七百五十一話 黒髪の錬金術師マコト・トミオカ
マコトたちに近付くと――。
俺の右肩の衣装が変化。
「――ングゥィィ、ココ、マリョク、オオイ!」
モンスターか魔界の神の使徒の素材らしきモノが入った硝子容器は魔力で満ちている。
硝子容器の右奥では
不気味な回転する重低音が響いていた。
洗濯している訳ではないだろう。
血清系の薬を調合中とか?
危険なウィルスを製造中?
だとしたら、自身の魔法やスキルを用いた製法以外でも、魔機械を使った薬の調合方法を知っていると判断できる。
やはり優秀な錬金術師だ。
ま、三十年以上前からこの惑星セラで過ごしている転生者だ。
当然か。
過去にカズンは、このマコト・トミオカと会話したらしい。
『錬金術師の一角で特殊スキルだ、なんたらと。〝血を用いて、遺伝子の因子の結合を促し最高のホムンクルスを作るのです、芸術は爆発ですよ〟とか、話していた。訳が分からないが、金はたんまりとくれたな』
と、カズンが教えてくれたことは鮮明に覚えている。
あの時は単なる知的好奇心だったが。
さて、ハルホンクに、
「ハルホンク、ここの品物は喰わせないからな」
「ングゥィィ、ワカッタ」
「――肩が?」
「――竜の金属が生きている?」
マコトの部下のメイドさんたちの声だ。
マコトと背が高いメイドさんは微動だにせず。
マコトの傍にいる三人のメイドさんは知っている。
魔塔エセルハードのペントハウスにいた方々だ。
武器といい他のメイドさんとは質が違うことが直ぐに分かる。
マコトの側近と見て間違いないだろう。
右腕のアイテムボックスからヴィーネから預かっていた透魔大竜ゲンジーダの胃袋を出した。
刹那、マコトがギョッとした顔つきに変化。
片目が血色に光る。
そんな驚くことか?
「……」
「マコト様?」
傍にいるメイドさんの一人が、マコトの様子を伺う。
「あぁ、マルカ、ごめん、気にするな。シュウヤさんのウェアラブルコンピューター風のアイテムボックスからファンタジー感溢れる
そういうことか。
マコトの気持ちは分かる。
そのマコトはメイドさんたちに目配せした。
マルカさん以外のメイドさんたちは、
「「はい!」」
と素早く反応。
各々の仕事をするように部屋に散らばるや、幾人かのメイドさんが現れた。
キャスター付きの台座を運ぶメイドさん。
両手に大きな皿を抱えているメイドさんもいる。
それらの可愛いメイドさんたちが近付いてきた。
キャスター付きの台座には大きな皿に盛られた飲み物とお菓子があった。
皿を抱えているメイドさんは小柄で一生懸命さが伝わってくる。
メイドさんの仕事と分かるが、悪いなと思いつつ手を上げて、
「マコトさん。俺たちに食事は必要ないです。そして、単刀直入に聞きますが、今回の施術費用はいかほどでしょうか。または、交換条件はありますか?」
と聞いた。
マコトはニヤリとする。
「はは、条件ですか。シュウヤさんの血がほしいと言ったらどうしますか?」
「俺の血か。俺の血を用いてホムンクルスの強化がしたいとか?」
そう聞くと、マコトの側近の三人のうちの一人が、ビクッと体を動かしてあからさまな反応を示す。
メイド衣装が迷彩服の戦闘衣装に変化していた。
片腕が剣と化している。
一瞬、ゾルの奥さんのシータさんを思い出した。
「にゃごぉ」
黙っていた相棒は不満そうな声を発した。
黒豹か黒虎に近い姿だから迫力がある。
直ぐに中華風のワンピースが似合うメイドさんが、片腕を剣に変えたメイドさんの二の腕を引っ張った。
戦闘が好きそうなメイドさんを自身の背中に隠した。
中華風のメイドさんは、自身の装着するナックルダスターの武具を捨てて、ぎこちない笑顔を見せる。
マコトは、
「はは、鋭い! しかし、血は冗談です」
「冗談か、背後のメイドさんの反応は冗談に見えなかったが?」
「すみません。プルアは対転生者用戦闘メイド。ライカンスロープの血の因子と、魔界王子ライランの血の因子に、正義の神シャファの戦士だったオンバ・サロバ・ブーの血の因子が入っていますので」
ブーさん一族の血の因子とか。
すると、
「ガルルゥ」
と吼えた。
相棒が睨むのはマコトの背後。
対転生者用戦闘メイドの方か。
そのプルアさんっていうメイドさんのことが気に食わないらしい。
ライカンスロープは獣人系だから関係はないとして……。
ブーさん一族は機械風の体のはず、異質なナノメタルの血を取り込んだ?
それか魔界王子ライランの血の因子を感じとったか?
相棒は嗅覚が鋭いからな。
そしてそれは、神界と魔界の力の融合ってことか?
プルアさんは、俺や光魔ルシヴァルになる前のキサラと似たような血の力を有しているのか。
すると、
「神獣様、お怒りをお鎮めください。今、特別なお魚をご用意いたしますので――スア」
マコトはメイドさんの名を呼び、指を鳴らす。
「はいです~」
派手なエプロンが似合うメイドさんがすっ飛んできた。
ショートカットが似合う可愛いメイドさん。
銀髪と青白い髪のコントラストが美しく可愛い。
「スア、魔冷蔵庫の中にまだ、カソジックが大量に残っていたはずだよね」
「はい、持ってきます!」
スアさんは胸元にカソジックを載せた大きな皿を持って戻ってきた。
カソジックを一匹丸ごとか。
相棒は目の色を変えると、エジプト座りに移行。
「ンンン――」
喉声を鳴らしている。
甘い声だ。
カソジックに釣られたか。
「ん、ロロちゃん可愛い」
「ふふ、あの魚が大好きだからね」
『可愛いですが、ロロ様の扱いを分かっているマコトは危険かもですね』
『あぁ』
真面目な常闇の水精霊ヘルメ。
そして、背後のエヴァとレベッカの笑った声だ。
マコトもうんうんと頷いて、笑顔を見せると、
「シュウヤさん、カソジックをあげても?」
「いいよ、相棒も期待しているようだ」
「分かりました」
マコトは視線で『あげろ』とメイドのスアさんに指示を出す。
スアさんは速やかに「はいです~」と発言しては、カソジックが載った大きな皿を「ヨイショヨイショ」と言いながら相棒の前に運んで、重そうな大きな皿を床に置いた。
「黒豹ちゃん! カソジックを召し上がれ~♪」
とスアさんが可愛い声で言うが、相棒はジッとカソジックを凝視。
黒豹の相棒は直ぐに食べるかと思ったが、カソジックを食べない。
そのロロディーヌはつぶらな瞳を俺に向けてきた。
『喰っていいのかにゃ?』と聞いているんだろう。
可愛い。
そして、カソジックを期待している顔だ。
「ロロ、遠慮せず、たんと食え」
俺の言葉を聞いたロロディーヌは耳をピクッと動かして、瞳を少し散大させつつ急ぎカソジックを見てから、のそっと前に移動して、
「ンン――」
そのままムシャムシャとカソジックを食べ始めた。
マコトは相棒用に用意していたんだろうか?
ま、カソジックは高級な魚で美味しい。
食材として普通に持っているか。
和んだところで、マコトに、
「対転生者用戦闘メイドですか。【血長耳】と
「はい。魔塔エセルハードを巡る戦いにも参加していた勢力では、主に転生者ヤス・カナザキの一派です。ユズキ・イノウエ、マシロ・ゴトウ、シン・オカミヤ、レオ・トクナガ、ケン・サザモト、それ以外でも、闘槍ソウザなども含めれば多数の方々と敵対しています。幸い、わたしはスキルや魔法を獲得しやすい素養のお陰で、何十年も生き残っていますがね」
俺も人のことは言えないが、敵対者が多いな。
闘槍ソウザってのはセナアプアに着いて早々倒した、腕に覚えのある槍使いか?
思い出した。
【ネビュロスの雷】という闇ギルドの副長助勤、三番隊隊長か。
そのことは言わずに、
「転生者と敵対した理由は?」
「商取引。あとは、わたしが造る人工生命。オルガノイドではない、わたしの大切なホムンクルスを造る過程に
マコトはそう発言しつつ中華風のワンピースを着るメイドさんを見る。
あのメイドさんのことはマルカと呼んでいた。
そのマコトの視線は誇らし気だ。
マルカさんも微笑む。
マルカさんってホムンクルス?
ひょっとして……。
メイドさん全員がそうなのか?
錬金術師としてマルカさんを造った過程で、他の転生者や転移者の知り合いと一悶着があった……。
と、そんなニュアンスが受け取れた。
倫理、道徳か。
ま、色々だ。
俺は自由を大事にしたい。
が、できることは限られてくる。
そして、大事なのは自分にできることを一生懸命やることだけだな。
皆のために……<
そうしてからマコトに視線を移し、
「その転生者の方々は、同じニッポン国からの転生ですか?」
「それぞれ歴史が微妙に異なるパラレル地球出身です。共通点は、黒髪に日本語と似た言語ぐらいでしょうか。外国の転生者と転移者もいると聞いています。あと、共通点と言えば、日本語を忘れていることが多いってことぐらいでしょうか。マハハイム共通語を覚えると、どうしても、忘れやすいようですね。翻訳スキル持ちの方はそうでもないようですが」
「そうですか。日本語を忘れやすくなるってこと以外は、俺が知る情報とだいたい同じです」
「はい。だからこそ、話を戻しますが……日本人を知るシュウヤさん。そして、【天凛の月】と【白鯨の血長耳】とは争いたくない」
マコトは、そのままメイドさんたちを見回してから、俺とヴィーネたちを見ていった。
「俺たちも争いは望まない」
「はい」
そのマコトが、
「嬉しい言葉です。わたしは、この目で……あの魔塔エセルハードで起きた凄まじい戦いを見ていますから、【血月布武】が旭日の勝利をもぎ取った瞬間を!」
マコトは熱く語る。
メイドさんたちは頷いていた。
特に三人のメイドさんは何回も頷いていた。
そのマコトは真剣な表情を浮かべて、ヴィーネたちを凝視。
俺は頷いて、
「あの時は、皆、がんばった」
キサラも、皆の顔を見てから頷いた。
すると、マコトは、
「はい、わたしたちは、他の評議員たちと同じく救われたのと同じ」
そう発言すると、カットマギーを見てから、
「そして、その方……手足を失ったとはいえ敵側だった殺し屋を、懐に招いて仲間にした。殺しにきた存在を友として迎えて、助けようとする。なんて器の大きい方か。わたしは感動を覚えました」
「たまたまだ」
「盟主はそう言うが、わたしの宿命を取り除いてくれた恩人だよ」
「貴女にも深い理由があるのですね……同時に、わたしやマルカにとっても、シュウヤさんは恩人でもある」
カットマギーとマコトは頷き合った。
そのマコトは、
「【血長耳】から【天凜の月】のシュウヤさんがわたしとコンタクトを取りたいと言っているという報告を受けた時は嬉しかった。同時に友好のチャンスだとも」
「チャンス……失礼ですが、意外です。正直、マッドな方だと印象があったもので」
「はは、正直な方だ。確かにわたしはマッドです。ホムンクルスや、錬金術師パラケルススなどの著書は読んだことがあります。倫理観はぶっ飛んでいる自信がある。が、それはそれ」
「……」
「それに、移植用の素材も既に入手済みと聞いています。多少、施術に魔力を消費しますが、恩人のシュウヤさんたちと友好的な関係を築けるのならば……魔力の消費なんて、どうってことはないですよ」
思わず拱手。
「そりゃ、ありがたい」
と発言。
マコトも礼をしてくれた。
「はい、こちらこそ。素材なら豊富にあったので高値でお売りできたのですが、それは残念ではあります。が、その新しい商売相手となりえる存在が【天凜の月】でもあります。更に、この店がある七草ハピオン通りでも噂になっています」
「噂ですか?」
「はい、【髪結い床・幽銀門】が【天凜の月】に
あぁ、リツさんのところか。
ユイたちを見ると、皆、
偶然だが、ペレランドラたちを助けてよかったな。
ビーサは上のほうの硝子容器を見ている。
その硝子容器の中では眼球が付いた脳が
うは――怖い。
あの脳は生きてんのか?
ダンジョンマスターのアケミさんの配下を思い出す。
ここから
そんな元女子高生には、腕と脳だけのソジュという名の部下がいた。
マコト・トミオカは、迷宮核と<創成>のスキルは知っているんだろうか。
何気に今日一番驚いたが――。
カソジックを食べ終わった相棒を見て、気を取り直す。
足下に来た相棒の頭部を
「――そうでしたか。盗賊ギルドも情報が早い」
「はい。この
「そっか。とある事件とは?」
「はい、ここはララーブインとは違う、三カ国に囲まれたセナアプアです。他国の工作員が多い。その工作員たちは、スキルと魔法に魔機械を使いこなす、優れた諜報員ばかり……わたしも昔は不用心でした。いえ、自身と部下たちの能力を過信していたと言えます……だからこそ、盗賊ギルドや闇ギルドなどが必要なのです。無防備なまま商会の代表者を信用しますと……ハニートラップ、思考盗聴スキルなどで、重要な機密に素材が盗まれてしまいます。過去、国々と大商会で使う商品を、幾つも盗まれました。美人さんには、要注意です」
どこも同じか。
俺も美人さんになら、確実にヤラレテしまう自信がある。
レベッカたちに視線を向けたら変顔を向けられた。
変顔で返そうと思ったが、思わず、視線が泳ぐ。無難に相棒を撫でた。
「ンン、にゃ~」
そしてマコトに、
「では、カットマギーの手足をお願いします。あ、素材を出します」
「分かりました。奥にある台で、パパッと施術を行いましょう。マルカ、準備を行う前に、シュウヤさんから素材を受けとって」
「はい」
透魔大竜ゲンジーダの胃袋から鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足を取り出した。
黒色の網が包む魔腕と魔足は、かなりの魔力量。
「……その手足が……」
「ん、カットマギー、奥に行こう」
「あ、うん。エヴァ、ありがとう」
「ん、がんばってね。傍で見ててあげるから」
「……あぁ」
カットマギーは寄り添うエヴァを間近で見て、感動を覚えたのか片目に涙を溜めた。
レベッカもなぜか泣きそうな面を。
俺が、そのレベッカを見たら、キッとした面を向けてきた。
――なぜぇ。
まぁいいや――。
ヴィーネとキサラは笑みを浮かべる。
俺は鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足をマルカさんに手渡した。
そして、透魔大竜ゲンジーダの胃袋を、
「ヴィーネ。これを」
「はい。あ、まだ試していませんが」
ヴィーネに渡した。
透魔大竜ノ胃袋の薄皮はヴィーネが飲んだから、もう使用者はヴィーネのはず。
無手状態からいきなりの武器出現はかなり大きなアドバンテージ。
キサラからもらった仕込み
すると、奥にあった施術台にスポットライトが当たる。
天井に魔機械が備わっていたのか。
ライトの大本はカーボン的な鋼のチェーンが重なった
あれでも医療用ライトのようだ。
同時に周囲に魔法の明かりが浮かぶ。
メイドさんたちも魔造書のようなモノを手に持ってマコトの背後に並んでいた。
「――さぁ、準備はできました。この施術台に乗って寝てください」
「わ、ワカッタ」
カットマギーは動揺しつつもエヴァとキサラに支えられて前に歩いた。
施術台に乗ると横になる。
「わたしたち、この距離から見ていていいの?」
と、レベッカが聞いていた。
マコトは、マルカさんから鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足を受け取っていた。
そのマコトは鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足を魔眼で凝視中。
「大丈夫です。しかし、このようなレアな素材を……シュウヤさん……いったいどこで……」
「ん? あぁ、それか。魔人ソルフェナトスが持っていたんだ。で、その魔人ソルフェナトスとタイマン勝負をして、その戦いに勝ったらもらった」
「烈戒の浮遊岩の乱の……なるほど」
「ふふ、魔人ソルフェナトスの降伏と信頼を併せた
すると、マルカさんが、
「え、殺しきったのではなく、魔人が降伏ですか? 魔人が降伏とは聞いたことがない……」
「はい……」
と、他のメイドさんたちが一斉に動揺。
先ほど腕を剣に変えていたプルアって名前のメイドさんは震えている。
「……ワワワ……」
「下界の魔族たちが……」
メイドさんたちは恐怖ってより動揺か?
「皆、施術に集中を」
マコトたちは動揺してしまったようだ。
「ふふ、シュウヤ様が魔人ソルフェナトスと戦い勝利したお陰」
「うん。元は、魔界の怪物の鬼婦ゲンタールってのを、魔人ソルフェナトスと骨人形キストレンスが倒して、他のモンスターたちも根こそぎ倒してくれたお陰」
「はい、魔人ソルフェナトス&キストレンス対鬼婦ゲンタールの戦いの詳細は分かりませんが、鬼婦ゲンタールの手足を切断したように、色々なことがあったのでしょう」
皆が説明してくれた。
「魔族の武人ですか。闘技場の関係者ならば……ありえるのか? そして、皆様、よく理解しました……では、施術を開始します」
「頼む」
「はい。しかし、マルカ、何をボウッとシュウヤさんを見ているんだ! 精神回復薬ポーションの蓋を開けなさい。まったく……しかし、こんなマルカを見るのは初めてだ……いや、皆もか……」
と、マコト・トミオカはイラッとした表情を浮かべて俺を凝視。
知らんがな。
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