七百八十八話 夜王の傘セイヴァルト

 台座には闇の炎で燃焼中の黒い墓石が二つある。

 

 その二つの黒い墓石は天井と繋がっていた。


 天井には、血を活かして戦う二種族の魔族たちが、眼球モンスターの大軍と赤い双眸が特徴の大きいモンスターが率いている大柄魔族の群れと戦う姿が描かれてある。


 煤のような黒い炎も壁画として描かれてあった。


 横の壁には無数の骨がびっしりと詰まっている。


「ンン、にゃ~」


 相棒の声が聞こえたのを合図に、黒い炎で燃えている黒い墓石に視線を向けた。


 黒い墓石は闇の炎で燃えているように見えるが、闇の炎を纏っているだけか?


 その闇の炎の表層から、魔素は……あまり感じない。


 だがしかし、炎の内側の魔素は濃い。魔力の質も高い。


 近付くと、俺の鼓動と歩くタイミングに合わせて炎が揺らぎ、魔素の量が上下した。


 すると、二つの黒い墓石は戦旗をバックに襤褸ぼろを羽織る人物の像を一瞬模った。


 左側は男性? 右側が女性か? 不思議な黒い墓石だ。

 黒い墓石の素材は黒曜石か?

 または、黒曜石に近い黒い魔宝石か。

 

 黒い墓石は呼吸でも行うように魔力の質が高くなる部分がある。


 極大魔石のような素材も使われているんだろうか。

 またはハンカイの体にあるような魔宝石の欠片がまぶしてある?


 黒い墓石をのせた台座は反花と華盤けばんに上敷茄子が構成する豪華な台座で、石塔のような印象もある。


 ここは、竜門石窟のような怪夜魔族と怪魔魔族隠れた石窟寺院なのか?


 黒い墓石に近付いた。黒い炎は俺に反応――蠢いて、黒い墓石の縁際に移動。

 そのお陰で、黒い墓石に浮き彫りされている文字がよく見えた。

 先ほどの紙片と同じ言葉が刻まれていた。


 怪夜王セイヴァルト。

 怪魔王ヴァルアン。 

 

 我ら一族の長、ここに眠る。

 ……闇神リヴォグラフに見つからぬことを願う。

 そして、我らの血を持つ者よ。

 我らの想いを託す。


 ボロボロの闇の布と戦旗も浮き彫りされている。


 その黒い墓石を見ながら……。

 無名無礼の魔槍へと魔力を通した。

 

 無名無礼の魔槍から水墨画風の炎が迸る。

 

 水墨画風の炎の絵柄は立体的。

 

 超絶に上手い絵師たちが、油煙墨、松煙墨、彩煙墨などの画材を活かして、ゴォゴォと燃えるような炎をストップモーション的な手法で丁寧に描いたアニメーション的な炎でもある。


 同時に本物っぽさもあるんだから、これも不思議な炎だ。

 俺自身も<火焔光背>を意識。


 体から墨の炎を放出した。

 無名無礼の魔槍の表面に刻まれている『バイ・ベイ』のような梵字が光ると、その無名無礼の魔槍から鬼の仮面のナナシがにゅるっと出た。

 

「――主様。墓石に敵が潜んでいるのか?」


 ナナシを見てから黒い墓石を凝視。

 頷いて、


「潜んでいるかも知れない。んだが、単に墓石の闇の炎と、この無名無礼の魔槍と<火焔光背>の炎を見比べただけだ。仕舞うぞ――」

「――承知」


 <召喚魔槍・無名無礼>を意識した直後に『仕舞う』、『格納』なども意識。

 無名無礼の魔槍から放出される墨の炎を、鬼の仮面のナナシは吸収しつつ――無名無礼の魔槍と重なった。その刹那――。

 

 パッと鬼の仮面のナナシと無名無礼の魔槍は消える。


 亜空間の中へと収まったのか?


 再び――<召喚魔槍・無名無礼>を意識。


 右手に再び現れた無名無礼の魔槍だが、その出現の仕方が渋い。


 水墨画風の無名無礼の魔槍が、水墨画風の絵巻物の平面世界から飛び出ていた。


 一瞬で、本物の無名無礼の魔槍に早変わり。

 大笹穂槍と蜻蛉切に似ているし。


 かなりカッコいい魔槍だ。


 その無名無礼の魔槍を見ながら――。

 再び無名無礼の魔槍を消すイメージで<召喚魔槍・無名無礼>を意識すると消えた。


 これはこれで凄く便利だ。


 あ、もしかして……。

 皇級:無属性の《無名無礼ラ・ゾン》の効果でもあるわけか。

 大魔術師ラ・ゾンが造り上げた亜空間と連動した無名無礼の魔槍に鬼の仮面のナナシ……。


 そして、無名無礼の魔槍を普通に戦闘型デバイスに納めることもできるが、無名無礼の魔槍は、この方法で仕舞うほうがいいだろう……。


 戦闘型デバイスだって万能ではないんだからな。


 ビーサとアクセルマギナはナノセキュリティの攻防のことを語っていた。

 

 そのナノセキュリティを扱える人工知能のアクセルマギナが対処できないほどの超知性を獲得している人工知能が存在するかも知れない。


 選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスと関係したトーラスエネルギーなどの機能があるフォド・ワン・ユニオンAFVを扱える高性能なアクセルマギナなら心配する必要はないかも知れないが……。


 超知性とも呼べる存在がアクセルマギナか。


 しかし、ナノセキュリティってどんな攻防なんだろう。

 0と1など原子核的なコンピューターウイルスの攻防なんだとは思うが。

 

 オブジェクトを備えたヴィジュアル化されたモノなら分かりやすいとは思うが、ミクロとかなら……。


 イメージ的に白血球の役割やナチュラルキラー細胞などを想像する。


 そんな風に脳内で電脳世界を妄想。

 ゼロコンマ数秒の思考をした。


 エクストラスキルの<脳魔脊髄革命>は便利だ。


 すると、皆が入ってきた。


「ご主人様、その黒い墓石の中に、あ、霊槍ハヴィスのような?」

「どうだろう、黒い墓石には文字が刻まれている」

「文字?」

 

 そう疑問風に発言したヴィーネが黒い墓石を調べようと前に出た。


 すると、左側と右側の墓石が反応。

 

 特に左側は強く反応し煌めいた。

 黒い墓石の隅っこに移動していた闇の炎が一気に表面に展開されて黒い墓石を覆うと、闇の炎の一部が飛び出てプロミネンス的な形になりつつヴィーネへと向かった。


 ――攻撃か? 接触か。

 ――<血道第三・開門>。

 ――<血液加速ブラッディアクセル>。


 俄にヴィーネを追い抜いた。

 左手を翳す――。


 <鎖>で盾を作るかと思ったが――。

 瞬く間にプロミネンスのような闇の炎は俺の動きに反応するように黒い墓石へと収斂。


 その左側の黒い墓石は人物像に変化しては、瞬時に黒い墓石に戻った。


 一方、右側の黒い墓石を覆う黒い炎は時々墓石が人物像に変わる以外はそのままだ。


 二人の人物像に変わる黒い墓石には、紙片と墓石の表面に刻まれている怪魔王ヴァルアンと怪夜王セイヴァルトの魂が宿っている?


 単なる防御システムかな。

 

「二つの黒い墓石を覆う闇の炎は生きているの?」

「分からない」


「右側の黒い墓石に刻まれた文字は、怪魔王ヴァルアン。左側の黒い魔石に刻まれた文字は、怪夜王セイヴァルト。それらの文字が刻まれているということは、人型の男女の像は、その魔族たちがモデルということでしょう」


 ヴィーネの言葉に皆が頷いた。

 右の斜め上に浮かぶアドゥムブラリが、


「主ぃ! 俺の<ザイムの闇炎>に反応するかも知れない、使ってみたらどうだ?」

「おう。<火焔光背>で吸収でもいいが、ま、武装魔霊アドゥムブラリのご希望だ。試すとしよう!」

 

 機嫌を良くしたアドゥムブラリ。

 バタバタと背の翼を動かして、


「――おう、こいやぁ! 額に文字を刻まれ続けて三千年?♪ 擽ったい想いを額に載せてぇ♪ 燃えて燃えて宇宙に逝ってェ♪ 漆黒の翼を拡げて直滑降~♪ 惑星セラではぁ~♪ エースゥの星と呼ばれ続けるアドゥムブラリ様ァァ♪」


 変な歌を歌うから吹いた。

 皆も吹くように笑う。

 

 その歌声を止めるように、傍に来たアドゥムブラリの額にAエースを刻む。


 アドゥムブラリは待ってましたァァと叫ぶように単眼球体を震わせている。

 気合い溢れる姿だが、コミカル過ぎて面白い。少し笑いながら<ザイムの闇炎>を発動。


 が、渾身の芸を披露したアドゥムブラリの<ザイムの闇炎>を見ても、黒い墓石は反応せず。


「――反応しないから解除だ」


 紅玉環の指輪から半身が出たアドゥムブラリは、


「ちぇっ」

「ん、ぶらぶらアドゥちゃん面白かった」

「うん。単眼球の下にある口もけっこう拡がるし、面白い顔だった」

「フハハハ、惚れたか、ルシヴァルの眷属たち! おっぱいを寄せたら変顔をもっと繰り出してやろう!」

「ん、エロピコ大魔王」

「……シュウヤ、親指でぐにぐにしていい?」

「蒼炎を灯してのアドゥムブラリ耐久試験も、いい訓練になるかも知れないな、うむ」

「おぃぃ、主、訓練好きに俺を巻きこむな。そして、眷属たち、俺は顔はゴムじゃねぇ、本物だぞァァ、弄るなぁぁ、ブラァァ」

「あ、指輪の中に逃げちゃった」

「ふふ、ゴムってなによ。面白いんだから」


 そこで一呼吸。

 視線を合わせたヴィーネが頷いてから、


「怪夜王セイヴァルトと怪魔王ヴァルアンが一族の長で……左の黒い墓石を覆う闇の炎が、ご主人様とわたしに反応しているということは……わたしとご主人様は、怪夜王セイヴァルトと関係しているということですね」

「怪夜魔族に反応しているなら、皆に反応するかもな」


「ん、試す――」


 前に出るエヴァ。

 左の黒い墓石を覆う闇の炎がエヴァに向かう。

 俺が腕を掲げると闇の炎は黒い墓石に収斂。

 

 続けてミスティがゼクスと交互に前に出た。

 闇の炎はミスティとゼクスに反応。


「うん。左側はわたしたちに反応する。右側の怪魔王ヴァルアンの墓石は反応しない」

「あ、シュウヤ。前に過去のことで話をしていたときに、光魔ルシヴァルに進化する前の種族のことを少し教えてくれたことがあった。たしか……」

「そうだ、光魔セイヴァルト」

「そう、その光魔セイヴァルト! だから、黒い墓石の怪夜王セイヴァルトは、わたしたち光魔ルシヴァルに反応を示すの?」


 レベッカの勘は冴えている。


「正解だろう。前にも話をしたが、俺の大本はヴァンパイアハーフ。エクストラスキルを選択して、光魔セイヴァルトとして誕生する時に……<怪夜魔族>の種族特性は消えていたはずだが、光魔ルシヴァルの遺伝子的に、<怪夜魔族>の一部が俺や相棒の体に内包されているから……この反応なんだろう」

「ん、難しいことは分からないけど、血の繋がりなら納得できる」

「うん。シュウヤは、アドゥムブラリの闇の炎とも相性がいいし、<火焔光背>、<闇穿・流転ノ炎渦>もある。あ、ロロちゃんが黒猫なのも、こういう関連性があるからかも知れないわね」

「それは偶然だと思うが、なんとも」

「不思議ですが、長い歴史を感じます」


 ディアがそう発言。

 光魔ルシヴァルに進化してからはまだ数年だったりするが、怪夜魔族を含めると、膨大な年月となるから、納得だ。


 そして、ミスティからある程度は光魔ルシヴァルについて聞いているからこその言葉だろう。


 そのミスティも、


「うん、まさかのまさか。魔法学院とセンティアの部屋経由で、わたしたち光魔ルシヴァルの秘話に結びつくなんて」

「……皆さんの遠いご先祖様ということでしょうか」


 ビーサなりに理解したようだ。


「そうなるかな」


 俺がビーサにそう発言すると、視界に浮かぶヘルメが、


『怪夜王セイヴァルトの名前があったから、閣下の前身の種族が、光魔セイヴァルトに?』

『その可能性は高いと思う。が、偶然の可能性もある』

『はい。しかし、進化の過程で失われていた<怪夜魔族>の血も、閣下の中に未だに内包されているからこその闇属性なのでしょう? だとしたら……』

『あぁ、そっか。だとしたらヘルメの説が正しいのかも知れないな。……だからこそのヴァンパイア系統か。<吸血>であり<吸魂>だ』

『はい! 凄いお話です。では、このお墓には怪夜魔族の長の怪夜王セイヴァルトの魂が宿る? そして……閣下のお父様!?』

『なんでそうなるんや! と、平手チョップ思念を送るぞ』

『ふふ。お胸がどっきりんこ! を食らいました~』


 おどけるヘルメちゃん。

 小型versionでもスタイルが良い女性だから、おっぱいが見事に揺れて目のやり場に困る。


『あはは、ま、親戚ってことでいいだろ』

『ふふ、はい。でも、閣下の親戚ですよ。家族と同じ……とても嬉しいです!』

『あぁ……俺もちょいと感動だ』


 皆も同じ気持ちのなのか、左側の黒い墓石を凝視中。


 レベッカが、


「光魔ルシヴァルのわたしたちには<怪夜魔族>の能力が残る。わたしたちの親戚が怪夜魔族……だとすると、シュウヤの……」

「待て、ヘルメと同じことは言うな。父じゃない。俺の父は……えっと……」


 あれ?

 自動車事故で……父さんと母さんは……。

 二人の顔が一瞬……。


「あ、ごめん。親戚よね」

「……おう。ま、転生の際の最初の選択が、ここで影響してくるとは思わなかった。驚きだ」


 ミスティも、


「……興味深い話で凄く面白い。マスターに関わる重大事項でもあるってことだし、あ、この怪夜魔族たちの残した文字に『闇神リヴォグラフに見つからぬことを願う』とあるし、闇神リヴォグラフと戦って捕まった? それか、従わされていたから、ここに祭壇を作ったのかしら」


 ミスティの言葉にキサラは頷いた。

 そして、周囲を怖々とみて、


「この周囲の骨……もしかしたら」


 唇を震わせて喋っていた。

 レベッカも唾を飲み込んで、


「納骨堂のような雰囲気があるけど、全部、怪夜魔族たちってこと?」

「ん、でも呪いって感じはない」

「あ、うん。そうね。呪い系なら最初の段階でドッと重い空気感に禍々しいモノがあるし」


 黒い墓石を見ながら頷いた。

 そして、


「で、話を戻すが、あの黒い墓石に刻まれている文字は、出入り口の膜に触れた際に浮かんだ紙片にも同じ文言が記されてあったんだ。その紙片と闇の炎は俺が吸収した」

「ますますわたしたちと怪夜魔族が親戚である可能性が高まった」

「はい、ご主人様が最初に選んだヴァンパイアハーフ。そのヴァンパイアハーフが怪夜魔族。では、怪夜魔族は吸血神ルグナド様とも関わる一族ということに」

「関わるだろう」

「ヴァルマスク家など、吸血神ルグナド様の<筆頭従者長選ばれし眷属>から派生した十二支族と外れ吸血鬼ヴァンパイアたちの種族もですね」

「では、ここは、ヴァンパイアハーフの長。怪夜魔族の長の墓場……」


 納得したところで――。


「左側のほうの黒い墓石を触る。一応、皆、警戒」

「ん」

「にゃ」

「「はい」」

「……ドキドキします」

「ディア、わたしの横に」

「はい、先生」


 皆の顔を見てから前に出る。

 左の黒い墓石を覆う闇の炎は蠢いた。

 その闇の炎は、どことなく、俺を迎えいれるようにも感じた。


 右の黒い墓石を覆う闇の炎も反応し、寄ってくる。

 

「――霊槍ハヴィスもこんな形でゲットしたのよね?」

「ちょいと違うが、まぁ見とけ」

「お宝の気配がする」

「ん、わたしも少しそう思った」


 背後から期待するような女子トークが展開。


 左右に並ぶ黒い墓石に更に近寄る。

 その黒い墓石から鼓動のような音が響いてきた。


 その左の黒い墓石に手を伸ばす――。

 黒い墓石に触れた。

 すると、左右の闇の炎は、それぞれの黒い墓石の中に入り込んで消えた。


 その途端――。

 二つの黒い墓石は溶けつつ沸騰したような膜ができると、黒いモノが密集。

 超臨界流体的に混ざり合ったモノは、二つの位牌のような黒い石になった。


「ングゥゥィィ……ングゥ、ル、ングゥルゥ♪」

「ハルホンク、まだ喰わせるか分からないからな」

「ングゥゥィィ」


 ハルホンクが反応したように二つの位牌の魔力は凄まじい。


 その位牌と似た黒い石には、


 怪夜王セイヴァルト。

 怪魔王ヴァルアン。

 

 と刻まれているから、内包するのは二人の魂か。


「『……我らの血筋のモノか……』」

「『我らの封印を解ける存在か』」

「『本当に現れようとは……』」


 そんな言葉と思念が響く。


「あなた方は……」

「『我は、怪夜王セイヴァルト……』」

「『わたしは、怪魔王ヴァルアン……』」

「『そなたに託そう……一族の想いヲ、我ら夫婦の想いヲ……王の証しとしての怪夜王セイヴァルトの血筋ヲ……』」

「『託そう……怪魔王ヴァルアンの血筋ヲ』」


 そう思念と言葉を響かせると、位牌的な黒い石は、急激に魔力が減った。

 そして、位牌的な黒い石は熱を受けたように溶けると、台座の上に落ちた。


 そこには、黒い勾玉と漆黒の長柄傘があった。

 

「やはり、アイテムか」

「うん。傘と宝石?」

「だな」

「ングゥゥィィ!」

「ハルホンク、まだ待て――」


 漆黒の長柄傘を取る。

 陣笠は血色で漆黒の石突から何か出そう。漆黒の生地が覆う中棒は長いと分かる。


 手元のハンドルは猫の尻尾のようには曲がっていない。

 

 ハンドルを握ると、自然に魔力が湧いた。筋力を得た感覚もある。

 妙にしっくり来る。

 脳に何か違和感が一瞬あったが……傘を開いてみるか――。


 下ろくろは鋼鉄製か?

 中棒は更に伸びた。


 槍の長柄っぽい。

 中棒には、下はじきに、玉留め、他にもボタンがある。


 漆黒色の生地を支えるダボに受骨と親骨はしっかりとした銀色の骨かスチールか。

 漆黒色の生地はコウモリの皮のようにも見える。


 露先の飾りは小さい鴉と戦旗。


「ん、シュウヤ、漆黒色の傘の生地に何かの文字と旗と、あ、小さい鴉たちが動いてる!」


 へぇ、開いたまま傘の柄を引いて、生地の表面を見ると、たしかに戦旗が揺れて、銀色と赤色の鴉が飛翔していた。


 あ、戦旗と鴉の絵は消えた。

 普段は漆黒色か。


 それにしても渋い傘だ。

 柄を持ち直して、傘を閉じる。

 

 これ、武器に使えそうだな。

 とイメージしつつ、<刺突>のモーションで傘を動かすと、傘の石突の突起部分から、銀色の穂先が飛び出た。


「「おお」」

「やはり、武器でもあるようだな」


 槍でもあり、傘でもある。

 ちょいと掌で動かして――。


「うん、柄が長いし、槍と傘の攻防一体のアイテム?」


 爪先半回転から半身の体を前に押し出すように漆黒の傘を引いて、脇を締めてから――。


「――たぶんな」


 再び<刺突>――。

 腕ごと槍と化す、一の槍の基本技を繰り出した。

 そして、傘を開きつつ手元を握りながら傘の中棒を肩に当てて、皆に向けて振り向いた。


「カッコいい~」

「はい、似合います!」

「番傘っぽい感じもあるが――」


 ちょいと、この和風っぽい感じもある漆黒の長柄傘を戦闘型デバイスに入れて――。


「アイテム名のチェックね。名は……」

「「夜王の傘セイヴァルト」」


 おお!


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