七百四十八話 回収と連絡とビーサのラロル星系の情報

 ビーサは涙を流したまま、


「イザル、パース、ボシェ、ライミ……」


 と呟いた。

 おそらく先のコックピット内で死んだ仲間たちの名だな。

 足下のコインを拾ってあげるか。


 その前に、エヴァへと視線を送った。


「エヴァ、ビーサさんを頼む」

「ん、任せて」


 ビーサに肩を貸したエヴァ。

 俺はレベッカとアクセルマギナに目配せしてから、床のコインを拾おうと屈んだ。が、ビーサの腕が出た。


「あ、大丈夫です」


 ビーサはエヴァから離れてコインを素早く拾った。

 後頭部の長細い三つの器官が靡いていた。


 髪の毛を纏めた房にも見える三つの器官。


 ビーサは体に力が戻ったようだ。

 転移の副作用を心配したが、杞憂だったか。


 そのビーサは、コインを悲し気に見ている。

 

 あの先の映像の宇宙船で脱出した時のことか?

 どう声を掛ければいいのか。

 

 ビーサは、気を取り直すように頭部を左右に振った。


「体のほうは大丈夫そうですね」

「あ――」


 ビーサは床に片膝を突けた。

 そして、


選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスのシュウヤ様」


 と、忠誠を誓う騎士のような仕種を取った。


「頭を上げてください。そもそもどうして、俺が選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスとお分かりに?」

「起きた直後です。伝説に謳われたような見知らぬ銀河騎士ガトランスマスターたちの幻影が、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランス様の周囲に出現……その多面球体のクリスタルも強く輝いていた。更に、戒律の歌が脳内に響いて、わたしと同じ種族ファネルファガルの銀河騎士ガトランスの叙任式……が、はっきりと見えたのです……その方は、故郷の星系で活躍した伝説のファネルファガル。銀河騎士ガトランスマスターと言われていた……キジャ・ファガル様でした」


 あの時か。

 ビーサは感動しているような表情を浮かべていた。

 俺も銀河騎士ガトランスマスターたちの幻影は見えていたが……。


 ビーサが見ていた幻影は俺と異なるようだ。


「そして、その祖先の銀河騎士ガトランスマスターの一人、キジャ・ファガル様から……」


 心して聞け、我の子孫のファネルファガルよ。

 我の名はキジャ・ファガル。

 このような幻影の機会は二度とないと思え……。


 そこの男。

 生きた<超能力精神サイキックマインド>がないと学ぶことができないコモンセンス智識の一部の星想フォズニックの波紋力を用いて、お前を救った異種族の男だ。


 其奴は異種族の男ながら、お前を救うことで、改めて<銀河騎士の絆>を有した選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスなのだと、宇宙に、我らに証明したことになる。


 その選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスの男の持つ<血魔力>と精神力は異質極まりない。

 が……優れた知能力と呼ぶべき代物である。


 更に、


 深いライトのマインド。

 深いダークのマインド。

 深い愛と受容性が高い水のマインド。

 

 それらのマインドを同時に有した存在は宇宙広しと言えど……滅多にいないであろう。

 それほどに、たぐいまれな黄金比のマインドを有した異種族の男が、その黒髪の男ぞ……。


 フン、生意気だ。

 が、まさに、本物の選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスマスターとなる存在であろう。

 

 我らの幻影を生むことも可能な男なのだからな。

 我らファネルファガルとしては、異種族の男を認めるのは大変に癪ではある。

 

 が、その男を、我は、認めるしか在るまいて。


 そして、我の子孫よ。

 お前自身が認めようと認めまいと、他のファネルファガルが文句を言おうと、銀河戦士カリームの超戦士になる過程に於いて、如何なる流れであったのだろうと……銀河戦士カリームに対応したことは事実。我はお前を銀河戦士カリームの超戦士として認めようぞ。

 

 そのまま銀河戦士カリームの超戦士として……。

 誇りを持ちつつ選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスの傍でお仕えするのだぞ。


 最後に族長として、他のファネルファガルたちを頼む……。

 お前は我らが認めた子孫、いつの日か、ファネルファガル古代族長神殿にお前が戻る日を楽しみにしているぞ……そして、神殿の最下層に鎮座する我の像を、お前が持つラービアンソードで刺すのだ。


 さすれば、お前にファネルファガルの族長としてのマインドが射すであろう。

 

 黄金比のマインドと共に在らんことを――。

 

「そう思念で伝えてきたのです」

「だから一瞬で俺のことを」

「はい! ですから、シュウヤ様、先祖から伝わる宣誓を行いたいと思います。いいでしょうか」


 ビーサは立つと軍人風に胸に手を当てた。

 その立ち居振る舞いから凜々しさを感じた。


「いいですよ」

「はい、このビーサ・ファガル――種族ファネルファガルと祖先キジャ・ファガルの名にかけて、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスのシュウヤ様に忠誠を誓います!」


 すると、フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルが振動。

 気にせず、

 

「忠誠をありがとう。俺も受け入れよう――」


 鋼の柄巻に魔力を通した。

 ビーサは、再び、片膝で床を突く。

 まさに騎士の叙任式。


 そのビーサの肩にムラサメブレード・改の青緑色のブレードを近づける。


「――いかなる時も、銀河戦士カリームの超戦士ビーサに居場所を与え、名誉を汚すような奉仕を求めることもせず、自由と笑いの精神を大事にすることを、水神アクレシス様と宇宙の神々と皆にも誓おう――」

「はい!」


 直ぐに鋼の柄巻を消去。

 すると、振動していたフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルから魔線がビーサの胸元に照射されるや、瞬く間に、ビーサの胸元にルシヴァルの紋章樹のような樹のマークが浮かんだ。


 フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルは回転。

 魔線の照射と、ビーサの胸元で浮いていた光魔ルシヴァルのマークは消える。


 皆が拍手してくれた。

 俺はビーサの手を取り立ってもらった。

 

 皆に向けて、


「……ビーサさんの祖先に銀河騎士ガトランスマスターの一人がいたんだな」

「ん、壮大な宇宙世紀」

「歴史を感じるわね」

「ん、シュウヤが選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスのマスターなら、わたしたちも銀河戦士カリームの超戦士?」


 エヴァがトンファーを出しつつ語る。

 可愛いポージングに魅了されつつ、


「俺の<筆頭従者長選ばれし眷属>だ。当然そうなるだろう」

「ん」


 微笑むエヴァに頷いた。


「うん、宇宙の難しいことは分からないけど、シュウヤが宇宙に向かうなら、わたしも協力するからね。ベティさんとあまり離れたくはないから、長期間離れるのは無理かも知れないけど」

「ありがとう、レベッカ。しかし、宇宙か。突発的なことがない限り、まだまだ先だな。魔界セブドラと同じく、大きな目標の一つ」

「ん、サイデイルと同じく、今できることを優先!」

「ンンン、にゃ~」


 黒猫ロロの声は賛成ってより、興奮したようなニュアンスだ。


 振り返ると――。

 

 緊急次元避難試作型カプセルの手前の出っ張りに両前脚を乗せて、カプセルの内部の匂いを嗅いでいた。

 カプセルの中は、ほとんどが硝子だが、樹脂のクッションとヒートシンクを備えた電子基板的なモノもある。


 相棒もミスティの工房にあるような品物に興奮したか。

 バルミントと一緒に悪戯をしていたからな。


 二匹とも、よくミスティから、粗相をして怒られていたっけ……。

 

 と、ペルネーテの屋敷のことを思い出す。


「ビーサさん、この緊急次元避難試作型カプセルと、中にある二つの小さい容器をもらっていいですか?」

「はい、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランス様が必要とされるのならば」

「ありがとう。ビーサさん」

「ふふ、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスのシュウヤ様と銀河戦士カリームの超戦士の皆様。わたしの名は普通に、ビーサと呼んでください」

「了解、ビーサ。俺もシュウヤと呼んでくれ」


 銀河戦士カリームの超戦士の掟とかがあるのなら無理かも知れないが。


「分かりました、シュウヤ。しかし、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランス様として尊敬を続けます」


 よかった。


「ふふ、律儀なビーサちゃんね。改めてよろしく。わたしの名はレベッカ」

「はい、レベッカ。よろしくお願いします」


 笑顔のビーサは魅力的。

 活力が漲っている?


 頬に桃色が射しているし、笑窪があった。


「ん、わたしの名はエヴァ。よろしくビーサ」

「はい、エヴァも、よろしくお願いします」


 ビーサはエヴァにも笑顔を送っていた。

 後頭部の細長い三つの器官も蛇のように動いた。

 

 面白い。

 顔も造形も異なるが、デルハウトとか、種族ソサリーのペラダス司祭を見たらなんて言うだろう。


 そんなことを考えつつ、緊急次元避難試作型カプセルの上と下を見て、


「それじゃ、緊急次元避難試作型カプセルをもらうとして、上と下の金属と、このジョイントを切断するかな。あ、小型の容器を先に取るか」

「ん、硝子の中に魔線が走る未知の金属がある。ミスティも喜ぶと思う」

「おう。お土産が増えた」


 すると、ビーサが、


「硝子の素材は分かりませんが、高圧下ランタン水素が混じる超濃縮されたバイコマイル汎用液と量子スピン状態のサイキックエナジーの液体を合わせて用いた試作型の転移は一回こっきり。もう使えないと思いますが、回収を?」

「そうだ。それと、この小さい容器に名はあるのか?」

「アルガルベの容器です」

「アルガルベって硝子があるのか」

「硝子系と練魔鋼などの複数の素材が融合した特殊素材と聞いています」

「へぇ、一種の低膨張金属ってことかな。イリジウムとタングステンを利用したような……」


 ま、既存の金属で喩えても仕方ないか。

 アクセルマギナが緊急次元避難試作型カプセルの内部をスキャン。


「半導体ナノワイヤーに量子固体を内包した硝子の珪素と半金属類……魔鋼は錬魔鋼と霊魔鋼にタンタル……スーパーインバー32-5系の金属もあるようですが、未知の素材が多い」


 アクセルマギナがそう分析していた。

 

 まずはアルガルベの容器をもらうとする。


 緊急次元避難試作型カプセルの硝子の内壁に手を当てて――。

 硝子面に付いた小さい容器を取り外す――。


 感触は鋼と硝子が半々か。

 少し冷たい。

 硝子面に吸着していた面から小気味いい音が響いた――。


 その試験管的な容器の蓋を開けると――内側はアルミ?

 外からは硝子風で中身がアルミ系とは不思議な金属だな。


 その小さい容器の中に――。

 まだ緊急次元避難試作型カプセルの内部に凍り付いたままのバイコマイル胞子の結晶を入れていった。


 かなり入る――。

 

 この小さい容器――。

 アイテムボックスらしい。

 

「ンン、にゃ、にゃ~」

「ん、ロロちゃん、シュウヤの仕事を邪魔しちゃだめ、こっちにきて」

「ふふ、たまにはわたしの胸に飛び込んできて!」

「ピピピッ」


 ――ガードナーマリオルスの音が背後で響いた。

 ――アクセルマギナは無言のまま、機械の指が動く音が響いている。


「ンン」


 戯れてきた相棒に邪魔をされたが――。

 一つのアルガルベの容器にすべてのバイコマイル胞子の結晶を回収できた。

 そのアルガルベの容器をアイテムボックスに仕舞った。


 相棒は緊急次元避難試作型カプセルの出入り口の出っ張りに頬を擦り出す。


 さて、次は――。

 この緊急次元避難試作型カプセルをアイテムボックスに入れるとして……。


「相棒、匂いチェックと縄張り確保はいいから少し下がってくれ。皆もな」

「にゃお」


 黒猫ロロは離れてくれた。


「ん」


 エヴァの太股の上か?

 

 そんなエヴァと黒猫ロロの姿を脳裏に描きつつ――。

 血魔剣とムラサメブレード・改を両手に召喚。

 その血魔剣とムラサメブレード・改に魔力を通した。


 ブゥゥゥン――。

 と、音が響いた。


『妾の神剣を使ってもいいのだぞ』

『シークレットウェポンはここぞって時に使うもんだ』

『フハハ、分かっているな、器!』


 いつものノリだ。

 さすがはハイテンションガールの沙。

 

 その刹那の思念会話の間にも――。 


 血魔剣の剣身からプラズマ的な血の炎が迸る。

 同時に髑髏の柄の左右からも血の炎が迸っていた。


 まさに、赤い十字架って印象だろう。


「ラヴァン煌波流? 赤十字ブレード……」 


 ビーサがそう呟いた。

 そう言えば興奮したハートミットは前に……。


『――凄! 柄の両端に放射口を備えているの?』

『ムラサメブレード・改とは違うが似たようなもんだ』

『へぇ、真っ赤なブレードは銀河帝国のセーモス卿と似ていて怖い』


 そんなことを言っていた。

 血魔剣と似たブレードは銀河帝国の銀河騎士ガトランス銀河戦士カリームの超戦士たちも使うようだからな。


 ビーサと敵対した連中の中にそんな銀河帝国の強者たちがいるんだろう。

 帝国か不明だが、紫色のブレードを扱うバルスカルもいる。


「シュウヤの吸血王の証明ね。血魔剣って名前にしたようだけど」

「ん、柄の髑髏が少し怖い」

「鬼といい髑髏といい、やはりわたしたちは闇側でもあるってことかしら」

「にゃ~」

 

 皆の言葉を背中に感じつつ魔力を全身に纏う。

 まずは左手が握る血魔剣を活かすとしよう――。


 跳躍しつつ基本の<水車剣>を実行――。

 真横から振るった赤色のブレードで、緊急次元避難試作型カプセルの端の金属を切断――次はムラサメブレード・改を用いる。


 着地際に真横に青緑色のブレードを振るう。

 緊急次元避難試作型カプセルの下の金属から横に向かう火花が一瞬散った。

 カプセルに傷を作ることなく、無事に金属を切断――。


 その緊急次元避難試作型カプセルは外れた。

 倒れ掛かるが、素早く、緊急次元避難試作型カプセルを戦闘型デバイスのアイテムボックスに仕舞った。

 

 アイテムボックスのアイコンに変わった形の硝子の筒が映る。

 芸が細かい。


 んだが、このアイコンのイラストはだれが?

 アクセルマギナのAIが作ったんだろうか。


 そう思考しつつ振り向きながら――。 

 血魔剣とムラサメブレード・改の鋼の柄巻を掌で回した――。

 その手の内で回る血魔剣とムラサメブレード・改を腰ベルトに差す動作を行いつつ――。


 掌からパッと消去した。

 

「見事なサイキック剣術です」

「ありがとう」

「ん、シュウヤの剣法が渋い! 二剣使いの魔剣師としても通用する」

「うん。剣士にしか見えない」

「おう、二人に褒められるとテンションが上がる! 戦闘職業が、<霊槍印瞑師>と<獄星の枷使い>が融合して<霊槍獄剣師>に進化したからな。剣術も確実に伸びていると実感できる」


 俺が喜んだのを見たレベッカがニコッと微笑んだ。

 そのレベッカは、


「この部屋の金属も貴重なら、回収はしときたいところよね」 

「そうだが……この部屋を戦闘型デバイスに納めることはできないな。一部を切るだけにするか? あ、金属を欲しがるミスティに聞くか。血文字で連絡する」

「うん」


 皆の表情をみながら――。

 素早く<血魔力>を纏う指を操作――。

 スマホを弄るようにミスティに向けて血文字メッセージを実行――。


『ミスティ、さっきぶり。ガラスが重なる場所は調べてないが、烈戒の浮遊岩の調査はある程度終えた。琥珀の魔宝石の鉱床はかなりの量だと思う。他にも神々の残骸を回収し、色々と金属を入手した。で、肝心のシークレットルームの聖櫃アークっぽい反応は、なんと、俺の戦闘型デバイスと関わる者の存在だった』


 斯く斯く云々――。

 手早く血文字でミスティにビーサの経緯を説明。 


 その間に、


銀河戦士カリームの超戦士ビーサ・ファガル。わたしの名は汎用戦闘型アクセルマギナ。選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスであるマスター専属の人工知能です! 下の小型ロボットの名はガードナーマリオルス」

「ピピピッ」

「ふふ、ガードナーマリオルス。よろしく」

「ピピピッ」


 ガードナーマリオルスは片目のレンズで感情表現。

 そのままチューブを丸い胴体に仕舞う。


 ビーサは、アクセルマギナに視線を移して、 


選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランス様の専属の人工知能アクセルマギナ。よろしくお願いします」

「はい、こちらこそ。銀河戦士カリームの超戦士を歓迎します」


 アクセルマギナとガードナーマリオルスとビーサは宇宙的な会話を始めていった。


 俺はミスティとの血文字に集中――。


『凄すぎ。マスターの選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスに関わる者が、塔烈中立都市セナアプアの浮遊岩の中にいるとは考えもしなかった。魔人ソルフェナトスと戦ってトースン師匠の絡みから魔界セブドラ関係者と遭遇するのは分かるけどね……まさかの宇宙とか、完全に想像外。で、その異星人女性のビーサは本当に無事なのね? 次元を渡るような転移とか、体に負担がありそうだけど』

『大丈夫そうに見える。で、ミスティ、この部屋の金属は切断せずに、そのまま保存でいいんだな?』

『うん。回収は緊急次元避難試作型カプセルだけでいい。その次元転移に耐えた金属部屋。宇宙を旅した時空属性を帯びた金属ってことになる。どんな魔線を浴びたのか……気になるわ。だから構造が絶対に変化しているはず。ぐふふ……』


 と、暫く間が空く。

 皆の様子は『あ……今ごろ鼻血が?』とレベッカが可笑しな表情を作っていた。

 エヴァは『ん、しょうがない』と言ったような顔つきで微笑む。

 アクセルマギナとガードナーマリオルスは、何故か、敬礼中。

 

『ま、ここはペルネーテだから、いつその場所に行けるのかって話なんだけど』

『魔法学院云々もあるが、レイの銀船やマジマーンの船以外だと、それなりに時間が掛かるか。クナの転移陣次第かな』

『サイデイルの転移陣のほうは、ルシェル越しの血文字で聞いているけど、クナの分身体が利用していたって聞いているからねぇ……正直罠が怖いし、不安がある。だから別の手段を試そうと思うの』

『別? ハートミットに連絡して宇宙船に転移させてもらうとか? あ、ゼクスの機動か? TR3B、遠心力、電磁波を使った重力に逆らう力を利用した推進装置、小型核融合炉、室温超伝導体、それらのゼロポイント・フリーエネルギー装置の技術で光魔ルシヴァル宇宙軍の創設の流れか?』

『TR3B? ……ハートミットのトールハンマー号だっけ、連絡が取れたら挑戦したいところだけど。聞いた範囲だと宇宙からセナアプアの内部に転移は難しそうよ? それと、光魔ルシヴァル宇宙軍って話は賛成。それ以外は、何を言っているのか分からない』

『すまん。で、別の手段とは?』

『ふふ、マスターが獲得した<覚式ノ理>とディアが獲得した<覚式ノ従者>の繋がりよ』


 あぁ、そういうことか。


『魔道具のセンティアの手を利用した転移か』


 猿と雉を有した不思議な魔道具センティアの手。

 犬がいたら桃太郎。


『そう。その魔道具を介した転移の件で試したいことがあるの。ルシェル経由でクナとも話をしたけど、魔法学院の【幻瞑暗黒回廊】のことも含めて……今度、アス家のディアと話を付けるから、準備しといてほしいんだ』

『了解した。塔烈中立都市セナアプアにディアとミスティが転移可能となれば、色々と楽になる。んだが、こっちもこっちで、カットマギーの手足の移植&眷属化の件に魔力豪商オプティマスとの交渉もあるからなんとも言えない。ま、準備ができ次第、血文字を頼む』

『うん』


 ミスティとの血文字を終える。

 皆も他の眷属たちと血文字を送り合っていた。


 ビーサは皆が行う血文字のコミュニケーションに驚きつつも、アクセルマギナと話を続けていた。


「……はい、宇宙海賊フルカブルカでは、銀河帝国の承認コードを持つ存在と同じように銀河戦士カリームの超戦士に対応した者は貴重なのです」

「MOBEシリーズのアンドロイドは少ないのですか?」

「はい、ナノセキュリティー防御層を持つ対電子機構と侵入電子機構を備えたアンドロイド兵は高価。銀河帝国orナ・パーム統合軍惑星同盟の認証プロトコルを持つ知的種族のほうが色々と融通が利く。しかし、裏切り者は情報屋と同じくどちらの勢力にも狙われやすい。海賊を兼ねた賞金稼ぎも多いですからね」

「激戦が多いラロル星系には、ナ・パーム統合軍惑星同盟と銀河帝国の勢力の他にも宇宙海賊が多いのですね。第一世代の古代の異星人に会ったことはありますか?」


 ビーサが活動していた星系はラロル星系か。

 宇宙海賊フルカブルカって勢力の仲間たちと、ナ・パーム統合軍惑星同盟側に与して、銀河帝国に対して長くレジスタンス活動を続けていたようだ。


「古代の異星人……宇宙には昆虫を含めて様々な種族がいますから、知らず知らずのうちに古代の異星人とすれ違っているかもしれないです。第一世代が残したであろう古い遺跡なら知っています」

「理解しました。そのラロル星系とは、初めて知りましたが、敵、味方、中立を含めた銀河戦士カリームの超戦士が大量にいる以外と、衛星群に宇宙艦隊以外は、この惑星セラがある【辺境】の星系と環境があまり変わらない印象です」


 アクセルマギナがそう発言。

 ビーサは頷く。

 

 俺はそのビーサに向けて、


「高価と言ったが、ビーサが活動していたラロル星系には、アンドロイドは少ないのだろうか」

「ラロル星系にもアンドロイドは多いですよ。極めて高性能な戦闘型アンドロイドの〝タイガーマッセル〟と〝グレイマシン〟の宇宙海賊兄弟は、銀河帝国の勢力の一部を駆逐するほどの勢力を持ちます。他にも〝ハーリルシュナイダー〟に〝ソーグクローン〟の集団もかなり危険な相手です。しかし、アクセルマギナさんのような未知の魔機械を有したアンドロイドの数は少なかった。ガードナーマリオルスのような小型ロボットは無数にいました」

「へぇ。そのラロル星系からナ・パーム統合軍惑星同盟の勢力が強い星系は遠いのかな」

「遠いですが、普通にワープ航行で向かうことも可能です。しかし、ナパーム統合軍惑星同盟と銀河帝国の勢力が強い星系に向かうには、やはり〝ラーズマスリレイ〟の超亜空間ワープを使ったほうが速い」

「ラロル星系も【辺境】と呼ばれる範囲内なのか? 【深宇宙の領域】と呼ぶこともあるとか聞いた」

「ラロル星系も、辺境は辺境ですが、さすがに【ヴォイドの闇】から先の【深宇宙の領域】ではありません。アクセルマギナから聞きましたが……遠すぎてあまり現実味がない」


 ビーサは不安そうな表情を浮かべた。

 想像ができないか。

 

 すると、アクセルマギナが、


「ナ・パーム統合軍惑星同盟のアーカイブでは、この惑星セラがあるナ・パーム星系の端を【辺境】や【深宇宙の領域】と呼ぶらしいです」

「はい、わたしは……遠い場所に転移を……」

「緊急次元避難試作型カプセルが優秀だったのでしょう。無事に惑星セラに転移したのですから」

「はい、巨大岩石惑星に……月が二つ。破壊された月があるとか……」

「そうです……他にも、この惑星セラには黒き環ザララープもあります」


 アクセルマギナは俺をチラッと見た。

 頷く。


黒き環ザララープ……」

「はい、古代から存在する黒き環ザララープ。他の次元に通じる特殊なゲート。そのゲートがどうして惑星セラに存在するのか? その問いは、神々でさえ知らない。その黒き環ザララープが、無数に存在する特異な星が、この惑星セラと言えましょう。そして、マスターは、黒き環ザララープとは違いますが……パレデスの鏡に転移が可能な二十四面体トラペゾヘドロンと、ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡と、フォド・ワン・プリズムバッチを持ちます」

「おう、持っている。フォド・ワン・プリズムバッチはまだ使わないが。ETA端末ロッドを有したフォド・ワン・XーETAイータオービタルファイターに転移する可能性があるからな」

「そのような特殊な宇宙船があるのですね。そして、個人でワープが可能な簡易転移の魔機械も……」

「はい」

「それは凄い」

「その二十四面体トラペゾヘドロンを用いて転移が可能となるパレデスの鏡は、全部で二十四個存在します。未だに何処にあるのか不明なパレデスの鏡は、この次元宇宙の他の惑星に存在するかも知れない。または、ナ・パーム統合軍惑星同盟の勢力の宇宙ステーションの内部に存在するかもです。或いは、銀河帝国の勢力の宇宙要塞にあるかも知れない。そして、ブラックホールの近くに、パレデスの鏡が漂流していた場合……そこにマスターが二十四面体トラペゾヘドロンを用いて転移したならば……」


 そりゃヤヴァい。

 光魔ルシヴァルらしく、永遠という時間、ループ的な時間を体感するってのもありかも知れない。

 あ、ブラックホールに向けて<闇穿・魔壊槍>とかぶち込んだらどうなるかな。

 と、危険な思考は止めておこう。


 ビーサは神妙な顔になって、


「最新鋭の深宇宙探査船以外での、ブラックホールに強く影響を受ける範囲の航行は恐怖でしかない。追い詰められた状況で、特殊なメリトニック粒子を使った引力やバイコマイル胞子の時空重力場を利用したスイングバイなら十分狙う価値はあると思いますが……しかし、特殊な宇宙船やバイコマイル胞子の技術を用いずにワープが可能とは……一部の魔商人やナ・パーム統合軍惑星同盟に銀河帝国の高度機関が研究しているだろう〝プロジェクト・ルッキング・グラス〟の電脳操縦を用いた違法ワープドライブの航法を超えていますね……」


 ハートミットも電脳のことは言っていたな。

 映像では操縦席に座ったビーサは頭部にカレウドスコープ系の金属素子を付けていた。


 ブレイン・マシン・インターフェースを用いた航法があるようだな。

 すると、アクセルマギナが、


「あ、マスターが持つ二十四面体トラペゾヘドロンを用いた転移の話は、まだ仮です。それに、この惑星セラは大きい。今まで見つかったパレデスの鏡も、この惑星セラ内で見つかっています。ですから、残りのパレデスの鏡も、この惑星セラの何処かにある可能性が高い」

「予測のお話ではありますが、面白いです」

「はい、未知の場所の探索は、リスクがありますが面白い。マスター的にヤヴァい部分も多々あるので、マスターにお勧めはしていませんが……」


 アクセルマギナは俺を見る。

 軍人然とした態度だから、少し緊張した。

 

 ビーサは、アクセルマギナがヤヴァいと発したアクセントの部分で笑みを浮かべていた。

 なんとなく内輪のネタを理解したようだ。

 

 ビーサは、アクセルマギナに、


「それにしても、質の高い人工皮膚にエレニウム系の鋼の義体ですね。胸元のエレニウムエネルギー源の魔機械も見たことがない」


 そう発言。

 俺は頷いて、


「名はマスドレッドコア。この戦闘型デバイスに魔石を、いや、エレニウムストーンを納めて入手したんだ」


 右腕の戦闘型デバイスを見てもあまり表情に変化がないビーサ。

 アクセルマギナは、


「はい。マスターたちが集めた魔石という名のエレニウムストーンを、その戦闘型デバイスに求められる量で少しずつ納めてくれたお陰で、戦闘型デバイスが発展し、この胸元のマスドレッドコア、小型オービタル、ムラサメブレード、わたし人工知能アクセルマギナ、フォド・ワン・ユニオンAFV、ガードナーマリオルス、フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタル、ドラゴ・リリック、などが、その戦闘型デバイスから徐々に解放されていったのです」


 機械音声のアクセルマギナの語り方には、どこか風格があった。

 

 ドラゴ・リリックとフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルは、アクセルマギナが再起動してから、エレニウムストーンを納めずに自動的に得たアイテムだが……。


 頷いたビーサは片目に魔力が集中。


 片目に集結した魔力は魔眼的ではない。

 カメラのレンズ的な動き。

 虹彩に網膜チップが内蔵されている?


 そんな片目を持つビーサは、


「人工知能アクセルマギナとガードナーマリオルスも……戦闘型デバイスから出したのですね」

「ピピピッ」

「はい。更に、このマスドレッドコアにマスターが光魔ルシヴァルの血を用いたからこそ、このような義体を獲得できました」


 と、アクセルマギナは機械の腕と足を見せる。

 ビーサはまだ不思議そうだ。


「光魔ルシヴァルの血が作用した義体ということでしょうか」


 質問してきた。

 血が作用した人工知能アクセルマギナだが、分かり難いか。


「そうなる。ビーサの祖先の銀河騎士ガトランスが告げていたように……俺はライトとダークがせめぎ合う<光闇ノ奔流>を内包した<光魔の王笏>を持つ」


 頷くビーサ。

 胸元に手を当てていた。

 祖先の英雄である銀河騎士ガトランスマスターのことを思い出しているんだろう。


「はい、黄金比のバランスですね」

「おう。光と闇のバランスが選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスでは重要らしい。その黄金比バランスを持つ種族の血がアクセルマギナの心臓部のマスドレッドコアに作用して、アクセルマギナは義体を得ることができたんだ」


 そう語って、アクセルマギナの胸元に腕を伸ばす。

 アクセルマギナは胸元に手を当て、


「ですから、今、汎用戦闘型として外で活動できるのは、エレニウムストーンを集めてくれたマスターと、その眷属の方々の努力の賜物なのです。感謝!」


 そのアクセルマギナの発言を聞いて感心したような表情を浮かべるビーサ。

 アクセルマギナとガードナーマリオルスは敬礼を行う。


 レベッカとエヴァも頷いて、


「ママニたち血獣隊のがんばりもあるわね」

「ん、皆、白色の貴婦人戦でがんばった。わたしはクナと一緒だったけど」


 そう喋るが、ビーサは不思議そうな顔色だ。

 ビーサは俺を見て、


「シュウヤの右腕の装備が、戦闘型デバイスだと理解はしましたが……」


 と発言。

 俺は戦闘型デバイスの立体的な簡易地図ディメンションスキャンを出した。


「この右腕にある腕時計風の魔機械が戦闘型デバイス。で、今起動した簡易地図がディメンションスキャン。今は消えているが、ここに青白い点が点滅していたんだ。その青白い点の反応はビーサだったということだろう」

「わたしのような存在を示した……戦闘型デバイス……」

「アイテムボックスでもある」


 幾つかアイコンのアイテムを浮かばせた。

 ビーサは表情を変えた。

 

「驚きです。地図とアイテムボックス。そして、エレニウムストーンを納めてアイテムを入手できる機能もあるとは」

「はい、マスターは遺産高神経レガシーハイナーブαのプロトタイプにも対応したのです」

遺産神経レガシーナーブはわたしも対応しました。しかし、その遺産高神経レガシーハイナーブとは初耳です。リスクのありそうなナノマシンに対応したシュウヤは、やはり選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランス!」

「おう――」


 右腕を振るう。

 <鎖の因子>のマークが龍に見えてきた。


「その、れがしーなーぶ、ってのは、よく分からないけど、シュウヤの戦闘型デバイスは、すっごく便利よねぇ」

「ん」

「鑑定してないのにアイテムの名前も分かるしさ、自由に出し入れが可能ってのも……」

「ん、武芸者なら喉から手が出るほど欲しがるアイテム」

「うん。武器召喚術よりも速いと思う」

「ん、大きい魔槍と魔剣も余裕で入る透魔大竜ゲンジーダの胃袋も優秀だと思うけど、シュウヤの戦闘型デバイスは、自由度が高いし、他のアイテムボックスの性能を上回る。神話ミソロジー級も超えていると思う」


 神話ミソロジー級より上だと銀河級?

 いや、神々のほうが上だろうし、ま、優秀ってことでいいか。

 当然、ビーサはなんの話か分からない。


 透魔大竜ゲンジーダの胃袋と言われても怪物にしか聞こえないだろう。


 ビーサは、俺の右腕を凝視。


「フォド・ワン・ユニオンAFVという装甲車もマスターは出せます」

「おう、ここでは出さないぞ」


 ビーサは装甲車と聞いて興奮したのか、後頭部の三つの長細い器官から魔力が迸った。

 その三つの長細い器官を少し縮めて肩の上に乗せる。三つの髪の毛の束を纏める動き。

 先っぽが細まっていて可愛い。伸縮性があるようだな。

 その先っぽから魔力を放出中だ。

 

 あの三つの器官は、ただの後頭部ではない。

 色々と便利機能を有した器官か。そして、お洒落感が増した。

 

 その三つの髪の毛の束にも見える器官を有したビーサはアクセルマギナや皆を見る。


 浮いたままのフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルと――俺の右腕を見比べるように観察してから、


「フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルと戦闘型デバイスの開発は……選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスのシュウヤと、銀河戦士カリームの超戦士の皆さんが、行ったのでしょうか」


 この戦闘型デバイスの開発は……。


「いや、戦闘型デバイスの開発は、俺たちではない。できないし、分からないことが多いぐらいなんだ。ミスティならいつか可能となるかも知れないが……」

「そうなのですね。ミスティさんという方は優秀なエンジニアのようです」


 たしかに。が、さすがにフーク・カレウド博士のようには無理かな。


「開発の経緯は、知っている範囲だと大昔だ。開発前、銀河騎士マスターの一人だったアオロ・トルーマーさんがアウトバウンドプロジェクトを提唱して、傘下の研究機関に初期型戦闘デバイスとして開発させたことが始まりのようだ」

「アウトバウンドプロジェクト……」

「おう。で、初期型戦闘型デバイスの開発チームの主任がフーク・カレウド・アイランド・アクセルマギナ博士。そのフーク・カレウド博士が、この戦闘型デバイスのOSに、色々と仕込んだらしい」

「人工知能アクセルマギナの名は、その博士の名でもあるのですね。そして、当時のナ・パーム統合軍惑星同盟の遠大な作戦の一つが、初期型戦闘型デバイスの適合者探しというわけですか」

「そうだ。要は、銀河帝国との戦争で、ナ・パーム統合軍惑星同盟が劣勢なために、外宇宙へと優秀な銀河騎士ガトランス銀河戦士カリームの超戦士を求めたってことだろう」


 ビーサは頷く。

 三つの器官の先っぽから魔力が迸った。

 鼻息ってわけじゃないが、中々面白い。

 そのビーサが、


「理解しました」


 そう発言。

 すると、アクセルマギナが、


「因みに、わたしが開発された経緯はあまり覚えていません。映像としての記録は僅かに残っていますが、わたしは、永い間、ただのデータとして戦闘型デバイス内にアーカイブされていました」


 数回頷いたビーサ。

 そのビーサに向けて、俺は、


「この話を知らないとなると、銀河騎士ガトランスマスターのアオロ・トルーマーさんは知らないのか?」


 <銀河騎士の絆>を意識しながら聞いていた。


「はい。失礼ながら知りません。ナ・パーム統合軍惑星同盟は勿論知っていますが……わたしの星系ではフォド・ワン・ガトランスマスター評議会の名は形骸化していました。ナパーム統合軍惑星同盟の勢力が強い【テンラムルゼルフ嵐星雲】では、形骸化はしていないと、噂で聞いたことがありますが……それも不明。銀河の大半は銀河帝国の勢力下でしたので」


 ビーサは表情を暗くした。

 悪いが、少し聞くか。


「そっか。その敵対していた銀河帝国の社会とはどんな印象なんだろう。知っている範囲で教えてくれ」


 俺の言葉を聞いたビーサ、視線を強めて、


「……あくまでも聞いた範囲です。銀河帝国も星々を支配する権力者によって統治機構は様々。皇帝が棲まう大惑星デンザラスは比較的自由と聞きましたが、内実は極度の監視社会らしいです。帝国の勢力圏内に近付くと分かりますが、ネットワーク機能は妨害波で使えなくなることが多い。その妨害波を巡るナノセキュリティーの争いも年々争いが激しくなっています。ハッキングの技術者も高価……そして、見つかったら警邏部隊に追跡されて攻撃を受けます。帝国軍隊内でも承認コードが必須ですから」

「レーダー網技術も戦争か」

「はい。そんな圧政に抵抗しているのが、ナ・パーム統合軍惑星同盟の仲間たちとわたしたちの海賊たち……」


 コインを握りしめていると分かる。

 ビーサの種族は優秀そうで、感情の切り替えは早そうにも見えるが……。

 転移してきた直後で、辛い記憶が色濃いだろうし、あまり、その関係の話を続けることはよくないか。


「にゃ~」


 足下で黒猫ロロが鳴く。

 ちゃんとビーサの話を聞いていたようだ。


「ロロ、ビーサは宇宙の彼方で活躍していたんだ」

「にゃ?」


 と鳴きながら、両耳をピクピクと動かして反応してくれた。

 そのまま胴体を左右に動かしつつ後退する。


 変な後退の仕方だ。

 まさか、お尻にうんちがこびりついている?


 お尻を金属の床へと一生懸命擦りつけつつ後退する動きだ。

 面白い。


『ロロ様、お尻ちゃんを……』

 

 ヘルメが反応したところで黒猫ロロさんはお尻を擦る動作を停めた。

 そのまま華麗に身を翻す。

 俺の脛に頭部を衝突させた。


「ンン――」


 微かな喉音を発しては、アーゼンのブーツの甲の上に乗るとビーサを見上げていた。


 尻尾を俺の片足に絡ませてくる。

 ビーサは黒猫ロロの行動を見て微笑むと


「可愛いです! 他の銀河戦士カリームたちが愛玩したと云われている、伝説の宇宙猫シェントリーヌ種族ですか?」


 一瞬、耳を疑った。


「宇宙猫シェントリーヌ?」

「はい、【深宇宙の領域】に存在すると言われている伝説の惑星シェントリーヌ。そこには宇宙猫たちが多数棲息しているようです。その中には宇宙に出ることが可能で、その宇宙を漂流している宇宙猫シェントリーヌもいると聞きました。その宇宙猫シェントリーヌの種族は、主と契約し、主と絆を得られれば、それぞれのシェントリーヌの種族の方法で、主を永遠に守ると言われています。わたしの星系では、宇宙船にその宇宙猫シェントリーヌのマークをつける宇宙海賊も多かったです」


 宇宙猫シェントリーヌか。

 面白すぎる。


「お伽噺みたいで面白い。ロロディーヌも一度、俺を乗せて宇宙に出たことがある。だが、種族は神獣。そして、黒豹、黒馬、ドラゴンなどの巨大な姿に変身が可能なんだ」


 その相棒は、俺のアーゼンのブーツから離れて、ビーサに近付いた。


「にゃお~」


 黒猫ロロは自慢気に挨拶しつつ両前足を上げて、後脚だけで立つ。


 ミーアキャット風の立ち姿。

 小さい腹を晒した姿は可愛い。

 

 その小さい腹に、ポァッとした感のある赫いた魔法の鎧が生まれた。

 俺が獲得した<攻燕赫穿>の変化バージョンで、戦巫女イシュランさんか戦神ラマドシュラー様の効果もあると予測した鎧で、腹巻きにも見えるバージョンだ。


 その魔法の腹巻きから、オレンジ色の燕の魔力が幾つも宙に出ては儚く消えていた。


「神獣? 凄い宇宙猫ちゃんなのですね!」

「ンン、にゃ」

「ふふ」

 

 ビーサは相棒の挨拶を見て一気に破顔。

 猫の可愛さは万国共通。

 皆も微笑む。


 そんな中のエヴァと視線が合った。

 紫色の瞳は優し気だ。


「ん」


 微かに声を出して微笑みを返してくれた。

 ……癒やされる。


「さて、ビーサ、外に出ようか。ここは塔烈中立都市セナアプアって都市の上界。魔塔の建物が多い。で、そんな塔烈中立都市セナアプアの上界には浮遊岩がたくさんあるんだが、その一つの烈戒の浮遊岩の中に、今俺たちはいる。そして、狭い通路の先には<筆頭従者長選ばれし眷属>のヴィーネとキサラが待っている」

「都市にある浮いた岩……重力が狂っている場所なのですね。そして、銀河戦士カリームの超戦士と同じようなシュウヤの眷属の方々が、ヴィーネとキサラ」

「その通り」

「ん、理解が早い。ビーサは頭がいい」

「ふふ、ありがとうエヴァ」

「ンン、にゃ~」


 相棒が先に金属の部屋から外に出た。

 フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルを戦闘型デバイスに格納。

 ビーサは不思議そうに戦闘型デバイスを見る。

 

 小さいアイコン状態の多面球体のクリスタルの他にも、アイテムのアイコンが浮いているから興味を持つのも分かる。

 

 皆に向けて、


「行こう」

「「はい」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る