七百十九話 魔塔エセルハードに集まった者たち
魔塔エセルハードの最上階に上がってきた浮遊岩が到着。
浮遊岩専用の扉が開く。
そこから現れたのは黒髪の錬金術師マコト・トミオカ。
三人の部下を連れている。
一人は美しい人族で着ているのは一見は中華風ワンピースだが内実は違う。
体の関節と筋肉の一部に錬金素材が融合した防護材が仕込まれている未知の装備を装着している。
手には鋼のナックルダスターを装備。
二人のメイド風衣装を着た者は腰に鞭と虫籠を持つ。
片腕だけ半袖だ。
その細い前腕の表面を這って移動するムカデが存在した。
ガルファは、そのマコトたちを凝視。
ガルファ以外のメンバーは席から立ち上がる。
注目を受けたマコトは気にせず。
壁と天井を見やる。
マコトが興味を持ったのは、そこに刻まれた文字だった。かなり古いエセル界の碑文を翻訳したマハハイム共通語――。
意味は、
『エセル、エセル、ああ、エセル、翼人の帝王エセルハード』
「マコトさん。そこの席に座ってください」
「やぁ、マコト。コンニチハ!」
メリチェグは丁寧な軍の所作で挨拶。
一方クリドススは指先を額に当てつつの『チョリッス』のようなご気楽なご近所挨拶だ。
マコトは二人の声を聞いて天井付近に向けていた視線を戻し笑顔を見せた。
二人に向けて丁寧に頭を下げる。
――シュウヤが、その挨拶を見たら、まず間違いなく日本人と分かる所作だ。
「マコトが最初か!」
乱剣のキューレルの発言だ。
普段、仲間に見せたことのない笑顔を作るからレレイが驚いていた。
キューレルは新しい腕を振るってマコトに近寄る――。
マコトは魔眼を発動。
穏やかな雰囲気を醸し出しつつ近寄るキューレルの新しい腕を凝視し、自分の施術が上手く作用しているか確認。
「腕は好調のようですね」
「おう。異質な魔人の片腕となったが、お陰で仕事は前にも増して順調だ」
キューレルの片腕の大本は、神格落ちの魔神ラテバンの眷属だったモノ。
その素材として一級品の片腕を移植する際……マコトは錬金素材だけでなくエセル界の魔機械の部品も組み込む実験を行っていた。
【血長耳】には秘密だが、新しい施術に挑戦することで自らの成長の糧に利用していた。
その錬金術師マコト・トミオカは血色に光る魔眼を点滅させるや片頬を不気味に上げた。キューレルの腕がちゃんと機能していることに喜びを覚えている顔だ。
その黒髪の錬金術師はキューレルの案内を受けて席の一つに座った。部下たちは背後に立つ。
続いて、最上階のペントハウスに到着したのは……。
上院評議員ヒューゴ・クアレスマ。
上院評議員ロビリ・サージベルト。
上院評議員トト・マジソン。
上院評議員エレスレ・カゲアフェル。
上院評議員アレゼント・エールガス。
上院評議員トトト・ママス。
上院評議員レゼミッハ・パパン。
上院評議員ククリセ・アレモレス。
上院評議員ピモリスッド・フスカルド。
上院評議員イオスン・ドリサン。
上院評議員ゲサド・アルゴモンタナ。
上院評議員ウレン・カーキマイス。
等の【白鯨の血長耳】と比較的近い立場の上院評議員たちと、護衛の空魔法士隊と空戦魔導師の数人。
続いて、下院評議員たちも姿を見せた。
下院評議員レゴレウル・マハハン。
下院評議員ロドリゴ・ユングヴェリ。
下院評議員カーキロン・ペーサリオス。
下院評議員テオレオン・マドマクス。
下院評議員ヤグルン・スルポポス。
下院評議員テレレゼン・アーボレガン。
下院評議員ホホガ・エシュード。
配下の空戦魔導師と空魔法士隊の隊長もいる。
そして、
【魔術総武会】の大魔術師アキエ・エニグマ。
【魔術総武会】の大魔術師シオン。
【ペーズワースの従者】のハリオン。
と部下数名。
【幽魔の門】のセナアプア管轄局局長サーバロアス。
と護衛の【百森眼衆】の幹部、雷剣シベリルと三剣師ブハビ。
【聖魔中央銀行】の執行役員、【グレート・ファイブ】の一人、リン・ジェファーソン。
と護衛の【神威】フェリム。
【黄昏の騎士】の副兵長デンマックス。
【魔布使い】の賞金稼ぎピアソン。
【グジュトの頂】のノノガ。
【ローグアサシン連盟】のグアゼン。
【エンアコの仕事人】の矢軍貝のエン・ボメルと盲目理力剣のアコ・オブライエン。
などの面々が、見晴らしのいいペントハウスに姿を現した。
魔強化硝子の床を興味深く見る関係者たちは、周囲のアイテムと家具に景色を堪能。
そうしてから、中央の【血長耳】の幹部たちに頭を下げてゲスト席に移動した。
ゲスト席の黒髪の錬金術師は大魔術師アキエ・エニグマを凝視するやアキエ・エニグマは直ぐにその怪しい魔眼に気づく。
人差し指と中指を擦るアキエ・エニグマは魔法を展開。
無詠唱のソレは、一瞬で、黒髪の錬金術師を震撼させた。
アキエ・エニグマは気にせず、笑顔を浮かべてマコトに会釈。
皆が座ると、メリチェグとガルファがクリドススに目配せ。
メリチェグは皆に一礼。
クリドススの傍に寄って耳打ち。
クリドススは頷くが、きょどる。
自身の小顔に指を当て、
「……え? ワタシが進行ですか?」
「そうだ。最初だけでいい」
メリチェグがそう発言。
レレイは耳元に手を当てて、
「これで全員ですか? シュウヤ様と【天凛の月】は……カフェでお菓子にケーキ?」
と、魔塔エセルバードの真下に展開している連絡員に確認。
レレイは頭部を振るうや、ビビる視線をガルファに送る。
ガルファは、そのやりとりを聞くや顔色に
カッと目を見開く。
「構わん! 始めるのじゃ」
やや怒声に近いが、渋い声で告げた。
クリドススはサッと指を揃えた正式なベファリッツ陸軍敬礼を行う――。
続いて【白鯨の血長耳】の全員が敬礼。
ベファリッツ大帝国特殊部隊白鯨の隊員たちの行動に、この場の全員の顔色が変わる。
張り詰めた雰囲気となった。
ホテルキシリアの世話人のガルファ。
下界管理委員会の顔役のガルファだからこその言葉もあるだろう。
ガルファが元隊長らしい所作の敬礼を下げると、一斉に【血長耳】の兵士たちもザッと音を響かせつつ敬礼を解いた。
軍人然としたクリドススはガルファを尊敬の眼差しで見てから頷く。
そして、皆を見据えてから、
「――皆さん、この度は【白鯨の血長耳】こと通称【血長耳】の緊急幹部会にお集まりいただいてありがとうございます」
と、早口でクリドススらしく語る。
そこに礼儀の感情はない。
しかし、クリドススの武名はセナアプアにも通じている。
ガルファはしたり顔だ。
戦闘妖精と呼ばれたクリドスス。
そのクリドススの数多ある戦果はメリチェグよりも多い。
レザライサの次に強い幹部は彼女ではないのか? そういった噂があるのを知るガルファだからこその案だ。
評議員たちは唾を飲む。
その代表格の評議員ヒューゴ・クアレスマが、
「……わたしは信頼されていると思っていたが、ち、違うのか?」
クリドススは「ア”ァ?」と片目を大きくさせるように怒りで顔を歪ませた。
『なんだ、オイ』とメンチを切ったような顔だ。
「――総長の命を狙う依頼を、何度も出した糞評議員が!」
クリドススの怒声がペントハウス中に響いた。
その瞬間――。
クアレスマの両脇に立つ【円空】の空魔法士隊隊長ヒラリーと新しい空戦魔導師が反応。
武器に手を掛けつつクアレスマの椅子を引いてクアレスマを自分たちの背後に回した。
が、クリドススは舌を少し出して、態度を一変させた。
ニコニコと笑顔を見せる。
「ご安心を、今は大丈夫ですよ。多分ですがネ」
「そ、そうなのか?」
怯えるヒューゴ・クアレスマ。
その様子を、虫も殺せないような顔色で凝視するクリドスス。
そのまま片目を瞑りつつ……。
クアレスマを守る空魔法士隊隊長ヒラリーと、名の知らぬ【円空】の新しい空戦魔導師を凝視。
空気がシンと静まった。
クリドススは睨みを強めて、
「……しかし、空極の【アルルカンの使い手】が離脱し、ネドーの首が飛んだ瞬間の掌返しですからネ。貴方に信頼はない。と、断言しておきますよ」
「信頼か。この場にわたしが来ているのだ。それで許してほしい」
周囲の評議員たちは、そのクリドススとヒューゴ・クアレスマの言葉を聞いて、肯定も否定もしない。
顔に侮蔑の表情を出した評議員もいるが、成り行きを見守る評議員のほうが多い。
この辺りは魔窟、伏魔殿と呼ばれた【塔烈中立都市セナアプア】で評議員を長らく務めているだけはある。
クリドススは、
「さぁ? 許すも何も、今、生きているでしょう」
「わ、分かった」
「あ、でも総長は、今いません。そして、ワタシはヘカトレイル支部長ですから、自然と、この魔双剣レッパゴルを振るってしまう? かも、知れないですネ」
調子に乗ったクリドススの言葉だ。
続けて、親指で自らの首を切るような仕草を取る。
『――ジ・エンド』
と、声に出していないが、そんな声が聞こえる勢いだった。
更に、立てた親指で『お前を地獄に落とす』といったように、親指の向きを下に向けて勢いよく下げた。
直ぐに視線を強めたメリチェグとガルファ。
そのメリチェグが、
「クリドスス。終わったことだ」
と、発言。
クリドススは、ニコッと笑顔を見せた。
戦闘妖精の、妖精という呼び名に相応しい可愛い笑顔だった。
そして、妖精的な雰囲気のまま、
「はーい」
と少女のような甲高い声を出す。
そのギャップが、また彼女の実力を知る者たちに恐怖を滲ませた。
すると、軍人然としたメリチェグが、
「――では、皆様、ここからはわたしが進行を続けますが……よろしいか?」
と発言。
メリチェグの声がペントハウスに響く。
自然と空気が引き締まった。
「どうぞ」
「はい。要件を速やかに」
「……他にも出席者がいるはずでは?」
と、ガルファの横に不自然に空いた席を指摘する評議員の一人。
「【天凛の月】の盟主……」
「はい、【天凛の月】の槍使い!」
「そうだ。わしはその【天凛の月】が気になっていた」
「うむ。今夜は【天凛の月】のトップも来ると聞いている」
「えぇ、はい。わたしも顔を見たいですわ……噂に聞く槍使いと黒猫を」
と発言したのは【聖魔中央銀行】の執行役員、【グレート・ファイブ】の一人、リン・ジェファーソン。
ガルファが頷くと、
「そうですな。我らの大切な盟友でもある【天凛の月】……」
そう発言すると、皆が黙った。
このガルファの言葉は、内外に重しのある言葉だ。
特に【白鯨の血長耳】の全員が身に沁みる。
暫し……空気が流れた。
すると、下のほうから……。
「にゃごおおおお~」
「あ、ロロ、そこから飛ぼうとするな! 高いから気持ちは分かるが……というか、上は硝子かよ。スカートの下からパンティが見えている方々がいるぞ……」
「ん、えっちんぐ大魔王!」
「もう。そういうことは心の中だけにとどめておきなさい」
「それはそうだが、実際、なぁ?」
「はい。ご主人様はありのままを述べているだけに過ぎません」
「ヴィーネに聞いても肯定するに決まっているじゃない」
「はは、まあな。で、ヴィーネ、ソフトクリームがほっぺに付いている――」
「――あん」
「チョ!? ほっぺじゃなくて口にキスしているとか!」
「おう――エヴァもお望みか――」
「ん――」
「まったくエヴァ。止めておいてキスを望むとか……調子に乗らないの。ヒューイちゃんが飛んじゃうわよ」
「――あ、うん」
「油断すると直ぐこれなんだから――ぁぅ」
「脇腹をゲット! って、上がったら大人しくするさ――。しかし、この浮遊岩は風を受けない。魔法防御もちゃんと施されてある。杖のような魔機械もある。あと、ここにスイッチもあるし、なんだろう、これ」
「――そのボタンを押したら?」
「――空に弾き出されるとか?」
「……シュウヤ。今、押してみたいとか思ったでしょ?」
「ははは、ばれてーら」
「――もう! それにしても高い……魔塔。月明かりに反射した雲が、すぐそことか。美しい夜景も、ロマンチック……」
「だな、ある歌を思い出す」
「ん、本当に美しい」
「にゃ~」
「ん、ロロちゃんもそう思う? あ、ここを揉んでほしい?」
「んん、にゃお」
「あ、肉球モミモミッ子のエヴァっ子。あそこを見て!」
「ん――鳥?」
「違う! あそこよ。赤い屋根で形が盾みたいな形の、ネーグルルの魔樹液が売っているお菓子店!」
「ん、あ、さっきわたしにくれた新作お菓子を売っている?」
「そう!!」
「ん、表面がカラッとしてて少し硬い素材の焼き菓子だけど、中身が柔らかくてしっとりとしてて、香りも良くて、美味しかった……」
「ふふ、エヴァが知らないお店だから、今度行こう」
「うん!」
「ピュゥ~」
「あぅん、ん、ヒューイちゃん、そこはお菓子じゃないから突かないで……もうさっきのお菓子はない」
「ヒューイ、そのメロンのお菓子を食べることができるのは俺だけだ、十年早い!」
「ングゥゥィィ♪」
「……チキチキチキ、キュゥゥ!」
「ん、ここから飛んではだめ」
「皆、そろそろ最上階だ。近づいてきた」
「ん、シュウヤの言うとおり、硝子張り! 凄い……いっぱい人がいる」
「あれ、ちょっと……皆が見ているわよ。あ、ひょっとしてわたしたちの声、丸聞こえだった?」
「……それにしても高いです」
「あぁ、キサラもここは初めてか」
「はい」
【天凛の月】の場違いな声たちは、しっかりとペントハウス内に響いていた。
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