七百四十七話 銀河戦士の超戦士ビーサ・ファガル
床にはカーボンチューブ系の管が多い。
サーモグラフィーの精霊の目を解除。
そのヘルメが、
『閣下、ここには時空属性の精霊ちゃんがいっぱい』
『へぇ』
『あ、でも次々と消えていきます』
時空属性の精霊か……。
そう考えながら歩いた。
灰銀色の粘菌のような魔力の糸が凍り付いたまま付着する管と露出した電子基板を壊さないように気を付けつつ、異星人女性が眠る硝子容器に近付いた。
壁に立てかけてあるような縦型の硝子容器。
これが緊急次元避難試作型カプセルか。
この硝子容器にも、灰銀色の魔力の糸が凍った状態でこびり付いていた。
硝子容器の上下の端は金属で固定されている。
中で眠る異星人女性を包む液体の透明度は極めて高い。
目を瞑ったままの異星人女性の頭部の一部にも、灰銀色の魔力の糸のようなモノがこびり付いていた。
その異星人女性の鼻筋は高い。
肌の色合いは人族とソサリーに近いか。
こびり付いた灰銀色の魔力の糸があるが、艶も良さそうだ。
顎のEラインはしっかりとしている。
同時にソサリーのような硬質化してそうな皮膚の部位もあった。
カレウドスコープはないようだ。
網膜は……特殊っぽい。
首と鎖骨の辺りは
総じて美しい異星人女性だ。
すると、レベッカが、
「綺麗な女性! 肌の艶もいいし、今は眠っているだけなのよね?」
「はい、生きています」
「ん、けど心配。この部屋、凄く寒い」
「大丈夫です」
アクセルマギナの機械音声には力強さがあった。
その機械音声らしからぬ質の言葉を聞いたレベッカとエヴァは少し安心したようだ。
俺は異星人女性の頭部を見ながら、
「なぁ、この細長い三つの器官と眉間と眉毛に付着している無数の魔力の糸は、先ほど透けて見えた宇宙と関係する?」
「はい、特殊な広範囲バイコマスリレイ的なワープ航法を使った結果と推測します。周囲にある凍った糸のようなモノは、特殊時空属性の象徴でもあるバイコマイル胞子の結晶です」
「へぇ、そのバイコマイル胞子の結晶が貴重なら回収したほうがいいかな。エレニウムエネルギーに変換とか可能?」
「貴重です。が、もうじき自然消滅するはず。保管にも専用の容器が必須。エレニウムエネルギーへの変換も可能ですが、別の設備が必要です」
「保管も変換も戦闘型デバイスやフォド・ワン・ユニオンAFVでは無理ってことか」
「はい。その保管が可能な容器ですが……異星人女性の頭部の横にある二つの小さい容器。あれならば僅かに保管が可能と推測します」
「ほぉ」
アクセルマギナは異星人女性の頭部の右上を指す。そこには試験管的な入れ物が二つあった。
すると、子猫の
「ンン――」
喉音を鳴らす。
硝子容器に付いている灰銀色の糸に桃色の小鼻を当てて、その匂いを一生懸命嗅いでいた。
小鼻の孔が拡がり窄まる。
その鼻孔の動きは凄く可愛い。
すると、可愛い
同時に周囲の灰銀色の魔力の糸が解けて雪が熱で溶けるように消えた。
糸が消えゆく空間から糸の重なりあった宇宙空間が一瞬見えた。
バイコマイル胞子の結晶の消え方は美しい。
が、相棒は興奮。
背中の毛を逆立てていた。
宇宙空間に何かを見た?
エヴァの足下に避難していた。
「ん、ロロちゃん、大丈夫だから」
「ンン」
「ピピピ」
ガードナーマリオルスは小さい頭部を丸い胴体の表面で滑らせつつ丸い胴体の下側に移動させる。
ローアングルで硝子容器を見上げつつ、丸い胴体からチューブを出した。
ガードナーマリオルスは回転。
回転しながら伸ばしたチューブで、バイコマイル胞子の結晶が消えるのを阻止しようとしたが、空振り。
ガードナーマリオルスはバイコマイル胞子を掴むことを諦めたように、身を翻す。
緊急次元避難試作型カプセルに向けて魔線を照射した。
ガードナーマリオルスは硝子容器の表面を調べているようだ。
俺は、その異星人女性が眠る緊急次元避難試作型カプセルを見て、
「しかし、どうやって開けるんだ?」
「フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルが干渉しているようですが……」
「どうした?」
アクセルマギナは凄まじい速度で半透明なキーボードを入力中だ。
「はい、
「俺か」
そう言われても……。
光魔ルシヴァルの血を垂らすとか?
すると、フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルが俺の手元に飛来。
そのフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルを握ると――。
呼応したように異星人女性が目を覚ました。
「わぁ、起きた。こんにちは! あ、おはよう!」
「ん、大丈夫そう?」
「あ、言葉とか分かるの?」
「ん、ソロボたちの言葉は難しい……」
が、異星人女性は驚愕の表情を浮かべたまま口元から空気の泡が無数に溢れる。
体はまだ動かないようだ。
溺れているように見える――。
「ん、大変、シュウヤ、異星人女性を助けて!」
「硝子を壊して、外に出そう!」
「にゃおおお~」
相棒も焦ったように両前足を上下させて緊急次元避難試作型カプセルを掻いていた。
肺呼吸が可能なスペシャルな液体が彼女の肺を満たしている状態ではなかったのかよ――。
しかし、どうやって開けるんだ、これ――。
俺の遺伝子が作用して自動的に開くとかではないのか。
<血鎖の饗宴>で壊していいのか?
そう思考した瞬間――。
フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルから伸びた魔線が緊急次元避難試作型カプセルと衝突――。
「ブゥゥゥゥン」
鋼の柄巻に魔力を通したような音が響いた。
分厚そうな硝子の内部に光の筋が走る。
「え?」
「硝子容器の魔道具が作動したの?」
「異星人女性は落ち着いたようね」
硝子の内部に小さい電極があったのか。
緊急次元避難試作型カプセルが起動した?
「たぶんな。直に魔力を送るとしよう」
その光が走る硝子の表面に指を当てて、魔力を緊急次元避難試作型カプセルに送る――。
すると、光る指紋が硝子の内部に浸透。
液体にも俺の光る指紋が浸透した。
その光る指紋の周囲に渦が発生――。
渦は銀河を意味するような星々の輝きにも見えた。
すると、フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルから、偉大な銀河騎士マスターのアオロ・トルーマーさんの幻影が浮かぶ。
『ふぉふぉ……成長を感じるぞ。中々の
アオロ・トルーマーさんの思念が響いた。
『ありがとうございます』
『ふぉふぉ……
アオロ・トルーマーさんの幻影は消えた。
「ん、不思議、中にシュウヤの指の跡がいっぱい」
「うん、何か綺麗ね」
光る指紋は、液体の中で分裂しつつ幾重にも波紋を作りながら拡がった。
それらの光る波紋に共鳴したように異星人女性の口元に渦が発生。
すると瞬時に、銀河騎士専用簡易ブリーザーのようなアイテムが装着された。
液体の灰銀色が強まる。
無数の魔力の糸が発生すると、光る俺の指紋と融合して、俺の指紋が液体の中で散った。
続いて、緊急次元避難試作型カプセルの真上にルシヴァルの紋章樹を意味するような樹の幻影が無数に浮かんだ。
異星人女性はブリーザーで呼吸している?
同時に内部の透明な液体が異星人女性の体に入り込んだように消失した。
その異星人女性と目が合う。
虹彩は黄緑色と青緑色が多い。
虹彩の中に映るのは……。
俺たち、否――。
無数の
その方々が、
『『ナ・パーム・ド・フォド・カリーム!』』
『『ナ・パーム・ド・フォド・ガトランス!!』』
『『真に輝かしき銀河騎士なり!』』
異星人女性は虚ろな表情で震える片腕を伸ばした。
汝、須く銀河騎士として銀河の平和を保つ。
汝、須く師を仰ぎ、自らのサイキックの向上を図り心身のバランスを保て。
汝、須く銀河戦士の弟子を育てよ。
汝、須く銀河騎士マスター評議会の律法に反しない限りにおいて、全銀河のナパーム統合軍惑星同盟の交通を認可する。
汝、須く寛大たれ、嘘偽りを述べるなかれ、生まれた星を愛すべし、いついかなる時も正義と善の味方となりて、不正と悪に立ち向かうべし。
迫力ある音程の歌が頭の中に響いた。
片腕を伸ばしていた異星人女性は嬉しそうに微笑む。
異星人女性の頭の中でも、
続いて、硝子の内部を走る光の筋が強まる。
その内部で灰銀色の魔力が行き交うと、光の蒸気が噴出した。
硝子に細かな孔は見えなかったが――。
「ん、不思議」
「うん……」
光の蒸気は暖かい。
すると、緊急次元避難試作型カプセルの上げ蓋を模るように、硝子の面に光の筋ができた。
その光る上げ蓋がズレるように持ち上がる。
ガルウィングドアの機動で硝子の面が移動した。
異星人女性は瞬き。
頭部の長細い三つの器官が動いた。
異星人女性は俺を凝視。
不思議そうに俺を見る。
伸ばしていた片腕はまだ震えていた。
もう片方の手には先の映像で見ていたリーダーの男性が異星人女性に託した魔力を有したコインが握られている。
俺は自然とアイムフレンドリー。
その震えている異星人女性の手を握った。
温かい。
ぎこちない笑顔を浮かべてくれた。
「動けそうですか?」
言語は大丈夫だろうか。
異星人女性はブリーザーを煌めかせつつ、
「はい、大丈夫です。
俺が
彼女は足をそっと前に出して歩こうとした。
が、膝から崩れそうになった。
急ぎ、その異星人女性に肩を当てて支えた。
体から温もりを感じた。
よかった、生きていてくれて。
そのまま緊急次元避難試作型カプセルから異星人女性を外に出してあげた。
「あ、ありがとう」
「いいんですよ。それで、お名前は? あ、俺の名はシュウヤ、足下の黒猫はロロ、正式名はロロディーヌ。そして、黒髪の女性がエヴァで、金髪の女性がレベッカです」
「はい……わたしの名はビーサ・ファガル。
と、右手に握っていたコインを落とす……。
コインは回転しながら彼女の足にぶつかって停まった。
そのコインを見たビーサは涙を流していた。
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