七百五十二話 <錬金魔手術>の魔手術


 マルカさんは頬を朱色に染めた。

 恥ずかしそうな表情を浮かべてから笑みを作る。

 俺に向けて会釈して、足を横にひろげた。


 中華風のワンピースの切れ目からスラリとした長い足が出た。

 同時にマルカさんは、


「マコト様、すみません。今、ご用意を――」


 精神回復薬ポーションの瓶の蓋を開けた。

 更に、腰元が光る。

 マルカさんのワンピースの脇腹から太腿ふとももに掛けて、大きな切れ目があった。その切れ目から、魔道具系の薄着をのぞかせる。


 その薄着は銃帯と剣帯を兼ねた作りのようだ。


 ひもと連結した四角い魔機械も見えた。

 更に、薄着の至るところに、浮き彫り加工された仏生会ぶっしょうえ的な竜と仏の絵柄がある。

 その釈迦しゃかの誕生日を祝うような灌仏会かんぶつえから魔力が飛び出た。

 

 魔力は瞬く間に須弥壇風の机と化した。

 須弥壇しゅみだん風の机の上には、様々な素材が乗っていた。

 マルカさんは、そのままマコトを見て、


「マコト様。幻影香、リュイン草、アッガルマの蜜、回復丸薬、デオセギハスの卵、マゴマ草、瑞祥・フラゲレフェルの眼球、アードの葉、クンクルドの調液水、メタル生体膜、マフーバ魔酔薬もここにあります」


 素材はどれも一級品だろう。


「うん。マルカ、いつもありがとう」


 マルカさんも色々と調合ができることは知っている。

 魔塔エセルハードでも、マコトの薬の調合を手伝っていた。


 そのマルカさんは、他のメイドさんたちに目配せして、


「皆、気合いを入れてください! 魔界の神ラテバンの眷属の片腕を移植した時のように、マコト様の重要な取り引き相手の患者様です。がんばりましょう!」

「「はい!」」


 メイドさんたちは元気はつらつだ。


 中華風のワンピースが似合うマルカさんは満足そうに頷いた。

 看護師風でもあり、メイド長的な存在?


「ふふ。では、マコト様、施術をお願いします」


 マコトは頷いた。

 そのマコトは鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足を浮かせて、両腕を上げた。


 外科手術を行うようなポージング。

 高額で手術を請け負う闇医者的な存在を思い出す。


「では、改めて、シュウヤさんとカットマギーさん。準備はよろしいでしょうか」

「頼みます」


 マコトの指の動きが『シザーハンズ』の主役の動きと似ていて少し怖い。

 カットマギーも不安を覚えたのか、


「マコトさん、いや、先生。わたしは、このままでいいのかい?」


 カットマギーは寝ながら聞いていた。


「はい、片腕と片足の傷口は外に出ていますし、その薄絹の服のままで結構。最初に液体をかけて傷口を活性化させて、本格的な施術を開始します。術後の数秒は動かないでください。手足にしびれがあるとは思いますが、感覚は徐々に得られるでしょう。副作用もないはずです」

「分かった」


 カットマギーは納得しているようだが、不安そうだ。

 笑顔を送っておいた。

 カットマギーは頬を朱に染めた。


 そのカットマギーからマコトに視線を移し、


「副作用がないなら安心できますが、鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足の残留思念。または、形状記憶か、遺伝子か細胞か、記憶的な魂の因子が、カットマギーに悪影響を及ぼすとかはありそうに思えますが……」


 と発言。


「ははは、映画の見過ぎですよ。と、言いたいところですが、その通りで、過去には、素材の記憶を含めた神意力の副作用を受けて、ギリシャ神話のChimera的な怪物に……そのような実験体零三、いや、患者がいました」


 実験体の患者かよ。

 やはりマッドサイエンティストか。


「その患者は?」

「わたしとプルアとマルカとテスラで倒しました。わたしのスキル魔遺伝子ライブラリーの構築が甘かったことも原因の一つではあります。ゲノム編集ツールで有名な『CasX』を基礎とする発展型のゲノム編集ツールは、ここにはありませんからね。が、現在のわたしの<錬金魔手術>と<魔神経操作>に<疑似魔円環・メタマテリアル共鳴>、<疑似吸血法>はかなりの域という自負があります」


 ゲノム編集ツール……。

 俺が知る地球にもあったゲノム編集ツール。

 初歩的なCRISPR-Casの技術はかなり浸透していたからな。

 オフザターゲット問題をクリアしていた。

 

 デザイナーベイビーの問題どころか、もう行き着くところまで行っていた。


「マコトさんがいたパラレル世界の地球でも、自宅で気軽にエピジェネティック編集が可能だったのか」

「そのような科学オタクの範囲ならマシでしたよ。地球寒冷化に備えた水資源と食料を巡る戦争を回避するためのソフトな人口削減目標。その先鋒が、製薬会社。原子や分子を弄り、免疫の生体防御機構を徐々に破壊するRNAウィルスなどをワクチンと称して開発。更には、特定の人種遺伝子集団に効く病原体も開発していました……まさに『パンドラの箱』を開けた世界でしたねぇ。苦しむ患者を救おうとする『ヒポクラテスの誓い』に倣う正義の医者もいましたが……強権体制に抗える存在は中々いない……。更には、危険と判断された技術と知識を国際的に管理する側が、金、金、金で、人の命よりも自分本位な者ばかりで、不正塗れでしたから、コントロールしようとする側もされる側もカオスな状況が多かった。人類を救うためのはずが、逆に人類滅亡に向けてまっしぐらでした」


 と、辛そうに話をする。


「新薬開発に貢献できる遺伝子工学ですが、負の面もあるのは、どの地球も変わらないようですね」

「はい、正と負の天秤の均衡は総じて難しい。そして、シュウヤさんのアイテムボックス。それと見た目が似ているウェアラブルコンピューターの開発も色々とされていました。腕時計に携帯電話を内蔵したモデル。人工血液が作用した人工網膜LSI。まさに、正と負の両面の成果といえるテクノロジーの結晶です」

「似ていることは多い」

「そのようです」


 頷いてから、昔を想起。

 爺ちゃんが読んでいた新聞には、


「正の部分なら、再生可能資源学に警告学、持続可能な社会を目指す運動など、地球のためになる分野も、それなりに発達していたようです。関わってはいないので、分からないことが多いですが」


 当時、真面目に読んでいたとしても理解できたかどうか。

 黴が世界を救う、なんて記事は面白かった。

 白神山地の腐葉土は宝の山とか……。


「へぇ、『サステナビリティー』ですか。シュウヤさんの転生元の地球の歴史が気になります」

「俺がいた地球……今思えば、仮初めの平和だったのかも知れない。首都は東京です。島国の日本で、関東地方と呼ばれていた」

「わたしの転生元の日本の首都の名は、大東亜東京。太田区の豊川、核の放射能に汚染された大関東地方でした」

「核……やはり俺の知る日本とは違う異世界地球の日本のようだ。しかし、前にも聞いたCERNの事件など、共通項はそれなりにあるようにも思えます」

「はい、CERNの巨大粒子加速器によるミニブラックホール実験の影響で、平行宇宙への干渉が証明された。きっとシュウヤさんが知る地球も、わたしの知る地球も、幾重にも分岐した宇宙に存在する地球なんですよ。波動関数が干渉し合うマルチユニバースのね。しかし、今、ここで会話を行っている、この惑星を内包した次元宇宙が、わたしたちと同じ地球がある平行宇宙の次元なのか? と聞かれても、分かりませんがね。ただでさえ、わたしのいた宇宙でも、遠い銀河の先では、物理定数は均一ではなく双極的な性質を持つという観測結果がありましたから」

「俺もそんな疑問を持っていました。色々と不思議なことが多いですが、現実は現実」


 と言って笑うと、マコトも笑顔を見せた。


「はは、不思議と言えば、超磁力兵器と携帯電話の基地局や衛星、塔のような建物から特定の周波数とLEDの光を用いて、他人の脳にアクセスし行う、集団意識操作なども、わたしの知る地球にはありました。更に、UWB(Ultra Wide Band)通信などの災害時に建物に閉じ込められた人を発見する無線技術は、人の役に立つ技術ではありましたが、電子レンジのマグネトロンを取り出して行う危険な改造と同じく、この技術を悪用する勢力もあった」


 それは俺の知る地球にもあった。


「特定の周波数……この世界の魔法やスキルにもありそうですね」

「はい、ありますが、防ぐ手立ても豊富にあります。しかし、わたしの知る地球には防ぐ手立ては少なかった。同時に、その危険性を支配層が一般層に伝えようとしないことが、大問題でした。そして、山が自然に動く、地形と記憶の書き換えなど……ナノテクノロジーと電波の進化は果てがなかった。更に、フラットアースやら、時間でさえも、今が見せる幻想なのではないか? と言う理論もありましたよ」


 頷いた。

 皆、日本語が混じった会話だから、ワケワカメという顔色を浮かべる。

 核の放射能のことが気になったから、


「しかし、マコトさんのいた日本の核の放射能とは……」

「……様々な事象があったが故ですよ。最後の日本人としての記憶は、食料を巡った争いに巻き込まれたとき、何かの爆発を浴びて、痛い! と思ったことが最後。そうして、わたしが、元日本人としての記憶に気付いたのは、この体で十二歳ぐらいの時でした……そこから……生きるために手を汚しつつ……長くなりますので、すみません」

「マコト様……あまり過去のことは……」


 過去を語るマコトは辛そうだ。

 マルカさんが心配していた。

 何か、リスクがあるのか? 

 スキルや魔法でも癒やせないPTSDのような疾患を持つのかも知れない。

 

 さて、


「はい、此方も長々とすみません。過去は過去、今は今。と言うことで、カットマギーの施術を始めてください、マコト先生」

「はは、気軽にマコトで構いません。そして、了解しました。では、カットマギーさん。とある液体を浴びてもらいます。その作用で、髪が濡れて、手足に熱を感じると思いますが……準備は?」

「ケケケ、痛みなら慣れっこだ」


 元気なカットマギー。

 マコトは頷いた。


「分かりました」


 そのマコトは「フンッ!」と鼻息を発して全身に魔力を纏う。

 同時に、体から無数の魔線が迸る。

 

 マコトから出た魔線の数はかなりの数。

 魔線の群れは、マルカさんと魔造書を持ったメイドさんたちに付着。


 ニコラテスラの放電管的だ。


 魔線は<導魔術>系統だろうか。

 沸騎士たちを召喚する際に闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトから魔力の糸が出るが、その魔力の糸とも形が似ている。


 更に、そのマコトから出た魔線は、マルカさんの須弥壇風の机とも繋がった。

 マルカさんの須弥壇風の机から黄金色と銀色の魔力が一瞬湧いたが、直ぐに散ると液体が入った瓶が須弥壇風の机から離れて、ぷかぷかと漂いつつカットマギーの元に移動していった。


 マコトは<導魔術>系のスキルが使えるようだ。

 その蓋が開いている瓶は、カットマギーの頭上で一回転。

 瓶から出た蜂蜜色の液体が、カットマギーの全身にかかった。


「きゃっ」


 意外、可愛い声だ。

 いつもの『ケケケ』で対応すると思ったが。

 そして、濡れた蜂蜜色に輝いた髪の毛が魅力的。


 傷も多いが、美形なカットマギーだから魅了された。


『ふふ、様々な精霊ちゃんの力も作用している不思議な液体のようです。シークレットルームを守っていた水の精霊ちゃんたちとは大きく異なります』


 あのジェットカッターの魔機械も緊急次元避難試作型カプセルの一部だったのかな。


「手足が熱い。体も……盟主……」


 一転してカットマギーは怖くなったようだ。

 俺に助けを求めてきた。


「カットマギー、がんばれ。マコト、大丈夫なんだな?」

「はい、そのままで」


 マコトは数人のメイドさんに目配せ。

 メイドさんたちはカットマギーの失った手足の根元を見て傷の具合を確認していた。


「マコト様、片腕の活性化を確認。傷口が開きましたが、大丈夫です。凝固しています」

「片足も活性化を確認。同じく凝固しつつも粘液腫が」

「心臓と背中の血流が乱れているようです」


 マコトは深呼吸をするような仕種をしてから、


「では、施術を開始します――」


 と宣言すると、魔力の炎を両腕から出した。

 持っていた鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足は燃えていない。


 その魔力の炎はナイルブルーの色合い。


 レベッカの蒼炎と少し似た色合いだ。

 俺はレベッカを見た。

 ヴィーネとユイも、少し遅れてエヴァとキサラに相棒もレベッカを見た。

 一方、ビーサは施設の品々を興味深そうに見ている。


 ナ・パーム星系や宇宙船にも似たような魔機械があるんだろうか。

 そのビーサはマコトとカットマギーに視線を向けた。


 すると、レベッカは頷いて、


「わたしの蒼炎とは別物よ」


 まぁそうだろうな。

 レベッカの元の種族はハイエルフ。

 父親のヒート・イブヒンも語っていた。

 蒼炎神エアリアルの血筋と。


 レベッカの話を聞いたクレインも驚いていた。

 そのクレインはベファリッツ大帝国の皇帝の血筋。

 

 そんなレベッカの親戚のイブヒン家には、黒魔女教団の十七高手の一人だったアーソン・イブヒンも存在する。

 

 すると、マコトの傍に魔法の机が出現した。


 マルカさんが出したような須弥壇しゅみだん風の机だ。


 医療用ライトの一部が、マコトの召喚した須弥壇風の机を照らす。

 複数のメイドさんが、魔造書に魔力を通す。

 魔造書から魔界セブドラの小さい生物を召喚していた。


 その生物を対転生者用戦闘メイドのプルアさんが斬り刻む。

 斬り刻まれた肉片は一瞬で、スアさんの片手の真上に移動。


 それらの肉片を一まとめにしたスアさんは、マルカさんとマコトの須弥壇風の机に素材を放り投げた。


 マコトの須弥壇風の机には硝子ガラス瓶と、サイコロ風の魔道具に、書類巻きの魔機械と、半透明な膜の中にある炎を灯す魔道具などが並んでいた。


 それらの魔道具へと、スアさんが放り投げた素材が吸い込まれた。

 すると、魔道具による錬成が始まった。


 更に、マルカさんの机に並んでいた色々な素材も自然と混ざりながら溶けて、マコトの机に向かうと、魔界の生物の素材が入っていた魔道具の中に吸い込まれていった。


 二つの素材を吸い込んだ魔道具は更に攪拌を強める。


 その攪拌は終了。

 すると、数個の赫く丸い玉が誕生していた。


「早業です」

「あぁ、前にも見ているが、凄い」

「ん、クナの錬金術とはまた違う」


 エヴァの発言を聞いたマコトは手元が震えた。

 すると、一つの赫く丸い玉が弾け散った。


「マコト様――」


 薄青色の髪の毛のスアさんが反応。

 それらの散った魔力を、懐から出した小さく長細いゴム袋に吸い込ませていた。


 膨れたゴム袋は魚の形の風船となった。

 可愛い形だ。


 が、その可愛い風船は一気に収縮。

 長細いゴム袋に戻る。

 

 スアさんは、両手の人差し指で、長細いゴム袋を回す。

 その仕種は面白くて可愛い。


 薄青い髪の毛もいい。

 片目を瞑ったままのスアさんは、笑顔を寄越す。


 隻眼? 

 分からないが、可愛い子だ。


「にゃお~」


 相棒が褒めるように鳴いていた。

 カソジックをくれたから、懐いたか。

 

 すると、マコトが、


「……あの暗黒のクナさんですか? 死んだと聞いたような……まさかシュウヤさんと繋がりがあるとは」


 クナの闇のリストのブローチはもう持っていないのか。


「ん、ごめんなさい」

「い、いえ、お気になさらず――」


 マコトは続けて赫く丸い玉を数個生み出した。

 寝台に横になるカットマギーは驚きながら見ている。


 魔力を消費したマコトは、額に汗の玉が浮いていた。

 その汗を素早く白い布で拭き取るマルカさん。


 看護師風のマルカさんの姿は微笑ましい。

 マコトは片目の魔眼を発動しつつ、複数の赫く丸い玉を操作。


 赫く丸い玉は鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足に触れると浸透して消えた。

 鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足から魔の蒸気が噴出。


 魔の蒸気には匂いがありそうだが、無臭。


「ンン――」


 俺の肩に戻った黒猫ロロも反応。

 小鼻を突き出してクンクンと匂いを嗅ぐ。


 蒸気は机の四方に吸い込まれて直ぐに消えた。


 すると、鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足の表面に魔印が浮かぶ。

 同時に鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足の滑らかな傷口の断面から赫く糸的な細胞膜が無数に誕生し、そのままカットマギーの喪った手足の根元に移動するや、くっ付いた。


 その鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足を得たカットマギーは自然と浮かんだ。

 そして、これまた自然と寝台に横たわった。


 同時にマコトとマルカさんが使用していた須弥壇風の机は消えた。

 マコトはかなり魔力を消費したような面を見せる。


 明らかに無理をしたような顔色だ。


 ひょっとして借りを作ってしまったか?

 【血月布武】の名が効いているって言えばそれまでだが……。


 マコトが困っていたら、借りを返すか。


 一方、施術を受けたカットマギーは笑顔だ。

 暫し瞬きを繰り返してから、俺を見て、マコトを見る。


『閣下の<白炎仙手しろひげあたっく>とは異なります!』

『当然だ』


 鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足の色合いは、当然、普通ではないが、明らかに先ほどとは違う色合いの魔力を放っていた。


 カットマギーの魔力と融合している。


「……盟主、マコト先生、ありがとう。少し痺れるが、手足に感覚はある……」


 カットマギーはそう語ると、横たわっていた上半身を持ち上げる。

 魔手術を行ったばかりの手足を動かしていた。


「魔手術の成功おめでとう。貴重な機会だったわ。魔法使い&魔術師系でも、色々と魔手術って方法があるのね」


 とユイが語る。


「あぁ」

「ケケケ、わたしも噂に聞いていた程度だったが、こんな鮮やかに決まるとはねぇ――」


 と軽快に語るカットマギーだったが、体が痺れているような仕種を繰り返す。


「良かったが、大丈夫なんだな?」

「ケケケ……って……痛、ぁ」


 カットマギーはくらっとしたように白眼を剥いて、


「おい――」

「にゃ」


 カットマギーが倒れそうになったから支えた。

 肩にいた相棒は俺の足下だ。


「――ぁぅ、盟主、どこを触っているんだい……今、敏感なんだ……あん……」

「あぁ、すまん。が、そんなことより、体だ。どうなんだ」

「ぁう、ケケ……あぁ、盟主の顔が近すぎル……あ、わたしに惚れたのかい?」


 カットマギーは顔が真っ赤だ。


「魅力的だが、惚れていないから安心しろ。で、体調はどうなんだと聞いている」


 カットマギーは表情を曇らせてしまった。


「バカシュウヤ、そこは嘘でも惚れてるって返すのが、男としての礼儀でしょう」

「え?」

「「ふふ」」

「ん、あれ、レベッカがオカシイ?」

「ええ? なんで!? 大人の女としての意見で成長感を見せたのに!」

「ケケケ、盟主、大丈夫さ、ほら――」


 と、鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足を動かした。

 新しい右の魔腕を操作。

 表面に魔印の紋様が拡がった。

 手の甲から肘の上辺りまでに刃状の籠手が生成される。


「「おぉぉ」」


 皆、驚いた。ヴィーネは、


「鬼婦ゲンタールの能力の一部を得たようですね」

「武器にも防具にもなりそう」

「そう、魔腕を活かす<魔甲屏風>というスキルを獲得した。しかも、成長が見込めるようだ」


 とカットマギーは語った。 


「おぉ」

「それは凄いわ、魔腕かぁ」


 ユイは羨ましそうにカットマギーの魔腕を見る。

 すると、キサラが、


「魔足のほうも進化を?」

「これからだと思うが、たぶんある。ケケケ、ありがたいことだ」

「にゃごぉ~」


 相棒も黒豹、いや、黒虎に変身して驚いていた。

 その変身を見たメイドさんの数人が驚いて、腰を落とす。


 スアさんも可愛く転倒。

 プルアと言う名の対転生者用戦闘メイドさんは、可愛い表情を険しくしては、剣腕の切っ先を相棒に向けている。プルアさんは勇気があるな。


 相棒は「ン、にゃ?」と鳴いて、頭部を傾げていた。


「ん、おめでとう、カットマギー! 大手術の大成功!」

「うんうん、良かった~。生まれて初めて移植手術を見た」

「わたしも、移植を施す現場を見るのは初めてだ」

「ヴィーネも初か」

「はい、女司祭が行う魔手術は、かなり秘匿されていました」


 男のダークエルフを使った魔改造の類いか。


「わたしは錬金術系の魔手術を見たことがあります。が、わたしの知る技術とマコトさんが用いた手法は大きく異なります」


 へぇ、キサラは見たことがあったんだな。

 ゴルディクス大砂漠も色々な文化がありそうだ。

 血骨仙女の一族なんてのもいるようだし。その血骨仙女の片眼球は持っている。

 その移植は、マコト次第だが……今度、隻眼のビロユアンに提案してみるか?

 マルアにも聞いてみるかな。が、マルアの場合は剣でもあるから、ま、後々か。


『……器よ、マコトの扱う机は神界で見た覚えがある。仙王家か、あるいは……何かしらの神具だろう。そして、魔造書のほうは確実に魔界の物ぞ……』

『だろうな、神界と魔界の魔道具にスキルと色々な素材を組み合わせた魔手術か』

『ふむ……極めて高度な魔術師でもあるということだ。鋼の錬成も可能なようだぞ』

『へぇ……』


 そのマコトは、


「それでは、シュウヤさん。わたしも所用があるので」

「了解した。施術をありがとう、マコト先生」

「はは、わたしこそですよ。今回は、【天凜の月】の盟主との伝を得られたことが大きいんです。そして、先生は、正直困ります。錬金術師としてのマコト、先ほども言いましたが、ただのマコトで結構です」

「分かった、マコト」

「はい。では、またのご利用をお待ちしています。スア、そこまでお送りしなさい」

 

 スアさんは元気よく片手を上げて、


「はーい♪ 黒虎ちゃん、わたしを食べないでくださいねー。こっちですよ~」

「にゃお~」


 黒虎ロロは餌でもくれると思ったのか、スアさんの背後を付いていった。

 尻尾が真っ直ぐ立っているから、新しい仲間だと思っているのかな。


 虎だが、可愛いところは変わらない。

 さて、


「カットマギー、肩を貸すか?」

「ふふ、優しいねぇ……頼みたいが、眷属の女たちが苛つくから止しとくよ――」


 と、魔剣師の機動力を見せるように軽やかに立ち上がるカットマギー。

 無事に歩けている。


 ステップを踏んでは剣を扱う所作を見せた。

 そう言えば、カットマギーが持っていた魔剣はハイム川か。

 

 回収したアイテムからプレゼントするのもありか。

 

 透魔大竜ゲンジーダの胃袋の中に入っていたアイテムに魔槍と魔剣があった。


 魔槍レーフェル。

 魔剣アガヌリス。


 他にあるアイテムは、幅広の反った短剣、名は乱れ颪。

 魔力袋。

 蟲の形をした魔杖、名は魔杖キュレイサー。

 ヴィーネの新しい仕込み魔杖と同じ系統の魔杖と推測できる。ムラサメブレード的な魔刃を放出するタイプと予想するが、蟲だけに蟲の剣とかだと……。

 竜魔石のような水晶の塊が嵌まっているメイス、魔王ガルソーンの兵仗。

 空戦魔導師キレイスが持っていた腕輪とアンクルに業物の源流・勇ノ太刀もある。


 俺が使うのもアリだと思うが、複数あるからな。


「外に行こうか、皆」

「うん」

「「はい」」


 外に出たところで、ユイに、


「ユイ、見せるのを忘れていた源流・勇ノ太刀っていう大太刀があるんだが、使うか?」

「あ、見るだけ見る」

「わたしが倒した凄腕の空戦魔導師が持っていた武器ですね」

「おう――」


 と、源流・勇ノ太刀を取り出してユイに手渡した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る