七百七話 荒魔獣モボフッド狩りとみるみるみーる?
「――相棒、炎は限定的に留めろよ!」
「にゃおおお」
「ん、シュウヤ、わたしたちなら平気。シュウヤは矛として暴れて! 依頼の素材回収もわたしたちがしちゃうから!」
背後の皆の声は頼もしい。
皆の声に応えるように振り向きざま――。
ムラサメブレード・改の鋼の柄巻を掌の中でくるっと回す。
ブゥゥゥンッと音が響いた。
そのムラサメブレード・改を荒魔獣モボフッドの集団目掛けて<投擲>。
回転するムラサメブレード・改の青緑色のブレードが荒魔獣モボフッドたちを一気に切断。
<
ムラサメブレード・改を引き戻す――。
ブーメラン軌道で戻る鋼の柄巻をキャッチ。
そんな俺目掛けて、他の荒魔獣モボフッドたちが集まってくる。
<光魔ノ秘剣・マルア>を意識。
召喚したデュラートの秘剣から黒髪が大量に迸る。
黒髪は、瞬く間に、マルアの姿となった。
デュラートの秘剣を握り合った俺とマルアは<陰・鳴秘>を実行。
音波の剣筋が、迫る荒魔獣モボフッドの放った杭と荒魔獣モボフッドを斬る。
「――マルア、お前にデュラートの秘剣を託す。そして、背後のフォド・ワン・ユニオンAFVと草花が咲く結界の中心にある音階段が、俺たちの領域と思え。それ以外の骨と獣のすべてが敵だ」
「はい、分かりました!」
マルアは少し下がる。
迫った杭を、デュラートの秘剣で両断したマルアは、荒魔獣モボフッド軍団の小隊目掛けて突貫。
『わたしも外に出ますか?』
『おう』
『分かりました』
俺の左目から出た常闇の水精霊ヘルメ。
ヘルメはフォド・ワン・ユニオンAFVに向かう。
すると、太い魔矢が飛来。
骨剣魔人ブブルー勢力の射手たちが放った遠距離攻撃だ。
荒魔獣モボフッド軍団にも太い魔矢が降り掛かる。
荒魔獣モボフッドたちは太い魔矢に射貫かれて倒れていった。
太い魔矢は鏃も大きい――と、太い魔矢を放った存在たちを確認。
骨製だとは思うが……。
太い魔矢を放つ弓は、剣腕でもあるし、大きい弩かコンポジット弓でもあるようだ――。
あの射手の中隊も骨剣魔人ブブルーの亜種かな。
奥には砦もある。
手前の石塁に陣取る骨剣魔人ブブルーの射手たちを見ながら――。
右手のムラサメブレード・改を上下に振るった。
連続的に飛来する複数の太い魔矢を叩き落とす。
太い魔矢は――。
俺だけでなくフォド・ワン・ユニオンAFVと相棒たちにも向かう。
ヘルメが氷槍で迎撃。
迎撃が間に合わない太い魔矢と衝突したフォド・ワン・ユニオンAFV。
電磁装甲と似た装甲に触れた太い魔矢は爆発。
頑丈だ。
タイヤを保護するために変形したフェンダーにも衝突。
太い魔矢は折れて跳ね飛ぶ。
アクセルマギナが操縦するフォド・ワン・ユニオンAFVが少し前に移動。
レーザーパルス180㎜キャノン砲の砲身が短くなった。
ボールタレットの位置が斜め上に自動展開。
ガードナーマリオルスの丸い頭部がぽこっとフォド・ワン・ユニオンAFVの上部から露出。
ガードナーマリオルスが操縦しているように見えるボールタレットに備わる一対の重火器が連続的に火を噴いた。
宙空で、重火器の弾を喰らった太い魔矢は破裂するように散る。
――ドドドドッと少し遅れて重低音が響いた。
重火器に負けず劣らず、エヴァが<念動力>で操作する
足下の石塁ごとサイケに散る。
骨剣魔人ブブルーの射手の一隊は壊滅に近い打撃を受けたようだ。
が、倒しても倒しても骨剣魔人ブブルーの集団は現れる。
骨剣魔人ブブルーの砦は奥にもあるからな。
崩壊した石像が積み重なって、塹壕を形成するような地形が多い。
「にゃおおお」
相棒も元気がいい。
ロロディーヌは尻尾を振るった。
エヴァに忍び寄って不意を突こうとした骨剣魔人ブブルーの数体を吹き飛ばす。
続いて突貫してくる接近戦部隊の骨剣魔人ブブルーたちに向かって突進する相棒。
「にゃごぁぁぁ」
と咆哮しつつ首からの一対の触手から出した骨剣と、前足を振るう。
触手骨剣と前足の爪が骨剣魔人ブブルーを四つに両断。
続けざまに、他の骨剣魔人ブブルーの四腕の剣を、触手骨剣で壊す。
と、指向性のある細い炎を吐いた。
そのビーム的な炎は、土塁の上から跳躍しつつ
見事なヘッドショット。
「ンン――」
すると、鳴いたロロディーヌ。
腕を失った骨剣魔人ブブルーを捕まえた。
神獣としての大きな口に骨剣魔人ブブルーを運ぶ。
と、ガブッと頭蓋骨を噛む。
そのまま、むしゃむしゃと頭蓋骨から食べていた。
骨剣魔人ブブルーは、勿論、見事なまでに骨だが、ポッキーに見えてくる。
更に、神獣ロロディーヌらしく、触手を扇状に展開――。
孔雀が羽毛を拡げる機動の触手から骨剣が出るや太い魔矢をすべて弾き、斬る。
更に、キサラと戦う骨剣魔人ブブルーたち目掛けて伸びた複数の触手。
キサラを囲う骨剣魔人ブブルーの数体の背中を貫いては、その骨剣魔人ブブルーを玩具に見立てて遊ぶように振るい回す。その振り回された骨剣魔人ブブルーと衝突した骨剣魔人ブブルーの隊列は崩れた。
すると、神獣ロロディーヌは骨剣魔人ブブルーたちが刺さった触手の群れを右側に移動させる。
右側の骨剣魔人ブブルーの他の隊は、それらの骨剣魔人ブブルーが絡んだ相棒の触手と派手に衝突。
ドミノ倒しでもするように、次々と骨剣魔人ブブルーの隊を打ち倒す相棒の触手。
しかし、大柄の骨剣魔人ブブルーが、巧みに四本の剣腕を動かした。
触手に絡む骨剣魔人ブブルーを斬って捨て、四本の剣腕で、相棒の触手骨剣を受け止める。
攻撃が止められた相棒は毛が逆立った。
「――にゃご!」
怒ったロロディーヌ。
触手骨剣が膨れる。
四本の剣腕が受け止めていた触手骨剣が膨れた。
すると、膨れた触手骨剣から、骨の棘が放出。
大柄の骨騎士ブブルーは骨の棘に全身を貫かれる。
蒼白い光を発して爆発。
神獣ロロディーヌの血を活かした新技が炸裂したか?
その触手骨剣の見た目は血色に輝く針金が巻き付いたバット的。
血を活かした王牌十字槍ヴェクサードの能力を真似た?
王牌十字槍も血濡れた剣刃を無数に出すことが可能だ。
相棒も強力なスキルか攻撃を出したし、エヴァとキサラに皆なら大丈夫そうだ。
――俺にも太い魔矢が飛来。
<水車剣>と<飛剣・柊返し>で太い魔矢を切断。
すると、太い魔矢の攻撃が止む。
「皆、頼むぞ!」
と声を発しながら、左の荒魔獣モボフッドたちを再び凝視。
太い魔矢の連続攻撃が止んだ効果で、荒魔獣モボフッドたちは集結していた。
俺たちの存在はここではイレギュラーだからな……。
骨剣魔人ブブルーの勢力も荒魔獣モボフッドの勢力も驚いているだろう。
岩場の高い場所に陣取る荒魔獣モボフッドたちは……どれくらいいるんだろう。
魔素を有した壊れた石像と重なっている……。
分かり難いが数千か?
こりゃ、ゲッセリンクの先祖も魔封層に閉じ込めるわけだよ。
ま、互いに争う状況だ。
セウロスの神々を祭るハードマン神殿には光神の封印扉もある。
<音守・大楽譜魔封>があるから一階に来られる存在は、稀なのかも知れないが……。
ま、強い水のモルセルたちもいるし、封印が無かったとしても大丈夫とは思うが。
そんな荒魔獣モボフッドたちを、精霊流しのように行き交う羽虫の群れが怪しく照らす。
近寄ってきた荒魔獣モボフッドたちが、毛を放出。
荒魔獣モボフッド軍団が怒りを体で表現するように背中の体毛が盛り上がり、それらの体毛が一斉にウェーブを起こすと、ウェーブした体毛が、急激に硬化した?
体毛から針鼠的な印象を受けた。
その針的に硬化したであろう体毛を俺たちに向けて飛ばしてきた。
飛来する体毛の群れは螺旋しつつ杭に変化。
「――杭は200を優に超えています」
人工知能ってより人工生命体っぽいアクセルマギナの声が戦闘型デバイスから響く。
フォド・ワン・ユニオンAFVとリンクする範囲はどの程度なんだろうか。
同時に<水車剣>を繰り出した。
袈裟懸けに振るったムラサメブレード・改からブゥゥゥンッと音が響く。
その青緑色のブレードが、杭を捉え、杭を斜めに両断。
が、斬った杭の片方が向きを変えて頭部に迫った。
頭部を傾けたが、回避は間に合わず、杭の欠片が耳の端を削り取る。
激しい痛みが走った。
が、構わず――。
連続的に、俺に飛来する杭をムラサメブレード・改の青緑色のブレードで斬り捨てた。
荒魔獣モボフッドの集団は間髪容れず、次々と毛を放出――。
――俺は<
エヴァのような超能力――。
念力的な斥力を持った衝撃波の<
血魔剣で<血外魔道・暁十字剣>を実行――。
ムラサメブレード・改で<水車剣>――。
上から斜め右にブゥゥン、下から斜め左にブゥゥゥンと、連続した音を響かせる剣技で杭を斬りながら、<
続いて、血魔剣で<飛剣・柊返し>を実行――。
――杭を斬りに斬る。
飛来する杭が減った。
すると、毛を放ち過ぎたのか、全身の毛が抜けた荒魔獣モボフッドが増えた。
毛が抜けた荒魔獣モボフッドたちは四本の腕を振るって、魔法陣を宙に描くや否や体毛が急に生えた。
毛を再生させたか、体から魔力がオーラ的に噴き上がる。
魔力の回復と増加の効果もあったのか。
毛が豊富な荒魔獣モボフッドの集団は、俺たち以外のブブルーの射手に対しても毛を飛ばす。
近付いてきた毛が無くなった荒魔獣モボフッドには<
転がってきた毛なしの荒魔獣モボフッドを蹴飛ばす他の荒魔獣モボフッド。
仲間だと思うが、酷い扱いだ。
仲間を蹴飛ばした荒魔獣モボフッドは前方の空間を確保する。
その荒魔獣モボフッドは、体に生えた毛に魔力を通すと、用心したのか距離を取った。
前線が止まったことで後続と中衛の荒魔獣モボフッドたちはぶつかりあっている。
が、直ぐに背後の一本角を持つ荒魔獣モボフッドが咆哮。
命令か。
荒魔獣モボフッドの集団は戦慣れした動きだ。
クリスマスツリー型の先端が細まる魚鱗の陣形を整えた。
骨剣魔人ブブルーの射手の連隊が放つ太い魔矢を浴びた荒魔獣モボフッドの部隊は散開戦術を取った。
俺を狙う荒魔獣モボフッドは射線を意識した動きだ。
骨剣魔人ブブルーの小隊と中隊に砦と陣地目掛けて闇雲に突貫していた部隊が多かったが……。
意外に頭がいいのか。
いや、猪突猛進タイプもいるが、この丘の荒魔獣モボフッド部隊を統率する部隊長の能力が高いってのもあるのか。
すると、数匹の荒魔獣モボフッドたちは、眼を光らせて怒った。
一斉にゴリラの如く腕を振るって拳と爪剣で何回も地面を叩いて斬る。
地面が拳の形に陥没し、至る所の地面が線状に刻まれた。
岩の破片が飛ぶ。
荒魔獣モボフッドたちは叩くのを止めると、両腕を動かしつつマッスルアピールを始めた。
知能が高いと思ったが、ここで、その行動は致命的だ。
ま、鷲の頭部と獅子の胴体にカモシカ系の太い足だ。
古代狼族のような獣の習性が強いモンスターってことだろう。
モンスターより種族と言ったほうがいいのかも知れないが。
血魔剣とムラサメブレード・改の切っ先と両手首を荒魔獣モボフッドたちに向けた。
狙いは先頭の荒魔獣モボフッドの頭部。
――<鎖>を発動。
両手首から一対の<鎖>が伸びた。
狙い通りマッスルポーズを行う荒魔獣モボフッドの頭部を二つの<鎖>が派手に貫く。
――よっしゃ、このまま<鎖の念導>を活かす。
俺は指揮者にでもなったように両腕を左右に拡げた。
左右に分かれた<鎖>は両脇にいた荒魔獣モボフッドの脇腹を貫いた。
血塗れの二つの<鎖>は、更に隣にいた荒魔獣モボフッドの両足を穿つ。
<血鎖の饗宴>ではない<鎖>だが……。
<血鎖の饗宴>の血鎖の群れに見えた。
左右の<鎖>は地面の岩を削るように地面を這うように移動し、左右の端にいた荒魔獣モボフッドの足から下腹部を貫いた。
すると素早い荒魔獣モボフッドの集団が、躍動する<鎖>にのし掛かってきた。
体を張った攻撃だ。
念のため<鎖>を消去してから――。
群がっていた荒魔獣モボフッドたちに向け――。
<血鎖の饗宴>を発動。
全身から出た血鎖の群れが<女帝衝城>の槍衾的に荒魔獣モボフッドたちを襲う。
荒魔獣モボフッドたちを貫きまくる<血鎖の饗宴>。
他の荒魔獣モボフッドたちにも<血鎖の饗宴>を差し向けた。
が、他の荒魔獣モボフッドたちは各自バラバラに逃げる。
俺は右に逃げた荒魔獣モボフッドたちを追ったが、止まった荒魔獣モボフッドがいた。
そいつは、銀色の髪の荒魔獣モボフッド。
双眸に五芒星を生み出す。
魔眼か?
細身の体を活かすような速度から爪剣を振るった。
接近戦かと思ったが、違う。
その爪の先から液体的なモノを地面に撒いた。
液体は粘土状の樹状突起のようになって血鎖に伸びてくる。
血鎖は凍ったように固まった。
カウンター用のスキルを持つ荒魔獣モボフッドか!
粘土攻撃を喰らった血鎖の一部が腐ったように煙を出して消えた。
即座に<血鎖の饗宴>を消す。
銀髪の荒魔獣モボフッドは撤収するように逃げる。
他の新手の荒魔獣モボフッドたちが近寄ってきた。
銀髪の荒魔獣モボフッドは無理に追わない。
近付いてくる荒魔獣モボフッドたちにはこれだ!
<鎖型・滅印>を意識――。
<鎖>と剣術と体術を活かす近距離戦に移行。
前傾姿勢で爪剣を避けつつ血魔剣の突きで荒魔獣モボフッドを倒す。
続けて、右手首から<鎖>を出しては、荒魔獣モボフッドの体に絡めて<鎖>を収斂。
反動で急速に俺に飛来する<鎖>に絡まる荒魔獣モボフッドとの間合いを詰めつつムラサメブレード・改を振るった。
荒魔獣モボフッドの体を真っ二つ。
右から迫る荒魔獣モボフッドには右回し蹴りを実行。
左の戦場を制するように躍動する。
前線の荒魔獣モボフッドを仕留め続けた。
神剣サラテンの沙を運用するのもいいが――。
戦場では<鎖>も便利だ。
<鎖>にぶら下がった荒魔獣モボフッドの死骸を振るい落とす。
荒魔獣モボフッドの死骸をも武器にするように<鎖>を振るう。
左右から迫る数体の荒魔獣モボフッドを死骸ハンマーで吹き飛ばした。
<鎖>にぶら下がる死骸がすり減ったから<鎖>の形を変えることにした。
イメージはハンマー。
一対の<鎖>のハンマーフレイルを振るい回す。
続いて、流星錘を扱うヴェハノをイメージ。
サイデイルで、ムーの新しい師匠となっている細身の
――彼女の流星錘の武術は素晴らしい技術だった。
――左手のハンマー<鎖>が荒魔獣モボフッドに向かう。
鷲の頭部を捉えて破壊。
右手から伸びたハンマー<鎖>は右前に向かう。
荒魔獣モボフッドの足に絡まるハンマー<鎖>。
転倒した荒魔獣モボフッド目掛けてダッシュ。
――スライディングを実行。
スライディングしつつ剣圏内に入った直後に、ムラサメブレード・改を下から振るう。
転倒していた荒魔獣モボフッドは起き上がりつつ四本の爪で青緑色のブレードを弾こうとする。
が、間に合わず。
ブゥゥゥンと音が鳴る青緑色のブレードは四本の爪を削りつつ獅子の胴体を捉えた。
そのまま胴体から鷲の頭部を溶かすように斬り上げる。
ムラサメブレード・改を下から振るった俺に素早い荒魔獣モボフッドが寄ってきた。
四本の爪剣で、俺の胴体を刺そうとしてくる。
俺は<血魔力>と<魔闘術>を意識。
右手首の<鎖>で盾を作った。
速度を微妙に変えて半身の姿勢でゆったりと横移動。
荒魔獣モボフッドの動きを凝視しては……。
四本の爪剣の攻撃を<鎖>の盾で往なし続けた。
魔闘術系統の加速術か、独自のスキルを持つのか、人族や魔族の武芸者のように、速度が速まる時がある荒魔獣モボフッド。
――中々、強い。
――タイミングを見つつ盾の<鎖>を解く。
同時に爪剣の下を滑る軌道で血魔剣を伸ばした――。
片手の肩と肘を内に畳むイメージで繰り出した血色のブレード。
槍なら<刺突>――。
剣の<刺突>系の基本技は、まだ習得できていないってのが悲しい。
<水車剣>やら色々と奥義クラスのスキルも学べたが、スキルも単純なようで奥が深い――。
<刺突>をイメージしつつ血魔剣を伸ばす。
その血色のブレードが荒魔獣モボフッドの胸元を貫く――。
ジュアッと蒸発する音が響く。
――キッシュの長剣技、<突剣・一火>を真似しているんだがなぁ。
スキルは獲得ならず。
案外基礎中の基礎こそが奥義なのか?
アキレス師匠の珠玉の言葉が脳裏を掠める。
荒魔獣モボフッドの獅子の胴体と鎧も真っ赤に燃えたことで走馬灯のように浮かんでいた思い出が消えた。
即座に左手の血魔剣と右手の鋼の柄巻を消す。
雷式ラ・ドオラを左手に出す。
右手に血魔剣を召喚。
雷式ラ・ドオラの柄で、左の荒魔獣モボフッドの袈裟懸けを防ぐ。
荒魔獣モボフッドの突き技には爪先半回転で対処。
右に避け、側面に移動しつつ雷式ラ・ドオラの<豪閃>――。
袈裟懸けを繰り出した荒魔獣モボフッドの首を雷式ラ・ドオラの杭刃が刈る。
そんな<豪閃>を繰り出した俺に他の荒魔獣モボフッドが突貫。
四本の腕の爪剣で腹を狙ってきた。
俺は右手の血魔剣を逆手に構える。
髑髏の柄を掲げるポーズのまま血色のブレードで四つの爪剣の切っ先を受けて、脇腹を守った。
同時に雷式ラ・ドオラから鋼の柄巻に武器チェンジ。
ムラサメブレード・改の握りを強めつつ、その鋼の柄巻を振るう。
――<飛剣・柊返し>を実行。
俺の脇腹を狙った荒魔獣モボフッドの腕を二本斬り上げた。
「グォォァァ」
悲鳴を上げるが、背後に気配。
背後から迫った荒魔獣モボフッドには<導想魔手>の拳を衝突させる。
続けざまに――血魔剣を真横から振るった。
――<血外魔道・暁十字剣>。
二本の腕を切り落とした荒魔獣モボフッドの胴体を血色のブレードが薙ぐ――。
輪切りになった荒魔獣モボフッドの体が横に飛ぶ。
血飛沫を吸収。
同時に戦況を把握するように爪先半回転を実行。
背後の吹き飛んだ荒魔獣モボフッドは仲間を巻き込んで転んでいた。
しかし、まだまだ数が多い荒魔獣モボフッド。
仲間が倒されても俺に近寄る荒魔獣モボフッドは多い。
先ほどの<血鎖の饗宴>に対処した銀髪の荒魔獣モボフッドはイレギュラーな存在か。
荒魔獣モボフッドが振るう四本の爪剣を<鎖>と両手の武器で往なしたところで――。
俺は反撃に出た。
右下へと振るい下げたムラサメブレード・改――。
青緑色のブレードで荒魔獣モボフッドの足を掬うように切断。
左右と前から荒魔獣モボフッドが迫ったが織り込み済み。
前転しつつ両足を削ろうとした無数の爪剣を跳躍する形で避けた。
背中と脇腹に爪剣が掠ったが構わず踵落としを――。
左から爪剣を振るった荒魔獣モボフッドの頭部に喰らわせた。
頭部を粉砕。
頭部を破壊した荒魔獣モボフッドの胴体を足場に利用。
横に跳びつつ鋼の柄巻に備わる〝血の水滴〟のボタンを押す――。
宙空から<飛剣・血霧渦>を実行――。
螺旋を描く青緑色のブレードが、斜め下の荒魔獣モボフッドを捉える。
鷲の頭部を粉砕、やや遅れて上半身を細切れにした。
――ムラサメブレード・改が振動。
鋼の柄巻から、血と白銀の霜的な魔力粒子が迸った。
アオロ・トルーマーさんの思念は来ないが、<銀河騎士の絆>を感じた。
着地しながら呼吸を整えるように<魔闘術の心得>を意識。
風槍流の呼吸法も実践しつつ深呼吸。
ゆったりと構え直す。
すると、
「デデッ、グボルガ!」
「ゲッツィ!!」
丘の荒魔獣モボフッドたちが叫ぶ。
背後の一本角の荒魔獣モボフッドは、四本の爪を俺たちと骨剣魔人ブブルーの砦に向けていた。
『ゲッツィ!!』とは、『あそこを攻めろ!!』だろうか?
ローマの英雄だった元10番ではないな。
鷲の頭部も他とは少し造形が異なるし、獅子らしい毛並みと金色と黒色の筋肉鎧は頑丈そうだ。
マント的なポンチョも似合う。
そして、足並みを揃えて突貫してこない。
さすがに<血鎖の饗宴>に俺の動きを見たら警戒するか。
「グァッ、ルドッグル!! ルッドル!! ガルァァ!!」
大柄の一本角を頭部に持つ荒魔獣モボフッドが声を荒らげる。
エクストラスキルの<翻訳即是>でも翻訳は不可能だが……。
たぶん『者共、奴らを倒せ、倒せ、殺せェェ!』だろう。
あのユニコーン的な一本角はマバオンを想起した。
更に、一本角の荒魔獣モボフッドは眼から魔力を発すると丘の足下が光る。
魔法陣を足下から発生させた。
魔眼と連動か。
地面を這う巨大魔法陣は、一瞬でオレンジ色に光る球体に変形しつつ浮かぶ。
地面の力を吸収でもしたのか?
球体は火球か、魔球か。
魔球には太陽のプロミネンス的な魔線が迸る。
一瞬、地底神ロルガを想起。
独立都市フェーンでの戦いも激しかった。
オレンジの魔線は放射状に拡がると他の荒魔獣モボフッドたちに付着した。
オレンジの魔法の魔線を全身に浴びた荒魔獣モボフッドたち。
各自痺れたように体を震わせると、毛並みの色合いが金色と銀色と黒色となって光る。
その荒魔獣モボフッドの集団は、
「グアァッ、グゲレァア!!」
獅子の毛にも赤色と銀色が混ざっている。
指示を受けた荒魔獣モボフッドたちは四本の腕に生えた爪を変化させた。
爪の形と幅も変わる。
グラディウス、レイピア、クレイモア、ロングソード、鉤爪。
様々な武器の形に爪を変える荒魔獣モボフッド。
古代狼族的な爪式獣鎧か?
荒魔獣モボフッドには、爪を鎧にする能力はないようだが……。
魔法の効果もあって、武器の形を変えられるのか。
即座に<血鎖の饗宴>を発動。
右側の荒魔獣モボフッドたちを血鎖の群れが波頭となって襲う。
一瞬で血鎖の槍衾を喰らった荒魔獣モボフッドの小隊は血鎖の中に消えた。
が、他の荒魔獣モボフッドたちは<血鎖の饗宴>を避ける。
個人戦ならいいが、ここは戦場だからな……。
多数を一度に倒せる<血鎖の饗宴>は便利だが……。
先の銀髪の荒魔獣モボフッドのように何回も見せたら……。
警戒されて対処もされる。
そう考えてから――。
荒魔獣モボフッドたちに<鎖>を差し向けた。
荒魔獣モボフッドたちは避ける。
続けざまに繰り出した<鎖>は爪剣と衝突。
あっさりと弾かれた。
速度に緩急があった<鎖>の機動を読まれた。
荒魔獣モボフッドたちは、俺の<鎖>を掴むと自身の体重を活かすようにのし掛かって強引に押さえようとしてきた。
ならば、と――血魔剣で地面を刺して<鎖>を収斂。
<鎖>を掴んでいた荒魔獣モボフッドを引き寄せた。
素早くムラサメブレード・改を振るう――。
<水車剣>の青緑色のブレードがモボフッドの獅子の胴体を捉えて斬った。
しかし、他の荒魔獣モボフッドたちは<鎖>を離して逃げた。
四本の腕とカモシカのような足を使った機動は速い。
左側の主戦場から逃げた奴は放っておく。
丘で此方を窺う一本角の荒魔獣モボフッド。
Sランク討伐の亜種の範疇なのか?
荒神モボフッド? の直の眷属か。
一本角の荒魔獣モボフッドの直参的な眷属は逃げない。
親衛隊?
陣形を素早く整えた。
ダークエルフなら縁遠兵というやつか?
それらの荒魔獣モボフッドは他の荒魔獣モボフッドとは違う。
黄土色と黒茶色の体毛が多い。
鎧も着ているし防御力も高そうだ。
やはり、一本角の荒魔獣モボフッドの親衛隊だろうか。
一本角の荒魔獣モボフッドは、その親衛隊の手勢を引き連れて丘を下りてきた。
右手の武器を雷式ラ・ドオラに。
左手の武器を神槍ガンジスに替える。
親衛隊は駆け下りながら毛を飛ばしてきた。
毛は一瞬で杭に変化。
その杭が飛来してくる。
それらの杭の軌道を読みながら――。
爪先半回転を実行。
爪先に体重を掛けたステップワークで杭を避けた。
半身の姿勢を維持しつつ――。
飛来する杭を避けに避けた。
杭の連射が終わったところで前傾姿勢で突進。
が、俄にストップ。
風槍流『喧騒崩し』の構えと歩法を行う。
そして、<血道第一・開門>を意識。
アーゼンのブーツを血が覆った。
<
――<水月血闘法・鴉読>も発動。
指の竜紋と同じ位置に宿る水鴉のマークが輝く。
同時にイモリザの第三の腕を意識。
肘から生えた第三の腕が握るのは聖槍アロステ――。
『水鴉の存在を感じるぞ! 羅が魔力を練っている! 貂は尻尾で――』
沙の念話を途中でカットしつつ加速――。
一本角の荒魔獣モボフッドの手勢たちが、
「グヌァァ!」
「「ルドッグル!!」」
と叫ぶが、一本角の荒魔獣モボフッドの手勢の動きは遅い。
――<無天・風雅槍>を実行。
風車の如く回り巡り、前傾姿勢のまま斬り回る――。
一本角の荒魔獣モボフッドの手勢を一体、二体、三体、四体、五体――。
複数仕留めたところで――。
俺の速度に対応した荒魔獣モボフッドたち。
飛来する杭の量が増えた。
『器よ、強者の荒魔獣モボフッドぞ。妾の出番だな』
『いや、まだだ』
沙にそう応えつつ動きを止めた。
飛来する杭と荒魔獣モボフッドたちを凝視。
一本角の荒魔獣モボフッドを含めて、残り三体――。
目の前に迫った杭を雷式ラ・ドオラの<刺突>で粉砕する。
続けて飛来する杭を避けた。
足先に魔力を溜めては、蹴って、跳躍するように前進。
我流の二槍流を織り交ぜつつ飛来する杭を斬る。
同時に左に旋回しながら神槍ガンジスに魔力を通した。
螻蛄首と口金辺りに備わる蒼い槍纓を蒼い刃に変化させる。
槍纓の蒼い刃が放射状にゆらりと舞うようにそよぐ。
瞬く間に杭は細切れとなった。
その間に聖槍アロステで<刺突>を繰り出しては、右側の杭を粉砕。
杭を処分したところで、斜面を蹴って跳躍――。
視界に入った残りの荒魔獣モボフッド。
その手前の二体目掛けて<雷水豪閃>を発動――。
水蒸気を纏う雷式ラ・ドオラは横に伸びたようにも見える。
その先端から水と雷の共鳴した水雷の刃が迸った。
水雷の刃は飛来する杭を真っ二つ。
二体の荒魔獣モボフッドの胴体と足下の土塁もバッサリと切断。
丘の一角が崩れた。
最後のこの部隊を率いていた一本角の荒魔獣モボフッドは……。
一本角から魔弾を射出してきやがった。
魔弾には電子殻を表現するかのような螺旋する魔力が巡っている。
ビーム砲的な印象――。
一瞬で、<仙魔術・水黄綬の心得>を意識。
<仙魔術>の霧を発動。
ユニーク級の
<血魔力>と<生活魔法>の水も活かす。
続けて<水神の呼び声>を実行。
水神アクレシス様の恩恵を感じた。
霧と一体化した感のある俺は、霧に消えつつ霧分身を操作――。
霧に血色の鴉の幻影が舞う。
分身に<水月血闘法・鴉読>の効果が加わったようだ。
霧分身たちは一本角の荒魔獣モボフッドを襲う。
「――ルドッグァッ!?」
霧分身の攻撃に一本角の荒魔獣モボフッドは慌てふためく。
分身に気を取られて、本体の俺の加速についてこられない。
一本角の荒魔獣モボフッドとの間合いを潰すことに成功――。
『一気に仕留める! <神剣・三叉法具サラテン>の羅、やるぞ』
『はい、器様――』
三叉魔神経網が活性化。
左手の掌から半透明な魔力が噴出するや、その半透明な魔力が俺を包む。
半透明な羅の姿と水神アクレシス様的な存在が一瞬見えたところで――。
半透明な魔力は瞬時に帷子系の和風防具、<瞑道・瞑水>となった。
同時に<脳脊魔速>を実行――。
四重の加速――。
一本角の荒魔獣モボフッドは角を輝かせて、腕を微かに反応させた。
が、加速技を使おうとも、遅い。
再び、三槍流奥義<無天・風雅槍>を繰り出した。
神槍ガンジスの双月刃が一本角の荒魔獣モボフッドの頭部を破壊。
雷式ラ・ドオラの杭刃が一本角の荒魔獣モボフッドの胸元を貫く。
聖槍アロステの十字矛が一本角の荒魔獣モボフッドの片腕を裂いた。
一本角の荒魔獣モボフッドは三槍流の奥義をもろに浴びる。
よっしゃ――。
一本角の荒魔獣モボフッドは、その鎧ごと体が細切れとなった。
が、ここは戦場。
油断はせず、素早く周囲に散った一本角の荒魔獣モボフッドの素材を回収。
冒険者ギルドの依頼の品以外にも……。
一本角と腕の残骸があるから回収しとくか。
錬金、鍛冶の材料になるかも知れない。
ミスティとエヴァなら有効活用できるだろう。
戦闘型デバイスのアイテムボックスに、散乱している素材を回収した。
丘の頂上付近から周囲の戦場を見つつ――。
右手の武器をムラサメブレード・改に変更。
魔剣ビートゥも召喚――。
荒魔獣モボフッドの軍勢は、それぞれに指揮官がいるようだ。
多頭の荒魔獣モボフッドに、四肢を相棒のように扱う荒魔獣モボフッドもいる。
それらの荒魔獣モボフッドの軍勢は色々な地形に合わせた種族なのか?
骨剣魔人ブブルーの軍勢と戦っていた。
地下は広いが、すべてが魔封層ってわけじゃないようだ。
ゲッセリンクの祖先が用意した封印エリアは、音階段があるエリアのみか。
さて、荒魔獣モボフッドの依頼の品は集めた。
依頼の品の残りは、骨剣魔人ブブルーのものだが……。
右で戦うエヴァたちの様子を見る。
まだ戦いは続いてはいるが、先ほどの戦いとは違う。
散発的で余裕がある。
『ん、こっち側に流れてくる荒魔獣モボフッドが減った。シュウヤ、荒魔獣モボフッド狩りに成功?』
エヴァの血文字が浮かぶ。
浮かぶ血文字はエヴァっぽい。
何回も見ているが、やはり個性があるから面白い。
感情に左右を受けているのか、その個性もあって血文字は微妙に変化する。
そのエヴァに向けて、
『おう、成功だ。今、指揮官らしき荒魔獣モボフッドを倒したところだ。依頼の品も粗方回収した』
『凄い! こっちも強い骨剣魔人ブブルーを倒した』
『骨剣魔人ブブルーの砦は?』
『砦には行ってない。迎撃と冒険者ギルドの依頼の素材の回収と、レベッカじゃないけど、お宝探しを実行してた』
『はは、余裕だな。で、お宝は?』
『ん、ふふ、ロロちゃんが強い! あ、あと、凄いの見つけた』
『凄いのか。レベッカ的に、ワクワクしてきたんですけどー?』
『ふふ、シュウヤの変な物真似の声が聞こえた気がした。キサラも興奮していたし、シュウヤもびっくりする!』
『気になる!』
『ん、欠けた女神像で、小さい魔法陣が周囲に浮かんでいたの。足下には蓮、薔薇、コスモス、ムクゲなどの綺麗な花々が咲いていた。水も流れていて、綺麗な場所にあった。植物も絡まってて、骨剣魔人ブブルーたちがその欠けた女神像を避けていたの。そして、欠けた女神像は左手に神槍か魔槍を握った状態だった。その槍は、結界を作り出していたから特殊な魔力を備えている。一見は、錆びているから使えるか分からないけど、キサラは『メンテナンスを施せば使えるかも知れません』って言ってた』
『回収はした?』
『うん、もちろん。慎重に欠けた女神っぽい石像ごとアイテムボックスに入れたら入った。だからあとで見て』
『当然だ。見る見るミール!』
『みるみるみーる? 前に知育菓子というネーミングをシュウヤから聞いたことがある!』
『おう、ねるを連呼する万能薬的な駄菓子じゃない。興奮して連続の血文字を送っただけだ。気にするな。で、他には?』
『極大魔石が幾つか嵌まっているヘンテコな石像も見つけたから回収した』
『おお、それも凄いじゃないか。ヘンテコな石像も楽しみだ。んじゃ、合流しよう。音階段から神殿に戻る』
『ん!』
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