去を知っている?
思わず、近くにいるビーサさんたちを見る。
ビーサさんは光る魔剣を袈裟斬りに振るう。
骨魔騎士グランドルの骨盾ごと体を斜めに分断して斬り倒していた。
凄い魔剣師さん。
種族はきっとソサリー種族ね!
そのビーサさん、
「――気になさらず。暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーはシュウヤ、師匠を惑わそうとしているのでしょう」
そう言ってくれた。
シュウヤさんはビーサさんの師匠なのね。
素晴らしい剣術も見せていたシュウヤさんだから納得。
そのビーサさんに頷いて、
「はい」
すると、前方で暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーと対峙中のシュウヤさんが、
「……支配層とは【暁の帝国】のことか? 勘違いしているようだが、俺たちは〝今を生きる〟光魔ルシヴァルだ。ラマは可愛いから好きだが、エンティラマとやらは知らない。地底神の奴らがなんか言っていたことは覚えている」
「エンティラマの支配層を知らぬ? ルシヴァル? 復活を許さぬ我らを追う光側の存在ではないというのか」
「追う存在ではない。皮膚の内部に刻むID、ルシフェラーゼではないからな? そして、一方的な見地から、何様のつもりか分からねぇが、人を制限し、人の命を管理し、人を家畜と見なす愛とは正反対の『Sustainable Development Goals』の一部にいる悪魔のような国際集団でもない。で、暁の墓碑の密使とはなんだと聞いている」
シュウヤさんの語る言葉の発音が途中で変化していた。
この塔烈中立都市セナアプアにもそんな悪い集団がいるってことかしら、
「分からぬ言葉が混じるが……ルシヴァルとやらは、エンティラマと通じる髑髏武人ダモアヌンの一派と同じであろう?」
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーはキサラさんを見る。
「闇と光に通じたダモアヌンなら、キサラがいるから知っている。光魔ルシヴァルもそうだ」
「ダモアヌンを知る光魔ルシヴァルか! しかし、支配層ではないという……ちぐはぐさがあるが……『帝国の仇し種』であるのには変わらん! 暁蒙髑髏魔人ダモアヌンとも言われた、それらダモアヌンの一派の砂漠烏のなれの果てが、光魔ルシヴァルという種族か! 見知らぬブラッドマジックを扱える種族特性を持つ理由であるな」
シュウヤさんたちを意味しているの?
いまいち、分からない。
「俺たちは今を生きていると言っただろう。だいたい【暁の帝国】は何千年も前の国の名だ。その詳細をすべて知っているほうが珍しい。で、最後にもう一度だけ聞くが、暁の墓碑の密使とはなんだ?」
「暁の墓碑の密使とは、エンティラマの一部であり高位魔力層でもある。暁の魔導技術の担い手の支配層の一派である」
「同時に、ゴルディーバ族から進化した怪しい不死種族でもあるのか」
「……ゴルディーバなぞ古き価値観を持つ種族にすぎん。進化に犠牲はつきもの」
犠牲? 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーはそう発言。
双眸の魔眼を強めている?
砂大蛇カルラは鴉の大軍を喰らって慌てていた。
すると、大柄の骨魔騎士グラサードを倒し、砂大蛇カルラを牽制するための鴉の魔法を繰り出していたキサラさんが、魔槍を暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーに差し向けて、
「ゲ・ゲラ・トー! ゴルディーバ族は貴方の一族でもあったのでしょう?」
「邪教の教えに染まった者共などと同じにするな」
「……暁の魔導技術の担い手の、支配層の一派が行った進化に犠牲とは、古き価値観の種族たち、いえ、古代ドワーフ、その当時のすべての民を生贄にしたということですか?」
「だったらなんだというのだ」
「極楽浄土さえも温い死を送るまで」
「……ふはは、邪教が我に説教か。当時を知らぬだろう」
「知りませんが……言い伝えは聞いています」
「……言い伝えか。大砂漠となったゴルディクスに生き残った者たちがいたようだな」
「当たり前です!」
「が、黄金都市ムーゴは酷いありさま。黄金に群がる腐敗に塗れた支配層。一般層でさえも黄金に群がり、欲望が肥大し、殺人、破壊行為は増え続けていたのだぞ」
「……」
「で、邪教の女。お前の持つ魔槍は、姫魔鬼武装最高宝具ダモアヌンの魔槍であろう」
「はい。そしてわたしは、嘗ては【黒魔女教団】の四天魔女の一人でしたが、今は光魔ルシヴァルの<
キサラさんはダモアヌンの魔女でもあるのね。
「やはり、連綿と続いていた【黒魔女教団】の四天魔女であるのだな! そして、闇であり光を背負う者ならば、古往今来、変わらぬ邪教である証明!」
「邪教ではない! 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの頭蓋骨の中身は、瘴気で満ちているようですね」
「ふむ。じつに古き価値観に囚われた種族、その末裔らしい邪なる言葉だ。<暁暗ノ霊廟>に取り憑かれた者共と変わらんな」
「貴方もその一族だったのでしょう!」
「五月蠅い! メファーラの武闘血を浴びた邪教が! 黄金と至高の栄誉に釣られた狂い烏の戯れ言が!! そこの黒髪の光魔ルシヴァルとやらも、邪教の集団であろうが!」
「……当時のことは知りませんが、シュウヤ様を愚弄するとは万死に値します。そして、シュウヤ様は、
「あぁ? 子供も夢中になった救世主伝説か。まさに帝国に仇をなす思想の極み。邪教の極みでもある」
「ゲ・ゲラ・トー。あなたたちこそ邪の極み。人としての愛と理性を忘れた、子供にさえ悪を教える、シュウヤ様がよくお話しされている優しく愛を説きながら大切に育てる想い、涵養さを忘れた哀れな方々……」
「哀れだと!? ダモアヌンの魔女が何をほざく! 闇遊の姫魔鬼メファーラ、知記憶の王樹キュルハ、光神ルロディスと関わる髑髏武人ダモアヌンの血を受け継ぎし者! お前に……」
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーが手に魔杖を出す。
「暁の墓碑の密使として罰を下す――」
魔杖から魔刃を繰り出した。
魔刃はキサラさんに向かう。
「なにが罰だ、ゲ・ゲラ・トー!」
ダークエルフの射手さんが光の矢を飛ばす。
「ん、許せない――」
「うん、なにが罰よ! ほんっとゲラゲラ阿呆ポイ!」
「はい、屑な連中、高尚気分の目線の塊――」
「うん。ヴィーネ、もっと連射! ビーサとミスティ、近寄る骨騎士は頼むわね――」
「任せて」
「はい」
エヴァさんの扱う金属の刃がゲ・ゲラ・トーに向かう。
リサナさんとミスティさんが乗る
それらの攻撃が暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーが繰り出した魔刃を貫く。
更に、連続した光の矢と蒼炎の槍が、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーに向かった。
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは上昇。
自身の体から幽体のようなモノを発して逃げた。
エルフさんが繰り出す蒼炎弾と衝突した幽体は、蒼く燃えて閃光を発しながら消えていた。
「暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トー! 俺ではなくキサラに手を出すとはな――」
シュウヤさんが怒った。
<血鎖の饗宴>を纏う?
凄い、いきなり魔力が増えた?
魔力が体を巡る。
<血魔力>と<魔闘術>が融合したような感覚を受けた。
血の鴉がシュウヤさんの周囲に――。
あ、跳躍――。
歪な魔力の手?
それを踏み台にして暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーに向かった。
ゲ・ゲラ・トーは、
「ふむ――」
魔眼の能力?
右の魔眼の前にシュウヤさんと似た姿の魔力体が出現。
その魔力体とシュウヤさんが激突。
二人の熟練した槍捌きが宙空で大展開。
二振りの魔槍を振るい、突いては、柄で突きと払いを防ぐ。
凄い……<刺突>、ううん、<刺突>系の連続攻撃?
石突が回る動きも同じ。左手の鎖の攻撃。同じ!
あ、右腕の肘から別の腕が、え、偽物も同じ。
<豪閃>の十字矛の聖槍? が衝突しあう。
左手で体躯の挙動を喰らわせるフェイクも同じ。
一瞬、どっちが本物か分からなくなった。
互いに孤を宙に描く軌道で魔槍をぶつけあった。
距離を取ったシュウヤさんとシュウヤさんのそっくりさんの、<刺突>と<刺突>が衝突する。
魔槍の穂先同士から閃光が走った。
「ん、シュウヤ……」
「エヴァ、シュウヤを信じるんでしょ、あんな偽物シュウヤなんて余裕よ……」
「はい。イモリザの第三の腕を巧みに使う三槍流には偽物も対処が遅れています」
「ん、大本はゲ・ゲラ・トーの魔眼能力?」
「そうかも知れない」
「でも、マスターと互角って相当よ?」
ミスティさんの発言に頷いた。
シュウヤさんと偽物シュウヤさんは、正確に動きを読み合う。鏡像を見ているように、柄頭のフェイントを読みあって、魔槍を奪いながら肩の打撃から身を捻って<豪閃>を繰り出すところまでそっくり。
「……そういうことを素で言わない、って左に新手」
「そう言うレベッカも不安が顔に出ているわよ? でも、わたしたちはわたしたちでがんばりましょう――」
骨魔騎士グランドルが左から現れる。
ビーサさんとミスティさんが乗る
「お兄様が二人……でも、偽物は偽物。いずれは本物のお兄様が勝ちます!」
眼鏡っ娘も骨魔騎士グランドルに攻撃魔法を衝突させていた。
「シュウヤ様――」
キサラさんは群がってきた骨魔騎士グランドルを倒していた。
そして、黒豹ロロちゃんと水の精霊様は砂大蛇カルラに向かう。連携しながら砂大蛇カルラを倒すようね。
あ、五十合を打ち合ったところで、魔力の歪な手を使った本物のシュウヤさんが偽物のシュウヤさんに競り勝った。
凄い戦い――刹那、シュウヤさんは全身から血を発した。
シュウヤさんの体と衣服から出た血は、それぞれ意識があるような動きを見せて、宙空で放射状に分かれる。
――綺麗。
血は宙空で大きな波頭の群れを形成。
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーを飲み込む勢い。
砂大蛇カルラは暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーを守ろうとしたのか、頭部をシュウヤさんに向ける。
「ジャアァァァ」
「にゃごぉぉぉ――」
え? うそ――。
黒豹ロロちゃんが、今度は巨大な黒猫ロロちゃんに?
その巨大な黒猫ロロちゃんが砂の大蛇を襲う。
頭部を丸齧り。
ひゃぁ、砂大蛇カルラの頭部を食べちゃった。
「――我のカルラが!?」
「ジァェェ――」
砂大蛇カルラのちょん切れた首の傷は異質な音を響かせながら上下左右に動き回り砂状の血飛沫を散らせていった。
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは、手元に召喚した魔法の杖を振るう。
杖から虹色の刃を出した。
シュウヤさんの<血鎖の饗宴>の血の波頭を連続的に繰り出したその虹色の刃で切断。
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは血の囲いを突破。
そこに、光の矢と金属の刃が向かう。
エヴァさんたちのタイミングのいい連携攻撃!
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーはエヴァさんたちの攻撃を察知した。
眼窩の魔眼を煌めかせる。
「妙なる間の連携攻撃である。小賢しい――」
魔眼から魔力の波動を発した。
魔力の波動は空間を湾曲させる?
血の波頭の一部と光の矢と金属の刃を空間ごと折るように防いだ。あんな時空属性を有した攻撃?
守りの<古代魔法>なんて知らないわ……。
なんなの、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トー……。
怖すぎる。
でも、砂大蛇カルラの体に幅の太い氷の槍が無数に突き刺さって瞬時に氷の彫像化。
水の精霊様の強烈な《
ポージングが素敵。
おっぱいが揺れて、お尻が少し輝いた?
スタイルがいいし、神々しい……。
不思議とドキッとしちゃう。
すると、「ンンンン――」大きな喉声が響いてきた。
巨大な黒猫ロロちゃん!
あ、
「にゃごお」
と言いながら氷の彫像となった砂大蛇カルラに飛び掛かる。
氷の彫像となっていたカルラの体は砕けて、凍った肉片が散る。砂と化す凍った肉片もあった。
巨大な黒猫ロロちゃんは砂大蛇カルラを食べたかった?
その巨大な黒猫ロロちゃんは口を拡げて牙を晒す。
喉から火が、
「にゃごおおおおお」
――ひぃぃ。
強烈な炎が砕け散ったカルラの体を焼却。
砂や硝子にも変化せず消える。
あれ、水の精霊様も消えちゃった。
あ、
「ふぅ……ロロ様、恐怖でしたが、閣下! ここの守りはお任せを!」
いつの間にか美人な水の精霊様が隣に……。
「おう。ゲ・ゲラ・トーと残りの骨騎士軍団は、俺と相棒に任せろ。キサラ、あのゲ・ゲラ・トーは、俺のそっくりさんを出したように、まだ奥の手があるはずだ。フォローに回ってくれ」
「分かりました。気を付けてください」
前進した黒髪のシュウヤさん。
キサラさんは少し後退。
シュウヤさんは漆黒の傘槍を右手で握る。
傘の生地は素敵だった。
その傘槍以外の魔槍類は<血魔力>で、彼の周囲に浮いている。
<血魔力>と<導魔術>系のスキルだと思う。
橙色の偃月刀のような穂先を持つ魔槍。
二つの三日月を擁した白銀の槍。
魔槍に見えないから、まさか、神槍だったりして。
黄色い短槍。
魔印が刻まれている魔槍?
骨騎士の骨魔騎士グランドルを数体倒したシュウヤさん。
十字架の形をした樹の魔槍を地面に刺す。
樹と硬い魔鋼で造られていそうな特殊な魔槍を、どうして地面に刺したの?
あ、その特殊な魔槍から胡坐を掻いた怪人の幻影が出現しては消えてを繰り返す。
怪人は魔力の波動を周囲に飛ばしている?
その魔槍から離れて、再び前進するシュウヤさん。
周囲に浮かぶ<血魔力>で操作する魔槍の群れが――。
骨魔騎士グランドルを次々に屠る。
骨魔騎士グラサードも倒していた。
すると、キサラさんが、
「……遙場ありテ遠きかな、中道をゆく燻り狂えル砂漠烏、炯々に燃えゆク槍武人ダモアヌン、暁の魔道技術の担い手<光と闇の運び手>を探し、神ノ恵みを顧みない魔人と神人を貫きテ……法力の怪物に敗れしも、尚もセラをも貫くさんとすル」
声が素敵すぎる――。
キサラさんは歌手でもあるの?
詩は、ゲ・ゲラ・トーと戦うシュウヤさんを意味しているのね。
あ、兜からマスクに、そのマスクも頭部の一部に収斂されて消えた。
綺麗な蒼い瞳……。
衣装をまた少し変化させていた。
臍が見えるスカートとガーターベルト系の衣装から覗く太股が素敵。
そして、青白く透き通る硝子の白肌が、とても綺麗。
綺麗すぎるから嫉妬。
う、シュウヤさんを見る!
シュウヤさんの周囲に、別のシュウヤさんが見えたような気がした。一つ一つの魔槍と神槍を操る槍使いが別にいるように錯覚してしまう。
骨魔騎士グランドルを貫き、潰し、倒す。
大柄の骨魔騎士グラサードさえも何十手もの攻撃を繰り出して倒していた。
そんな槍武術の達人のシュウヤさん。
あれ、槍を仕舞って魔剣を出した。
――え? その魔剣から黒い髪の毛が出た。
ええ? 女性に変化して、その魔剣を握ると、そのまま魔剣を振るって骨魔騎士グランドルを袈裟斬りにする黒髪の女性。
その黒髪の女性と離れたシュウヤさんの腰に魔力が集まる。
え? うそ、なんで腰の書物から、翼を生やした女性が出現するの?
すると、近くの金髪が綺麗なエルフさんが、
「あ、フィナプルスの夜会を使ったのね」
と発言。
「ご主人様が、珍しい」
「数が多いし、シュウヤと似た槍使いに驚いたんでしょう」
「ん、シュウヤを信じる!」
「はい、珍しいですが、ご主人様の武功は天下一。ドッペルゲンガーが出ようが、対処は可能!」
そう発言する皆さんも強い。
光の矢と金属の刃が骨魔騎士グランドルの体をそれぞれ貫いて破壊していた。
「うん。ドッペルゲンガーを出せるゲ・ゲラ・トーには、他にも秘策がありそうね――」
光の剣を振るう
眼鏡っ娘も、杖から無属性の攻撃魔法を繰り出していた。
皆さんの活躍はありがたいけど、どうしてもシュウヤさんのほうを見てしまう――。
黒い瞳が素敵で、腹筋が素敵すぎるシュウヤさん。
血を纏うし、吸血鬼っぽいけどいい!
半袖の衣装も素敵だし、生き残れたらデートしてほしいな。
あぁ、何を、わたしはかんがえているの。
不純なことは考えず皆さんにがんばってもらわないと。
ローブ姿の黒髪のフィナプルスさんはレイピアを真っ直ぐ伸ばしつつ前進。
翼を羽ばたかせて一気に前方の骨騎士の軍団を吹き飛ばしつつ祭壇の出入り口に向かった。
わわわ、骨騎士の軍団の数が極端に減った。
これは幻? ううん、現実よね……。
◇◆◇◆
フィナプルスの勢いはモーゼの十戒を思い出す。
さて、正面側はマルアとフィナプルスに任せるとして――。
左から迫る骨騎士たちを掃除しよう。
同時にゲ・ゲラ・トーの位置を把握。
ゲ・ゲラ・トーは宙空を飛翔中。
あの野郎の俺を模倣する魔眼のスキルは凶悪だ。
<魔手太陰肺経>を意識した<蓬莱無陀蹴>と<槍組手>に<水雅・魔連穿>などを完璧なタイミングで合わせてきた俺を見たときは正直、生きた心地がしなかった。
<血想槍>――。
前進しながら神槍ガンジスと魔槍杖バルドークを使う。
<双豪閃>を発動――。
複数の骨騎士を一度に吹き飛ばす。
鈍い衝撃音が響く中――。
右手が握る夜王の傘セイヴァルトの傘を閉じた。
その右手が握る夜王の傘セイヴァルトを振り抜いた。
<豪閃>――骨騎士の首を刎ねた。感触は、砂――。
骨と鉄も混じるが、まぁ倒したと思いたい。
真上から飛び掛かってきた無数の骨騎士たちには――。
<
大量の砂埃が噴出したように散る。
そして、再度<水神の呼び声>を発動。
水蒸気的な噴霧が砂塵を吹き飛ばす。
同時に跳躍――。
「槍使い、我に近付いても無駄だ」
低い声で言う。
ゲ・ゲラ・トー。
あの魔眼を使う前に――。
夜王の傘セイヴァルトから<夜王鴉旗槍ウィセス>――。
鴉たちと漆黒の槍が一気に飛翔。
《
――<
<鎖>も出す――。
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは半透明な自身の分身を無数に出しつつ魔力の波動を出して後退。
狙い通り迎撃行動に入った。
超小型の虹色の積層した魔法陣に<鎖>を打ち消される。
あの防御方法は初か。
精神にダメージを喰らう。
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは強い。
『<神剣・三叉法具サラテン>たち、用意はいいな――』
『『はい』』
<
<瞑道・瞑水>。
<瞑道・霊闘法被>――。
「ふむ、まだ秘策があるか――」
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの言葉に笑顔を送る。
同時に右手に魔槍杖バルドークを出す。
――素早く<血穿・炎狼牙>――。
血槍魔流技術系統:最上位亜種突きを、牽制に使う。
一瞬で、魔槍杖バルドークを覆う俺の血という血が――。
うねってせり上がるや血の炎になって大きな狼に進化。
「グォォォ」
大きな炎狼は咆哮を発した。
そして、紅矛の穂先と重なる。
炎狼と魔槍杖バルドークは一体化――。
その魔槍杖バルドークの穂先から巨大な血の炎狼が飛び出ていった。
血の炎狼が暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーに向かう。
刹那、<脳脊魔速>――。
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは、大きな炎狼に反応。
俺の動きに合わせられるだけの加速スキルがあるようで、合わせようとしたが、遅い――。
腰の魔軍夜行ノ槍業を意識。
速やかに――。
<火焔光背>を実行。
ゲ・ゲラ・トーが発した幻影魔力を吸い込む――。
続いて、独鈷魔槍の<塔魂魔突>で、魔法陣を打ち消す。
「――魔界セブドラだと!?」
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは驚いていた。
あの頭蓋骨、師匠と同じような巻き角は似合わない!
――螺旋突貫する<獄魔破豪>で――。
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの胴体をぶち抜いた。
宙空で<導想魔手>を蹴ってターン――。
左手に魔槍杖バルドークを出して<双豪閃>。
嵐雲と似た穂先が暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの左腕から肩を切断。
右手の独鈷魔槍がゲ・ゲラ・トーの脇腹を抉った。
肉片的な骨と鋼と砂に内臓類が砂となって散る。
しかし、砂は繊維の束となるや瞬時に筋肉繊維、骨、鋼の鎧部位となってゲ・ゲラ・トーの肉体を再生させた。
構わず暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの背後から<女帝衝城>――。
血の茨を彷彿する魔槍の群れが、迸る。
俺の血を触媒とした女帝槍レプイレスさんの幻影が出現。
女帝槍レプイレスさんは血濡れた魔槍の群れを従えつつ突進。暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーを貫きまくる。
暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは内臓と心臓的な丸い塊が付いた脊髄を残すのみとなった。
『妾の弟子よ、良い<女帝衝城>である――』
最後に右手に神槍ガンジスを召喚。
<女帝衝城>の女帝槍レプイレスさんが消えた直後――。
<光穿・雷不>を発動。
<光穿>の神槍ガンジスが直進。方天画戟と似た二つの三日月刃を擁した鋭い矛がゲ・ゲラ・トーの心臓部らしき脊髄を穿った。
刹那――。
貫いた脊髄から半透明の暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーが逃げるように出現。
その半透明の暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーを追うように――。
雷鳴を鳴らしつつ
その巨大な光雷の矛は、瞬く魔に、雷鳴を一点に集約させるように逃走しようとした半透明の暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーを貫いた。ゲ・ゲラ・トーは閃光を発して散る。
巨大な光雷の矛の<光穿・雷不>はゲ・ゲラ・トーの閃光さえも許さない光神ルロディス様の怒りを表現したような轟雷を鳴らし、周囲に激しい放電を起こした。
刹那、ゲ・ゲラ・トーの滓のような魔力粒子が蒸発するように消える。
よっしゃ――。
神々しい巨大な<光穿・雷不>がゲ・ゲラ・トーの幻影ごと残りの肉片を蒸発させた。相性もあるとは思うが威力は凄まじい。
巨大な光雷の矛は虚空に消えてきた。
下を見ると、魔力を帯びた砂ごと残っていた骨騎士たちも消えていく。
皆の喜ぶ顔を見て、初めて勝利したと確信。
相棒が飛翔してきた。
「ンンン――」
巨大な黒猫ロロディーヌ。
巨大猫がまっしぐら――。
まん丸お目目は可愛いが、このままだと、吹き飛ばされる?
俺、大丈夫か?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます