七百二十七話 <霊槍獄剣師>

 魔杖を握る金色の髪の女性。

 細身用の魔導鎧が似合う。

 が、さっきの魔銃を扱う者とは違う魔剣師タイプか。


「――次はもっと強い蒼炎弾!」


 レベッカは強気に発言。

 確かに<血魔力>を含む蒼炎弾だったが威力はなかった――。

 金色の髪の女性は、魔法の盾で蒼炎弾を再び防ぐと身を翻す。


 先の壁を駆け登った。


 細い背筋のラインに沿う魔導鎧を見せるように跳び上がるや華麗に飛翔する。

 その金色の髪を靡かせた女性の背中目掛けて――<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を連射――。


 外れたが構わず<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を連射し続ける。金色の髪の女性は闇杭を放つ俺を嘲笑うように素早く宙を行き交うや魔力を体に纏う。


 細身に合う魔導鎧が輝きを放つ。


 その輝いた魔導鎧の脇と背中の通気口的な溝から勢い良く魔力が迸った。

 それは沸騎士たちの蒸気的な魔力のような勢いだ。

 金色の髪の女性は、その新たな魔力の推進力で加速して、<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を避け続けていった。


 すると、金色の髪の女性の魔導鎧の背中の一部が変形。


 変形した部位から菱形の魔法陣が発生。

 ――あの菱形を見るとアイテムボックスの表記を想起するが、まさかな?


 魔導鎧の脇に不可解な魔力溜まりもできた。

 脇には仕掛けがありそうだ。


 金色の髪の女性は旋回しつつ俺を睨むと、宙空で反転――。

 俺ではなく、レベッカに直進した。


「盾もあるし素早い相手だから自信はないけど、次の蒼炎弾は本気だから!」


 レベッカは細い両腕を前に出す。

 手でグーパーを繰り返した瞬間、レベッカの手の前に二つの蒼炎の槍が生まれた。


 穂先から迸る蒼炎の勢いは凄まじい。


 レベッカは可愛い仕種で、その一対の蒼炎の槍を<投擲>――。

 可愛い仕種とは裏腹に<投擲>された蒼炎の槍は勢いが凄い。


 その迫る蒼炎の槍を見た金髪の女性は、「ちょっと魔力が増えたぐらいでは――また弾いてあげる!」と、魔法の盾を掲げた。

 レベッカの蒼炎の槍は、その魔法の盾ごと金髪の女性の片腕を見事に貫いた。


 金髪の女性は「ぐあっ――」と微かな痛みの声を発してから横転。


 宙空で横転したまま魔導鎧の脇腹から金属腕を生やす――。

 その金属腕で床を突いた反動で跳び上がる。


 宙空で丸薬のような物を口に含んでいた。

 そのまま飛翔を続けて遺物の裏に避難――。


「――あの回復薬は強力そう!」


 そう叫ぶレベッカは金髪の女性を追撃しようと前に出た。

 が、そのレベッカに見知らぬ黒装束の野郎たちが迫る。


「ん、レベッカ、右から白皇鋼ホワイトタングーンの刃がいく――」

「了解、蒼炎もまぶしておくから」


 細かな蒼炎が、エヴァの白色の金属の刃に重なりながら黒装束の者たちに向かう。

 レベッカの蒼炎はごま塩がかかった天ぷらの如く白色の金属の刃を彩りつつ黒装束の者たちに降りかかった。


 ――マルアはこの場にいない。

 ヴィーネと離れたマルアは、と探していると、左斜め前方の遺物の残骸が転がった場所で血長耳の兵士たちと戦う黒髪の敵戦力が気になった。


 黒髪連中はテルコ・アマテラスと似ているかも知れない。

 日本人っぽい印象。まさかな?


「シュウヤ様、あの左斜め前方の敵集団はわたしが――」

「おう」


 キサラに日本人のことを言おうと思ったが、混戦だ、仕方ない。

 ――キサラは加速しながら両手に匕首を出していた。

 接近戦を行うつもりか。

 相棒は空で待機中。


 マルアはペントハウスの向こう側か。

 イモリザたちが戦うガーデンの左側に回ったようだ。


 右斜め前方のヴィーネを確認。

 ほぼタイマン状態だ。

 二人の強さが周囲を寄せ付けない。


 ヴィーネのガドリセスの刃を大太刀で受けつつ蹴りを放つ空戦魔導師。格闘戦も熟す。

 ヴィーネは膝受けで蹴りを捌く。

 と、ガドリセスの柄頭を空戦魔導師の腕に当てて怯ませてから、仕込み魔杖で胴抜きを繰り出す。

 が、空戦魔導師はその魔杖の仕込み刃の胴抜きを鞘で受け流しつつ横回転。


 空戦魔導師はヴィーネの背後を取ろうと回る。

 二剣から一剣に戻したヴィーネもまた横回転――。

 ガドリセスで薙ぎ払いを実行――。

 剣身を舐めるような面のまま空戦魔導師は素早く退いた。


 その退いた瞬間を狙っていたヴィーネ。

 俄に翡翠の蛇弓バジュラを構えていた。

 連続的に光線の矢を放った。


 空戦魔導師は大太刀を振るい――。


 その光線の矢を一刀両断。

 続けての光線の矢も一太刀の逆袈裟斬りで真っ二つ。


 いちいちカッコいい敵だ。

 あの大太刀を扱う空戦魔導師はかなり強い。


 そのヴィーネから離れた大太刀野郎目掛けて<鎖>を放つが、鞘で弾かれた。

 弾かれた<鎖>を操作して空戦魔導師の頭部を狙うが、衝撃波で<鎖>は押し返される。

 その直後、ヴィーネの光線の矢が空戦魔導師の腕を掠めた。


 掠めただけか、反応速度も速い。

 ヴィーネは「ご主人様、この敵はわたしにお任せください――」

 そう発言しつつ前に出た。

 ――<鎖>を消す。


 ヴィーネの強さを信頼しよう。


 そのまま周囲を見回す。

 ペントハウスの硝子窓は割れている物が多い。


 室内は大丈夫なようだ。

 評議員たちを血長耳の兵士たちが守っている。

 跳弾は中にもう跳んで行かないと思うが、流れ弾対策か、丸い魔道具と四角い魔道具が浮いていた。


 パクスの部屋を守っていたようなアイテムか。


 黒髪の錬金術師マコトの周囲には硝子の髑髏が浮いていた。


 あのアイテムってレプリカでも貴重品のはず。

 そして、メイドさんたちはマコトの守りを優先しているのか戦いに参加していなかった。


 ガルファさんは大柄の【幽魔の門】の局長さんと話をしている。

 すると、美人さんと目が合う。


 美人さんの名は確か……。

 聖魔中央銀行のリン・ジェファーソンさん。

 その数秒後、


「――ん、レベッカ、右と左に魔剣師、背後に射手がいる!」

「うん――」


 再び右側から敵が迫ったようだ。

 エヴァとレベッカは声を合わせて頷き合う。

 黒装束の魔剣師たちを確認。

 そいつらはエヴァが作った緑皇鋼エメラルファイバーの壁と壁の隙間を利用しつつソリアードの矢を避けていた。


「エヴァ、わたしが前に出るから」

「ん」


 レベッカは血色と蒼炎が混ざる炎を体に纏うと前進。

 <筆頭従者長選ばれし眷属>らしく電光石火の勢いで駆けた。


 その走り方には可憐さもあるが、背後の射手の射線を考えた間合いの詰め方だ。

 射手は仲間で前衛の魔剣師の動きもあって矢を放てない。


 腰のレムランの竜杖は使わないようだ。

 レベッカは、黒装束の魔剣師の薙ぎ払いを屈んで避けると同時に――。

 蒼炎を纏う拳を繰り出す。

 拳の甲に生えているようなジャハールの剣にも蒼炎が覆っていた。

 古代インド系のジャマダハルと似た武器。

 パイルバンカー系の武器。


 その伝説レジェンド級のジャハールが左の魔剣師の腹を派手に穿った。


 レベッカは細身でツッコミ屋だが、やる時はやる。

 というか、<筆頭従者長選ばれし眷属>だから当然か。


 右の魔剣師と背後の射手は俺が対処――。

 俄に<生活魔法>で水を大量に撒き散らして、魔剣師の視界を潰す。


 同時に下降した勢いを乗せた魔槍杖バルドークを振るい落とした。

 右往左往した魔剣師は反応できず――。


 その頭部を嵐雲の穂先が粉砕しつつ体を縦に裂いた。そのまま血飛沫を素早く吸い取りつつ<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を繰り出す。

 その<光条の鎖槍シャインチェーンランス>は射手の胴体を貫き背後の壁と衝突――。


 二人を倒した俺はバックステップ。

 レベッカの横に並んだ。

 そのレベッカが顔を傾けて笑顔を見せてくる。


「――シュウヤ、ありがとう」

「――いつものことだ」


 と、レベッカを守るように立つ。

 流れ弾的な魔弾を魔槍杖バルドークの竜魔石で粉砕した。


「――ふふ、もう! 背中を見せて、カッコいいんだから」


 俺は笑いながら、


「惚れ直した?」

「はーい、調子に乗らない――」


 レベッカは微笑む。

 と、蒼い双眸は上向く。


「シュウヤの頭上に浮いている四本腕に怪しい六つの眼を持つ怪物さんは……だれ?」


 レベッカは元狂眼タルナタムのことを聞いてくる。

 当然の問いだな。

 人族風に縮小したが、まだ二メートルぐらいはある。

 その元狂眼タルナタムは周囲を見回していた。


 六つの複眼は忙しく動く。

 そして、四つの腕で、何度も驚くようなポーズを繰り出していた。

 面白い、鼻息も荒い。

 片腕の掌から八支剣の出し入れを繰り返す。


 何か相棒っぽくて可愛い印象を抱いた。

 思わず笑ってから、レベッカの背中に自身の背中を合わせる。


「――カットマギーから奪い取って使役した。名前は狂眼タルナタム。名はまだ決めていないが、このままでいいか」

「戦いの最中とか、イモリザのように?」

「スキルは使っていないが、そうなる。ゴドローン・シャックルズを用いた」

「へぇ」


 と、互いに周囲を見回す。

 俺から見て右、レベッカから見て左に敵が集結した。


 黒装束の集団と後方に空魔法士隊。

 血長耳の兵士たちと戦いを始めたが、その数名が俺たちに迫る。


「ん、シュウヤとレベッカ、右から敵!」

「主! 味方ト敵ノ、区別ガ、ワカラナイ!」

「タルナタムはしばらく見ておけ。この蒼炎を扱う美人さんの名はレベッカだ。背後の黒髪の女性はエヴァ」

「承知!」


 タルナタムはポーズを取る。

 レベッカは驚いたらしい。俺の背中を、自身の背中で小突いてきた。


 そして、優しく俺の背中に背中を合わせてくる。


「シュウヤ、使役のことは、またあとで。あの前の敵は、またわたしが倒すから」

「了解」

「ん、タルちゃん! あまり動かないで、見えない!」

「ウルサイ! 命令ハ、キサラト、主ダケ!」


 タルナタムはそう叫びつつ、混乱したように回転していた。


「ん、ワカッタ」


 びびったエヴァの声が少しオカシイ。


 レベッカはその声に反応して「ふふ」と笑ってから直ぐに前進。

 すると、蒼炎の細かな塊を四方に集めてから扇状に放射――。

 ドッとした鈍い音を響かせる。

 蒼炎の細かな塊の群れが黒装束集団に向けて散った。

 散弾銃の弾を受けたように黒装束集団の一部の上半身が消し飛ぶ。


 左にあったエヴァの緑皇鋼エメラルファイバーの壁も右端が散った。

 凄い威力の蒼炎ショットガン。


 すると、左斜め前方のガーデンの段差を跳び越えてきた者が――。


「槍使い――」


 片腕を失ってはいなかった、金髪の女性。

 狙いは当然俺か――。

 牽制の《氷矢フリーズアロー》を連射。


 金髪の女性は腕の傷が回復している。

 魔導鎧の腕部分は失って素肌が露出していたが、傷はない。

 瞬時に回復薬を飲んだ効果かな。


 神聖回復薬エリクサーとか?


 その金髪の女性は魔法の盾を眼前に出すと、《氷矢フリーズアロー》を防ぐ――。


 金髪の女性は、そのまま片膝を床に突けつつ左に横回転。

 魔杖から出た金色の魔刃を振るった。


 側にいた血長耳の兵士を、


「邪魔――」


 と、言い捨ててスパッと斬るや片足で強く床を蹴って前進。

 その床の一部は削れて孔が発生。


 金髪の女性は足の裏にエヴァのような金属の杭刃でも仕込んであるのか?


「――レベッカとエヴァ。あの金髪は俺がやる。ヴィーネたちのフォローを頼む」

「ん!」

「分かった!」


 金髪の女性は速度を緩める。

 魔導鎧の脇が動いた。

 そこの脇から出たのは、魔機械の第三の腕。

 その第三の腕の拳が――。


 いや、この第三の腕の攻撃はフェイク――。


 金髪の女性は左手の掌に石をパッと出す。

 その一弾指、細かな石が飛んできた。


 ――<指弾>?


 その金髪の女性は魔杖の角度を変えた。


 構わず、前傾姿勢で迎え撃つ。

 金色の女性が放った礫に向けて――。

 ――<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を発動。

 眼前で<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>と<指弾>系の礫が衝突。

 火花が無数に散る。


 火花が散る中、金色の魔刃の切っ先を俺に差し向けてきた。

 <刺突>系のスキルを繰り出してくる。


 即座に<水月血闘法・鴉読>を強く意識――。

 同時に、金色の魔刃に魔槍杖バルドークの<刺突>をぶち当てた。


 嵐雲の穂先<刺突>が金色の魔刃を押し潰す。

 そのまま魔杖の放射口の柄の根元を嵐雲の穂先が貫くかと思ったが――。


 金髪の女性は咄嗟に腕を引いて魔杖を消す。

 その魔杖を消した掌から金色と白色が混じる魔力の波を発生させた。


 波の速度は速い。


『ヘルメ、頼む。<精霊珠想>』

『はい、閣下――』


 その魔力の波と<精霊珠想>が衝突。

 俺の体はヘルメの液体が守ってくれた。


 左の視界が神秘世界となる。


「なんだ、その液体は!」


 金色の髪の女性は驚愕。


 あの表情だと、きっと初めて見る光景だったに違いない。

 闇蒼霊手ヴェニューたちはデボンチッチにも見えるが、相も変わらず不可思議だ。


 が、驚きはフェイクか。

 金色の髪の女性は金色と白色の魔力の波を操作していた。


 金色と白色の魔力の波が魔槍杖バルドークを覆っていた。

 その金色と白色の魔力の波に押されて<刺突>は途中で止まる。


 しかし、魔槍杖バルドークが反応。


「カカカ」


 と異質な嗤い声が響くと、その金色と白色の魔力の波を吸収していく。


「異質な魔槍ね――」


 と、金色の髪の女性は、金色と白色の魔力の波を操作。 

 粘着力も有していたのか、金色と白色の魔力の波は魔槍杖バルドークを引っ張る。


 金色の女性はニヤリと片頬を上げた。

 と、俺の腕ごと魔槍杖バルドークを奪い取ろうと、


「怪しい武器は頂く!」


 同時に、魔導鎧の魔機械の腕を振るう。

 しかも、その腕は腕剣と化していた。


 その腕剣の刃は受けない。

 素直に魔槍杖バルドークを消去しつつ退いた。


 金色の髪の女性は悔しそうな表情を浮かべて、


「――チッ」


 と、舌打ち。

 同時に魔導鎧の節々から金色の魔力を噴出させた。

 金色の髪の女性は加速。


 前進しつつ第三の魔機械の腕を左へと返す剣刃で俺の首を薙ごうとしてきた。

 俺は左手に神槍ガンジスを召喚――。


 その神槍ガンジスに魔力を通しつつ右上に伸ばす。


 方天画戟と似た矛と蒼い槍纓で魔機械の腕剣の刃を受けた直後――。


 蒼い槍纓は刃と化した。


 神槍ガンジスから放射状に出た蒼い刃はヘルメの<精霊珠想>を避けつつ金色の髪の女性を襲う。


 金色の髪の女性は素直に退いた。

 魔杖から金色の魔刃を伸ばす、いや、金色の魔刃を掌から飛ばしてきた――。

 その金色の魔刃を、蒼い槍纓の刃で串刺しにした。

 金色の魔刃にカットマギーの魔刃のような重さはない。


 神槍ガンジスの蒼い槍纓が蜘蛛が標的を追うように金色の髪の女性を追う。

 ――<精霊珠想>を解除しつつ前進。 

 金色の髪の女性は壁際から遺物の影に移動か?


 と、思った直後に反転してきやがった――。


「――<導魔の衝牙>」


 スキルか――。

 両手から金色の魔力の波、いや、金色の衝撃波と刃を出した。

 神槍ガンジスの螻蛄首と刃と化している蒼い槍纓と衝突する金色の衝撃波。


 蒼い槍纓の刃が異質な音を響かせて削れ散った。

 蒼い槍纓が短くなったから急いで神槍ガンジスを消す――。

 右手に魔槍杖バルドークを召喚。


 ――<牙衝>の構えをワザと見せる。

 ――同時に<超能力精神サイキックマインド>。


 フェイク混じりの<超能力精神サイキックマインド>で、金色の衝撃波の相殺に成功。

 金色の髪の女性は驚く。


「――え、なにそれ! 魔線が見えなかった!」


 構わず<血液加速ブラッディアクセル>の速度を活かす。

 ――水鴉が周囲に舞う。

 金色の髪の女性と間合いを詰めたところで――。

 魔槍杖バルドークを前に押し出す。


 ――<闇穿>を繰り出した。

 しかし、金色の髪の女性は、金色の魔力の刃を出す魔杖を少し引いてタイミングをずらした。

 器用に扱った魔杖から金色の魔力の刃が出る。


 魔杖は、ムラサメブレード・改の鋼の柄巻かよ――。

 その仕込み杖的な魔杖から出た金色の魔刃と<闇穿>が衝突。


 金色の魔刃の幅が更に拡がった――。


 魔法の盾的な運用も可能か。

 便利な魔杖だ。


 柄巻の布も特殊っぽい。


「……威力がある闇の突き技か。でも、さっきの<導魔術>のほうが気になるわ」

「<導魔術>に近いが違う――」


 選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランス系だ――と、心の中で言いながら、<血魔力>を強めつつ魔槍杖バルドークを力で押す。

 押し切ったと思ったが、金色の髪の女性は第三の魔機械の腕を振り上げてきた。


 俺は魔槍杖バルドークを引きつつ斜め下へと柄頭を傾ける。

 魔機械の腕剣の刃と竜魔石に近い後部の柄が衝突して火花が散った。


 ――金色の髪の女性と視線がかち合う。

 綺麗な鎖骨。

 乳房の上部分も見えたが、液体状の魔力粘液が魔導鎧の節々から漏れてテカっていた。


 その金色の髪の女性が、俺の顎の<霊血装・ルシヴァル>を凝視し、


「――血の面頬が似合う槍使い! お前がわたしの兄を……」

「戦いの結果だ。で、暗殺一家とは、何人いるんだ?」

「うるさい、ジャリネス兄もお前が殺したのか?」


 俺の質問には答えずか。


「さあな。で、お前の名は?」

「ミルデン、暗殺一家の四女だ」


 今度は素直に名乗った。

 俺も名乗るか。


「俺はシュウヤだ」

「どうでもいい。お前は、わたしを愛してくれたジャリネス兄を……お前がオマエガァァ、殺したんだなァ?」

「多分俺だ。ペレランドラの魔塔を襲った連中の中に、魔導鎧を着た人物がいた。遠距離狙撃から、大砲を用いてペレランドラの魔塔をぶっ壊した野郎だ」

「くそがぁ――」


 逆上するミルデン。

 そこを狙う――。

 右腕の魔槍杖バルドークを押し込む力を緩めつつ――。

 左手に神槍ガンジスを召喚。


 ――その左腕ごと神槍ガンジスを勢いよく上げる。

 ミルデンはミスディレクションに掛かった。

 ミルデンの注意が左腕に向かった瞬間――。

 <導想魔手>を魔機械の腕剣ごと、細身の魔導鎧を着るミルデンにぶち当てた。


「ぎゃぁ――」


 血を吐いて後退するミルデンは防御力の高さを誇るように体勢を整える。

 構わず<導想魔手>の根元を蹴って――。

 <生活魔法>の水を周囲に撒く。そのまま迅速な踏み込みから神槍ガンジスで<水穿>を繰り出した。

 ミルデンは飛沫を気にせず<水穿>に反応し、避けてきた。

 ミルデンの腕を掠めた方天画戟と似た双月の矛――。

 その神槍ガンジスを消去して左手を引く――。


 再び左手に神槍ガンジスを召喚。


 直ぐに右足の踏み込みから<水雅・魔連穿>を繰り出した。


 神槍と魔槍杖で突きまくる。

 一、二、三、四、五、六――。

 槍衾的な魔槍杖と神槍の連槍撃コンビネーション――。


「くっ」


 ミルデンは折れ曲がった魔機械の腕で防御。

 その魔機械の腕が弾け飛ぶ。


 そのミルデンは魔杖の柄の放射口から噴出中の金色の魔力の幅を拡げつつ受けに回った。


 金色の魔刃の防御剣術で、魔槍杖バルドークと神槍ガンジスの連続的な槍衾を凌ぐ。

 表情に余裕さは感じない。

 ミルデンは避ける速度が落ちた。


 魔導鎧の一部が弾ける。

 その瞬間を狙った――左手から<鎖>を放つ――。

 ミルデンは<鎖>に反応するが遅い。


 ミルデンの左肩に<鎖>が突き刺さった。


「ぐあぁ、鎖……」


 その<鎖>を収斂させるや<水月暗穿>――。

 <鎖>が突き刺さったままのミルデンも当然――。


「こんな鎖なんて――」 


 <鎖>を外そうとする。

 ミルデンは両足に力を入れて踏ん張ろうとした。

 が、外れない<鎖>が収斂する機動のまま体勢を崩したミルデンは俺に飛来してくる。

 そのミルデンの肩に刺さった<鎖>を消去。

 片足の裏で床を突いて体勢を立て直そうするミルデンに向け、俺は――。


 背中を晒しつつ両足で地面を突くように体勢を屈めるや否や――。

 体幹の回転力を両足に伝えるように片足と片手で水を敷いた地面を強く突いた。

 その踏ん張りの利いた体勢の反動を活かした垂直蹴りトレースキックをミルデンの下腹部に繰り出す。


 アーゼンのブーツの先端が魔導鎧と衝突。


「ぐぇ、痛いけど――」


 と、蹴りがあまり通じないミルデン。

 その硬さと柔らかさを合わせ持つ魔導鎧を輝かせた。

 魔導鎧の節々から金色の魔刃を出してきた。


 不意打ちか――。

 避けられない、俺は体中に金色の魔刃が突き刺さった。


 ――痛ぇぇぇぇ。


 が、竜頭金属甲ハルホンクの防護服が急所の大半を防ぐ。

 素早く金色の魔刃を柄で払いつつ体勢を直し退いた。

 

 しかし、フィラメント状の金色の魔刃だから厄介だ。

 そこをミルデンはチャンスと判断したのか――。

 

 踏み込みから細い金色の魔刃を拳と指に絡ませた血だらけの貫手を繰り出す。


 竜頭金属甲ハルホンクの防護服が貫かれた。

 胸にミルデンの金色の魔刃が絡む貫手が突き刺さるや、体内に金色の魔刃が浸透し爆発――。

 ――派手に胸が抉られた。


 痛すぎる――「え? どういう――」とミルデンは逆に恐慌。


 暗殺一家の必殺技っぽい貫手を繰り出したミルデンだったが――。

 その血濡れた手を引きつつ反対の手の魔杖から伸ばした金色の魔刃で俺の首を狙ってきた。

 俺は追撃はさせないと神槍ガンジスでカウンターを狙う。


 そんなミルデンは唖然とした表情を浮かべて後退。

 回復薬を飲んでいた。


「く、外傷の傷の回復は分かる。けど、内傷の回復は高祖級の吸血鬼を超えている……<魔闘烈羽>の<魔闘列羽殺貫手>が通じないなんて……魔界か神界の称号持ちなのは確実ということか……」


 暗殺一家のミルデンはそう語る。

 今まで感情的だったが暗殺者のプロらしい表情だ。

 そして、俺のような存在と戦った経験がある言い方だ。

 さて、強者のミルデン――。

 <塔魂魔突>から<光穿・雷不>のスキルの連携技を意識した瞬間――ゆらっとした速度で俺の斜め前方に立った存在がいた。


 それは狂眼タルナタム。


「――主、我ヲ、ツカエ!」


 首下から伸びたゴドローン・シャックルズのネックレスと繋がる丸いキーのような物を渡された。


「これか?」


 と、その丸いキーに魔力を込めると――。


「ヌグォォォォ――」


 いきなり狂眼タルナタムは前進。

 しかも、その狂眼タルナタムと感覚を共有。

 その狂眼タルナタムの背中から丸いキーと同じ半透明な魔法陣的なモノが出現するや、俺とその魔法陣は重なる。

 キーは半透明になると俺の体と重なった魔法陣と融合したようだ。

 薄らと眼前に丸い魔法陣が浮かんでいる。

 その魔法陣の真ん中に窪みがあるが、これは……。


 その刹那――タルナタムと合体したような感覚を受けた。


「「――ウォォォォ」」


 ――俺と狂眼タルナタムは吶喊。


 回復したばかりのミルデンは魔杖から金色の魔刃を伸ばす。

 魔導鎧の壊れた箇所は矧(は)ぎ捨てていた。


 俺は自然と戦闘型デバイスを意識し、武器を出す。


 狂眼タルナタムの一腕に紺鈍鋼の鉄槌。

 狂眼タルナタムの二腕に魔槍グドルル。

 狂眼タルナタムの三腕に魔剣ビートゥ。

 狂眼タルナタムの四腕は、掌から八支剣。


 そのまま、狂眼タルナタムの四腕を意識。

 俺はミルデンを強襲――。 

 両手にセル・ヴァイパーの鋏剣を出す。

 速度は狂眼タルナタムより<血液加速ブラッディアクセル>がある分、俺のほうが速い――一足先に一対の邪剣を振るった。


 <水車剣>から――<飛剣・柊返し>――。


 斬り上げからの斬り落としに袈裟斬りに近いスキルは金色の魔刃で対応された。

 やや遅れて、狂眼タルナタムの四腕の攻撃が始まる。

 同時に<超能力精神サイキックマインド>――。

 ミルデンは<導魔術>か<念導力>か不明な幾重にも重なった魔力の線の波を繰り出して、俺の<超能力精神サイキックマインド>を防ぐ。

 そして、紺鈍鋼の鉄槌を魔法の盾と金色の魔刃で受けきった。


 全身から血を発しつつ魔杖を持つ手も震えているが、さすがは暗殺一家。


 さらに魔槍グドルルの薙ぎ払いを足の魔導鎧で受け止めようとする。

 が、魔力の線の波が消えるや、そのミルデンの細い片足は千切れ飛ぶ。

 魔剣ビートゥの突きは、まだ残っていた魔導鎧が防いだ。

 細身だってのに硬い証拠。

 ミルデンは八支剣の袈裟斬りも避けられず片腕が飛ぶ。

 そのタイミングで――。


 俺は右足の踏み込みからセル・ヴァイパーを振るった――。


『新しい駒か――褒美だ――』


 振るったセル・ヴァイパーから思念が響く。

 瞬く間に一対のセル・ヴァイパーが加速。

 腕が自然と動く――滑らかな機動の剣の扱いが運動野に刻まれたような感覚を受けた。


 セル・ヴァイパーでミルデンを切り刻む。

 最後にセル・ヴァイパーの邪剣が重なると、鋏の形に変形。

 その刃が、ミルデンの首を刎ねた。

 ミルデンの魂か魔素を吸い取るセル・ヴァイパーから鬼のような造形が浮かぶ。

 次の瞬間――。

 ※ピコーン※<鬼喰い>※スキル獲得※

 ※戦闘職業<獄星の枷使い>の条件が満たされました※

 ※<霊槍印瞑師>と<獄星の枷使い>が融合し<霊槍獄剣師>へとクラスアップ※


 おお、スキルに戦闘職業がクラスアップした。

 <霊槍印瞑師>もレアな高位職業だったが、上には上があるということか。


 獄星の枷ゴドローン・シャックルズを使い、狂眼タルナタムの使役に成功し、実際に狂眼タルナタムを使ったからか?

 多次元世界の一つ、獄界ゴドローンの因子が俺の中に入ったってことかな。


 さて、まだまだ敵は多い――。


「――ん、タムちゃん強い! シュウヤも鋏の剣でしゅぱしゅぱって凄かった!」

「エヴァ、ヌベファのトンファーで真似しないの! 悩ましい胸をもんじゃうわよ!」

「あう、分かった」

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