七百二十六話 魔塔エセルハードを巡る戦い

 ◇◆◇◆

 

 シュウヤたちがカットマギーと戦いを繰り広げていた頃――。

 ――魔塔エセルハードを巡る戦いも、また激しさを増していた。


 一階層を突破された血長耳側の兵士たちは浮き足立つ。


「シャキッとしてください!」


 幹部のレレイが激励した声だ。

 彼女が激励したのはベファリッツ大帝国を知らぬ者が大半の若いエルフたち。

 その若いエルフたちは、戦争を生き抜いた幹部との経験は雲泥の差だ。

 敵に押されて何人も倒されていた。

 古参で最高幹部が一人のレレイが、若い兵士を見て不甲斐なく不満に思うのも無理はない。

 

 そんな経験の浅い血長耳の兵士たちではあるが、レレイなどの古株の活躍の影響を受けて、徐々に盛り返す、二階層の四方の間と手前の要を守りきっていた。

 

 手前の要とは……。

 エセルハードの聖杯の魔力を得ているエセル魔方陣と大浮遊魔方石。


 エセル魔方陣と大浮遊魔方石は各種浮遊岩と結界の源。


 エセル魔方陣は、普通の魔法陣とは違う。

 大魔術師が扱える魔法の類だ。

 

 二階層の源は魔塔エセルハードの下層施設の部屋と連動している部分も多い。


 が、魔塔エセルハードには多数のエネルギー源がある。

 中層と上層と最上階の要のエネルギー源は別だ。


 そして、古株の活躍と言えば、この小柄の女エルフだろう。


 ベファリッツ大帝国が崩壊へと向かう悲惨ブラディーな状況が延々と続くかのような内戦から……そのベファリッツ大帝国が崩壊した後に起きた戦国乱世の数百年を生き抜いてきた古株中の古株だ。

 

 その古株の小柄のエルフは中央広間で躍動していた。

 小柄のエルフは自身の身長を有に超えているダブルブレードを軽々と使う。

 そして、自然体で力みはない。

 今も、足先に突き出された銀色の穂先に着地した。


 その機動力は<魔極軽功>のスキル効果でもある。

 羽が銀色の穂先に停まったかに見えるぐらいに柔らかな<魔軽功>系スキル。

 

 槍に乗った小柄のエルフは、足裏で、穂先と柄を撫でて、


「フフ♪」


 と、楽し気に笑うや穂先を蹴って後方に跳躍。

 小柄のエルフは廊下に着地。

 

 ダブルブレードを横に振るってニコッと笑顔を見せる。


 相対する槍使いは双眸に力が入った。

 眉間に皺を寄せた槍使いは、


「チッ、背中に羽根でも生えているのか?」

「ウン。実はワタシ、エセル人なんだ」

「……ツマラナイ冗談だが、美しい顔だ」

「ふふ、ワタシも罪深い……」

「……が、その美しい笑顔を崩すのは俺だ。戦闘妖精は今日で仕舞いとなる!」


 と、魔力を銀色の槍に込めると突進。

 銀色の穂先に魔獣のような魔力が宿る。

 その魔獣の力を得た穂先で小柄のエルフの胸を狙った。

 風槍流の基本のスキル<刺突>の機動に見えたが――。

 <獣牙突>という名のスキルだ。


 小型のエルフは<獣牙突>を見て鋭い視線となると、


「遅い――」


 と発言しながら銀色の穂先を凝視。

 数回、頷きつつ銀色の槍の<獣牙突>を余裕の間で避けていた。

 ――胸元のネックレスが揺れる。

 横に移動した小柄のエルフは落ち着いた素振りで肩にダブルブレードの柄を置くと……。


 ゆったりとした歩法で横を歩いた。

 そして、槍使いの穂先越しに片頬を上げると、


「……貴方、獣霊槍のガラデスでしたっけ? 名は聞いたことがあったけど――」


 そう語った小柄のエルフは急加速――。

 

 刹那の間で獣霊槍のガラデスの懐に潜り込む。

 と、同時にダブルブレードを持つ手がぶれた。

 ぶれたダブルブレードは太い糸が解れたようにも見える。

 次の瞬間――。


「ぐぁ――」


 獣霊槍のガラデスは反応できず。

 驚愕の表情のまま胸が二つに分かれていた。

 

 それは巨大なノコギリ刃が強引に胸板を穿ったようにも見えるだろう。

 小柄のエルフが繰り出した<刺鳴雁剣>が決まった瞬間だ。

 両手に持つ魔剣も特別、そのダブルブレードの二振りの魔剣は魔双剣に変化した。


 小柄のエルフは魔双剣を捻り回しつつ宙空に血の円を描くと、


「ワタシの知る槍使いの突きには、遠く及ばないヨ――」


 小柄のエルフは、シュウヤ・カガリの実力を知っている。

 強者を仕留めて余裕顔だ。


「小柄の兵士……【白鯨の血長耳】の幹部のクリドススか」

「今更びびるな。そして、何が白鯨だ! 一階層のように広場を占拠すれば楽になるんだ! あんな小柄なエルフはさっさと殺せ!」

「おう、クリドススは俺が倒す」

「分かってるさ」

「所詮は一人、スタミナが切れたらこっちのもんだ」


 周囲の黒装束たちが怒気を強める。


「ガラデスの仇――」


 一人の剣士が叫ぶと、クリドススに切っ先を向けて突進。


「<凪縷々>――」


 クリドススはスキルを発動。

 横を向いたまま半身を引いた。

 剣士の突き技を紙一重で避けるや更に爪先回転を実行。

 

 横回転避けを実行したクリドスス。

 剣士の柄から仕込み刃が飛び出たことを察知していた。

 

 その仕込み刃をクリドススは背中を晒しつつ避ける。

 巧みな避け剣法の歩法から黒装束の兵士の背中側に回り込むと同時に――クリドススの逆手で持った魔双剣レッパゴルの剣刃が黒装束の兵士の背中をぶち抜いた。


 黒装束の兵士は自らの胸元に剣刃が生えたことを見て絶句――。


「……ガッ」


 黒装束の剣士は血を吐くと失神したまま死んでいた。

 クリドススは魔双剣レッパゴルを引き抜くと即座に前進。

 

 他の黒装束の剣士がクリドススの前に出た。


「フン――」


 気魂溢れる一上一下の斬撃――。

 その斬撃をクリドススは紙一重で避けて、そのまま右半身を引いた。

 と、同時に左腕の魔双剣レッパゴルを斜め上へとかち上げる。


 レッパゴルの切っ先が黒装束の剣士の顎を貫いて、その頭部を派手に破壊――。

 クリドススに脳漿塗れの返り血が振りかかる。


 返り血を避けようと横に跳躍したが、長耳に返り血が付着していた。


「魔双剣、魔神ソールの信奉者か?」

「戦闘妖精……」

「二人同時に攻めろ――」


 血濡れたクリドススの足に槍の突き技が迫る。

 左右の双眸を目まぐるしく動かしたクリドススは、渾名の由来を皆に示すように軽やかな跳躍を披露。


 二人の槍使いが連続的に繰り出す槍衾を避け続けた。


 クリドススは距離を取り、足を停めると――。

 魔双剣レッパゴルを瞬時に仕舞う。

 クリドススは無手で前進。

 舐められたと判断した槍使いの二人組。

 片方の金髪の槍使いが、


「こなくそがぁぁ――」

 

 と叫ぶと同時に近寄るクリドスス目掛けて<刺突>を繰り出した。

 クリドススは、その穂先をバックステップで避けた直後――。

 反転し、前進するや、その槍の柄を掴む。

 クリドススはその掴んだ槍を持ち上げつつ前進し――。

 もう一人の槍使いの槍を持ち上げた槍で受けてから、その槍も掴む。


 細い両腕に魔力を通したクリドスス。

 片方の腕の表面に血管が浮き彫りとなった。


 刹那、その血管から煌びやかな魔線が迸るや一房に纏まりつつ顔に向かう。

 と、頬の白鯨のマークと一房の魔線が繋がった。

 

 クリドススは双眸と頬を光らせつつ、


「――【大鳥の鼻】の七色のガイは別として、槍使いマドクッスにも遠く及ばない。所詮は人族の成り上がりですネ――」


 そう語ると、二人の槍を強引に捻り掴み取った。

 

「「な、なんだ、力が!」」

「あ、ワタシ、槍は使えません――」


 と、二本の槍を押し当てるように投げ渡す。

 呆気に取られた二人の槍使い。

 胸元に戻った槍を両手で掴んだ瞬間――。


 二人の視界は宙空を彷徨っていた。


 そう、クリドススのダブルブレードと化した魔双剣レッパゴルが、二人の首を刎ねていた。


 クリドススはそのままボーイッシュな髪を揺らしつつ前進。

 廊下の黒装束の敵集団に突っ込む。

 後転から側転機動を実行。

 黒装束の敵が繰り出した薙ぎの斬撃を華麗に避ける。

 と、足が壁に吸い付いたような壁歩きから、ダブルブレードを斜め下に向けて振るい落としつつ隙もなく前方へと移動。

 

 左の廊下で魔双剣レッパゴルのダブルブレードを受けた黒装束の兵士の首と胸元から血飛沫が迸った。

 

 二人を斬ったクリドススは前傾姿勢を取る。

 斬った兵士たちを見ず、敵に向けて前進するや――。

 走りながらダブルブレードの魔双剣レッパゴルを二振りの魔剣に変えつつ、その魔剣の片方を斜め下に向けた。相対する剣士が振るった剣を、片方の魔剣の峰で斜めに受けて往なした直後――もう片方の魔双剣レッパゴルを横に振るった。


 魔双剣レッパゴルの刃が剣士の腹を薙いだ。

 

 腹から臓物と血飛沫が飛び出る。

 それらの血を浴びたクリドスス。

 銀色と緑色のメッシュな髪色が血色に染まった。


 前方の仲間たちが無残に斬り殺された惨劇を見た黒装束の兵士たちは足を停める。


「あれが戦闘妖精……」

「髪と長耳に付着した血が……」

「怯むな――押し切れ」


 と仲間を鼓舞した黒装束兵士。

 その頭部が爆発するように吹き飛んだ。


 突進したクリドススの<牙鳴剣>の効果だ。

 その派手な血飛沫の中から現れたクリドススは――。

 

「今宵の血で血を洗う行為は……死屍累々の謳となる」


 そう語ると、黒装束の兵士たちは唾を飲み込んだ。

 クリドススは視線を強めながら、


 ふふ、下はワタシがいるから大丈夫だとは思います。

 問題は上のほうデスネ。


 本命はやはり、空か。

 しかし、ガルファ隊長も凄い策を考える……。

 総長も今回の出来事を聞いたらびっくりするだろうなァ。



 ◇◆◇◆



 クリドススの予想は的中していた。

 魔塔エセルハードを空から襲撃する部隊は多い。


 上界管理委員会でもある上院評議会副議長ヨハン・サイバル。

 同組織の、上院評議会副議長ラスガ・マクダラス。

 

 上院評議員デルカント・ロデルスン。

 上院評議員セメルン・サメイラス。

 上院評議員ギニュー・トメリア。

 上院評議員プロメルン・パームント。

 上院評議員ジース・レッドスキン。

 上院評議員バタリン・ビクザム。

 上院評議員ラッサ・ガルン。

 下院評議院ガタカ・マザルシ。

 下院評議院ヤス・カナザキ。

 下院評議院ザーボン・カイラベア。


 などの配下だ。


 他のネドー派に所属していた上下評議員グループは、財産を捨て、大海賊の伝を使い、セナアプアから逃走を図る。逃げた評議員の配下たちは行き場を失った。

 空戦魔導師と空魔法士隊の面々の中には、逃げる評議員を逆に討つ下克上の存在も現れるが、その行き場を失った者たちの大半は【魔術総武会】の裏切りと協定破りの名目もある【血長耳】殲滅作戦に加わっていた。


 有名どころだと、空魔法士隊【亀牙】の空戦魔導師キレイス。

 隊長ブルと副長ヨンカンもいる。

 大太刀を扱うキレイスは空極の渾名がついてもおかしくない強者だ。

 

 そのキレイスの上司だった肝心の副議長ヨハン・サイバルとラスガ・マクダラスの二人は、セナアプアから秘密裏に離脱するために下界の港に出たところで下界管理委員会と連携していた【魔塔アッセルバインド】の流剣リズと<影導魔>の使い手【天凛の月】のカリィの新コンビによって暗殺されていた。


 そして、逃げずに命を懸けている下院評議院ヤス・カナザキもいた。


 魔法学院を持たない成り上がり商人だったカナザキ。

 縁があった魔商会ライメスの琺瑯を潰したセナアプアの【魔術総武会】と揉めていたカナザキは、【魔術総武会】の代表格でもある大魔術師アキエ・エニグマが倒した空戦魔導師と空魔法士隊の中に知り合いが複数いたことで、今回の血長耳殲滅作戦に参加するよう【剣空】に指示を出していた。


 空魔法士隊【剣空】の空戦魔導師ユズキ・イノウエ。

 隊長マシロに副長シンは強い。

 空戦魔導師ユズキは五属性の魔法を扱える魔剣師でもある。


 カナザキが日本というキーワードを記した魔道具と紙を使い、秘密裏に独自の商会も使い、各地から集めていた転生者の一人だ。


 この転生者の存在を黒髪の錬金術師マコトは知っている。

 が、シュウヤは下院評議院のカナザキのことを聞いたことがない。

 

 シュウヤが知る転生者や転移者は、ネームスの心、マコト、ペルネーテの蛍が槌エルガスレッジを率いていたマナブ、テンテンデューティーを作ったタイチ、菓子店のタナカ、黒髪隊の面々ぐらいだ。

 

 続いて、血長耳に恨みを抱くライカンスロープ、【血銀獣鬼】のバッパ。

 【御九星集団】から幹部キミミと兵士たち。

 【テーバロンテの償い】の幹部、魔虫使いレグハルスとバルミュグの一派の兵士たち。

 【不滅タークマリア】に雇われた黒装束集団。

 

 などの組織も血長耳殲滅作戦に加わった。


 【不滅タークマリア】は城郭都市レフハーゲンの豪商五指の一つ。

 背後には狂言教という宗教組織が控える。

 狂言の魔剣師カットマギーが深く関わる一大組織だ。


 更に暗殺一家のチフホープ家の三男と四女も参加中だ。

 その暗殺一家の三男は、高い魔塔エセルハードの真上を飛翔しつつ――。

 今も銃撃音が響いているように特殊な雷獣魔銃でガーデン内の血長耳の兵士を撃っていた。

 雷属性を多く含む魔弾の銃撃は強力無比。


 血長耳の兵士たちの頭部が次々に弾け飛ぶ。

 暗殺一家の三男は正確な射撃技術を持つ。


 その虹色の瞳を持つ三男の名はゲオルグ・マンサン・チフホープ。


 ゲオルグは貴重な魔導鎧ラミゲルに対応した存在だ。

 今のように雷獣魔銃の聖櫃アークをも軽々と扱うことができる。

 

 暗殺一家の中でも優秀な存在だろう。

 そのゲオルグは、


 ――ジャリネスの兄貴を殺した者ども……。

 ――血長耳も殺す!!


 そう思考しつつ睨みを強めた。


 ネドーと【テーバロンテの償い】と親しかった暗殺一家の次男ジャリネス。

 ペレランドラの魔塔でフォド・ワン・ユニオンAFVのレーザーパルス180㎜キャノン砲の一撃を受けて派手に散って亡くなっていた。


 しかしながら、暗殺一家は全員が全員同じ思考ではない。

 暗殺一家の実力者、長男マクスオブフェルトと次女ライランスもそうだ。

 

 感情で仕事を選ばない。

 そして今、このセナアプアにはいない。


 マクスオブフェルトとライランスは、大商人フクロウド・サセルエルと共に、【闇のリスト】の案件に関わるため【名もなき町】に出張中であった。

 

 家長の父ファードサン、祖父ヤシュナン、祖母アトリーズ、母フェイムヒルト、長女ルキーシャス、五男タンホイザーもまた、セナアプアから離れた場所で仕事中。


 そんなチフホープ家は一つの勢力に固執することを嫌う。

 チフホープ家には、


 〝目的のために手段は選ぶな〟

 〝依頼は果たせ〟

 〝家長の言いつけは絶対だ〟

 〝家族の仇は必ず皆で相談してから決めろ〟

 〝家族同士の私闘を禁止〟

 〝家族は協力し任務に当たることが望ましい〟

 〝同じ依頼主から何回も依頼を受けるべからず〟

 〝私情を挟まずリスクを分散させるべし〟


 などのドグマと暗殺一家としての面子がある。

 〝暗殺一家〟の名を題して依頼を受けるか受けないか、その判断も、また重要なことだと家族間では共通した認識があった。

 

 そして、暗殺一家チフホープ家には、とある目的があった。

 その目的の完遂には、金や貴重なアイテムが必要。

 とはいえ、金のために家族が同じ勢力からリスクの高い依頼を何回も受け続けることは稀だ。

 その観点から見れば、次男ジャリネスの仇を討とうとするゲオルグとミルデンの行動は、暗殺一家のドグマから外れた行動とも言えた。

 

 素直に瓦解した評議会のネドー側と手を切るべきだ。

 【闇の枢軸会議】からも手を引くべきです。

 と、チフホープ家の父と祖父に母がセナアプアにいたならば、ゲオルグとミルデンを諭し止めただろう。そして、長男マクスオブフェルトと長女ルキーシャスならば、この三男と四女の行動を見たら即座に殴り倒して監禁するはずだ。


 私情を捨てきれない暗殺者ほど依頼に失敗する確率が跳ね上がることを熟知しているからだ。


 が、私情で動いたゲオルグとミルデンも暗殺一家の一員。

 極めて優秀な暗殺者だからこそ、集魔と魔弓に<筆頭従者長選ばれし眷属>の攻撃に対処しつつ血長耳の戦力を確実に削ることができていた。


 そんなゲオルグが持つ魔銃は貴重な聖櫃アーク

 名は雷魔獣の魔銃ゲ・ラ・ザ・フォール。


 暗殺一家の中で、唯一ゲオルグの遺伝子だけが第一世代ミホザが惑星セラに残した雷魔獣の魔銃ゲ・ラ・ザ・フォールに対応した。


 魔弾を自動生成しつつ連射が可能な特殊武器。


 どうしてゲオルグだけに反応したのか?

 それは古のソサリー種族の魔力豪商オプティマスとゲオルグ・マンサン・チフホープが関わる話で別の物語となる。

 そんなゲオルグが持つ雷魔獣の魔銃ゲ・ラ・ザ・フォール。

 クリスタル系の銃口が火を噴くとダダダダッと銃撃音が轟いた。

 

 射出された魔弾は雷属性と土属性の魔力を内包している。

 

 その魔弾を浴びた血長耳の兵士たち。

 当然、先ほどと同じく爆発したように死ぬ者が多数。

 防御力に自信のある者も体に魔弾を喰らうと、風穴が空いていた。

 

 雷魔獣の魔銃ゲ・ラ・ザ・フォールが放つ魔弾は威力が高い。

 続けざまにガーデンの遺物と細長い岩戸を破壊する。


 貴重な奥津城の拱門とも衝突を繰り返す魔弾。

 が、奥津城の拱門は、不可思議な金属音を響かせるだけで傷が付かない。


 ゲオルグは不可解そうな顔色に変わった。

 が、構わず飛翔しつつ――。

 集魔シャカが繰り出した風の魔弾を避けた。


 反撃に――ゲ・ラ・ザ・フォールの銃口を集魔シャカに向ける。

 が、集魔シャカは障害物に隠れた。


 ゲオルグは「チッ」と舌打ちながら、床の一部を魔弾で破壊し続けると、ヴィーネたちを狙った。


 その狙われたヴィーネたちだが――。

 その魔弾は光魔ルシヴァルの<筆頭従者長選ばれし眷属>たちに当たることはない。 

 光魔ルシヴァルの眷属としての各自の能力と巧みな避け技を使い、障害物をも利用して避け続けていた。しかし、ペントハウス近くの床と衝突した魔弾は跳弾と化した。


 跳ねた魔弾と衝突した彫像は木っ端微塵。


 エヴァが用意した金属の壁と衝突した魔弾は止まる。

 が、跳弾と化す魔弾もあった。

 それらの跳ねた魔弾は、ペントハウスを囲う硝子を突き破った。


 刹那、その跳ねた魔弾を迎撃しようと【幽魔の門】の局長が動こうとした。


 しかし、ガルファが『必要ないですじゃ』と示すように、片手で、その局長の肩を押さえつつ鞘に納まる虎徹を傾けると――。


「わたしが対処します――」


 とガルファではなく先に動いたのは軍曹ことメリチェグだった。

 

 メリチェグは宙空に出るや長剣を目にも留まらぬ速度で振るい回す。

 ペントハウスに侵入した跳弾を幾つも両断。

 評議員たちと聖魔銀行の大本【聖魔中央銀行】の執行役員【グレート・ファイブ】の一人、リン・ジェファーソンを守った。

 そのリン・ジェファーソンは満足そうに頷きつつ、ある一点の方角を凝視。

 それはシュウヤの魔素がある方角だ。

 

 そして、満足そうに微笑む。

 と、頷きつつ隣の護衛の【神威】フェリムを見やり、そのフェリムは、


「満足されましたか? リン様……」


 と聞いている。

 リンが返事をしようとした瞬間――。

 再び跳弾がペントハウス内に侵入――。

 その跳弾をメリチェグは叩っ切ったが――。

 二つに分かれた弾丸の残骸が上院評議員イオスン・ドリサンと下院評議員レゴレウル・マハハンの足に衝突。


「げぇ」

「ひぃぃ」


 それほどに威力がある魔弾の残骸だった。


 エヴァとレベッカは、ペントハウス内の様子を見つつガーデンの右で動く。

 あちこちに跳ねる弾をエヴァの紫色の魔力の<念動力>が追って捕らえた。

 魔弾の金属を溶かしつつ自身の足下に引き寄せて金属の容器に仕舞っていた。


 レベッカは細い蒼炎弾を操作。

 跳弾を魔塔エセルハードの外に弾き飛ばす。


 ゲオルグは、そんな蒼炎弾の軌跡を睨む。

 が、そんなゲオルグにソリアードの魔矢が飛来――。


「魔弓ソリアードか――」


 雷獣魔銃ゲ・ラ・ザ・フォールから魔弾が連射された。

 ソリアードは華麗に飛翔するや、魔弾を避けた。

 そのまま魔塔エセルハードの反対側に避難。

 

「チッ、逃げ足が速い――」

 

 ゲオルグは、逃げたソリアードを追わず。

 ガーデン内に魔銃ゲ・ラ・ザ・フォールの銃口を向ける。

 雷属性と土属性を含む魔弾が床と衝突。

 火花が散るが、床に傷はない。

 威力の高い聖櫃アークの魔弾を浴び続けても、さきほどと同じく、ペントハウス近くの床は僅かに火花を散らすだけだった。

 

 魔塔エセルハードの一部の床は特別だ。

 タングステン級の魔金属ターグン。

 エセル界の軽羽魔鋼。

 ウォルフラム魔鋼。


 などの金属類が使用されている。

 

 そして、エセル飛空極大魔石に、〝エセルハードの聖杯〟の魔力が融合している。

 秘宝エセルハードの聖杯の力の証明でもあり、その証拠の異常な硬さでもあった。


 ゲオルグは、その硬い床を不可解に思いながらも構わず――。

 魔銃ゲ・ラ・ザ・フォールを撃ちまくる。

 

 ゲオルグは四女のフォローを行いつつ血長耳の兵士の頭部や手足を魔弾で吹き飛ばしていった。その中には、とある血長耳の幹部の姿もあった。

 その幹部と永らく任務を共にしていた集魔シャカはまだ、その死に気付いていない。

 

 一方、暗殺一家の四女のほうはガーデン内で暴れていた。

 名はミルデン・マンサン・チフホープ。

 

 そのミルデンは魔剣師。

 魔導鎧は彼女専用だ。

 細身の体に合うように関節箇所などに筋肉が補強される仕組みが施されてある。


 ミルデンの流派はチフホープ魔剣流。

 長い柄の魔杖からブゥゥンと金色の魔刃を伸ばす。

 名はジークの秘魔杖剣。

 チフホープ家に代々伝わる仕込み魔杖だ。


 祖父のヤシュナン・マンサン・チフホープも長いこと愛用した魔力の刃を出すことが可能な巨大な魔力を有した魔杖。


 魔杖の長い柄の素材は、金剛樹と魔木材トーメグルを基に、金魔白鋼、紅鮫の皮、金魔宝石などの貴重な素材が使用されて造られた物で、錬金術師と魔法技師に鍛冶屋が協力して造り上げたという逸話もあった。

 

 シュウヤが見たら『ナパーム統合軍惑星同盟の品か!?』と反応する可能性が高い代物。


 そして、細い指が握る柄巻を巻く布は〝鋼魔帛鬼〟。

 その鋼魔帛鬼にはミルデンの全身の筋肉と<魔闘烈羽>の闘法を強める特殊効果がある。


 ミルデンはその効果を証明するように力強い腰と腕を振るう剣術の動きで、ジークの秘魔杖剣を袈裟懸けに振るう――血長耳の兵士の肩から胸を簡単に斬った。


 斬った死体を見ないで前進するミルデン。

 次の狙いはゲオルグの魔弾を防ぎ、空魔法士隊の兵士を屠った血長耳の兵士。

 

 その兵士との間合いを一瞬で零としたミルデン。

 真横に振るった腕がぶれる。

 と、血長耳の兵士の胴体をあっさり薙ぐや、返す刃で、隣の血長耳の兵士の首を金色の魔刃が穿つ。


 そんな片腕ごと剣となったミルデンの細身にソリアードとシャカの攻撃が迫った。


 ミルデンは身を捻りながら左に回転――。

 柄から伸びた金色の魔刃を柄元に収斂させつつソリアードとシャカの遠距離攻撃を踊るように避ける。

 

 が、その巧みな避ける機動を読んでいた凄腕がいた。


 【百森眼衆】雷剣シベリルだ。


「もらった!」


 と叫びながら、雷属性を帯びた長剣を振るう。

 半身の姿勢になったミルデン。

 必死な表情を浮かべつつジークの秘魔杖剣の柄から黄金の魔刃を伸ばした。

 その伸びた金色の魔刃は歪で短いが、シベリルの放電が激しい長剣の刃を、なんとか受け止めることに成功。

 

 つばぜり合いに移行する前に、一歩、二歩、と後退するミルデン。

 そのミルデンの表情は歪む。


 シベリルの雷剣から出た雷撃を浴びて、体が痺れたからだ。


 眉間に皺を寄せたミルデンは、


「――く、雷属性の魔剣? 厄介ね」


 ミルデンは蹌踉めいた。

 ミルデンの背中が、ガーデンの遺物に衝突するかと思われた瞬間――。

 ミルデンのスマートな魔導鎧の脇と背中の機構の孔から金色の魔力粒子が迸る。

 推進力を得たミルデンは急加速――。

 前転から横回転しつつ側転。

 迅雷的な加速剣術で振るう【百森眼衆】の雷剣シベリルの長剣の雷刃を避けに避けた。

 

 ミルデンは後方伸身宙返りの跳躍から遺物の頭部に降り立つ。

 遺物の天辺から片腕を伸ばしたポーズを見せる。


 自身の足に迫る雷剣シベリルの刃を見てから、


「ここからさ――」


 ミルデンはそう発言するや隣の遺物に跳ぶ。

 そして、左手でその長方形の遺物を掴むや――遺物を支えにくるっと横回転――。

 遠心力を得たミルデンは、遺物ごと自身を斬ろうとしていた雷剣シベリルを逆に急襲。


 ミルデンはシベリルの頭部目掛けて金色の魔刃を振るい落とす。


 ――驚いたシベリル。

 その金色の魔刃を凝視しつつ「なんの、暗殺一家!」と雷剣を掲げて、金色の魔刃を受ける。

 火花が両者の顔面と体に降りかかった。


「――へぇ、見ない顔だと思ったが、【幽魔の門】の幹部か?」

 

 と、火花を消すようにミルデンはシベリルの胴体目掛けて蹴りを放つ。

 細い足の裏に生えた刃がシベリルの胴体に突き刺さった。


「――ぐっ、これしき!」


 シベリルは帯電させた雷剣でその刃を叩き折ると、雷剣を持ち上げるように振るった。

 上昇する雷剣から稲妻が迸る。


「――当たらないよ」


 ミルデンは足下に迫るシベリルの雷剣を蹴るように足下から魔力を噴出させる。

 宙を飛翔しつつ壁の裏へと逃げた。

 壁の裏の傾斜した地に着地したミルデンはシベリルから離れた。


 そのミルデンが壁から出たところに――。

 銀髪の魔布使いが繰り出した魔布の攻撃が向かう。

 ミルデンは魔杖から伸ばした金色の魔刃で、その魔布を叩き落とした。


「チッ――」


 そのミルデンに風の魔弾が迫る。

 集魔シャカの風の魔弾だ。


「――わたしも人気者だねぇ――」


 その魔弾を見据えたミルデンは全身の魔力を活性化。

 飛来した魔弾を秘魔杖剣から出た金色の魔刃で縦に両断するや、隙を見せず前進――。


 足下から魔力の煙が上がるほどの加速のまま集魔シャカに向かう。

 そんなミルデンの胴体に、魔矢が突き刺さった。

 ――否、ミルデンは魔杖から出た金色の魔刃で、その魔矢を防ぐ。


「魔弓ソリアードか!」


 ミルデンはそう叫ぶと後転。

 ソリアードの射出した魔矢がミルデンのいた場所を過ぎ去って遺物と衝突。


「――そこ!」


 シャカの声だ。

 

 後退するミルデンに、シャカは星型の円盤を向かわせた。

 円盤から出た半透明な魔刃がミルデンの頭部に迫る。


 が、ドガッと爆発音が響く。

 その集魔シャカが繰り出した星形の円盤は宙空で散った。

 暗殺一家のゲオルグが射出した雷魔獣の魔弾だ。

 雷魔獣の魔弾は連続して星形の円盤を撃ち抜いた。


「――わたしの<集魔星集刃>が!」


 雷魔獣の魔弾は床の一部を削りつつ、血長耳の兵士の体に風穴を空ける。

 集魔シャカにも雷魔獣の魔弾が向かった。


 集魔シャカは風を纏うと即座に退いて、暗殺一家のゲオルグが放った魔弾を避けた。

 しかし、


「――え?」

「もらった――」


 退いた庭園に流れている川の近くには【不滅タークマリア】の爆剣トンマジがいた。

 トンマジの火花散る長剣〝紅渚〟が集魔シャカの首に吸い込まれる寸前――。


「ぐあぁぁ」


 トンマジの体にイモリザの黒爪の刃が突き刺さる。


「――使者様の仲間の命は守ります!」

「ありがとう、不思議なイモリザさん!」


 そんなイモリザと首から血を流した集魔シャカに向けて――。

 敵の空戦魔導師ヨクシャが放った銀色の巨大魔刃が飛来。


 イモリザは銀髪の形を盾に変えた。


「あの攻撃は!」

 

 イモリザが驚くのも無理はない。

 ヨクシャが放った銀色の巨大魔刃――。

 魔塔エセルハードの上層部を覆った多重魔法の結界に罅を作り出した威力のある巨大魔刃だったからだ。


 イモリザはダメージを受けることを覚悟したように厳しい表情を浮かべて集魔シャカを守ろうとする。

 すると、ヨクシャの背後の闇から突然飛び出た存在がいた。


 その男は、血長耳の最高幹部とは言えない幹部の男。


「銀髪の女の子は大人しくペントハウスに逃げておけよ――」


 と言い放った風来縛牙コトウ。

 右手の甲から伸ばした小金色の剣で空戦魔導師ヨクシャの胴体を薙ぐ。


 空戦魔導師ヨクシャが放った皇級を上回る威力の巨大魔刃は横にズレた。

 が、ペントハウスにぶつかるかと思われた瞬間――。

 巨大な蒼炎弾が、その巨大魔刃と衝突。


 <筆頭従者長選ばれし眷属>のレベッカが放った蒼炎弾だ。 

 その巨大魔刃を外へと押し出した。

 続けざまに放たれた蒼炎弾と衝突する巨大魔刃は削られて縮小。

 更に銀色の魔刃は外へと押し出されていった。

 その直後、紫色の魔力が包む緑皇鋼エメラルファイバーの刃の群れが、ガーデン内に落ちそうな銀色の魔刃と衝突するや、派手に銀色の魔刃は粉砕。

 しかし、その散った魔刃だった破片が遺物と庭園に降り注いだ。


 遺物と庭園は破壊される。


「ミルデン、ペントハウス付近は硬いぞ――」

「分かってる」

「そして、右側は蒼炎や紫色の魔力の金属使いだけじゃねぇ、強いダークエルフの女がいやがる」

「へぇ――ジャネリスを殺した【天凛の月】の幹部かい?」

「さぁな、ま、この場にいる者は皆死んでもらう――」


 ゲオルグはそう言い放ちながら雷魔銃を撃つ。

 狙いはダークエルフの女、ヴィーネだ。

 逃げると見せかけたヴィーネは身を捻りつつ周囲を把握。

 そのまま横へと跳躍を続けながら翡翠の蛇弓バジュラに指を当てた。 

 光線の弦と光線の矢が、瞬く間に翡翠の蛇弓バジュラに生まれると、その光線の矢を放った。

 

 ゲオルグの飛翔速度は速いが、ヴィーネの光線の矢も速い。

 ゲオルグは避けず、小型の盾で、光線の矢を弾いた。

 そのままゲオルグは飛翔速度を上げて加速した。

 

 後頭部の円錐曲線の孔から出た紫色と銀色の長髪が靡く。



 ◇◆◇◆



 血長耳の連中の装備は知っているが――。

 珍しいダークエルフの女が持つ武器は見たことがねぇ――。


 が、血長耳の兵士を減らすことが重要だ。

 ソリアードは無理か。

 集魔も姑息な魔法で俺のゲ・ラ・ザ・フォールの魔弾を防ぎやがる。


 軍曹とガルファはガーデン内だ。

 下から上がってくる仲間はいないようだ。

 左側のペントハウスに侵入した仲間は軍曹にすべて斬られたようだな。

 

 しかし、あのペントハウスの右の出入り口を守る蒼炎を操るエルフと紫色の魔力を放ちつつ金属を操作する黒髪の女は何者だ――黒髪の女は血長耳の連中ではないのか?


 同じ黒髪の錬金術師マコト・トミオカと同じ能力者か?


 チッ、また蒼炎の槍が仲間を――。

 右側の戦力は異質だ。

 俺たちの戦力が次々と死んでいく。

 ペントハウスに近付くこともできない。

 しかもゲ・ラ・ザ・フォールの魔弾が通じない白色の金属壁が増えている。厄介だ。


 ソリアードは逃げたから魔矢の攻撃は減ったが――。

 ダークエルフの女が、また光る弦から光る矢を射出してきやがった――。

 魔導盾<ラミゲルの魔導>で防ぐ。

 ゲ・ラ・ザ・フォールでダークエルフの女を狙う――。

 チッ――雷獣魔弾をまた避けやがった。

 

 ん? 魔素の反応だ。

 【八本指】のマロンか?

 いや、仲間たちではない。

 

 ――紫色の魔槍を持つ存在だ。

 足下の大きい魔力の手、魔腕を使って宙空を跳んでやがる。

 跳んでいるというか飛翔しているのか?


 黒髪の槍使い?

 右肩に竜の頭部を持つ肩防具。

 軽装にも見えるが、敵の空戦魔導師か?


 周囲を確認した黒髪の槍使いは俺を睨む。


 右手がぶれると血色の魔力が一気に膨れ上がった。

 ゲ・ラ・ザ・フォールを撃ちまくる。

 

 ――え? 口に血の面頬だと?


「――なんだぁ!?」


 自身と魔槍で二つの円を描くように動く。

 避けては直角的にジグザグな機動か――。

 ――なんて機動力だ。

 礫の分裂と雷撃の波動も効いていないのか。

 魔弾を避けやがる――。

 しかも、樹槍に《氷弾フリーズブレット》と闇の杭の反撃が激しすぎる!

 なんて物量だ。樹槍の木屑が視界の邪魔だ!

 ――《氷矢フリーズアロー》に《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》も混じってやがる――げぇ、無詠唱で《光槍の罰シャイニングランサー》だと!


 ――が、ゲ・ラ・ザ・フォールと俺の<迎魔導眼>には通用しない。


 すべてを撃ち落とす――。

 《凍刃乱網フリーズ・スプラッシュ》らしき紋章魔法陣もきやがった。

 

 級は分からないが、王級魔法を超える規模の紋章魔法陣を放つとは――。


 セナアプア支部の【魔術総武会】は完全に血長耳に付いたってことか。

 俄に聖櫃アークのゲ・ラ・ザ・フォールの右のスイッチを押す。

 ならば、魔術師潰しを使わせてもらう。

 超圧魔弾杭で、あの水系最高級の紋章魔法陣ごと、大魔術師の槍使いを潰す。

 超圧魔弾杭をぶっ放した。

 超圧魔弾杭が破裂して出た粒の魔弾が紋章魔法陣を潰し、黒髪野郎をも――。


 よし――。

 え? 髪の毛の防御陣だと?

 しかも髪の毛は魔剣に変化しては女に変身しつつ、その女が魔剣を握ってガーデン内に降りるや、仲間たちを――急ぎ速度が速い雷属性の魔弾を意識。


 雷魔獣の魔銃ゲ・ラ・ザ・フォールをぶっ放す。

 が、雷属性が強い魔弾が、黒髪の女に向かう途中で閃光染みた火炎に燃やされた。


 火炎を放ったのは、槍使いの後方にいた黒い獣。

 なんだぁ、あの巨大な黒いグリフォン、いや、竜なのか?

 しかも乗っているのは黒い竜騎士か!


 四本腕の怪物も近寄ってきやがった。

 その前方にいる大魔術師の槍使いが前進してきた。

 

 が、止まる。

 ? まだ距離があるってのに突きのモーションだと?


 ――何を考えてやがる。

 しかも、雷魔獣の魔銃ゲ・ラ・ザ・フォールの魔弾を踊るように避けまくる。

 足下から血の霧? 水の鴉?


 水神アクレシスのような幻影も見えた。

 飛び道具の秘策でもあるのか?


「――にゃごぁぁぁぁ」


 猫の怒ったような魔声が黒い竜から響いた!

 あ、まさか、あれが槍使いと黒猫か!?

 ならば、このゲ・ラ・ザ・フォールの魔弾を避けまくる槍使いは……。


 あの【天凛の月】の盟主!

 

 その槍使いは動きを停めた。

 いや、ぶれた。

 魔槍、魔槍の杖か? あ、螺旋状の穂先から古竜の幻影だと?

 焼け焦げたような髑髏の形をした魔力も紫の魔槍と右腕から迸る。

 すると、周囲が震動を起こしたようなプレッシャーを受けた。

 距離はまだあるが、何かの技か?

 警戒だ。あの槍使いは尋常では無いと聞いている。

 魔導鎧ラミゲルの力を完全に出すとしよう……。

 ――<ラミゲルの母>を発動。

 体に負担が、痛みも激しいが……魔力豪商オプティマスに感謝しよう。

 これで槍使いと……。

 その槍使いの魔槍の穂先の角度が変化した刹那――。

 

 ――え? 


 槍使いが目の前だ、がぁあ、げぇ、疾い――。

 ほ、さ、巨大な魔竜ガァァァ――。



 ◇◆◇◆



 ――<紅蓮嵐穿>が決まった。

 不意を突けたようだ。

 魔導鎧を着た野郎を仕留めることに成功。


「――ご主人様、ありがとうございます!」

「シュウヤ様――大太刀を使う空戦魔導師は強い!」

「おう」


 下のマルアとヴィーネは背中を合わせながら俺に礼を言ってきた。

 大太刀を扱う空戦魔導師にソリアードの魔矢が襲来していた。


 ナイスフォロー。

 渋い方だし、カッコいい。


 キサラと相棒は宙空を旋回。

 キサラは身動きができないカットマギーが動くかも知れないと注意しているようだ。

 当然か、カットマギーは激強い。

 隻眼の空戦魔導師ビロユアン・ラソルダッカも触手で雁字搦めだ。渋い彼は降伏したが、まだ解放はしない。


 しかし、無数の雷撃の魔弾は怖かった。

 が、さすがに<脳脊魔速>からの<紅蓮嵐穿>は防げなかったな。


「主――下、女、キヲツケロ!」


 元狂眼タルナタムが忠告してくれた。


「くそがぁぁぁ、兄者を!!」


 渋い女性の声と一緒に魔杖が飛来。

 その魔杖から金色のブレードが伸びてきた。

 間合いが変わる異質な<投擲>技か。

 急ぎ出した魔槍杖バルドークの柄で、その金色のブレードを弾く。

 ジジジジジッと魔槍杖の柄に纏わり付くような魔力のブレードだ。


「主!」

「大丈夫だ」


 とは言うものの……。

 金色の魔刃の破片が、俺の体のあちこちに衝突。

 痛い。


 見えない電磁波の粒を喰らっている感じだ。

 5Gの60Hzで人をピンポイントで狙うってか?

 すると、魔杖から出ていた金色の魔力の刃が柄に収斂していった。 

 細身の魔導鎧を装備した女性の腕の下に、その魔杖が回転しながら戻ると、魔杖を回転しながら掴む。

 

 その細身の魔導鎧を着た女性は、反対の手から放射状に出した魔力の盾で蒼炎弾を防ぐ。


 <導魔術>系の能力者か。

 エヴァの<念動力>のような能力。

 または<超能力精神サイキックマインド>系のスキルを有しているのか。

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