七百四十六話 『緊急次元避難試作型カプセル』
相棒を連れて水のカーテンに近付いた。
水のカーテンの奥にはシークレットルームの分厚い金属製の扉がある。
「水の加工機は黒い溝の中にあるようですね。細い孔から出ているだろう水の圧力は高そうです。そして、ハンドルを備えた奥のシークレットルームに使われている金属は珪素鋼と未知の金属のようです。やはり、古い遮蔽技術も使われていた」
アクセルマギナがそう報告してくれた。
精霊の目によるサーモグラフィーはさっきと変わらない。
シークレットルームの扉の中心部のハンドルは少し赤い。
床と天井の黒い溝も赤い。
他は暗いまま。
熱反応のある床と天井の黒い溝の内部には、水素を貯蔵する燃料電池やタービン的な魔機械でもあるんだろうか。
立体的な簡易地図の青白い点滅が強まってチラつくから、簡易地図は消した。
「にゃご」
「相棒、水に触れるなよ」
「ンンン」
喉を鳴らして返事をする
その相棒を注視しつつ、
「アクセルマギナ、先ほど水域と言っていたが、この水のカーテンが水域だよな」
「はい」
黒い溝から出ている高圧の水のカーテンの流れは速い。
しかも、その水の中に銀と金の粒が混じっている?
水の流れが早くて粒が停まって見えた。
すると、ヘルメが、
『小さい水の精霊ちゃんは、やはり元気がないです』
『圧力を受けた水だから元気がないんだろうか』
『そうかも知れません』
さて、水のカーテンと金属の扉か。
近付いても水の流れに変化はない。
このまま強引にムラサメブレード・改で水のカーテンを斬るか?
血魔剣でもいいな。
セル・ヴァイパーの鋏剣で<鬼喰い>も訓練しときたい。
俺の戦闘職業は<霊槍印瞑師>と<獄星の枷使い>が融合した<霊槍獄剣師>に進化したからな。
<超翼剣・間燕>などの剣のスキルを用いれば……。
この水のカーテンと金属の扉を強引に斬れるはず。
血魔剣の<血獄魔道・獄空蝉>の弾丸で金属の扉をぶち抜けるか試すのもアリか。
または右肩を前に出してタックルを実行するか?
が、ハルホンクは黙っている。
『ングゥィィ』の反応もない。
その
コミカルだ。
が、無言のままだから否定の感情か?
俺は『ングゥィィ』を連呼する腹話術師を目指すべきなのか?
と、ボケても仕方ない。
ハルホンクは水のカーテンを食べるつもりはないようだ。
ま、今は切羽詰まった状況ではない。
槍が生えた左右の壁が向かってくる差し迫る状況だったら、実行していたと思うが。
強引な手法は最後だ。
俺の思考を読んでいるのか、
普通の肩に戻った。
気にせず、床と天井を見る。
黒い溝の周囲には水を出していない孔が複数あった。
あの孔からアクティブなジェットカッター攻撃とかを繰り出してくる?
すると、俺と同じ懸念を抱いたのか、視界に浮かぶヘルメが黒い溝を指した。
『孔が沢山あります』
『あぁ、高圧の水を出す溝と同じくウォータージェットカッターを出してきそうだな。空気を取り込んでいるようだが……』
『はい、僅かに魔力と空気を吸い込んでいます』
『攻撃ではないのなら、孔から取り込んだ空気を多孔質樹脂を備えた魔道具に吸着させて、その物質を分解して、水を生成しているのかもな。他にも、湿分を活用できる仕組みもあるかもだ。そうして長い間水を再利用し続けていたから、この石室とシークレットルームの水の精霊たちは元気を失っていったのかも知れない?』
視界に浮かぶ小さいヘルメは振り向いて頭部を傾げる。
『難しいことは分かりませんが、閣下の推測は当たっていると思います』
『おう。で、水のカーテンの中に銀と金の金属の粒がかなり混じっているが、それらの金属の粒には、精霊を感じないのか?』
『はい、とくには感じません』
『金属の粒を利用したウォーターカッターの罠なら、触れたら即座に切断される』
『はい、罠だとしても随分と分かりやすい罠ですね』
『あぁ、金属の粒はこうして外から見えているし、水のカーテンに触れたら危険ってのは分かりやすい』
すると、
「シュウヤ〜、薄い水の板は罠なの~?」
「罠ってより、一種のシークレットルームを守る防御機能の一つか。もう少し様子を見る」
背後のレベッカにそう答えつつ、
「了解~」
『だとしたら、水の罠には、この扉やシークレットルームに、近付くな、触るな、開けるな、などの警告の意味もある?』
『そうかもしれないですね』
ヘルメの思念に頷いてから……。
水のカーテンの奥を凝視。
銀行の金庫的な扉を擁したシークレットルームの表面と石室の間には、隙間がない。
このシークレットルームをここに造り上げた存在は高度な文明を持つ存在ということになる。
ふと、ハートミットとの会話を思い出した。
『この遺跡、下が深そうね。ミホザの第一世代もどうしてこんな縦穴を……』
『ハートミットも分からないのか』
『うん』
『塔雷岩場とも形が違う。世界各地にある遺跡は、どこも形が違うのか?』
『そう、かなり違う。推測では年代の違うミホザ種族が、何かの目的で作ったとか。ミホザ以外の第一世代の種族が、わざと残した遺跡なのかもしれないという推測もある』
だから、この烈戒の浮遊岩の内部、このシークレットルームは、ミホザ以外の第一世代の種族が残した遺跡かも知れない?
しかし、違う異星人のことを考えたら……。
途方もない。
そんな、ナ・パーム統合軍惑星同盟か、銀河帝国か、不明だが、高度な文明を感じさせる存在が作ったであろう金属の扉を見ていった。
正面には金属製のハンドルがある。
ハンドルの見た目は船の舵。
または銀行の金庫の巨大ダイヤルにも見える。
――少し横に移動。
斜め下から金属の扉を見上げた。
ハンドルの下に、そのハンドルを支えるジョイントと繋がるピラミッドの形をした魔機械の塊があった。
再び正面に移動し、真正面から水のカーテン越しにハンドルを見た。
シークレットルームの扉の形は、銀行の金庫か潜水艦のハッチにも似ていた。
ハンドルの中心には太陽の形の印がある。
すると、ヘルメが、
『中心にあるマークは太陽の形でしょうか』
『あぁ、陰陽太極図、水鴉の瞳を思い出す』
『水鴉の祝福の儀式ですね! そこで閣下は特別な闘法の<水月血闘法>と<水月血闘法・鴉読>を獲得なされた』
『おう、太陽神ルメルカンド様の祝福でもあった』
『はい。そして、閣下の戦闘型デバイスの飾りにも似ています』
『確かに』
ヘルメに念話で『うん』と頷く。
ハンドルの飾りは……。
俺の戦闘型デバイスの風防を囲う形と瓜二つ。
『では、このしーくれっとるーむの内部の物は……』
『たぶん、そうだろう』
そうヘルメと念話をしつつ――。
右腕に嵌まる戦闘型デバイスを見た。
戦闘型デバイスの真上に浮かんでいるアクセルマギナは素早く敬礼を寄越す。
その軍人然とした態度のアクセルマギナに向けて、
「アクセルマギナ、やはり、俺の戦闘型デバイスとフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルは中の物と関係があるようだな」
「はい」
アクセルマギナが頷いて答えた。
そしてアクセルマギナがそう答えた直後――。
そのアクセルマギナの斜め上に浮いていたフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルの多面球体が点滅を強めた。
同時に金属の扉も光を発した。
閃光のようなビーム攻撃ではない。
水のカーテン越しの光だが目映い。
「ンン、にゃ」
足下の
すると、光る扉から飛び出ている金属製のハンドルが時計回りに回り始めた。
「シュウヤ、シークレットルームが光っているし、扉の一部が動いているの?」
「あぁ、反応があった。周囲を警戒だ」
「うん」
背後のレベッカの声に頷いた。
金属製のハンドルは回り続けている。
その動きから船の舵を連想した。
『面舵いっぱい――』
そんなカリブの海賊たちの声が頭の中に谺する。
相棒は狩りの体勢に移行――。
「ンン――」
と喉音を響かせていた。
「
「にゃ」
ハンドルは時計回りに回り続けた。
すると、その回っていたハンドルが突然前へと伸びた。
前方に出たハンドルは水のカーテンを突き抜けた。
――え?
即座に血魔力<血道第三・開門>。
――<
突然伸びた大きいハンドル。
燃えたような水飛沫が舞う――。
そこから燃える金属の粒が飛来した。
すると、カレウドスコープの右目の視界に無数の照準マークが浮かぶや、それらの照準マークが一瞬ぶれると、ゼロコンマ数秒も経たずに、すべての燃える金属の粒をその照準マークが捉えていた。
一瞬でターゲッティングが可能とは恐れ入る。
フォド・ワン・カリーム・ビームライフルは使っていないが――。
<脳魔脊髄革命>。
<
人工網膜的なカレウドスコープ。
これらのスキルとニューロンの回路と特殊虹彩技術が優秀だからこその一種の
『――閣下!』
『俺が対処する』
『はい』
視界に浮かぶ照準マークを活かす――。
フォド・ワン・カリーム・ビームガンを右手に召喚。
――ベレッタに近いビームガン。
――ラファエルの姿を想起しつつ『CAR』スタイルを実行――。
中心軸を再ロックするCAR Systemと似た構えだ。
その構えのまま引き金を引く――。
フォド・ワン・カリーム・ビームガンの銃口からビームが迸った。
燃える金属の粒とビームが衝突すると、燃える金属の粒は一瞬でシュバッと音を響かせるように蒸発してビームも消えた。
そのままフォド・ワン・カリーム・ビームガンを連射した。
銃口から迸るビームがすべての燃える金属を捉えて一気に蒸発させた。
フォド・ワン・カリーム・ビームガンの銃口から煙が上がる。
――よっしゃ。
さすがに<脳脊魔速>ではないから速度的にギリギリで怖かったが――。
そのフォド・ワン・カリーム・ビームガンの銃口を冷やすように掌の中で回転させつつ――。
フォド・ワン・カリーム・ビームガンを仕舞う。
すると、体勢を低くした
「――にゃご」
と鳴いて前腕の根元付近から触手を出している。
「相棒、大丈夫だ」
相棒が触手を引っ込めると、フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルが放出していた魔線の色合いを水色に変化させる反応を示す。
ハンドルは前進。
もう燃える金属は飛んでこないが……。
そのハンドルを擁した金属の円柱は、金属の粒が混じる高圧の水のカーテンを受け続けても平気なのか。
ハンドルを支える魔機械の円柱は、水のカーテンの水と金属の粒を吸収していた。
『ヘルメ、大丈夫だとは思うが<精霊珠想>を展開――』
瞬時に左目から液体ヘルメが迸る。
左目の視界はサーモグラフィーを維持したままの状態だから、左目の視界がより神秘的になった。
その神秘の世界に埋没したい気持ちは抑える。
「罠が消えた!」
レベッカの声が背後から響いた。
水のカーテンはたしかに消えていた。
ハンドルと魔機械の塊が吸収したようだな。
「ンン――」
喉音を響かせた相棒と一緒に後退した。
代わりに左目の液体ヘルメが俺たちの盾として前に出てくれた。
ゆらりゆらりと揺れた<精霊珠想>。
神秘的な液体だ。
<仙丹法・鯰想>ではないから形はない。
そして、今の俺とヘルメを端から見たら……。
ホフマンが扱っていた<血道第三・開門>の<ヴァルプルギスの夜>と似ているかも知れないな。
その液体ヘルメの<精霊珠想>の一部がハンドルと円柱を取り込むかと思われた寸前――。
「シュウヤ、飄々としてないで、反撃して! 無理なら逃げて! 爪先半回転を使って!」
「ん、ロロちゃんもこっち!」
二人の声と同時に円柱は停まった。
<精霊珠想>を解除し、液体状のヘルメを左目に格納した。
『閣下、いいのですか?』
『あぁ』
「ん、シュウヤに対する攻撃ではないの?」
「あ、その浮かんでいるクリスタルと関係する?」
「たぶんな」
ハンドルと、その大きいハンドルを支える円柱は、ヘルメの迎撃に対応して停まったのではなく……。
フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルの前で停まったと判断。
すると、ハンドルが回転。
十字の形に変化した。
その十字の中心が窪む。
もしかして、神具台的な仕掛けか?
「金属の塊が変化? 大きな舵と扉から出た鋼の動きは触手的で怖かったけど」
「ん、背後の水の罠も消えたから大丈夫そう」
「うん、十字に変わった舵のような金属と光っているシークレットルームの目的は、シュウヤと、そのクリスタルってこと?」
「たぶんな。直ぐに俺たちに反応しなかったのは、このフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルの薄い魔線とも関係があるかもだ。または、フォド・ワン・プリズムバッチと関係した戦闘機のコックピットとか? ま、要するに、
とは言ったものの、フォド・ワン・プリズムバッチでワープできる戦闘機のコックピットが、このシークレットルームってのは、かなりぶっ飛んだ予想で現実味は薄い。
「分かった。わたしたちも近くで見たい! 大丈夫かな」
「まだ安心はできないが、それでもいいなら来い」
「ん、行こう」
「うん」
足下にいた相棒はレベッカとエヴァを出迎えるように走った。
その直後――。
フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルが閃光を放つ。
<銀河騎士の絆>が自然と連動した。
そのままフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルは灰銀色を強めると目の前の円柱の窪みから出ていた魔線と繋がった。
更に、そのフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルから真上に灰銀色の魔力が迸るや、その灰銀色の魔力は霧のように散りつつ淡い色彩のアオロ・トルーマーさんとゼン・ゼアゼロさんの幻影を創り出す。
その二人の銀河騎士は俺に対して笑顔を見せると、鋼の柄巻に魔力を通した。
放射口から青緑色のブレードを出す。
その青緑色のブレードを足下でクロスさせる。
と、その足下から出た灰銀色の火花が――。
※「須く弱き者を尊ぶ、かの者たちの守護者の証し」※
※「あまねく銀河の礎となることを祈る」※
※「いついかなる時も正義と善の味方となりて、不正と悪に立ち向かうべし」※
と、宙空に文字を作る。
直ぐに、
「はい、アオロ・トルーマーさんとゼン・ゼアゼロさん!」
と、発言。
「マスター! わたしとガードナーマリオルスを外に!」
「おう!」
戦闘型デバイスからも灰銀色の魔力粒子が迸った。
その灰銀色の魔力粒子は汎用戦闘型アクセルマギナとガードナーマリオルスを形成する。
誕生したばかりのアクセルマギナは二人の銀河騎士に頭を垂れた。
二人の銀河騎士は、俺とアクセルマギナを見て微笑む。
そして、クロスさせた青緑色のブレードを、シークレットルームと前に出たハンドルだった十字の金属に向けた。
アクセルマギナは頷いた。
パワードスーツが似合う。
そのアクセルマギナは、二人の銀河騎士とフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルに向けて両手を翳した。
片方の腕は鋼鉄だ。
すると、アクセルマギナの軍人の手袋の甲に紋様が浮かんだ。
紋様は前と同じだ。
血の樹と杖と血の水滴に陰陽太極図的なマーク。
<ルシヴァルの紋章樹>。
<大真祖の宗系譜者>。
<光闇の奔流>。
などの意味を内包した<光魔の王笏>を意味するんだろう。
二人の銀河騎士は満足そうに頷いてから消えた。
「――シュウヤ、今の幻影が銀河騎士さんたちね! そして、アクセルマギナちゃんの両手から出ているのは、わたしたちのマーク!」
「ん、ガードナーマリオルスも!」
「ピピピッ!」
「にゃおお」
「そのようだ」
アクセルマギナも頷いた。
双眸には五芒星の魔法陣が浮かび、乱数表と幾重にも重なった黄金律の弧も走っていた。
右の瞳には……。
極めて小さいが1:1.6180339887の長い数字が羅列されている。
すると、ガードナーマリオルスが「ピピピッ」と音を出した。
丸い胴体を活かすように横回転しつつ、その胴体から二つのチューブを出した。
一つのチューブは――。
フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルと繋がる。
もう一つのチューブは――。
ハンドルだった十字の形の中心の窪みに挿し込んでいた。
すると、金属の扉の光が強まる。
ハンドルだった十字の金属がカレウドスコープの時のように卍に変化。
仏教の吉祥を表す紋の、その卍の金属の真上に半透明な画面が浮かぶ。
「ん、戦車の操縦席にも半透明の動く絵があった!」
「うん、字は読めないけど、シュウヤの戦闘型デバイスから浮く文字にも似ている」
興奮している二人。
半透明な画面に映る文字群は判別不能。
俺の戦闘型デバイスよりも古いシステムっぽい。
「この画面は、≪フォド・ワン・ガトランス・システム≫でもあるわけか?」
アクセルマギナは、
「少し違うようです。わたしとガードナーマリオルスが、シークレットルームの異文明のシステムを解読分析中……古いナノ防御らしいモノは、既にガードナーマリオルスが突破しました」
と、軽快に機械音声で情報を語る。
人工知能だが、知性と可愛らしさを兼ね備えた声だった。
そのアクセルマギナの両手が、無数の魔機械の指となって半透明なキーボードを忙しなく打ち込んでいる。
「ピピピッ」
ガードナーマリオルスも反応。
チューブと繋がるフォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルが光る。
光はホログラフィックの幻影を真上に展開した。
「ピピッ」
ホログラフィックの映像は先ほどの銀河騎士二人の幻影とは違う。
かなり不鮮明だ。
白黒で数字の羅列が多い。
同時にガードナーマリオルスの丸みを帯びた頭部から片目風のカメラが伸びた。
そのカメラからもホログラフィックの幻影映像が照射される。
フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルが照射していたホログラフィックの幻影映像と、ガードナーマリオルスのカメラレンズから照射されている幻影映像が宙空で重なって、二つの映像は一つとなる。
ホログラフィックの映像は鮮明になった。
そこには青緑色のブレードを扱う剣士が映る。
剣士は異星人。
一つの頭部だが、後頭部は三つの長細い器官。
後頭部が三つに枝分かれした長細い器官だ。
その長細い器官が髪の毛のように靡いている。
特徴的な頭部を持つ女性異星人さん。
長身で細身の人型種族だ。
そして、頭部の色合いと衣装は異なるが、前に
敵対者は人族の傭兵か、宇宙海賊か?
青緑色のブレードを持つ。
異星人女性と人族の傭兵はムラサメブレードと似たブレードで数合打ち合った。
衝突したブレード同士から火花が散る。
こちらまで音が聞こえてくるような迫力のある火花だ。
すると、異星人女性は徐々に体を加速させた。
振るった青緑色のブレードが縦にブレると、傭兵の扱う青緑色のブレードをすり抜けて傭兵の腹に吸い込まれた。
傭兵の腹を斬り、横の壁をも斬る。
異星人女性は、壁に嵌まっているような青緑色のブレードを引き抜くように、鋼の柄巻を左胸の近くに戻すと放射口を上向かせた。
『ブゥゥゥン』という音は聞こえない。
が、そんな音が聞こえたように青緑色のブレードの角度も変わる。
異星人女性の狙いは、腹を斬られても生きている傭兵の顎か。
その鋼の柄巻を握る両腕を斜め左上へと伸ばす――。
青緑色のブレードの切っ先が傭兵の顎と頭部を貫いて、帽子をも焼き切った。
異星人女性は強い傭兵を倒した。
そこに赤いビームが異星人女性に迫る。
異星人女性は視線を強めつつ青緑色のブレードを左右に振るった。
飛来した赤いビームを、その青緑色のブレードの刃に当てて跳ね返した。
更に後頭部の長細い三つの器官から魔力の波動を放出。
体が加速した。
そのままバックステップしつつ身を翻した。
渋い戦闘服を着た異星人女性は華麗だ。
そして、ほどよい大きさの胸元が揺れる。
くびれた腰に細い足もいい。
異星人女性は長細い三つの器官を靡かせつつ廊下を走った。
加速の勢いを乗せて、前方へと跳躍。
背後から飛来してきた赤いビームを避けていた。
背後の赤いビームの飛来を感じていた?
再び跳躍した異星人女性。
壁を蹴って三角跳び――。
宙空で身を捻って赤いビームを避けつつ片膝で廊下を突くように着地を敢行。
上手く転がって赤いビームを連続的に避けてから、青緑色のブレードを振るって赤いビームを弾きつつ立ち上がるや、異星人女性は長細い三つの器官から煌びやかな魔力を噴出させた。
同じ姿の異星人女性の淡い残像を周囲に幾つも作る。
と、本体の異星人女性は廊下を走った。
時折、頭部の細長い三つの器官と体から魔力を放出させつつ体を加速させている。
背中のポンチョ系の外套がふわりと風を孕んで靡くと、背中と脇腹に繋がった魔機械のガンベルトらしきモノが一瞬見えた。
異星人女性は赤いビームを避けに避けた。
が、赤いビームは収まらない。
異星人女性は複数の人族の兵士から追われている状況は暫く続いた。
あ、背後から――。
あぁぁ、異星人女性は腕を撃ち抜かれた。
悲鳴を上げるような表情を浮かべて転がった。
異星人女性は美しいし、動きもいいから助けたい。
が、これはホログラフィックの幻影映像……。
「ピピピッ」
「……年代は不明ですが、かなり過去の戦闘記録のようです」
アクセルマギナが報告。
異星人女性は腰ベルトから手榴弾的なアイテムを取る。
その手榴弾的なアイテムを握ると、手榴弾的なアイテムは爆発せず、ガスが噴き出た。
目眩ましか。
すると、ガスの効果か不明だが腕が治療された。
細胞を活性化させる効果のあるミスト?
異星人女性の腕は元通り。
片腕を治療した異星人女性は鋼の柄巻を腰に差しては、狭い廊下を走る。
廊下の奥の自動ドアが開いた。
異星人女性は喜ぶように開いた部屋に走り込んだ。
そこは巨大空間――。
無数の小型の戦闘機が並ぶ。
――が、いきなりの熱風が異星人女性を出迎えた。
異星人女性の目の前が真っ赤に。
異星人女性は炎に巻き込まれるかと思ったが、炎には巻き込まれずに吹き飛んだ。
異星人女性は空間の端の壁に衝突。
気を失ったように見えた。
が、頭部をふらつかせながらも立ち上がった異星人女性は広い空間を見渡す。
タフな異星人女性だ。
彼女がいる広い空間は小型の戦闘機の発着場を兼ねたドックのようだ。
破壊された小型の戦闘機が多いが、まだ破壊されていない小型の戦闘機もある。
そのドック内では、異星人女性と同種族の兵士たちが、機械の兵士とボウキャスターを持つ人族の兵士たちと戦っていた。
人族の兵士は『ドラゴ・リリック』で見たことのある銀河帝国の兵士たちではない。
さきほど異星人女性が戦っていたのと同じ傭兵風の戦闘服を着た兵士たちだ。
左側には小型の戦闘機の出入り口がある。
フォースフィールド的な膜越しに宇宙空間が見えていた。
そのフォースフィールド的な膜の一部は崩壊している。
ここは宇宙空母か。
すると、異星人女性は味方に声をかける。
が、その味方は青緑色のブレードを操る強そうな傭兵に胸元を貫かれて倒された。
他の味方から、異星人女性は注意されたか、『逃げろ』と告げられている。
異星人女性は泣きそうな表情を浮かべつつ味方たちを見た。
メカニック系の味方たちは腕を中型の戦闘機へと伸ばす。
『あの戦闘機に乗って逃げて!』
というメカニック系の味方が放った言葉が聞こえたような気がした。
頷いた異星人女性。
飛来する赤いビームを掻い潜った異星人女性は中型の戦闘機に乗り込んだ。
仲間の異星人女性たちが中にいた。
整備士だろうか。
他にもいる。
次々に異星人女性に声を掛けていた。
異星人女性は味方に促されるままコックピットに向かう。
コックピットには異星人女性の仲間がいた。
皆、笑顔だ。
『よく戻った!』と声をかけているようにも見えた。
リーダー風の人族が真剣な面で何かを告げる。
異星人女性は頷いた。
異星人女性は、腰ベルトから筒を、いや、細いペンのような魔道具を出した。
その魔道具から自然と青白い点が構成する設計図が浮かぶ。
あの青白い点……。
他の仲間たちは一斉にはしゃいだ。
大柄の人族の女性。
モガと似た異星人。
センシバルと似た異星人。
皆、リーダー風の男に注意を受けて、素早く席についた。
異星人女性はパイロット席に着席。
彼女の席だけ魔機械が多い。
操縦桿を握った異星人女性。
その頭部に、カレウドスコープ系の金属素子が複数ついた。
一種のブレイン・マシン・インターフェースか。
三つの器官それぞれに合う金属素子が付いている。
操縦桿を握っているが、脳波とも中型の戦闘機は連動しているようだ。
その特殊な中型の戦闘機を操作している異星人女性。
すると、リーダー風の男の注意を受けたのか、異星人女性は操縦桿にあるボタンを押した。
武装のビームとバルカン砲を撃つ。
中型の戦闘機の前方にいた敵の傭兵たちを次々に撃ち抜いて倒していった。
敵の傭兵が乗り込んだ小型の戦闘機にはミサイルが打ちこまれた。
小型の戦闘機は爆発炎上。
そのまま中型の戦闘機は前進。
発着場から無事に宇宙空間に脱出した。
――凄い異星人女性だ。
しかし、コックピットは揺れる。
センサーには赤い文字が浮かぶ。
右翼と尾翼を失ったと警告が表示されていた。
普通なら爆発して木っ端微塵だと思うが、耐えているところを見ると、中型の戦闘機は強度がある優秀な機体だということか。
だが、そのセンサーを悔しそうに片手で叩いた異星人女性。
同時に異星人女性が座る操縦席だけを囲うフォースフィールドのような薄い防御壁が展開。
異星人女性は、
『どうして?』
といった表情を、リーダー風の男と味方たちに向けた。
リーダー風の男は笑顔を浮かべてから片手の指を腰元に当てる。
リーダー風の男の表情と仕草は『そのアイテムを頼んだぞ』という意味だろう。
異星人女性は腰に仕舞っている細いペンのような魔道具を見てから頷いた。
そして、リーダー風の男に視線を向け直すと、
リーダー風の男は、懐から魔力を有したコインを投げる。
が、フォースフィールドに触れると、コインはそのフォースフィールドの前で落ちた。
異星人女性は素早く<
<
コインを握る異星人女性。
その様子を見ていたリーダー風の男は満足そうに頷いてから、異星人女性に、何かを告げた。
そして、額に人差し指と中指を揃えて軽い敬礼の挨拶を行う。
『お前は生きろ、じゃあな』
と告げるように口を動かした。
他の味方たちも、異星人女性を元気づかせると、異星人女性の視界は揺らぐ。
揺らぎは――爆風だった。コックピットは炎に飲まれる。
フォースフィールドの防御膜が炎からコインを握る異星人女性を守った。
しかし、異星人女性以外のあらゆる物が、一瞬で蒸発するように燃えて吹き飛んだ。
リーダー風の男、大柄の人族の女性、モガと似た異星人、センシバルと似た異星人の味方たちは、塵になりながら宇宙空間に放り出されていった。
フォースフィールド越しにその光景を見るしかなかった異星人女性。
その涙の視界はズレた。
操縦席ごと下に落ちたようだ。
そこは、硝子容器の中。
硝子にはセンサーの値と様々な異世界の文字が浮かぶ。
硝子越しに見えている外の景色は何かの金属の部屋だ。
異星人女性は、硝子容器の中で暴れようとするが、体が動かないようだ。
一瞬で、視界は液体の中となった。
硝子容器の湾曲した内側の表面に表示された異世界の文字。
その中に読めた文字があった。
『緊急次元避難試作型カプセル』
その瞬間、金属の部屋の内部に灰銀色の無数の糸が拡がった。
生きた粘菌染みた動きだ――。
刹那、金属の部屋と外部の宇宙空間が透けた。
ニューロンネットワーク的なモノがチラついた。
銀河のネットワークか。
宇宙の大規模構造的なモノが拡がった。
灰銀色の糸的なモノが、無数に張り巡らされている世界?
硝子容器がないようだが、糸が重なり合ったDNAの螺旋が無数にあるような不可解な世界、いや、視界となる。
神々しさを感じた。宇宙の意識、だれかの記憶を俺たちが覗いて体感しているように、どこかの神々の記憶も混じっている? すると、普通の金属の部屋の内部が映る。
液体が詰まったカプセルの内側からの異星人女性の主観視点に戻った。
そして、カプセルの硝子の外側に無数の灰銀色の糸のような粒子が巻き付くと――映像は終了した。
「……」
「ん……異星人女性は助かったの?」
「あ、助かったのなら……」
「ん、シークレットルームの中にいる?」
「あぁ、たぶんな」
「……シュウヤ、わたしたちの星以外にもいっぱい星があるのね。そして、争いも……」
「そうだな。俺もその違う星の一つで生まれ育った。宇宙は広い」
「ん……」
暫し間が空いた。
レベッカが、
「でも、さっきのは記憶の映像ってことなのかな、本物にしか見えないけど」
「ん……シュウヤが『ドラゴ・リリック』で見せてくれた映像よりも繊細で綺麗だった。音はないけど迫力があった」
「あぁ、本物がほとんどだろう。多少はAIが補完しているかも知れないが、ディープフェイクも進化しているだろうからな」
しかし、画質は8Kを超えていた?
詳細は分からないが、現実その物って印象だ。
すると、
「ピピピッ」
ガードナーマリオルスが音を鳴らす。
チューブを丸い胴体に引っ込めた。
すると、正面の扉の前にある卍が急回転。
刹那、シークレットルームの内部から、ガチャッと重低音が響いた。
同時に半透明な画面に文字が浮かぶ。
※種族ファネルファガル※
※超戦※ビーサ・ファ※ル用※
※緊急※元避※試作※カプセル※解錠※
※亜空間※信断絶※5※4※64732※8148※
その半透明な文字は消える。
更にハンドルと金属の扉が溶けた。
扉が開いた。
ドッという重低音と風が起きた。
「わ! 開いた!」
「ん」
「はい、解錠に成功です」
「よくやった! アクセルマギナとガードナーマリオルス!」
「ふふ、ありがとうございます」
「ピピピッ」
「ンン、にゃお~」
相棒はガードナーマリオルスに飛び掛かる。
丸い頭部を舐めていた。
褒めているようだ。
「中に入ってみよう。先ほどの異星人女性がいるかも知れない」
「はい」
「――ピピピッ」
「うん!」
「ん、無事だといいけど」
「にゃお~」
皆でシークレットルームに入った。
中には液体が詰まった硝子の筒がある。
すると、興奮したアクセルマギナが、
「中身のメリトニック系粒子とバイコマイル胞子とサイキックエナジーは、まだ大量に満ちている状態です。彼女はまだ生きています!」
硝子容器の中では、異星人女性が液体に包まれた状態で眠っている。
先ほどの映像の鋼の柄巻を扱っていた異星人女性だ。
硝子の筒の外側にある露出した電子基板にはガードナーマリオルスと似たチューブがある。
そのチューブはシークレットルーム内の至る所に繋がっていた。
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