七百八十三話 【幻瞑暗黒回廊】の突破!?



 黄金と銀の扉を調べる前に、ディアの衣服だが、代わりは持っていない。


 俺を見るディアの瞳は揺らいでいる。


 そのディアを支えるエヴァとレベッカ。そのレベッカが、


「この服を着る? 防御力はあまりないけど」


 洋服を取り出していた。


「あ、レベッカさん、ありがとう。でも、予備の制服はここにありますから、大丈夫です」

「了解。生徒なら当然か。あ、そこのエロエロ大魔神が見ているから、早く着替えて」

「ほぅ、エロエロ大魔神さんの、くすぐり大魔王攻撃を受けたいようだな」

「ん、エッチング大魔王!」


 エヴァまでそんなことを……。


「ふふ、《水幕ウォータースクリーン》を使います」

「あ、ありがとう、精霊様!」


 ディアの体だけを上手く隠すヘルメの《水幕ウォータースクリーン》。

 

 すると、エヴァが、ディアの耳元で、


「ん、ディア……シュウヤと……」


 と小声で話をした。

 聞いているディアは、『え?』とドキッとしたような表情を浮かべると、瞬く間に頬が真っ赤に染まる。

 

 耳までやんわりと朱色に変化した。

 

 そして、そのディアは、俺をチラッと見ては視線が泳ぐ。


 ズレている眼鏡が可愛い。


 その眼鏡っ娘のディアが、


「……えぇ……ぅぅ、はぃ……でも、どうして……エヴァさんは……」


 ジッとエヴァを見ながら語る。

 エヴァは優し気に頷いて、


「ん、わたしには<紫心魔功パープルマインド・フェイズ>があるの」

「体から出した紫色の魔力?」

「ん、ううん。その紫色の魔力は<念動力>っていうエクストラスキル。それとは違う最初に言ったエクストラスキルの能力で、ディアの気持ちの一部を理解することができた」


 ディアは驚いて、


「それは凄い! 神々に選ばれし存在と言われているエクストラスキルを複数持つ方を初めて見ました!」


 そう元気よく発言。

 エヴァを尊敬の眼差しで見つめる。


「ん、ヴィーネもユイもエクストラスキルを持つ。シュウヤもいっぱいある」

「え、エヴァお姉様とお兄様と、ユイお姉様とヴィーネお姉様も……なんて凄い方々なんでしょう……」


 ディアは胸元に両手を当てながら、感激したような仕種で小さく拍手。


 エヴァは頷いてから、


「ん、でも、ペルネーテの迷宮では死にそうになった」

「イノセントアームズのパーティでですか?」

「ううん、個人での活動。イノセントアームズを組む前は、個人活動が多かったから」

「なにか理由があったのですね」

「ん、あった。わたしは迷宮名物料理屋リグナ・ディのための食材と金属を集めるために冒険者活動をペルネーテで続けていた」

「レベッカさんと同じく、出身もペルネーテなんですか?」

「ううん。ペルネーテの北西の葉脈墳墓が近いナイトレイ男爵家が治めていた土地。色々とあってペルネーテに住むことになった――」


 そう喋ったエヴァ。

 

 自身の金属の足を魔導車椅子に変化させると、その魔導車椅子に座りつつ袖からヌベファ金剛トンファーを伸ばす。


「棒術と、この魔導車椅子を活かして、ペルネーテで冒険者活動を続けて生きていた」

「そうだったのですね。ペルネーテなら、わたしも授業の一環で冒険者活動をしていたことがあります。ですから、冒険者ギルド内ですれ違っていたかも知れないです」

「ん」

「ミスティ先生は知っているので省いて、お兄様と皆様との出会いは、その冒険者活動中に?」


 ビーサ以外の皆が頷いた。

 エヴァは、


「ん、ビーサ以外はそう。わたしは、ペルネーテの迷宮でシュウヤに助けられて、シュウヤのことが好きになって……シュウヤが一緒にパーティを組んでくれて、一緒に過ごしてくれるようになった。そして、……<筆頭従者長選ばれし眷属>にしてくれたお陰で、わたしは強くなることができた」


 そう発言。

 ディアは俺をチラッと見てから、 


「光魔ルシヴァル……不死系の光属性を持つ吸血鬼と聞きました。お兄様と一緒で無敵の一族なのですね!」

「ううん。吸血鬼も弱点を受けたらあっさりと死ぬように、わたしたちも、他の種族より死ににくいだけ。タフなだけで、神々の眷属たちや巨大な怪物が繰り出す圧倒的な攻撃を素で喰らえば、たぶん、死んじゃうと思う。あと、わたしたちには生きるために血が必要なの」

「そうなのですね。血に関しては、先生から少し聞いています」


 そこから少しエヴァとディアが語らう。


 ディアは着替えを終えた。


 しかし、優しいエヴァが吸血鬼ヴァンパイアを語るか。普通なら怖がると思うが、エヴァの表情と語りは天使さんだから、ディアも落ち着いて聞いていた。


 黒猫ロロは毛繕い。


 ミスティも皆の話を聞いているが……。

 羽根ペンが忙しなく動いている。

 羊皮紙に考察を書いているようだ。

 

 同時に、腰ベルトから外した金属の容器から、金属の器のような魔道具を宙に浮かばせている。


 簡易的な実験も始めていた。

 興味があるから、


「見ていいか?」

「うん、けど、見にくいかも知れない」

「あ、俺に構わず、思考を続けながら書いててくれ」

「了解」


 そのミスティの羽根ペンが書く羊皮紙を覗いた。



 羊皮紙には、



 □■□■


 レポート・センティアの手とマスターとディアとオセべリア大貴族の考察。


 相反する異獣の触媒力が強まるセンティアの部屋は、マスターの<覚式ノ理>と弟子のディアの<覚式ノ従者>専用の【幻瞑暗黒回廊】用の転移移動装置と認識。


 そして、魔法学院同士を繋ぐ【幻瞑暗黒回廊】を比較的安全に航行が可能になるマジックアイテムでもあるようね。

 センティアが語るには、【幻瞑暗黒回廊】は危険だから、あくまでも、移動用のアイテムでしかないと考えたほうが無難。さきほどの巨大な魚は怖かった。ロロちゃんが唸り声を発していたら、たぶん、シュウヤはゲートを使って逃げていたはず。


 そのマスターとディアは、黒髪同士。

 消えたセンティアも黒髪だった。

 やはり、マスターが血文字で語っていたニッポン人が稀人で、転生者か転移者か、その血縁がセンティアということなの?

 

 ルシェルからの血文字で、クナは前に『東邦の異聞録集』のことを教えてくれた。


 東邦のセンティアは、賢者たちの物語の中に登場する。

 

 だとしたら、センティアは賢者の一人?


 猿と雉の相反する異獣といい、もしかして、時空の神クローセイヴィス様に関わるのかしら……。


 そして、超絶に怪しい魔法上級顧問のサケルナートよ。


 ディアの兄を殺したのはサケルナート?

 ディアの兄が行方不明になる原因?


 そのサケルナートが回収していた魔法書は、そのセンティアと関わる書物だと思うし……。

 どうして、サケルナートは魔法書が必要になったのかしら。


 怪しいサケルナート……。


 宮廷魔術師サーエンマグラム卿の従兄弟。

 王の手ゲィンバッハに通じている。

 中央貴族審議会との強いコネがあり、【魔術総武会】のペルネーテ支部かグロムハイム支部にも所属している?


 先生たちの中には、ディアが【幻瞑暗黒回廊】を調べることについて賛成派と反対派があったらしい。

 

 そして、エロ校長には事前にわたしたちが向かうとは伝えていたけど、校長室に他の先生たちが集まっているなんて聞いていなかった。


 あの場は、エロ校長にサケルナートが責付いた結果かな?

 

 そのサケルナート的に、ディアの臨時武術講師のマスターを直に見たかった? ディア側に強力な存在が現れることを警戒している?


 臨時武術講師の就任に不満があった?


 でも、ディアが【幻瞑暗黒回廊】を調べることを許していたわけだし、サケルナートが優秀なら【幻瞑暗黒回廊】で襲うこともできたはず。


 それともディアを侮っていて、いつか【幻瞑暗黒回廊】で死ぬだろうと思っていたの?


 予想は尽きることがないわ。

 


 □■□■



 そう書き記すと、ウィンクするミスティ。ミスティはまだまだ書き足りないのか、自分の考えを書いていった。


 さて、その思考の邪魔をするようで悪いが――。

 

 起動中の二十四面体トラペゾヘドロンを仕舞う。


「皆、あの扉の先を調べよう」

「ん、どこに着いたんだろう。楽しみ!」

「四方の壁の素材は人工的なモノに見えます」

「うん。模様は、どことなく魔法学院っぽい」


 レベッカの言葉に頷いたキサラは、


「他の魔法学院の秘密の部屋だと思いますが、なにしろ、さきほどの巨大な魚といい、【幻瞑暗黒回廊】ですからね。ディアは分かりますか?」


 キサラはそうディアに聞いていた。

 尊敬の眼差しで見ている。


 ディアは、少し緊張した仕種から、眼鏡の間に人差し指を当てて眼鏡の位置を戻すと、


「魔靴ビートゥで【幻瞑暗黒回廊】を移動していた時と違うこともあるかと思いますが、お兄様と融合したセンティアの手とセンティアの部屋の移動は、たしかなモノです。ですから、センティアの部屋が到達した場所は、ロンベルジュ魔法学院ではないはずです!」


 ディアは俺との感覚を思い出したのか、途中で力強い気持ちを出すような喋り方に変わっていた。


 ディアの言葉を聞いて頷いてから、魔靴を見て、


「その魔靴ビートゥはアス家に伝わる?」

「はい」


 俺も魔剣ビートゥを持つ。

 キサラは俺を見て、


『魔剣ビートゥ……』


 とアイテムボックスに仕舞ってある魔剣のことを暗に伝えてきた。


 そして、


「魔靴ビートゥは、シュウヤ様が持つ魔剣と名前が同じ。その靴も、魔界八賢師セデルグオ・セイルが作った品でしょうか」

「え、お兄様も?」

「そうだ。名は魔剣ビートゥ、伝説レジェンド級。身体能力微上昇と魔力上昇に、闇神リヴォグラフの恩寵を齎す可能性があるとか。その闇神リヴォグラフの恩寵の効果かも知れないなら、様をつけるべきか」

「闇神リヴォグラフ様の……」

「では、ご主人様は、闇神リヴォグラフの恩寵によって、魔界八賢師セデルグオ・セイルと関わる者や物との出会いが多いということでしょうか」

「ん、ムーちゃんも魔界八賢師セデルグオ・セイルのアイテムを持ってた」


 俺は頷いた。


「へぇ……なら、闇神リヴォグラフ繋がりで、【異形のヴォッファン】も?」

 

 運命的にか?


「それはどうだかな……」

「さすがに、偶然よね」

「「……」」


 皆、沈黙。


「……ふぅ~。もう! あ、移動は一瞬だったけど、【幻瞑暗黒回廊】を突破したってこと? ロンベルジュ初代校長の泣き声伝説もなかったし、案外楽ね!」


 レベッカがそう発言すると、ディアが、


「あ、ロンベルジュ初代校長、大魔術師ドット・フセネスの変な声はなかったですね。そして、先ほどは宣言するように発言しましたが、【幻瞑暗黒回廊】から、センティアの手から出た魔線のお陰で……魔法学院ロンベルジュに戻れただけのわたしです……実は、正確なことは分かりません。すみません……」

「ん、謝ることはない。ありがとう、ディア」

「はい、十分です。ありがとう」

「うんうん。ロンベルジュ初代校長の泣き声伝説には興味があったけど、ディアから聞いた範囲だと、おっぱいくろまてぃな雰囲気もあるし、スルーでよかったわ」


 そのレベッカの言葉に全員が笑う。

 ディアも微笑む。


「ま、あの黄金と銀の扉を開けたら答えが分かるだろ」

「そうね、骨が気になるけど……」

「「はい」」

「ンン――にゃ」


 先に扉に向かっていた相棒の鳴き声だ。


 振り返って、尻尾を振っている。


 その顔付きと鳴き声は『皆、早く来いにゃ~』と言わんばかりの顔付きだ。


「ん! ロロちゃん!」


 エヴァが呼ぶと黒猫ロロは、


「にゃ!」


 と甲高い珍しい声を発した。

 そして、頷いたような仕種をとってから尻尾を上げると、振り向き直して走り出した。

 

 黒猫ロロは菊門を晒した。

 可愛い。


「あ、ロロ様、扉には罠があるかも知れないです」

「ンン――」

「猫掻きは禁止ですよ」


 黒猫ロロはヴィーネの言葉を聞いて足を止めた。


 その黒猫ロロに近付いたヴィーネとエヴァ。

 エヴァは掬うような動作で黒猫ロロを両手で拾って抱きしめる。


 そんなエヴァが抱く黒猫ロロの頭部を、ヴィーネの片手が撫でていった。


 青白い指先が相棒の頬の黒毛を梳く。


 喉と胸のふさふさした黒毛を青白い指で梳く動作は、洗練されている。


 そして、黒猫ロロさんの顔が、またなんとも。


 至福顔だ。


 『ふふ』と笑ったヴィーネの人差し指が、ピンクの鼻先に触れると、目を開けた黒猫ロロ


 そのヴィーネの指先を甘噛みしようとした。

 が、ヴィーネは直ぐに指を引っ込める。

 

 相棒は気にせず、エヴァの掌と胸元の中で転がるように横に体をずらして、抱っこ中のエヴァの顔を触ろうと、前足を伸ばした。


 エヴァは、聖母マリアのように優し気に微笑んで、その伸びた前足ごと黒猫ロロの体をぎゅっと抱きしめてあげていた。


 美女二人と黒猫ロロか。

 絵になるなぁ。


 黒猫ロロは、両後ろ脚をデレ~ンと伸ばし、なすがまま。


 ゴロゴロと黒猫ロロエンジンを響かせる。

 エヴァの柔らかいおっぱいベッドに包まれて幸せそうだ。


 エヴァは、


「ん、肉球ちゃん、柔らかくて良い匂い~」


 と、黒猫ロロの前足にキスしている。


 少し興奮気味。

 エヴァも可愛い。


 ヴィーネは微笑んでから、黒猫ロロとエヴァの頭部も撫でていく。


「ん、ヴィーネ?」

「あ、すまない。二人を見ていると自然と手が動いてしまったのだ」

「ふふ、おかしなヴィーネ」

「そこは、わたしもゴロニャンコ~♪ と言わないと!」


 レベッカのツッコミの言葉が響いた。


 なんか、心がほんわかする。


 そうツッコミを入れているレベッカも、胸元に手を当ててジーンッと感動しているような表情だ。


 ヴィーネは「では、ゴロニャンコ?」と両手で可愛いネコポーズを決めた。が、「……」と、すぐに恥ずかしそうな表情を浮かべたヴィーネは身を翻すと、エヴァと相棒から離れて、先に黄金と銀の扉に向かう。


 そのヴィーネは黄金と銀の扉の前で片膝をついた。

 黄金と銀の扉を調べ出した。


 鍵穴とかはないと思うが。

 俺たちもエヴァと黒猫ロロに近寄った。

 

 その際、エヴァに抱かれている相棒が、片足を横に伸ばして俺を触ろうとしたが――。


 その肉球を右手でタッチするだけに留めて、先に黄金と銀の扉に近付いた。


「ンン――」

「あ、ロロちゃん」


 黒猫ロロは俺を追ってエヴァから離れたようだ。


「もう! わたしに抱っこさせなさい」

 

 レベッカから逃げたのかな。

 構わず片膝を床につけているヴィーネの傍に寄る。

 ヴィーネのポニーテールの髪形と項が魅力的だったが――。


 黄金と銀の扉を見た。


「センティアの造形が見事ですね」

「あぁ」


 自然と、ヴィーネの言葉に頷いた。

 ヴィーネは俺の手を握って立ち上がる。


「ンン」


 足下に相棒が来た。

 鼻をクンクンと動かしつつ、扉を見上げている。


 黄金と銀の扉の表面にはセンティアの浮き彫りがあった。

 厚い半立体の造形は精巧。

 鍵穴だろうか。


「その盛り上がった部分は鍵穴でしょうか」

「そうかもな」


 天井にあったセンティアよりも精度が高く見えた。

 そのセンティアの扉の取っ手付近の造りは、猿と雉の浮き彫り加工で、大きな窪みも同時に造形されてある。


 鍵穴にしては、やけに大きい。

 が、たぶん、ヴィーネが予想したように、一種の鍵穴だろうと予想。

 

 すると、俺のセンティアの手にぶら下がる角灯が自然と上がり、角灯の中の猿と雉が光る。


 その光は魔線となって、目の前のセンティアの扉に付着した。

 

 その光る角灯から、猿と雉の幻影が四方に飛び出ると、扉の表面に光の裂け目が無数に走った。


 その表面がグニャリと蠢くが、急激に冷凍されたようにピキピキと音を立てつつ手の形に固定された。


 扉の表面に走っていた光の裂け目は消えている。


「センティアの部屋は、ご主人様とディアに呼応しているのだな」

「はい。センティアの手と部屋に、わたしとお兄様の魔力にも反応しているようです」


 ディアのセンティアの手の角灯も俺と同じ。


 輝く魔線はセンティアの部屋の扉と繋がっていた。


「そのようだ」

 

 すると、俺とディアのセンティアの手の角灯が合わさった。


 二つの角灯は溶ける。 

 融合して輝いてから、塊となった。


「え? 角灯が融合して塊とか!」


 角灯の中にいた猿と雉は見えない。


「ん、スキルを使ったの?」

「<霊呪網鎖>は使っていない」

「センティアの手の腕防具のほうも、半透明になった」

「消えかかっている?」

「……魔力が扉へと逆流して、センティアの部屋の中にも入り込んでいるように見える」

「一種の時空間への干渉にも見えます」

「クナが逆絵魔ノ霓を使った時を思い出す」

「皆の魔力を活かしつつ、逆絵魔ノ霓で、オフィーリアたちの体に刻まれた紋章陣を外した時ですね」

「そう!」


 レベッカの声が響くと、角灯だった輝く塊は――。


 メタモルフォーゼを起こすように蠢きつつ、ストロボのような光を発した。


 ストロボのような光は、センティア、猿賀、雉芽、俺、ディアなどの頭部の幻影に変化し、それらの幻影が、消えたり現れたりを繰り返した。


「ホログラムではないようです」


 アクセルマギナがそう発言。

 

 半透明のセンティアの手の防具が、実際のセンティアの人の手と手首と、腕の骨へと変化を遂げた。


「え? 女性の手。本当のセンティアの手になったってこと?」

「絡まっている骨のチェーンも、腕の骨に見える」


 その女性のものと分かるセンティアの手と手首は、ゆっくりとセンティアの部屋の扉に向かう。


「ご主人様とディアのセンティアの手が、このセンティアの部屋の鍵ということか」

「そのようですね」


 センティアの扉の手形に嵌まったセンティアの手は、溶けるように黄金と銀の扉の中に入って消えた。


 その直後、黄金と銀の扉は少し開いた。


 開いた扉から暁光のような光が漏れる。

 外なのか?

 

「開いた!」


 完全に開いた先は――。

 魔法学院の屋上?

 が、いきなりか――霊槍ハヴィスを右手に召喚。


「――皆、ディアを頼む」

「「はい」」


 <魔闘術>を全開。前進しつつ闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトに魔力を送る。瞬く間に、黒い糸と赤い糸が闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトから飛び出て、嘗ては屋上だった床に付着した。構わず前に出る。


「外かと思ったけど――」

「にゃご――」


 油断していたレベッカの声が背後から響く。

 相棒は黒豹と化して俺の横に出るが、飛来してきた魔刃の狙いは俺だけだ。


 俄に風槍流の基本の構えから霊槍ハヴィスを前方に繰り出した。

 

 手応えは硬い――。

 が、<刺突>で魔刃を貫いた――。


 裂けて二つに分かれた魔刃だったモノが、俺の足下の地面と衝突。


「ほぅ……何者だ?」


 そう共通語で聞いてきた存在は……ゴツい魔族。

 

 二足歩行の見た目からして……。

 辛うじて人型と分かるが、デルハウトを超える、ザ・魔族。

 

 鬼の頭部が三つ。

 中心の般若顔の頭部は大きい。

 大柄で、四本腕。

 魔法の鎧が表面にあるが、腹が膨れて、尖った骨がその腹から突き出ていた。

 呼吸をしているようだが、肺があるのか不明だ。


 右上の腕は、すべてが骨で構成されていて、分厚い手の甲が盾に見えた。

 その骨腕が握るのは、茜色の穂先を持つ魔槍か。


 他の三つの腕で大剣を持つ。

 あれが魔刃を放った大剣。

 

 消えかかっていたセンティアの手は元の籠手の防具に早変わり。そのセンティアの手はアイテムボックスに収納した。


 そして、

 

「……俺はシュウヤだ、槍使い。で、あんたは?」

「我は七魔将の一人、リフル」


 マジか。

 着いた場所は魔迷宮のどこかってことか? リフルがいるから、ここは魔迷宮リフルか。

 そして、サビード・ケンツィルと同格の七魔将……。

 

 そのリフルが、


「……ガルモデウスの配下か?」

「違うが、ここは塔烈中立都市セナアプアか?」

「……」


 リフルは応えず、俺たちの観察を強める。

 ジリジリと距離を取った。

 

 武術を感じさせる動きを示す。


「……ご主人様、ここは元魔法学院かと……生徒たちの骨のようなモノが……」

「ん、敵?」

『大きな敵ぞ! 器よ、闇神の眷属から攻撃を受けたのだ! 話していないで、さっさと妾を使え』

『待て、どんな奴か興味がある』

『ぐぬぬ、仕方ないのぅ』

「すんなりと魔法学院に着くわけがないと思ってたけど……しかも、いきなりの七魔将って……」

「ん、クナが前に言ってた強欲のリフル?」


 エヴァがそう言うと、驚いたように体を震わせた七魔将リフル。


 その七魔将リフルは、


「……クナだと? 暗黒のクナということは、サビード・ケンツィルの部下なのか?」

「部下ではない。聞いたことがあるだけだ」

「ん、攻撃してきたから、七魔将は敵……」

「おう。相棒はそのままディアを頼む。皆も、周りに注意しつつ自由に展開していい」

「分かった」

「「はい」」

「ンン、にゃお~」

「ぁぅ~」


 沸騎士たちが誕生する煙を消すように、大きい黒豹の相棒は跳躍。

 その背中に乗っているディアを連れて、センティアの部屋の上に上がっていった。


 上はドス黒い霧に覆われている。

 ここは、元は魔法学院だったが、魔迷宮の最深部か、心臓部に変わり果てたと予想。


「閣下ァァ、黒沸騎士ゼメタスが、今ここに!」

「閣下、赤沸騎士アドモス、見参! 敵は何処!!」

「閣下! 《水幕ウォータースクリーン》は展開中です」

「魔界の眷属なのか? クナは死んだと聞いているが……」


 クナのことは言わず、


「そのようだな。で、この魔迷宮はどこにあるんだ?」

「……塔烈中立都市セナアプアだ」

「やはり……ご主人様、ここはドリサン魔法学院かと」

「ふ、位置の把握をしていないのか? が、上等戦士を召喚か。厄介な人工迷宮野郎のガルモデウスではないようで、ちぐはぐな連中だ……どこかの冒険者パーティか魔族の賞金稼ぎどもか? そして、次元を裂いたような見事な侵入方法だが、我の魔迷宮を穢した罪は重い。闇神リヴォグラフ様の贄になってもらおうか――」

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