七百八十九話 <瞑道・霊闘法被>と<夜王鴉旗槍ウィセス>
――夜王の傘セイヴァルトか。
怪が抜けているのは俺が光魔ルシヴァルだからか?
夜王の傘セイヴァルトをアイテムボックスから取り出し広げて、露先の飾りと生地の襞を確認するように触りつつ皆にも見せる。
「あ、シュウヤが触れているところの鴉の絵が動いた」
「ん、波紋と指の跡もできた。夜王の傘セイヴァルトに魔力を通した?」
「まだだ。逆に傘を握った瞬間、魔力と筋力を得たような感覚があった」
「へぇ、今まで大概は吸われていたけど、逆に魔力と筋力を得るって……あった?」
「神槍ガンジスも魔力を送っての変化ですから、珍しい部類かと」
「うん、王の血筋の証明でもあるのかな」
「ん、シュウヤは怪夜魔族の王様の資格を得た! <光魔の王笏>もあるし、吸血王の血魔剣もある! 吸血鬼たちの新しい王様になれる!」
「資格か――」
掌で夜王の傘セイヴァルトを回転させる。
右手から左手に夜王の傘セイヴァルトを移した。
その夜王の傘セイヴァルトをハンドスピナーでも扱うように左手の甲の上で横回転させ続ける。
更に、右手で、その回転する長柄の中棒を下に押した。
夜王の傘セイヴァルトをぐわりと左手首に絡ませるように回転させつつ、左腕を斜め上に伸ばしながら、その左腕で弧を描くように夜王の傘セイヴァルトを遠心力で螺旋回転させ続けた。
夜王の傘セイヴァルトは、左手首、左肘、左の二の腕の表面を凄まじい速度で回転しながら腕を龍の如く上り、左肩から首に、ハンドルが右肩に移動した。
牙を見せる
ちょいとおどけた感があるが、風槍流の演武を行った。
「凄い! けど、生地の部分が肌に擦れてそうに見えたけど、大丈夫?」
「ふふ、魅了されます!」
「大丈夫だ。不思議と夜王の傘セイヴァルトは手と肌に馴染む」
「へぇ、光魔ルシヴァルとの相性がいいってことね。でも、本当に凄い槍武術。夜王の傘セイヴァルトが左腕に吸い付いて見えた」
「……はい、傘を扱う腕の動きが速すぎて、少ししか見えなかったですが」
ディアは仕方ない。人族だ。
ヘルメも満足そうに、
『ふふ、光魔ルシヴァルの皇帝として、怪夜魔族たちと怪魔魔族たちを従える王の資格を得たことは誇らしい気分です!』
『俺も気分がいい。遠い親戚を見つけたのと同じこと』
『はい! 閣下の今の演武で気持ちは分かります。そして、閣下は既にソレグレン派の吸血王の血魔剣を有して、<光魔の王笏>もありますから、魔族たちの王に相応しい!』
『ありがとう。んだが、王ってのはなぁ。俺にはその資格だけで十分だよ。皆とヘルメに相棒がいれば、それでいい』
『……閣下……嬉しい。あ、閣下らしく、冒険者としての槍使いですね!』
『その通り!』
視界に浮かぶ笑顔のヘルメを見て自然と笑顔になった。
そして、台座に転がる勾玉を見てから……。
夜王の傘セイヴァルトの石突を星々へと当てるように持ちながら――。
これに似合う衣装を考えるか――。
速やかにハルホンクを意識。
「ん、お尻ちゃん!」
「ふふ」
「あはは、お尻ちゃんと傘だけって面白い~!」
背後から女子たちの声が響くが気にしない。
そのまま修行僧のごとく魔力を掌に集めて片手で拝む。
<脳魔脊髄革命>を活かそうか!
――そして、
<導魔術>――。
<魔闘術の心得>――。
<導魔術の心得>――。
<仙魔術>――。
<仙魔術・水黄綬の心得>――。
<血道第四・開門>――。
<霊血の泉>――。
<魔雄ノ飛動>――。
<光魔の王笏>――。
<ルシヴァルの紋章樹>――。
<月狼の刻印者>――。
<戦神グンダルンの昂揚>――。
<水月血闘法・鴉読>――。
<神獣止水・翔>――。
「ンンン――」
色々と意識して発動――。
やぼったくない近未来風の直衣と法被を強くイメージ。
新しい服の素材に――。
魔竜王バルドークの鎧とシャドウストライクも混ぜるか。
そこに銀ヴォルクの特殊繊維とギュノスモロンの素材。
二の腕に少し
「え? お尻ちゃんとは? お兄様は衣装を……」
「一瞬、師匠のスマートな……お尻さんが……」
「にゃ、にゃ、にゃ、にゃおぉぉ~」
ディアは人族で、眼鏡っ娘。
動体視力は普通以下だろうし、ゼロコンマ数秒もない瞬間に露出した俺の尻を見ることはできないだろう。
ビーサは見えていたか。
改めて、
<
名は、古のラガジメタル魔鋼の腕だったか。
その魔機械の第三の腕には
あの宇宙での戦闘は本当に見事だった。
相棒は反応しまくり。
前足の肉球で俺の尻をポコポコと叩きまくっていた。
続いて、
『羅、頼む、<瞑道・瞑水>を――』
左手の掌の中にいる羅に頼む。
『はい』
瞬時に夜王の傘セイヴァルトに合う黒い装束を整えた。
黒豹に変身したか?
一瞬、相棒の鼻の感触を尻に得た。
「ンン、にゃおおお~」
「相棒、早速匂いチェックか」
そう言いながら足下の相棒に気を付けて、皆を見た。
新しい衣装は和風の法被。
模様に魔竜王バルドークと相棒を連想。
それでいて近未来風を連想したが……。
上手くいったかな?
※ピコーン※<瞑道・霊闘法被>※スキル獲得※
え、マジか。
スキルを獲得しちゃった。
「「おぉ~!」」
「ええぇ、変身? 傘とお尻ちゃんだけからの反動が激しいけど、カッコいい!!」
興奮したレベッカが腕に抱きついてきた。
シトラスの香りがいい。そのレベッカは、ふがふがと俺の匂いを嗅ぐように顔を腕に押し当ててくるから、魔力を込めた唇でレベッカの長耳にキス。そして、細い首筋に唇を走らせる。「ひゃぁん――」と感じたレベッカは尻を床に突けた。左右の太腿の位置が可愛い女の子座り。そのレベッカの項に頬と鎖骨が徐々に火照るさまは妙にエロい。
恍惚としたレベッカは熱い眼差しで俺の股間を見ていた。
期待しているのは分かるが、ここじゃな。
そのレベッカの表情がまた可愛い。
皆は、
「ん、カッコいい衣服! 見たことがない!」
「地肌を活かす薄い黒い衣服。ご主人様がよく語られている〝かーぼんなのちゅーぶ〟の素材を連想されているのでしょうか。そして、羅の<瞑道・瞑水>の能力も活かしていると分かる。ご主人様はセンスがいい!」
「うん。羅さんの能力って、黒と紫が混じる衣服の表面に浮く魔印の文字よね。あ、キラキラしている魔力粒子もそっか。衣装は仙人風でありながらエレガントさがあるし、美しいしカッコいい……」
「よかった。スキルも得たし成功だ」
笑顔のミスティは頷いて、羊皮紙にメモりながら、
「スキル?」
「おう、<瞑道・霊闘法被>がこの新しい衣装だ」
「あ、短い間に修行をしたってことなのね。凄すぎ」
「ん、シュウヤは修行の創造の天才でもある」
「あの片手で祈っていた刹那の間にですね……」
キサラがそう発言。
蒼い双眸には熱が籠もっていた。
「ふふ、うん。あ、見て、胸元に小さい魔竜王と
そう発言。少し恥ずかしくなった。
夜王の傘セイヴァルトを持ち替えて、
女の子座りのままのレベッカに手を向ける。
「あ、ありがと」
レベッカは俺の手を握って起きようとしたが、腰を抜かすように体が震えてしまった。
そのレベッカの背中を支えて、「大丈夫か?」と耳元で発言すると、レベッカは「もう! 優しすぎるの禁止!」といってまた抱きついてこようとしたから、素早く身を退いた。
「えぇ~、避けた! ムカつく!」
「禁止と言ったじゃないか」
俺の言葉を聞いたレベッカは両腕を弛緩。
まんざらでもない顔付きのまま頷いてから……。
俺の衣装を凝視して、
「うん、言ったけど……でも、冗談抜きに<瞑道・霊闘法被>の仙人衣装が素敵でカッコいい。シュウヤは<魔裁縫師>に成れるんじゃ?」
「なれないって。あくまでもハルホンクが優秀なだけだ」
「ングゥゥィィ!」
「シュウヤと融合している
レベッカの言葉に皆が頷いた。
お洒落なレベッカに言われると、まんざらでもない気分だ。
んだが、前と同じく生産系スキルは一つもない。
アキレス師匠とラビさんから、木工や裁縫を色々と習っていたんだがなぁ。一応それなりの物は造れたが、木工と裁縫のスキルは獲得していない。
技術の高まりが、必ずスキルとして表れるわけではないということは分かっているが……。
そして、俺のスキルに関しての能力は、戦闘系が占めているということだろう。<瞑道・瞑水>や霊槍ハヴィスなどの経験を経て、熟練度などの高まりで、<瞑道・霊闘法被>も戦闘系だからこそ獲得できた。
が、<脳魔脊髄革命>と<天賦の魔才>にも限りはあるだろう。なにごとも継続は力なり、そして、繰り返すことが大切か。
するとキサラが、
「夜王の傘セイヴァルトと<瞑道・霊闘法被>……素敵です。そして、神人を超えた
「ありがとう、キサラ」
そして、珍しく嫉妬していない沙が、
「器よ、<霊槍印瞑師>の戦闘職業から進化しただけはある! 見事な<水瞑の魔印>ぞ。まさに是空霊光と魔印瞑道を歩む槍武人! 夜王、いや、神界の、ぶ、王に相応しい衣装である!!」
「魔印瞑道と瞑水は羅の能力だな」
「うむ! 羅仙瞑道百妙枝の一端である。『神仙燕書』や『神淵残巻』に記されている〝天地の霊気〟を読んで学べば、<御剣導技>と一緒にもっと知ることができるのじゃぞ」
羅の琴を活かした戦闘術と音楽センスは素晴らしいからな、いつかは習いたい……。
「『神仙燕書』か。東の旅でついでに探せたらと思っていたが、結局は見つからなかったからなぁ。たしか、東のほうにあるんだったか」
俺がそう聞くと沙は切なそうな顔付きを浮かべる。
「そのはずじゃが……無理に探さずとも器は強いからの。で、器よ。妾たちとの婚姻の儀では、その<瞑道・霊闘法被>を着るのじゃぞ!」
大人の沙は冗談風に語るが、双眸はマジ気味だ。
「沙・羅・貂と婚姻か。ついでに、豪華な褥も用意か?」
「う、うむ!」
大人versionの沙は、すこぶる美人さんだから、照れた顔が妙に可愛い。
左手の中にいる羅と貂は大人しい、沙に反応しない。
沙の近くにいたディアと目が合った。
「お兄様! 個人授業の際は、その<瞑道・霊闘法被>の衣装でお願いします。そして、お近づきになりたい!」
「分かった。個人授業では、センティアの手を用いた格闘を模索するのもありだな」
「マスターは対人戦闘と人外との実戦経験が豊富だから、ディアの成長に繋がるはず」
「はい!」
「そう言ってくれるのはありがたい。しかし、俺は体感を重視する。ちゃんと講師が務まるかどうか……」
「弟子のムーちゃんがいるでしょ」
「あぁ、アキレス師匠から教わった風槍流は伝えているつもりだ」
「ふふ。シュウヤ様なら、槍武術だけでなく<魔人武術の心得>がありますから、格闘の組手の模擬戦を行うだけでも成長に繋がるかと」
キサラの言葉を聞いて嬉しくなった。
<魔人武術の心得>――基本から<悪式・霊禹盤打>に<湖月魔蹴>も覚えている。更に擒拿系の技術は、魔界セブドラ実戦幾千技法系統などを一部覚えた。
――かなり奥が深い。
両手をこう、クイッと――これが結構むずい。
合気道的な反動を利用する技術の集大成。
そして、相手が人族系ならある程度は通じるが、人外だとそう簡単ではないことも、難しさに通じている。
<魔手太陰肺経>も学び途中。
キサラにはスキルがあるように見えているようだが、<魔手太陰肺経>の道は険しい。
「ちょっと待って、体感? 体感と、今のシュウヤの両手の手つきが危ないんだけど! 個人授業も危ない響きだし」
「あ、寝技ですか?」
レベッカとヴィーネが頷きあって俺を睨む。
……。
「その目はなんだ、悪式格闘術技術系統:上位技術を獲得しているんだぞ?」
「ん、シュウヤはデルハウトからも学んでいる」
そうだ、<魔人武術・光魔擒拿>。
「ううん。気持ちいい魔人武術を教えようって、おっぱいの御業とかやりだすかも知れないでしょ!」
吹いた。
皆も微笑む。
が、レベッカは笑っていない。
「笑い事じゃない、危ないわ。ディア、シュウヤに近付いたら妊娠しちゃうから」
「え、に、にんしん……う、うれしい」
「しねぇから、ディア、大丈夫だ、問題ない」
「――問題あり! 妙にキリッとした顔だからこそ、怪しい!」
レベッカは胸を張って、右手の人差し指を俺に向ける。
左手は細い腰に当てていた。
思わず、キサラとヴィーネに視線を向ける。
「ふふ、レベッカは嫉妬しているだけですよ」
「あぁ~、キサラんぅぅ、裏切ったァァ」
「ご主人様、御業はわたし専用でお願いします」
「分かった」
「ちょ、即答とか!!」
レベッカのポーズが面白い。
皆、レベッカの人差し指と中指を揃えて行う変わったポージングを見て笑っていた。
視界に浮かぶヘルメは真剣だ。
『レベッカ立ちですね!』
一方、ディアはミスティと俺を交互に見て、おろおろとしていた。
ミスティはわざとらしく咳払い。
そして、ミスティとアイコンタクトしたディア。
スーハースーハーと深呼吸を繰り返したディアは、
「は、はい!」と頷いてから……。
俺を凝視して頬を朱に染めつつ、
「えっと、お兄様と、こ、婚ヤ、ク、あ、いえ、うふ……あぁ、ううん、では、H組の皆の前での授業では、その素敵な衣装でお願いします!」
独り言が少し怪しかった眼鏡っ娘のディア。
少し興奮気味に話をしていた。
ミスティは微笑んでから片手の掌を額に当て、「……だめだこりゃ」とどっかの懐かしい台詞を呟く。
ディアは、何か俺に向けて話したいことでもあるのか?
ま、この衣装が気に入ってくれたってことにするか。
と夜王の傘セイヴァルトを仕舞う。
そういえば、魔法学院ロンベルジュの生徒って何人いるんだろう。
「ディア、ミスティ、レベッカでもいいか。魔法学院ロンベルジュの生徒は何人いるんだ?」
「わたしの時は、一クラス十五人~二十人位だった」
「今もそれぐらいです」
「うん。一年生、二年生、三年生がそれぞれ八クラス」
「上級生と下級生を合わせると三百六十人は最低でもいるわけか」
「そう」
「はい!」
ミスティとディアは頷き合う。
レベッカも昔を懐かしむように微笑む。
ビーサは不思議そうな顔色を浮かべて見ていた。
キサラとヴィーネは俺の<
しかし、魔法学院ロンベルジュの生徒はかなりの人数だ。
そして、臨時武術講師の数は少ないと分かるが、
「臨時の武術講師や専属の武術講師は何人?」
「二人。教える生徒が教師の実力を上回ることが多々あって、面目を潰された臨時の武術講師は直ぐに辞めてしまうの」
「はい。貴族と大貴族の生徒の中には凄く強い生徒がいるんです」
「うん、それで増長しちゃうから困る。わたしがよく担当するH組の中にも際立って強い子がいるし」
「強い生徒か、その子は不良か?」
「不真面目な子は、まず学院に受からないわ」
「そうなのか?」
前見た生徒は真面目なのか?
校舎の前で巨根を自慢するように歩いていた変態生徒。
あ、そういう種族特性を持つ生徒である可能性もあるのか。偏見はいけないな。
「うん、名はシルヴィよ」
「前に血文字で教えてくれた生徒か。大貴族のお嬢様」
「そう、黒髪の天才」
シルヴィの名前から金髪をイメージしてしまったが……。
すると、眼鏡っ娘のディアはミスティを見て、
「シルヴィは何をやるにも本気で取り組みますから……でも、
「え? お淑やかで本の虫の先生でしょ? 何、その目は。あ、ディア? いいの? ……忘れてないわよね?」
「……う、はい……」
ディアとミスティは何か約束をしたのか。
そこで、勾玉のほうを注視していたレベッカを見てから、
「んじゃ、そこの勾玉も回収しとくか。ハルホンクが食べたがっていたが、とりあえずは保管かな」
「うん」
「ングゥゥィィ」
ハルホンクは納得するようなニュアンスで声を発していた。魔竜王の蒼眼が少し光る。
勾玉を戦闘型デバイスに仕舞った。
名前は、怪魔王ヴァルアンの勾玉。
「怪魔王ヴァルアンの勾玉。女性の魔族で、セイヴァルトと夫婦だったのよね。でも、怪夜王セイヴァルトと怪魔王ヴァルアンの一族はどこにいるの?」
「魔族の血が入った人族はたくさんいるから判別はむずいだろ」
「あ、そっか。そうだった、エヴァにユイも」
「ん、わたしとミスティにユイにも魔族の血が入ってる」
エヴァは魔導車椅子に座る。
骨の足を見せた。
ミスティは頷いて、
「うん、ギュスターブ家はヘカトレイルの貴族だったけど、ギュスターブ族の先祖は、もろに地下出身。だから魔族と同じ。そして、エヴァは二つあるけど、わたしも額に魔印持ち」
「先生の額……」
「ディア。前に過去の話をしたけど、ヘカトレイルのことは皆に内緒よ?」
「はい!」
「では、
「先のヴァルアンの見た目通りなら多いとは思うけど、<
「吸血能力を持つ冒険者や武人はいます」
「血剣士ならカルードさんとユイから聞いたことがある。他の闇ギルドの幹部にいる」
「ん! 吸血能力を公表している存在はいる! 前に【白鯨の血長耳】のガルファさんも言ってた」
エヴァの言葉に思い出す。魔塔エセルハードだな。
「浮遊岩の乱について説明を受けた時か。セナアプアの冒険者ギルドのマスターが吸血能力を有していると」
浮遊岩は二つ問題が残ったままか。
そして、俺たちが権利を得た烈戒の浮遊岩はミスティも調べたいはずだ。まぁ、後々か。
レベッカも、
「覚えている。その話をしてから、シュウヤを厳しい視線で見つめていたガルファさんは怖かった」
「セナアプアの冒険者ギルドマスターは、キッカ・マヨハルトさんですね」
ヴィーネの言葉に頷いた。
「そう。網の浮遊岩に誕生したという魔界の魔元帥級のラ・ディウスマントルの討伐に掛かりっきりとか」
俺は頷いてから、
「ガルファさんは、十層地獄の王トトグディウスの狂信者と【テーバロンテの償い】の信者が邪教同士で戦っているとも話をしていたな」
レベッカが、
「その件で、邪教の強者が多い下界から上界に上がる浮遊岩の発着場で争いが起きたとか。ユイは、レンショウとカリィに任せたって」
レンショウとカリィなら人外が多くても大丈夫か。
そのカリィには敵が無数にいるはず……。
カリィのことだから、人知れず遊ぶように決闘しながら暗殺とかして片付けているんだろうか。
そんな予想をしつつ、
「【天凛の月】のカットマギーが連れてきた新入りたちには、さすがにまだ重要な仕事は任せられないか。猫好き空戦魔導師の隻眼のビロユアンは、ルシュパッド魔法学院だろうし」
そう発言すると、エヴァが、
「ん、カットマギーと新しいメンバーには、上界の魔塔ゲルハットと上界の宿り月のルートを巡回するチーム編成を組んでもらったって、その直後だったとか。だから、ちょうど近くにいたカリィとレンショウに頼んだって」
「そっか」
ユイもがんばっている。
さて、
「外に出よう」
「「はい」」
「ん――」
「相棒、居眠りの時間はお仕舞いだ」
「ンンン」
黒豹の相棒は立ち上がると、大あくび。
そして、細い両前足を前に出して、背伸びをしてから、先に外に向かった。
ユイに向けて、
『ペレランドラからの連絡はまだかな』
『うん、まだ。カボルは魔塔ゲルハットにいるけど、まだ魔力豪商との交渉は後回し? ミスティは龍魂雷魔犀の骨やゼクスと新しい素材などに、試作型魔白滅皇高炉を早く使いたい風の血文字を寄越していたけど』
『ミスティも今は先生の立場を優先するようだ。そして、俺ももう少し、センティアの部屋を試す』
『うん。元とはいえ上院評議員イオスン・ドリサンの魔法学院に通じていたし、ペルネーテとセナアプアの直通ルートの模索は重大事項。部屋の大きさからいっても、メルとキッシュは興奮していたわよ?』
『あぁ、皆が行う血文字は少し見た』
『うん。そのセンティアの部屋が【幻瞑暗黒回廊】を通して魔塔ゲルハットにも通じるといいけどね』
『可能性はあると思う。その魔塔ゲルハットの件と、異端者ガルモデウスに、アキエ・エニグマが囚われている魔塔ナイトレーンの件に関しての連絡はまだかな』
『大魔術師たちの件は分からない。その異端者ガルモデウスの書はディアが持つようだけど、レプリカでしょ。わたしが見てもね』
『了解。魔塔ナイトレーンの問題も早く片付いてほしいところだ』
『うん。大魔術師ケイさんに魔塔ゲルハットの植物園を案内してもらわないと。アキエ・エニグマにも、施設の詳細をね。ま、どちらにせよ、今は【幻瞑暗黒回廊】を優先するべきだと思う』
『おう』
塔烈中立都市セナアプアはもう夜。
元ドリサン魔法学院の屋上を歩いてセンティアの部屋の前に移動。
ディアは眠そうだ。
急ぎ、ポーションを出して、ディアに、
「ディア、これを飲んでくれ。体力が回復する」
「あ、ポーションを、ありがとうございます」
「なぁ皆――ユイに【幻瞑暗黒回廊】を優先すると血文字で連絡したが、一旦魔塔ゲルハットで休むとしよう。出発は朝に、いや昼で」
「うん、了解」
「え、わ、わたしなら大丈夫です」
「いいから、戻ることは決定だ」
ディアからミスティに向けて、
「アス家との交渉は大丈夫なんだな?」
「うん。その辺にぬかりはない」
「あ、はい。すみません。わたし……」
ディアは人族。
冒険者としての訓練もやっているとはいえ……な。
「そんな顔をするな。それに、ミスティの顔を見ろ」
「え? 鼻血?」
「あぁ、気にしちゃだめ。それにマスター、先の夜王の傘セイヴァルトに魔力を通してないでしょ。ついでに試したら?」
「それもそうだな――」
アイテムボックスから夜王の傘セイヴァルトを取り出した。
傘を押して夜王の傘セイヴァルトを開く。漆黒色の生地が拡がった。
受骨と親骨が生地を拡げる仕組みは普通の傘と同じだ。
同時に握るハンドルから夜王の傘セイヴァルトへと魔力を送る――。
夜王の傘セイヴァルトがロクロを中心に漆黒色の生地が風車のように自然と回った。親骨と受け骨にダボのような部位も回る。
露先にぶら下がるアクセサリー的な鴉と戦旗も夜空を飛ぶように回転――。
夜王の傘セイヴァルトから鴉の鳴き声と戦の鬨の声が鳴り響いた。
脳が熱い――脳幹に何か新しいシナプスができたか?
※ピコーン※<夜王鴉旗槍ウィセス>※スキル獲得※
「ん、複数の鴉の槍――」
「旗のような幻影も一瞬見えた!」
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