七百七十九話 校長室とエロエスル・アバントア校長

 校長室の窓際のカーテンの裏に魔素の反応。

 書類棚と、戸棚の背後にも反応がある。

 

 隠れている存在に<無影歩>のようなスキルの使い手はいないようだ。

 壁の鏡はマジックミラーか?

 左右の隠れている存在は伏兵ではないだろう。

 たぶん先生方か?


 皆も、校長室の奥と両側の気配には気付いている。


 相棒も鼻先を動かし、周囲の匂いをフガフガと嗅いでいた。

 周囲が気になるが、まずは、校長先生に対して挨拶。


 拱手――。

 丁寧に一礼をしてから――。


「風槍流には自信があります。名はシュウヤです」


 お爺さんの校長先生は微笑んでから頷いた。

 手元の武具らしき怪しい道具を掌から消す。

 

 そのお爺さんの校長先生は、胸元に手を当ててから、俺に向けて一礼。


 そして、


「シュウヤ殿とミスティ、待っていた。そして、皆様も、魔法学院ロンベルジュにようこそ」

 

 そう挨拶してくれた。


「にゃお」


 俺は頷いてから――。


 校長先生の背後の窓際を分かりやすく見る。


 俺の『周囲の魔素に気付いています』的な視線に気付いた校長先生。

 瞳孔が少し散大するが、瞼をゆっくりと閉じて開くと鋭い視線で俺を凝視。

 

 校長先生は、魔眼系を使ったか? 耳から放出する魔力を強めた。


 そして、


「ふむ。ミスティがべた褒めするだけはあるようじゃ。可愛い黒猫の神獣様と水の精霊様を使役しているとは恐れ入る!」

 

 ヘルメと相棒のことをあっさりと見抜いた。

 更に、


「そこのハーフエルフは、卒業生のレベッカ・イブヒンじゃな」

「え、わたしのことを?」

「覚えているとも。羞花閉月の美しい女子生徒。貴族ではない故、身なりと魔法の実力で異常な差別を受けつつも、優秀な成績を残した生徒の一人が、レベッカ・イブヒン。とある理由で次席になった」

「……校長先生……」


 レベッカは恥ずかしそうな表情を浮かべている。


「当時、わしとの会話は少なかったが……虐めていたクラスメイトたちがモンスターから襲撃を受けた時、レベッカ・イブヒンが体を張って、そのクラスメイトたちを救った話は覚えている。心の温まる話であった」

「あの時は、友達を救うための行動です」


 レベッカの若い頃かぁ。

 ますます気になる。


「いいのだ。友達思いの女子生徒だったのぅ。あとは、注意を受け続けても、魔法絵師を目指すための授業を無理に繰り返しては、幻の魔法絵師に成れるという曰く付きの魔法学院の七不思議に挑戦したり、生徒と喧嘩をしたり、上級顧問の講師たちと揉めていたこともあったのぅ」


 レベッカは俺をチラッと見て、頭部を軽く左右に振る。

 嘘だと分かるがレベッカらしいリアクションで面白い。


 そのレベッカは、


「生徒は、わたしを……ううん、あぁー! とにかく、上級顧問には、嫌いな奴がいたんです! あ、今更ですが、当時は、ご迷惑をおかけして、済みませんでした」


 と、混乱した調子のレベッカは御辞儀を行った。

 

「いやいや、わしにはいい思い出じゃ。謝る必要はない」

「――ありがとうございます」

「しかしながら、卒業生が、ミスティ先生と知り合いで、シュウヤ殿の従騎の一人とは知らなんだ」

「はい。わたしもまさか、この学校に戻るなんて思いもしなかった。シュウヤと……」


 と、ディアを見る。

 そのディアは、


「あ、あの、校長先生、こんにちは!」


 その校長先生は、


「ディア・アス。今日も魔法学院七不思議に挑むつもりなのじゃな?」


 そう聞いてから魔力を体から発した。

 校長先生の顎髭が魔力の影響を受けて揺れる。


「今日も、では、わたしが禁忌の秘密の部屋に侵入していたことは、知っていたのですね……」


 校長先生は、ジッとディアを見て、


「ディアが最初に禁忌の秘密の部屋へと侵入したことは分からなかった」

「え?」

「パフィルの杖など、アス家の魔道具のお陰じゃろ?」

「はい。他にも、双頭ロン姉妹のなぞなぞを解きました」


 そうディアが答えると、校長の着ているバーガンディ色の衣服は、風を孕んだように膨らんでから揺れて点滅を繰り返す。


「……小杖もか。納得じゃ。だが、優秀なアス家の一族だろうと、魔法学院ロンベルジュの禁忌の秘密の部屋に連続で侵入すれば、さすがに分かる」


 校長先生はそう発言。

 ミスティは頷いて、


「アス家のお嬢様のディアが行方不明になった時、慌てていたのには、そんな理由があったのね」

「ふむ。普段、禁忌の秘密の部屋に何者かが侵入すれば、わしと一部の上級顧問に知らせが来るようになっているからの」

「え? 魔道具? 魔法の結界? があるなんて知らない」

「ミスティ先生には悪いが、禁忌の秘密の部屋に関する情報と、【魔素を遮断する秘密の部屋】から先への往来が可能となる方法は、わしと一部の上級顧問だけが知る秘密じゃった。これは魔法ギルドも関わる案件じゃから、当然なのじゃが」


 するとディアが、


「では、帰ってきてからは、見逃されていた……」


 校長先生は頷いていた。

 ミスティは俺をチラッと見て頷いてから、校長先生に視線を向けると、


「わたしの行動も、ある程度把握していた?」


 校長先生は頷いた。


「当然じゃ。知識欲の旺盛なミスティっ娘」

「気付かなかった」


 校長先生は視線を強めると、


「……魔法学院ロンベルジュの校長を舐めてもらっては困る。これでも魔法ギルドと魔法学院ロンベルジュの秘奥の一部を知る大魔術師アークメイジの一人であるのじゃぞ?」


 校長先生はバーガンディ色の衣服に、魔法の防御層を新たに構築。衣服が校長先生の魔力を内と外で吸収したようだ。


 <火焔光背>や<ザイムの闇炎>とは違うが……。

 魔風か煙のようなモノを纏っているような印象。


 竜頭金属甲ハルホンクが魔法のケープを展開したような印象でもある。


 武器は消しているが、威厳のある大魔術師に見えた。

 その校長先生は……。


 <魔闘術>系の魔察眼。

 <導魔術>系の掌握察。

 

 などの技術を使っている。

 耳からも独自の魔力を放っていた。


 聴力系の魔技のスキル系統があるようだ。

 <聴魔術>とか? それか風魔法を用いた探知かな。


 その校長先生の様子を見たディアとミスティは冷や汗を浮かべていた。


 この校長先生から事前に話を聞いていなかった?

 思い顔のミスティは俺の心を読んだように微かに頷いた。


 俺は、


「隠れている者たちも、校長先生と同じく大魔術師アークメイジ級の実力者ということでしょうか」

「そうじゃ」


 校長先生は即座に答えた。

 皆も周囲を見る。


 ビーサは腰のラービアンソードの柄に手を当てる。

 ヴィーネは小鳥よりも小さい金属鳥イザーローンを胸元から飛ばしつつ、右手でガドリセスの鞘を持ち上げていた。

 

「ふぉふぉ、安心せい、【天凛の月】の盟主でもあるシュウヤ殿と戦うつもりはない。フォレイド先生、リーン先生、タチバナ先生、テツ先生、キミア先生、オシス先生、フセネス先生、サケルナート先生、出てきて構わない」


 校長先生が先生方を呼びながら手を叩くと、左右の壁が振動。

 戸棚と壁が分解されるように上下左右に動いた。


 戸棚に飾られてある銅製の天秤と杖に腕の像など、無数のアイテム類が揺れると、校長室と繋がる別室が左右に出現。職員室にも繋がっているようだ。


 更に、校長室の奥のカーテンの裏と、その別室から、


「彼が噂に聞く……」

「間違いない。<魔闘術>の扱いが完全な玄人だ。神王位クラスの実力はありそうだな。納得がいった」

「そうね、鑑定眼を弾くし、噂通り♪ 可愛い黒猫ちゃんと、水属性の魔法生命体が傍にいるから、あの槍使いよ」

「あぁ、彼と黒猫が、あの『槍使いと黒猫』。マダム・カザネからも、槍使いと関わるのなら味方に徹しなさい。でなければ、それ相応の覚悟は必要ですよ。と忠告を受けている」

「……精霊……いったいどのような……」

「通称紫の死神か」

「【天凛の月】の盟主。【血星海月連盟】を造り上げた存在。第二王子ファルス殿下にも通じている」


 バーガンディ色、赤色と黒色が交じるマントを羽織る方々が、そう発言しつつ現れた。


 【天凛の月】の名は知っていたか。

 ここはペルネーテだ、当たり前か。


 レベッカは先生たちを見て驚いている。


「リーン先生……」

「レベッカ・イブヒン、元気そうでなりより」

「はい、先生も」


 リーン先生は頷いて、


「ディア・アスとミスティ先生と、そして、新しい臨時武術講師とも知り合いだったとは、驚きですよ」

「うん。シュウヤとは冒険者としての活動中に知り合ったんだ」

「そうでしたか」


 リーン先生は眼鏡をかけた男性の人族。


 気がよさそうな先生だ。

 歳は五十過ぎぐらいかな。

 そのレベッカが、リーン先生から、視線を目付きの悪い先生に向けた。


 刹那――。


 レベッカの細い両腕に蒼炎が宿る。

 更に、腰に差してあるレムランの竜杖が振動。

 一対の小さい竜が動いた。

 

 頭の角度が変わり、口が開く。

 

 ミニドラゴンには成っていないが、あの口から炎とか出せる?

 

 すると、目付きの悪い先生が、


「……ほぅ」


 と呟く。

 細目が大きくなっている。

 

 レベッカは、その目付きの悪い先生のことを睨んで、


「……サケルナート」


 と短く呟いた。

 サケルナートは片頬を上げていやらしく嗤う。


「ん、レベッカ、今は」

「大丈夫」


 エヴァがレベッカの細い腕に手を当てていた。

 レベッカは安らぎを得たように表情が和らいだ。


 レベッカからサケルナートの名は聞いている。

 そのサケルナートは、かなり性格が悪そうな印象だが、端正な顔で、顎にちょび髪を生やす。


 カルードが生やすようなちょび髭だ。

 お洒落感があった。

 ディアも話をしていたサケルナート先生。

 サケルナート先生は、センティアの部屋の奥にいて魔法の書物を見ていたと聞いた。


 ミスティは俺を見る。

 その顔色に少し焦りの色があった。

 

 俺は、


『今は、余計なことを言うな』


 という意味を込めて、頭部を微かに振るった。


 ミスティは笑みを見せる。


 と、先生方を見回して、


「上級顧問の先生たちは、マスターとわたしたちを警戒した?」


 そう聞いていた。


「そうだ。ミスティ先生も普段実力を隠しているからのう。そして、今日は、魔法学院の七不思議の開かずの間に、ディアを連れて挑むのであろう?」

「「はい」」

「なればこそじゃ。禁忌の秘密の部屋の先にある【幻瞑暗黒回廊】は、わしらでも危ない。そして、ミスティ先生が勧めてくる臨時武術講師は凄まじい強さを持つようじゃからな、皆、興味を持ったのじゃ」


 ミスティは「ははっ」と乾いた笑い声を出してから、ディアと俺をチラッと見て舌を少し出すと、


「ごめん、少し盛りすぎたかも」


 そう語り笑顔を見せる。

 そして、校長に視線を戻し、


「わたしたちの観察を強めても無駄だと思うわよ。そして、ディアは、その禁忌の秘密の部屋に、何回も侵入して無事に帰ってきている」

「ふむ」

「だから、今更、先生方がディアを心配しているような素振りで対応しても、安直な気がするんだけど」

「ミスティ先生。形式は重要じゃ」

「あ、正式にディアが禁忌の秘密の部屋へと挑むことを、先生たちが認めるってことね。何かの式典で発表でもするの?」

「それもいいが、少し異なる。臨時武術講師シュウヤ殿が、ディアを導いたとな」

「なるほど、どちらに転がろうと色々と説明の解釈が可能ってことね。風紀の面を含めて、他の生徒たちも納得しやすい」


 校長先生とミスティはそう語ると先生方は微笑む。


 その校長先生は、ミスティからディアに視線を移して、


「兄上のことは知っている。わしも心が痛い。だからこそ禁忌の秘密の部屋への侵入を許し続けてきた」

「そうだったのですね」

「そうじゃ。危険な行動に『直ぐに止めるべき』と『成長に繋がる機会』と、わしらの間でも賛否両論はあった。そして、止めたところで、本人に能力があり意思がある以上は、どうにもならんと。更に、臨時武術講師のシュウヤ殿に、そのディアへの個人授業を許したことにも繋がる」

 

 その校長先生の言葉を聞いた先生方は頷いた。


 校長先生はディアの片腕の装備を凝視。


 センティアの手についてもある程度は知っているのか?

 

 だとすると、サケルナート先生経由かな。

 

 そんな先生方は、皆、実力者揃いだ。

 

 魔察眼、掌握察の技術はあるだろう。

 魔眼系スキルを持つ先生もいそうだ。


 耳からも魔力を出している。


 風鈴のようなアイテムを籠手にぶら下げている先生がいた。

 センティアの手に近い?

 

 綺麗な女性の先生で戦士風。

 肩口に長剣の柄を覗かせている。


 長剣の柄からして幅広な剣か。


 すると、校長先生はわざとらしく咳をしてから、


「テツ・リンドウ先生、サケルナート先生も、これで、理解してくれたかの?」

「はい」

「……しかたありませんな」


 テツ・リンドウ先生は日本人風だ。

 茶色と金色の髪を持ち西洋人風のサケルナートは、俺を凝視したまま、そう発言。


 事前に、話し合いをしていたようだ。


 そのサケルナートを含めた先生たちの上服は、バーガンディ系の色合いで統一されている。


 腰と背中に持つアイテム類と手の防具は、それぞれ拘りがあると分かる代物ばかり。


 皆、強者か。

 賢者ゼーレ、大魔術師ラジヴァン、大魔術師スプリージオのような雰囲気を持つ。


「校長先生! 兄様のことは、どこまで知っているのですか」

「それは……」


 校長先生は双眸が揺れる。

 俺をチラッと見て、先生方を見てから、お互いに頭部を左右に振るい合う。


 何か言えない事情でもあるんだろう。

 ディアは少し怒ったような表情を浮かべて、


「……分かりました。でも、わたしは諦めない。あの強いお兄様が簡単に死ぬはずがない。必ず理由を突き止めます」

「ディア。普通に過ごすこともできるのじゃぞ」

「いやです。眠ったままの羊にはなりません」


 ディアの態度を見て、校長先生は溜め息を吐く。

 

「では、その禁忌の秘密の部屋に挑もうとかと思います」

「シュウヤ殿、待たれよ」

「なんでしょう。ディアはディアの目的があるようですが、俺には俺の目的があるので、ご心配なく」


 ディアの兄の死因は、きな臭い。


「はい、お兄様……あ、シュウヤ先生の仰る通りです」


 ディアも同意してきた。

 ディアは、俺のセンティアの手を凝視している。


「シュウヤ殿、そのことではない。まだ、名乗ってなかったからの。名はエロエスル・アバントア。通称エロ校長じゃ。気軽にエロ校長と呼んでくれて構わない」


 エロ校長さんか。

 スケベな校長先生だと勝手に考えていた。


 名前を渾名と勘違いしていた。

 一方的な見方での、偏見だったな。


 ――拱手。恐縮しつつ、


「はい。エロ校長と、皆様方。臨時武術講師として世話になります。生徒たちに教える時間は少ないと思いますが、よろしくお願いします」

「ふむ」

「「よろしく」」

「はい、こちらこそ、よろしくお願いいます」

「よろしくお願いするわ」

「おう」

「……よろしく頼む」


 サケルナートを含む先生たちも挨拶してくれた。

 エロ校長は微笑んでから、ディアと俺たちの観察を強めてきた。


 エロ校長は、ヘルメを筆頭に美人軍団を凝視。


「皆、凄まじい強者であると分かる……」


 続いて黒猫ロロを見る。


「にゃ」


 相棒も片足を上げて肉球挨拶を実行。

 エロ校長は、肉球を有した黒猫ロロの前足を見て、もごもごと喋りつつ、


「可愛らしい桃色の肉球じゃ!桃色でもあるが、白っぽい部分もある。最近流行のクリームパン色でもあるのじゃな! モミモミしたい」


 急に滑舌がよくなったエロ校長、興奮していた。


「にゃご――」


 相棒は片足を引っ込めて、さっと体を退いた。

 俺の脹ら脛に隠れつつエロ校長を見る。

 ツンが発動した。

 エロ校長は、残念そうに相棒を見てから、


「むむ、嫌われたか」


 そう発言して微笑むと、ヘルメに視線を戻した。 

 また視線を鋭くさせる。


「魔力の内包量が凄まじいですな……」


 そう語るエロ校長も魔力の内包量はかなりのもんだ。


「ふふ。エロエスル・アバントアと講師たち。中々の面構えですね」

「……ッ……」


 サケルナート先生から舌打ちのような声が漏れた。

 片方の魔眼と片手に持つ杖の魔力を使ったようだ。

 一瞬悔しそうな表情を浮かべていたが、何事もなかったかのように、マントの中に杖を隠すよう両手を隠した。


「サケルナート。シュウヤの精霊様に手を出したら、後悔するわよ」

「皆、今、何か聞こえましたか?」

「……空耳でしょう」

「はい」

「「ハハハ」」


 サケルナートと隣の先生が嘲笑するような顔付きで、そう喋る。


 一瞬、<闇穿・魔壊槍>を想起したが、


「レベッカの声は、ちゃんと聞こえましたが? エロ校長、そこの耳の遠い方々は、同じ講師なのですか? それとも錯乱中の残念な方々なのでしょうか。目もつり上がっているようですし、薬を決め込んでいるのでしたら、非常に残念ですね」

「な……」


 俺の言葉を聞いたサケルナートは驚いて、唇を震わせる。


「ぶは」


 ミスティがふいた。

 エロ校長は、


「ふむ。わしもレベッカの声は聞こえたが、サケルナート先生、わしの声は聞こえていますかな?」

「き、聞こえていますとも、校長!」

「ならば、少し錯乱なされたようだ。精神回復薬を飲まれたほうが良いのではなかろうか」

「……校長。では、そうさせてもらいます。そして、臨時武術講師……覚えておけ……」

 

 奥歯を噛むような表情のサケルナートは素早い所作で身を翻す。

 

 校長室から出ていった。


 そのサケルナートに続いて、取り巻きの二人の先生も校長室の横の隠し扉から隣の部屋に移った。

 直ぐにレベッカが、


「……ごめん、シュウヤ。校長先生もありがとう」

「いいって――」


 レベッカの細い体を抱きしめた。

 他の先生たちや眷属がいるが、構わず、抱きしめを続けた。


「あ……ふふ、嬉しい。けど、皆も見ているし……ね?」


 んなことは分かっているが、あのサケルナートの言葉と態度はな。


「おう」


 レベッカから離れた。

 レベッカの顔は真っ赤だ。


「ん、シュウヤ、カッコいい」

「はい。武ではなく言葉で制した。わたしは<血饌竜雷牙剣>の使用を考えてしまった」

「わたしは血鳴矛ノ型を発動していました」

「二人とも気持ちは分かる。<闇穿・魔壊槍>を使うか、一瞬考えたが、さすがにな」

「うん、スカッとした。サケルナートの動揺した表情を初めて見たし、面白かった。さすがはマスターね!」


 ハイタッチの仕種を取るミスティに合わせた――。


 そのミスティが耳元で、


「サケルナートたちには、【魔術総武会】を含めた中央貴族審議会との繋がりを含めた裏もあるから要注意」

「分かった」

「うん」


 ミスティと離れて、レベッカをもう一度見る。


「大丈夫だって。でも、あいつもあんな顔をするのね。初めて見た気がする……あと、昔を思い出したし、凄く心がスッキリした……シュウヤ、ほんと、ありがとね」


 レベッカの明るい顔を見て安心。

 しかし……。

 過去は過去か。

 

 さて、


「よし、それじゃ、エロ校長と先生方、俺たちはこれで」

「ふむ。シュウヤ殿。ディアとミスティっ娘に、立派な卒業生を頼みましたぞ」

「はい」

「ふふ、立派な卒業生なんて、校長分かってる! お菓子いる?」

「ふも? これは、いただこう! ふむぁ――美味しい!」


 俺はお菓子を食べる校長先生たちに向けて御辞儀。


 そして、ディアと皆に向け、


「ディア、ミスティ、レベッカもお菓子をしまってくれ、開かずの間に行こうか」

「はい、こちらです。一階、二階、三階の廊下、トイレにありますが、二階と三階なら確実です」


 と言って、ディアが進む。

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