七百八十話 センティアの部屋
ディアと一緒に階段を上がり踊り場に出た。
すると、シトラスの香りを漂わせたレベッカが「あっ」と小声を発して足を止めた。
細い腕を斜め前に向ける。
その白魚のような指たちの先には……。
なるほど、レベッカが学生の頃に憧れた魔法の絵画か。
大小様々な魔法の額縁に嵌まる魔法の絵画が飾られてあった。
ミケランジェロの『最後の審判』のような絵画。
中心の光背をバックにした神様らしき人物は光神ルロディス様かな。
死者に裁きを下している印象を受けた。
他にも、船の渡し守の骸骨と、その骸骨が操る船を岸辺で待つような黒い衣装を着た女神の絵画。
色違いの蟹の絵。
格闘戦を行う魔法使い同士の絵。
二振りの魔剣か神剣を扱う戦士の絵。
無地のキャンパスに何も描かれていない魔法の額縁。と、その無地のキャンパスを見ていたら、俺と相棒に皆の姿が映り込む。
油絵がリアルタイムに動いている。
面白い。額縁にカメラでも備わっているのか?
俺の知る世界にも取った映像をアニメ風に変換する技術はあった。
二つの頭を持つ貴族風の衣装を着た女性の肖像画。
古代竜と頭部が三つある巨大な魔獣が戦う絵。
穂先が三つ叉の銛を持つ漁師が巨大蟹と戦う絵。
絵は動いている。
「魔法の絵画がたくさん。多目的室と美術室の廊下の棚と壁にもあったはず」
「あ、はい、六階! 自動改築魔術で廊下と部屋が増えていますが、多目的室には、まだたくさんの魔法の額縁と魔法の絵画が飾られてあります」
と、ディアが発言。
「へぇ」
「六階に行きますか?」
「あ、ううん。今は、ここの絵画で十分よ。あ、不揃いの泡蟹とアジアルの魔法の絵画は変わらない」
「はい。わたしが初めて魔法学院ロンベルジュに来た頃にもありました」
「うん。でも、わたしたちを映す鏡のような絵は知らないわ。魔法の絵と魔法の額縁は増えているようね」
「あ、言われて気付きました。たしかに初めて見たような変わった魔法の額縁があります」
ディアがそう発言。
これだけの量の魔法の絵が飾られてあると気付かないか。
レベッカは学生の頃、魔法の絵画をいつも眺めていたんだろうな。
この階段を形作る踊り場の空間は、一種のトリックアート的な空間だ。
ラファエルもここを見たら興奮するかも知れない。
額縁にいるモンスターの奪取を試みそうで、危険か。
すると、ヴィーネが、
「古代竜と戦う三つの頭部を持つ魔獣の絵画は迫力がありますね」
「ん、大きい犬。色が赤いフェデラオス?」
エヴァがそう聞いてきた。
フェデラオスの猟犬の亜種だろうか。
親分的な存在かな。
エヴァとヴィーネが指摘した魔法の額縁から禍々しい魔力が出ていた。
「そこの絵のフェデラオスのようなモンスターは、バーナビー・ゼ・クロイツが使役していたモンスターの倍以上の大きさだ」
「シュウヤと戦った、悪夢の女神ヴァーミナの半眷属と化していたバーナビー・ゼ・クロイツ。あの牛顔が所属していた人食い集団は、悪夢教団ベラホズマとか、【
レベッカはそう喋りつつ、俺の首辺りを見る。
<夢闇祝>か。
「変わりに墓荒らし集団が増えたとかだったな。そして、リリザとの三つ巴の戦いを思い出す」
右腕の肘に備わるイモリザの肉肢が反応。
邪神ニクルスの第三使徒のリリザだったイモリザ。
あの時に<霊呪網鎖>を用いることで、リリザは<光邪ノ使徒>のイモリザとなった。
人型のイモリザは、肉肢としても
更に、ツアンとピュリンの人格を有して、そのツアンとピュリンに変身することも可能。
「それにしても、禍々しい魔力です、触ったら呪われそうですが……」
「はい。他にも怪しい魔法の絵と額縁があります。この階段自体に魔法学院の一階から上を守る源泉のような役回りもありそうですね」
「うん、キサラの言葉は正解。生徒たちは触ることを許されていない。ま、飛行術は教えていないから、直接触りにいく学生はあまりいないけどね」
「ん、壁と天井には、毛細血管のような魔線が拡がっている」
「あ、エヴァ、触ったらダメよ」
「ん」
「それにしても昔と変わらないなぁ……あ、カテジナはどうしてるだろう」
「その名は前に聞いた。レベッカの友の一人だったよな」
「うん。ペルネーテを去ってしまった」
レベッカは淋しそうに語る。
友か……。
階段を先に上がったレベッカは振り返って、
「――シュウヤがそんな顔をしてどうするの! まったく」
と笑みを見せる。
腰に両手を置いて胸を張っていた。
「ん、でも、シュウヤらしい」
天使の微笑を見せるエヴァ。
レベッカと一緒に微笑み合う姿は可愛い。
そして、レベッカだが、さっきは嫌な気分だったろうに、そんなことを忘れたような笑顔のレベッカを見ていると、清々しい気分となる。
すると、相棒が、
「ンンン――」
レベッカを追うように階段を上った。
「にゃ、にゃお~」
廊下を行き交う生徒たちが、
「わぁ~」
「黒猫ちゃん!」
「見て、皆、黒猫ちゃんが現れた~」
「魔法学院に黒猫ちゃんが登校!?」
「だれかの使い魔とか?」
「従魔の授業はE組にあったはず」
少し騒ぎになった。
そんな女子生徒たちの中に、友と笑い合うレベッカの若かりし姿が見えた気がした……魔法学院ロンベルジュかぁ。
切なさを感じた。
「ふふ、ロロちゃんの可愛さを見ちゃうと生徒たちの気持ちは分かる」
「ん、人気者!」
「あ、生徒たちの足に頭部をぶつけています。甘え上手ですね」
「餌がないのに、お手とかしているし」
「おかわりには、尻尾で応えている行動がロロらしい」
「ん、尻尾をぎゅっとされて、肉球パンチを飛ばしてる!」
「はは」
「ふふ、尻尾を立てて歩くお尻ちゃんも可愛いです!」
菊門が可愛いのは分かる。
が、うんちさんが時々こびりついているのはな。
「あ、ロロ様のゴロニャンコ!」
「必殺ね。皆が足を止めてお祭りになっている」
「肉球に、お腹の薄いお毛毛と乳房は魅力的ですから」
「ぽよよんっとした、あの下っ腹も魅惑度が高いのよ」
おっぱい的な、ぽよよんか。
レベッカさんが貴重な擬音を。
「ふふ、伝説の宇宙猫ロロディーヌ様ですね! とても可愛いです」
「
「はい」
「俺も宇宙船を手に入れたら、相棒のマークは確実か」
「ん、黒猫海賊団。今度は、黒猫宇宙艦隊?」
「そうなるだろう」
「光魔ルシヴァルでもいいと思うけど、って、ディアまで、ロロちゃんの騒ぎに参加しているし」
「はは、さて、ディアとロロ、遊んでないで、案内をよろしく」
「は、はい! こちらです~」
ディアは眼鏡の位置を直すと廊下の奥に進む。
「ンン、にゃ、にゃ、にゃぉぉ――」
相棒も生徒たちから逃げつつディアの足を追い掛けた。
興奮した
ディアの白いソックスごと足に噛み付く勢いだったが、ディアを守るように少し前を歩いていた。
さすがは神獣ロロディーヌ。
見た目は子猫の黒猫ちゃんだが、ちゃんとディアを守るつもりなんだろう。優しい猫ちゃんだ。
だったが、ディアの上履きが気になったのか、ディアの足に戯れ始める。
「ロロちゃん様、あまり上履きの匂いは嗅がないでください」
「ンン」
ディアは
猫キックをしてないだけマシだが、
「ロロ、興奮するな。普通に歩け」
俺の言葉を聞いて、耳を一瞬凹ませた相棒。
「ンン、にゃ」
ディアの足から離れてトコトコと歩き出す。
「ん、反省した様子が可愛い」
「はい」
俺たちは、その
生徒たちは授業の開始を知らせる鐘の音が響くと教室に入る。
廊下は静かになった。
鐘の音か。
沈鐘伝説的に精神への侵入を防ぐ鐘の音を思い出す。
<光の授印>の精神防御の証しの鐘の音。
トイレを過ぎた辺りの端でディアが止まる。
「ここから秘密の部屋に入ります。皆さん、壁の孔と光のゲートはすぐ閉じてしまうので、素早く付いてきてください」
「分かった」
「あ、ここにも鍵穴があるのね」
「はい。ここの出入り口の鍵穴はパフィルの杖に合うんです。差します。準備はいいですか」
「「はい」」
「了解、相棒、肩に乗れ」
「ンン、にゃ」
ディアは頷いてから、
「では――」
壁の魔法陣の模様の一つに小さい杖をさし込む。
壁に光の線が行き交う。
光の線は扉を作るように環を描くと、壁が消えた。
消えた壁の中に
「不思議です。壁に光り輝く孔ができました」
「にゃお~」
「ングゥゥィィ! ぴかぴか、光ッタ、ゾォイ!」
『おぉ~。器のゲート魔法と似ているな』
『たしかに』
「
「
「一種の時空間のポータル現象にも見えます」
「はい、ガードナーマリオルスとわたしも外に出ておきますか?」
「今は戦闘型デバイスの中で、危なくなったら皆を使おう。沸騎士たちもそろそろ呼んでやらんとな」
「分かりました」
「ングゥゥィィ」
「ハルホンク、蒼眼を回しすぎると目が回るぞ。そして、ゲートは食い物じゃないからな」
「スコシ……ホシイ、ゾォイ」
「転移に失敗して、変なところに飛んだら、魔力を喰えなくなるかもな」
「ワカッタ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星、ゾォイ!」
「しかし、環の外側も見えているのは恐怖感がある」
「はい。【逆次元の理】の空間にも干渉している作用のようです」
ディアがそう発言する。
<覚式ノ従者>のディアが頼もしい。
レベッカも感心するように『うんうん』と頷いて、
「凄いわ。やっぱり【幻瞑暗黒回廊】に進出して突破しているだけはある」
そう発言すると、ディアは照れながら俺を見てきた。
笑顔を意識しつつ頷いた。そのまま皆を見て、全員で頷き合う。
ヴィーネは背中に<荒鷹ノ空具>の翼を展開。
天使のような姿だ。
魅了されていると――ディアが俺の
「ディア?」
「お兄様……」
「どうした?」
「い、いえ」
ディアは俺の顔を凝視して頬を朱色に染めた。
眼鏡が似合う可愛い子だ。
その眼鏡っ娘のディアは、胸元にあるワッペンを触る。
少し膨らんだ胸元は魅力的。
あ、ワッペンは正義の神シャファ様のマークだろうか。
同時に、ディアが装着しているセンティアの手が揺れる。
俺が装着中のセンティアの手も、ディアの持つセンティアの手に呼応するように、鎖にぶら下がる角灯が揺れた。
「行きましょう――」
「おう」
皆で光るゲートを潜るように壁の中に入った。
出たところは、音が鳴り響く部屋か。
すべてが灰色で、銀色の粉のような魔力粒子が斜めに行き交う。
風を少し感じたが、肌にヒリヒリ感を得た。
不思議とディアと繋がりを得たような感覚もある。
そして、床は黒い光が交じる灰色か。
魔素というか、魔法としての気配があちこちにある。
「ペルネーテの迷宮みたいだけど、違うと分かる!」
「ん、
「少し似ていますね」
ヴィーネたちの言葉を聞きながら……。
皆がちゃんといることを確認。
ヴィーネは<荒鷹ノ空具>の翼の具合を確かめるように少し浮いている。
ちゃんと空は飛べるようだ。
エヴァも紫色の魔力を体から放出させて浮かぶ。
宙空で魔導車椅子を展開させて、その魔導車椅子に座っていた。
エヴァの骨の足に付着中の金属は薄く量も少ない。
骨が露出しているが、あれはあれでカッコいい。
ミスティと自身の金属を活かした新しい靴にも見える。
ターンピックが冴えそうだ。
ミスティはゼクスを起動。
人型の
そのゼクスの肩に乗ってミスティは浮いていた。
レベッカはミスティとエヴァに挟まれるように、魔靴の具合を確認しつつ浮かぶ。
キサラもダモアヌンの魔槍の上に立って浮いている。
すると、宙空に浮いた<
光魔ルシヴァルの証明でもある輝きを発した<血魔力>が混じり合う眷属たちの姿は少し神々しい。
相棒は俺の肩だ。
皆を見上げている。
ビーサは傍だ。
そのビーサは、背後の光っていた孔が収縮して消えたことを見て、驚いていた。
すると、ディアが、
「ここは、もう〝開かずの間〟、【魔素を遮断する秘密の部屋】の最後のほうです。今、罠を解除して前進したら、一気に他の部屋に飛ぶことが可能となる〝魔導の泡〟の魔の印を展開しますので、わたしの後を正確についてきてください」
「距離間はコンマ数秒遅れるぐらいでいいのか?」
「あ、えっと、もっと遅くても大丈夫です」
笑顔のディアはそう語ると、センティアの手を見る。
俺のセンティアの手とディアが装着しているセンティアの手が魔線で繋がっていた。角灯と角灯も光の魔線で繋がっていた。
<導想魔手>のような大きさはないが、魔線が構成する鎖にも見えた。
俺とディアを結ぶ光の鎖か。
「ん、シュウヤとディアはセンティアの手で結ばれている?」
「そのようだ」
「はい。お兄様……お師匠様、ともにがんばりましょう」
「おう、妹様。いや、弟子か」
「ふふ、はい!」
ディアは、前方を見た。
パフィルの杖の先端も向ける。
ディアの前方の空間が一気に割れたように揺らぐ。
「「おぉ~」」
「ングゥゥィィ!!」
「にゃご~」
ワクワクしてきた。
「ん、シュウヤ、少し戦闘モード?」
「あはは、バレた」
「にゃ、にゃ、にゃ!」
ディアは、相棒の連発した声を合図としたように、前方へ跳躍。
すると、宙空のディアの足下に魔法陣が浮かぶ。
更に、パフィルの杖が空間に干渉したようだ。
「皆さん、わたしのあとを――」
「おう」
ディアはセンティアの手を装備する片手の指を動かした。
宙に魔の印を展開。
印のやり方は違うが、一瞬、ヴィーネの<銀蝶の踊武>を使う前の動きを想起した。
魔の印は、前方に飛ぶ。
センティアの手から出た光の魔線が魔の印を追う。
パッと、その魔の印が光って消えると、空間が裂けた。
ディアは裂けた空間をグローブを着けた左手で掴む。
同時に上履きを魔靴に変化させつつ、裂けた空間の中へと突入して姿が見えなくなった。
ディアのセンティアの手と魔線で繋がる俺のセンティアの手から伸びる魔線もディアが姿を消した空間の中へとぐんぐん進む。
ディアが俺を引っ張るような感覚を受けた。
――角灯も揺れる。
俺たちも、その空間の中へと突入した。
直後、前方のディアを視認。
ディアは、空間に干渉するような魔法を展開中だった。
腰の魔術書が点滅。
ディアは途中で蹴るような動作を繰り出す。
あの赤色の魔力を発している魔靴は特殊な装備か。
視界は宇宙的な空間に切り替わる。
と、直ぐに部屋に変化した。
ディアに続いて、俺たちは自然と魔法の部屋に着地。
ディアはグローブを一瞬でしまう。アス家に伝わるアイテムか。
籠手系の防具でもあるセンティアの手とも相性がいいようだ。
そのディアが、
「――到着しました、【センティアの部屋】です」
「わぁ、あの一瞬で!」
「ん、ここが……」
ここが【センティアの部屋】か。
幾何学模様に……天井には、女性と角灯の中で輝く小さい猿と雉が合体したような姿の怪物が刻まれてある。
センティアの手が籠手となる前の姿か。
今、俺が装備中のセンティアの手の甲には、眼球がある。
眼球の周りには、三十時間を意味する魔印のマークがあった。
籠手から伸びている骨のチェーンは、前と変わらず腕と絡んだままだ。
その籠手から出ている骨のチェーンにぶら下がる角灯から漏れている光は強まっている。
更に、角灯の中では、猿と雉が活発に動き回っていた。
魔力も強まっている。
猿と雉は外に出そうな勢いだ。
「ご主人様とディアのセンティアの手が激しく反応していますね。しかし、ディア、お見事です」
「ありがとう。良かった、事前に何回も試していて」
「これが転移魔法……目が少し回ったような気がします」
ビーサは頭部を振るう。
後頭部の三つの器官から魔力粒子が出ていた。
キサラも感心するように、
「装備といい、凄い魔法技術の応用でした。時空属性魔法に、無属性魔法も混ぜている?」
と、聞いていた。
「はい。【幻瞑暗黒回廊】のかなり前にある秘密の部屋の一つが【センティアの部屋】ですから、比較的楽なんです」
「そうなのか、開かずの間に挑戦しているだけはある!」
ヴィーネも感心。
「ありがとうございます」
「ディア、センティアの手は、どこに在った?」
「あの中央手前の台座に籠手の形をした角灯があったんです。そして、あの奥の間、今も結界が敷かれてある空間の台座にあった魔法書を、サケルナート先生は取っていた」
「そのサケルナートは転移するように、この【センティアの部屋】から消えたんだな」
「はい」
「たぶん、時空転移の秘術が込められたスクロールを用いたのでしょう」
「性格が悪そうなサケルナート。強者の雰囲気はありました」
「ヘルメを物欲しそうに見ていたし、精霊を取り込めるような<古代魔法>の使い手なのかも知れない」
「……生意気ですね。サケルナートのお尻に《
「それでもいいが、チャンスがあったら無名無礼の魔槍の<刺突>かな。が、権力側の人族なら、無闇矢鱈に攻撃を仕掛けてくることはないだろ」
「プライドも高そうです」
キサラの言葉に頷いた。
「仕掛けてくるとしたら、絶好のチャンスの場を用意してからのはず」
「うん。でも、シュウヤはあいつの面子を潰したからね、何か仕掛けてくるかも? 部下を使って陰でコソコソとか、しょうもないやり方とかありそう」
「ん、男らしくない」
エヴァの言葉に頷いてから、
「ま、絡んできたら、天誅! 屁の河童だ」
「では、ご主人様の攻撃に続いて、翡翠の
「わたしは<
「ん、サージロンの球で押し潰す?」
「はは、わたしは蒼炎弾、って、そうなったら塵も残ってないでしょう」
「わたしの出番はなさそうです」
「《
『妾の神剣で頭部を破壊すればさっさと終わる』
『たしかに』
亜神ゴルゴンチュラやゼレナードにも通じた不意打ちだ。
強力なシークレットウェポンが<神剣・三叉法具サラテン>でもある。
「皆様とお兄様なら大丈夫だと思いますが、サケルナート先生は宮廷魔術師サーエンマグラム卿の従兄弟です。王の手ゲィンバッハ様とも仲が良いと。更にアロサンジュ様とヘカトレイル領のシャルドネ様にも通じていると噂が……」
「へぇ、後ろ盾が強力で本人も強いなら、あの態度も納得だ。ま、あんな野郎の話題はお仕舞いにしよう」
「そうね」
「うん」
「はい」
「ディア、センティアの手を試そうか」
「あ、はい」
「あ、ちょい待った。一応ここでも、
「ん」
「「はい」」
無事に光のゲートは起動した。
ぷゆゆの姿はない。
床に散らかっていた骨の残骸はそのままだ。
ぷゆゆは悪い子だ。
が、あの調子だから仕方ないか。
即座に
「センティアの部屋でも
「はい」
「では、ディア、センティアの手を試そうか」
「はい、お兄様――」
ディアはセンティアの手を装着している片手を上げた。
俺もセンティアの手を装着している片手を上げる。
「魔力を込める、ディアも同時にな。皆も集まれ、何が起きるか分からない」
「「はい」」
「にゃお~」
「きゃ、ロロちゃん、耳を舐めないで」
「相棒、ジッとしとくんだ」
「ンン、にゃ」
「よし、準備は良いか?」
「「はい」」
「ディア、魔力を込める――」
「はい、お兄様、魔力を込めます――」
ディアと同時にセンティアの手に魔力を込めた。
「あん――」
ディアの感じた声が響く。
籠手のセンティアの手が俺の血を吸うと空間が煌めく。
ディアと繋がる感覚を得た。
ディアの神経領域の中に俺の指定場所ができたような不思議感覚。
「お、お兄様とわたしは……ぁ……ん」
恍惚気味のディア。
眼鏡が少しズレている。
ディアは、ディアの中に俺がいると分かっているような面だ。
ディアの中に宿主の俺がいると言えるのか?
ディアをコントロールすることができるのか?
一瞬、ディアの視界で俺が見えたような気がした。
更に、【センティアの部屋】の天井が灰銀色の輝きを強めた。
続いて、【センティアの部屋】が回転を始めた。
俺たちのところは不思議となんともないが、奥の台座が並ぶ空間は、巨大な横揺れの影響を受けたように台座が破壊されて閃光が行き交う。
しかし、一種のメリーゴーラウンドか?
「ん、シュウヤ」
「マスター、ゼクスを出す?」
「シュウヤ、大丈夫なのよね」
「お兄様……」
「まだ大丈夫だろう。しかし……」
「なに? その間と真剣な顔が、怖いんだけど」
「シュウヤ様……回転速度が……」
キサラのチャンダナの香水――。
ヴィーネのバニラの香り――。
レベッカのシトラスの香り――。
エヴァのお香が少し混ざる匂いもいい――。
「シュウヤ……」
ビーサの匂いも新しい――。
「シュウヤ、センティアの手で血を吸われすぎた!?」
「……いや、皆の、おっぱいがあたって気持ちいい……」
「もう! でも頼もしい」
「にゃお~」
「ふふ」
「ご主人様にパワーを送るのだ」
「ん!」
ヴィーネとエヴァの抱きしめが強まる。
「ちょっと、ディアは普通の子なんだから、皆、力を弱めて」
「あ、すまない」
「大丈夫です。お兄様の白いマントが自然とわたしを……温かい……でも、お兄様の……股……」
火照っているディアは健気に皆に説明しようとしていた。
そのディアの眼鏡の位置を直してあげた。
「あん……」
ディアはまた感じたのか。
色っぽい声を漏らす。
「あぁぁ~! ここで変態的なことは禁止!」
「仕方ないだろう、ハルホンクだ。しかも、嫉妬顔で言われてもな」
「ふん!」
とレベッカの声が聞こえた後――。
壁の模様がぐにゃりと湾曲。
【センティアの部屋】の空間の回転速度が弱まると、光っている天井から、猿と雉に女性のような幻影が降りてくる。
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