七百十一話 カリィとリズの共闘
◇◆◇◆
ここは【血銀昆虫の街】。
シュウヤたちが塔烈中立都市セナアプアに戻る前日の深夜。
昨日の赤茶色の大雨とは違い、今日の夜は小雨だ。その小雨降る倉庫街の一角を一人涼し気に歩く細身の男がいた。
その細みの男は<導魔術>を展開させつつ番傘を持つ。
番傘には【魔塔アッセルバインド】のマークが付いていた。
このことから傭兵商会【魔塔アッセルバインド】の新人だと認識する者は多いだろう。
そんな細みの男は番傘を閉じながら、そっと上を見る。
ボサボサな髪に赤茶色の雨が染み込む。
ニヒルに嗤いながら口を開けた。
長い舌を出しては……雨を舌と口で味わうと、頬を弛緩させて、
「んー、不味い♪」
と、語るや、舌を口に引っ込めた。
細みの男は目の前の倉庫を睨む。
その鋭い視線に応えたように倉庫の重そうな鉄扉が開いた。
倉庫の中から大柄の男たちと小柄の男の数名がぞろぞろと現れた。
数にして約五十人。
金色のドレッドヘアの者。
禿げた頭に入れ墨を入れた者。
ドワーフのような髭を蓄えた者。
皆、それぞれ片手斧を持つ。
続いて、左右の手に形の違うシャムシールを持つ細身の男も現れた。
やや遅れて現れた細身の男の双眸は黒。
右頬に入れ墨を入れている。
頭上に魔法防御効果のある魔虫が浮かんでいた。
左右の倉庫の扉も開く。
背後の倉庫の扉も開くと、そこからも厳つい男たちが現れた。
その数は二十人はいる。
合計百人近い集団が細みの男を脅すような声を発して近寄っていく。
細みの男は大人数を見て、焦りの顔を覗かせるように背筋を伸ばしては腰を怪しく捻りポージング。
そして、魔の息を漏らすように、
「……グフッ、これだから、闘いは好きなんだァ……」
そう喋る。
と、濡れた髪がボサボサの髪に見えるほど魔力を宿した髪が立ち上がった。
同時に股間を滾らせる。
その不気味なポージングと腰を見た大柄の男が斧を肩に当てつつ、
「噂通り、ぶっ飛んでやがる。しかし、本当に一人で来るとは……」
「仲間を呼んでいようが、この人数だ。カリィごと、その仲間も討つ」
「あぁ、ビヨルッド大海賊団に手を出した奴は必ず潰す」
「「おう」」
その言葉を聞いたボサボサ髪の男は、両手を広げつつ、
「やぁ、ビヨルッド大海賊団の方々と、細身の方は、邪道流の暗殺者かナ? しかし、随分と古い手で、ボクを指名するから一瞬手間取っちゃったよ。あ、ボクはもうフリーじゃないってことは重も承知なんだよね?」
と、この場の大柄の男たちのことを見て、笑うような態度で喋った。
「んなことは承知だ。【天凜の月】だろうと関係ねぇ。バッソリーニとニールセンの仇は取らせてもらう、掛かれ――」
「「おう」」
と、大柄の斧持ちがカリィに向けて突進。
斧を振り上げ、その斧でカリィの細身の胴体をぶち壊そうとしてきた。
カリィは<魔闘術>を活性化。
背中からゆらりと魔力が噴き上がる。
左手に持つ短剣の怪士ノあやかしを、掌でくるっと回して、半歩、半歩、足と腰でリズムを取るように、巧みに退いた――飛来した片手斧を避けたカリィだが、持っていた番傘と片手斧が衝突。
番傘は粉砕された。
カリィは、
「あぁ、せっかく会長さんからもらったのに!」
と、声を発しながらも、連続とした斬撃をヒョヒョイッと簡単に避け続ける。
踵と爪先に交互に体重移動させつつ横回転する巧みな<超脳・朧水月>を思わせる回避技風の動きを止めたカリィは、近付く大柄の男に合わせて、僅かに前進――。
短剣の怪士ノあやかしを斜めに振るい上げた――。
大柄の斧持ちとカリィは逸れ違ったように見えた。
が、大柄の斧持ちの首が半分切断された。
その大柄の斧持ちは「ひゃぁぁぁ」と悲鳴を上げつつ、切られた頸動脈から血飛沫を飛ばしながら仲間たちに救いを求めて走る。
カリィは、その死にゆく大柄の男を追うように走った。
首から血飛沫を出す男の背中を足の裏で踏み蹴って倒してから――。
開脚のまま変形カバエバジャンプの低空飛行中に<流残滓剣>を披露――。
同時に短剣の刃から眩い魔刃が迸る。
その眩い魔刃は、ムラサメブレード・改のような切れ味を見せつけるように、左右の斧を振るった男たちの腹を綺麗に斬った。
カリィは着地するや前進し――片手斧を盾にした大柄の男に詰め寄る。
そして、魔刃が不可思議に伸び縮みを繰り返す短剣の怪士ノあやかしを小刻みに振るいつつ短剣の刃と魔刃を湾曲させるように扱うや――。
盾にした片手斧を傷つけず、持っている指だけを器用に切り落とした。
「げぇ! 指がぁぁ」
悲鳴なんてなんのその、カリィは続けざまに――。
足を滑らせる機動のまま下段蹴りを繰り出す。
大柄の男の足を折った。
指が切られ足を折られた大柄の男はつんのめるように前屈みの姿勢になった。
「げぇあぁッ」
短剣の怪士ノあやかしの柄頭を支えるような持ち方のカリィは僅かに前進。
その短剣の怪士ノあやかしの刃が、ズニュリと、その前屈みの男の顔面に入り込むや、素早く、その突き刺さった怪士ノあやかしを引く。
短剣の刃が刺さっていた縦割れた傷口から血飛沫が迸る。
血塗れの大柄の男は絶句のまま倒れたが、その光景をカリィは見ない。
他の大柄の男たちへと、ゆるりとしたリズムで近寄った。
「くそ、魔闘脚が巧みすぎる!」
「素早い奴だ!」
「デルル、ジャガン、俺たちが倒すぞ!」
「「おう」」
ビヨルッド大海賊団の戦士たちは気合い声で応えた。
カリィは涼しげな表情のまま近付く。
短剣の怪士ノあやかしを振るう。
怪士ノあやかしの軌道が卍の字を宙に描くように蠢くと、デルルと呼ばれていたビヨルッド大海賊団の戦士を撫で切りにし、体中を斬られたデルルは片腕を上げるが、カリィはそれを狙っていたように――その片腕を斬り落とす。
「うげぇ、腕がぁぁ」
カリィは、その悲鳴を打ち消すように怪士ノあやかしを返した。
怪士ノあやかしは不気味な光を発して無防備になったデルルの首をスパッと斬る。
デルルを仕留めたカリィは駆けながら前転――。
ジャガンと呼ばれた大柄の男の肩に、両足の踵落としを喰らわせる。
と、その蹴りの反動で横に移動。
もう一人の大柄の片手斧持ちは、その蹴りを活かすカリィの動きを読んでいたのか――。
片手斧の刃でカリィの頭部を狙う――。
カリィは、頭上に掲げた怪士ノあやかしで、その斧刃を防ぐと同時に<導魔術>が操作中の片手斧を振るい上げていた。
その<導魔術>が握る片手斧は、下から大柄の片手斧持ちの金玉か下腹部を捉え、潰し斬る。
前転を終えたカリィは――。
ダンサーが踊りながら立つ機動で立ち上がるや即座に攻撃モーションに移った。
狙いは左右の大柄の戦士。
右手、左手と交互に持ち手を変えた怪士ノあやかしが宙を行き交う――。
刃が踊るようなリズミカルな剣術で、二人の大柄の戦士を瞬殺。
そのまま掌で怪士ノあやかしを振り回すや、その怪士ノあやかしを<投擲>。
宙を直進する怪士ノあやかし。
片手斧を<投擲>しようとした男の眉間に突き刺さる。
「――<投擲>は厄介。でも残念♪」
そう発言しつつ<導魔術>を発動。
速やかに<投擲>した怪士ノあやかしを手元に戻していた。
その血濡れた怪士ノあやかしを逆手に持って、背後の小柄な男の肩を刺す。
「げぇ! 背中に目でもあんのか!」
と腋を刺された小柄の男が叫ぶ。
――カリィは何も応えず、その『背中に目でもあんのか』男の顔面を潰すようにトレースキックを繰り出すや――飛来してきた片手斧を避けるようにステップしつつ横移動。
体を横回転させつつ怪士ノあやかしを振るい回し、片手斧を<投擲>してきた男を追う。
血濡れた短剣の刃が暗紅色の光を捲く。
次々と大柄の男たちと、ビヨルッド大海賊団の戦士たちが、怪士ノあやかしに急所を突かれ斬られて倒れていった。
血飛沫が赤茶色の雨と混ざる。
濃厚な血の匂いは雨では消せない。
「――臭いがキツイ。界隈の闇の者たちが集まっちゃうかナァ。総長は、今、いないから、ボクも危ナイかも知れナイ!?」
わざとらしく声をあげて、そう喋った。
「何くっちゃべってんだ!」
「――イヒッ」
大柄の男は突然詰め寄ってきたカリィの顔を見て「変な笑みを!?」と喋った瞬間、後頭部に怪士ノあやかしが刺さった。
その大柄の男の視界に最後に映ったのはカリィの
大柄の男の後頭部に刺さった怪士ノあやかしは<導魔術>で速やかにカリィの手に戻った。
カリィは飛来した片手斧を避けて、その<投擲>してきた集団の背後にいる細身の男を凝視。
「君は、見ているだけかい?」
と喋ってから身を翻す。
倉庫街の奥に向かったカリィ。
路地を右や左にと狭い道を進む度に現れる片手斧を持つ大柄の男を倒した。
すると、前方は行き止まり。
「ボクは誘導されたのか」
カリィはそう喋りながら、倒したばかりの大柄の男が持っていた片手斧を拾った。
くるっと身を翻して背後の男たちと相対する。
「ふはは、もう逃げ場はない!」
「掛かれ!」
カリィは涼しげだ。
大柄の男たちがカリィを押し潰そうと迫った。
カリィは、袈裟懸けに迫る斧刃を避けてから、持っていた片手斧を振るう。
斧刃は大柄の男の脇腹に刺さった。
カリィは、その片手斧の柄を離した。
「――げぇぅ」
「うーん、斧の扱いは難しいや――」
と発言しながら、背後に回った大柄の斧使いが振り下げた斧刃をサッと避けつつ回し蹴り。
脇腹に片手斧の斧刃が刺さったビヨルッド大海賊団の戦士の胸を蹴って、吹き飛ばす。
同時に<導魔術>を発動――。
短剣の怪士ノあやかしを遠隔操作。
背後の大柄の男に向けて――。
その<導魔術>が持つ怪士ノあやかしの切っ先を差し向けた。
大柄の男は二つの片手斧をクロスさせて怪士ノあやかしを防ごうとした。
が、間に合わず。
スルッと巧妙に操作を受けた怪士ノあやかしは、二つの片手斧を嘲うように避けつつ、その大柄の男の首を貫いた。
続けて怪士ノあやかしが宙を泳ぐ。
カリィを追い詰めたと思った大柄の男たちは慌てたが、遅い。
カリィの<導魔術>の操作を受ける怪士ノあやかしは速やかな機動で、大柄の男の腹を貫き、隣の男たちの足の腱を斬りまくった。
「げぇ」
「がぁぁ、足がぁぁ」
一気に男たちは蹲る。
ゆったりとした歩法で横に歩きながら、掌握察を実行して魔力を散らす。
そして、遠くで見ている細身の男を睨む。
その男目掛けて片手斧を<投擲>。
シャムシールを持つ細身の男は、カリィが放った飛来する片手斧を難なく避けた。
その細身の男はシャムシールの角度を変えて片手斧を<投擲>してきたカリィを睨む。
同時に頬の入れ墨を光らせると、
「邪道流の使い手を倒した実力は本物か……」
と発言。
大柄の男の仲間たちに向けて、
「あのカリィの強さは本物だ。なるべく複数で仕掛けろ、魔力と体力を浪費させるんだ」
と指示。
まだ様子見なのかシャムシールの角度を下げていた。
一方、カリィはスキル<短剣・荒四肢>を発動。
腰を捻りつつ細長い足を回す。
鞭のごとく振るう足蹴り技で、大柄の男たちを連続的に蹴り飛ばすや、前傾姿勢で短剣の怪士ノあやかしを斜めに振り上げ、一人の胸元から心臓を抉り取る。
その心臓が刺さった短剣の怪士ノあやかしを振るいながら、反対側の大柄の男目掛けて回し蹴りを放つ。
大柄の男の顔面に、その回し蹴りをクリーンヒットさせた。
しかし、カリィは痛みを味わう。
足に大柄の男の歯が刺さったカリィ。
「ぐ、痛いなァァ、でも、痛いからこそ気持ちイインだ!」
カリィはそう語ると、尚も動きが加速。
見事な舞を披露するように、くるくると舞い踊りつつ短剣技と蹴り技を繰り出した。
大柄の斧持ちの男たちは一気に数を減らした。
残った大柄の斧持ちは後退を始めるや、掛け声を揃え始めた。
「ビヨルッド戦士六番攻めだ!」
「「おう」」
「分かった」
皆、片手斧をカリィ目掛けて<投擲>し始めた。カリィは身を竦めて避けつつ拾った武器と<導魔術>に怪士ノあやかしで<投擲>の連続攻撃を凌いでいく。
が、さすがに数が多い。
脛に斧刃が掠った。
「痛ァァ」
カリィは痛さに思わず悲鳴が漏れる。
「今だ! いけぁぁぁぁ」
大柄の男たちは、調子に乗って更に武器を投げつけた。
が、もう投げる武器がない者ばかり。
石もないなら、鎧だろうと、なんでもかんでも、カリィに投げつけていく。
カリィはあらゆる術で<投擲>を防ぐが耳朶に鎧の金具が掠り、傷を負った。
まな板の鯉状態だった。
そこに、新手の魔素が倉庫界の屋根に出現した。
カリィは、この戦いで初めて驚いたような表情を浮かべる。
そのカリィが驚いた魔素の人物は、屋根から飛び下りつつ蒼い魔剣を振り下げた。
狙いはカリィではなく大柄の男。
蒼い魔剣は大柄の男の頭部から胸半ばまでを両断した。
蒼い魔剣を振るった人物は袖が長い灰色ローブに魔塔の絵柄があるものを着る女性。
蒼い目の女性だ。
そう【魔塔アッセルバインド】の【流剣】のリズだ。
リズは、
「――カリィ、大丈夫かい? 一人で下界にひょろひょろと出たと思ったらこれだ」
「リズちゃん♪ ありがとう。でも、ボクのストーカー?」
「……【ペニースールの従者】のメンバーと話があるついでだよ」
「ソウ? でも、ちょうどイイとこに来てくれたよぉ~」
「これで、貸し借りはなしってことでいいね?」
「勿論さ♪」
リズはカリィの甲高い声の質に眉を潜ませたが、素直に頷く。
直ぐに駆けた。
大柄の男たちとの間合いを潰すと、直ぐに蒼い魔剣と黄色の魔剣を振るう。
瞬く間に、大柄の素っ裸に近い男たちは無残に斬られていく。
指示のみで様子見ばかりのシャムシールの男が動く。
そのリズと間合いを詰めた。
――切っ先をリズの頭部に向ける。
リズは双眸をギラつかせる。
切っ先を凝視しながら――。
半歩、足を下げて腰を引いては、頭部に迫った切っ先を避けた。
そこに、もう一つのシャムシールの刃がリズの脇腹に迫る。
が、リズは逆手持ちの蒼い魔剣を眼前に掲げる形で脇腹狙いのシャムシール刃を受けた。
横の斬撃を防いだリズだったが、シャムシールの威力に押されて後退。
ローブの衣服が火花で溶けた。
ブラジャーの紐と可愛らしい絵柄が入った腹巻きの横部分が露出。
リズは後退。
その一弾指、細身の男はシャムシールに魔力を込めて素早く振るう。
「素早いが、これなら――」
後退するリズの頭部にシャムシールの刃が迫った。
リズは黄色の魔剣の剣身を、下から振るって、シャムシールの刃を上方に弾く。
黄色の魔剣の刃とシャムシールの刃が衝突し、火花が散った。
「リズちゃんに任せてばかりではいられない~」
カリィの<導魔術>が操作する怪士ノあやかしが、シャムシールを扱う男の頭部に向かう。
シャムシールを扱う男の頭上を回る魔虫を貫く怪士ノあやかし。
シャムシールを扱う男は、仰天しつつ、
「チッ」
シャムシールを引いて構えながら――。
踵を軸に横回転を繰り返す。
そのシャムシールの男を追うように、カリィが<導魔術>で操作する怪士ノあやかしがシャムシールを扱う男に向かう。
その男は屈んで怪士ノあやかしの刃を紙一重で避けては、シャムシールを斜め上に振るって、再び飛来した怪士ノあやかしを斬るように弾いた。
怪士ノあやかしは、宙を不規則に回転しながら、カリィの手元に戻る。
カリィは「うーん、この<導魔術>の剣法でもダメか……」と呟く。
するとリズは、退きつつシャムシールを華麗に扱う男を見ながら、
「邪道流の剣技かい? さっきの突き技も強烈だったねぇ、火花が星に見えたよ」
と喋りつつ……。
蒼い魔剣と黄色い魔剣を袖の中に仕舞う。
シャムシールを扱う男は、そのシャムシールを頭上に軽く放り投げてから、片手を伸ばしリズを指す。
「――流剣。お前に恨みはないが、このままカリィの助っ人を続けるなら、お前も殺す……」
そう宣言しつつ、背中に回した片手で、落ちてきたシャムシールの柄を掴んだ。
「わたしも恨みはないが、カリィはもう、わたしたちの仲間なんだ。貸し借りはこれでチャラだがね」
カリィはとぼけた面をわざと作り、
「嬉しいことを! あ、ボクも邪道流に恨みはナイヨ?」
このカリィの言葉に頭に血が上ったシャムシールを扱う男。
強く、そのシャムシールをその場で振るう。
「――あぁ? くそカリィ! 兄弟を殺したのはお前だろうが! とぼけた面を寄越しやがって。俺がお前を殺す。そして、流剣、邪道流の邪魔をするならお前も斬る。カリィの味方を続けるなら、呪いの島ゼデンの者が、お前の組織の敵に回ると思え」
「別にいいけどさ。カリィが所属している組織の総長のことは理解しているのかい?」
「【天凜の月】だろう。槍使いの名は聞いている。所詮は武芸者の成り上がりに過ぎん! 【邪道流峰牙門】の敵ではないわ!!」
この文言を聞いたリズとカリィは驚く。
互いに目配せをして、溜め息を吐いた。
「ほら、ゼデンは東の島だし……あの総長のことを知らなインだよ」
「まぁそうだろうとは思うが、シュウヤも色々と厄介事を背負っているねぇ……」
リズはカリィの言葉を待ったが、カリィはどこ吹く風、怪士ノあやかしを舐めるように扱っては、「ふふ」と嗤う。
リズは体が一瞬、弛緩してしまうが、直ぐに気を取り直し、相対するシャムシールを扱う男を見て、
「……で、シャムシールの旦那。あんたの名は?」
「【邪道流峰牙門】が一門。師匠シリュウキ様の三番門弟ホクン・イザクイだ」
「そうかい、わたしは【魔塔アッセルバインド】の流剣リズ・フラグマイヤーだ。いざ――」
「おう!」
リズとホクンは武芸者らしく声を出した。
前傾姿勢のまま互いの武器を振るう。
リズとホクンの速度は互角。
蒼い刃とシャムシールの刃が衝突。
二人の裾や袖が風に舞う。
瞬く間に十合を打ち合う。
「ボクもいるよ?」
「んなことは分かってる!」
ホクンはそう叫ぶと、魔糸が柄頭から出たシャムシールを<投擲>。
「「え?」」
カリィとリズは驚く。
カリィはシャムシールの刃を怪士ノあやかしの柄で防いで、後転。
ホクンはシャムシールの柄から出た魔糸を手元に引いて、シャムシールを手に戻していた。
ホクンは反対の手が握るシャムシールをリズの首を刎ねようと横に振るった。
リズは横移動で避ける。
「カリィ、いくよ」
「うん♪」
リズとカリィは連携。
カリィは<導魔術>で操作する短剣の怪士ノあやかしをホクンの頭部に向かわせる。
が、ホクンは避ける。
更にホクンは「邪道・速羽連」と呟くと、一段階加速した。
加速技を巧妙に用いてシャムシールを振るう。リズとカリィは避けた。
二人は反撃を繰り出すが――。
ホクンは速やかに後方に跳躍。
再び、反転するホクン。
前転しつつリズにシャムシールを振るい落とす。
リズは蒼い魔剣で受けて往なす。
ホクンは続けて、反対の手が持つシャムシールの刃で、隣のカリィの胴を狙う。
カリィは受けず。
シャムシールの刃を避けつつ下段蹴りをホクンに向けた。
ホクンは片足を上げカリィの蹴りを避け、リズの突きの反撃を反転して避ける。
直後、反転。
リズの側面に回り、シャムシールを横に振るった。
リズは扇状の斬撃のシャムシールの刃を蒼い魔剣の峰で受けた。
火花を散らしながら横に移動。
リズのフォローにカリィが前進。
進行性剣法から繰り出された<刺突>系の突き技を半身で避けるホクン。
リズの反撃も屈んで避けた。
二人の攻撃を避けて往なすホクン。
息を整えるように体の<魔闘術>を活性化させるや、倉庫街の壁に跳躍。
壁を走りだす。
足の裏に何か仕掛けがあると分かる。
カリィとリズも<魔闘術>を活性化させつつ、壁を走った。
そのまま逃げるホクンに攻撃を繰り出すが――ホクンは身を翻して避けつつ地面に回転しながら着地。
カリィが「ボクが前に――」
とウィンクしながらリズの前に出る。
カリィは、ホクンに向けて
「シャムシールの扱いが凄く上手。そして、強いね♪ でも――」
「囮か?」
自ら囮になるかのようにカリィは突進。
リズがすぐ背後に見え隠れ。
カリィは更に、手元の怪士ノあやかしを転がして、掌から消した。
「な?」
刹那、ホクンの判断に迷いが出た。
リズの「<流剣・速王>――」がホクンに迫ったが、ホクンはシャムシールの柄頭で、その蒼い魔剣の攻撃を防ぐ。
「チッ、反応が早い」
カリィも続く。
「――何度も見た短剣技だろう? ただの<導魔術>で操作した短剣なぞ、邪道流には通じないぞ?」
と発言。カリィは、
「分かってるヨ。でも、強いと見えないこともあるもんだ――」
「変な笑い顔で誤魔化しているつもりか? 有名な暗殺者も【流剣】も、たいした実力はないな……」
と発言しては、影のような魔力が覆う短剣のようなモノをシャムシールでたたき落としたように見えたが――。
そのホクンの眉間には本当の怪士ノあやかしが突き刺さっていた。
寄り目になるホクン。
「……ぁ!? こ、これ……」
と言い残して、その場で倒れるホクン。
すぐにカリィは<導魔術>を操作。
倒れるホクンの眉間から怪士ノあやかしを<導魔術>で引いて手元に戻していた。
リズはクレインと同じように口笛を吹く。
「ひゅぅ、なんだい、その幻影のような、短剣術は……見たことがない」
「ウン、見て生き残った標的はいないから、リズちゃんは貴重かも?」
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