八百八話 暁の骨魔人造軍団との戦い


 ◇◆◇◆



 突如、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの背後が爆発。【幻瞑暗黒回廊】から出現したセンティアの部屋に吹き飛ばされた<永久のジェシアルバ>の魔極硝子の玉座が魔法陣と共に木っ端微塵に破壊された。

 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーも衝撃を受けて上半身が捻れて千切れた。

 傷から砂状の血飛沫、硝子の破片、骨の破片、鋼の破片を散らしながら暁の骨魔人造軍団の骨魔騎士グランドルと衝突。が、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは<暁ノ不死波動>を発動。衝突した骨魔騎士グランドルの残骸と生きた骨魔騎士グランドルを吸収するや、千切れた体は瞬時にくっ付いて回復を果たした。

 一方、暁の骨魔人造軍団の骨魔騎士グランドルの骨魔騎士グラサードに、元、暁の帝国の大賢者ウベルス、大賢者アレアベルは、<永久のジェシアルバ>の破片を防ぎ切れずダメージを負っていた。


 倒れた骨魔騎士グランドルは砂となる。

 大広間のいたるところに小砂丘ができていた。


 当然、生き残った冒険者たちは大いに驚いている。


 そして、センティアの部屋を覆う魔力の膜が消えた。

 正面の黄金と銀の扉が出現。


 扉が開いた。

 センティアの部屋から飛び出たのは――。


 槍使いシュウヤ――。

 黒猫ロロディーヌ。

 

 もとい、黒虎ロロディーヌ。


 その槍使いと黒虎は駆け下りる。 

 槍使いは掌握察と魔察眼を行う。


 橙色の魔力を帯びた黒虎ロロディーヌは――。

 武装魔霊アドゥムブラリの面頬めんぽおを被っている。


 額に神獣とつばめを意味する小型の意匠があり、アドゥムブラリの単眼球もあった。


 ベンガルトラを優に超えた体格は立派だ。

 首の両端から生えた四本の触手が胴体の左右で尻尾のようになびく。

 触手の裏側に備わる桃色と白色が混じる肉球が見え隠れ。

 

 シュウヤは、そんな黒虎ロロディーヌを守るように<血魔力>を強めて前に出る。


 ゼロコンマ数秒もかけずフード付きの半袖の衣装を違う衣装に変化させた。

 

 シュウヤの新しい衣装は血色の半袖シャツで、<血鎖の饗宴>で造る夏服versionの衣装だ。


 腹筋と脇の皮膚が覗く。

 腹筋と胸元を覆う漆黒の新下着は竜頭金属甲ハルホンクが吸収したミスランの法衣、魔竜王バルドークの鎧、ギュノスモロンなどの複合素材が用いられている。

 

 薄着ではあるが防御力は異常に高い。

 そんなシュウヤとロロディーヌは、生きている冒険者たちを視認。



 ◇◆◇◆


 

 助っ人!

 <速魔体全闘解>を発動。

 <撃剣迅魔導師>の戦闘職業の実力を活かす!


 ――両方とも異常に素早い。

 <速魔体全闘解>でなんとか動きを捉えることができた。


 黒髪の槍使いは前傾姿勢で斜め下に突進。


 血の足跡も残らない。

 目にも留まらぬ速さでわたしの近くにいる骨魔騎士グランドルとの間合いを詰めた。


 吸血鬼なの?

 黒髪の槍使いは、漆黒の魔槍を持つ。

 左足の迅速な踏み込みから、加速でブレた右腕が前に伸びたと錯覚するような電光石火の『一の槍』の<刺突>を繰り出した。


 素晴らしい風槍流の一撃。

 骨魔騎士グランドルの体を盾ごとあっさり貫く銀色の矛。


 え? 螻蛄首が膨れる――。

 あ、漆黒の柄の表面が外に拡がった?

 

 ――あ、漆黒の槍は漆黒の傘だったの!?

 

 骨魔騎士グランドルの体を、その黒の傘の生地が開いて破壊していた。

 黒髪の槍使いは爪先を軸とする横回転を行う。

 

 凄い速い。

 風槍流の武芸者で黒髪の男性。

 神王位上位級の実力を秘めた方は意外に多いから、あの黒髪の槍使いもそうに違いないわ。


「――うぬらぁぁぁぁ」


 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの反撃。

 ――大量の砂の蛇の群れで皆を始末するつもり?

 

 刹那、熱波を感じた。

 紅蓮の炎が黒髪の槍使いの左前方へと拡がった。

 やや遅れてゴォッという鈍い音が耳を劈く。


 黒虎が吐いた強烈な炎!

 砂の蛇の群れは一瞬で焼却処分!

 暁の骨魔人造軍団の骨魔騎士たちも消える。


 硝子さえ蒸発させたってこと?

 一部は硝子状のオブジェと化した。


 続いて、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーたちを吹き飛ばした部屋の扉から出た女性が突進。


 黒い兜を被る鉄衣と黒衣の節々から血が溢れ出る。

 <血魔力>? あの女性も吸血鬼なの?


 髑髏の穂先の孔から無数の輝く紐が放射状に拡がると、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トー、暁の骨魔人造軍団、骨の隊長たちへと向かう。

 

 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは、砂の盾で輝く紐を受け止め後退。


 骨の魔術師の片方は魔杖を振るいつつ後退。

 魔杖から闇と光の糸が出ていた。

 輝く紐は闇の糸を切断。


 弓を持つ射手のような存在も部屋から現れる。

 背中に翼があったけど、耳が長く見えた。

 

 でも、骨の魔術師は動きが素早い。

 わたしたちを拘束していた闇と光の糸を扱うし、強いわね。


 あ、もう一体の骨の魔術師には輝く紐の攻撃が絡まっていた。


 チャンス?


 烏の嘴のような兜が似合う女性の槍使い。

 魔槍の孔に輝く紐を収斂させる。

 その孔に引き込む反動を活かすように加速。

 更に背中から血の翼が迸るように<血魔力>を発した。

 

 体が消えたように加速。

 気付いたら骨の魔術師との間合いが零に――。

 

 突き出た髑髏の穂先が骨の魔術師の頭部を捕らえた。


 その頭蓋骨が瞬時に消し飛んでいた。


 凄い一撃。

 

 刹那、槍使いの女性は体の魔力を強めた。

 <血魔力>も体から放出。

 続けざまに体がブレる速度で迅速な突き技を繰り出した。


 骨の魔術師の胴体に無数の風穴が空いた。


 骨の魔術師の衣はズタボロ。

 不死系だと思うけど、回復速度が追いつかない連続的な突き技は強力!


 髑髏の穂先が少し変化していたし、スキルかな。

 

 全身を貫かれた骨の魔術師は砂にならず。

 槍使いの女性に魔力を吸われて消えた。


 骨魔騎士グランドルたちの指揮官的で強い骨の魔術師モンスターを一瞬で倒すなんて、凄い槍使いの女性!


 その槍使いの女性は一瞬で、鉄衣と修道女風の衣装が合わさったような防御服をノースリーブの黒ドレス衣装へと変化させる。

 

 へぇ、魔装天狗系の防護服?

 武器と防具に槍武術の腕も超一流。


 神界セウロスと関係した仙女風の、血の衣のヒラヒラも増えていた。


 華麗。

 続いて、宙空から光の矢を放っている射手を注視。


 光の矢を喰らった骨魔騎士グランドルは緑色の蛇模様を周囲に発して内部から破裂しながら大爆発。


 強力なマジックアロー!

 《光槍の罰シャイニングランサー》的な光の矢だけど、緑色の魔力は毒?

 

 光の矢を放つ射手は銀髪の女性。

 青白い肌で耳が長い。

 エルフの亜種かしら?

 茶色の肌のエルフなら……。

 あ、伝説のダークエルフ?


 それとも、肌を強化する魔法を発動中だから青白く見えているだけ?


 そして、高レベルの<魔闘術>。

 無数の<血魔力>を帯びた光の矢が――。

 

 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トー――。

 骨魔騎士グランドル。

 ――強い骨の魔術師。

 大柄の骨魔騎士グラサードに向かう。


 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは退きながら――。

 虹色の魔刃を体から出して光の矢を迎撃し撃ち落とす。


 骨の魔術師は魔杖から出した闇と光の糸で、光の矢を弾いて防ぐ。


 骨騎士の骨魔騎士グランドルは防げない。

 光の矢が刺さった骨魔騎士グランドルは砂になって散った。


 あの緑色の魔力を放出している弓は、指の動きに合わせて光の弦と光の矢が瞬時に出現している。緑色の魔力は青白い両腕に絡まっていた。


 弓は小さくも大きくもなる。


 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは、そんな威力がありそうな光の矢を尽(ことごと)く撃ち落とす。


 骨の魔術師も魔杖から出した闇と光の糸を靡かせて、光の矢を連続的に弾く。


 光剣を振るって杭刃を喰らわせる魔導人形ウォーガノフと一体化している女性も凄まじいわ。


 空も飛んでいるし、あんな高機動の魔導人形ウォーガノフは見たことがない。

 

 あ、キラキラ光る魔剣を迅速に振るいつつ数体の骨魔騎士を斬り伏せている女性も凄い。


 後頭部から桃色の魔力粒子を散らしている?

 種族は魔族系?


 あ、もしかしたら、ソサリー?


 車椅子に乗った魔法使いも体から紫色の魔力を発して宙に浮く時がある。


 車椅子を活かした戦い方が巧み。

 眼鏡をかけた若い女性を守るように戦っているのね。


 近付く骨魔騎士たちを両手のトンファーで破壊している。


 蒼炎を纏うエルフも素早いわ。

 拳の剣刃かと思いきや、魔導師でもあり、調教師?


 二匹の小型ドラゴンを操って車椅子を操る黒髪の女性と眼鏡の女性を守りつつ、形を変えた蒼炎の武器魔法を骨魔騎士たちに浴びせている。


 無詠唱の蒼炎魔法と魔杖も扱う金髪エルフ。

 器用な女性で強い。


 そして、二匹の小型ドラゴンも使役してる!

 

 二匹のドラゴンを眼鏡っ娘と魔導人形ウォーガノフのフォローに回して詠唱を開始。

 

 王級規模と目される火炎魔法を繰り出していた。


 右側と出入り口付近の骨魔騎士グランドルの一団が烈火のごとく燃える。


 燃えた骨魔騎士グランドルは砂と化した。


 先ほどの黒虎が放った紅蓮の炎のほうが強力だったけど……。


 エルフが放った火炎魔法も凄まじい。

 骨魔騎士グランドルの数はまだまだ多いけど、確実に減っている。


 この方々は凄すぎる。


 すると、リーダー格だと思われる黒髪の槍使いが、わたしを見た。


 険しい表情。

 でも吸い込まれそうな黒い瞳は素敵。


「そこの美人さんの冒険者さん、大丈夫ですか?」

「あ、はい!」


 自然と反射のように微笑みを讃えた黒髪の槍使いに返事をしていた。


 わたしを美人だって!


 嬉しい、あ、化粧は大丈夫かしら。


 あ、わたし、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーから魔眼の攻撃を受けていたけど、回復しているようね……。

 

 その黒髪の槍使いは、


「皆、冒険者を守りながら、骨騎士の軍団を倒そうか。あの角ありの骨の魔術師が、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーだろう。徐々に追い込むぞ!」

「「はい!」」


 黒髪の槍使いは、仲間たちに指示を出した。


 自然と、皆様に頭を下げて『お願いします』と助けてくれた礼を態度で示す。


 黒髪の槍使いは周囲を見ながら――。

 

 瓢箪のような大きい壺を出した。

 そして、車椅子に座る女性の近くに設置。

 え、その大きい壺から女性が飛び出た。


「ん!」

「リサナ、骨騎士の軍団と骨の魔術師が敵だ。ディアと見知らぬ冒険者たちの守りを優先」

「はい! シュウヤ様!」


 黒髪の槍使いの名はシュウヤ。

 シュウヤさんなのね。


「ん、ロロちゃん、右に移動して!」

「にゃおお」


 車椅子に乗る女性の声を聞いた黒虎は右に素早く移動。

 

 名前はロロちゃん、可愛い!

 黒髪の女性は、金属の刃の群れを紫色の魔力と<血魔力>で操作できる。


 紫と血の二色の魔力を纏う金属の刃。

 その金属の刃の群れが、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーと骨の魔術師に向かった。


 金属の刃の群れは、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーが体から発した虹色の魔刃を粉砕。 

 そのまま暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの体に突き刺さる。


「チッ」


 凄い、ダメージを与えた!

 金属の刃は暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーと相性が良いのね。


 更に金属の刃の群れは、骨の魔術師の魔杖から出た闇の糸を切断。直進して骨の魔術師の体を貫いて砂丘をも貫く。


 骨の魔術師の体は穴だらけ。

 血飛沫のような砂、硝子、鋼が周囲に散る。


「「おお」」


 わたしたちは思わず歓声を上げた!

 闇と光の糸を魔杖から発する強い骨の魔術師が大ダメージを受けるとか!


 墜落したところに蒼炎の槍が突き刺さった。

 骨の魔術師は爆発しながら散った。


 わ、凄い!

 わたしたちを捕らえていた骨の魔術師が倒れた。


「ウベルスとアレアベルをよくも! 許せん」


 指揮官のような存在が倒れたことで、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーが怒った。

 

 同時に焦りがある。

 わたしたちを死の花に変化させていた頃とは雲泥の差。


 これはチャンス!


 車椅子に乗った女性は――。

 車輪から環の金属の刃を出した。

 

 その環の金属の刃で――。

 骨魔騎士グランドルを二体輪切りに両断――。環の金属の刃は回りに回り続けて、他の骨魔騎士グランドル三体をも一瞬で斬り刻む。


 <導魔術>系統の能力者!

 しかもかなり高レベル、凄すぎ。

 

 そして、第三の魔法の目でも宙空に展開中なの?


 俯瞰視点で戦場の観察が可能な特異な幻獣を使役中?


 ――宙にはなにもないから違うようね。


 そして、上半身の半分が透けているリサナさんは大きな壺から飛び出た。

 

 魔術師のような帽子を被っている。

 鹿のような角が出ていた。


 不思議な植物の精霊様?

 足はちゃんとあるのね。


 そのリサナさん、


「ここの守りはお任せください! <魔鹿フーガの手>」


 大きい壺の左右から一対の巨大な黒い腕が誕生。

 リサナさんは前に出ながら前方の砂を叩いて砂を散らした。その砂塵の中から骨魔騎士グランドルが現れたけど巨大な黒い腕がすぐさま振るい落とされた。

 巨大な黒い腕っていうより、巨大ハンマー!

 骨魔騎士グランドルの頭蓋骨から胴体までを一気に押し潰す。

 

 震動が怖い、そして、砂ごと地面が陥没しているし、凄い威力。

 砂塵が余計に舞ったけど、我慢。

 

 リサナさんは簡易的な砦になりそう。

 ありがたいわ。


 続いて、浮遊した黒髪の女性。


 車椅子に紫色の魔力を纏わせる。

 と、一瞬で車輪を巨大化。

 更に、背もたれとリムが横に湾曲して、前方の先端が尖る穂先に変化していた。


 大きな槍戦車?

 その槍戦車が突貫――。

 数体の骨魔騎士グランドルを貫いて弾き飛ばし、轢き倒していた。


 その車椅子を引き寄せつつ降りてきた黒髪の女性は、


「ん、ミスティ」


 と、魔導人形ウォーガノフに騎乗している女性の名を呼ぶ。


 同時にワンピースの端を両手で持ち上げて、素足を晒した。

 脛がないのね。

 歪な骨の足がよく見える。


 可哀想……。

 だけど、その両方の骨の足の表面には魔印が刻まれてあった。

 

 五芒星のような魔法陣も刻まれてあるのかしら。


「なに? わたしの金属を使う?」

「ううん、周囲の砂を再利用!」

「あ、骨騎士の出現頻度が減るかも知れないってことね」

「そう」

「分かった。ついでに魔力を帯びた砂と硝子と鋼だし、未知の素材化に挑戦!」

「ん!」


 砂から再出現を繰り返す骨魔騎士グランドルを再出現させない作戦か。

 

 黒髪の女性は骨の足に魔力を込める。

 その骨の足の表面の魔印が強く輝いた。

 

「ん」


 少し痛そうだけど……。

 床の大量の砂にその骨の足が触れると、大量の砂が煌びやかに輝いた。

 硝子、鋼の破片も輝くと溶ける。


 輝いた砂と鋼と硝子は混じり合いつつ、骨の足に吸い付いた。


 灰色と黄色を帯びた金属の足に変化。

 更に、インゴットも別に生成。


 金属の足にも驚くけど、ここで精錬とか。

 凄すぎる!


「凄いわエヴァ。一発で成功させるなんて」

「ふふ」


 黒髪の女性の名前はエヴァさん。

 紫色の瞳で、お淑やかな雰囲気。

 そして、とても優しそうな女性ね。


 不思議と……。

 お話がしたくなる……。


 続いて、「わたしも実験を開始する!」と言って魔導人形ウォーガノフから離れた細身の女性。


 名前はミスティって呼ばれていた。

 

 彼女も額に魔印がある。

 

 両手に黒色の蜘蛛の巣?

 ううん、黒色の中に星空のような輝きがある。


 同時に、爪が白っぽく輝いた。

 その輝いている不思議な手で砂に触れた。

 刹那、砂、硝子、鋼が一瞬で引き合って混じり合いながら集結。


 先ほどと同じ鋼鉄が混じるインゴットに変化。


 しかも、結構な量……。


 それをあっさり仕舞える大容量のアイテムボックス持ちとか。


 熟練の冒険者の方々なのは確実。


 そして、この骨魔騎士グランドルの砂と鋼と硝子を精錬可能な二人は……。


 レフテン王国、サーマリア王国、オセべリア王国の大貴族の血筋ってことかしら。


 すると、蒼炎の槍で骨の魔術師を仕留めたエルフさんが、


「二人とも、そこまで。ゲラゲラポイポイはまだ生きているのよ。油断は禁物」


 エヴァさんと魔導人形ウォーガノフを扱っていたミスティさんを注意。


 でも、この状況で砂のような未知の素材を使って鋼鉄が混じる未知のインゴットを生成とか、凄すぎて、俄には信じられないんだけど……。

 

 今この場で起きていることは現実なのよね。

 すると、


「そこの美人さんの冒険者さん、仲間をもっと寄せて、エヴァたちの近くに移動してくれ」


 そう警告してくれたシュウヤさん。

 わたしは頷いた。

 

「皆、聞いていたでしょ」

「「分かった」」


 皆を連れてエヴァさんに近付いた。

 輝く魔剣を持つ後頭部が特徴的な女性が左に出る。視線をチラッと寄越して、


「わたしはビーサ。骨騎士の出現は収まりつつあるが、斜め前方に湧いているように、まだまだ多い」

「ん、ビーサ、骨騎士の一部は任せた。そして、冒険者さん、わたしの名はエヴァです。守りたいので、ここにいてください」

「はい。あ、わたしはゲツラン」

「俺はキヴ」

 

 わたしたちはエヴァさんたちにお辞儀。

 そして、黒髪の槍使いのシュウヤさんを見た。


 黒虎が大柄の骨魔騎士に飛び掛かり押し倒す。

 四肢の爪で鎧を裂きつつ首に噛みついていた。


 続いてシュウヤさんが、


「相棒――」

「ンン――」


 掛け声に合わせた黒虎ロロちゃん。

 シュウヤさんは、触手を飛び台に利用して前に出た。

 

 宙空から素早いモーションで――。

 二本の魔槍を上下の方向に繰り出した。


 黒虎に押し倒されていた大柄の骨魔騎士。

 その頭蓋骨を左手が握る魔槍が貫いていた。

 同時に、前方の骨魔騎士グランドルの胴体を右手が握る魔槍が貫く。


 その両手の魔槍を消去。

 

 召喚し直した魔槍の穂先が下に向かう。

 再び、二槍流の魔槍の連続的な攻撃が、頭蓋骨がない大柄の骨魔騎士の体を貫きまくった。


 ドドドドドッ――と鈍い音が響いて粉塵があがり、地面は孔だらけ。大柄の骨魔騎士は木っ端微塵に粉砕された。


 一の槍で有名な風槍流を軸とした二槍流の使い手でもあるのね。


 二本の魔槍を消した黒髪のシュウヤさん。

 

 煙を払う仕種が格好良すぎる。

 

 全身から<血魔力>を発して粉塵を消す。

 同時に足下に<生活魔法>の水を撒く。


 どうして水を?

 水を撒いたシュウヤさんは、女性の槍使いが戦っている場所へと滑るような機動で移動した。


 あ、水を操作できるの?

 へぇ、凄い、水と血を戦いに活かす武術家。

 

 大柄の骨魔騎士の一部は反応。


 女性の槍使いの囲いを解くと体の正面をシュウヤさんに向けて骨剣を振るった。


 黒髪のシュウヤさんは反応。

 

 ――頭部を傾ける。

 きゃ、前髪が揺らぐ、素敵~。

 骨剣の刃を避けつつ、右足の回し蹴りを大柄の骨魔騎士の盾に衝突させた。


 わわ、カッコいい!

 

 大柄の骨魔騎士は盾でなんとか蹴りの威力を消すが、僅かに体勢を崩す。


 素早い黒髪のシュウヤさんは横回転。

 わぁ、その大柄の骨魔騎士の動きを読んでいた。

 

 大柄の骨魔騎士の側面に回るや否や、左回し蹴りを繰り出していた――。


 大柄の骨魔騎士の背中に左回し蹴りが決まる。


 シュウヤさんは蹴り技も得意なのね。

 でも、大柄の骨魔騎士は耐久度が高い。


 たしか、あの大柄の骨魔騎士の名は、骨魔騎士グランドルではなく骨魔騎士グラサード。


 モンスターとしての強さは、A++~A+++。

 だったはず。


 ゴルディクス大砂漠地方の遺跡に出現することもあると情報では入手ずみ。


 黒髪のシュウヤさん。

 左手を無造作に翳す。

 あの手と腕の一部を覆う血を活かした腕装備もカッコいい。

 

 そして、左の手首から、鎖のようなモノが突出――直進した鎖が大柄の骨魔騎士こと骨魔騎士グラサードの頭蓋骨を物の見事に貫いた。


 更に、鎖が骨魔騎士グラサードの体に絡まると鎖を引いたシュウヤさん。


 まだ生きていた骨魔騎士グラサードを引き寄せて、<槍組手>を実行。


 膝蹴り、拳、肘の連続打撃を浴びた骨魔騎士グラサードは、体を構成する骨と鋼が割れて、内臓のようなモノが砂となって散る。


 シュウヤさんは爪先回転。

 血色のシャツの背中にある刺繍は渋い黒猫の絵柄なのね。

 

 素敵!


 あ、シュウヤさんの裏拳が骨魔騎士グラサードの背中と左腕に決まった。

 

 骨魔騎士グラサードの左腕と背中の一部が消し飛ぶ。


 流砂のようなモノが体にできた骨魔騎士グラサードは、内臓的な骨が露出。


 内部から砂が垂れ流れていた。

 鋼と骨の間から心臓のクリスタルが見え隠れ。


 シュウヤさんは周囲の血に浮かせてある槍は使用せず――黄色の短槍を右手に出現させた。

 

 漆黒の傘槍は宙に浮いていた。

 シュウヤさんは下半身を下げる。

 

 張った太股の筋肉が素敵……。

 体幹を巡る魔力を活性化させているのね。


 スムーズな風槍流の動きで――。

 黄色の短槍を握る右手が前に出た。

 

 ここからだと、右腕が鋭利な赤い刀に見えた。


 雷撃を帯びたような<刺突>の短槍の矛が骨魔騎士グラサードのクリスタルの心臓を貫いた。


 クリスタルが閃光を発して破壊される。

 骨魔騎士グラサードは砂と魔力粒子となって散る。

 

 その散る魔力粒子は、シュウヤさんが吸い取っていた。


 すべてにおいて痺れる動き……。


 シュウヤさんは汗を出すように<血魔力>を全身から発した。

 そして、爪先回転を行う。


 強い骨の魔術師を倒した女性の槍使いだけど、骨魔騎士グランドルの数は多いし、助けるつもりかな。

 

 女性の槍使いは髑髏の穂先が特徴的な魔槍を振るって――。


 骨魔騎士グランドルを倒しまくっていた。

 女性の槍使いの背中にシュウヤさんは、背中を合わせる。


 肌が触れあう位置。

 少し嫉妬。

 シュウヤさんと女性の槍使いは背中を合わせたまま周囲の敵を見るように回る。


 そんな背中合わせの二人に、骨魔騎士グランドルたちが襲撃を行う。


 それらの骨剣の攻撃をシュウヤさんと女性の槍使いは得物ですべて弾く――。

 更に骨魔騎士グランドルの足を魔槍で引っ掛けて転倒させ、その骨魔騎士グランドルの頭部を踵で踏み潰して倒していた。


 すぐに背中を合わせる二人。

 互いに死角を消す動きは見事。


 再び正面の骨魔騎士グランドルと対峙した二人。

 互いの背中を押すように前進。

 同じタイミングで前方に<刺突>を放つ。


 骨魔騎士グランドルへと槍の穂先が伸びた。

 骨魔騎士グランドルの盾を貫く魔槍。


 これまた同じタイミングで放った連続の<刺突>が、盾を破壊した骨魔騎士グランドルの頭蓋骨を捕らえて、その頭蓋骨を破壊していた。

 

 二人とも素敵すぎ!


 シュウヤさんは、背中を預けた白絹のような髪を持つ女性の槍使いに、


「キサラ、前に出る」


 と大きな掛け声を発した。


「はい、シュウヤ様」


 様呼び! むー。

 キサラさんは少し屈みながら魔槍を前方に伸ばす。


 屈んだキサラさんの背中に、背中を預けたままのシュウヤさんは、キサラさんの背中の上を後転しつつ、軽やかに越えて前方に出る。

 

 そして、キサラさんが前に出していた魔槍を蹴って、斜め前方へ跳躍を行う。


 飛翔したシュウヤさんは足下から血を放出。


 前方の骨魔騎士グランドルの頭蓋骨を<血魔力>を集結させた片足で踏みつけて、粉砕。


 その頭蓋骨を踏み台にして、更に高々と跳躍――。


 カッコいい!

 左手に幅が広い偃月刀の魔槍を召喚。


 その幅広い刃が特徴的な偃月刀は橙色。

 偃月刀の穂先の魔槍を大胆不敵に振り回した。


 橙色の軌跡を描く。

 二体の骨魔騎士グランドルの頭部を刎ねた。

 

 シュウヤさんは着地。

 

 すると、


 左手の魔槍を血に輝く十字架の魔剣に変更。

 右手には黄緑色の魔剣を召喚――。


 剣も扱える?


 一弾指、シュウヤさんは身を捻る機動で側転。

 飛来したのは虹の刃。


 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの遠距離攻撃。

 わたしは気付かなかったけど、攻撃察知能力も高いシュウヤさんは、回転しながら虹の刃を避けては、前に躍り出て――骨魔騎士グランドルに近付いた。


 同時に両手の魔剣を迅速に振るう。

 袈裟斬りから水平斬り――。

 ばっさばっさと、三体、四体、五体の骨魔騎士グランドルを斬り捨てた。


 更に右手の魔剣を――。

 偃月刀の穂先の魔槍に変える。

 

 と、横移動を行いながら、その魔槍を電光石火の勢いで振り抜いた。


 二体の骨魔騎士グランドルの胴体を派手に消し飛ばす。


 続けて、右前方に魔法のようなスキルを放つ?


 衝撃波? ううん。

 五体の骨魔騎士グランドルが瞬時に内側へと収縮するように潰れて砂を撒き散らして倒れていったし。


 なんの攻撃なの!

 骨魔騎士グランドルが上下左右から凄まじい万力を受けたような印象だった。


 凄すぎる、素敵すぎる!

 

 女性の槍使いは、右前方の骨魔騎士を倒しまくった。

 そして、素敵なシュウヤさんと会話。


 あぁ、素敵なシュウヤさんの表情が見えないし! 

 会話は聞こえないけど、雰囲気的に恋人なの? 


 なにか阿吽の呼吸がある、いらつく。


 あぁ、なんでわたしはいらついてるの! 助けてもらってるのに! わたしのばか。


 だけど、少し憧れる雰囲気。

 白絹のような髪の女性は頷いた。


 う、かなり綺麗な女性、負けた……。


 白絹のような髪を持つ女性は、即座に反転。

 血を纏いつつ右に前進。


 魔槍を握る片手を前方に突き出した。

 

 髑髏の穂先が、骨魔騎士の頭部を貫いた。

 片手と魔槍が一体化するような見事な<刺突>が決まる。


 その場に残ったシュウヤさん。

 <血魔力>を周囲に展開。


 血の波は無数の波頭を宙に造りつつ、暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーに向かう。


 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは、光の矢と金属の刃の攻撃を防ぎ中。


「――今までの冒険者とは違う質の攻撃ではあるが! ここまでだ。砂大蛇カルラの糧となるがよい――」


 砂大蛇カルラ?

 暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーは、自身に似た精神体のようなモノを体から生み出す。


 その半透明の体は虹色の刃を散らして消えた。

 虹色の刃で光の矢と金属の刃を相殺してから退いた。


 シュウヤさんが扱う血の波が、その暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーを追う。


 更に暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーの左目に魔力が集結した。

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