七百八十七話 縁と縁が未来を紡ぐ力

 

 隣に来たヴィーネの手を握る。


「ご主人様。ひとまずの勝利、おめでとうございます」

「おう。ヴィーネもよく戦ってくれた。体の半身が半透明な魔族は無事に倒せたようだな」

「はい、ラシェーナの腕輪とイザーローンを用いてビーサをフォローし、翡翠の蛇弓バジュラで大柄のゴドー系のモンスターを仕留めた後、<銀蝶揚羽>で皆を支援。そこからキサラが戦っていた半身が半透明の魔族と爪型の武器を備えた魔族ホグツ亜種との戦いにビーサと共に近接攻撃で参加し、これらを撃破」


 そう語りつつ古代邪竜ガドリセスの剣のさやを見せる。

 ビーサとキサラと一緒に半身が半透明の魔族を倒したか。

 そして、魔族ホグツ亜種か。

 魔迷宮では兵士として多くいるとかだったかな。


 すると飛翔しているアドゥムブラリが、


「主とヴィーネ。この金属鳥は鶏冠とさかが新しくなったのか!」

「ついこの間だ。イザーローンはパワーアップした」


 アドゥムブラリは、


「ほぅ……飛翔速度も増したのか。生意気な翼だ」


 ヴィーネの金属鳥のイザーローンと睨み合う。

 そのアドゥムブラリはイザーローンを操作しているヴィーネに睨まれて、睨むのを止めた。


 びびった感のあるアドゥムブラリは、俺に単眼球を向けると、


「主、下の骨の祭壇も気になるが、塔烈中立都市セナアプアと迷宮都市ペルネーテを結ぶ転移陣を得たのと同じことだ。よかったな!」

「おう。センティアの部屋の転移先は、この元魔法学院以外にも、他の魔塔や魔法学院にあるかも知れない」

「主は前にも話をしたが、魔塔ゲルハットにもセンティアの部屋は転移する可能性があるわけか」

「そういうことだ」

「【幻瞑暗黒回廊】は危険だが、リスクを負うだけはある」

「だな」


 すると、


「閣下~、モンスターはもう湧かないようですよ~」


 ヘルメが手を振っている。

 センティアの部屋の上だ。


「分かった」

「ンンン――」


 相棒は黒豹から黒猫の姿に収縮。

 背中からアドゥムブラリのような黒い翼が生えた。


「ぬお、俺の真似か!」

「にゃお~」


 ちっこい翼を得た黒猫ロロさん。

 可愛く神秘的だ。


 その黒猫ロロはアドゥムブラリから離れて「ンン」と喉声を鳴らしつつ――。


 エヴァに向かう。

 エヴァは魔導車椅子に座っている。


 血文字を実行中。

 血文字の形からキッシュとユイと分かる。 


 レベッカとキサラも血文字で皆と連絡中。

 連絡相手は、メルとベネットとヴェロニカにカルードかな。


 少し遅れてルシェルとベリーズにサラの血文字も浮かぶ。


 サザーとママニのもあった。

 皆、楽しそうに連絡中。


 光魔ルシヴァルらしい光景。

 宙に浮かぶ血文字は便利だ。


 黒猫ロロはエヴァの太腿の上に着地。

 と、エヴァの血文字を消すように肉球パンチの悪戯を実行――。

 そのままワンピースが隠す巨乳さんにダイレクトアタックをかます。


 まったくケシカラン。

 が、隠れ巨乳調査委員会会長として許そう。


 血文字は肉球パンチを浴びても消えないが、その宙に浮かぶ血文字は相棒の片足のせいで見にくくなったはず。だが、エヴァは怒らず。


 少し荒ぶる相棒の背中を撫でてあげていた。

 その微笑を浮かべながらの仕種は、まさに、天使的で女神的。


 相棒はエジプト座りに移行。

 エヴァの手が気持ちいいにゃ~と語るように、背中と尻尾を撫でられる気持ち良さをアピールしているのか尻尾とお尻が少し上がっていた。


 猫らしい姿だ。


 そんなエヴァと相棒から視線をミスティに向けた。


 気になっていたゼクス。

 ビーサも魔導人形ウォーガノフのゼクスとミスティに注目していた。


 そのミスティだが、新衣裳。

 宇宙的な強化外骨格ユニフォーム。

 額の魔印と<血魔力>の魔線が繋がる仕組みか。

 ギュスターブ家のアマハークの魔印を調べていた成果か?


 全体的にモビルスーツのパイロット感が強まった。

 ビーサと近い宇宙的な異彩さがある。


 肝心の一回り大きくなったversionを上げた魔導人形ウォーガノフのゼクスをチェック。


 その骨格の表面は……。

 前と同じくダマスカス鋼を加工したような金属模様。

 金属の溝の間から魔力の光が走っている。


 複雑そうな金属の機構。

 正義の神シャファ様的でもある。


 龍の顎を彷彿させるのも変わらない。


 脳が収まるかぶとの表面にはびょうまりそうな丸型の穴が無数にある。その丸型の穴から沸騎士ふつきし的な蒸気か魔の煙が放出中。


 前と変わらないが、CPU的に放熱が考えられている?

 額の位置にある細長い一本角も前と変わらずカッコいい。


 そして、ゼクスの名の決め手となった双眸そうぼうのデザインも変わらない。

 フォークの先端が左右に並ぶ形で、双眸の外装デザインが施されている。


 フォークの溝の内部には合計六つの魔力の輝きがある。

 六つの内、色違いの輝きを放つ一つの眼があった。


 あれが、イシュラの魔眼の欠片か。

 前にも思ったが、光る魔眼の動きはゼクスの意識を感じさせる。


 肩は外側に湾曲したスリット状のまま。

 ポールショルダーの防御層が厚みを増している形。

 盛り上がった肩の頂点に紫色のクリスタルの核があり、そのクリスタルの核の周りを回る紺色と赤色の水晶の粒も前と変わらず。


 一方、腕の形は変化していた。

 前の女性ピアニストのような両腕ではない。


 パイルバンカーなどを装備したせいで肘から先が分厚くなったが、手首で細まる作りはモノトーン的で統一感がある。


 センスがいい。


 首も細いままで胴体はミスティが収まるためか分厚くなった。

 ショベルカーの操縦席風。

 背中にはミスティの体格に合うクッションと窪みがあるように見える。

 カーボン系の柔らかそうな管が蠢いていた。


 パイルバンカーを備えた両腕と剣の柄は背中と腰にもあった。

 武器類には聖十字金属を使った長剣もある。


 そのゼクスを見てから――。

 ヴィーネと恋人握りで元魔法学院の屋上に戻った。


「ヘルメ、左目に戻って来い」

「はい」


 左目にヘルメを格納。

 そして、床に刺したままの王牌十字槍ヴェクサードを回収。


 ミスティは新型ゼクスを縮小させた。

 その新型ゼクスの肩に乗ると、寄ってきた。


 皆も寄ってくる。


「シュウヤ様、闇神リヴォグラフの眷属の討伐おめでとうございます」

「おう、キサラもよく半身が半透明な強い魔族を倒してくれた」

「はい! 戦利品は後ほど?」

「そうだな」

「マスター、おめでと。七魔将リフルに、魔界騎士ウロボルアス。連続した戦いだったけど、血の消費は大丈夫?」

「大丈夫だ。ミスティのゼクスは、さっき見せていた胸元が操縦席なのかな」

「うん。わたしが着ている魔導人形ウォーガノフ試験型ユニフォームと繋がる仕組み――。背中側にある管とね」


 ゼクスから降りたミスティは、そのゼクスを大きくさせつつ、操縦席をよく見せてくれた。


 そのゼクスを見ながら、


「凄い。光魔ルシヴァルの血も活かす操縦システムか」


 そう発言すると、ミスティが驚いて、


「もう、びっくりさせようとしたのに、どうして分かるのよ」

「そりゃ済まん。前世の知識と、ハンカイが魔迷宮で囚われていた時に体に管がたくさん繋がっていたんだ。だから、血を活かすSYSTEMもありかなと」

「そっか」

「おう。しかし、天才ミスティなら、ミホザの第一世代から新しい魔導人形ウォーガノフを造れそうだな。そして、アクセルマギナに選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスに関わる宇宙兵器とも相性がいいかも知れない」

「いずれ可能かも知れないけど、それは失ってもいいほどの大量の宇宙文明のアイテムを手に入れてからの話――」


 リバースエンジニアリングか。

 再び、ゼクスを縮小させる。

 ゼクスの足下から魔力を放出させて、ホバリングさせていた。


 ミスティは、


「ビームライフルやフォド・ワン・ユニオンAFVはまだ一つだけ。アクセルマギナちゃんも、わたしの能力で溶けてしまうかも知れない」


 刹那、戦闘型デバイスから宇宙的なテーマソングが流れていたが、そのBGMはストップ。


「……」


 アクセルマギナはびびったようだ。

 そこで、ミスティからエヴァに視線を向ける。


「エヴァも皆のフォローありがとう」

「ん、いつものことだ」


 そう発言して舌をちょろっと出すエヴァは可愛い。


「ふふ。あ、シュウヤ、悪夢の女神ヴァーミナ様にお礼はいった?」

「あ、闇神リヴォグラフと戦うように消えてしまった」

「ん、邪教は嫌いだけど、助けられたお礼はしたい」


 エヴァらしい考えだ。

 レベッカも、


「夢で会った時には、ありがと。って言っといてね。でも、ディアを守りながらの戦いで、あのまま魔界騎士を何人も召喚してきたら、さすがに危なかったと思う」


 強い魔界騎士の集団はさすがにな。


「悪夢の女神ヴァーミナ様はナイスタイミングだった」

「うん。七魔将リフルを倒したから闇神リヴォグラフの干渉も長く続かなかったと思うけど」


 レベッカの言葉に頷いた。


「ん、悪夢の女神ヴァーミナ様は、本気でシュウヤのことを気に入っていると分かる」

「その悪夢の女神ヴァーミナ様と、闇神リヴォグラフが派手に魔界で争い合うことは、確定か」

「悪夢の女神ヴァーミナ様には敵が無数にいる状況のはず。また敵を増やして大丈夫なのでしょうか」


 悪夢の女神ヴァーミナ様と部下のシャイサードの会話にもあったが。


「魔公爵ゼン、魔界騎士ホルレイン、悪神デサロビアなどか」

「はい。他にも悪夢の女神ヴァーミナ様は、過去に……」


『そういった諸侯の背後の中には、妾の子供を欲しがる欲望の王ザンスインもいるだろう……十層地獄に封印されている魔神たちの復活も始まっている。あいも変わらず悪神デサロビアの眷属の襲来が続くうえに……淫魔の王女も力を取り戻している。そして、吸血神ルグナドと恐王ノクターの争い、アスタロトも妾と契りを結びたいようだからな。様々な争いの余波が、妾の周りにあるのだ……』


「と、語っていました」

「俺に助けを請う理由だな」

「ん、闇神アスタロト、欲望の王ザンスイン、淫魔の王女ディペリル、悪神デサロビア、魔公爵ゼン、魔界騎士ホルレイン、闇神リヴォグラフ……皆が皆敵対しているから、案外大丈夫?」

「そうね。でも、正直言うと、地上でレムロナたちを誘拐した【悪夢の使徒ベラホズマ・ヴァーミナ】は嫌すぎる。人を生きたまま喰うとか信じられない……」

「ごもっとも。相棒の炎で浄化すべき集団だ」

「にゃごおお~」


 相棒も同意するように口から炎を吐いた。


「ん、わたしも嫌い」

「わたしもです……」

「はい。ペルネーテの地下で起きた戦い、魔人ナロミヴァスとの件は聞いています」


 キサラの言葉に頷いた。

 ミスティが、


「シュウヤが正義のリュートをいただく切っ掛けとなった戦いでもある」

「うん。フランの頼みでレムロナを救って、魔人ナロミヴァスごとペルネーテの【悪夢の使徒ベラホズマ・ヴァーミナ】を潰して、数々の女性たちを救った。あ、イモちゃん誕生秘話でもあるのよね」

「色々とあるわね。正義の神の戦巫女イヴァンカも救ったのよね」

「ん、だけど、シュウヤとイヴァンカは、正義の神殿でえっちした」

「あぁ、聞きたくないことをさらっと言うエヴァっ子! えろシュウヤ! ムカつく!」


 怒ったレベッカとエヴァは頷き合う。


 ビーサ、ミスティ、ヴィーネ、キサラは、びびる俺の顔色とレベッカの顔を見て笑っていた。


 が、顔を引き締めて、


「……邪教を忌み嫌う俺たちだが、血を吸う種族で闇側でもある。俺は特に戦いを好むし、相手を倒すと決めたら容赦はしない。だから、なんとも言えん」

「シュウヤ、わたしたちは闇側であると同時に光側でもあるのよ? 血は必要だけど、一方的に弱者からの搾取はしない。むしろシュウヤは、その闇の力で人々を救っている。だからもっと堂々とするべきだと思う」


 皆、レベッカの言葉に頷いた。

 普段ツッコミ屋でひょうきんな面もあるが、時々レベッカは凄くまともなことを言ってくれる。


 続いて、エヴァも、


「ん、闇と光があるシュウヤだから行える正義がある」


 何回も真顔で頷くレベッカが面白い。

 エヴァの紫色の瞳は力強く優しい。


「ん、正義の神シャファ様も、その闇と光を持つシュウヤのことが気に入ったんだと思う」

「はい。光と闇の運び手ダモアヌンブリンガー様ですから」

「そうそう。キサラさんたちの黒魔女教団の思想こそ、わたしたちの生きる道なのかも知れない。光と闇の属性を持つ光魔ルシヴァルの……」


 レベッカの真面目な言葉がまた心を打つ。

 自然と尊敬の眼差しをレベッカに向けて拱手した。


 レベッカは優し気に微笑む。


 そんな視線は少し恥ずかしい。

 誤魔化すように、拱手を崩した。


 すると、エヴァが、


「ん、あと、ユイたちと連絡を取った。ガルモデウスが占領しようとしていた魔迷宮がここかも知れないって。ヴィーネも少し前に言ったけど、ここは元ドリサン魔法学院で間違いない」

「上院評議員イオスン・ドリサンか」

「うん。わたしたちも見たことがある上院評議員」

「魔塔エセルハードで【白鯨の血長耳】側についた上院評議員の一人だな」

「勝利したあと、守っていた血長耳の兵士に苦情を入れていた」

「足を穿うがたれていた方ですね」


 皆がそう語ると、キサラも、


「上院評議員イオスン・ドリサンの浮遊岩を救ったことになります」

「なら、この浮遊岩と魔法学院を見にイオスン・ドリサンが来る?」

「いずれはそうでしょう。大魔術師たちの間で話し合われていたようですから、監視網があれば、わたしたちが七魔将リフルが管理していた魔迷宮を潰したことは知ったはずです」


 監視か、近くを飛翔する存在は浮遊岩が行き交うぐらい。

 アドゥムブラリが、


「斥候のような空を飛ぶ魔法使いはいねぇぞ?」


 と発言しつつ周囲を見渡す。


「ん、知ったら【魔術総武会】のセナアプア支部の大魔術師たちも驚くはず」

「ただ、ガルモデウスの事案が気になります」

「倒した七魔将リフルも、厄介な人工迷宮野郎と発言していた」


 皆、頷いた。

 そして、


「その人工迷宮のガルモデウスは、七魔将リフルなどの闇神リヴォグラフ側や、【魔術総武会】などの人族側とも戦っている存在だということか」

「わたしたちと同じ第三勢力?」


 レベッカの言葉に頷いた。


「その可能性は高い。そして、そのガルモデウスの事案は、小手先芝居が下手だった大魔術師ラジヴァンの会話にもあったように、秘密にしたかったようでもあった」

「異端者ガルモデウスは秘密裏に【魔術総武会】の大魔術師ラジヴァンなどと、個人で繋がりがあるかも知れない? そして、ガルモデウスは、魔迷宮に恨みでもあるのかな」

「魔迷宮に絡む動機はそれで説明がつくが、まだなんとも。ガルモデウスの書を持つユイからは?」

「ディアのガルモデウスの書のレプリカが見たいって。でも、あまり興味はなさそう」


 ディアは紫色の魔力の中で眠っている。


「ユイは【星の集い】のアドリアンヌから、ガルモデウスの書物をもらっただけだからな」

「ん、その異端者ガルモデウスは人工迷宮を西に創ったと聞いている」

「西のラドフォード帝国の領土、本にもあります」


 キサラがそう言ってから、ヴィーネが、


「その異端者ガルモデウスが、このセナアプアに来ているということに?」


 頷いてから、


「本物ならそうなる。その異端者ガルモデウスが俺たちに接触してくる可能性もあるか」

『閣下、闇神リヴォグラフの勢力と敵対しているだけなら、用心深く遠くから観察するだけに留めるかも知れません』

『あぁ』


 ヘルメがそう思念を寄越す。


「観察だけに留めるかもな。光魔ルシヴァルは鑑定スキルを弾く」


 ヴィーネも、


「そうですね、鑑定を行い分析する優秀な存在ならば、まず、わたしたちを警戒して近付いてこない。近付くにしても入念に調べるでしょう。ただし、ご主人様のような性格の場合もありますので、あくまでも仮定の一つ、推測です」


 当然だ。

 一方的に決めつけることは愚策。


 どんな情報も、裏の存在やだれが得をするのかを、推測し、考えることが重要。


 頷いてから、波群瓢箪のリサナを見る。


 波群瓢箪から一対の巨大な腕を出していた。

 カーボンブラックの<魔鹿フーガの手>を展開中だった。


「シュウヤ様~。先ほどの戦いは格好良かったです♪」

「おう、上手く倒せた」


 無名無礼の魔槍を構えてポーズ。


「ふふ♪」


 リサナの笑顔は素敵だ。


 三角帽子の横から出た鹿の角。

 そして、半身が半透明。

 骨と血管を伝う魔力の血流は不思議だ。

 そして、ドレス的なホルターネックは魅惑度が高い。

 肌に密着したキャミソールに、その密着した巨乳さんが、見事に揺れている。


 両手に持った扇子を拡げて、ポージング。

 すると扇子で、


「こうして応援していました♪」

「……シュウヤの眷属精霊と聞いたが、波群瓢箪という武器は不思議すぎる……金属の瓢箪の上に花弁も生えている。深海の生物的なDNAもあるのだろうか、生命体は実に奥が深い」


 ビーサはリサナから説明を受けていると思うが、まだ慣れないか。宇宙にもリサナのような存在は稀か。

 

 リサナは巨大な鐘のような波群瓢箪と合体できる知的生命体。


 そして、元の波群瓢箪は俺の血を吸って、樹怪王の軍勢の血も大量に吸っていた。

 更に、アーゼン朝文明の大ナメクジと大カタツムリの剣精霊を波群瓢箪の中に入れた。そうして、波群瓢箪の中の【雲錆・天花】の一部が融合して誕生した知的生命体がリサナ。


 波群瓢箪をくれた時獏は、


『俺の頭上に浮いていた雲の源。最初は使い勝手・・・・に苦労するだろうが、本人の魔力次第でいかようにも育つ。その可能性は夢幻。がんばって育ててくれ』


 と語っていた。


 その夢幻の意味とは、ことなる儚いモノが【雲錆・天花】だったと思うが、リサナは、本当に花が咲いたように勢いよく扇子を振るって綺麗な音符の魔線をあちこちに造る。


 魔力を出すと同時に鳴るゴシック風の音楽が面白い。

 前に、リサナを見たミグス・ダオ・アソボロスは夢だと思い込んでいたがディアの場合は、リサナを見たら気を失うかも知れない。


 リサナは、扇子を捻って振るい続ける。


 釣られた相棒が「にゃおお~」と寄ってきた。


「ふふ、ロロちゃん様~♪ これは食べ物ではないです~」


 リサナの角と衣装の周りには不思議な音楽を鳴らすカタツムリとナメクジの形をした桃色の魔力粒子が舞っていた。


 その可憐なリサナに波群瓢箪の中に戻ってもらうように、


「リサナ、波群瓢箪に戻ってくれていい」

「はい~」


 リサナは波群瓢箪の中に戻った。

 その波群瓢箪を仕舞う。


 そこで沈黙していたミレイヴァルを見る。

 ミレイヴァルは片膝で地面を突いた。


 頭を垂れてから、パッと顔を上げて笑顔を見せる。前髪が隠す薄桃色の瞳が美しい。


「陛下とロロ様、聖者の神印を持つ聖騎士らしい戦いっぷり。そして、魔界騎士の討伐おめでとうございます」

「ありがとう」

「にゃ~」

「ミレイヴァルも敵と戦いたかったと思うが済まないな」

「とんでもない、陛下に使役を受ける身です。そして、陛下の聖騎士や武人としての立ち居振る舞い、風槍流の戦いは、勉強になります。特に二槍流の槍さばきは、毎回見る度に、独自に進化を果たしているようにも思えます」

「おぉ、槍の達人にそう言われるのは嬉しい。ミレイヴァルの破迅槍はじんそう流ももっと学びたい」

「ありがたきお言葉。陛下の役に立てることが嬉しいです。更に、こうして会話をしてくださるだけで、陛下の優しさを感じて……」


 薄桃色の瞳に熱が帯びる。

 美しいミレイヴァルだ。


 レベッカからのツッコミが来ると思うが、


「俺も美しいミレイヴァルが傍にいると嬉しい」


 と発言。

 が、レベッカは俺たちをジロッと睨んでから血文字を展開。


『今、シュウヤがミレイヴァルさんにえっちなことをしていたの! ユイ、今度、神鬼・霊風の鞘でシュウヤを突いていいから』


 無難にスルー。

 キサラが、


「わたしも……もっと貢献したい」

「キサラの天魔女流の魔人武術と槍武術はいつも参考にしているぞ」

「あ、ありがとうございます」


 キサラは少し跳躍するように喜ぶ。

 白い髪が揺れるさまは可愛い。

 そんなキサラからミレイヴァルに視線を向けて、


「ミレイヴァル、俺の腰に来い。アイテムとして今は傍に」

「はい!」


 瞬時に、閃光のミレイヴァルは銀のチェーンがついた銀の杭に変わる。俺の腰に巻き付く動作が少し熱を帯びていた。

 すると、沸騎士たちがドカドカと音を立てて、更に近くに来た。


 音で眠っていたディアが起きた。

 が、沸騎士たちを見て、顔や体が強張る。


 まぁ、仕方ない。


「――閣下とロロ様ァァ、見事な一騎打ちでした!」

「――閣下とロロ様ならば魔界大戦でも活躍間違いなし!」

「はは、大袈裟だな」

「にゃお~」

「そんなことはありませんぞ! 先ほどの戦いは霊験あらたかな戦いで感動しました!」

「魔獣といい、魔界騎士ウロボルアスは中々の槍使いだった」

「閣下が用いた魔力を吸い取った新しいスキルと<鎖>に格闘のスキルの連続攻撃は、我らには衝撃的でしたぞ! なぁ、ゼメタス!」

「うむ! アドモス!」


 ゼメタスとアドモスが興奮。

 黒と赤のぼあぼあを、骨鎧の脇腹と胸元の溝から噴出さした。


「<火焔光背>からフェイクを交えての<蓬莱無陀蹴>のコンボか。無名無礼の魔槍といい、新しく獲得したスキルはかなり使える」

「新しく獲得したスキルを活用できる〝戦闘せんす〟が高い閣下だからこそかと!」

「我らも参考にしたい!」

「アドモスよ、わたしたちには、閣下の機動は……ムリだ。横に移動するだけで、腰骨が折れてしまうぞ」

「むむむ、魔界セブドラに帰還してしまう恐れがあるな」

「嘆くなアドモス。我らは我らのやり方で閣下に命を捧げるのだ」


 ゼメタスとアドモスは、


「――うむ! 名剣・黒骨濁がある!」

「そうだ! 名剣・赤骨濁がある!」

「この、愛盾・黒骨塊魂!」

「おう、愛盾・赤骨魂塊!」


 骨剣と骨盾をぶつけ合う。

 火花が……。


「「おう――」」


 頭突きを行う。

 熱いゼメタスとアドモスだ。


「ん、熱いぼあぼあが元気」

「うん。沸騎士たちは見た目も変化しているし、煙のような蒸気の魔力も質が高まっていると分かる」


 羊皮紙にメモっているミスティが発言。


「おう。カッコいいゼメタスとアドモスも七魔将リフルの攻撃をよく凌いでくれた。ありがとう、おまえたちがいてよかった」

「「――閣下ァァァァァ」」


 凄まじい勢いで寄ってくると、片膝で床を壊す。

 元魔法学院の屋上は崩れたりしないだろうな。


「ふふ」

「沸騎士たちは、恐怖を与えるほどの威圧感があるけど、シュウヤに対する態度を見ていると可愛く見えてくる」

「はい、そう思います。それにマントも素敵です、たしか星屑のマントとか」

「キサラ様、その通り、魔界セブドラに持ち帰りが可能な、すぺしゃるな防具ですぞ」


 沸騎士たちも喜んでいた。


「にゃお~」


 相棒は、ぼあぼあを楽しそうに浴びていた。

 触手で沸騎士たちの頭部を撫でていく。 

 さて、骨の祭壇を……。

 が、もう少し魔界のことを聞くか。


 沸騎士たちに視線を戻す。


「闇神リヴォグラフの【闇神母衣ほろ衆】の騎馬部隊は魔界では有名なのか?」


 と聞いた。


「魔獣を操る勁騎部隊ですぞ」

「闇神リヴォグラフの魔界セブドラの近衛大隊の一角であり、精鋭部隊が【闇神母衣ほろ衆】」

「魔界騎士ウロボルアスは精鋭部隊の副長か、どうりで強かったわけだ。では、デルハウトとシュヘリアが嘗て仕えていた魔蛾王ゼバル。他にも暴虐の王ボシアド様、魔毒の女神ミセア様、俺たちに加勢した悪夢の女神ヴァーミナ様、魔公爵ゼンにも同じような部隊があるのか」

「はい。そのはず。それぞれに特徴ある軍隊があります。悪神デサロビアの軍はあまり纏まりがありません」


 頷いた。

 アービターだったか。昔戦ったことがある。


「魔界セブドラの魔界大戦か」

「傷場を含めた勢力争いがあちこちで起きているようね」

「ん、四眼ルリゼゼが語っていた魔界大戦の話は凄かった」

「たしかに。邪界ヘルローネで俺と出会わなかったら、ルリゼゼはどうなっていたか」


 今、ルリゼゼはどこを旅しているんだろう。

 また会えるかな。


 レベッカが、


「シュウヤの魔軍夜行ノ槍業の内部にいる師匠たちのお話も、幾つかある魔界大戦の物語の一つなのね」

「そうだろう」


 すると、ヴィーネが、


「魔城ルグファントを巡る戦い。魔人ソルフェナトスとキストレンスも、その戦いがあったから、ご主人様とわたしたちと邂逅を果たした。そして、悲しいかな……魔界セブドラの魔城ルグファントの戦いがあったから……塔烈中立都市セナアプアを救えたということに」

「そう考えると、心が熱くなる。魔人ソルフェナトスとキストレンスを知っているだけに」


 あぁ……縁と縁が未来を紡ぐ力か。 


「ん、透魔大竜ゲンジーダの胃袋をもらった」

「はい、いただきました」


 その透魔大竜ゲンジーダの胃袋のアイテムボックスはヴィーネを強くした。


「では、魔城ルグファントは、現在魔人武王ガンジスとその弟子の勢力下にあるということでしょうか」


 魔軍夜行ノ槍業が頷くように蠢いた。


「そうなるだろう」


『使い手、魔城ルグファントが残っているのなら、いずれは使い手の物になるはずよ』

『そうはやすな。シュリの技やソーの技もまだ学んでいないし、八大墳墓の破壊も必要だろう』

『カカカッ、いずれの話である。しかし、既に使い手は我らの弟子である。魔城ルグファントの正式な後継者であろう。いずれは、魔君主として魔人武王ガンジスなどの勢力を討ち滅ぼしてくれるはずじゃ……』


 師匠たちがそんな思念を寄越す。

 グラド師匠の思念には様々な想いが込められていた。


 魔界セブドラについては、魔皇シーフォとの約束もある。秘宝書〝夜の歌〟など、覇王ハルホンクの過去も気になるところだ。


 そのことは言わず、沈黙していた沸騎士たちに視線を向けて、


「暴虐の王ボシアド様が持つ死海騎士もそれぞれに配下を持つ?」

「そのはずです。死海騎士は、個人で諸侯を超える力を有していると聞いたことがあります」

魔界の神々セブドラホストたちも知る強者が死海騎士」


 黒沸騎士ゼメタスと赤沸騎士アドモスがそう語る。


「魔界騎士ウロボルアスもかなりの強さだったが、死海騎士はそれ以上か」


 アドゥムブラリから死海騎士ヘーゼファン・ロズナルドの名は聞いている。


「魔界騎士ウロボルアスより七魔将リフルのほうが強かったが、七魔将は別格か」

「はい。セラに魔迷宮を作る能力といい、レアな存在が七魔将かと」


 サビード・ケンツィルも強いことは確実か。


「闇神リヴォグラフに向けて、狭間ヴェイルに干渉されつつも魔界セブドラとセラを繋ぐ贄場を人工的に造り上げることが可能な能力は凄まじい」


 沸騎士たちの言葉に頷いた。そして、キサラと視線が合う。

 キサラの紙人形の群れの一部は千羽鶴のように連なって骨の祭壇のほうへと向かっている。そのキサラは頷いてから、


「さて、センティアの部屋で【幻瞑暗黒回廊】を調べる前に、骨の祭壇を調べよう」

「紙人形たちも反応しているように、骨の祭壇の中に魔素の反応があります」

「そうだな、行こうか――」


 屋上を走って骨が形成する橋を渡る。


「あ、ご主人様」

「シュウヤ様、危険です」

「危険だから俺でいいんだよ――」


 背中越しに語る。


「にゃご」


 相棒も文句を言うが、相棒にだって傷は受けてほしくない。俺の我が儘だが――。


「主、かっこつけんな! 闇なら俺だろうが!」


 アドゥムブラリにも注意を受けたが、闇なら俺って知らんがな。


 骨の祭壇には闇神リヴォグラフの眷属が潜むかも知れない。


 ダメージを受けるなら俺だ。


 エヴァは自分が大ダメージを受けたら死ぬかもと言ったが……それは<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人の見解。


 光魔ルシヴァルの宗主の俺なら簡単に死なないはず。


 体の再生が間に合わず魔力と精神力が大幅に削られた場合は……エヴァの語るように死んでしまうかも知れないが。


 骨の祭壇に近付いた。

 祭壇の出入り口は闇の炎の膜で塞がれている。


 まずは試しにと――。

 その闇の炎の膜に触れてみた。


 すると――。

 膜の表面に魔力を帯びた古い紙片が出現して漂う。


 その紙片には、


 怪夜王セイヴァルト。

 怪魔王ヴァルアン。

 

 我ら一族の長、ここに眠る。

 ……闇神リヴォグラフに見つからぬことを願う。

 そして、我らの血を持つ者よ。

 我らの想いを託す。


 その闇の炎の膜と紙片は俺の手の中に吸い込まれて消えた。


 闇属性と血に関する膜で隠蔽されていた?

 闇神リヴォグラフ、七魔将リフルが気付かないうちに、怪魔王ヴァルアンと怪夜王セイヴァルトの種族の者たちが、この魔迷宮に秘密の祭壇を創っていたということか。


 その祭壇の中央にある台座には……。

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