七百五十話 ユイたちと合流&ステータス※

 相棒は俺の体に複数の触手を絡ませた。


「にゃおぉ~」


 と鳴いて自身の頭部に俺を運ぶ。

 エヴァとレベッカは笑顔で出迎えてくれた。


「ん、おかえり」

「黒髪の錬金術師マコトさんと連絡が付いたようね」

「おう――」


 そう応じつつ相棒の頭部に片膝をつけた。

 てのひらと指の間で神獣ロロの頭髪の黒毛をいては、柔らかい地肌を掌ででていった。

 

 ――ふさふさとした黒毛。

 ――肌のぬくもりは心地いい。


 指の間を行き交う黒毛はとても滑らかで艶があった。

 地肌の色合いは産毛の間からのぞかせるほのかなピンク色。


 そして、ぬくぬく感が、絶妙だ。


 相棒を撫でているのは俺だが、逆に癒やしを神獣ロロから受けているような気持ちになった。


 そんな神秘性のある頭髪と地肌を持つ神獣ロロディーヌに、


「――相棒、ゆっくり飛んでいいからな。空を楽しめ」

「にゃおぉぉぉ~」


 相棒は嬉しそうな声をあげた。

 かすかに大きな頭部を上下させる。


 ははは、嬉しそう。

 俺も嬉しくなった。一緒に空を飛ぶのは楽しいよな。


「にゃお~」

 

 俺の心が伝わったようだ。

 いい返事だ。

 すると、喉がある下のほうから振動が起きる。

 

 同時に大きなゴロゴロ音を響かせてきた。


 ゴロゴロと音を鳴らした神獣ロロディーヌは胴体の横から生えている大きな両翼から魔力を放った。


 ゆっくりと飛翔ひしょうしつつ烈戒の浮遊岩を離れる。


「ご主人様、ロロ様は楽しそうで、わたしも嬉しいです。しかし、ここは死角が多い。ゆっくりとした飛行は危険かと思います」

「それはそうだが、神獣ロロは飛ぶことが好きだからなぁ」

「ヴィーネ、心配のしすぎです。わたしたちがいるのですから、どんな奇襲だろうと反撃してみせます。そして、<筆頭従者長選ばれし眷属>となったわたしの<補陀落ポータラカ>の威力は知っているでしょう?」

「それは、うむ。<補陀落ポータラカ>は見事な必殺技だ」

「ふふ、ありがとう」


 ヴィーネとキサラが笑顔で語り合う。

 互いの<血魔力>を交換していた。

 妖艶さもある。


 そのキサラは<血魔力>の血の塊を宙空に放ってダモアヌンの魔槍を振るった。


 穂先で風を起こすダモアヌンの魔槍が血の塊の<血魔力>を払うや、瞬く間に血の塊の<血魔力>はシュパッと散るや、ギュルッと散る血をダモアヌンの魔槍が吸い寄せた。


 吸い寄せきれていない血は、血色の鴉に変化しつつ儚く消える。

 

 キサラは、そのダモアヌンの魔槍の柄を右手の掌の中で滑らせつつ、ダモアヌンの魔槍の柄頭を背中側から左腕と脇腹の間に通した。


 そして、左腕の肘を軸に縦回転するダモアヌンの魔槍を左腕と脇腹で押さえるように握り直しては、その左腕を真上に運ぶ。

 

 ダモアヌンの魔槍の穂先は天を向く。


 そのキサラも夜空を見た。

 いいポージングで様になる。


 黒魔女教団の四天魔女か。今は魁の光魔魔女だが。

 戦闘職業は<天魔女槍師>。

 <筆頭従者長選ばれし眷属>となったから名前は変わったかな。


 相棒の後頭部にはビーサがいる。

 ビーサの表情は強張こわばったままだ。

 先ほど神獣ロロディーヌの大きさに驚いて転けていたし、表情が強張る気持ちは分かる。

 

 あの表情からして、ビーサが過ごしていたラロル星系にある無数の惑星にも巨大な生物はいたと思うが、ロロディーヌのような知性と愛嬌あいきょうを持った生物に絡まれることは少なかったのかも知れないな。


 ビーサは足下から伸びた手綱っぽい細い触手を怖々と握る。

 その姿は可愛らしい。


 先ほどの銀河戦士カリームの超戦士としての姿とは一転して、乙女チックだ。

 

 すると、眷属たちが血文字連絡を行う。

 ユイ、キッシュ、メル、カルード、サラ、ルシェル、ブッチの血文字が浮かぶ。


 それぞれ微妙に異なる血文字の形。

 血文字の形に個性が表れる仕組みは面白い。


 さて、ステータス。


 名前:シュウヤ・カガリ

 年齢:23

 称号:覇槍神魔ノ奇想:血魔道ノ理者

 種族:光魔ルシヴァル

 戦闘職業:霊槍印瞑師→霊槍獄剣師new:白炎の仙手使い:血外魔の魔導師:血獄道の魔術師

 筋力33.9→34.2敏捷34.7→35.1体力29.7→30魔力36→36.3器用31→31.2精神35.2→35.4運11.5


 状態:普通


 ペレランドラを<従者長>にしたから魔力と精神を消費はしたが、魔塔エセルハードでは、暗殺一家のゲオルグとミルデンを倒し、その前の空中戦ではカットマギーたちと戦ったから、全体的に少し成長した。


 そして、タルナタムを獲得したのも大きいか。

 

 まずは、<霊槍獄剣師>をチェック。

 ※霊槍獄剣師※

 ※因果律超踏破希少戦闘職業の一つ※

 ※霊槍獄剣流最上位クラスに到達した無双武人※

 ※魔界、獄界、冥界、ライヴァンの世の鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼、神界の<光ノ使徒>装備及び<法具>の装備が可能※


 おお――。

 ステータスはそんなでもないが、こうしてみると成長感が強い。


 鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼が装備できた理由も分かる。

 

 血魔道ノ理者のような外宇宙に関わる称号は得ていないが、多次元世界の一つ、獄界ゴドローンの因子を取り込んだと判断できる。

 

 狂怒ノ霊魔炎を取り込んだゴドローン・シャックルズの強い効果の影響を俺と相棒は受けたかな?


 魔狂源言ノ勾玉をアイテムとして手に入れた際にも、その魔狂源言ノ勾玉と狂怒ノ霊魔炎の魔力の一部を、俺たちは得ている可能性がある。


 ロロディーヌは戦神ラマドシュラー様か戦巫女イシュランの魔力を獲得していたしな。


 だからこそ、セル・ヴァイパーの鋏剣を用いた時に、スキル<鬼喰い>を獲得しては、戦闘職業が<霊槍獄剣師>に進化したと考察できる。


 ペルネーテの迷宮&黒き環ザララープの中の邪神の一柱である邪神セル・ヴァイパーとの念話が一時的にできたのは……。

 俺の称号:覇槍神魔ノ奇想の効果とセル・ヴァイパーが暗殺一家のミルデンの魂を吸った効果か?

 

 次は、


 スキルステータス。


 取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>:<血鎖の饗宴>:<刺突>:<瞑想>:<生活魔法>:<導魔術>:<魔闘術>:<導想魔手>:<仙魔術>:<召喚術>:<古代魔法>:<紋章魔法>:<闇穿>:<闇穿・魔壊槍>:<言語魔法>:<光条の鎖槍>:<豪閃>:<血液加速>:<始まりの夕闇>:<夕闇の杭>:<血鎖探訪>:<闇の次元血鎖ダーク・ディメンションブラッドチェーン>:<霊呪網鎖>:<水車剣>:<闇の千手掌>:<牙衝>:<精霊珠想>:<水穿>:<水月暗穿>:<仙丹法・鯰想>:<水雅・魔連穿>:<白炎仙手>:<紅蓮嵐穿>:<雷水豪閃>:<魔狂吼閃>:<血穿>:<魔連・神獣槍翔穿>:<ザイムの闇炎>:<霊血装・ルシヴァル>:<血外魔道・暁十字剣>:<血獄魔道・獄空蝉>:<血外魔道・石榴吹雪>:<十二鬼道召喚術>:<蓬茨・一式>:<双豪閃>:<無天・風雅槍>:<飛剣・柊返し>:<魔蜘蛛煉獄者>:<蜘蛛王の微因子>:<血穿・炎狼牙>:<召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>:<死の心臓>:<光穿>:<光穿・雷不>:<塔魂魔突>:<超翼剣・間燕>:<女帝衝城>:<闇穿・流転ノ炎渦>:<光魔ノ秘剣・マルア>:<陰・鳴秘>:<飛剣・血霧渦>:<荒鷹ノ空具>:<悪式・霊禹盤打>:<星想ノ精神フォズニックマインド>:<星想フォズニック潰力魔導クラッシュ>:<湖月魔蹴>:<獄魔破豪>:<水月血闘法>:<水月血闘法・鴉読>:<血想剣>:<血想剣・魔想明翔剣>:<攻燕赫穿>:<柔鬼紅刃>new:<鬼喰い>new:<血想槍>new:<魔人武術・光魔擒拿>new:<悪愚槍・鬼神肺把衝>new


 恒久スキル:<天賦の魔才>:<吸魂>:<不死能力>:<血魔力>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>:<精霊使役>:<神獣止水・翔>:<血道第一・開門>:<血道第二・開門>:<血道第三・開門>:<因子彫増>:<破邪霊樹ノ尾>:<夢闇祝>:<仙魔術・水黄綬の心得>:<封者刻印>:<超脳・朧水月>:<サラテンの秘術>:<武装魔霊・紅玉環>:<水神の呼び声>:<魔雄ノ飛動>:<光魔の王笏>:<血道第四・開門>:<霊血の泉>:<光魔ノ蓮華蝶>:<無影歩>:<ソレグレン派の系譜>:<吸血王サリナスの系譜>:<血の統率>:<血外魔・序>:<血獄道・序>:<月狼の刻印者>:<シュレゴス・ロードの魔印>:<神剣・三叉法具サラテン>:<魔朧ノ命>:<鎖型・滅印>:<霊珠魔印>:<光神の導き>:<怪蟲槍武術の心得>:<魔人武術の心得>:<超能力精神サイキックマインド>:<銀河騎士の絆>:<覚式ノ理>:<旭日鴉の導き>


 エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>:<ルシヴァルの紋章樹>:<邪王の樹>


 まずは<柔鬼紅刃>。

 ※柔鬼紅刃※

 ※魔竜王槍流技術系統:薙ぎ払い系亜種※

 ※使い手に<脳魔脊髄革命>が必須※

 ※高魔力と魂の精神力が必須※

 ※魔槍杖バルドーク専用※武器固有技※<紅刃>系に連なるスキル※

 ※魔槍杖バルドークに形質変化を促す※


 そのまんまだな。

 更に形質変化の部分を押すと――。


 ※魔槍杖バルドークは<旭日鴉の導き>と戦巫女イシュランに戦神ラマドシュラー、獅子冥王ラハグカーンの魔力の影響を受けて苦しんだ際に紅斧刃を想起しつつ進化を果たした※

 

 進化の理由が面白い。

 

 獅子獣人ラハカーンの冥王不喰のメイバルと戦った時に、魔槍杖バルドークは走馬灯を見るように苦しんだのか。


 水鴉の魔力を纏った魔槍杖バルドークは、メイバルから<魔槍技><冥王嬰倍刃>を受けたからな。

 

 と言うことは、メイバルは獅子冥王ラハグカーンの使徒か?

 そして、獅子冥王ラハグカーンとは、魔界の神様ではなく、冥界めいかいの神様なのか? 或るるいは、冥界の諸侯とか?


 冥界か。魔界セブドラ、獄界ゴドローン、エセル界などと同じく他の次元世界の一つなんだろうか。


 冥界の名は、時々聞くことがあった。


 獅子冥王ラハグカーンとは、たとえるならば、ギリシャ神話の冥府の戸口を守る番犬のような存在かな。

 

 単に、獅子獣人ラハカーンが信奉する魔界セブドラの力を持つ諸侯の名かも知れないが。

 

 次は<鬼喰い>だ。

 ※鬼喰い※

 ※セル・ヴァイパー専用※武器固有技※

 ※高い筋力、魔力、器用、精神が必須※

 ※ライヴァンの世の神々の影響を跳ね返す※

 ※邪神セル・ヴァイパーの影響を受けやすくなり、セル・ヴァイパーで斬って倒した相手の魂は魔素として、セル・ヴァイパーを通して邪神界に向かう※

 ※邪神セル・ヴァイパーの使徒から好感を得られるが、妬まれることもあるだろう※


 使徒から好感か。妬まれるのは勘弁だ。


 次は<血想槍>。

 ※血想槍※

 ※血想槍法:開祖※

 ※様々な高能力に称号:覇槍神魔ノ奇想が内包している称号:覇槍ノ魔雄と、スキル<魔雄ノ飛動>と<血魔力>に<導魔術>が必要。総じて、風槍流や豪槍流などの極めて高い槍武術も求められる※

 ※<血魔力>と<導魔術>を用いた槍武術に特化した<血想>スキルの発展系の一つ※

 ※使い手の想念を活かす光魔ルシヴァル独自の槍法※


 押忍! ラ・ケラーダ!

 自然と身が引き締まった。


「ん、シュウヤに気合いが入った」

「おう」


 皆にはアイテムボックスと違って見えないんだったな。

 相棒の触手手綱の肉球をぷにぷにして誤魔化そう。


 そして、カザネが、今俺を鑑定スキル<アシュラーの系譜>で見た場合、色々と変化していることだろう。


 あ、俺も成長しているからカザネの最高級の鑑定眼をも完全に弾くかもな。

 すると、足下で振動。


「ンンン――」

「わわ! ロロちゃんが興奮した!」


 前頭部にいたレベッカが見えなくなった。

 相棒の鼻先へと転がって落ちたか!?

 

 あ、ジャックポポスの魔靴を履いていたか。

 

 さて、次は<魔人武術・光魔擒拿>。

 ※魔人武術・光魔擒拿※

 ※魔人格闘術技術系統:上位魔擒拿※

 ※<魔人武術の心得>が必須※

 ※悪式格闘術技術系統:上位技術が必須※

 ※意識と氣に水と氷の魔剄功の流動性と霊魔活を経た<魔雄ノ飛動>と<魔人武術の心得>が必須※

 ※魔界セブドラ実戦幾千技法系統:二十四魔氣練魔拳術の一つ※


 魔界セブドラ実戦幾千技法か。

 デルハウトの技術を参考にした技だったが……。

 悪式格闘術技術系統の上位技術も必須だったか。

 シュヘリア、沸騎士たち、アドゥムブラリとの訓練&戦いも、俺の糧になっていると分かる。


 次は<悪愚槍・鬼神肺把衝>。

 ※悪愚槍・鬼神肺把衝※

 ※悪愚槍流技術系統:魔槍奥義中※

 ※鬼神流技術系統:奥義小※

 ※<魔槍技>に部類※

 ※霊魔系高位戦闘職業と<魔人武術の心得>が必須※

 ※高能力と高い水準の槍武術を条件に『悪愚槍譜』の秘伝書から学ぶことが可能※

 

※『槍が来たりて、魔が来たりて、骨魔人となり、悪愚槍の『戒骨』と『霊魔』が宿る。反躬自省のまま『霊迅煌魔魂秘訣』を獲得し、『悪愚槍王門把』を得るに至り、悪愚槍の絶招に繋がる』※


 

 悪愚槍の『戒骨』と『霊魔』が宿る、か。

 烈戒の浮遊岩と俺が繋がる?


 すると、レベッカとエヴァが、


「夜のセナアプアは煌びやかね」

「ん、浮遊岩も魔塔もたくさんあって、綺麗」


 そう話をする。

 眼下に広がる塔烈中立都市セナアプア。

 魔塔の群れを擁した上界と下界は綺麗だ。


 空中都市を行き交う大小様々な浮遊岩にある魔塔と建物は特異なネオン光を放っている。


 それらの魔塔は重量鉄骨ラーメン構造が多い。


 躯体に組まれた足場の上で作業中の職人がいた。

 足場の一番上で作業するのはドワーフとエルフの二人組か。


 二人は柱と梁の金属の接合部へと片腕が握る魔道具から魔力を放出し合う。

 その二人が持つ色違いの魔道具から放出された魔力を浴びた接合部は徐々に赤くなっていた。

 

 その接合部の赤まり具合を見た二人組の職人は頷き合う。

 二人組は息の合った動作で、その赤くなった接合部へと魔力の内包されたハンマーを振り下ろす。


 接合部と衝突したハンマーから激しい火花が散った。

 再び、振るわれたハンマーと衝突した接合部。

 

 金属音がリズムよく響く。

 ある種のラップ的な祭り風の音楽に聞こえてきた。

 

 溶接を行っているような姿にも見える。


 魔塔の構造体はネオン管的な鋼鉄の主筋と帯筋が主力。

 それ以外にも、ゴムと樹脂のような素材も使われているようだ。

 

 ネオン街を彷彿とする街を持つ浮遊岩もある。


 工業地帯の夜景を思わせる浮遊岩もあった。


 その浮遊岩に建つ鋼の建物は廃水のようなモノを垂れ流していた。

 夜景に溶け込むような色合いの魔塔もあった。


 しかし、周囲にネオンの明かりを放つ魔塔が多いのもあって、その漆黒色の魔塔は逆に目立っている。


 すると、傍に来たヴィーネが、俺の手を握って、


「他とは一線を画す都市ですね」

「あぁ」


 肩に頬を寄せてくれた。

 さり気ない行動だが、愛しいヴィーネの気持ちは嬉しい。


 すると、キサラが、


「わたしはサイデイルの闇と月明かりが好きです。数多あまたある星々から流れる流星がとても美しかった。ここも綺麗きれいな都市ですが、夜も昼のように明るく、星々の明かりが減少したように見えてしまう」


 と発言。


 話をしている最中にビーサをチラッと見ていた。

 宇宙生活が長かっただろうビーサのことを美しさにたとえて示しているのかな?


 キサラも洒落しゃれている。


 ま、確かにサイデイルの深緑を彩る月明かりは美しかった。

 ゴルディーバの里のような山紫水明の地でもある。


 ビーサは微笑ほほえんで、


きらびやかな魔塔を有した塔烈中立都市セナアプア。惑星ベルナンディにあるコアクーン都市と似ています」

「それはラロル星系にある?」


 そう聞いている間にも相棒はゆっくりと飛行中。


 そのゆったりムードの相棒だったが、宙をエスカレーターやエレベーターのように浮遊岩の間を縫うような飛行を行った。


 一種のアトラクション的なダイナミックさがあった。


「はい」


 ビーサは頷いた。

 今先ほどまでビーサは、神獣ロロディーヌのことを怖がっていたようだったが……。

 

 もう調子を取り戻したようだ。


 顎骨のEラインを守る面頬防具に変化していたブリーザーは、口の両端に備わるブリーザーに戻っていた。


 ブリーザーは標準装備なんだろうか。

 ま、当然か。

 ビーサは宇宙海賊フルカブルカで操縦士を任されていた。

 銀河戦士カリームの超戦士でもあるし、相棒のような飛行する生物にも慣れるのは早いか。


 ――すると、

 

 静止している斜め上空の浮遊岩から魔素を感知。

 その浮遊岩の陰から、空魔法士隊の一隊のような方々が飛翔していく姿が見えた。

 

「一瞬、身構えてしまいました」

「ん、一般の方々?」

「うん。魔族、魔人の襲来を経験しているからね。少し警戒し過ぎかな、わたしたち」


 皆はそう言うが、思わず周囲を見回した。


「ンン――」


 相棒は暢気に飛行中。

 いや、鼻息が少し荒い?


 よく見たら、自らの魔力粒子で環を前方に作っては、その魔力粒子の環を潜る遊びを実行中だった。


 あんさんは空飛ぶイルカかい! 面白い。


「はい。しかし、当然です。アキエ・エニグマが所属する【魔術総武会】もありますし、塔烈中立都市セナアプアの人口密度は高い」

「ん、冒険者って可能性もある」

「あぁ、魔素も色々あって判別がし難い……幸い襲ってくる気配はない。が、油断は禁物か」

「はい、ネドー派の評議員の配下の空魔法士隊は、ペレランドラ側であるわたしたちとの戦いで瓦解しましたが、在野に散った空魔法士隊と空戦魔導師の数もそれなりに多いはず」


 と、ヴィーネが発言。

 ビーサ以外の全員がうなずいた。


 ビーサは頭部の上に疑問符を浮かばせている。


 主観ではついこの間まで宇宙海賊だったビーサだ。当然だな。

 惑星セラの一都市の内情を聞いても理解なんてできるわけがない。


 まさに、〝ザ・ちんぷんかんぷん〟だろう。


 墨汁で、デカデカと書ける自信がある。


 そして、あまり表に出していないが、仲間たちの死が、先ほどの出来事なら、かなりキツイはず。


「ん、仲間になった猫好きのビロユアンもいる」

「はい、味方にもなりえますが、フリーになった者たちは、【天凜の月】と【血長耳】を恨んで、他の闇ギルドの残党と共に、【八巨星】の傘下組織及び【テーバロンテの償い】などの組織に加わる可能性もあります」

「そうですね。ネドー派の者たちにとって……<従者長>となった上院評議員のペレランドラは恨みの対象となりえる……大半はセナアプアから逃げたと思いたいですが」


 皆の言葉に頷いてから、


「今回の烈戒の浮遊岩の件で、下界には空を飛べる魔族の連中が多いことが分かった。【テーバロンテの償い】を含めて【八巨星】のグループは手強い連中ってことだろう。幸いなのは、連中も互いに争っていることが多いってことか」

 

 俺がそう発言すると、エヴァとレベッカも警戒を強めたのか、俺の傍に来た。


「ん、自然豊かな浮遊岩には、モンスターが棲まう魔塔もある」

「うん。暁の墓碑の密使の一人ゲ・ゲラ・トーの魂が、泡の浮遊岩を異質な迷宮ダンジョンへと変化させたように、迷宮ダンジョンと化している浮遊岩はたくさんあるらしいわね」


 と、エヴァとレベッカが語る。

 本当に右の空の方角に緑豊かな浮遊岩があった。

 その自然豊かな浮遊岩にはキャンプ中の人たちがいる。


「あの浮遊岩でキャンプ中の方々は冒険者か?」

「たぶんね。冒険者用に魔塔の地図も売られているから、その魔塔にあるお宝が目当ての冒険者でしょう」

「へぇ」

「前にも言ったけど、セナアプアの秘密の本と、大海賊キャットシー・デズモンドが秘宝を隠したという魔法の地図を買ったお店の女主人が色々と教えてくれた」


 そういった店を巡って買い物がしたいが、まだ暫く先だな。


「その大海賊のキャットシー・デズモンド。メル経由だが、黒猫海賊団の連中にマジマーンとレイ・ジャック、その仲間の乗組員は聞いたことがある大海賊の名前らしいな」

「うん。お店の女主人は、『東か南か、聞いたことのない海域で有名らしい。と、あと、セナアプアとペルネーテに別々の魔宝地図協会や海図専門協会があるように、地図は地図でも色々と種類があって、魔法の地図は都市ごとに異なることが普通。そして、ずっと売れ残っていた魔法の地図。地図解読の難易度が高いのか、または他の都市の魔法の地図の可能性もある。その点を踏まえての値段よ?』と色っぽく語っていたわ。そして、前にも言ったけど、化粧品を安くしてくれた」


 偽地図を掴まされていたわけではないのか。


「ん、都市ごとに異なるなら、魔宝地図を解析できるハンニバルに見せても無理そう」

「うん。ペルネーテに帰ったら見てもらうのもあり。けど、魔法の地図にも種類があるようだからね。望みは薄いかな」

「ん、地図の解読スキルも色々と難しそう」


 都市ごとに魔法の地図の解読方法が異なるのか。

 俺は頷きつつ、


「見た目が普通の地図なら解析は可能かな」

「解析ってアクセルマギナちゃん?」


 すると、右腕の戦闘型デバイスの上に浮かぶアクセルマギナが、


「わたし単体でのスキャンには限度があります。偵察用ドローンにも距離の限りがあります」


 そう発言してきた。

 俺は、


「海にあるような島か大陸の入り江の形をした絵が詳細なら、宇宙海賊【八皇】の一人の艦長ハートミットに見せたらどうなるかな? 最新鋭の宇宙戦艦の能力で、惑星セラの地表と魔法の地図を照らし合わせれば、宝が眠る場所の推測はある程度可能かも知れない」


 俺の言葉を聞いたビーサは、


「【八皇】……」


 と呟いていたが、あまり動じず。

 アクセルマギナも、


「バイコマイル胞子を捉えることが可能なテスファオメガを有した宇宙戦艦ならば、地図の宝の場所が、惑星セラのどこの地を示すのか、その推測は余裕で可能だと思われます」


 そう発言。

 ビーサはアクセルマギナの言葉を聞いて、感心するような素振りを見せていた。

 

 ハートミットも驚くだろうな。


 この銀河戦士カリームの超戦士のビーサを見たら、他にどんな反応を示すか。


 そして、ハートミットの部下の自身をドワーフに偽装しているエウロパもか。


 そのエウロパも俺を探しているようだが……。


「うん。何もないよりはマシ。それじゃ、シュウヤ、オカリナで連絡が取れる宇宙船にいるのか分からないけど、艦長のハートミットに連絡が取れたら、魔法の地図の情報も伝えてね」

「おう」

「あと、メル経由でマジマーンたちにも伝えたけど、地図に記された宝は、大海賊キャットシーが隠したミホザの聖櫃アークって可能性もあるんだから」

「あ、その線もあるのか。しかし、浮遊岩で活動する冒険者がいるセナアプアで売られていた魔法の地図だろ? だから宝の位置は案外、セナアプアに点在する浮遊岩のどこかを示しているのかも知れないぞ?」

「それもそうねぇ。大海賊の名だから、てっきり海のほうかと思ったけど……」

「ん、灯台下暗し。さっきレベッカも言ったけど、セナアプアに大量に存在する浮遊岩には、迷宮と化した浮遊岩もある」

「うん。自然とモンスターが湧く浮遊岩と魔塔もあるから、可能性はあるわね」

「はい、住民が多い浮遊岩では被害が出ることがあると聞いたことがありますし、空魔法士隊の警邏がセナアプアに必要な理由の一つ」


 そうキサラも語る。


「評議員が持つ空魔法士隊は、セナアプアの結界の維持にも必要と聞いたことがある。三カ国に囲まれた中立の名がある都市が誇る戦力ではなかったということか」


 俺がそう話をすると、ヴィーネが、


「はい。そして空魔法士隊を養成している魔法学院には『リゼッチドロウズボウル』もあります。競技の背後には【魔術総武会】と各地を代表するような大商会のスポンサーも多い」


 そう語る。

 ビーサは黙って皆の話を聞いていた。

 そのビーサを見てから、魔煙草を素早く出して、傍にいる皆に、その魔煙草を向ける。


 皆に、『魔煙草は要るか?』とアイコンタクト。

 ビーサ以外の皆は微笑を浮かべて、


「「はい」」

「ん」

「うん! もちろん!」


 その美人さんたちへと魔煙草を渡した。 

 ――俺も健康にいい魔煙草を口に咥えた。


 そして、ヴィーネとキサラが気を利かせる前に――。

 アドゥムブラリを意識。


「よぅ主! 火付けマシーン!」


 素早く指輪から膨れたアドゥムブラリの額にエースを刻んで、<ザイムの闇炎>を実行――。


「「あ、ありがとうございます」」

「いいってことさ――」


 ヴィーネとキサラが口で魔煙草をくわえている先っぽの下に闇炎で燃える指を置いた。

 そのまま二人の魔煙草に<ザイムの闇炎>で火を付けてあげた。


 更に――。

 二人の火が付いた魔煙草の先っぽに向けて俺自身が咥えたままの魔煙草の先っぽを合わせる。


「ふふ、キスしている気分です」

「はい」


 照れた表情を見せる二人とキスをするイメージだ。


 ヴィーネとキサラの二人が吸う魔煙草から――。

 俺が吸う魔煙草に火を分けてもらった。


 周囲に魔力の煙がぷかぷかと舞う。


 すると、直ぐにエヴァとレベッカが、


「ん、わたしも――」

「ん――」


 レベッカとエヴァが魔煙草を突き出してくる。

 その二人の咥えた魔煙草へと素早く――。

 俺は先っぽが燃えた魔煙草を当てた。

 

 レベッカとエヴァの魔煙草に火を付けてあげた。

 

 ふぅっと、魔煙草の煙を吐いては味わいつつ――。

 ビーサにも魔煙草を向けて、


「吸うか? この葉巻の名は魔煙草で健康にいい。魔力も回復する。そして、葉の種類で体にいい効能も変わるんだ。種族ファネルファガルに、この魔煙草の効能が通じるかは不明だが」

「わたしの故郷にも、煙草や葉巻はありました。しかし……今は、遠慮しておきます」

「了解。惑星セラの住民だけが、良い効果を得られるってこともあり得るからな」

「はい」


 そして変化しているブリーザーを見ながら、


「今更だが、呼吸は普通に?」

「はい。この特殊ブリーザーがあるので、大丈夫です」

「へぇ」


 さすがは宇宙海賊&銀河戦士カリームの超戦士。

 ハートミットも持っているのかな。


 ま、他の惑星で活動することもあるだろうし当然か。


「惑星ごとに大気の質が異なるから当然か」

「はい。酸ならまだしも、ダイヤゲルが降り注ぐ惑星などもあります。ナノ金属とDNAやRNAが融合した複合素材のメタマテリアル装備が必要です。その点、この惑星セラの無色透明の混合気体は、魔力濃度が異常に高い以外は、他の水を有した岩石惑星とそう変わりない環境に思えます」


 厳しい環境か。

 だが惑星セラも厳しい環境のほうだと思う。

 そう言えば、サナさん&ヒナさんが転移してきた際に一緒に転移してきた異世界地球の飛行機は不自然にバランスを崩していたな。


 空気層が俺の知る地球とは異なると推測。

 

 次元が違うなら当初予測したとおり、

 シャンパンの泡のように、膜としての無限の宇宙が存在するということだろう。


 パラレルワールドや物理定数が微妙に異なる宇宙にも繋がる。


 そうして、ふぅぅ――。

 と息を吸うように、魔煙草の煙を体内に取り込んだ。


 いいねぇ――健康にいい魔力が体内に染みた。

 魔力を得られるし何気に気持ちも爽やかになる。


 ヴィーネとキサラも同じ気持ちのようだ。

 そして、魔煙草の吸い方が少しエロい。

 

 そんな二人の背後の浮遊岩が視界に入る。

 上界を行き交う浮遊岩の一つ。


 小さい浮遊岩だが、廃れた小道と郵便ポスト?

 寂れた駄菓子屋風の小屋がぽつねんとある。


 その店で、人族とエルフの子供を連れた男性の魔法使いがいた。

 子供たちはソフトクリーム的なお菓子を食べている。

 男性の魔法使いは、お茶が入っていそうな茶碗を持って談笑していた。


 提灯的な明かりも何かの風情を感じさせる浮遊岩だ。


 すると、ユイの血文字が再び浮かぶ――。


『シュウヤ、待ち合わせは【バージオンの空門魔塔】よ』

『了解、と言いたいところだが、場所が分からない。エヴァとレベッカが、その【バージオンの空門魔塔】を知ってるんだな?』


 と、傍にいるエヴァとレベッカを見ながら血文字をユイに送る。


『ん、知ってる』


 エヴァの血文字が浮くとユイの血文字が、


『エヴァとレベッカ、ロロちゃんに道案内をよろしく。そして、七草ハピオン通りのアラウルの錬金術店に錬金術師のマコトさんたちがいるって。そこに、レレイさんが案内してくれるそうよ。カットマギーも連れて、今向かっているところだから』

『了解』

「シュウヤ、このまま真っ直ぐ」

「ロロちゃん、あっちのほう――」


 レベッカは蒼炎で相棒の前に巨大な矢印を描いた。

 エヴァもヌベファ金剛トンファーの先端を向けた。


「にゃおおお~」


 相棒は即座に片翼を傾けた。

 右に曲がりつつ速度を上げる。


 そうして、ユイとカットマギーとレレイさんとの待ち合わせ場所の【バージオンの空門魔塔】の前に到着――。


 魔塔は中世に建築されたようなゴシック建築の門だ。

 芸術性が高い。


 エセル大広場の南に位置する門か。

 しかし、通り越しには、摩天楼のような魔塔が壁のようにずらりと並ぶ。


 相棒は門の外の通りに俺たちを降ろす。

 と、瞬く間に普通の黒豹の姿に縮小した。


 周囲を行き交う人々は巨大な黒豹から普通の黒豹に縮んだ相棒の収縮具合に驚がくしていたが、モンスター使いなどのテイマーも多いからか、それほど騒ぎにならず、普通に商売を続けるドワーフたちに、元々のエセル大広場に向かう人々に戻った。


 すると、ユイが、


「――シュウヤ、お疲れさま」

「おう」


 ユイとハイタッチ。

 そのユイは飛び掛かってくる。

 ユイを抱きしめてあげた。


 ついでにこぶりなお尻さんを両手でギュッとした。


「ぁん」

「――エロ盟主! タルナタムの姿が見えないが、仕舞ったのか」


 カットマギーは元気だ。

 そのカットマギーに視線を向けつつユイを降ろす。


 そのユイは素早くヴィーネに近付いてハイタッチ。

 続けて、キサラとエヴァとレベッカともハイタッチを行う。


 俺はカットマギーに、


「おう、タルナタムはゴドローン・シャックルズの効果でアイテムとなって、アイテムボックスの中だ。いつでも出せるぞ」


 そのタルナタムだが……。

 タルナタムの六つの魔眼の力はまだ試していない。

 

 タルナタムの中に残る狂怒ノ霊魔炎を意識しつつ、俺の<血魔力>を有したゴドローン・シャックルズのコントロールユニットのような窪みに〝魔狂源言ノ勾玉〟を嵌め込めば……タルナタムの六つの魔眼の力を個別に利用することが可能となる。


 が、しかし……。

 魔狂源言ノ勾玉を意識すると恐怖の感覚を覚える。

 エクストラスキル<脳魔脊髄革命>などを有した俺の精神力や魔力でも、六つの魔眼の能力を扱うのは、今は、ギリギリなんだろうか。

 

 タルナタムの六つの多視界には慣れないってこともあるか。


 ま、それはおいおいか。


「ケケケ、獄界ゴドローンのアイテムも使いこなす盟主。そして、手足を治そうとしてくれる。わたしは幸せモンダネェ……」


 笑顔を見せて語るカットマギー。

 移植の話がスムーズに決まりそうだから、機嫌は良さそうだ。


「ん、カットマギー。移植は痛いかも?」

「大丈夫さ、盟主の優しさを受けた、この身と心。どんな痛みだろうと耐えてみせる」

「ん」


 エヴァの天使の微笑には癒やされる。

 カットマギーも微笑んだ。

 

 すると、【白鯨の血長耳】の幹部のレレイさんが、


「シュウヤさん。よろしいでしょうか」

「はい、どうぞ」

「烈戒の浮遊岩の乱を素早く収めていただきありがとうございます。世話人ガルファから、『烈戒の浮遊岩と周囲の魔塔と浮遊岩の残骸のすべては、【天凜の月】の権利ですぞ』と言いつかっております――」


 と報告してくれた。


「えっと、あの周囲って結構色々とあったわよね」

「ん、けど、殆どが壊れた建物ばかりで廃墟。生き延びた人々も残っていない。死体や荷物が残っているところはあるように見えた」

「再建や残骸の撤去費用も、ばかにならんって話か」

「たぶんね。烈戒の浮遊岩を獲得して採掘する利益と、他の魔塔や浮遊岩の土地の再建費用は……実はトントンとか?」

「ん、世話人ガルファさんは頭がいい!」

「はい、ネドーが支配していた魔法学院の跡地を【天凜の月】が支配する形。内外に早々に烈戒の浮遊岩の乱を鎮めたご主人様の名が広まる形でもある」


 ヴィーネの鋭い考察が決まる。

 

「俺たちと【血長耳】にとっても好都合か。分かりやすいな。んだが、俺たちは烈戒の浮遊岩だけを重要視すればいい。他の廃墟となった浮遊岩や魔塔の所有権も、もらえるならもらっておくが、いまのところは放置でいいだろう。避難所的な施設も<邪王の樹>で作ろうと思えば作れる」

「ん」

「うん。その施設の件だけど、大魔術師アキエ・エニグマからもらった魔塔ゲルハットが楽しみ!」

「あぁ、だが、実際の魔塔はまだ見てないからな」

「もし、凄く立派な魔塔なら……ふふ!」

「ん、楽しみ!」

「うん」

「ふふ、セナアプアの【天凜の月】の支部の本部は、その魔塔ゲルハットに決定?」

「そうね、レベッカに賛成。メルが用意してくれた宿屋&酒場もいいけど、【血長耳】が持つような魔塔エセルハードのような魔塔なら、いったいどんなアイテムが貯蔵されているのか、内装も……色々とワクワクしちゃう」

「うんうん」

「たしかに、が、買い物と一緒で後回しだ」


 皆、頷いた。

 すると、ユイがビーサを見て、


「あ、シュウヤ。その方が新しい仲間のビーサさんよね?」

「おう、ビーサだ――」


 とビーサに向けて腕を伸ばすと、ビーサが、ユイたちに礼をしてから、


「はい。名はビーサ・ファガル。緊急次元避難試作型カプセルの中に閉じ込められていましたが、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスのシュウヤに救われました」

「うん。烈戒の浮遊岩の中に閉じ込められていたなんて、びっくりよ」

「へぇ……不思議な縁だ。しかも聞いた以上に有能そうな戦士と分かるよ?」


 と、にんまりしているカットマギーが語る。

 レレイさんは沈黙。


 ビーサは頷いた。

 そして、


「ユイさんですね、<筆頭従者長選ばれし眷属>の一人で、【天凜の月】の最高幹部とも聞いています」

「えっと、あ、うん、そう。名はユイ・フローグマン。でも、理解が早いわ。マハハイム共通語もちゃんとしているし、魔機械類の装備も豊富そう……他の宇宙の銀河戦士カリームの超戦士も、ビーサさんのように優秀な存在たちなのかしら」

「知的生命体は様々です。今回救われたのは、わたしを見つけてくれたのがシュウヤだったから。理解の早さは、そのシュウヤの魔力が、わたしの体に入ったことも関係があるかと思います」


 <銀河騎士の絆>と<光魔の王笏>か。

 <光魔の王笏>は<大真祖の宗系譜者>に<従者開発>など色々と内包しているからな。

 まぁ遺産高神経レガシーハイナーブと適合している要素が大本か。


「へぇ、アクセルマギナといい、わたしたちと同じ光魔ルシヴァルの眷属ってことか……あ、だからエヴァが血文字で、わたしたちも銀河戦士カリームの超戦士って言っていたのね」

「ん!」


 エヴァはユイに向けて、トンファーを突き出していた。

 フェンロン流棒術のポーズだろう。


 エヴァは渋く決めたつもりだと思うが、可愛い。

 そんなエヴァの姿に魅了されてから、レレイさんに視線を向けて、


「それじゃ、レレイさん。アラウルの錬金術店まで道案内を頼みますよ」

「はい。こっちです、行きましょう」

「ンン――」


 相棒は馬の大きさの黒豹と化した。

 その大きな黒豹のロロディーヌは触手をカットマギーに絡ませて、背中に乗せると走り出した。


 レレイさんを抜いてどこかに行く。


「は、はやいぃぃ――」



 カットマギーの悲鳴が面白い。


「おーい」


 と呼ぶと、大きい黒豹ロロは戻ってきた。

 カットマギーは黒豹ロロにしがみついているようだ。


 レレイさんは相棒の機動を見て驚愕していたが、なんとか気を持ち直すと、素早い所作で笑顔を作る。

 

 そして、歩き出した。

 

 俺たちも七草ハピオン通りを進む。

 通りの街並みは、江戸的な雰囲気。


 下町って印象だ。

 そうして、アラウルの錬金術店に到着。

 店の手前にいた【血長耳】の若い兵士たちが一斉に敬礼。


 すると、レレイさんが、


「リシェス、ゼビ、ランスは各小隊に連絡を」

「「「ハイッ」」」


 一斉に若い兵士たちは散った。

 この界隈に血長耳の小隊が展開していたようだ。

 

 改めて、【白鯨の血長耳】の幹部であるレレイさんを凝視。レレイさんは気さくな笑顔を見せてから、


「中に行きましょう。既に移植用の素材は入手ずみとも伝えてあります」

「分かりました」


 俺たちはレレイさんと一緒に店内に入った。

 黒髪の錬金術師の配下の長身のメイドさんが出迎えてくれた。

 

 その長身のメイドさんが、一礼。

 魅力的な方だ。


 俺も素早く礼をした。


「レレイさんとシュウヤ様。お待ちしていました。こちらです」


 そのまま案内を受けた。

 店内には、薬などが陳列された棚がある。

 壁には、蝙蝠の羽根のような素材がぶら下がっていた。

 モンスターの生皮に乾いた頭部。

 骨の爪と腕もあった。

 オークの頭部も……。

 正直、俺たちは眷属のソロボとクエマを知る。

 このオークの素材には、あまりいい印象は受けない。


 奥の受付台の隣の階段を下りる。

 手前の銀色の魔力を帯びたシャッターが自動的に持ち上がると、地下空間が見えた。

 地下空間は一種の手術部屋か?

 複数の縦に長い硝子容器が奥行きを演出するように並んでいる。


 硝子容器の中には魔力を有した魔人系の手足に、眼球、刀のような装備まである。

 中身はホルマリン的な液体に見えるが、泡も立っていた。


 マッドな場所だ。


「ん……」


 エヴァがいやそうな表情を浮かべた。

 直ぐにキサラとレベッカが寄り添う。

 エヴァは笑顔で応えていたが、見覚えがあるのか。


 すると、地下空間の奥に魔力の反応。

 カーテンが動く音が響くと、音がした空間が歪む。


 光学迷彩機能のあるカーテンか。

 そこから現れたのは黒髪の錬金術師マコト・トミオカとメイドさんたちだった。


「シュウヤさん、話は聞いています。その方の手足の移植ですね?」


 俺は頷いてから、近付いた。

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