七百十話 キサラ<筆頭従者長>の一人になる
キサラは腰に備えた魔界四九三書の一つ、〝百鬼道〟を輝かせた。
「はい! 嬉しい……では――遙場ありテ遠きかな、中道をゆく燻り狂えル砂漠烏、炯々に燃えゆク槍武人ダモアヌン、暁の魔道技術の担い手<光と闇の運び手>を探し、神ノ恵みを顧みない魔人と神人を貫きテ……法力の怪物に敗れしも、尚もセラをも貫かんとすル! そして、光神ルロディス様、闇遊の姫魔鬼メファーラ様、知記憶の王樹キュルハ様、どうかわたしとシュウヤ様を見守ってください!」
キサラは魔謳を披露。
気合いが入った。
そのキサラはアキレス師匠たちゴルディーバ族とも繋がるんだよな。
感慨深い。
よし、回りに誰もいないし、実行するか。
「分かった。キサラを<
「お願いします、
キサラは修道服を脱ぐように格納した。
素っ裸だ。
そのままダモアヌンの魔槍を振るうと、薙ぐ軌道から柄を持ち上げた。
ダモアヌンの魔槍の穂先は上に向かう。
おっぱいが上下に揺れる。
股間さんの綺麗なお毛毛も素晴らしい。
エロ云々を越えた美しさがある体だ。
まさに、ヴィーナス。
キサラは魅力的な乳房を揺らしながらダモアヌンの魔槍を縦回転させて上げるや振り下ろす。
柄頭で地面を刺してダモアヌンの魔槍を地面に立てた刹那――。
地面の亀裂とダモアヌンの魔槍の柄頭から魔力が迸る。
その迸る魔力はキサラの体に絡まった。
魔力の形は、髑髏と蔦か。
綺麗な肌に傷が……血も流れる。
が、キサラは気にしないどころか魔力が活性化した。
髑髏と蔦に攻撃を受けているわけではないらしい。
キサラは『大丈夫』と意味があるように微笑む。
同時にダモアヌンの魔槍の穴からフィラメントの魔線が迸る。
魔線の一つは鞭のようにしなり、キサラの体に絡まった髑髏の魔力と蔦を連続的に叩き散らした。
散った髑髏と蔦だった魔力の残骸はキサラの体に取り込まれる。
地面を突いたダモアヌンの魔槍もキサラは仕舞った。
「キサラ、それは」
「はい、メファーラ様の武闘血とキュルハ様の根が輝きました」
続いて周囲に出現したデボンチッチたちも微かな歌声を響かせる。
「キサラ、ダモアヌンの魔槍は消えたが、体も大丈夫なんだな」
「はい。あります。数珠も装備も大丈夫です」
一瞬で、黒色の修道服系衣裳を連続的にチェンジ。
ダモアヌンの魔槍と数珠と腰にある百鬼道も消えては出現をくり返した。
キサラは恥ずかしそうな表情を浮かべてから、また裸に戻る。
別に裸でなくてもいいが、他の眷属たちから<
準備を整えたキサラに向けて、
「よし、<光魔の王笏>――」
俺は全身から輝く血を放出。
瞬く間に、俺の半径数メートル以外の周囲が血の海と化した。
キサラも、俺の輝く血に飲み込まれる。
もの凄く血を消費した。
痛みも毎度あるが、我慢だ。
血の海は空き地の一部を覆う。
血の海の四方はフォースフィールド的な壁でもあるかのように止まっていた。
不思議と、俺の血の海は空き地から外に出ない。
血の海は透けた部分が多いから、空き地を覗かせる。
陽が射す部分は黄金色と白銀色に輝いていた。
血の海の中には血妖精ルッシーたちに水鴉まで泳ぐ。
血妖精ルッシーたちは平泳ぎをしたり、踊ったり、七福神が乗るような宝船に乗っていたりと、闇蒼霊手ヴェニューのように衣服も様々に変化が続いていた。
血妖精ルッシーたちはデボンチッチたちにも見えるし、ネーブ村の人々がこの光景を見たら興味を持つだろう。
空き地に、お宝と妖精が踊る不思議なモノが出現!?
となることは請け合い。
冒険者依頼で不思議なモノの調査が行われるぐらいだと思う。
が、幸い、ここは人の往来が極端に少ない猫たちの集会場。
石灯籠の下に階段があって納屋が幾つかあるだけで、それぐらいだ。
キサラは血の海の中で溺れることなく浮き上がる。
そのキサラの周囲が子宮か心臓のハートの形に変化しつつキサラを閉じ込めた。
血が満たす子宮か、心臓のハートを中から見たキサラの口から空気の泡が漏れる。
ハートの縁の色合いは白銀色が濃い。
が、周囲に細かな赤色の刀の模様に樹が絡んだような絵柄が血の幻影で浮く。
俺が見えているようにハートは半透明。
キサラも不思議そうな顔色を見せていた。
水中に浸かったようにも見えるキサラ。
少し苦しむように表情を強張らせる。
俺を見るキサラに『がんばれ』とメッセージを送るように頷いた。
キサラも頷く。
目を瞑ったキサラはすべてを受け入れるように両手を拡げた。
大人のキサラが揺り籠の中で眠る赤子に見える。
ハートの中の血を吸収したキサラは光魔ルシヴァルの血の海から急浮上。
キサラの白絹の髪も体もルシヴァルの輝く血に染まっていたが、瞬時に、白絹の髪と普通の肌の色合いに戻っていた。
そのキサラが片手を伸ばして、
「シュウヤ様……」
俺を呼ぶ。
その片手を握って抱きしめたい。
が、今は大事な<
キサラは落ち着いた表情だが内心は不安かも知れない。
そんなキサラを安心させようと笑みを送った。
キサラは蒼い瞳を輝かせつつ頷いて、
「はい」
キサラが返事をした刹那――。
血の海の中にあった子宮か心臓かハートの形の光魔ルシヴァルの血の入れ物が湾曲し、大地から育ったような樹木に変わる。
血の海の一部も盛り上がって樹木の根を形成。
血の海は量が少なくなった。
同時に血の海の中で渦が起きまくるが、透けた血の海だから、ルシヴァルの紋章樹の根は見えている。
その根の上は血の海を越えたルシヴァルの紋章樹の太い幹だ。
太い幹の樹皮は血の輝きが強まると隆起し、ひび割れつつも無数の枝となるように突起しては、銀色の葉と花を誕生させた。
無数の枝は左右に伸びて樹の屋根を形成。
太陽を縁取るような形の屋根で、銀色の葉と花以外にも、極彩色豊かな植物が咲き乱れた。
枝模様は夜空を彩る星々のようで煌びやかだ。
葉と花から銀色の魔力の波が放出。
波は、太陽のプロミネンス的に動き、魔力の粒子を散らす。
粒子は線となってキサラとマリオネット的に繋がっていた。
先の戦神ラマドシュラー様と合体した戦巫女イシュラン的なものか?
そして、ルシヴァルの紋章樹の幻影の形は<
他の<
当然か、血液に細胞は種族ごとに異なる。
俺には<魔雄ノ飛動>などに称号もあるから、俺自身が成長した効果もあるのか?
そして、血の海の中の樹木の根は、暗い色合いの月に見える。
一方、光魔ルシヴァルの幹と枝のほうは、神々しく明るいから太陽に見えた。
光魔ルシヴァルの根は、陰陽の陰。
光魔ルシヴァルの幹と枝は、陰陽なら陽。
だろうか。
中心のルシヴァルの紋章樹の太い幹を注視。
樹皮に二十個の大きな円を刻む。
<筆頭従者長>としての二十個の大きな円。
カバラの数秘術か、ルシヴァル占星術でもあるような魔法陣的に揃い並ぶ二十個の円だ。
それらの一つ一つの大きな円にはヴィーネ、ユイ、レベッカ、エヴァ、ミスティ、ヴェロニカ、キッシュの名が刻まれてあった。
<筆頭従者長>の一人、ヴェロニカの名がある大きな円の縁から小さい円に繋がる線がある。
その小さい円には<筆頭従者>としてメルとベネットの名が刻まれてある。
ルシヴァルの紋章樹の屋根を構成する無数に伸びた枝の表面にも小さい円があった。
小さい円には<従者長>のカルード、ママニの他に、眷属たちの名が刻まれてある。
ルシヴァルの紋章樹を見ている間にも、プロミネンスの魔力の波動と連動しているように、ルシヴァルの紋章樹に生えていた銀色の葉がそよぎ、血の海に落ちた。
葉は血の海の流れに乗って渦に沈む。
キサラとルシヴァルの紋章樹と光魔ルシヴァルの血の流れを見ていたら、自然と心臓が高鳴った。
すると、俺の心臓の鼓動に呼応するように、ルシヴァルの紋章樹はリズムのある血飛沫を寄越してきた。
血飛沫の中では血妖精ルッシーたちが駆け巡る。
と、キサラの足下の血の渦に沈んでいた銀色の葉と花が集結。
すべての血が集まると融合するや棒となった。
そのタイミングで俺の体から、再び、血が噴出。
<光魔の王笏>の意味があるのか、血が、杖の形に変化。
王笏としての意味があるような大きな杖が一つと小さい杖が無数に誕生した。
それらの血の杖は、棒に吸引されていく。
棒の先に輝く布帛が無数に付いていた。
先端は植物の盆栽のようだ。
神社の祭祀に用いるような祓串の棒か。
光魔ルシヴァルのお祓い棒は、ルシヴァルの紋章樹の前に浮かぶキサラの目の前に移動するや、布帛でキサラの体を撫でながら巡りに巡る。
俺の血を吸引しているキサラは妖艶な雰囲気を出しつつ、撫でられるたびに体がビクッと跳ねた。
同時に、俺の体も痺れるような感覚を受ける。
布帛の一つ一つに意味がある魔印が浮かぶ。
ルシヴァルの紋章樹の絵柄と<光魔の王笏>の意味がありそうな大きな杖と小さい杖が重なった絵柄が描かれてあった。
その光魔ルシヴァルの棒と俺を交互に見るキサラは恍惚とした表情を浮かべて、
「あぁ……」
と感じたような声を漏らす。
腰を震わせるキサラ。
「ぁん……」
と、また、感じていた。
股間から溢れた液が太腿を流れ落ちていく。
刹那、キサラの前髪が上がって、おでこを露出した。
そのおでこをお祓い棒が撫でるや―――。
頭蓋骨の切れ目と特殊な何かで縫った痕が滲み現れる。
ホフマンの傷か。
その古い傷痕とお祓い棒が触れた。
と、傷跡は瞬時に癒やされていった。
傷の代わりに光魔ルシヴァルの血がおでこから浮かぶ。
その血は、再びおでこに、キサラの頭蓋骨の中へと染みこむように消えた瞬間――。
額に、ルシヴァルの紋章樹が連なる蓬莱飾りのサークレットができあがった。
そのサークレットは血色に輝くと∞の形に萎れて枯れる。
が、瞬時に蓬莱飾りのサークレットに戻った。
枯れては再生をくり返す。
その度に、山のようなモノの幻影が出現。
ゴルディクス大砂漠の幻影と、ゴルディーバ族らしき人々の幻影も現れた。
山を含めた様々な幻影はルシヴァルの紋章樹にも重なっているが……キサラの記憶の一部が露見しているのか。
虚ろ気味のキサラが、血の涙を流し、
「……あぁ、ダモアヌン山……総本山が、大砂漠の嵐にも負けず残っていた屋敷が……ああぁ、皆、ラティファ、レミエル、アフラ、ローズマリー、ロターゼ、アーソン……ダモアヌンの民たちの故郷が燃えて……メファーラの祠、犀湖都市も……十侠魔人たちに……吸血鬼のホフマンに、わたしたちは負けたの、ごめんなさい。許してください。さような……ら」
声涙倶に下る。
刹那、血の涙を流していたキサラは意識を取り戻した。
しかし、おでこのサークレット。
あの形は蓬莱飾りではあるが……キサラが前に装備していた
強く輝いたサークレットはキサラのおでこに固定。
「過去が一瞬……」
そう呟くと新装備っぽいサークレットは角に格納されて消失。
血の炎も見えた。
ま、アイマスクの姫魔鬼武装と同じか。
同時に、ルシヴァルの紋章樹はキサラと重なった。
ルシヴァルの紋章樹は一瞬でキサラと一体化。
キサラの胸元から光の筋が全身に向けて走る。
同時に、その胸元から髑髏の形をした魔力と、闇色が多めの極彩色豊かな蔦か蔓のような植物が巻いた樹の形の魔力が溢れ出た。
髑髏のほうは金髪の女性を象る。
髪形は北欧風のバイキング系の変わったコーンロウだ。
額に刀傷があり色違いのヘテロクロミアの双眸。
赤い大太刀を持つ。
その闇遊の姫魔鬼メファーラ様の幻影と極彩色豊かな蔦と樹の魔力は、キサラから出た光輝く血に包まれて消える。
蔦と樹は知記憶の王樹キュルハ様を意味する?
続いて、胸の真上に円が積層的に重なった魔法陣が浮かんだ。
あの円の数は光魔ルシヴァルの<筆頭従者長>の数を意味すると分かる。
その浮かんでいた魔法陣を突き抜けた光魔ルシヴァルのお祓い棒は、そのままキサラの胸の中に侵入した。
キサラは背を弓なりに反らし「あぁぁぁ――」と甲高い声を上げた。
同時にキサラの胸から眩しい光の粒子と血の粒子が宙に迸るや陽と陰のマークを形成し螺旋の渦を幾つも作りつつ飛翔する。
その飛翔した血の螺旋の渦の群れはキサラに向かう。
キサラは血の螺旋の渦が近付く度に、吸い取ると感じる素振りを見せて、嬉しそうな表情を浮かべていた。
余裕を見せる。
さすがは四天魔女だ。
が、俺を見た直後、体を震わせる。
と、弓なりに反らした体をビクッと痙攣させた。
そして、体中の筋肉の力がオカシクなったのか弛緩。
一気にだらりと四肢が下に垂れた。
「おい、キサラ!」
俺がそう声を掛けると、キサラは意識を取り戻す。
「アァン、大丈夫です!」
と興奮しつつも元気な声を上げた。
同時に、すべての血の螺旋の渦を取り込んだ。
浮遊状態だったキサラは、床に下りた。
修道服を纏いつつ片膝で地面を突く。
少しふらついたが、やはりキサラは凄い。
キサラは立ち上がった。
表情からやりきったと、光魔ルシヴァルの洗礼を受けきったと言う思いを感じた。
傍に寄った。
キサラはこれまで見たこともないような笑みの眉開く。
晴れ晴れとした、実に、いい笑顔だ。
よし、新しい光魔ルシヴァルの<
そのキサラが、
「シュウヤ様――」
と片膝で地面を突く。
「よう、少し心配したが、さすがはキサラ。そして、キサラは家族だ。光魔ルシヴァルの<
と宣言するように話した。
キサラは頭部を上げる。
「――はい、シュウヤ様。改めて、シュウヤ様の盾と剣となり命を捧げることを、古今の神々と、このルシヴァルの魁石にかけて誓います」
まだ<血魔力>の操作はできないと思うが、キサラは、額に蓬莱飾り風のサークレットを出現させた。
鏤められた血色の石飾りが煌々と輝く。
ルシヴァルの魁石か、光魔ルシヴァルの血の証しかもな。
それともキサラの血に関係した何かか?
すると、額当てのように変化。
模様に、と把握する前にまたサークレットに変化。
初見でも思ったが、色合いは黒が多いから、アイマスクと同じように新しい姫魔鬼武装ってところか。
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