七百九十話 <夜王鴉旗槍ウィセス>の効果と夜王の槍


「――ディア、鴉に触れた?」

「大丈夫です。鴉はわたしを避けました」

「ディア、下がっていろ。しかし、鴉の槍に旗も見えたのか――」

「ん、旗は傘の生地の中で揺れて、漆黒色の闇の魔力が外に出ている」

「うん。魔力は襤褸みたいだけど銀色の粒も内包しているから綺麗~。そして、漆黒色の生地から鴉が次々と放出中~」


 怪夜王セイヴァルトが羽織っていた襤褸かな。

 色々と細かくて面白い――。

 

「おう。闇の魔力は怪夜王セイヴァルトが纏っていた襤褸だろう。で、獲得したスキルは<夜王鴉旗槍ウィセス>だ」

「凄い! シュウヤと相性がいい怪夜魔族の王が残しただけはある」

「はい! あ、ヴァンパイアハーフは鴉や蝙蝠に変身はできませんが、このようなアイテムが使える血筋が怪夜魔族でもある?」

「うん、その怪夜魔族の王だからこそかもね」

「はい。ヴィーネとレベッカの推測は当たりかと思います。シュウヤ様は、怪夜魔族の王の血筋に認められたのですから」

「怪夜魔族の王族専用の夜王の傘セイヴァルト! 周囲の槍と化す鴉は、ある程度の思念操作が可能なのでしょうか」


 キサラの問いに頷いた。外の鴉の槍は――。


「距離は限定的だが、視界に無くても思念である程度の操作が可能だ」


 <旭日鴉の導き>も関係しているかと思ったが、印は別段反応はしていない。

 俺には<水月血闘法・鴉読>などもあるし、水鴉や太陽神ルメルカンド様も、多少は関係しているとは思うが――。


「「おぉ」」

「遠距離の攻撃ならば、偵察用ドローンと併用が可能ですし、牽制から急襲までできる強力な攻撃となる」

「ん、新しい遠距離攻撃」

「あ、血魔剣を持っての<血外魔道・石榴吹雪>のような使い方とか?」


 レベッカの言葉の後――。

 

 脳幹辺りで『カァ』と鴉の思念が響くや――。

 漆黒の長柄の中棒に複数の紫色の魔印が浮き彫り状態で浮かぶ――。

 

 柄が渋くてカッコいい。


 脳内で響いた鴉の思念は一回のみ。

 気にせず、そのままボタンを押すように、その柄の魔印に指を合わせる。


 と魔印の色合いが強まった。

 刹那、夜王の傘セイヴァルトの形が漆黒の槍に早変わり――。


 漆黒の生地が中棒に絡み付くように螺旋して、瞬時に、見事な漆黒の槍と化した。


「ん、傘が本当の漆黒の槍になった」

「はい! その漆黒の槍も、シュウヤ様の魔装天狗のような<瞑道・霊闘法被>に凄く似合います!」

「うん……銀色の穂先は無名無礼の魔槍と似ているし、本当に怪夜魔族の王様と分かる武器ね」

「はい。鴉たちもシュウヤ様を祝福するように血色の魔力と銀色の魔力を放っています」


 キサラの言葉を聞きながら漆黒の槍を凝視――。

 穂先の色合いは銀色だ。血色の細かい溝には魔印が施されていた。

 血色の魔印には、怪夜王セイヴァルトの意味がありそうだ。米粒ほどの鴉の群れの模様も刻まれており、精巧なデザインだ。

 そして、この夜王の傘セイヴァルトが、漆黒の槍、夜王の槍セイヴァルトでもあると分かる。怪夜魔族の王専用でもあるってことだろうか。


 早速――。

 夜王の傘セイヴァルトの漆黒の槍を振るう――。


 すると、飛翔する鴉たちは俺に近付くと、俺を守るように旋回を始める。


 鴉のバリアか?

 気にせず夜王の傘セイヴァルトの槍を掌で回した。


 漆黒の槍――。

 ――この夜王の傘セイヴァルトの長柄の中棒は、あまり変化がない。

 ――指先と掌で、漆黒の槍の重さを量るように遊ぶ。


 そして、親指と人差し指で、漆黒の槍の中棒を挟んで手の甲に移す。

 その手の甲に移した漆黒の槍に魔力を送った。

 更に、漆黒の槍の勢いを加速させるように――。

 手首で、宙空に素早く円を描くように右腕を振るった。

 甲の上で漆黒の槍は横回転――。

 すると、俺の法被から<血魔力>を含む濃厚な魔力が周囲に迸る。


 <瞑道・霊闘法被>と漆黒の槍の夜王の傘セイヴァルトが連動か。

 

 <夜王鴉旗槍ウィセス>を発動中でもあるからすべてが連動か?


 甲の上で回転中の漆黒の槍の真上に魔力の円が展開。

 

 魔力の円に<光魔の王笏>のマークが一瞬浮かぶ。

 続いて、魔力の円の内側に、血のルシヴァルの紋章樹の絵柄が展開。


 コインに刻まれているような絵だ。


「ん、ルシヴァルの紋章樹?」

「太陽と月?」


 皆にも見えている。

 陰陽道の、陽の中にも陰があり、陰の中にも陽がある『陰陽太極図』にも見えた。

 カバラの神秘思想の生命の樹『セフィロト』と邪悪の樹『クリフォト』のようにも見えるだろうか。


「上が明るい太陽」

「下が暗い月?」


 下にきた相棒がジャンプ。カンフーキャット――。

 連続して跳躍を繰り返す黒猫ロロさんは元気だったが――アレ?

 

「にゃお~」

「あ、今、樹木の洞の中にいるロロ様が見えたような!」


 ヴィーネの声に頷いた。不思議だ。黒猫ロロさんは、双眸を散大させて、俺の腕先を捕らえようと必死だ。


 そんな黒猫ロロから逃げるように――。

 夜王の槍を回転させた。

 そして、その夜王の傘セイヴァルトこと、夜王の槍を掌へと速やかに戻す。

 夜王の槍の中棒の柄を掌の中で滑らせる。そして、その夜王の槍を前に伸ばすように扱ったところで、夜王の槍のハンドルを握り直して、動きを止めた――。

 

 同時に少し夜王の槍の角度を変えて、下に勢いよく下ろす――。

 映える銀色の穂先が――。

 ルシヴァルの紋章樹が構成する明るい太陽と暗い月の境目を切る――。

 光と闇を意味するような魔力の円は、湖面に映る月が揺れるように混ざり合いつつ消えた。


「綺麗……」

「はい……」


 続いて、俺を守るように飛翔する鴉たちを意識――。


 皆も語っていたが、鴉たちは攻防に応用も可能だと感覚で理解。

 槍にも変化が可能な鴉の見た目は……。

 <夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>っぽい印象だ。

 あ、一部の鴉は、<火焔光背>の水墨画風の炎が描いた鴉の絵にも見えた。


 キサラの百鬼道と関係する数珠から出る黒い鴉にも似ているかな。

 

 旋回中の一部の鴉たちは漆黒の槍に変化。


 その鴉の漆黒の槍の見た目は、俺が持つ夜王の傘セイヴァルトの槍状態と似ている。


 穂先は銀色だ。

 

「先ほどの<光闇の奔流>を意味するようなルシヴァルの紋章樹も不思議ですが、これが<夜王鴉旗槍ウィセス>……」


 ヴィーネの銀色の虹彩は揺れている。


 俺の雰囲気を見て、圧倒されているような顔付きだ。


 俺と視線が合うと微笑んでくれた。

 紫色の唇を見ていると……。


 と、のろけてはいられない。


 漆黒の槍の石突を右に突き出しつつ――。

 手首を捻る。

 肘を畳むように引いて漆黒の槍と銀色の穂先を脇に戻すように扱う。


 同時に半身後退――。

 そして、引いた右腕を前に突き出すように、漆黒色が渋い夜王の槍を前方に伸ばした。


 <刺突>――を繰り出した。

 

「ん、しゅっしゅ――」


 エヴァも影響を受けたか。

 ヌベファ金剛トンファーが前後する動きが可愛い。


 そんなエヴァに合わせたわけじゃないが、長柄の中棒と取っ手を触り傘を意識――。


 その直後――。

 夜王の槍状態から夜王の傘セイヴァルトに戻った。


「あ、元の漆黒の長柄傘に戻りました」

「おう、鴉も戻すか――」


 傘の表面は回転中。

 その漆黒の長柄傘を斜めに上げた――。


 傘の外側の生地から次々と飛び立っただろう鴉たちは一瞬で傘の生地の中に収斂した。


 凄い速さ。


 フェイクや<鎖>的な牽制にも使える。


 手品に見えたのか、皆から拍手が起きた。


 ディアと目が合うと、


「風槍流といい、傘の扱いが芸術的で凄かったです! そして、背景の星々に負けていないお兄様……素敵です……」


 ディアの素の熱っぽい態度と言葉を聞くと照れる。

 

「素敵は素敵だけど……ディア、はぁ……受け入れるしかなさそう」

「ん、仕方ない。シュウヤ、カッコいい」


 レベッカの溜め息が切ない。

 が、仕方ない。

 さて、センティアの部屋の扉は閉まっているが、これはこのままでも大丈夫かな。


 一応、皆に、

 

「魔塔ゲルハットに戻る前に、そこのセンティアの部屋だが」

「あぁ、異端者ガルモデウスが来るかも知れないってことね」

「ん、取っ手はあるけど、開かない」


 エヴァが扉を触って調べていた。

 ヴィーネとミスティにキサラもセンティアの部屋と壁を調べていった。


「マスター、ごめん。表面にちょっとだけスキルを試しちゃった」

「ええ?」

「ふふ、安心して。壁の表面は金属ではないし、何も起きてないわ。見て」


 センティアの部屋の壁には何の異常もない。


「ん、たぶん、シュウヤとディアでないと開けられない」

「はい。それか時空属性も関係があるかも知れません」


 と聡明なヴィーネが指摘。

 そうかもな。

 だが、異端者ガルモデウスの存在が気がかりだ。


 人工迷宮……。


 このセンティアの部屋をそのまま放置するってのは、リスクが高い。


 異端者ガルモデウスは、空間ごとセンティアの部屋を封印とか、センティアの部屋を強引に奪う手段を持ち合わせているかも知れない。


 そして、無名無礼の魔槍とナナシを異空間に封じた大魔術師ラ・ゾン。


 優秀な大魔術師ならセンティアの部屋を扱えるかも知れない。


 魔造家など、オードバリー家の職人にも空間を弄れそうな能力者はいる。


 クナも魔迷宮サビード・ケンツィルに特殊な魔法実験場の部屋を持っていたし、魔結界主【我傍】は時空属性の部屋と融合していた。救ったんだったか?


 【我傍】の見た目は、ミイラの涅槃。

 大僧正のような姿だった。

 そして、霊宝武器の独鈷魔槍もあった。


 そのことから――。

 アイテムボックスを意識。


 とある箱を取り出した。


「……ミスティ」

「ん? なに? マスター」

「龍魂雷魔犀の骨を渡しとく」

「あ、うん。ありがとう――」


 頬にキスを受けた。

 そのミスティの唇を逃さない――。

 

 ミスティの細い唇を追うようにキスを送る。

 

 そのままミスティの唇を優しく労りつつ頬に唇を移した。

 

 少し冷たいミスティの頬にキスを送ってから、ミスティの熱を帯びた双眸を見つめ続けた。


 微かな吐息から愛を感じる。


「ふふ……あ、ディアが……」

「体と言葉が一致していないが?」


 と胸を押し付けていたミスティのおっぱいを見るように、服越しだったが、両手でその胸を刺激。


 ついでに、乳頭さんを指先で擦るように優しく弾いてあげた。


「あん――」


 とプレゼントした龍魂雷魔犀の骨が入っている箱が落下。


 素早くミスティから離れた。

 そのまま足を落下中の龍魂雷魔犀の骨が入った箱に伸ばして、その箱を甲で擦るようにリフティング――。


 足首を縦に動かし――。

 箱をトンッとスピン回転させるように跳ね上げることに成功。


 上がった龍魂雷魔犀の骨が入った箱を掴んで、ミスティに向けた。


「アイテムボックスに入れておけ」

「あ、うん――」

「血文字でも伝えてあるが、食べたら能力が上がるらしい。ま、三つあるから皆と相談して決めてくれ」

「え、シュウヤがもらったのに」

「俺はいいんだ。ミスティたちが嬉しいなら、俺も嬉しい」

「もう!」


 ミスティは胸に抱きついてくる。

 そのミスティは俺の胸元を数回叩いてから、


「レベッカの気持ちが分かる……」

「ふふ、わたしの気持ちか。ミスティは、離れていた分もあるからね」

「あ、うん……」


 そんなミスティをぎゅっと抱いてから、離れた。


「ミスティも、皆も悪いが、魔塔ゲルハットには、先にディアを連れて戻ってくれ。相棒、沸騎士たちはここに残して、他を頼む」

「にゃおお~」


 相棒は瞬く間に――。

 黒豹から神獣ロロディーヌに変身。 

 その神獣ロロディーヌの相棒は、体から触手を伸ばす。


 皆の体に触手を絡めた。


「「え!」」

「ん」

「あぁ――」

「あぅ」


 瞬時に、触手を巨大な体内に収斂するように扱いつつ、皆を丁寧に後頭部と背中に運ぶ。


「ん、ロロちゃん~」


 エヴァは相棒の長い耳を触って喜んでいた。


 すると、頭の端に移動してきた皆が、


「――シュウヤは沸騎士たちと一緒にセンティアの部屋の門番?」

「そうなる」

「マスターには魔塔ゲルハットの案内をしてもらいたかったけど」

「シュウヤ様、異端者ガルモデウスに警戒を?」

「あぁ、そのガルモデウスが優秀なら、隠れながら俺たちを観察しているかも知れない。その場合、数が少なくなった俺たちを見て、接触してくるかな? って考えもある」

「ふふ、ご主人様らしい」

「ん、気を付けて」

「おう」

「エヴァもディアたちのことを頼む。そして、暇な時間に、レベッカとエヴァは地下の試作型魔白滅皇高炉にミスティを案内してやってくれ」

「ん」

「了解」

「では、ロロ様に乗って、再度ここで明日の朝か昼に合流ということですね」


 ヴィーネはここに残りたいって顔だ。

 が、そのヴィーネに、


「そうだ。ドワーフのザフバンとフクランが魔塔ゲルハットで商売を始めるなら、その店の展開を手伝ってあげてくれ」

「分かりました」

「上界の魔塔ゲルハットと宿り月の縄張りの動線と俺たちが所有する浮遊岩の動線周りもユイから聞いて頭に入れておけ」

「はい、お任せを!」


 そのヴィーネに頷いてから、


「キサラもビーサに色々と教えてあげてくれ、色々とあったからな」

「はい、【天凛の月】のこと、オセべリア王国、レフテン王国、サーマリア王国の貴族関係と情報網に【白鯨の血長耳】のことを再度教えておきます」

「頼む。ビーサも少しずつでいいから、この惑星のことを学んでくれ」

「はい、シュウヤ、わたしの師匠! この惑星セラが、第二の故郷のつもりで勉強します!」


 相棒の頭部にいる皆を見ながら頷いた。


「んじゃ、明日」

「ンンン――」


 神獣ロロディーヌは触手を寄越す。

 触手で、頭部と毛をわしゃわしゃとマッサージされた。


 あはは、大きい肉球の柔らかさが気持ちいい。

 そして、この肉球の臭いがなんとも。


 相棒的に、俺吸いを、シュウヤ吸いを楽しんでいるんだろうか。

 飼い主が猫吸いを楽しむように。

 

 大きい肉球は俺の頭部から離れる。

 皆を乗せた神獣ロロディーヌは、

 

「にゃおおお~」

 

 と鳴きながら、元ドリサン魔法学院の屋上から離れた。

 真上に飛翔しすぎのような気がするが……。


 宇宙に行かないよな……。


『シュウヤ、ロロちゃんが!』

『どうした』

『ん、凄い速い飛行艇と空戦魔導師がいた』

『シュウヤ様、追いますか?』

『いや、俺たちは俺たちだ。絡むなら別だが』

『了解しました』

『塔烈中立都市セナアプアも忙しい人々ばかり。上界と下界には魔力豪商オプティマスのような存在は他にもいるでしょう? そして、飛空艇を扱う存在は上下の評議員の中にもいる可能性が高い』

『あぁ、クナのような闇のフィクサーがいるかも知れないな』

『はい。フィクサーと言えば、クナの知り合いのフクロラウド・サセルエル。その方は【闇の八巨星】の一人とルシェルが血文字で伝えてきましたが』

『俺たちの敵で絡んでくるなら戦おう。が、クナ絡みなら交渉のほうが手っ取り早いか』

『はい。大海賊に魔族も下界には多い』


 キサラの血文字が浮かぶと、沸騎士たちが訓練を始めた。

 視界に浮かぶヘルメがその様子を満足気に見ている。


『ヘルメ、外に出るか?』

『あ、はい♪』

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